鬼in恋姫†無双
 董卓軍での風景

 不幸な日DX

 賈駆こと詠は超絶に不機嫌だった。理由は分かっている。今日は月のモノがある日だ。女性に月一であるアレではなく、
詠にのみ存在するアノ日。今日は一日超絶不幸な日だ。

 朝起きて、顔を洗おうとして洗面器をひっくり返し、全身ずぶ濡れになる。着替えようとしたら、お気に入りの一着が
音を立てて裂ける。靴を履いたら中に虫が居た。
「ある意味絶好調だな」
「うっさいわよ・・・」
 の皮肉に詠は力無く答えた。毎月恒例のこの日に詠に近づくのは、何故か影響を受けない月、董卓と―――
「きゃあっ!」
 朝餉を運んできた侍女が足元を通った野良猫に驚いて、持っていたお盆と共に朝食が空を舞い、が難なくキャッチする。
 早朝から訓練中であろう華雄の戦斧が何故か飛んで来て、は躊躇いも無く柄を掴み取り元来た方に投げ返す。
「・・・ありがと」
「どういたしまして」
 ―――詠からもたらされる不幸を自力で排除できるだけだった。

「・・・・・・今日はアノ日だったか」
「・・・・・・けったいやなあ」
 華雄と張遼はすっぽ抜けて飛んでいった金剛爆斧、華雄の斧が帰ってきたのを見て呟いた。
 ちなみに斧は張遼の鼻先数センチ先を通過し、華雄の足元数ミリの所に突き刺さっている。二人は恐怖で一歩も動
けなかった。
「霞。お前は投げつけられた斧を投げ返せるか?」
「無理言わんといて。呂布ちんでも出来るかどうか・・・」
 華雄の質問に即座に否と答えて、すぐそばで動物と戯れる呂布、真名は恋、に問いかける。
「・・・無理」
「そうか・・・」
 ちょっとの間を持って否定された。
「アレぐらい出来ないと詠のそばにはいられないのだろうか・・・」
「友人としてなんとかしてやりたいんやけどなー・・・」
 悔しそうな二人を横目に、野生の勘でどうにも出来ない事を悟っている恋はセキト他動物達と戯れるのだった。


 仕事中。文官が運んできた書簡の束が詠に向かって盛大にぶちまけられ、ぶつかる寸前にが全部受け止めて普通に渡
し、休憩にと侍女がお茶を入れに来て、やはりというべきか躓いて宙を舞う茶道具一式をがキャッチ。そのまま何も言わずに
が茶を入れて詠に渡す。指示書を書いている途中で新品の筈の筆が折れ、何十本単位で筆を用意していたが次の
筆を手渡して、何事も無かったかのように仕事が継続される。
さんがいてくれて本当によかったです」
「というか霊視してやろうか? なんか本当に呪われているかのような不幸っぷりだぞ?」
「・・・いいわよ。あんたの事だからとっくにしてるんでしょう?」
「・・・すまん」
 はまず最初に詠が呪われているかどうかを疑ったのだが、そういった呪いは見受けられなかった。
 だからはこんな対処療法しかしていないわけなのだが・・・
「あんたのおかげで凄く助かってるわ。以前ならもっと悲惨だったもの」
「まあ、放っておけなかったからな」
 此処にきた当初、は周りの人間から凄く警戒されていた。唯一の例外は月のみ。まあ、お忍びで城を抜け出して
を見つけて連れ帰ってきたのが彼女なのだし。
 そしてが誰からも認められるようになったのが、この詠の超絶不幸日に常に傍にいながら無傷で乗り切った上に
詠を守り続けた事によるものだった。
「アレはすごかったですね。訓練中の兵士の槍だの剣だのが降って来ても詠ちゃんを抱えてその場を離れて、何故か足元にあ
る滑りやすいゴミを滑らないように渾身の力で踏み潰して。侍女が捨てた汚水が詠ちゃんの上に落ちそうになったら、目にも
留まらぬ速さで詠ちゃんを攫って汚水を避けて。恋ちゃんの方天画戟が飛んできたと思ったら難なく手で受け止めて」
「月。ボクの不幸加減が浮き彫りになって激しく凹むから回想しないで・・・」
「ご、ごめんなさい!」
 泣きそうな、というか八割泣いている声で詠が懇願する。は空を仰いで手で目を覆った。なんというか哀れすぎて・・・

 夜、今回ものフォローのおかげで大した被害無く乗り切れた詠は自分のベッドの上で、に膝枕されていた。
 そこはかとなく羨ましそうな月の視線が詠にはとても痛い。
「ま、今日一日お疲れ」
「ありがと。とりあえず凄く優しく頭を撫でるのはやめて・・・」
「いーなー・・・」
 指をくわえて本気で羨ましがっている月にが手招き。嬉々としながらの傍に来て、肩を抱き寄せられて幸せそうに
に寄り添う。詠はなんとなく不機嫌になって月を見て、諦めたように溜め息を吐いた。
 別には月や詠の恋人というポジションにいるわけではない。どちらかというとアレだ。親兄弟に近い。
 日ごろ父性オーラを発散しているからだろうか。そういえば、恋も陳宮も懐いていた。
「ねえ・・・」
「なんだ?」
「今夜は一緒に寝てくれない?」
 詠としては勇気を振り絞っての誘い。月は驚きながらも二人を見る。そしては・・・
「何かあると危険だしな。今夜はずっと傍にいよう」
 100%善意でそう答えた。だがそれに異論を申し立てるのが月だ。
「詠ちゃん・・・!」
「月も一緒で」
「詠ちゃ〜ん♪」
 あっさり懐柔された。
 そして三人で寝る事になった。別に性的なことは何もしていない。

 翌朝、良く眠れたのか凄くすっきりした顔の月と詠がおり、妙に疲れた顔のがいた。その次の晩、の元に恋と
ねねが泊まったと聞いた華雄と張遼が、には男としての機能が無いのかどうか凄く心配になったりしたらしい。

「で? 実際のところは?」
「・・・実は夜中に猪がな」
「・・・一晩かけて追い払ったのか」
「いや。殺気をぶつけて即座に追い返したが、それに反応した月と詠が寝ながらぐずり始めてな」
「・・・想像出来ん。いや、月なら想像出来るが」
「とりあえず落ち着くまで優しく声を掛けながら頭を撫で続けてあの様だ」
「・・・まあなんだ。相手してやらない事も無いぞ?」
「華雄。お前さん美人なんだからもっと自分を大切にしなよ」
「・・・鈍感」
「ちゃうやろアレは。分かっててわざと拒んどる」
「それはそれで・・・もしかして故郷とかに恋人が?」
「あー・・・ありえるなぁ・・・」


 その後、によってこの超絶不幸日に詠の傍で詠を守り続ける修行が考案されたが、以外に守りきれなかったため
半ば罰ゲーム扱いになったという。


董卓軍でのの立場(暫定設定)
月が連れてきた身元不明の男。文官・武官を兼務。兵士達に対して超がつくスパルタ訓練を施すが、その後の食事が極上なの
で離れるに離れられずずるずると訓練に耐え、いつの間にかの部隊は精鋭部隊に育つ。
当初は正体不明なのであまり良く思われていなかったが、詠の月一のアノ日を境に評価が逆転。実力・人格共に認められる。
月・詠・恋・陳宮にとって兄的存在。華雄は片思い。張遼とは飲み仲間。
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