「馬鹿馬鹿しい」
「よりにもよってそれが君の感想か・・・」


   暴走誕生日(はやて覚醒編)


はやての誕生日にいつものメンバーでパーティーを行った。
たくさんのプレゼントに囲まれたはやてはとても幸せそうだった。
足も治り、家族も居て、友達もいる。
一年前には想像もしなかった現実にはやては感動し嬉しい涙を流していた。
そして、はやてたちは唯一闇の書の事情を知らない(と思っている)にかつての事件と
自分たちの現状を話したのだった。
だが、返ってきたのは予想を遥かに超えた言葉だった。

君。いくらなんでも・・・」
「そうよ! はやてたちに謝りなさい!」
すずかとアリサが咎めるがは冷たい眼ではやてたちを、
何よりクロノとリンディを睨みつける。
「はやての何処に罪がある?」
「え?」
はやてが驚きながらを見る。
騎士たちも、魔道師達も目を見開きを見る。
「はやては被害者であり、事件解決の功労者であるはずだ。何故はやてが贖罪などという
無意味極まりない事をする必要がある?」
その言葉を理解できずにその場の全員が戸惑う。
君? 何でわたしが無実なん?」
思わず問うはやてには当たり前のようにこう答える。
「闇の書はランダムに主を選定する。はやては偶々選ばれたに過ぎない」
闇の書はある程度以上の資質の持ち主をランダムで選ぶ機能がある。
「闇の書は長期にわたり蒐集行為を行わないと主を侵食する。
これには間違いはないな?」
全員が頷く。
「元々はやてが生まれたばかりの頃から闇の書は近くにあった。
そこから換算されていたのかは知らないがはやては命すらも蝕まれていた。
どう考えても被害者だろう?
何せはやてにはそれが何なのかすら知る事も出来なかったんだからな」
全員が考え込みながらも確かにそうだと考えがいたる。
「そしてほぼ末期に至った頃に闇の書が起動、騎士たちが現れた。
それにより色々と知る事が出来たがはやては蒐集を拒んだ。
つまり、はやては魔道師襲撃事件を起こさないようにしていた。
むしろそのまま死ぬ気ですらいたはず」
クロノとリンディはいまさらそれに気付いたような顔をする。
「はやてと共に過ごすうちに恐らく本来の人格ともいえるいまの状態になっていた
騎士たちは、愛する主が闇の書によって死亡するのを恐れ、約定を破り蒐集を行う。
なのはを襲撃し、それによって事件が発覚し、管理局とは交戦状態に陥った。
此処までは良いな?」
再び全員が頷く。
「闇の書は謎の存在からのてこ入れもあり蒐集が完了し、完成した闇の書は
はやてを取り込み暴走する。しかしはやては本人の精神力の強さもあり
意識を取り戻し、闇の書に干渉、なのは達の協力もあり暴走するプログラムを
本体から排除、殲滅する。その後本体も消滅し、事件は終わった。
はてさて、はやては何時罪を犯したんだ?」
誰もが沈黙する中、はやては口を開く。
「闇の書の罪はわたしの罪や。今までいろんな人に迷惑をかけたんやからそれを・・・」
「それは闇の書の罪でありお前の罪じゃない。もっといえば闇の書は物だ。
お前の言っている事は、かつて人を殺した刀を偶然持っている者が、その刀で殺人をした人間の
罪を背負うなどという意味のない事をしている事になる」
たとえを出されて、それを理解してしまいはやては何もいえなくなる。
「騎士たちの罪は騎士たちの罪だ。彼女たちが勝手に動いたのだからお前は何も咎められる謂れは無い」
騎士たちもそれに納得する。
「はやては多くの人間を苦しめた闇の書の消滅に一役買い、被害者たちの無念を晴らしたはず。
なのに何故、はやては闇の書の被害者遺族に憎まれなければならないんだ?」
誰も、何もいえなかった。
改めて考えてみるとはやてに罪など無い。
むしろ感謝されるべき人間だ。

「はやては本来なら破壊不可能だったはずの危険物を破壊する事に成功した英雄の一人ではないのか?
管理局は何故はやてを加害者にしている? 俺にはどうしても不信感しか抱けないことが多いんだが」
「不信感とはなんだ?」
クロノがたまらず聞く。
自分の所属している組織を、司法機関であるはずの管理局を疑われてはたまらなかった。
「管理局は八神はやてに贖罪だと言い包めその力を利用している。
そして夜天の魔道書は何者かに改変された」
「おいっ! まさかっ!」
「管理局が改変した、と?」
クロノとリンディが思わず声を上げる。
「まあな・・・俺が本局の技術部に顔を出しているのは知っているよな?」
「ああ、君のデバイスもそこで開発したそうだな・・・君が」
「アリサとすずかも協力してくれたけどね。そこで面白いデータを見た事がある」
面白いデータとは何か。
みんながを注視する。
「何重ものプロテクトと、いくつものパスワードで封印されたそれを見つけて、実はこっそり
中身を確認している」
全員が金縛りを受ける。
言い終えた後のの目が絶対零度の冷たさを湛えていたから。
「管理局が今まで行った不正のデータバンクだったよ。それも数千年分」
衝撃的な言葉にクロノたち管理局の局員が硬直、子供たちと騎士たちは頭の中が真っ白になった。
「あるわあるわ。腐りきった司法機関の真の姿が如実に浮かび上がったね。
中には・・・無害で便利な機能を持つ道具が異常な改造を施されて遺跡だの何だのに
放り込まれたりもしたらしい」
「ま・・・さか、それが・・・ロストロギア・・・なのか・・・?」
クロノが呆然と呻く。
「一部はそうだな。ユーノは解ると思うが遺跡と遺物の関係がわからないものがあればそれに該当する」
ユーノはかつての作業を思い返し、確かにそんなものがあったと思い出す。
「その中には・・・夜天の魔道書の記述もあった。中身のデータは残っていたし改竄のデータもあった。
つまり、時空管理局は自分たちで事件の種をまいていたという事になる。更に言えば、
元々管理局が事件の首謀者といえるのだからそもそもはやてが贖罪をする必要性が無い」
「じゃあ、わたしは・・・・」
「誰が何を言おうと管理局の被害者だ」
誰もが沈黙する。
良く見ると騎士たちは肩が震えている。
それを見ながらなおも続ける。
「管理局の発足当時の頃はたいした事件が無かったらしい。
そこで管理局の暗部に当たる連中が事件の種をばら撒き、発生した事件という名の実を
収穫する、つまり自分たちで解決する事でその権力を高めたという過去があるみたいでな。
その中でも最悪の種が闇の書なんだそうだ」
ついでに言うと捕まえた軽犯罪者を洗脳して釈放し、大事件を起こさせ速やかに逮捕する、
という事も度々やっていたらしい。
「そうそう、何日か前に変身魔法で正体を隠した奴に夜中に襲撃されたぞ。
失敗した事を悟られた瞬間に逃げられたが」
・・・」
「今は動くなよクロノ。リンディさん、俺が言いたい事、したい事はわかるね?」
「ええ、痛いほどにね」
リンディは凄みのある、それはそれは美しい笑顔で言い放つ。
「さあ、みんなで管理局の内部を大掃除しなくちゃいけないわね!」
「ちゃんと手伝いを頼むんだよ? 潔癖な綺麗好きな人にね?」
「ええ、それはもちろん!」
「もっとも、不正を知っているのは、そして今も継続しているのは現幹部の3分の1及び
その子飼いの部下たちだけどな。管理局全体の5%弱だ」
はエイミィにディスクのようなものを渡す。
「プレゼントだ。個人の端末で開くように。ごみの種類と場所が入ってる」
「了解しました。ありがとうね、君」


みんなが一息ついた。
「とんだ誕生日になったわね」
「そやなぁ。こんなヘビーな話せえへんでも・・・」
アリサの言葉にはやてが苦笑する。
しかし、自分の罪だと思っていたものから解放されたためか表情は明るい。
そこへが、
「実は今のは前振りでもある。ほれ、はやてに誕生日プレゼント」
一冊の本をはやてに渡す。
「これは?」
「データをサルベージして復元した夜天の魔道書だ。中身は真っ白なんだけどね。
今のそいつは名も無きユニゾンデバイスの本体だ」
全員が思わずと魔道書を見る。
「え、ええの? こんな・・・」
はやての眼に涙が溜まってくる。
「中身は自分で作るよーに。俺がやってやれるのはこれぐらいだ」
「あ、あかんやん。こんなことまでされたらわたし・・・惚れてしまうやん・・・」
はやての言葉にフェイトとシグナムが激しく動揺している。
「はやて。実を言うと私たちからももう一つプレゼントが」
「はい、これ」
アリサとすずかが剣十字のペンダントを取り出す。
「これって・・・・・」
「シュベルトクロイツ・・・・・」
なのはとフェイトが呆然と呟く。
「私たち3人で1から設計しなおした奴よ」
「テストもクリアしてるし、不具合があったら私たちに言ってね?」
「これまでのものとは出来が違うぞ。処理速度と頑強さは俺のデバイス以上だ」
「結構苦労したんだから、壊したら承知しないわよ?」
3人の言葉に感極まったはやては声を上げずに泣き始めた。
「ありがとう、ほんまに、ありがとなぁ・・・」
はやてはアリサ・すずか・の3人をまとめて抱きしめ何度も礼を言う。
そんなはやてを見て、3人は顔を見合わせ、微笑んだ。


「すまないな。色々と・・・」
「そうでもないさ。思うところはあるけどな」
シグナムとが縁側でパーティーを眺めながら会話をしていた。
なお、シグナムは先ほどからワインを飲み続けている。
また一本開けたらしい。
あれから初めのテンションに輪をかけて賑やかになった。
みんな満面の笑みで騒いでいる。
「はやては友達だ。被らなくてもいい罪を被るなんて我慢がならない」
「お前の主への贈り物は、魔道書・デバイス、管理局内の風当たりの緩和、そして・・・
罪からの解放か・・・」
どれもシグナムたちでもなのは達でも用意できないものだった。
「これから忙しくなるだろうけど勘弁な?」
「主の、そして私たちの為を思ってしてくれた事だ。感謝こそすれ恨むなど
しようはずが無い。・・・お前には本当に世話になる」
はやてのプレゼントのためにどれほど危険な橋を渡ったのか。
シグナムには想像も出来なかった。
「局内には俺の考えに賛同してくれた人がいてな。その一部は闇の書の被害者遺族もいる。
快く協力してくれたよ。お前たち守護騎士も被害者だったんだと説明したしな」
プログラムを書き換えられ、記憶を改ざんされていた騎士たちも結局は被害者だった。
シグナムはここまで世話を焼いてくれるに頭が上がらないなと本気で思う。
少しでもその恩を返そうと考え、手始めに思いついた事を提案してみた。
「お前の誕生日も盛大に祝う必要があるな。何時なんだ?」
その言葉に、その会話が聞こえていた幼馴染たちが硬直する。
他の面々は訝しげに見やるが、3人が突然大声を上げた。
「わ、忘れてたあああああああっ!」
「あんた今日が誕生日じゃないのっ!」
「はやてちゃんの事しか考えてなかったよおおおおおおっ!」
一同が硬直した。
痛い程の静寂の中、が思い出したかのように呟く。
「そーいやあ今日だっけか。はやての事とか色々あったんですっかり忘れてたなぁ」
「自分の誕生日を忘れるなあああっ!」
その言葉をきっかけにみんなが再起動する。
君の分のケーキを、ってそういえばこれ君の手作りじゃん!」
「他の食べ物も準備したの君ですよ!」
「準備の陣頭指揮してたのってじゃんか!」
「あ、あかん! わたしら物凄いお世話になってるのになんもかえせてへん!」
右へ左への大騒ぎだ。
もっとも、本人は落ち着き払っているが・・・・
。その、プレゼントは無理だが何かして欲しい事はないか? 今なら何でも聞くぞ?」
「そ、そうや、何でも言うて。わたしらなんでも聞くで?」
「来年に期待するよ。一緒に祝ってもらおうか?」
「それはあり難いんやけど、なんや気をつかってしまうわ・・・」
本人は気にも留めていないが周りはそうも行かない。
(こうなったら君が喜びそうな事をやってあげるのがええな)
(うん。そうしよう。でも、何をしたら喜んでもらえるのかが・・・・)
(逆にある程度の線を越えなければなんでも喜んでくれそうだからかえってやりづらいよ?)
念話での会議が始まる。には聞こえないように妨害までかけている。
(それならば私が)
「し、シグナム? 何処と無く嫌な予感がするんだけど?」
に妨害は通じなかったらしい。彼女たちの念話はバッチリ聞こえていたようだ。
そしてシグナムは頬をほんのりと赤く染めながらを抱き寄せ・・・・
「な、ななななななななっ!」
「し、シグナム・・・?」
逃げられないように押し倒し、キスをしていた。
は何とかして逃げようともがくが完全に押さえ込まれてはどうにもならない。
「な、なんで、シグナムがこんな事を・・・・」
「・・・普通やるならシャマルだぞ?」
「わ、私の印象って・・・・」
「ああっ! これ見てみんな!」
ユーノが散らばる空き瓶を発見する。もちろんワインの空き瓶。
その数8本。飲みすぎである。もちろん彼女は酔っている。
でなければこんな事をするはずもない。
「ふ、ふふふ、ふふふふふ・・・・」
フェイトが怪しい笑い声を上げながらバルディッシュを起動し、シグナムに突きつける。
それと同時にシグナムがレヴァンティンで受け止める。無論キスしたまま。
しかし更に、受け取ったばかりのシュベルトクロイツを起動したはやてが
杖の先に魔力刃を形成してシグナムに突きつけた。
みんなが呆然とする中、はやては自分の気持ちに気がついてしまった。
お世話になりっぱなしの同級生の少年。
いつも気を使ってくれて、今日に至っては自分に与えてくれたものはあまりにも大きい。
「シグナム・・・君は嫌がってるで?」
「も、申し訳ありません・・・主はやて・・・」
その場の全員は見た。そして確認してしまった。
はやての眼がかつて見たキレたと同種のものである事を・・・
シグナムは一気に酔いが醒め、顔を真っ青にして震え始めた。
「あー、はやて。落ち着け」
「落ち着いとるよ? 不思議やわぁ、物凄いあつうなってるのにメチャメチャ冷静なんや」
「うん。俺も経験あるから。それやるとみんな引くからな?」
「それはあかんなぁ。関西人としてそれだけは」
はやての眼がいつも通りになり、みんなが一息つく。
の誕生日のお祝いは来年に持ち越しと言う事で落ち着き、今度はまったりとした
穏やかなパーティーが夜遅くまで続けられた。



「楽しそうだねぇ」
「プレゼントは贈ったでしょう? 私たちは裏方なんだから」
「そうだぞロッテ。これも我らのあの子への贖罪なのだからな」
3人の足元には数人の魔道師が倒れていた。
「あの少年からあの話を聞いたときは耳を疑い、資料を見たときは眼を疑ったが、
事此処にいたってはもはや信じざるを得まい」
「ええ、そしてそれがクライド君への弔いにもなる」
「クライド君だけじゃない。今まで管理局が起こした事件の被害者全員の無念を晴らす事にもなる」
「今しばらく時が必要だが、近い内に始まるだろうな。管理局内部の大掃除が・・・」
「溜まった膿みを絞り出すこれ以上ない機会です」
「こいつらに尋問をして細かいデータを引き出さないとね」
3人は捕獲した管理局の暗部を転送しながらその場を去ろうとした時念話が入った。
(お勤めご苦労様。何か差し入れでもしましょうか?)
(君か・・・構わないよ。これは義務だからな)
(そうですか・・・後の事はお願いします)
(ああ。任せたまえ。それと誕生日おめでとう)
(ありがとうございます)
念話での通信が終わり3人は苦笑する。
「今のは私たち以外は聞こえないんですよね」
「ああ、まったく末恐ろしい少年だ」
「誰にも盗聴されない思念通話、通称秘匿回線。こんなものを組み上げるとわね」
今自分たちの中心となっている少年の多芸多能ぶりに舌を巻く。
ぜひとも管理局に欲しい人材だと本気で思う。
「事が終わったら幹部の座に座らせられてる気がしますね」
「本人も危惧しているというか覚悟はしているそうだ」
3人は遠目に八神家を見る。
件の少年は、はやてとフェイトに挟まれて色々と世話を焼かれているようだ。
少年を取り合うのではなく少年になにかしてやりたいのだろう。
少しでも恩が返せるように。
「ハッピーバースデイはやて君。君たちの幸せは私たちが守ろう」
「さて、お仕事に入りましょう。ロッテ」
「分かってるよアリア」
そうして3人は仲間たちと用意したアジトへと転移していった。



後書き
はやて覚醒(怖)
もっとも沸点が主人公と同じぐらいに高いので滅多に怒りません。
主人公はすでにゲンヤを通じてネットワークを形成しており、様々な情報を
手に入れています。もちろん闇の書の事件の詳細も。
ウチのはやてとフェイトは好きな人をものにするよりも、好きな人のものにされたいタチなので
争奪戦そのものが起きません。しかし、好きな相手を困らせるようなことがあると
手を出します。フェイトはシグナムが相手だと過激になるのでその辺はスルーで。
なお、シグナムは好意は持っていますが恋ではないので。(彼女にショタ趣味はありません)
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