が魔法とミッドの機械工学の勉強を始めて一ヶ月。
 その日、プラントの一つに管理局からの襲撃があった。


 アナザーIF 第二話
 少年の初陣


「魔法の参考書を持ってきたのだが・・・」
「ああ、そこに置いてくれ。ありがとうチンク」
「いや、しかし凄いなこれは・・・」
 ラボ内にある学習ルームではが周囲に本を浮かせて魔法で一気に読み込んでいた。
「検索魔法と速読魔法の応用だ。少し勉強すればチンクにも出来るぞ」
「勘弁してくれ。勉強は嫌いではないがさすがにお前のような事は出来ないよ」
 周囲に浮かぶ本は20を超える。それだけのものを一気に読み上げているのだ。恐るべき頭脳といえた。
 まあ、同じ事が出来る司書が無限書庫にもいたりするのだが。
「ウーノがそろそろ食事の時間だといっていたぞ」
「ん? もうそんな時間だったのか?」
 が時間を確認すると、もう夕飯の時間だった。
「ウーノさんも最近料理上手になったからなあ」
「私もだが、ドゥーエも上手くなったな。お前の指導の賜物だ」
 チンクは微苦笑を浮かべながら少し過去を思い出す。当時の食事はなんというか・・・味気なかった。
 栄養分は豊富だったのだが味は二の次だった所為で食事というものはあまり好きではない時間だったのだ。
「お前が来てから生活レベルが大幅に上がった気がするよ」
「そうか。喜んでもらえて何よりだよ。では行こうか」
「ああ」
 は本をまとめて本棚に押し込んでさっさと食堂に向かっていく。チンクはその後ろを小走り追いかけていった。


 翌朝、はいつもどおりに勉強中だった。視力も戻ってきていたため眼帯は外している。
「・・・? なんだ? 妙に視界がぶれる・・・」
 左目がおかしかった。見えないのではなく、何か違和感がある。
 左目を開けたり閉じたりしている時に、左目を通じて見えているはずのない映像が飛び込んでくる。
 それはチンクが戦い―――負傷する光景。
「なんだ? 未来予知の類か? しかし今のは霊視に似て―――」
 警報。突然のサイレンが研究所内に響き渡る。
「何があった!」
『プラントの一つに侵入者あり。管理局だわ』
『トーレとチンク、クアットロもそのプラントに行かせて対応させてくれたまえ』
『はい、ドクター』
 は管理局が来たと聞いて顔をしかめる。あまり聞きたい名前ではないが、今視た映像が気になって仕方がない。
「ジェイル! 俺も出るぞ!」
『しかし・・・』
「無人機動兵器だけでは心許ないし、部隊が一つ来ているのだろう? だったら戦力は多い方がいい!」
『・・・分かった。あまり無理はしないようにね』
「無理も何も、今では魔法ありISありの模擬戦でトーレに全勝しているんだぞ。有象無象如き相手にならんさ」
『ふっ、そう言えばそうだったね。任せたよ君』
 は近くの転送ポートに飛び込んで襲撃を受けているプラントに移動する。
 その脳裏には右目を切り裂かれるチンクの姿がこびりついて離れなかった・・・


 二人の女性が機動兵器を破壊しながらプラント内を突き進んでいた。
「なかなか厳重な警備ね。隊長たちは大丈夫かしら・・・」
 紫色のロングヘアーをたなびかせる女性―メガーヌ・アルピーノ―がパートナーらしき女性に話しかける。
「大丈夫でしょう。向こうは隊長がいるわ。それに、倒せない相手じゃない!」
 両手にナックル、そしてローラブーツを装着した女性―クイント・ナカジマ―がそれに答え、襲い掛かって
きた機動兵器を一蹴する。吹き飛ばされたそれは煙を上げて停止した。
 散発的に現れる機動兵器に辟易しながらも隙を見せずに二人はプラントの奥まで侵入していた。
『お二人とも! 大丈夫ですか!?』
「ええ、こっちは大丈夫だけど・・・」
『こっちは戦闘機人が出てきました! それで隊長が俺たちをかばって怪我を!』
「そんなっ!!」
「すぐにそちらに―――!! ・・・ごめん。こっちもお客様が来たみたい」
 彼女達の周りにはいつの間にか機動兵器が群れを成して囲んでいた。
「どうにかできる?」
「難しいわね」
 身構える二人だが、機動兵器は突然後ろに下がり散開していく。
「なに?」
「・・・・・・・・・来る!!」
 クイントは通路の奥から魔力砲が来るのに気付きメガーヌを引っ張り壁に張り付いて回避する。
「なんなの今の威力・・・」
「軽くオーバーSはあったわよ・・・」
 二人はあまりの威力の一撃に慄きながら通路の奥を観察する。
 その通路の向こうから小柄な人影が悠然と歩いてきた。
(子供!?)
(驚いちゃ駄目よメガーヌ。あの子も戦闘機人かもしれない)
 通路の隔壁の影に隠れた二人は現れた子供に驚きながらも警戒している。
 その子供はごく当たり前に―――隠れているはずの二人に数十発もの魔力弾を撃ち込む!
 隠れている場所が当たり前のように見破られた事に驚きながら、二人はその子供から距離を取りつつ身構えた。

「少し加減を間違えたな。あんな威力の砲撃を放つつもりはなかったんだが・・・」
 聞き様によってはものすごい事をつぶやきながらは力加減が利き難いことを悩んでいた。
「やはりデバイスを用意する方がいいか。杖は論外、機能は魔道の制御だけで十分だな」
 デバイスを作るためにアイデアを色々と考えながらも、目の前にいる二人の女性から目を離さない。
「あなたも・・・戦闘機人なの?」
「・・・ふむ、そうでないならどうするんだ?」
「どちらでも、あなたを保護します。大丈夫、以前他の機人の子も保護した事があるの」
 クイントは以前保護し、娘にした機人の少女達を思い出しながらに声を掛ける。
 もしそうならを保護し、人間として育てようと彼女は考えていた。だが、
「ああ、タイプゼロの1号機と2号機のことか。管理局はそう呼んでいたな」
「「・・・・・・え?」」
 の言葉に二人は呆然とする。なぜこの少年がそれを? 二人の頭の中にはその疑問が大半を占めてしまっていた。
「その子達も可哀想に。保護とは名ばかりで実際は捕獲。色々と実験されてるようじゃないか」
「そ、そんな、そんな事無い!」
「何を動揺しているんだ? そのために捕獲したんだろう?」
「違うっ!!」
 嘘だと、彼女はそう叫びたかった。マリエル技官は真摯にあの子達を案じてくれていたが、他の技術者はどうだった?
 そのとき見た彼らの視線が、まるでモノを見る様な温度の無い視線が思い出されそれ以上何もいえなくなる。
「何故貴方がそれを「知っているか、か?」―――っ!!」
「簡単だよ。その情報がこっちに流れてきているんだ。妹達の【製造】に大きく貢献しているよ」
「「―――――――!!!」」
 の言葉にクイントとメガーヌが絶句する。それはつまり管理局の特秘情報が流出しているという事なのだから。
「さて、おしゃべりはここまで。俺は貴女方を捕獲もしくは殺害せねばならない」
「「っ!!」」
 目の前の少年から子供とは思えないプレッシャーがかかる。
 彼女達は即座に頭を戦闘モードに切り替えて身構えた。
「さて、ミッドでは初陣だ。少し派手に行くとしようか」
 が右手を掲げると、その周囲に数十個の光球が現れ二人に殺到した。

(動きが良いな。ベテランか・・・それよりも)
 魔力弾をかわしきった二人に感嘆の溜息を吐きながら、は自分の変調をいぶかしんでいた。
(この左目はどうにかならないか?)
 の左目には右目とは異なる光景が見えていた。リアルタイムである右目とは違い、ほんの数秒先が見えているのだ。
(左右別の光景が見えるなんてやりにくいにも程がある!)
 クイントの拳が迫るのを先が見えている左目で確認し紙一重で避ける。
(挙句の果てになんだこれは)
 の眼にはクイントとメガーヌの思考が文字通り読めていた。二人の周囲にテロップ状で二人の考えが浮かんでいる
のだ。物凄く奇妙な光景である。さらには周囲の壁や二人のデバイスの材質、さらに知りたくも無いのに二人の
スリーサイズの情報まで入ってくる。
(多機能すぎるだろーが! 情報量が膨大すぎて頭が割れる!!)
 一瞬あの兄の作品でも仕込まれたかと思ったがこんな物を作る技術は存在しないはずだと思い至る。
 何よりには心当たりがあった。
(まさかあの【眼】なのか? とりあえず試すか・・・)
 メガーヌが小さな虫・インゼクトを数匹射出、だがはその軌道と着弾点を先に見て紙一重で回避。
<くっ! 当たらない! なんて子なのこの子!!>
<焦らないでメガーヌ! 付け入る隙はあるはずよ!!>
 二人は念話で連携を取ろうとするが、にはそれすら見えている。
 が攻撃に出ようとした瞬間に、体が大きく崩れる! 膨大な情報量を処理をしきれずに酷い頭痛が襲い始めたのだ。
「取ったあああああああ!!!!」
 クイントがそう叫びながらに急接近! 拳を大きく振りかぶる!
「はああああああああああっ!!」
 手に装着したデバイスのギアが回転して威力を底上げし、に直撃する!
「ぐうっ!!」
 ぎりぎりで障壁を張ったとはいえそれ越しでもかなりのダメージが!
「そこっ!!」
 再びインゼクトによる射撃、眼を閉じ頭痛に耐えているには回避など夢のまた夢。直撃を受けて吹き飛ばされる!
 その瞬間、の左眼にはチンクが、関羽がもってそうな槍で右目を傷つけられた光景が見えていた・・・

 動かなくなったを警戒しつつにバインドをかける二人。安堵したような溜息を吐いた。
「恐ろしい程の強敵だったわね・・・」
「ええ、でもようやく倒せたわ。色々と聞かなければならない事もあるし・・・」
「保護という形で良いわね」
「そうね。まだ子供で―――!!」
 二人がのんびりと会話をしているその時、周囲を凶悪に濃密な殺気が覆い尽くす!
「こ、これは・・・!」
「まさか!!」
 二人はから大きく距離をとる。
 はゆっくりと起き上がる。掛けられたバインドを当たり前のように無視して・・・
「嘘でしょ・・・!」
「二人掛りでバインドを掛けているのに!」
 が動くたびにバインドが歪み、あっさりと崩れ落ちる。
「・・・なにが・・・保護だ」
「え?」
「何も知らない犯罪組織の犬が・・・くだらない事をほざくなああああああっ!!」
 ―――咆哮。
 物理的圧力を伴う凄まじい殺気が嵐のように吹き荒れる!!
「「きゃあああああああ!!!」」
 二人は吹き荒れる殺気の渦に風もないのに吹き飛ばされる!
 ゆっくりと近づくに、あからさまに恐怖をその顔に貼り付けて逃げようとするが、体が震えて動かない!
「が、ガリュー!! ・・・え?」
「め、メガーヌ!?」
「しょ、召喚獣達が、出てこない・・・」
「な、なによ・・・それ・・・」
 メガーヌが己の持つ召喚獣達を召喚しようとするが、彼らはそれに応答しない。
 彼らは理解してしまっているのだ。目の前のバケモノにとって自分たちは正しく虫けらだという事を・・・!
 二人の眼前に立ったは、両手に魔力を纏わりつかせ蒼く輝くその拳を振りかぶり―――――――

 ―――ずるり・・・ずるり・・・
 そんなナニかを引きずるような音が、そのプラントの通路に響いていた・・・


「無事だったかね君!・・・どうして左目を閉じているんだい?」
「いろいろあってな・・・。ほれ」
 は引きずっていたそれをジェイルとウーノの前に投げ捨てる。
「・・・殺したのかね?」
「一応生かしておいた。こいつらの信じる正義を真っ向から否定したくなってな」
 獰猛な、凶悪な笑みを浮かべるにこんな一面もあるのかと遠い目をするジェイルとウーノ。
(やはり絶対に怒らせないようにしよう)
(はい。彼女らの二の舞にはなりたくありませんから)
 二人は即決での怒りに触れない事を心に誓う。
「あらちゃん。もう戻ってたの?」
「む、迎撃に出たと聞いていたが・・・その二人を倒したのか」
「ドクター。すまないが修理を・・・! お前左目はどうしたんだ!」
 トーレたちが帰還してきた。チンクは治った筈の左目を閉じるに思わず詰め寄る。自分の右目を顧みずに。
「チンク。お前こそ右目をやられてるだろう。早く治してもらえ」
「私たちの修理などパーツを替えれば済む事だ! それよりもは!」
 修理という言葉には眉をひそめるが、とりあえず自分のほうから説明しないと話が先に進まないと感じた
自身の目の説明を始める。
「どうやら修復されたときに先天的に眠っていた能力が解放されたらしい。色々と多機能な能力を保持している」
「そうなのか・・・別に開けていてもいいような気がするが?」
「この目は数秒先ではあるが未来視が出来るらしい。それと表面的な思考を文字通り読む事が出来るし、モノの
構成情報やその他諸々を看破する能力があるようだ」
「なかなか便利だね。聞いた限り欠陥はないように思えるのだけど?」
「分からないのかジェイル。視界に入るものを片っ端から解析するんだぞ。頭に入ってくる情報量が許容量を超えて
いるんで凄まじい頭痛を引き起こすんだよ。それと左右で違う光景が見えるからやりにくいにも程がある」
 大した事がないようにも聞こえるかもしれないが、情報量が大きすぎると脳がオーバーヒートを起こして
精神に大きく損害が出るし、の鍛え抜かれた感覚が見えている光景に反射的に反応してしまい誤動作を引き起
こすのだ。その事を告げられたトーレやチンクは使いすぎると危険な上、戦闘に支障をきたす能力に頭を抱える。
「おそらくそれが君のISなのだろうね。名前を決めないといけないかな」
「名前ならある。これはうちの世界の伝説や神話に登場する魔眼【グラムサイト】だ。妖精眼、もしくは
月の瞳という」
 同じグラムサイトでも某人材派遣会社の二代目社長のものではなく某侍ガールが得た方である。
「とりあえず訓練が必要だな。使う能力の選別が可能かどうか試さんと・・・」
 はそういってから、意識を失って転がっている二人を見る。
「それよりも先にやる事があるな」
「そうだね。ウーノ、報告を頼むよ」
「はい、ドクター」


 何処とも知れぬ部屋で、三つのモノリスが浮かび、その中央にはウーノのホログラフが映っている。
『ふむ。重要なプラントが一つ潰されたか』
『しかし所詮戦闘機人のプラント。我らの本命の方は無傷なのであろう?』
「はい。そちらの方は別にありますので」
『ならば問題ない。それよりも、ゼスト・グランガイツとメガーヌ・アルピーノにレリックとの適正があると?』
『ならばそれを素材としてレリックウェポンを造ってもらおう。ゼストの方はジェイルの監視に使えるだろうしな』
「それと、メガーヌには娘がいるようです。親に適正があるなら子供も可能かもしれません」
『サンプルは多いほうがよいな。ならばこちらで手配しよう』
「ありがとうございます。それと捕獲したクイント・ナカジマはどういたしますか?」
『それには適性はないのであろう? ならば適当に処分してしまえ。役に立たぬサンプルなど必要ない』
「分かりました。ではこれで失礼いたします」
 ウーノは老人達への報告を終え、通信を切った。
 その場に残ったその三つのモノリスも姿を消し、その部屋は沈黙に包まれたのだった・・・


「―――との事です」
「予想はしていたが・・・相変わらず生命というものを軽んじているなあの脳みそどもは」
「そうでなければこんな事は出来ないだろう。で、感想はあるかい?」
 とウーノとジェイルは猿轡を噛ませて縛っておいた二人に感想を求めるが、二人は愕然とした表情のまま固
まっている。二人ともショックが強すぎたようだった。
「娘さんはとりあえずこっちで育てる事にして・・・クイントだっけ? この人はどうする?」
 の心底どうでもいいという感じの言い方にクイントは体を震わせる。
 まだあの時の恐怖が彼女らの体を縛り付けていた。
「・・・僕としては無益な殺生は好まないのだが」
「俺もだ。相手が生きている必要性が感じられないような小悪党ならその場で縊り殺すが・・・」
君も大概物騒ですね。身内にはすごく優しいですのに・・・」
 なかなか物騒な会話でありながらも妙にほのぼの感のある感じな三人に二人はやっと正気を取り戻す。
「いまのは・・・評議会、なんですよね?」
「その通りだ。つまり君たちが追っている戦闘機人事件の黒幕は」
「時空・・・管理局・・・」
 呆然と、やっとの思いで言葉を搾り出すクイントとメガーヌ。
「諸々の事情は後で説明するとして、クイントはどうするのですか?」
 ウーノの懸念にジェイルが悩む。あの脳みそどもの命令を聞き続けるというのも腹に据えかねる。
「俺のときと同じ手段を取ろう。速成クローンを造って彼女の身元が判明する持ち物を持たせて適当な場所で殺して
放置する。管理局が俺を誘拐するときに使った手口だ」
 も被害者だという事を聞いて更に愕然とするクイントとメガーヌ。自分たちが言った保護という言葉に
どうしようもない程の嫌悪を覚えて、心から悔いていた。
「それで行こう。さて、色々と準備するかね」
 ジェイルは管理局への欺瞞工作を行う為に準備に入った。
君はチンクの所に行ってあげてくれるかしら?」
「ん? 今ポッドの中じゃなかったっけ?」
「クアットロがチンクの調整中だけど様子を見に行くぐらい良いでしょう?」
「ん、分かった」
 が部屋を出て行ってから、ウーノは二人に向き合った。
「さて、貴女達には選択して頂きます。我々に協力するか、この歪んだ正義という名の悪に殉じて死ぬかを」


 その頃、ベルカ自治領から離れた場所で。
「ぐ、ああ・・・お、おまえ・・・は・・・」
「申し訳ありません司祭様。これが私の任務ですので」
 一人のシスターが司祭の胸にナイフを突き立てていた。
 既に彼女の任務は完了。聖王の聖骸布から遺伝子情報を抜き取りF計画関連の研究所にデータとサンプルを送りつ
けている。後はその研究所の人間が聖王を再生するだろう。
 力なくひれ伏し息絶えた司祭を冷ややかに眺めながら、シスターはその場を離れようとした。
 その時、突如シスターの胸に金属の爪のようなものが二本、生えた。
「か・・・は・・・な、なにも・・・の・・・?」
 血を吐きながら彼女が後ろを振り向いたときそこにいたのは―――!!
「ふふ、貴女の任務はここまで。ここから先は私が請け負いますわ」
 シスター、いや評議会の子飼いのエージェントであり秘書であったその女性は、自分の顔をした何者かの凶刃に
倒れ、その生涯を閉じた。
 殺した女―ドゥーエ―は懐から粉の入ったビンを取り出し、女の亡骸に振りかける。するとその粉が少しの時間を置い
て発火し、女の亡骸を炎に包み込んだ。
「・・・さすがの作品ね。確か名前は・・・ナパームパウダーだったかしら?」
 女の亡骸は灰すら残さず焼き尽くされ、風に吹かれて消えていった。
「評議会への潜入任務。第一段階完了。これから評議会の秘密施設に潜入します」
『了解。気をつけてねドゥーエ』
「ええ、そちらも気をつけてね。それからには私が暮らす住居に定期的にスイーツを届けて欲しいと伝えておいて」
『ふふ、分かったわ。じゃあ』
「また会えるときを楽しみにしてるわ」
 ドゥーエはこれからの孤独な任務に多少不満があったが、楽しみにしている事もある。
 新しく誕生する妹達がどんな子達なのかを想像しながら、それとのスイーツを誰にも取られる事なく堪能できる事に
心を弾ませながら、自分の任務を果たすために評議会の元へと赴くのだった・・・



後書き
ゼスト隊による重要プラントの襲撃戦と主人公の初陣。
ただでさえ強い上にISまで覚醒してますが欠点ありすぎて多少弱体化したかも。
便利である事は便利ですがね・・・
そしてドゥーエは若干設定を変更、司祭を誑かし聖骸布を持ってこさせたのは評議会のエージェントで
その女を暗殺し入れ替わったというのがうちのドゥーエさんです。
アニメ放送当初は評議会が暗殺されるときに彼女の正体に驚いた理由がこの所為だったのでは? と思ったのが始まりです。
それではヴィータサイドのおまけを・・・


―――ヴィータ、本局にて
 ヴィータは本局内の部隊の事を調べていた。が、少し調べただけで怪しい部分が見つかった。
 特秘事件だけを追い続ける部隊が存在するのだ。その為任務内容がまったく分からない。
 他の局員に聞いたりもしたが、特秘任務を請け負っているんだし仕方ないんじゃないか、という答えが全てだった。
 クロノやリンディも含めて・・・
(怪しすぎる。これじゃあ何をやってるかわからねーだけじゃねえ。何をやっててもおかしくねえじゃねーか!!)
 資金の流れから任務内容、その全てが不透明な部隊の存在に彼女は疑惑を深めていた。
 ヴィータは今、以前受けた任務の際に小破してしまった愛機をマリーに修理に出していたため受け取りに行く途中だった。
「マリーさん。アイゼンを受け取りに来たんですけど・・・」
「あらヴィータちゃん。少し待っててねー」
 マリー―マリエル・アテンザ―は一人の男性と話をしていた。
「ギンガとスバルの検査は終了しました。もうお帰りになられても大丈夫です」
「そうかい。いつもすまねえなマリエル技官」
「いえいえ。・・・その、奥様、クイントさんのことは・・・」
「ああ、気にせんでくれ。陸戦魔導師だったあいつがいつかこうなる事は覚悟していた。・・・ただ、気になる事もあ
るがな。・・・まあ今はあいつの生前の願いどおりに娘達を人間として育てる事に集中するさ」
「そうですか。では・・・」
 マリーはアイゼンを取りに部屋の奥のほうへ入っていった。
 その場にはマリーと会話していた男―ゲンヤ・ナカジマ―とヴィータが取り残された。
「・・・お前さん、ヴォルケンリッターの・・・」
「・・・ああ、あんたも闇の書の被害者なのか」
「まあな。だが、今はそんな事は関係ねえ。女房が事件で死んで娘二人を男手一つで育てなきゃならねえからな」
 ヴィータたちへの復讐よりも、娘達との時間のほうが彼には大事なのだろう。実にあっさりしたものだった。
「奥さん、亡くなったって?」
「ああ。特秘任務中の事故だとかでな。綺麗な死体だけ戻ってきやがったよ。死因すらわからねえ・・・以前負った
傷すらねえ本当に綺麗な死体がな」
「っ!! 本当か!」
「あ、ああ・・・どうかしたのか?」
「あたしのダチが事故で死んでる。でも、それ以前に負った大きな傷が、見つかった遺体になかったんだ!」
「・・・おい。まさか・・・」
「現地の協力者の診断ではクローンを使ったって事はほぼ確実らしい。あんたのところと似てねえか?」
「似てねえどころか、まったく同じじゃねえか・・・!」
 ヴィータが追っているの事件とクイントの事件は類似点が多すぎた。
「・・・なあ、協力しねえか。あたしはそのダチが生きてるように思えてならねえんだ」
「・・・いいぜ。そのお前さんの勘からすればクイントも生きてるって事だ。俺も女房の生存を諦めたくはねえ」
 二人は今、互いの事情から手を結んだ。
「あたしのこれまでの捜査情報はあんたにも渡す。だから」
「こっちも細々としかできねえが捜査をしよう。何かあったら連絡する」
 ヴィータとゲンヤ、二人は真実に向けて歩みだした。






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