「そんな・・・君が・・・」
「ああ・・・まさか・・・あいつの息子だなんて・・・」
「・・・と言う事は俺はなのはの・・・」


       暴走誕生日(意外な縁編)



なのはの誕生日。
それを祝うために様々な人たちが集まった。
フェイトやアリサ、すずか、はやてはもちろんハラオウン一家や
ヴォルケンリッター、月村家、一部アースラクルー。
香港から休暇で帰ってきていた叔母である御神美沙斗、そして幼馴染である
とかなりの大人数となった。
そこで両親は翠屋を臨時休業し、なのはの誕生日パーティーの会場にしたのだった。

なお、ユーノは人間だとばらした所、恭也と士郎に途轍もない殺気を浴びせられたが
なのはのとりなしで命拾いをしている。

『なのは。ハッピーバースデイ!』
「にゃはは。ありがとうみんな!」
なのはは自分の誕生日を大勢で祝ってもらえて大変上機嫌だ。
ドンチャン騒ぎのパーティーが始まった。
フェイトが歌を歌い、桃子が演歌で対抗し、さらに士郎まで乱入する。
他にもそれはもうカオスな状態になっていた。

宴もたけなわ、なのははを見かけない事に気付いて探してみると、リンディと一緒に
窓際で空中にウインドウを展開し、何か資料を見ているようだった。
は無表情、リンディははっきり言って顔色が悪い。
気になったなのはは二人に近づき資料を覗きながら質問した。

君。それってなあに?」
「うん? なのはか。向こうで楽しんでればいいだろう?」
「そうよ。せっかくの誕生日なんですもの」
二人は誤魔化しに入ったがなのはも引く気を見せなかった。
溜め息を吐きつつ渋々と説明する。
どうやらこの資料はリーゼ達から送られてきたの父が被検体になった
実験の資料らしい。どうせならこんな時に送ってこなくてもと思ったが
緊急報告とのことでとりあえず閲覧していたそうだ。
少なくとも誕生日に見るようなものではなかった。
父はこの地球の人間で死に掛けていたところをたまたま地球を観測中の
暗部が発見し、どうせだからといって拾ってきたらしい。
魔力は大したことはないのだが、肉体が非常に強靭だったためサンプルにしたそうだった。
これまでも様々な検体で実験を行ってきており、そのデータを利用して遺伝子を改造、
優秀な魔導師が生まれるように細工をした後、適当な女性を―つまりの母―誘拐し、
襲わせたと言う事だった。
「ひどいね・・・」
「まったくだ・・・俺も完全に人間とはいえない体のようだしな」
研究の結果、これまで生まれた子供は高い知能と高い魔力を持って生まれたそうだが、
人格が歪む事が多くまた肉体が脆弱で使い物にならなかったため研究を破棄し、その時点で
妊娠した状態の女性達を元の場所に返し、放置していたらしい。
どうやらと同じ境遇の子供が少なくとも数人はいる事になる。
「管理局が俺を放置していた理由はこれが主らしいな」
「やるだけやってほったらかすなんて・・・」
の父はある時掛けられていた暗示を自力で振り払い研究員を数人惨殺した後、
実験台にされた者や女性達を逃がそうとしたそうだが、強力な魔導師―あの男だ―が魔法を使って
殺害したそうだった。
「強い人だったんだね」
「そのようだな。あ、画像データと簡単なプロフィールが。
えーと・・・名前は不破一臣。現地の古流剣術を伝える一族の当主」
その時、店内の数箇所から飲み物を噴出す音が聞こえた。

「楽しんでいるか美沙斗?」
「ええ、兄さん。せっかくのなのはの誕生日ですから」
なのはを探してきょろきょろと見回すと、とリンディがいる所に向かっていた。
二人は空中に映像を投影して何かを読んでいる様だった。
美沙斗はあのなのはの幼馴染の少年が気になって仕方がなかった。
なにかが記憶の片隅に引っかかるのだ。
「あの子が、君が気になるか?」
「ええ、あの子は誰か・・・自分達の身近にいた人に似ているような気がするんです」
士郎もその事に気付いていたが、いまいち思い出せないようだった。
「しかし、魔法ですか・・・」
「本人達が言うには科学技術の延長のようなものらしいんだがな」
今のあの光景を見る限りどこのSF映画だと言いたくなるが二人はぐっとこらえる。
なのはとの会話が少し聞こえてきた。
どうもの父親の話らしい。
「あの子の父親は・・・?」
「あいつは母子家庭でな。父親のことは知らないらしいが・・・」
そして思いもしなかった懐かしい名前が聞こえてきた。
「えーと・・・名前は不破一臣。現地の古流剣術を伝える一族の当主」
ちょうどコーヒーを口に含んだところだった元不破家の兄妹はたまらずに噴出しむせ返った。

「おとーさん? 美沙斗さんもどーしたんですか?」
「げほっ、えほっ・・・君。その資料を見せてくれないか?」
「こほっ、できれば日本語に訳してほしいんだが・・・」
「ああ、はい。・・・どうぞ」
ミッドチルダの言語から日本語に訳された資料を真剣に読み出した士郎と美沙斗に
困惑しつつ、巻島館長から聞いた士郎の旧姓を思い出す。確か旧姓は不破。不破士郎。
はまさかと思いながら二人が何かを話し出すのを待っていると、美沙斗が静かに涙を流した。
士郎はテーブルを殴りつけ、その音に気付いた他の参加者達が何事かと振り向く。
二人は憤懣やるせないといった憤怒の表情で資料を睨み付ける。
士郎よりも長年実戦を生き抜いてきた美沙斗の方が何倍も怖かったのは、まあ当たり前かもしれない。
「あ、あの? とーさん? かあさんもどうしたの? 一体・・・」
美由希が声を掛けるも、二人は突然の方を振り向きがっしりと肩をつかむ。
実は勢いあまって骨を砕きかけ、は悲鳴を上げたかったが痛みで声が出なかったので
誰もそれに気付かなかった。
君・・・やっぱりだ。一臣に似ているんだ。なんで気付いてやれなかった・・・!」
「こんな事になっていただなんて・・・ああ、こんなにもあの子に似て・・・」
他の面々には理解できない事だが、当事者はしっかり理解していた。
「ええと・・・この資料にある俺の父不破一臣は士郎さんたちの・・・」
「「弟だ!」」
「やっぱりですか・・・あれ? じゃあ俺となのはって・・・」
「そうだよ。君は私達の甥で、なのはの従兄弟に当たる」
「えっ?」
なのは驚愕。幼馴染が実は従兄弟だとは露にも思わなかったらしい。
「あの、二人とも。それじゃあこの古流剣術って・・・」
「御神流だ。一臣は御神流の分家である不破家の当主だった」
「本来ならば長男である兄さんが継ぐはずだったんだけどね。兄さんが一臣に
当主の座を押し付けて恭也を連れて出て行ったんだよ」
その後紆余曲折を経て、御神と不破はテロで全滅し、士郎たち生き残りは
その名を隠し生きてきたのだ。その後士郎は桃子と出会い結婚する事になる。
恭也となのはは異母兄弟である。
美沙斗はテロの後美由希を預け、士郎の勧めで香港警防隊に入隊している。
「ああ、それでか・・・見よう見まねでやった小太刀二刀流が妙に様になっていたのは」
恭也が過去にあった事を思い出しながらしみじみと話す。
「血のなせる業だな。さすがは一臣の息子」
「じゃあアレは・・・アムルテンの隠し機能で弓を分離して小太刀二刀流ができるようにしたのも・・・」
「おそらくそうなんだろうなぁ・・・空手やっててなんか違う、しっくりこないと思ってたし」
アリサの言葉にが答える。
他の面々はそんな機能があった事すら知らなかったが、本人も意識せずに造った機能なので
何気に本人が一番驚いていたりする。
君。御神流をやってみないか? 君は不破の本来の正統継承者なのだし」
「・・・そうですね。その方がいいかもしれません。だとしたら誰が教えてくれるんですか?」
「兄さんか恭也だが・・・」
「却下。美沙斗さんでお願いします。」
喜んで教えようとしていた恭也と士郎は即決で断られてへこんでしまった。
一方美沙斗は困惑気味だ。
「なぜだい? 兄さん達の方がよさそうだが・・・」
「美沙斗さんの方が圧倒的に強いと思いますから」
事実、恭也と美沙斗が戦えば確実に美沙斗が勝つ。
幼いころから修練しているとはいえ実戦経験に差がありすぎるのだ。
それに、単純な実戦経験ならの方が恭也より多いのも一因である。
管理局の闇との前哨戦で何度も殺し合いを行い、その全てに打ち勝ってきたのだ。
言外にそれを指摘し、それを理解した美沙斗は苦笑しながらの申し出を受けた。

君。この続きを見てくれないかしら」
「はい・・・・・・・ああやっぱり。緊急報告はこっちの方だったか」
リンディに言われて再び資料に目を通したはなぜ緊急報告だったのかを理解した。
それはの体の検査報告。
やはり真っ当な人間の体ではなかったのだ。
くん・・・」
はやてとフェイトが心配そうにを見るが、は苦笑しながら二人の頭を撫ぜる。
結果は・・・人間を逸脱していた。
特徴なども色々あるのだが一言で言ってしまえば某コー○ィネー○ー。
分かる人にはこれで事足りると思う。遺伝子を操作されているし・・・
「普通の人間よりもちょっと頑丈でちょっと頭がよくてちょっと体を動かすのが得意。
あと回復力も高い。違いはこれだけか」
「ちょっとどころじゃねーと思う・・・」
の言葉にヴィータが控えめに反論するが笑顔でスルー。
「まあ、生きていく上では特に問題ないな。そんなに心配しなくてもいいぞ?」
その言葉にみんながホッとする。
重大な欠陥や欠落がないのは僥倖だった。奇跡的なバランスで遺伝子が安定しているらしい。
なお肉体の頑丈さは戦闘に最適化されている不破の血によるものなのだが、
それは管理局でも分からなかったようだ。


皆がそれぞれまた宴会に戻っていく。
最早パーティーではなく酒飲みの宴会に変貌していた。
酒を持ち込んだのは大人組みの面々だ。
ヴィータとリインが撃沈され、はそれを見てパーティーの主賓を連れて
従業員用の控え室に退避した。同じくその光景を見たなのはもおとなしく着いて来ていた。
その他の面々は少なくとも一口以上はアルコールが入っていると思われる。
だってあのクロノが柔らかな笑顔で酔いつぶれたエイミィに膝枕なんてしてたし・・・
「誰だ・・・? 小学生の誕生パーティーに酒なんざ持ち込んだ馬鹿は・・・!」
「あははははは・・・おとーさんとザフィーラさんがそれっぽいものを運ん
でたのは覚えてるんだけど・・・フェイトちゃんたち大丈夫かなぁ・・・?」
顔を見合わせ二人して溜め息を吐く。なんだかとっても複雑だった。
「まさか俺達が親戚だったとはね」
「思いもしなかったよね〜。でも、これからもよろしくね?」
「ああ、よろしくなのは」
改めて握手をする。
その時二つの影が控え室に飛び込んできた。
二人はとっさに身構えるが、その影はそろってにダイブ!
それが何なのか理解したは避けるわけにも行かずに押し倒された。
「んふふふ〜。つかまえたで〜!」
「えへへへ〜。はなさないからね〜。ん・・・・」
影の正体は言わずと知れたはやてとフェイト。
しかもいきなりフェイトに唇を奪われた。
良く見ると二人は顔が赤く、どこかとろんとした妙な色気を感じさせる眼差しをしている。
そしては口の中に感じる甘い感じの味と鼻に来るアルコールの匂いに気付く。
どうやら理性が飛ぶほど飲まされているようだった。
フェイトが口を離したら、今度ははやてが口付けしてきた。
ついばむようなキスにの理性が飛びかける。
再びフェイトがにキスをし、何かの液体が口移しで流し込まれる。
酒だ。恐ろしく度数の強い酒。喉を焼くアルコールに悶絶するが二人は離さない。
遠のく意識の中ではやての手にほとんどアルコールとしか言いようのないお酒の瓶が
握られているのを確認し、の意識は途絶えてしまった。

「あ、あわわわわわ・・・・」
なのははその光景を見て本能が危険を察知し、を見捨てて逃げを打った。
が、控え室を出た途端にアリサとすずかに捕まってしまった。
「ふっふっふ〜。ど〜こに行くのかな〜?」
「あの三人は静かにしておいてあげようね〜?」
「は、放して二人ともー!」
そしてなのはも無理やり酒を飲まされて昏倒した。
せっかくの誕生日が色々と台無しであった。


翌日、酷い二日酔いで寝込むとなのはに平然とした友人達一同が見舞いに来たが、
二人は一言も口をきかず、彼女達は土下座で平謝りしたとのこと。

なお、アリサやすずかは酒を飲んだ後の事を覚えてはいなかったが、フェイトとはやては
しっかりと覚えているので時々の唇を見て真っ赤になりながら感触を思い出して
ぽ〜っとしていた。






後書き
父の正体と意外な血縁関係。そして酔っ払い達の暴走。
なおここの恭也達は原作と比べて大分弱いです。
士郎が生きているため無理に強くなる必要がなかったからです。
美沙斗は危険な仕事に10年以上ついているので魔法ありのにすら
容易に勝利する恐ろしい強さを持っています。
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