シグナムは久々に不破邸にやってきた。いや、帰ってきた。
 特に連絡していないが普段から子供の声が響く賑やかな家なので誰かしらいると思っていたが、
物音がしない。
 訝しげに思いながらリビングに入ると、そこにはカップ麺をすするがいた。


 ある日の二人


「珍しいな。お前がインスタントなど」
「そういう気分の日もあるさ。はやても時々そうだろう?」
「まあ確かに。私も時々無性に食べたくなる」
 シグナムは麺をすすりつつと会話していた。最初にカップ麺を食べたのは・・・シャマルが食材を全滅させた
悪夢の日だ。お手軽で美味いという食事に守護騎士一同驚いたものだ。・・・食材が無いのでの家に押しかけた所、
既に食事を終えていたが備蓄用に残していたものだったが。
 ちなみにシャマルはその日、枕を涙で濡らしたという。
「子供と奥方たちはどうしたのだ?」
「そろいも揃って地球だ。爺馬鹿を発揮した月村の親父さんに世界旅行をプレゼントされてな」
「旦那無しでか」
「急ぎの仕事が入って行き損ねた。今頃親父さんたちが孫に甘えられて幸せの絶頂にいることだろう」
「ああ、容易に想像できる」
 の嫁さんの親は揃いも揃って孫馬鹿である。士郎然り桃子然り。高町・月村双方どっちも長男、もしくは長女の子供が
いるのだが、恭也たちはドイツ在住で滅多に帰ってこないので、呼べば来てくれる婿の子供を溺愛しているのである。
「というか父親の俺に孫の可愛さを力説するのはやめて欲しい」
「お前が誰よりも理解しているだろうからな。話が合うんじゃないのか?」
「分かっているから逆に苦痛だったりする。しかも酒を飲みながら同じ話が10回近くリピートする」
「・・・それは確かにキツイ」
 ちなみに、アインはその話に平然とついていく。酒には酔わないが子供に酔っているというか、テンションが振り切れるのだ。
 特に桃子の溺愛ぶりは凄まじい。やはり自分の血の繋がった孫が生まれたからだろうか。ちなみに恭也は士郎の連れ子であ
って彼女が腹を痛めて産んだ子ではない。
「フェイトも行ったのか?」
「まだレオンは生後10ヶ月なんだがな。丁度仕事が休みだったエリオとキャロも連れて行ったぞ」
「ルーテシアとヴィヴィオは・・・言うまでもないか」
「地球の文化に興味深々だった。メガーヌさんはゼストと一緒にゲイズ牧場だ」
「・・・牧場? 畑じゃなかったのか?」
「酪農にも手を出し初めてな。俺が資金援助して、うちの学校で農業に興味のある生徒の実習先としても重宝している」
「相変わらず利用できるものは利用する男だな」
「双方利益があるんだから文句は言わせんよ」
 実際に学校を卒業後、ゲイズ牧場に就職するものはいる。レジアス自身かなり助かっているし、最近オーリスにいい出会いが
あったそうだ。多少年の差があるがいい感じらしい。レジアス自身孫の誕生に期待しているそうだ。
、いつになったら主はやてに子供が出来るんだ?」
「・・・シグナム」
「なんだ?」
「俺はここ数ヶ月はやての顔を見ていない」
 シグナムは噴出した。それはもう盛大に。何とか落ち着いたシグナムはまじまじとを見る。
「まて主の夫」
「こちらから連絡しても忙しいの一言。後でリインから謝罪のメールが来るくらい。ちなみになのはも同じ感じ」
「何をやってるんだあの二人・・・」
 普通は逆の立場だと思うが、女房の方がワーカーホリックなので仕方ないのかもしれない。

 はため息一つで気を取り直し、食べ終わったカップ麺を片付け、布巾でテーブル拭いていく。
 その熟練したの動きを見て、シグナムはポツリと呟いた。
「相変わらず思うが、いい嫁になるな」
「男の俺が嫁っておかしいから。しかも俺もう妻子あるし」
「いや、私のように家事が不得手な女から見ると、実に結婚したい相手だ」
「主の夫と一緒にはなれないんじゃないのか?」
「まあそうだな。しかし、愛人程度なら構わなくないか?」
 シグナムの言葉に、は疑うようにシグナムを見る。確かに一度だけ肉体関係を持ったことはあるが、酔った上での
話しだし、二人とも気にしないようにしていたのだが・・・
「お前、本当にシグナムか?」
「失敬な。私のような美女がそうそういると思うのか?」
「そういう言動自体信じられんのだが・・・」
「私も女だ。、正直私も最近一人寝が寂しい」
「はやてと同衾しろ」
「生憎だが同性愛の趣味はない。ただでさえ散々揉まれて偶に変な気分になるというのに」
「そのまま行くところまで行ってしまえ」
「主は途中で満足して止めるのだ。おかげで欲求不満がたまっている」
「俺に相手をしろというのかお前は・・・」
「そのとおりだ。アインともしてるんだろう?」
「発情期はいったすずかを二人で相手にしたときからちょくちょくだがな」
「この鬼畜め」
「無茶言うな。あの状態のすずかはマジにきついんだ。ファリンとアインと俺の三人がかり、または交代で何とかしてんのに」
 色々言い合ううちに、に退路がなくなってきた。ついでに言うと、ファリンはすずかの結婚と同時に不破邸でメイドと
して働いている。ドジっ娘全開で色々騒ぎを起こしたりもするが・・・
 は嫁たち以外にも何人か関係を持っていた。雰囲気等に流されての事だが。
 基本的に自身が良く知っていて信頼できる相手だけだ。下手に金と社会的な影響力がある分その手の人間が後を絶た
ないという悩みがあるのだ。
「私では不満か?」
「お前ほどの女を不満に思う男がいるならむしろ見てみたいが」
「なら問題ないな。抱け。いやむしろ私が抱く!」
「何があったんだ一体!」
 いきなりソファに押し倒される。やばいものでも食べたかと本気で疑う。
「私は昔からお前を男として意識していた」
「それはそれで問題ないか?」
「問題ない。どうせ私は設定年齢19歳で止まっているんだ。そういう意味では既に抜かれている」
「それはそうだが。シャマル(設定年齢22歳)とも同じ位になってるしな」
 シグナムはを押し倒した状態のまま唇が触れ合いそうなほどに顔を寄せてくる。
 そして唇が触れ合いそうになったその時!
「あ・・・」
「ん・・・?」
 がちゃり、というドアが開く音と共に、遊びに来たらしいギンガがリビングに入ってきた。
 ギンガは予想もしなかった光景に頭の中が真っ白になっている。
 はこれ幸いと逃げ出そうと―――
「ギンガ。来い」
「し、シグナムさん・・・は、はいっ!!」
「こらこらこらこら!!!!」
「チャンスなんです! コレは千載一遇のチャンスなんです!」
「俺はこの上なくピンチだ!」
 何を考えたかシグナムがギンガを誘った。
 ギンガも何か悟ったのか言われるままにに近づく。
 のしかかってくる二人に抵抗して暴れるが、二人から逃れられない。
 いつしか服が乱れ、シャツがはだけて逞しい胸元が覗いたを見て、二人はゴクリと喉をならせた。
「では・・・「いただきます!」」
「マテや二人ともはしたないいいいいいいいっ!!!!!」
 抵抗もむなしく、一匹の獲物が二匹の獣の毒牙に晒されたのだった・・・

 結局。
「流されたか・・・」
 の部屋のキングサイズのベッドの上、両側に二人の美女を侍らせたは体を起こしていた。
 最後はいい加減開き直って攻めに回っていた。シグナムとギンガはベッドの上で満足げな顔で眠っている。
「妹じゃ嫌だ・・・か」
 ギンガはに思いの丈を告白した。もう何年も想っていたのだと言う事、妹というポジションにいるのが苦痛だったと
いう事。女として見てくれと言われたが、そもそも意識はしていた。ただ・・・
「ゲンヤになんて言おうか・・・もしかしたら笑って許しそうな気がするが・・・」
 この際シグナムは放置である。なにせ誘った側なのだし。
「・・・まあ何にせよ、アリサに殴られる覚悟はしておくか・・・」
 結果から言うと殴られる恐れは無いのだが、一応覚悟はしておく。
 基本的に旦那を放置気味のなのは達はどうこう言う資格がないし、すずかには後で血を強請られるだけだろう。カリムは
微笑んで受け入れそうだ。アリサも今の状況に馴染んでいるのでむしろいらっしゃいとか言いそうだと思われる。フェイト
も今は無事に生まれた我が子が可愛くて仕方が無いらしいし。F計画関連で無事に産まれるか心配だったのだ。
 ふと気付くと、半透明のクイントがイイ笑顔で親指を立てていた。
「あんたなあ・・・・・・」
『私としてはもうちょっとムードのある展開が良かったんだけど、あの子も追い詰められてたし仕方ないわよね』
 幽霊のクイントは息子同然に思っていると娘が結ばれてかなり嬉しいらしい。過程はもうどうでもいいらしく、
腕を組んでうんうんと頷いている。そしてそんな彼女をじと目で見る
『娘をお願いねー。孫が生まれる頃にまた来るからー』
「俺の親もそうだが死者がちょくちょくこっちくんな。あの世で大人しく輪廻の輪に入る順番を待ってろ」
『孫の顔を見るまでは嫌よ。そうそう、良かったらスバルももらってねー』
「いいから行け!」
 下の娘まで娶らせようとする母親に対し、は手に霊力を集めて威嚇する。クイントは笑いながら逃げていった。
 言い様の無い疲れを感じて体を倒すと、いつの間にかギンガが起きていた。
「お兄さん・・・ううん、さん」
「・・・なんだ?」
「不束者ですが、これからもよろしくお願いします」
「・・・ああ。よろしくな」
「はい! なのはさんたちと違って、局も辞めてちゃんとお嫁さんしますから!」
 喜びを隠し切れない笑顔で宣言するギンガを、は優しく抱きしめた。

 一方ギンガと同じように起きていたシグナムだが・・・
(・・・主。いい加減にしないと本気で捨てられてしまいますよ・・・)
 増えていくの嫁。それもはやてやなのはを教訓にして良妻を目指そうとしているギンガに、はやての立場が
悪くなっていくように感じていた。そうでなくても悪くなっているが、それは言わぬが華である。



あとがき
当初の予定から狂いに狂った今作。
ギンガが追加されました。
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