時空管理局ミッドチルダ地上本部。
 そこには深い悔恨を抱えて生きてきた男が断罪の時間を待っていた。
 死んだはずの親友を待ちながら・・・・・・・・


 ミッドチルダのハルマゲドン(後編)


「お逃げください。もう貴方には指揮権は無いはずです」
「分かっている。だが私はここにいなければならんのだ。奴を待たねばならん」
 地上本部のレジアスの執務室ではレジアスとその娘オーリスが問答をしていた。
「しかし・・・!」
「それに、不破総帥からもここに居ろと言われている。奴に全てを話せとな・・・」
「不破総帥・・・・ですか。しかし彼は民間人では・・・」
「ただの民間人ではない。それに彼の真意も知った。あらゆる意味で彼は同志だったのだ。私は・・・少々急ぎすぎた
ようだ。彼と話し合い、その胸の内を知っていればこんな事にはならなかっただろう・・・」
 オーリスは父の言葉に戸惑う。あのワンマンな政策を採ってきた父がここで一民間人にこのような評価をする
のが信じられなかった。そばにいた気の弱そうな秘書も驚いている。
「彼は管理局のあり方が歪だと言っていたのだ。法を決める権利と犯罪を取り締まる権力を同時に持つ組織など
ありえないと言っていた。正にその通りだ。対AMF装備開発禁止法がその良い例だ。そのおかげで彼らが
進めてきていた装備の開発が出来なくなった。そしてAMFを搭載した機動兵器が地上を蹂躙している」
「魔導師達が戦っています」
「その装備があれば魔法を使えぬ者でも訓練さえ受けていれば戦えたのだ!」
 魔導師メインの管理局とは違い、アタラクシアでは魔道を使えない一般人に武術を教え込み、対魔導師用の装備を
使いこなす対魔導師部隊が存在する。主に屋内での制圧任務と警護がメインではあるがその実力は確かなもの。
 その訓練映像を見たレジアスは自身が望んだ夢の部隊が現実にいる事に目を剥いたのだ。
 たとえ魔法という超常的な力を持たずとも犯罪者を取り締まるに足る部隊がそこで実績を上げていたのだ。
 それは魔法文化が無い世界出身者であるからこそその有用性を知っていたが管理局との戦争を想定して
作った部隊ではあったが、企業間のパーティーでテロが起こったときに実際に解決して実力を知らしめている。
 レジアスがそれを知ったのはつい数時間前なのだ。
 話を続けようと顔を上げたその時、部屋の扉が爆砕され、一人の男が姿を見せる。
「邪魔をするぞレジアス」
「構わんよゼスト。ここには我らしかおらん」
 レジアスをかばう様に立っていたオーリスは二人の会話に、死んだはずの父の親友の出現に驚愕していた。
「お前達が死んだあのことについて聞きに来たのだろう?」
「そうだ。大方奴から脅されているかもしれんがな・・・」
「脅されてなどおらんよ。やり方はともかく私は彼と同じ志を持っている。それをようやく理解してな」
「そうか・・・」
 ゼストは理解する。己の親友はかつてと変わらなかった。ただ少し急ぎすぎただけなのだと・・・
「あの案件の事だったな。あれは―――」
 レジアスがあの事件の真相を口にしようとしたその時、ゼストはレジアスの背後に魔力弾が迫っている事に気付く!
「いかん! レジアス!!」
「ぬうっ!」
 その魔力弾は―――傍で控えていた秘書が身を挺してかばい、レジアスは傷一つ負わなかった。
「・・・ご無事、ですね」
「なぜだ。なぜ私をかばう!」
「・・・それがあの方に申し付けられた仕事ですもの」
 かばった際に倒れていたその秘書は、何事も無かったかのように起き上がり、その姿が変わる!
「お前は・・・まさか!」
「ええ、そうですわ騎士ゼスト。私はドゥーエ。あの方の、不破総帥のしもべですわ」
 そこにいたのはナンバーズNO.2ドゥーエだった。
「そうか。奴がよこした護衛というのはお前だったか」
「ええ、私だけではないのですけどね」
 ドゥーエが突然身構えた。思わず構えを取るゼストだが、後ろから何人かの人間の足音が聞こえてくる。
「レジアス・ゲイズ、ゼスト・グランガイツ。お前たちはもう必要ないとあの方々の仰せだ。今ここで抹殺する」
「評議会の息の掛かった魔導師か!」
「我々は彼らを相手をするためによこされたのですわ。さてと・・・」
 ドゥーエは二組の腕輪を出しレジアスとオーリスに手渡す。
「これは?」
「総帥が御作りになられたバリア発生装置ですわ。青い宝石を押すとON。赤い宝石でOFFです」
「特注品なのかしら・・・?」
「対魔導師部隊の基本兵装の一つです。物理・魔力問わず防ぎきる優れものですわ」
「これほどの装備が基本か・・・」
 レジアスはアタラクシアの技術力に思わず舌を巻く。このような装備は管理局では思いつくことすらないだろう。
 暗部たちが攻撃を開始しようとするその半瞬前に、物陰に隠れていたアタラクシア警備隊対魔導師部隊の
隊員数人が姿を現し突撃する。暗部たちは放つ寸前だった魔力弾を咄嗟に彼らに放つ! 隊員の一人がその魔力弾を
手に持つ棍で迎撃、なんとその棍が魔力弾を吸収し消滅させる! 他の者が暗部に殴りかかるが障壁を展開した
暗部は嘲るように笑うのだが、甘い。その隊員が身に着けた手甲は棍と同じ材質で作られた特別製だ。
拳は障壁と接触した瞬間障壁を吸収し、その拳は顔面を捉え意識を刈り取った。
「・・・あの武器は?」
「対魔導師部隊の武装でそれぞれ得意とする武器で形状は違いますが基本的に同じ素材でして、ある世界に存在する
魔力を吸収して硬度を増すという特殊な樹木から作られています。魔導師の天敵というべき装備ですわね」
「そんなものまで持っているのか・・・」
 これはアタラクシアの調査の賜物で、軽くて魔力を吸収すれば鋼鉄を越える硬度を持つ強力な武器である。
 なお同じ素材の手錠があり、これはつけられた魔導師は魔法が使えない上に自身の魔力を
吸収して恐ろしく固くなっているため壊す事すら出来ないという魔導師捕縛用の装備がある。
 暗部たちは隊員を攻撃しようと魔法を構築するが、隊員は魔法を使わないため攻撃するまでのタイムラグが存在しない。
その隙を突いて、隊員たちは暗部をあっという間に打ち倒し、捕縛していた。
「・・・出る幕がなかったな」
「ええ、私もです。まあそれだけ彼らが優秀だという証拠ですけどね」
「これがアタラクシア警備隊・・・」
 どこか黄昏気味なゼストとドゥーエに気付かずオーリスが呆然と彼らを見る。
 彼女の中の常識には一般人は魔導師には勝てないというものがあったのだが、それを今崩されていた。
 隊員たちはそのままレジアスとゼストの護衛を続け、レジアスはかつての事件の真相をゼストに語るのだった・・・


 その頃の聖王のゆりかご内部の動力部ではヴィータとディエチが息を荒げながらも未だ無傷のジェネレーターを
睨みつけていた。周りに出現した防衛機構はディエチがことごとく破壊したが、本命をまだ潰せていなかった。
「ち、ちくしょうっ!!!」
「まだ、傷一つ・・・付かないなんて・・・!」
 様々な攻撃を試みたものの未だそのクリスタル状のジェネレーターはヒビ一つ入っていない。
「・・・・・・・・なら・・・どうするかな」
「・・・・おそらく、この強度を越えるための何かを思いつくはず」
 二人は考える。自分達が達成しなければならない目的のために。
「やっぱり・・・これしかねーな」
「・・・うん。一点集中攻撃による外郭の破壊。ヒビさえ入れば内側のエネルギーの圧力で自壊する筈」
 二人は同じ答えにたどり着く。これが今自分達にできるベストだと信じて。
「私が最高威力の砲撃を連続して同じ場所に撃ち込むから――」
「――あたしがそこに最大威力の打撃をぶち込んで、それで終わりだ!」
 目を合わせて不適に笑い、二人は配置に付く。
「ISへヴィバレル・バレットイメージ徹甲弾! フルパワーチャージ!!!」
「リミットブレイク!!」
 最強の一撃を放つため、二人はチャージに入る。そして――――
「ファイアッ!!!!!」
 イノーメスカノンが火を噴いた! 推定威力SSの砲撃が16発、寸分の狂いもなくまったく同じ場所に
まったく同じ軌道で次々と撃ち込まれていく! さらに――――
「でええええぇぇええぇええりゃあああああぁぁあぁあああッッッ!!!!」
 巨大なドリル付きハンマーと化したグラーフアイゼンを1oのずれもなく砲撃とまったく同じ場所に叩き込む!
 しかしまだヒビも入らない!
「あたしは・・・・!」
 ヴィータはその手に更に力を込める!
「守護騎士ヴォルケンリッター・鉄槌の騎士ヴィータ・・・!」
 グラーフアイゼンに装填されていたカートリッジが次々と炸裂、排出される!
「このあたしに壊せねえものなんて・・・!」
 ドリルの回転数が上がり、ハンマーの背部のロケットが更に噴射される!
「何処にも存在・・・しねえんだよッッッ!!!」
 そしてついに、ジェネレーターにヒビが入る!
 つぎの瞬間―――轟音と共に爆砕した。


 ――ゆりかご最深部
「そんな・・・駆動炉が破壊された!?・・・まだよ! まだ予備がある!」
 クアットロは次々と飛び込んでくる悪い情報に焦りを感じていた。
「くう・・・! まさか、ここまで不利になるなんて!!」
 最早彼女の使える手駒は聖王ヴィヴィオと不破一臣のみ。
 彼女は徐々に追い詰められていっていた・・・


「ヴィヴィオ! もうやめて!」
「うあああああああああああああああああっ!!!」
 玉座では暴走するヴィヴィオとなのはが戦い続けていた。
 なのはがシューターで牽制するがヴィヴィオはそれを拳で打ち払いながら距離を詰める。
 シールドを張るなのはだがたったの一撃で破壊され魔力の篭った拳をレイジングハートの柄で受け止め、
槍のように振り回してヴィヴィオを振り払う。しかしヴィヴィオは一瞬で後ろに回りこみ殴りつけなのはを地面に
叩き付けた。
「あぐっ!!」
「あああああああ!!」
 倒れこむなのはにヴィヴィオは間髪いれずに魔力弾の嵐を叩き込む。爆発の煙で何も見えなくなった後、肩で
息をするヴィヴィオに桃色の魔力弾が煙を切り裂いて殺到する! 避ける事も出来ずに直撃するがヴィヴィオの
鎧を打ち抜く事は出来ず全くの無傷だった。
「はあ・・・本当に固いね。私もこんな感じなのかな?」
 フェイトあたりなら普通にダメージが入るのだが全くダメージが無いヴィヴィオを見て顔をしかめる。
「う・・・うああああああああっ!」
 咆哮を上げヴィヴィオが急接近。なのはの防御を貫こうと体をひねり腰を深く落として―――
「っ!! この技!?」
「あああああああああああ!!!」
 突き出された拳がなのはに直撃し、あまりの威力に壁に大きく皹が入るほど叩きつけられ、痛みに喘ぐ。
(そんな・・・吼破だなんて・・・)
 から何度か喰らった事のある技を受け思わず心が折れそうになる。なんというか、が敵になった
かのような感覚だった。しかし・・・良く見るとヴィヴィオは左拳を突き出している。
「・・・ごほっ! はあ・・・はあ・・・ギンガの・・・技・・・?」
 は右利きだ。したがって吼破を放つのは右のはず。そこで思い出す。訓練中にギンガが放った吼破の事を。
 なのはは一気にブラスター2を発動しビットからの魔力砲を直撃させる。吹き飛び、起き上がったヴィヴィオは、
「ま・・・ま・・・?」
「ヴィヴィオ!? 意識が戻ったの!?」
 暴走させられていたヴィヴィオが正気を取り戻していた。
「ヴィヴィオ、帰ろっか。パパや皆のところへ」
「・・・・・駄目だよ」
「えっ?」
「駄目だよ! 私は帰れない! 今なら分かる! 私はただの兵器でしかないんだからっ!!」
 ヴィヴィオの悲痛な叫びが玉座の間にこだまする。
「私が子供の姿をしていたのも、誰かに取り入って魔法のデータを収集するためだったんだよ! こんな私が
なのはママ・・・なのはさんたちのそばに居て良いはずが無いんだ!」
「・・・・・・私はいついちゃいけないって言ったのかな?」
「なのはさんは優しいからそう言ってくれるって分かってる。でもパパは、さんは違う! あの人は警戒して
いたんだ! たぶん正体を知ってて、私に魔法を一切見せなかった、戦うところを見せなかった!」
 ヴィヴィオはが自分に戦いを見せないのは、見たいとせがんでも見せなかったのは自身の正体を知っていたか
らだと考えていた。もっとも、事実は早い段階からヴィヴィオの正体には気付いていた。だが、それでも
娘として迎える事は嘘ではなかった。スカリエッティの所に行かせない為にあのぬいぐるみを造ったのだ。
にとって、ヴィヴィオは可愛い愛娘だった。そしてヴィヴィオは最大の勘違いをしている。それは・・・
「当たり前だよ。君は戦闘者だもん。自分の手の内を晒す様な事、絶対にしないから」
「え・・・?」
 ヴィヴィオは呆然とする。戦闘者とはなんなのか彼女は分かってはいなかった。
君はね、厳密に言うと魔導師じゃないの。魔導師なら当たり前に真っ向勝負したりするし、自分の技や
魔法を隠そうとしたりしないんだけど、彼は違う。誰かと戦う事になる事を常に想定しているの。
だから私たちですらも君の本当の意味での全力を知らないし、どんな技をどれだけ持っているかも知らないんだ。
自分の力を誇示しないし、奇手奇策の為に手の内を晒さない。そしてもし、私たちと敵対する事になったら・・・
あの人は確実に自分の手で私達を始末しにくる。そういう人なんだよ」
「それって・・・」
「ひどいよね。分かってるよ。そういう人だって事は昔から分かってるんだ」
 ヴィヴィオは絶句する。父と慕う青年の本性は―――
「・・・まるで、暗殺者・・・」
「そうだね。でも、それがたぶん不破なんだ。海鳴の私たちの家では、御神流の剣士は表と裏があってね。
御神は表、人を守る為に戦う人たちなんだけど裏は、不破は危険が降りかかる前に危険な存在を
暗殺したりする事を数百年続けていたんだ。そして、君はその不破家の当主だから・・・」
 なのはは悲しげに顔を伏せる。見た事はないの冷酷な面を、なのはは父から流派の話を聞いて理解していた。
「ヴィヴィオ。君はね、今すっごく怒ってるんだ」
「怒ってる・・・?」
 理解できない。さっき聞いたの人間像からは何に怒っているのか想像もつかない。
「ヴィヴィオにね、酷い事をした人たちにすっごく怒ってるんだ」
「なん・・・で・・・?」
 戸惑う。何故兵器でしかない自分の為にあの冷酷な男が怒っているのか。
「簡単だよ。君はヴィヴィオの事を、兵器としてじゃなくて娘として見ているんだよ。君としては、
ヴィヴィオには戦いには縁の無い人生を歩んでもらいたいみたいなんだ。私もそうなって欲しいと思ってる」
「あぁ・・・パパ・・・ママ!」
 ヴィヴィオは感極まる。自分の正体も何もかも知りながらそれでも娘としてみてくれる父と母に・・・
「帰ろうかヴィヴィオ。皆の所に」
「・・・うん。ママたちやパパ、おねえちゃんやおにいちゃん達の所へ、帰りたい!!」
 なのはは桃色の魔方陣を起動させ、魔力を集め始める。
「ヴィヴィオ。痛いの我慢できるよね?」
「うん。私は、ヴィヴィオはなのはママとパパの、強くて優しい人たちの子供だから!」
 桃色の魔力が集束する。それは高町なのはの最強の魔法。
「スターライト・・・ブレイカーーーーーー!!!!!!」
 桃色の極光の中で、痛みに耐えるヴィヴィオの体から赤い宝石が引きずり出され―――砕け散った。


「そんな・・・聖王陛下が・・・」
 クアットロの目論見はほとんどが崩れ去っていた。
 彼女としては聖王が負けるはずが無いと思っていたし、彼女が正気に戻る事さえ考慮の外だった。
「こうなったら・・・あの男だけでも・・・!」
 自身の戦闘能力は皆無に近いことを彼女は理解している。だから彼女は策を弄するのだ。
 しかし、その策も真っ向から食い破られた。後彼女に残っているのは不破一臣とゆりかごが軌道上まで
登る事だけ。クアットロは追い詰められつつあるの映像を見て、溜飲を下げていた。


 連続した刃の打ち付けあう音が響く通路では、胸を大きく切り裂かれ血を流すと、人間離れした動きで
を圧倒する一臣のほぼ一方的な戦闘が行われていた。
「どうした! 動きが鈍いぞ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 なにかと声をかけてくる一臣と対照的に、はただただ無言で切り結んでいた。
 二刀の小太刀を巧みに操りながら体術も駆使して襲い掛かる一臣に、は防戦一方だった。
「ふっ・・・父に剣を向けられないか? 甘いなお前は」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 相変わらずは無言で目を伏せながら切り結ぶ。ただ、最初の一撃を喰らって以来全く傷を負っていない。
 は何かに耐えるように歯を食いしばりながら襲い掛かる父の攻撃を凌いでいた。


 クアットロは苦境に立つの映像をそれぞれの戦場に流していた。
 そうする事で最強戦力が倒れる様を見せつけ戦っている彼らを絶望させるつもりのようだった。

 ――地上では
「おにーちゃん!!」
「うそ・・・あの人があそこまで追い込まれて・・・」
「そんな・・・!」
 スバルたちはガジェットをあらかた駆逐し小休止を取っていた。
 そして映し出された血塗れのに驚愕していた。
「・・・問題ないな」
「「「えっ!?」」」
 地上本部に近づいてくるガジェットの駆逐が終わったシグナムが彼女らに合流していた。
「アレを見てどうしてそう言えんだよ」
「見ていれば分かる。私は暇があれば奴と剣を交し合っていたのだぞ?」
「しかし・・・あの劣勢ぶりは・・・」
「だから問題ないといっている。胸元の傷は大方精神的なショックで隙を突かれたのだろうがそれ以外は傷を負っていない」
「ですが副隊長・・・」
「信じろ。奴はあの程度の雑魚に遅れは取らんよ」
 見るからに劣勢に置かれているをシグナムはいろいろなものに耐えているのだと判断していた。
 だからこそこれだけ無責任に問題ないといっているのだ。
「テスタロッサでも分かるだろうな。あの男は所詮紛い物だということが・・・」


「なんですかあの出来の悪い人形は・・・」
「初見でそれかねフェイト君。いや、僕は良い出来だと思っているのだが・・・」
 一目見てのフェイトの酷評にスカリエッティは冷や汗を流す。
 彼自身はアレには手を出してはいないが、クアットロが造ったのは自分たちの技術を結集して造った最高傑作だろうと
思っていたのだ。実際、ナンバーズよりも戦闘能力が高い様でもある。
 現在彼女達はセイン・シャッハと合流しウーノと一緒に実験体として保管されていた人造魔導師素体の人間を
搬出中である。スカリエッティはフェイトに渡すデータを編集中だ。
「実際の話、アレが不破一臣だとするとは負けないまでも苦戦はします。ですが、アレは相手になりません」
「しかしハラオウン執務官。あの状態は・・・」
「耐えているんですよシスター。湧き上がる怒りと殺意を・・・」
 フェイトは今のがある意味母プレシアと同じ心境なのだと確信していた。
「あれは・・・・・・・・酷すぎる」
 フェイトは自身の中の最も古い記憶――アリシアの記憶の中で自分と彼女の違いを自覚していた。
 アリシアとフェイトは利き手や性格、見た目からは分からない部分が正反対だった。なまじ同じ顔をしている事が
プレシアにあそこまで怒りを覚えさせたのだろうという事も今では理解できていた。
「はやく運び出しましょう。のほうは放っておいても問題ないです。スカリエッティ、データどうですか?」
「あと5分ほどでディスクに吸いだせる。もう少し待ってくれたまえ」
「分かりました。・・・しかし、最高評議会が黒幕か。業が深いね管理局は・・・」


の勝ちだな」
「そうだねヴィータちゃん。君があんなのに負けるはずが無いよ」
「・・・そうなの?」
「パパ、おいつめられてるんじゃないの?」
 一足先に脱出していたなのは達は在庫切れを起こしたらしいガジェットを駆逐し終わったはやてたちとともに
アースラで休憩していた。
「アレは酷いなあ。貫も徹も使えてへんやん」
「多分御神流は入力されてないんですよ。とーさまは怒りに震えてるです」
「たしかに・・・アレでは亡くなった本物の不破一臣氏が可哀想だ」
「侮辱するにも程がありすぎますよねぇ・・・」
 なのは達も不破一臣を名乗るその男を見下したように見ていた。
「あの・・・部隊長? あれってかなり強いように見えるんですけど・・・」
「シャーリー。あれはな、単にスペックまかせな戦いをしてるだけや。確かに速いし力もある。けどそれだけや」
「戦いとはそういったものが影響するのでは?」
「グリフィス。そーゆーのは素人の見方だ。はそういった有利を覆す術を身に着けてんだ。むしろ力も速さも
逆手にとって利用できる。それをしねーのは単にしてねーだけだ」
 戦いにあまり興味の無い二人は一般的に考えれば強いであろう考えを口にするが、前線メンバーは否定する。
「そろそろ君も我慢が限界な感じだね」
「そうね。動きが荒くなってきたわ」
「多分アレは破壊される。圧倒的な力を見せ付けられてな」
 

 一方的に攻めていたその均衡が破れ始めた。
 一臣の蹴りをかわし、放たれる剣撃をかわし、あらゆる攻撃が当たらなくなる。
「ちっ。攻撃が見切られてきたか。さすが我が息「黙れ」」
 息子と呼ぼうとする一臣には言葉を遮るように言葉を発する。
「いい加減にしてもらおうか人形。それ以上我が父を貶されるのはあまりにも忍びない」
「なんだと!?」
 激昂する一臣を尻目には淡々と話し始める。
「お前はいろいろな意味で劣悪極まる粗悪品だ。それで、高々その程度で不破を名乗るなど片腹痛い」
「貴様!」
 の批判に自身の力に絶対の自信を持つ一臣は怒りをあらわにする。
 全力で斬りかかる一臣だが、はその剣に刃を叩きつける。一臣はそこから来る正体不明の芯に響くような衝撃に
顔をしかめ後ろに下がり、今度はが攻撃を仕掛ける。当たり前の普通の斬撃を防御しようとした瞬間、攻撃が
一臣の防御をすり抜ける。不可解な現象に驚き硬直した一臣は胸元を大きく切り裂かれた!
「ぐうっ!! くそっ、わけのわからない攻撃を!!」
「・・・・・・俺の父ならば俺と同じ技が使える」
「なに・・・!」
「家伝の剣術を学んできた俺達親子は共通の技を持っているはず。それを知らないお前が不破一臣であるはずが無い。
お前は、あくまで不破一臣の体だけを復元し、戦闘機人に改造されただけの不破一臣もどきでしかない」
 切り裂かれた一臣の胸の奥には機械が覗いていた。
「もうお前如きに時間を掛けるつもりは無い。さっさと先へ行かせてもらう」
「ほざけ!! そう簡単に行かせるものか!」
 一臣もどきがの首を狙い斬りかかる! その刃が当たる瞬間は―――その姿が掻き消える。
 一臣もどきが周囲を見渡すと、一臣もどきの後ろ、最深部に向かう通路の前に現れ悠然と歩み去ろうとしていた。
「ちぃっ! 待て―――――なっ!?」
 を追う為に振り向いた一臣もどきは、何かが落ちる音を聞いた。床を見るとそこには自身の腕が、落ちている。
「―――っ!」
 現実に頭が追いつかず腕を拾おうと身をかがめた瞬間、腰から上が地面に滑り落ちる!
「ひっ!!・・・うわああああああああっ!!」
 状況を理解し、恐怖に引きつった顔でを見るが、は既にその場を歩み去っていた。

 後方で聞こえる断末魔の悲鳴と爆発音を聞きながら、は表情一つ変えることなくクアットロの元へ向かっていた。


 クアットロは固まっていた。
「なに・・・今の・・・?」
 の見せた剣閃どころか身のこなしすら見えないその動きに、絶望的なまでの力量差を思い知らされ
思考が完全に停止していた。
「か、勝てるはず・・・ない。あんな・・・化け物に・・・勝てるはずが・・・!」
 彼女に残っているのはもはやへの恐怖だけ。彼女の精神は崩壊寸前だった。
 呆然とへたり込んでいるその時、通路の隔壁が斬断されが姿を見せる。
「ひっ!!!」
 恐怖に竦み腰を抜かしているクアットロにはもう何も出来る事はなかった。
 は無言で虎月を掲げると、柄と鍔が変形しパズルが組み合うように一つになる。
「リミットブレイク」
 静かにそう告げる。アムルテンが次々とカートリッジをロードし、刀身が巨大化し始める!
 その全長は2mを超え、最早剣というよりも鉄塊とすらいえる威容になる。
「俺の故郷、第97管理外世界に存在するある国宝を模した剣だ。直刀・黒漆平文大刀拵という」
 はその巨大な直刀を大上段に構える。すると、その剣から長大極まる魔力刃が伸び壁を突き破り外部にまで伸びる!
「これには幾つか呼び名があってな。平国剣(ことむけのつるぎ)とも呼ばれているが、こちらの方が有名だろう」
 大きく振りかぶったその剣を構え、名を呼びながら振り下ろす!!
「ぶった切れ!!! 布都御魂!!!!」
 魔力刃は聖王のゆりかごを切り裂きながらクアトロに迫る!
「い、イヤアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!」
 蒼の魔力刃が天井もその更に上の階層も切り裂きながら、悲鳴を上げるクアットロを直撃、ゆりかごも真っ二つに
切り裂き、轟音と共に爆発を起こし始めた。


「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・おいおい」」」」」
 事件関係者(犯人側・管理局側)が全く違う場所で全く同じ時間に全く同じタイミングで声を出した。
 特に次元航行部隊は呆然としている。総力を挙げて倒すべき目標が一個人の手で撃墜されたのだ。
 しかも最悪といわれた質量兵器が内側から切り裂かれるなど想像だにしていなかった。
 クロノあたりはやるならなのは・フェイト・はやてあたりで3人連携攻撃でもするかもしれないと思っていたが・・・
『こちらアタラクシア00。ゆりかごの破壊に成功。NO.4も確保。これより帰還する』
 コードネームはが愛用するもの。関係者全員への報告をしながらクアットロの襟首を掴みぶら下げながら飛行する
が確認された。


「不破総帥の無事を確認! ドレッドノート・アーク帰還して行きます!」
「聖王のゆりかごは縦半分に真っ二つにされて爆発。地上へ落下していきます!」
 アースラでは次々と報告が入ってきていた。
「ふう・・・事件解決やなあ・・・」
「しかしあの馬鹿でかい剣、にあわねーんじゃねーか?」
「どっちかというとフェイトちゃんよねえ・・・」
「あーそれはね。君のお母さんの実家って代々鹿島神宮の巫女とか神官の家系だったとかでああしたらしいよ」
「ああ、あそこってタケミカズチノオガミをたてまつっとったなあ。たしか国宝が保管されてるとか」
「普段の武技は父方、最終手段は母方の関係で固めたのか。両親を慕い続けている奴らしいといえばらしいな」
 はやてたちはのリミットブレイクについて色々と話しをしていた。
 なおゆりかごの落下地点はアタラクシアの敷地内の平野だった。後で色々と動きそうではある。
 その時、ルキノが悲鳴を上げる。
「な、なんで!?」
「どしたルキノ!?」
「こ、コントロールが利きません!? 船が勝手にドレッドノートについていきます!」
君! なんかやったか!?」
 はやてはすぐさまドレッドノートのに連絡をとるが・・・
『主はやて。こちらは何もしておりません』
「アイン。でもアースラが!?」
『・・・・・・・・このまま付いて来させましょう。私見ですが、その船はもう寿命です』
「「「「えっ?」」」」
 こうしてアースラはアタラクシアの地下ドッグに寄港した。


 アタラクシアの応接室にて、六課メンバーとがアースラについての調査報告を受けていた。
 事件は解決し、今現在管理局は政府と教会と協力し事後処理を行っている。
「なるほど。アースラは仕事を終えたと判断したか」
『そのようです。こちらの調べた結果、駆動炉が限界一歩手前でした。これ以上使っていると爆散していたでしょう』
「・・・そういうことだ。もう休ませてやれ」
「うん・・・。すこし、寂しいけどね」
 フェイトは悲しそうな顔での言葉を受け入れた。
 フェイトにとってアースラは様々な思い出のあるもう一つの家だったから。
「でも、なんでルキノさんの操縦を受けなくなったの?」
「操縦が荒かったからとかじゃないの?」
「そんなことないです!!」
 スバルがその事態を疑問に思い、アルトが茶化す。ルキノは必死になって否定している。
「九十九神というものがある。器物百年を過ぎれば魂を持つという俺の故郷の迷信だが、それが起こったんだろうな」
 大事にされていた道具は持ち主に恩返しをするという話もある。
「そんなオカルトあるわけ無いじゃないですか」
 の言葉をシャーリーが笑って否定するが、幹部陣は神妙な顔で考え込む。
「なあ、お前は言ったよな。アースラは・・・」
「為すべき仕事を終えた・・・か? 事実だよ。数々の事件にかかわり様々な海を乗り越え乗員の命を守り続けた
あの勇敢な船はやるべき事は全てやり終えて眠りに就いた。だからもう寝かせてやれ」
「・・・あの。その言い方ってアースラに意思があったって言ってるようなものなんですが・・・」
「あるさ。お前たちがあるはずが無いと思っているオカルトは実際に存在する。俺はそういうの見えるしな」
 優れた科学技術を持つミッドチルダはそういった心霊現象の類は実在しないといわれている。
 が、のように実際に見えるものからすれば馬鹿馬鹿しい判断だ。魔法という文明を知りながらなぜ
オカルトを否定するのかとは常々考えている。
「・・・色々と考えたくない事なんですが・・・」
「なら考えるな。これからの話をするから心して聞いてくれ」
 は、全員の注目を集めてからこの事件の裏にいる存在を追い落とすための話を始めるのだった。


 数日後、管理局地上本部の大会議場では様々な怒声や罵声が飛び交っていた。
 やれ、責任はレジアスにあるだの、本局の部隊は役に立たなかっただのどうでも良い話が続いている。
 そして議題は、フェイトが持ち込んだ資料により更に紛糾する事になった。
「最高評議会があの事件の黒幕だと!?」
「はい。戦闘機人や人造魔導師などの非合法研究を彼らは行っていました。そしてそれはかつての
PT事件の遠因でもあります。プロジェクトFも彼らがプレシア・テスタロッサに完成させ、その際に
アルハザードが実在した事を示唆したためプレシアはあの事件を引き起こしたと考えられます」
「スカリエッティ自身も評議会によって作り出された人造生命だ。奴が今回の事件を起こした理由は
ひとえに最高評議会への反逆に他ならない。全責任は彼らにこそあると思いますが?」
「し、しかし・・・」
「彼らは世界を危機に陥れた原因を作ったのです。その責任を取って貰わねばならないと私は思いますが」
「不破総帥・・・民間人は・・・」
「黙っていろと? ふざけるな阿呆どもが! 今回の事で誰が最も被害を受けたと思っている! 他ならない我等
民間人こそが最大の被害者だ! その我等に口を出すなというのか!」
 が怒りをあらわにし、幹部達が怯え始める。自分たちのトップが原因だという事と実際に民間人が被った被害が
馬鹿にならない事は報告を受けていたため二の句が告げなかった。けが人も多数出たが、数千人の死者を出している。
管理局には弁解の余地はないのだった。
 その時、番号が書かれたウィンドウが現れ通信が入ってきた。
『たかが民間人如きが我々の行動に口を挟まんでもらおうか』
『左様。お前如きがしゃしゃり出る権利など無い』
『お前たち、今すぐ彼奴をここから連れ出すがいい』
 とうとう評議会が口を出してきた。そして評議会の命を受けた魔導師がを連れ出そうとするが、
「退場するのはお前たちだ」
 その言葉で、潜ませていた守護者たちが魔導師を叩きのめし会議場の外へ叩き出した。
『貴様!!』
「お前たちの罪は既に暴かれている」
『我等こそが正義であるのに罪があるだと? 馬鹿な事を言うではない』
「馬鹿は貴様らだ。お前たちの正義などただの独りよがりだ。それは最早害悪以外の何者でもない」
『ミッド地上の平和と正義を守ろうとする我等が悪だというのか!?』
「その守る中に、人命はあるのか?」
『そんなもの放って置けば勝手に増えていくだろうが』
『それが一体なんになるというのだ』
 評議会のその言葉に、管理局員と、そしてミッドチルダ全域に放送されその会議を見ていた人間ほぼ全員が絶句する。
 管理局は、人の命を守る必要がないとはっきりと言い放ったのだ。他でもない最高トップが・・・!
「・・・・・・聞きましたね?」
「はい。彼らの異常さはミッド全域に伝わったでしょう」
 とその隣にいた壮年の女性は不適に笑っていた。彼らの本音を白日の下にさらけ出させたのだ。
 そしてミッド中の局員と民間人は評議会の言葉に対し凄まじいまでの暴動を起こしかけている
『何を考えている貴様ら』
「状況は整ったよ。後はもう一押しだ」
『何をする気だ』
「こういうことだ。見よ! これが時空管理局最高評議会の真の姿だ!!」
 の叫びと共に、全世界に彼らの真の姿が映し出され、人々が驚愕する!
 それはポッドの中に浮かぶ三つの脳だった。
『き、貴様ああああっ!!!』
「この愚か者どもは己の肉体を捨ててまで延命し管理局を支配し続け、己たちの正義という名の悪事を繰り返してきた!
邪魔をする者の暗殺を、彼らの役に立つであろう研究をする研究機関にありもしない罪を被せ局に併合し、禁止された
筈の生命操作技術を研究し続け人体実験を繰り返した! 彼らの存在は最早許されはしまい!」
『なにを、何をする気だ貴様!!』
「ここに宣言する! 今ここで最高評議会から人権を剥奪、彼らを破棄する!!」
 の宣言に評議会が反論しているが、周りの局員は何も言えず、ミッドの民間人達は歓声を上げている。
『貴様! なんの権限があって!!』
「この決定は我々ミッドチルダ政府の決定です」
『小娘! たかが大統領如きが!!』
「黙りなさい! たかが司法機関のトップ如きがミッドチルダの最高権力者に逆らうつもりですか!」
 の隣にいた壮年の女性こそが、ミッドチルダ政府の大統領。つまりミッドチルダで一番の権力者である。
 彼らは自分たちこそが最も偉い存在なのだと思い込み、政府すらも見下していたのだ。
 その時、評議会のいる秘密施設に管理局の局員が突入する! 
 突入したのはの教え子でもあったレスティ・グラン三佐。自身が鍛え育てた局員達と共に評議会の犯罪捜査
を行っていたのだ。
『や、やめろおおおおおおおおおおおおお!!!』
 そしてポッドの機能を完全に停止され、ミッド最大の犯罪者の烙印を押された評議会はあっさりと全滅したのだった。


 かくしてJS事件は終わりを告げた。
 ジェイル・スカリエッティ及びナンバーズたちは管理局に保護という形で拘留された。
 ナンバーズに関してはがアインヘリアルで受けた損害を盾にアタラクシアへ引き込むための交渉中だ。
 スカリエッティは隔離施設の中で読書などをしつつ新たな趣味を見つけて悠々自適に生活しているという。
 管理局は完全に民間の信頼を失い現在は政府主導の下で組織を再編中だ。もともと職域が異様に広かった事もあって
幾つかの組織に細分化される事が決定している。

 そして機動六課は、本部施設も臨時本部も失ってしまったため、本部隊舎が修復されるまで休暇を与えられる事になった。
 この戦いの疲れを癒すため、アタラクシアの宿泊施設で全員泊まる事になり、はやて達幹部とフォワード陣は
不破邸にお世話になる事になった。今彼らはに保護される形となったルーテシアやアギト、ゼストたちともに
平穏な日々を送っている。

 




後書き
JS事件解決。ようやく本編が終わりました。
これから先は平穏な日々の話になると思います。



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