蜀の風景・仮面問題 「ご主人様! 奴は討伐すべきです!」 「・・・却下だ。無償で悪党を成敗してくれるならそれに越した事は無い」 「しかし己の顔も晒せぬ輩が街を守るなど!」 「・・・・・・・・」 激昂する愛紗に、はひたすら頭痛に耐えた。隣では朱里と雛里が同じ様な表情で首を振っている。 「なら街の警備の為に区画ごとに兵の詰め所を置く案に賛成してくれ」 「そうですよ愛紗さん。警備の兵がすぐに駆けつけられるようにしていれば彼女が活躍する場は少なくなりますし」 「うう・・・。それでは軍の方に人員を回せなく・・・」 「街の治安は内政において凄く重要です。必要なんですから少しは目を瞑ってください」 蜀の頭脳3人による説得に、愛紗は折れた。肩を落としてとぼとぼと去っていく。 達はなんとなく顔を見合わせて、溜め息を吐いた。 愛紗が何故こうも躍起になっているかというと、今街の中で有名になっている正体不明の怪人、華蝶仮面にあった。 彼女自体に問題は無い。美と正義の使者を名乗る彼女は悪党を懲らしめるだけで実害は無いのだ。というか・・・ 「愛紗・・・何故気付かない・・・」 「華蝶仮面ってあからさまに星さんじゃないですかあ・・・」 「蝶々の仮面以外普段と変わらないのに・・・」 その正体に気付いている達にとって、正体に気付かない武官達の方に問題があるように思えていた。 星自身誰にも気付かれていないと思い込んでいるあたり余計に頭が痛いのである。もっとも、は星に聞こえるように 何処そこに悪党がいると情報をリークして彼女に潰させるような事をしているが。 「ご主人様も悪辣ですよね?」 「有効活用しているといってくれ。まあ、その分星の給金に多少色をつけているが」 「軍を動かす事に比べたら経済的なんで私達も見て見ぬ振りしてますけど」 彼女のおかげで人身売買などの裏稼業の連中をほとんど叩けているのだ。そもそも大規模な討伐ならともかく小規模の悪党 に軍を動かすのは極めて不経済なのである。軍を動かすと莫大な金が必要になるのだ。治安向上に極めて効果的なので蜀の首 脳陣は彼女の活躍を奨励している立場にあるのだった。 だがしかし、それに対し我慢ならないと思うものもまた存在する。 「愛紗は真面目なのはいいが、それが少し過ぎる所もあるからな」 「鈴々ちゃんや翠さんも気付いてませんし・・・」 「体育会系の脳筋どもはこれだから・・・!」 の嘆きに伏竜と鳳雛は同意する。別に頭が悪いとは言わない。 だがあの時、3対1で軽くあしらわれたのが効いているのだ。 「あの時の星さん、恋さん並でしたね」 「あの仮面が星に力を与えているんだろう。あれは一種の宝貝の様な物だ。星の戦闘能力が底上げされているからな」 何故あんなものが倉庫にあったかは良く分からないが、もしかしたら似たようなものが他にもあるかもしれないと三人は 思い至ってしまった。 「雛里。倉庫の目録は何処にある?」 「あ、今出します。これです」 は雛里から目録を受け取り、疑問に思うような品が無いか改めて確認するのだった。 星は上機嫌で街中を歩いていた。最近給金の額が上がっているので好物をたくさん買えて機嫌がいいのだ。何故給金が 上がっているかは特に考えていない。見合った働きをしているからだと解釈している。あながち外れではない。 子供たちが華蝶仮面ごっこをしているのをみて顔がほころぶ。自分がやっているのは間違いでは無いと勝手に確信を 深めながら歩いていると、悲鳴と共に男の怒号が聞こえる。悪党が店を襲っているようだ。 星は義憤を覚えると共に、懐の仮面に手を伸ばす。心の中である台詞を高らかに上げながら。 さあ、正義の使者の出陣だ! 達に華蝶仮面の討伐を却下された愛紗は肩を落としながら自分に割り当てられている仕事をこなしていた。 「何故ご主人様は理解してくれないのか・・・」 愛紗的には華蝶仮面は自分の顔すら晒せぬ卑怯者なのだ。達からすると非常に使い勝手のいいエージェントだが。 仕事を一段落させたところで、ばたばたと慌しい足音が聞こえ、愛紗の部屋に飛び込んできた。 「関将軍! 奴が出現しました!」 「なに!? 何処だ!」 「商店街です! そこで店を襲った悪党と交戦中とのことです!」 「わかった! 今すぐにいく!」 報告を受けた愛紗は己の得物を肩に担ぎ、素晴らしい俊足でそこに向かった。 その頃、は月と詠を連れて倉庫にいた。 「また何か探すの?」 「用途不明の代物がいくつかあったからな。あの仮面みたいなのがまだあるかもしれないから確認に来たんだよ」 「あああれ・・・」 詠は疲れたように肩を落とす。あの騒動は詠にとっては心底どうでもいいことらしい。 「ご主人様。こっちです。用途の分からない物なんかは一纏めにしていましたから」 「ああ。ご苦労様。さて、確認しようか」 は整然と並べられたそれらを見て、どういうものなのかを紙に書いていく。その中で、詠は気になるものを見つけた。 「これなに?」 詠が指差したのは、刃のついた円盤状の物体。中心には輪っかがついており、持ち手のようになっている。 「・・・・・・どうしてこんなものがここにあるんだ」 「分かるんですか?」 「ああ。これは宝貝だ。しかも有名な奴」 「「?」」 がそれを持ち上げて色々と検分していると、恋がいつの間にか後ろにいた。 「・・・ご主人様」 「恋?どうかしたか?」 「星と愛紗が戦ってる」 恋の報告を聞いたと詠は何事か理解して頭痛を堪える様にこめかみを押さえた。月はひたすら苦笑している。 はなんとなく手に持つそれを眺めて、 「行ってくる。」 「うん」 「いってらっしゃいませ」 「怪我するんじゃないわよ」 円盤を持って騒がしい気配がするほうに向かうのだった。 悪党達が華蝶仮面に退けられた後、愛紗と華蝶仮面は互いの得物をぶつけ合っていた。 「ちぃっ! 今日こそはその悪趣味な仮面をはいで正体を晒してくれる!」 「ふっ。美を解さぬ堅物に後れをとる私ではない!」 激しい戟音と流麗な戦技に民衆達も目を惹かれる。愛紗が槍を弾かれ後ろに下がったその時、刃のついた円盤がまるで 分身しているかのような不規則な軌道で飛んできた。 「なにっ!?」 「これはっ!?」 驚愕する二人の視線の先、円盤はその軌道を変え元来た方向に戻っていく。そしてその先で、一人の女性が円盤の輪っかに 腕を通して円盤を受け止めた。 「何者だ!」 「・・・そう声を荒げることもないでしょう? 止めに来ただけなのだから」 興奮気味の愛紗に、その女性は穏やかに応えた。 「私はヤマ。たまたま近くに寄ったのですが、あなた方が争っていたので止めさせていただきました」 「余計な真似を・・・?」 ヤマの言葉に愛紗は忌々しそうに呟いて、何かを感じたのか首をかしげた。 一方華蝶仮面はヤマと名乗る女性の美しさに目を奪われていた。彼女は掛け値なしの美女だった。 「これはこれは・・・これほどの美女がいようとはな・・・」 「ふふふ。確か美と正義の使者でしたか。その素顔、晒してはいかがです?」 「いやいや。これは私の美学のような物でな。外す気はない」 ヤマの柔らかな微笑みに一瞬素顔を晒しかけたが気を取り直す。 それと同時に、ヤマの立ち居振る舞いに全く隙がないのに気づいた華蝶仮面は実力を察した。 「貴殿を相手にすると分が悪そうだ。ここで退かせてもらおう」 「なに! ま、待て!」 「さらばだ!」 愛紗の言葉に応えず、華蝶仮面は姿を消した。それと同時に、ヤマと名乗った女性も姿を消していた。 愛紗は何かを考え込むような顔をして、後のことを警備兵に任せて帰るのだった・・・ 「お疲れ様でした」 「ああ。ありがとう月」 は執務室で月に茶を入れてもらっていた。傍にいるのは朱里・雛里・月・詠・恋である。 執務は一通り終わり、後はすることがないので優雅にティータイムを楽しんでいた。 「ところでさ。アレって何だったの?」 「ああ、アレ? 乾坤圏だ」 「「「「はあっ!!?」」」」 有名どころというレベルではない。西遊記にも登場し、封神演義で活躍するナタク(正確にはナタ・漢字が出ない)の もつ武器の一つだ。なぜにこんな物が城内の倉庫にあるかは甚だ疑問である。 「よく使いこなせたわね」 「扱いに難しいのは確かだが、まあ俺ぐらいになると問題ない」 「さすがご主人様です!」 自信ありげに笑うに呆れる詠。しかし周りの面子は尊敬の眼差しを向けている。 「というかあんたが女装をするとは・・・」 先ほど出現したヤマという女性。アレは実はだった。しかし・・・ 「女装じゃないぞ。アレは俺がもし女として生まれ育ったらこうなるという姿を幻術で被ってただけだし」 「・・・ああ。そういえばあんた方士の類だっけ」 「陰陽師と言うんだけどな」 美沙斗、もしくは美影によく似た美女であった。曹操あたりならば一目惚れするぐらいに好みな容姿だった。 が表で暴れるようなことになると愛紗がうるさいので、態々あんな姿で人前に出たのである。 ちなみに、ヤマというのはヤーマ、閻魔からとった偽名である。 「アレならばれないだろう。華蝶仮面の正体も見抜けないのだし」 「そうですね。大丈夫だと思いますよ。あれに気づかないんですし」 「というか不可能よ。そりゃあ、多少は似てるけど言われなきゃ気づけないわ」 さりげに愛紗たちのことをけなしつつ、たちは楽しいお茶会を進めていた。 穏やかにお茶会が進み、大量に用意されたおやつを頬張る恋にみんなが癒され始めた頃、愛紗が肩を怒らせて部屋にやって きた。 「ご主人様!」 「何だ愛紗。また華蝶仮面でも現れたか?」 「それもありますが! 何をやってらっしゃるのですか貴方は!!」 「「「「「は?」」」」」 突然に説教を始めた愛紗に全員が固まった。おやつに夢中の恋は除く。 「公衆の面前で女装をするなど、貴方には天の御使いだという自覚がないのですか!」 「・・・いやまて愛紗。気づいたのか?」 「当然です! 他の者は幸運にも気づいてないようでしたが、あの程度の変装でこの関雲長の目を誤魔化したつもりですか!」 説教を続ける愛紗にたちは言葉を失い、いうだけ言って気が済んだらしい愛紗は一礼をして部屋を出て行く。 残されたたちは・・・呆然と愛紗が出て行った部屋の入り口を見ていた。 「・・・朱里。雛里」 「「は、はい・・・」」 「愛紗の奴・・・なんで華蝶仮面の正体に気づけなくて、ヤマの正体には気付るんだ?」 「「さ、さあ・・・」」 向けている情の差、そういう結論を一応出して無理に納得しようとしたたちだったが、もうたちは言葉も出せなか った。相変わらずおやつに夢中な恋の咀嚼音が、むなしく部屋の中に木霊するのだった・・・・・・・・・・ 蜀でのの立場 基本的に本編主人公である北郷一刀と同じポジション。 だけど戦では実際に前線にたち兵を鼓舞し、敵兵をばったばったと薙ぎ倒し、内政では著しい成果を上げている。 正直言って桃香は名ばかりの君主となっている。本人は自覚しているが、楽なので特に不満に思っていない。 連合軍時では単独で呂布を生け捕りにしたことで各陣営において最強の将としてマークされている。 新しい産業を興し、農業技術の進歩に力を入れ、新兵器の開発も行っている。やりたい放題である。 でもそれが国や民のためになっているので朱里たちも積極的に手伝っている。 の直属の配下には一人一人が将に近い実力を持つ精鋭軍500騎がいるが、の言うことしか聞かないので困っている。 |