戦闘機人製造プラントの一つが襲撃を受けて数週間後、評議会の命により一人の少女が
管理局によって誘拐され、違法研究者の研究所に運び込まれた。
 その運びこんだその男はなにやら酷く暗い笑みを浮かべていた。


アナザーIF 第3話

 彼らの生活


  
 メガーヌの娘ルーテシアが評議会の部下に誘拐されスカリエッティラボに運び込まれたのだが・・・
「ルーテシア? どうしたの? ルーテシア!?」
「・・・・・・・・・・・・・」
 紫の髪の少女は顔色も悪くぐったりとしたまま微動だにしなかった。
 心臓は動いているし呼吸もあるが、ひどく弱々しい。クアットロやトーレも心配なのか顔を覗き込んでいる。
 そこにが通りかかった。
 眼帯を外し、左目を開けているところを見るとグラムサイトの制御訓練中らしい。しきりに
目を開けては閉じるを繰り返している。
「どうかしたのか?」
「ルーテシアの様子がおかしいのよ。いったい何が・・・」
 困惑するメガーヌを見かねてがルーテシアを診る。明らかに病気だが、何の病気かがいまいちわからない。
 は左目を開き、ルーテシアを診ると・・・
「クアットロ! すぐにジェイルに連絡! この子ウイルス性の伝染病に罹ってるぞ!」
「わ、わかったわちゃん! ドクター!」
 の目にはルーテシアの体内にうごめくウイルスが見えていた。
 クアットロとメガーヌはルーテシアを抱えて大急ぎでジェイルの元へ走っていった。
「便利だな。そんなことまで分かるのか・・・」
 トーレは感心したようにを見るが、は気分が悪そうにこめかみのあたりを押さえていた。
「どうした? きつかったのか?」
「トーレ・・・うごめく無数のウイルスを目で見てみたいと「すまん。かけらも思わん」・・・だよな」
 の様子にトーレは見えすぎる目を持たなくて良かったと心の底から思ったそうな。

 さて、ルーテシアの診察が終わったのだが・・・
「このウイルスは新種のようだね。しかもかなり特殊なやつのようだ」
「どういうことなの?」
「ワクチンを作ろうにも自身の組成を変えたりするんでワクチンを作れないのだよ」
「そんな・・・」
 現段階では治療は不可能とのことだった。
 メガーヌは娘の身に起こった悲劇に崩れ落ち、そんな彼女をクイントが支える。
「どうにか出来ないの?」
「・・・いや。このウイルスは人為的に作られた物ではなく天然の物のようだ。ならそれを保菌していた宿主が
存在するはず。その宿主の血液を手に入れることが出来れば血清を作れるはずだ」
 ジェイルが出した結論にメガーヌが何とか持ち直す。
「宿主は特定できるの?」
「・・・ウーノに頼んではあるが・・・」
『ドクター。宿主の特定が出来ました。どうも管理外世界の稀少種族のようです。データはこちらに』
 ウーノが早くも検索を終えて見せた。ウーノが提示したデータを3人は食い入るように見始める。
 どうやら小さな動物のようだったが、数が少ない上に滅多に人前に姿を現さないらしい。
 メガーヌとクイントは何かを決心したように顔を見合わせてうなずいていた。

 翌日、彼女たちは旅支度を終えて娘を助ける旅に出る所だった。
 ジェイル達は彼女らを見送りに出入り口に集まっていた。
「ルーテシアは任せて良いのね?」
「うむ。彼女は今コールドスリープ装置に入れて仮死状態で眠らせてある。その間は成長することはないが
病状も進行しないだろう。だがあまり時間をかけるのはおすすめしないが・・・」
「分かっているわ。可能な限り早く帰ってくるつもりよ」
 メガーヌはその目に決意の炎をたぎらせ娘を救う旅に意気込んでいた。
君ありがとね。このデバイスはいい感じよ」
「リボルバーナックルのバージョンアップ版だしな。前に言ってた不満な部分も改善してあるから」
 クイントはが作ったデバイスの調子が良好であることに機嫌を良くしていた。
 彼女のデバイスは以前クローンに装着させて管理局に回収させたため新たに作り直したのだ。
「ルーテシアのことは俺達が見ているから二人は焦らず確実に宿主を確保してくれ。あと管理局には十分に気を付け
るように。一応ステルス機能の付いたコートやテントを用意してはいるけど・・・」
「それも分かってるわ。死んだはずの私たちが生きているのを確認されると困るからね」
 クイントはの言葉に複雑そうに苦笑する。こっちで保護されて以来管理局の危険性をまざまざと見せつけられ
そんな組織に所属していたことをこの二人は心の底から悔いていたのだ。
「じゃあ、行って来るわね」
「旅の無事と目標の確保を願っているよ」
 二人はとジェイルの合作した次元移動特化型デバイスを起動させ、管理局に全くと言っていいほど気取らせるこ
となくウイルスの宿主を求めて旅立っていった。

「良いのか言わなくて。あのウイルスは管理局がばらまいて自分たちで治療させて有能さを見せびらかすための
自作自演だったやつだろう?」
「うむ。まあそれを犯罪者が解決してしまうというのもまた一興だと思ってね」
「そうだな。あの二人には管理局の思惑をつぶすのに頑張ってもらおうか」
 この数年後、ミッドを含めた一部次元世界に正体不明の伝染病が蔓延したが、最悪の次元犯罪者と呼ばれた
男が血清を無料で各病院に提供し解決させたため管理局の面目が丸つぶれになったそうだ。


 機械工学技術を学びあっという間にその頭角を顕わにしたが協力していたため、6番セイン・9番ノーヴェ
・10番ディエチ・11番ウェンディがほぼ同時期に完成した。
「まったく・・・あの愚妹どもが」
「トーレ。まだあの子達は産まれたばかりで右も左も分からない子達だぞ?」
「ある程度の知識は入っているはずだろう? 甘やかしすぎだぞチンク」
 トーレとチンクは妹たちの教育を任されていたが、教育方針の違いによって少しばかり仲違いしていた。
 厳しく戦機として教育しようとする教官のようなトーレと姉として優しく接するチンクは妹たちにとっては
飴と鞭的な存在になっていた。どっちがどっちかは言わずもがなだ。
 二人は妹たちが良く集まっているレクリエーションルームに入ると、ある意味いつもの光景にチンクは頬をゆるませ、
トーレは室内を睥睨した。
 がノートパソコンのような物で妹たちの固有武装を設計している傍らで、セインはに甘えるように
背中に抱きついており、ディエチはそれを羨ましそうに眺め、ノーヴェは不機嫌そうに、その実本心では満面の笑みで
謹製のケーキセット(実はドゥーエに配達した物の残り)を頬張り、ウェンディはゲーム(w○i)をやっていた。
対戦でノーヴェに負けてケーキを没収されたらしく涙目でコントローラーを振っている。尚このゲーム機は
が本物そっくりに作ったレプリカである。本物だと彼女たちが熱くなって全力で握るとあっさり握り潰されるため
強度の強い素材を探してきて新しく作ったのだった。
 尚彼女らの服装は青いスーツではなくそれぞれの趣味が反映されたラフな格好だ。がもうそろそろ思春期である
ため体型が丸わかりな格好は目に毒だと判断したジェイルが服を大量に購入したのだ。
「あ、チンク姉とトーレ姉」
「ん? 何だお前達も来たのか」
 セインが二人に声をかけ、が顔を上げて二人を見る。トーレは少し機嫌が悪そうだった。
「もう戦技訓練の時間を過ぎているぞ。ここで何をしている」
「げ、もうそんな時間!?」
「ウェンディ。そろそろやめなー」
「ういッスー」
 妹たちがばたばたと後片付けをする中、は変わらずにキーボードを叩いている。
「お前は行かないのか?」
「ああ、ノーヴェの武装で少し躓いていてな。早いとこ造って基礎訓練を終わらせてやりたいんだよ」
 セインは密偵としての訓練を、ディエチは後方支援型なので射撃訓練を、ウェンディは近中距離での射撃型なので
装備は簡単に決まりすでに専門の訓練に入っているのだがノーヴェは最前衛の格闘型なので装備を決め切れていなかった。
なのでノーヴェは今がトレーニングメニューを書いてやらせているのだ。
「あ〜〜・・・駄目だ」
「珍しいな。お前が諦めるなど」
「何か問題でもあったのか?」
 望みどおりの設計が出来ないのかは頭を抱えている。
「ノーヴェの能力はクイントのものに酷似しているからな。シューティングアーツを参考にした装備にしようとして
いるが、あの子の得意な足技とかを取り入れようとすると無理が出る。クイントが帰ってきてから相談しないと
いいのは作れそうにない」
「あの子は格闘型だからな。の技を受け継ぎつつシューティングアーツをやらせるのがいいか・・・」
「クイントが帰るまではとにかく戦闘経験を積ませておくのがいいな。その辺は二人に任せる」
「そうか。それとな、終わったら食事の時間なので準備を頼む」
「りょーかい。良い食材が入ってたから楽しみにしておけ」
「ふふ。だそうだ。今まで以上に訓練に身を入れるように」
「「「「はい!!!」」」」
 完成して間もない機人の少女達は意気揚々と訓練室に向かっていった。

 余談ではあるが彼女たちの中で一番きつい訓練をしているのは言わずもがなノーヴェである。ただし本人は
気付いておらずが課した普通はかなりきつい訓練(トーレが挫折した)を完璧にこなしていたりする。


 箸が、スプーンが、フォークが、すさまじい速さで閃きテーブルの上の皿から次々と料理が消えていく。
 それはさながら戦場だった。食卓という名の戦場がそこにあった。
「・・・いつもながら凄まじいな」
「セイン達が完成して以来この状況だ。他の妹たちが完成したらどうなるか・・・」
 何だかんだ言いつつ自分たちの分を鮮やかかつ華麗に取りつつ話すチンクと
 もうすでに慣れたらしく慌てることなく自分の分を確保できるあたり剛の者である。
 一方慣れていないのが、
「むう・・・見る間に料理が消えていく・・・」
 ジェイルだった。今も目の前から消えたエビフライを想い取っていったウーノを恨めしげに見つめている。
 ウーノは気付かない振りをして次の獲物を物色していたりする。
 ジェイルは目標を変え次の料理を取ろうとフォークを閃かせ、狙った獲物はトーレの電光石火の速さで
持っていかれてしまった。
「・・・君たち。何か僕に恨みでも?」
「「「別に?」」」
 にべもないその言葉にジェイルは泣き崩れそうになった。
 結局、とチンクがジェイルの分を確保したので彼は食事を堪能できたらしい。
 割とよくある日常の風景である。


 食事の後、は温水洗浄(簡単に言えばお風呂)に入りに来ていた。普段から一人で入っているのだが、
たまにこんな事がある。
「はぁ〜い。お背中流しますわよ〜」
「断る」
「即答!?」
 クアットロがが入っていることを知りつつ乱入してきた。よくあるのだこういう事が・・・
「もー、つれないですわよちゃん」
「結構。というか前ぐらい隠せ」
「今更ですわ。私達が調整ポッドに入っているときは全裸だし、ちゃんも私達の調整をするときがあるでしょう?」
「あえて見ないようにしているんだ。トーレやノーヴェあたりはことさら嫌がるだろうしな」
「まああの二人はがさつに見えて乙女ですから〜。それとこれとは話は別よ〜?」
「・・・・・・・とりあえず、どこぞのソープな真似はやめろ」
「うう・・・後ろを向いているのになぜ・・・」
 の呆れたような声にクアットロはボディソープを体に塗ろうとしている状態で固まった。
「何をやっているのクアットロ・・・」
「う、ウーノ御姉様! そ、そんな呆れ返ったような目で見ないでください!」
 ウーノが浴室に入ってきて早々にクアットロの呆れた行動にジト目を向けていた。
「はあ・・・何処でそんな事を覚えたの・・・」
「その〜・・・ドクターの部屋に何冊かそういう本がありまして〜」
 クアットロの言い分にウーノは天を仰ぐ。まああの天才も男な訳で・・・
「まあいいわ。それより君。背中流しましょうか?」
「お願いします」
「即答!? 私だと断ったのに!!」
 日頃の行いの差だろう。ちなみにウーノとは比較的よく一緒に居る事が多いのだ。
 チンクと3人でお茶会をしている事も多々あるし、住人が増えてきてから一人で食事の準備をするのがきつくなり
料理を出来る者が力を合わせて作ることも多いのである。


 風呂上りにレクリエーションルーム(最早リビングと化している)でジュースを飲みつつTVを見ている
ジェイルがなにやら持ってきていた。どうも本局が危険物指定したロストロギアらしい。
「これは君の父上を回収したときに一緒に持ってきたものらしいのだ。何か未知のエネルギーが検出されている」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・小太刀か」
 の目には、その小太刀が明らかに異様なオーラを放っているように見えていた。
「局員がこの剣を使おうとしたところ、その局員は突如発狂し周囲の同僚を惨殺した後割腹自殺したらしい」
「お、恐ろしいロストロギアですね・・・」
 この剣がもたらした惨劇に慄くナンバーズたち。だがまるで怪談をしているように見える。
「だが、この剣の組成はただの鋼でしかなくデバイスのような機械もついてはいない。なのにこの正体不明の
未知のエネルギーが「それは霊力だ」・・・はい?」
 見ているだけで特に反応しなかったの発言に全員が注視する。
? 何か知っているのか?」
「ああ。ジェイル、貸してくれ」
「う、うむ・・・」
 はその小太刀を受け取り、躊躇いもせずに鞘から引き抜く!
「あ、アニキ!?」
「にーちゃんそれヤバイっスよ!?」
 ノーヴェとウェンディが思わず悲鳴を上げるが、は平然として刀を検分している。
「・・・・・・・・ふうん」
「何か分かったのか?」
 心配そうな表情で見ている周りとは違いいつもどおりの表情でに剣の事を聞くチンク。
 周りの連中は意外そうな目で彼女を見ていた。普段なら慌てふためくはず。
「誰の作刀かは分からんがかなりの業物だ。普通の刀とは違い特殊な製法で作られているらしい」
 グラムサイトは使わず普通に鑑定している。美由希に付き合わされて刀のいろはを教え込まれたらしい。
「未知のエネルギーに関しては?」
「霊力だ。俺の故郷において魂が持つ力といわれている」
 魂という言葉にオカルトである事に気付いた周りの全員が胡散臭そうな目でを見ているが、無視して
今度は目釘を外し始めた。
「何で解体しているんだ?」
「柄の内側の茎(なかご)に銘を刻んであるんだよ。これだけの業物なら何かしら名はあるだろうと思ってな」
 相変わらずチンクだけはいつも通りに接している事に首を傾げつつ他の皆が見守っている中、はその刀の銘
を見つけた。
―真道破魔・霊剣美影―
「・・・・・・・・・・・・・・は? 霊剣?」
「ちょっと待て。何故お前が驚くのだ?」
「いやいやいや。ここまで禍々しいオーラを放ってて何故に霊剣? 明らかに妖刀の類だろう?」
「そんな事あたしらに聞かれても・・・」
 がうろたえる光景を珍しいと思いながらも何をそんなにうろたえているのか彼女達には理解できない。
 そしては気付く。これはあの姉弟のものに非常に近いか同じものなのでは?と。
 そして剣の中の存在が消えかかっている事に気付いたは一か八かの行動に出た。
「!! 君から未知のエネルギーを検出!? あの剣と同質です!!」
「な、なにいっ!!!」
 小太刀のモニターをしていたウーノが予想外の事に悲鳴のような声を上げる。
 は己の霊力を霊剣に注ぎ始めたのだ。
。大丈夫なのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・チンク」
「なんだ?」
「明日の朝食はいつもの五倍の量を作ってくれ」
 そう言い残し、は仰向けにひっくり返った。

 翌朝、は唸っていた。
「ぐうううううううぉぉぉぉぉぉぉ・・・・・・・・」
「にーちゃん大丈夫っすか?」
「どう見ても大丈夫には見えないけど・・・」
 全身を襲う激痛には必死に耐えていた。
「何故こうなったのかね? 昨夜未知の・・・霊力だったかな? そのエネルギーを剣に、というか貴女に
送り込んだのは分かっているが・・・」
 ジェイルの視線の先には、ふよふよと漂う曰く式服を着た小柄な若い女性の姿があった。
「うむ。そこの坊主は消滅寸前だったワシに霊力を送り込みワシをこの刀につなぎとめた。しかし限界ぎりぎりまで
送り込んだ甲斐あってワシはこの通りだが、霊力の枯渇の後遺症で地獄の全身筋肉痛になっておるのよ」
 見た目十代後半のその女性の老人のような言葉遣いに少し眉をひそめるが、構わず聞きたい事を聞く。
「貴女は何なのだ?」
「ワシは霊剣美影。その小太刀に取り憑いた幽霊よ」
 そう。彼女はこの霊剣に取り憑いた女性だった。
「ぐうぅぅ・・・せ、生前の名は不破美影。俺のばあちゃんに当たるごふうっ!!」
「ほっほっほ。誰が婆だ誰が。この見目麗しい美影様に向かって」
 が息も絶え絶えに昨夜夢枕に立って自己紹介をしてきた彼女の詳細を教えようとしたが、ばあちゃんという言葉に
反応した美影がみぞおちに肘を叩き込んでいた。
 の言葉どおり、霊剣美影の剣霊・美影はあの士郎と美沙斗の母である。かつて起こった爆発テロで死亡した彼女だが
たまたま手に入れ同じ名前だという事で愛用していた小太刀に取り憑き霊剣となっていたのだ。なおこの小太刀は神咲の
紛失した霊剣の一つで巡り巡って美影の手に渡ったものなのだそうだ。そして何故あの惨劇を引き起こしたのかというと、
「ふん。息子をあのような目に合わせた連中に使われるなど真っ平御免だ。だから体を操って周りの連中を斬り殺して
やったのさ。奴らの魂は不味かったのう」
「・・・魂喰らいは拙くないか? 禁忌中の禁忌だろお゛っ!」
「おだまり馬鹿孫」
 美影はなんの躊躇いもなくの喉に地獄突きを見舞う。容赦の欠片もない。
「しかし・・・我々が否定していた存在が目の前にいると言うのも不思議な気分だな」
「本来死者は生者に干渉できん。だがそこの孫のような死者の霊を認識し干渉する事が可能なものも居る。
あと例外はワシのようなそれなりの力を持ったものかそれより強力な霊は一般人にも見えるようになるのぅ」
 ジェイルは美影の話に興味津々らしく積極的に彼女と会話しているが、クアットロやノーヴェなどは彼女が
幽霊である事を認識した途端に全力で逃げ出した。人の体とかを平然とすり抜ける存在を理解できずそれが恐怖に
直結しているらしい。恐がっているのは3番・4番・9番である。
 なお彼女の見た目が若い理由は全盛期の自分の姿を常にイメージしていたらこうなったらしい。
 もはや筋肉痛か美影の仕打ちかどちらで苦しんでいるかわからないの元にチンクとウーノが食事を持ってきた。
 カート五台分の料理にさすがにと作った者以外は絶句する。
。食べられるか?」
「だべる゛」
 喉をやられてまともに喋れないらしく酷いだみ声になっているが食事に手を掛けた。

「ふう・・・やっと人心地着いた」
「あの量を一人で・・・」
兄すごーい!」
 よりにもよってあの量を完食したにディエチとセインは感嘆の声を上げる。作ったチンクとウーノは
餓鬼の如き食いっぷりに満足げに頷いている。
「筋肉痛は治ったのかね?」
「あとは一日安静にしてれば全快するよ」
 ようやくいつも通りになったにチンクはようやく安堵の溜息をつく。
「ふむ。あの娘に気があるのか?」
「チンクかい? 普段一緒にいる事が多いがそういう認識はしていないと思うよ。あの子達は恋とか言うものは
知らないはずだしね。戦うためだけに作られた子達だし認識できないかも」
「ふふふ、女という者を舐めるでないよ若造。こういうのは理性ではなく本能で理解するものだ」
 美影はチンクの態度やしぐさに何かを感じ取ったらしくジェイルとひそひそと話している。
 当のチンクはまだ筋肉痛が残っているにかいがいしく世話をしている。
 美影はを眺めながらとりあえずやろうとしていた事を告げる。
「坊や。お前に御神流を教えるから覚悟しておけよ」
「・・・断言ですか? っておい。俺剣士でなく武術家だぞ」
「お前がワシに霊力をくべたときに一部記憶が流れ込んできてな。お前見よう見まねで御神流の奥義を使っておった
だろう? 素養は既に十分を通り越して天才クラスではないか」
「・・・・・・・・わかった。わかりましたからその何処からともなく取り出した小太刀を仕舞ってください」
 美影は命令と言うか脅しに近い状態だった。首筋に突きつけられた小太刀の鈍い光が異様な迫力を見せ、
は泣く泣く了解した。
「そうそう。チンクお主も付き合え。投擲術を教えてやろう」
「・・・いいのですか?」
「うむ。そのぐらいなら問題なく教えられるからな(同じ時間を共有し続ければ早いとこくっつくだろうしな)」
 美影の提案にチンクは若干嬉しそうだ。と同じというのが嬉しいのだろう。
 しかし美影は知らなかった。この二人は夜二人で就寝するのが習慣になってしまっている事を・・・


 その後、とチンクは真っ白に燃え尽きる程のきついにも程がある修行を敢行させられ更に仲良くなったらしい。
 ・・・同志的な絆が深まったそうだ。主に対美影に対して・・・

 そんなこんなで、二年の月日が経つのだった・・・


「そういえばチンク姉。何で兄があの剣を抜いたとき何も思わなかったの?」
が何かをするときは自分に害がないような場合がほとんどだからな。それに何かあっても自分で何とかしてしま
うし、基本的に嘘や冗談は滅多に言わない」
「・・・・・・・・チンク姉。兄のことかなり深いレベルで理解してるんじゃあ・・・」
「信頼だよセイン」


後書き
なんだか色々詰め込みすぎて訳が分からなく・・・
ルーテシアはしばらくの間おねむで、この少し後でゼスト復活。
美影はショートカットの美沙斗をイメージしていただければ。
服装は御架月(とらハ2の十六夜の弟)の服をイメージしていただけると幸いです。

では恒例になってきたヴィータ視点のおまけを。


 聖王教会にて、最近知り合ったばかりの騎士カリム・グラシアに呼ばれたヴィータはカリムの執務室の来ていた。
「で、何のようなんですか? 騎士カリム」
「実はあなたに見て貰いたいものがあるのです。・・・この予言を」
 カリムが差し出した紙に書かれているそれにはこう書かれていた。
―海と山に囲まれし地にて災厄の獣が目を覚ます。過ぎた正義の使者は彼のものに気付かず真実を知らずいたずらに
 獣を起こすだろう。獣を守りし異能の民が怒りと共に使者を襲う。そして一人の鬼が星を堕とし、獣を引き連れ
 その地を去る。獣と鬼にふれるなかれ―
「予言・・・? 詩文形式なのか」
「はい。古代ベルカ語で書かれたものですが貴女には何の問題もなく読めるはずです」
「それはそうですけど・・・」
 何故自分なのかが分からない。ヴィータはそう思っていた。
「どうしてあたしに・・・?」
「はやてを呼びたかったのも確かなのですが、過ぎた正義の使者というのに引っかかりを感じたのです。
 騎士シグナムにお願いしようとも思ったのですが・・・」
「シグナムは今海鳴で休暇中。はやてたちは学校があるから海鳴にいるしシャマルとザフィーラは本局で仕事だから」
「地上に来られていた貴女が一番近かったというのが真相ですね。通信をすればよかったのですが」
「誰かが傍受しているかも知れなかったものですから。最近司祭の一人が何者かに殺害されたのです」
 ベルカ領で起こった謎の殺人事件。犯人は未だ正体すら知れていない。
「話を戻します。実は過ぎた正義の使者は管理局かもしれないと思ったのです。なので局には知らせないように
していたのですが・・・この他の文の解釈について貴女は何かわかりませんか?」
「ミッドやベルカにはそれらしい地形が無いようなのです」
 カリムとシャッハは予言についての解釈を立て、該当するであろう場所を探ろうとしたのだが見つからなかったそうだ。
 ならば異世界ではないのかと思いはやてに聞こうとしたのだが、近場にヴィータが居たので呼び寄せたとの事だった。
「・・・海と山に囲まれし・・・まさか海鳴か? だとすると災厄の獣・・・異能の民・・・まさか・・・」
 ヴィータには心当たりがあった。ヴィータはある事情から地球の裏の事情を少しとはいえ知っているのだ。
「何か心当たりが?」
「あるにはあるし、そういう事態になったらまず間違いなく動くのはあの人たちだ。それに鬼ってまさか!」
 ヴィータはある少年を思い出す。自分が探し続けてきた普段は至極温厚なくせに一度怒ると鬼神の如き強さで
恐怖を振りまく少年を。―――大好きなあの少年を。
「会えるかもしれない・・・あいつに!」
 ゲンヤと協力体制をとったは良いがゲンヤも仕事が忙しく、ヴィータ自身も何故か急に多くの仕事が割り振られ
一向に捜査を進められない状態でやきもきしていたのだ。彼女は自分の行動を危険視するものが仕事を増やして
行動を制限しているのだと解釈している。
「騎士ヴィータ?」
「事情があって事は海鳴で起こるとしかいえないんです。すみません」
「しかしどんな事情が?」
「・・・この異能の民に当たる人たちが管理局を危険視しているんです。もし捕まれば実験台にされるかもしれないと」
「そんなこと「無いと言い切れますか?」・・・」
 ヴィータが話す【彼ら】の懸念にシャッハが否定しようとするが、ヴィータに遮られて黙ってしまう。
 事実、特殊な能力を研究する機関が無いわけでもなかったからだ。
「いつ起こるかわからないけどあたしは海鳴に・・・通信? 誰からだ?」
 執務室を出ようとするヴィータに通信が掛かってきた。相手はレティ・ロウラン提督。
『ヴィータ。これから休みのところ申し訳ないけど長期の仕事が入ったわ。あなたを指名してるわよ』
「・・・わかりました。すぐに、向かいます・・・」
 突然の仕事にヴィータは歯噛みする。
「騎士ヴィータ?」
「・・・あたしは、ある調べ物をしてる。けど、それは管理局には不利になるものらしい」
「不利に? まさか貴女は上層部に・・・!」
「マークされてる。いつからかはわからないけど、気がついたら仕事に追われて探し物どころじゃなくなってた」
 ヴィータは歯噛みする。また、有力な情報を抑えられないようになったと。
「くそう・・・くっそおおおおおおおおおおおっっ!!!!」
 突然の失踪を、極めて事件性の高い失踪を遂げた友人の安否を確かめたい。ただそれだけしか望んでいないにもか
かわらずこの警戒は何なのか。ヴィータは管理局の裏に潜む闇の深さに、絶望してしまいそうだった。


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