鬼IN恋姫†無双 呉での風景 孫策と鬼 大きな戦争が無くなり一応平和になったとはいえ、それでも盗賊などは現れる。 孫策は日々のストレス解消をも兼ねて盗賊討伐に赴いていた。 どうやら元から潜んでいた少数の盗賊団が集まり規模を増したものらしい。 その盗賊団に、現在都督を勤める一刀とその補佐をしている呂蒙も軍を派遣する事にした。 王を退いたとはいえ孫策の武力はとても高く、何より本人の強い希望のため孫策が討伐軍を率いて いるのだが、その軍の中には周瑜とその夫の姿もあった。 「ふむ。兵の錬度がいささか落ちているようだな。動きが悪い。将軍たちも大分腑抜けているようだな」 「ここ最近戦も無いが、こういう大規模な討伐も無かったしな。五胡や他の異民族も最近は大人しいし」 「錬度維持には実戦が一番なんだが・・・蜀との合同演習でもするか?」 「ああ、それもいいな。何か賭けをしたほうが本気でやれそうだし、後で北郷に提案しておくか」 本陣でそんな会話をすると周瑜。傍に居る周泰は本気でそういっている重鎮二人に冷や汗を流している。 とりあえず賭けの賞品は後で決めるとして、伝令兵から現在の状況を聞くことにする。 「報告します! 現在盗賊どもの駆逐は順調に進んでおり、奴らの溜め込んでいた金品や食料は確保いたしました!」 「そうか。報告ご苦労」 「大変です不破様! 孫策様が!」 「何があった!」 孫策に何かあったのかと周瑜は焦ったように新たに駆け込んできた伝令に声を掛けるが、は何かを悟ったように 天を仰ぐ。 「孫策様が暴走いたしました!」 「またかあの阿呆!」 予想がついていたは思わず悪態を吐く。 孫策にはある悪癖がある。それは血を見ると興奮状態になり、敵を殺し尽くすまで暴れ続けるというものだった。 そして、は個人の戦闘力的に孫策と真っ当に渡り合えるため、その鎮圧はの役目なのだ。 「あ、あの・・・師父? 大丈夫ですか?」 「・・・いつもの事だがすまん」 「ああ・・・ちょっと殴り倒してくる」 やさぐれた表情で味方を止めに出陣するに対し、呉の兵と周泰、そして周瑜は敬礼しながら見送るのだった。 「ふっふふふ! あはははははははは!!」 孫策は孫権に譲った南海覇王の代わりの剣を振り回し、目に写る盗賊を次々と斬殺していく。あるものは首をはねられ、 あるものは縦に両断される。悲鳴をあげて逃げる盗賊を捕まえその頭に剣をつきたてようとして、後ろに剣を振り回す。 甲高い音がして剣がはじかれた。彼女の後ろに現れたのはだった。 「あら。何か用かしら?」 「言わずもがなだろう。まったく、困ったものだ」 としても盗賊の命など知った事ではない。まともに働こうともせず犯罪行為に走るものに同情する気はないのだ。 今も目の前で孫策が盗賊の首をへし折ったが、は顔色一つ変えていない。 そんなことよりこれから起こる事のほうが憂鬱なのだ。 「ちょっと不完全燃焼ね・・・付き合ってくれるんでしょう?」 「その方が手っ取り早いから・・・なっ!」 言葉の途中で仕掛けてきた孫策の剣をぎりぎりでかわし距離を取ったが、孫策はその顔に喜悦を浮かべて斬りかかって来る。 は周泰の刀を参考に刀鍛冶に作らせた小太刀をクロスさせて剣を受け止めた。 「ふふふ。普通の相手ならとっくに首が分かれてる頃なのにね!」 「生憎普通の人間じゃないんでなっ!」 鋼のこすれあう音を響かせながら剣を弾き、獣の如き身のこなしで孫策が後ろに下がり、次の瞬間に突撃。あまりの速さに 一瞬の視界から孫策が消え、左から来る刃を辛うじて受け止める。 「ちぃっ!」 舌を巻く。正直に言って甘寧や周泰なら余裕で張り倒せるのは確かだが、孫策や呂布のレベルになると純粋な身体能力では 向こうが上だ。一度やりあった呂布にいたってはパワー差がありすぎて笑うしかなかったほどだ。 「ふふっ♪ 楽しいわね!」 「冗談!」 攻撃を受け止められた孫策が下がったのを好機と見たが挙動を見せずに懐に滑り込む。あまりに自然な動きに認識が 追いつかない孫策は、それでも何とか首に迫る白刃を皮一枚斬らせるだけでかわしきる。離れざまに蹴りを放つのも忘れな い。は蹴りを受け止め、孫策はそのままの体を足場に後ろに跳び退る。 「怖い怖い♪」 「お前の台詞じゃないが、普通ならあれで首が落ちているんだがな」 孫策は内心で戦慄する。目の前の男は身体能力ならば彼女自身が勝っているだろうが、こと戦闘技術に関しては比べ物に なりはしない。自分の知らない概念の動きや身体制御を行い不可解な機動で確実に命を奪いに来る。ともに戦場を駆ける 仲ではあるが普通なら相手にしたくないのだ。理由は簡単。怖すぎる。未知とは恐怖なのだ。だが、今の彼女にはとても 刺激的で、その表情には強烈な喜悦が浮かぶ。 「まだまだ足りないわよ! もっと私を満足させなさい!」 「こっちは腹いっぱいだよ戦闘狂!」 動と静。剛と柔。まったく違う戦い方をする二人は、更にぶつかり合う。 孫策の猛撃を捌き受け流しながらは確実に急所に刃を滑らせ、孫策はそれを受け止めかわす。 いつしか興奮が最高潮に達した孫策が大振りの一撃をに放ち、はその一瞬の隙を突いて体でぶつかり孫策を拘束する。 「くっ!」 「ここまでだ雪蓮! そろそろ大人しくしてもらおうか!」 体当たりを仕掛けてすぐに後ろに回りチョークスリーパーを仕掛けるに孫策は抵抗、しようとして動きが止まる。 突然動きを止めた孫策をいぶかしんで顔を覗き込むと・・・今にも吐きそうな顔色の孫策の顔があった。 「雪蓮!?」 「うぷっ! ちょ、ちょっとごめん!」 孫策は口を押さえて物陰に飛び込み、乙女としてあまり聞かれたくない音を立てている。 その光景に、の脳裏にはピンと閃く物があった。 「っ!」 「師父!」 周瑜と周泰が戦いが終わったのを見て走ってきた。どうやら掃討作戦も無事に終わっているらしい。 「あ、あの、孫策様は?」 「あー・・・少し待て。心配は無い。それと冥琳」 「どうかしたのかしら?」 「ああ。帰ったら祝い事をせねばならんぞ」 「「・・・はい?」」 「「「「四ヶ月ううううううっ!!!!!?」」」」 討伐を終えて都に帰ってきた後の報告により、呉の幹部たちは驚きのあまり絶叫を上げた。 「馬鹿かお前は。いや、馬鹿だお前は」 「だって〜。わかんなかったんだも〜ん」 「三ヶ月くらいで気付け馬鹿者」 何があったかというと、孫策の妊娠が発覚したのだ。どうも目立たないタイプだった上につわりも軽いほうらしい。 そのおかげか誰も気付かなかったらしい。 本人も月のものが無いなーとしか考えなかったそうだ。 「体調が思わしくないとか、妙にすっぱいものが食べたくなるとか無かったのか?」 「確かにあったけど・・・気にするものでもないかなーっと」 「処置なしだ。まあ何にせよ、一刀」 「お、おう!」 突然呼ばれて驚く一刀がに視線を向けると、 「雪蓮に関する諸々はお前が責任を取れ。どう考えても父親はお前だし」 「いや、確かにそうなんだけど」 「さしあたって祝言を挙げるとか」 その言葉にピクッと反応する呉の将たち。あと現王。 「そうだな。そうなると子育て中とはいえそこそこ時間のある私が一働きしなければ」 「周循の世話は侍女に任せよう。手っ取り早く終わらせて雪蓮の方を気にした方がいい」 「ああ。出産経験者が身近に居ると居ないとでは大分違うからな。私も紫苑には世話になった」 実は旅行中に蜀にも寄っている。というか今はこの二国しかないし。 で、旅先で妊娠が発覚した周瑜は少しばかり精神的に不安定になったのだが、一児の母である黄忠に色々と助言しても らったりしたのだ。ちなみに、劉備たちは幸せそうな周瑜を見て結婚に憧れ、そもそも周りにいい男が居ないことに気付いて 盛大に凹んでいる。 は一刀に甘えている孫策と、何か言いたそうな目で二人を見つめる者達をしばらく眺めて、周瑜に何事か耳打ち。 周瑜はそれは良いと頷いて、近くに居る文官に命令を出した。 三月後、蜀の面々も招待された結婚式では、新郎一人と新婦八人という異例にも程がある状況に驚いていたという。 更についでに、孫策以外にも数人若干お腹が目立っていたのはある意味流石としか言い様が無かったそうな。 |