鬼IN恋姫†無双

蜀での風景


 昇竜縛鎖


 趙子龍。蜀の誇る名将たちの中でもトップクラスの武人である。
 その強さもさることながら、智にも長ける名将だ。
 だがそんな彼女にも欠点はある。
 それは、彼女が非常にフリーダムな性格をしていることだった。


「ご主人様」
「どうした愛紗。華蝶仮面か? それとも袁紹達が何か問題を起こしたか? 袁紹達の事なら白蓮にまわしてくれ」
 愛紗の呼びかけに対して書簡から目を離すことなく告げる。いつもながらだがは忙しいのである。
「星がまたサボりました」
「・・・警邏か?」
「いえ、兵の調練です」
「・・・他の将で手の空いている奴にやらせてくれ。その分給金出すから」
「そうではなく、もう星が仕事をサボるのは数十回目です。あやつの自由奔放すぎる性格は何とかならないかと・・・」
「矯正できるならもうやってる」
「ですよねー・・・」
 愛紗はため息を吐いた。
 愛紗自身星の性格には諦めがついているのだが、兵たちに示しがつかないのでどうにかできるならしたいのである。
 肩を落とす愛紗に、同じ部屋で仕事をしている(させられている)桃香が声を掛けた。
「星ちゃんの大事なものを質に取るとかは?」
「・・・桃香様。私には奴が拘る物はメンマ以外に思いつきません」
「あはは・・・私も・・・」
 メンマを人質にとる。なんと馬鹿馬鹿しい構図だろうか。二人は即行でその案を却下しようとしたが―――
「ああ、その案で行こうか」
「「ご主人様!?」」


 数日後、城の食堂では星が感動に打ち震えていた。
「な、なんという品質のメンマ! こんな、こんな究極と言っていいメンマは今まで見た事が・・・!」
 小さな壷に入ったそれを一つ一つ惜しむように味わっている。だがわずか十切れしかない彼女の生涯最高のメンマは少しずつ
消費されていた。
「・・・くっ! あまりにもったいなさ過ぎる! だがもっと食べたい! どこだ、何処で手に入るのだ!」
 苦悩する星の様子を、それはもう複雑そうに見ている者が数人いた。
「・・・まさかここまで覿面に効果があるとは」
「あらあら」
「つーかなんであんなに悩んでるんだ?」
 愛紗、紫苑、翠の三人だった。
 愛紗はともかく、後の二人は星が仕事をサボった場合よく駆り出されているので愛紗が色々相談していたのだ。
「月! このメンマは何処で手に入れたのだ!」
「へうっ! そ、そのメンマならご主人様が何処からか・・・」
「主殿おおおおおおおっ!!!!!」
 星の勢いに押されて驚きつつも答える月。そして星は全速力で執務室に突撃していく。
「・・・後はご主人様に任せるか」
「そーだな。これであたしらも突然仕事を押し付けられる事もなくなりそうだし」
「でも、食べてみたいと思いません? あの星ちゃんがあそこまで取り乱すほどのメンマって」
「「・・・確かに」」
 メンママニアの星をああまでうならせるメンマ。その入手経路が気になるのは愛紗たちも同じだった・・・

「主殿っ!」
「忙しいからまた今度にしてくれ」
「あのメンマは何処で手に入れたのですかっ!?」
「聞けよお前」
 もはやメンマの事しか頭に無い星を見てため息を吐く。ここまで効果があるとは思わなかった。
「主殿!」
「・・・・・・教える代わりに条件を飲んでもらうが?」
「いいですとも!!」
 これから合体魔法を使おうとする某黒いお兄さんの如く勢いよく返事する星。
 と、執務室に仕事の報告に来ていた焔耶は星のテンションの高さにちょっと引いた。
「で、その条件とは?」
「仕事をサボるな。遊びたいなら仕事を片してからにしてくれ」
「はっはっは。そのくらいお安い御用ですぞ。して、何処で手に入れられたのですかな?」
 あっさり受け入れた星に、お安い御用なら最初っからサボるなよと二人は思った。そして焔耶もに視線を向ける。
「俺の手作りだ」
 ――時が止まった。
 焔耶はが料理をするという事を知らないため、そして星は・・・
「・・・ふふふ。嘘はいけませんよ主」
 信じていなかった。
「料理が趣味だというのは聞いておりますが、あれほどの物を作れるとは思いませんからな。アレはまさに職人技」
「ふ・・・俺を見くびるなよ趙子龍。呂布のみならず孟獲たちも俺の手料理に陥落したんだ」
「ちょっと待ってくださいお館様。あれって馬岱の罠と孔明の策で力の差を思い知らせたのでは?」
「罠に使ったのは俺の手料理だ。面白いくらいあっさりかかったぞ。ついでに言っておくと朱里もそれこみで策を練った。
 連中本能に忠実だから美味しい食べ物があれば罠にかけやすいだろうという話で」
「本当ですか」
「本当だ。ついで言っておくと罠にかかってから料理を食べつくして俺に襲い掛かってきたが、俺との実力差を本能で感じ取
ってあっさり俺に屈従した」
「あ、あの戦いにはそんな背景が・・・」
 野生の獣はよほどの事が無い限り自分より強いものに襲い掛からないものである。
「星。まだ信じられないか?」
「・・・そうですな」
 星はの言葉に嘘を感じられないことは分かっていた。だが、ここで屈すると今までのように気ままに生活する事が出来
なくなる。先程はメンマの事しか頭に無く頷いてしまったが、華蝶仮面の活動にも支障が出るかもしれない以上首を縦に振るわ
けにも行かない事に気付いたらしい。
「ではもう一押し。向こうにもメンマはあり、俺がそれにアレンジを加えている」
「あれんじ?」
「自分なりの改良のことだ。遥かに高い技術力と、こことは比べ物にならないほど豊富で良質な素材と調味料。それを再現して
作ったメンマだ。実際悪くなかったろう?」
「うぬう・・・」
 悪くなかったどころではない。今までお目にかかった事が無いほど見事なメンマだったのだ。
 素材はがグラムサイトを使ってまでして厳選し、以前から忙しい仕事の合間を縫って作っていた各種調味料を使って
作ったこの時代において至高であるメンマ。それは製法を知るにしか作れない。
「わずか十切れしかあの小壷に入れていなかった。だが残り、いや元から大量に作った内の十切れでお前は魅了された。
 もっとアレが食べたいなら俺の言う事は信じるべきではないか?」
「むむ・・・!」
 あのメンマがもっと大量にある。その事実に星の喉が鳴った。
「た、大量にあるのなら、もう少し色を・・・」
「この間俺が作らせた星のお気に入りの酒を無料で「主よ。我が忠誠は貴方様だけに捧げましょう」分かってくれて嬉しいよ」
 今まで通り気ままに暮らしたかった星だが、とうとうに屈したのだった。


 その後。
 久々に休みが取れたは自分が管理していた畑で取れた作物を使っておやつを作って、よく食べる面々に振舞っていた。
「ご主人様。アレから一月以上経ちますが、星は真面目に働いています」
「そうだろうな。こちらとしても腕を振るってやったんだからちゃんと働いてもらわんと」
 星の生活は一変した。仕事は真面目にこなし、サボる事は無くなった。まあもっとも、仕事をこなしてさえ居れば
愛紗も口うるさく言う気は無い。それ気付いた星は即行で仕事を終わらせるようになったのである。
「ところで恋、ねね。俺の故郷のお菓子を再現したんだが、感想は?」
「美味しい。ここに来て良かった」
「色々悔しい気がするけど美味しいのは確かですぞ。って恋殿! その皿のはねねのですぞー!」
「ごめん」
「謝りながらももう一ついった!? ってそこのちびっ子ども! お前たちもとってくなー!」
「にゃっ!? にげるにゃみなのものー!」
「「「わーい!」」」
「待つのですぞー! ひっさつ! ちんきゅーきーーっく!」
「「「にゃー!!!」」」
 皿の上にはおはぎ。それを取り合うちびっ子たちとひたすら食べる恋を微笑ましく思いながら眺める、愛紗、桃香。
 そして、たちの前にはメンマが入った壷が一つ。
「龍を縛るか。流石ご主人様です」
「そういえばそういう宝貝があったな。確か、縛龍索」
「龍を縛る索(ロープのようなもの)かー。すごいねー」
 取りとめの無い話をするたちだが、一人の兵が駆け込んできた。
「関将軍! 奴が、華蝶仮面が現れましたっ!」
「何っ! 今すぐ行くぞ! 奴は何処にいる!」
「はっ! 奴は街の服屋を襲った悪漢たちを懲らしめております!」
 何処からとも無く青龍偃月刀を取り出した愛紗はたちに一礼して飛び出していく。
「ご主人様ー。あの二人の決闘を見物していい?」
「・・・焔耶を護衛に連れて行け」
「はーい。焔耶ちゃーん! 街に行くから護衛お願いねー!」
「お任せください桃香様!」
 桃香の呼びかけに何処からとも無く現れる焔耶。桃香が絡むと色々常識を超える御仁である。
「じゃあ、いってきます」
「いってらっしゃい」
 楽しげに出かけていく桃香と、デートだなんだと浮かれている焔耶を軽く見送る。
 ようやく取れた休みだ。一国の元首という立場にあるは日々仕事に追われて滅多に休みが取れない。
 一分一秒が勿体無いので某御使いのように女を口説く時間など取れないのである。
 そしてようやく搾り取れた休日は・・・
「ごしゅじんさまー。あそんでー」
「はいはい。分かったよ璃々。恋。動物たちは?」
「ん。あっちにいる。璃々。一緒に行こう」
「うん! 恋おねーちゃん!」
「ねねー。美以とその他ー。遊びに行くからついてこーい!」
「「「「はーい!」」」」
 一見家族サービスのような時間に費やされるのだった。



あとがき

星、行動を制限されるの巻。
でもまあ、文句は無いでしょう。

南蛮について。
孟獲こと美以たちだが、原作通りの理由で蜀に侵攻。
しかし、いたずら好きの馬岱の罠と諸葛亮の策。そしての料理により捕獲される。
しかし、の料理を食べてパワーアップしたっぽい美以たちは罠を破ってを襲撃、しようとしたところで
のプレッシャーを受けて本能レベルで格の差を理解。
それ以後蜀に下るということに。
桃香に可愛がられつつ、マスコットというかペット的な扱いになる。
美味しいものが食べられるので本人たちは充実した日々を送っている。

愛紗たちのへの好感度
一刀と違い女遊びをしない・仕事をサボらない・政務に積極的。
以上により愛紗たちにとって理想的な君主であるためにはこの上ない信頼と忠誠を誓っている。
でも少しぐらい誘ってくれても、と思っているのも確か。
ちょっと欲求不満。

ふと思ったのだけど、あの時代の結婚適齢期は13〜15歳あたりだったので大人の事情により18歳以上である彼女らは
総じて行き遅れ・・・はっ!? 殺気!?

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