クイントとメガーヌがウィルスの宿主の血液を持って帰還した。
 そして数年の間眠り続けていたルーテシアはジェイルが作った血清で全快、達も
念のために血清をうちウィルスの脅威から解放された。
 しかし、お祝いムードだったジェイルたちに、評議会からある命令が下されたのだった。


 アナザーIF  第五話


「ルーテシアをレリックウェポンにするですって!!?」
「・・・上からの命令なのだ。今はまだ奴らの命令を無視できないのだよ・・・」
「そんな・・・!」
 ジェイルの苦渋の決断にメガーヌは倒れそうになった。
 評議会は正式なレリックウェポンがまだ完成していないことに気付き、早いとこ造れと急かしてきたのだ。
「騎士ゼストは蘇生したばかりでまだ本調子ではないし、君にいたってはそもそもプロトタイプだ。
今もまだ時折起こる不具合の所為で何度も生と死を行き来しているからね。それでもこれまで取ったデータを生
かすことになるしルーテシアはほとんど完成に近い状態になるはずだが・・・」
「他に何らかの影響はあるの?」
「レリックに適合できる体とはいえ100%無事で済むわけではないが、今までの研究で不具合はほぼ起こらない様に
出来るはずだ。・・・全ては奴らから自由を得るためだ。我慢してはもらえないか。僕を恨むならいくらでも恨んでく
れて構わない。それだけのことはしているからね・・・」
 悲痛な面持ちで頭を下げるジェイルにメガーヌは慌てる。
「あ、頭を上げて! 貴方がそんな事をしなくても・・・悪いのは評議会。ひいては管理局なのだし・・・」
「すまない。だが、結局やるのは僕なんだ。命令されているとはいえ君の娘に手を出すのは僕だ」
 頭を下げ続けるジェイルに、メガーヌは彼に罪はないと思いとうとうルーテシアのレリックウェポン化を了承するのだった。


 そんなシリアスな話をしている二人を尻目に、レリックウェポン試作一号機であるは力なく座り込みながらふる
ふると震えていた。主に羞恥と怒りで。
 クアットロとクイント、そしてセインとウェンディがそれはもうやり遂げた感で一杯な顔で自分達の作品を
褒め称えている。周りのメンバー、トーレとチンク、ディエチはを痛ましげな顔で見ており、ウーノとノーヴェは
呆然とを見ていた。若干頬を赤らめているのはなぜだろう。
「・・・これはどういうことだ」
「見て分かるでしょ〜?」
「素質はあると思ってたけど、化けたわね」
「にーちゃんきれーっす」
「まさに美人だよねー。さすが兄」
 は女装させられていた。今のは腰まである長い黒髪にゆったりとした体型のわからないセーターとスカート。
顔も化粧を施されており、何処からどう見ても美少女にしか見えなかった。
「どことなく美影さんに似ているな」
「うむ。似合いすぎて逆に痛々しい・・・」
「兄さん・・・おいたわしい・・・」
 助けてくれないトーレとチンクを涙目で見上げる。今の自分の容姿を自覚していないのしぐさに二人は顔を逸らす。
 いけない気分になりそうだった、とディエチは語る。
「こっちの服はどうかしら〜?」
「こっちも良いわよ?」
「これっす! これ着てほしーっす!!」
「こっちのだよ! 絶対似合うから!!」
 主犯四人はそれはもう楽しそうにに着せる服を物色している。
 そんな4人を咎めるような目で見つつも止める気配のない他の姉妹たち。
 なおが何故このような状態で大人しくしているのかというと、単純に疲れきっていて体力が残っていないのだ。
 美影の修行で力を使い果たし倒れているところで主犯達にバインドを掛けられて拉致され今に至っているのだった。
 は変わらず無言でふるふると震えている。流石に可哀想になったのかチンクが助け舟を出そうとするのだが、
暴走気味の姉妹たちはおさまる気配がない。
「お前たち、もういい加減に・・・っ!!」
 チンクがいい加減実力行使を使ってでもとめようとしたとき、から禍々しいオーラが立ち上るのを確認した。
 気付いたチンク・トーレ・ディエチが顔を真っ青にして全力で退避するが、ウーノとノーヴェ、そして主犯達は気付かず
どの服を着せるか協議している。なおざからは現在美影による教育中でこの場にはいない。
 はゆらりと立ち上がり、その手には複雑な紋様の描かれたお札のようなものが・・・?
・・・?」
「・・・我が呼び声に応え来たれ、黄泉の八雷神!!!!!」
 がお札を構えてそう叫ぶと、の体の各部に雷を纏った鬼の顔が現れる!
「あ、あの・・・ちゃん?」
「ち、力使い果たしてたんじゃ・・・?」
 凶悪な殺気と凄まじい電気を迸らせながら、は幽鬼のような顔で薄ら笑いを浮かべて自分を着飾らせた
馬鹿者どもを睥睨する。の凶悪なまでの殺気に召喚された雷神達も顔から血の気が失せていた。
 このお札はが陰陽道や神道、鬼道など日本にある呪術などを解析しミッド式やベルカ式をベースに組み上げた
特殊術式【符陣術】である。まだ未完成ではあるが、お札やカードに術式を書き記し魔力を充填して保存し、使う時は
起動用の少量の魔力とコマンドワードだけで発動する形式なのだ。利点として発動が恐ろしく早いことと術者の体へ
の負担が極端に少ない事である。ただ欠点はあらかじめカードやお札を作成しストックしておく必要があることと
ストックが切れたら使えないと言うことである。ちなみにカードは魔力を補充すれば再利用可能。
 まあそんな事はさておき、
「ふふふふふふふ・・・・・・・」
「あ、あの・・・? 兄さん?」
 が笑い出した。どこか官能的で艶のある女性の様な声で・・・
「お望み通り、女になりきってあげましょう。さあ行きなさい吾がしもべ達」
 はクアットロたちを指差し雷神たちに命令を下す。その様はを知らない人間が見ればまさに見目麗しい女性
そのもの。そのしぐさや喋り方にまで女性でもなかなか出せないであろう色香が漂っていた。
 だがその指令を受けた雷神たちは術者であるの凄まじい気迫に押されかつて無いほどに雷を迸らせ、
壁際に固まりがたがたと震えているクアットロたちに殺到する!
「「「「「「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」」」」」」
 雷光と爆音と悲鳴が響き渡る中、巻き込まれなかった者たちは改めての恐ろしさを知り、逆らうまいと
心に誓ったそうな。
 その日の晩。あのあとは完全に力尽きてそのまま倒れて眠りにつき、いい感じに焦げているクアットロらは
晩飯抜きの刑の処されていた。


 結局のところ、はグラムサイトとミッド・ベルカ式の魔法の両立が出来なかった。
 グラムサイトの利点はどんなものであろうと本人の持つ知識や脳に記憶されている情報に該当するものがあれば
解析可能であるという事。これはがジェイルに頼んで各種知識を刷り込ませたので自身は知らなくても
一応解析は可能である。未来視などの能力は何とか分けて見えるようになったもののあまり使い物にはならない。
 そして欠点だが、脳のリソースを馬鹿食いするのだ。その為魔法を使おうとすると脳がオーバーフローを起こし
常人なら死んでいるであろう激痛が走るのだ。例としてあげるとかつてクイント&メガーヌ戦で頭を押さえて
うずくまったあの時である。補助魔法(身体強化や飛行、念話等)ならば術式を組みなおして負担が掛からないように
した為問題なく使えるのだが、攻撃魔法になると簡単な射撃ですら使えないという状態だった。
 そこで編み出したのが符陣術だ。詳細な説明は省くが、たとえグラムサイト解放状態の余裕の無い状態でも
魔法戦闘が可能になるように作り出した新術式なのだ。
「これが俺の今の現状だな。何か質問はあるか? セッテ、オットー、ディード」
「とりあえず一つ。今は眼帯をつけていませんが目は解放しているのですか?」
「ふむ。いいところに気がついたなセッテ。実は最近ようやくグラムサイトのON・OFFが利く様になったんで
眼帯はつけていない。もちろん発動もしていないよ」
 ようやくグラムサイトの制御が利くようになったのだが、発動させると左目が夜空に浮かぶ月のような薄い金色に
変化するようになったのだ。原因は今もわかってはいない。
 今はつい最近完成したばかりのセッテ・オットー・ディードにそれぞれが教育を施している最中だった。
 日常の常識からマナーやルール、一般的に学校で習う事、そしてそれぞれの用いる能力を効率的に使うための
講義まで実に様々である。
「お兄様は問題なく戦えるのですか? 符陣術は型に嵌っている分使い勝手が難しいと思いますが」
「俺にとって符陣術は大威力の魔法を使うときか何らかの大規模魔法を使うときだけだな。俺の基本の戦闘スタイルは
剣術による接近戦だ。そもそも符陣術も魔法も俺にとっては補助だ。ミッドの魔導師やベルカの騎士と違い魔法が前提
であるわけじゃない。よって戦闘に関してはそもそも問題はないんだよディード」
「兄さん。それじゃあグラムサイトを閉じて魔法を使っていればよかったんじゃないの?」
「その意見はもっともだオットー。だがな、世の中何があるか分からないものだ。いざグラムサイトを使いながら魔法を
使う状況が来て使えませんじゃ話しにならん。その場合そばに誰かがいて補助をしてくれる保証もないしな」
 オットーとディードの双子の疑問にはすらすらと答える。二人も納得したように頷いた。
「さて、そろそろ昼飯の時間だ。今日の当番は・・・トーレとディエチだったか」
「ディエチ姉様はお兄様やチンク姉様に料理の腕も鍛えられていますから信用できますが・・・トーレ姉様は・・・」

「ごめん。精一杯フォローはした」
「・・・いや、いい。ここまで挽回しただけでも御の字だ」
 食堂に着いた達を迎えたのは申し訳なさそうなディエチと改めて自分の料理の腕に絶望しテーブルに突っ伏す
トーレだった。チンクが必死で慰めているがあまり効果は上がってないらしい。
 テーブルには元の食材すら判別できない物体Xとある程度ましになった料理があった。
「うう・・・なぜあんなものが出来てしまうのだ・・・」
「レシピ通りの筈なのになぜかこんな意味不明の物体が・・・」
 どうやら某緑のように要らない工夫をしているわけでもないのにこうなったらしい。
「トーレは炊事当番から外すか」
「その方が私達の精神衛生上よろしいかと」
 ジェイルとウーノの判断にトーレが更に落ち込んでいく。普段一緒に居る事が多いセッテも似たような料理の腕なのか
慰めるというかお互いに愚痴りあっている。
「さて、いつも通り大食組と小食組に分かれるか」
「「「「「は〜い」」」」」
 大食組はトーレ・セイン・セッテ・ノーヴェ・ウェンディ・ディード・クイント・ざからである。
 そして小食組はジェイル・ウーノ・クアットロ・チンク・オットー・ディエチ・・メガーヌ・ルーテシアだ。
 ゼストは達と馴れ合う気が無いらしく大体一人で過ごしている。
 結局料理上手なメンバーが手早く大量に作り直し、食事は始まった。
 そして大食組では食事という名の戦争が勃発し、小食組はルーテシアの世話をしつつ和やかに食事が進むのだった。


 ここはの工房。戦闘機人の精密なパーツや武装またはデバイスの研究・開発をしている部屋である。
 は管理局内部のある情報を盗み見ていた。のそれらの情報に向ける目は一様に厳しく冷たいものだったが、
ある情報に目を落とした際驚愕に目を見開いたあと、少し目を潤ませ嬉しそうにその情報を読み始めた。
「嬉しそうだな。何かいいことでも書いてあったのか?」
 チンクはが一心不乱に読みふけるその情報が気になりの後ろから抱きつく形でが目を通している
ウインドウを見ると、不機嫌そうに顔をしかめた。
「・・・嬉しそうだな」
「それはもう。あいつらには失望を通り越して絶望しかけていたんだが、ヴィータだけは違ったからな」
 が見ていたのはヴィータの行動記録だった。不当に多く仕事を割り当てられてもすぐさまその仕事を終わらせ
すぐさま彼女自身が追っている事件の捜査に取り掛かっている。
「ヴィータは俺が死んだ事になったあの事件の真相に辿り着きたった一人で俺の行方を捜し続けている。
みんながもう故人として過去の人間にしてしまった俺のことを今もなお俺の無事を信じて捜し続けてくれているんだ。
嬉しくないはずが無いだろう? まあさざなみ寮のみんなからヴィータが俺の事を探してくれていることは聞いていたが、
まさかはやてたちと一緒に居る時間を削ってまで捜してくれているとは思わなかった・・・そんなにも俺を想ってくれ
ていることが何より嬉しいんだよ」
「・・・気持ちは分からないでもないんだが、複雑だ」
 の嬉しそうな顔を見るのは悪くは無いのだが、チンクはがその表情を向ける相手が自分でない事に
不満を感じていた。まあ簡単に言えば、
(・・・が別の女に特別な関心を寄せているのを見ると胸がむかむかする。・・・これが嫉妬か)
 そういうことである。
 チンクはヴィータの写真を愛しげに見ているにこっちを見ろといわんばかり前に回り強く抱きしめる。
「どうかしたのか?」
「・・・察してくれ」
 顔を真っ赤にしての胸に顔を埋めるチンクに、は苦笑しながらチンクを抱き寄せて頬にキスした。
「機嫌は直ったか?」
「・・・まだだ。今度はこっちに・・・」
 チンクは頬を染めながら軽く唇を突き出し、はチンクの顔を優しくなでて、唇に口付けた。

「ち、チンク姉と兄が・・・」
「すっごくイチャイチャしてるっす・・・」
 セインとウェンディが二人のいちゃついている場面を目撃し、それはもう動揺していた。
 基本的に女所帯なので男女のラブシーンなどはドラマや映画の中でしか見たことが無い二人にとって現実に二人が
そういう関係になっていると知ったのはかなり衝撃だったようだ。
「あうう・・・ボードの調子が悪いから診てほしかったッすけど・・・」
「これは邪魔しない方が良いよねぇ・・・」
 二人は物音をたてない様にそろりそろりと忍び足での工房の前から去ろうとするが、
「・・・何やってるんだ? 二人とも」
「「ノーヴェ!!」」
 よりによってチンク大好きなノーヴェが姿を見せ、二人は小声で叫ぶという器用な真似をしてしまった。
「な、何しに来たの?(小声)」
「何で小声なんだ? あたしは武装がそろそろ完成するって聞いたから見に来たんだけど」
「い、今は駄目ッすよ! さ、部屋に戻るっす!(小声)」
 二人がノーヴェを押して工房から立ち去ろうとした時、ノーヴェはドアの隙間から二人の姿を見てしまった。
「・・・・・・・・・・・・」
「ああぁぁぁ・・・・よりによってこの子に見られたし・・・・」
「間違いなく殴りかかりに・・・ってあれ?」
 ノーヴェは無言で部屋に帰ろうとしていた。特に怒ってなさそうである。
「ノーヴェ? なんとも思わないっすか?」
「いや、知ってたし」
「「え゛?」」
 二人は予想外の言葉に思わず固まる。
「元々一緒に居る時間が長いからか気が付いたら好き合ってたらしーぞ」
「いつ告白とかしたんだろ・・・」
「それは知らないけど・・・まあ普段から同じベッドの同じ布団で寝てる仲だし。起き抜けに見詰め合って
なんとなくしちゃったとかじゃないのかな?」
「それはさすがに無いと思うんっすけど・・・」
 実を言うとノーヴェの予想はほぼビンゴである。あとチンクは寝ている時何かに抱きつく癖があったりする。
「ノーヴェはチンク姉をとられたとかって思わないの?」
「確かにあたしはチンク姉が好きだけどさ、同じくらいアニキの事も好きなんだよ。あの二人が幸せならあたしは祝福する」
「「ノーヴェ・・・いつの間にかそんな良い子に育って・・・」」
「喧嘩売ってんのかお前ら」
 何かと反発することが多かったノーヴェの成長に二人は涙する。ノーヴェはジト目で二人を見ているが・・・
 そもそもノーヴェがチンクに懐いた理由は何かと反抗的だった彼女にチンクが良く世話を焼いた結果心を許したという
ものだ。最初はに対しても反抗的だったのだが、一度訓練中に完膚なきまでにボコボコにされた事で恐怖の対象に
なったりしたところに日常生活で何かと世話を焼いていたからなのである。
 現在では師として厳しく訓練を課すに憧れを抱くと同時に優しい兄として構ってくれるに心を許しきっている
状態なのだった。二人っきりになるとよく懐いた猫みたいに擦り寄ってくるのだ。
(本音言うと二人一緒に愛してもらいたいなあとか思うんだけどな・・・)
 ナンバーズNO9・ノーヴェ、なかなかズレた発想の持ち主のようである。


 そんなこんなで数ヵ月後。
 ジェイルの研究室にとゼスト、そしてクイントとメガーヌが呼び出されていた。ルーテシアは事情が分からないのか
の膝の上で寛いでいる。そのルーテシアの膝の上には体長30cmほどの姿のざからがルーテシアに構われている。
もうすっかり遊び相手のようだった。ちなみにざからの本体はあくまで刀でこの姿は分身体のようである。最近魔剣ざから
は質量可変が可能、つまりサイズをいくらでも変更できる事が確認された。普段はに合わせて小太刀状である。
「トライアル? 俺たちのか?」
「うむ・・・キミと騎士ゼスト。そしてルーテシアに評議会から与えられる任務をこなす事でレリックウェポンの研究の
成果として考えるようだ。任務は表では出来ない裏の仕事という事になる」
 評議会はよっぽど事を進めたいのか未だ幼いルーテシアにも危険な仕事をさせるつもりの様だった。
「裏の仕事だと?」
「ああ・・・管理局の表、つまり立件できない犯罪者を物理的に排除して来いと言うことだよ」
「そんな・・・あの子に人を殺せって言うの!?」
「・・・そういうことになるだろうね」
「ふむ・・・なかなかあくどい奴等だね。公的に死んだものや存在しない人間に手を汚させようってのかい」
「美影さん・・・」
 美影は憤懣やるせないといった感じに怒っている。まあ当たり前だろう。自身の孫と可愛がっている幼い少女に
人を殺して来いなどと言っているのだ。
「俺は行くぞ」
「・・・ゼスト。お前はなんとも思わないのか?」
「これは正義の為だ。法の隙間をつき利潤を貪る悪党どもを始末する事に異論は無い」
 ゼストの言葉にだけでなくその場の全員が眉をひそめる。
「・・・なら勝手にしろ。クイントとメガーヌはルーテシアの補助を頼む。ゼストとは別行動を取るぞ」
 の決定に二人は頷く。今のゼストについていくのは危険だと感じたのだ。
「いいのかね騎士ゼスト? なにやら勝手に決まっていっているが」
「構わん。お前達と馴れ合うつもりなど無い。好きにすればいい」
 ゼストは評議会から渡されたターゲットのリストを持ってさっさと出て行ってしまった。
「・・・ゼスト隊長・・・」
「大した正義馬鹿だ。関わり合いになりたくないな」
 彼も管理局の、評議会の真の姿を知ったはず。にも拘らずこの行動。
「奴もまた、所詮は管理局員だということか・・・」
 揺るがぬ何かを持つというのは悪い事ではない。だが・・・
「正義を理由に人を殺す事をいとわない。まるで狂信者だな」
「自分達のものとは違う正義に対しても、あやつは己の正義を変えんのだろうな。強い信念を持つのも良いが
それが周りに対してどういうものなのか考えて欲しいものよ」
 と美影はゼストの考えを苦々しく思いながら今後の事を思う。
「ジェイルよ。奴の行動には気をつけておけよ。奴はいつか我らに牙を剥くぞ」
「・・・ええ。そのようです」
 さすがに分かるのか、ジェイルもまた苦い顔をしている。
「俺はルーテシアの召喚獣になりそうな者を探すんでルーテシアも連れて行く。ガリュー達はメガーヌについているしな」
「そうね・・・インゼクトはルーテシアにも使えるんだけど」
「ガリュークラスの召喚獣は実際に会わせてから契約を結んだ方が良い。幸いミッドには管理局が隔離した魔獣の住処が
あるようだしもう少しルーテシアが大きくなったら行って見るとしよう」
「それまでは魔法の勉強をしつつ実戦と任務の日々か・・・」
 達はこれからの生活に不安と不満を覚える。こんな血なまぐさい旅は絶対にルーテシアに悪影響を与えると
危惧しているのだ。
「それとだね。君たちの旅のほうに時々ナンバーズ達を加えてくれないかね」
「別に構いはしないけど・・・ああ、あの子達のトライアルを兼ねてか」
「うむ。経験を積ませる必要もある。君や美影さんを見ているとスペックが優秀でも経験でいくらでもひっくり返せると
悟らされたからね。よろしく頼むよ」
「了解した。これから準備するから皆にその事を伝えておいてくれ」
 は自分に抱っこをねだってくるルーテシアとざからを抱き上げて部屋を後にする。
 旅なれた母親ズもすぐに旅支度をしに部屋に向かった。
「のうジェイルよ。チンクとはともに行動させるのであろう?」
「ええ、チンクは君に不具合が発生しても何とかできるようになりましたから。それに娘達にも
日の当たる世界を体験させてあげたいですしね」
「ふむ、案外簡単にくっついたからな。これからあの二人の前に起こるであろう色々なイベントが楽しみだ。
昔の女が出てきたりしてくれて修羅場になるとなおよし」
「鬼ですか貴女。せめて幸せを願ってあげましょうよ。君もこんなおばあさんを持って可哀そごふあっ!!」
「ババアと呼ぶな」
「も、申し訳ありません・・・美影お姉さま・・・」
「ん、よろしい」
 いろんな意味で鬼のような美影に改めて畏怖すると同時にの将来が心配になるジェイルだった。


 その後、達は旅に出た。体の調整や換装のために研究所に帰ってくる事もそこそこ多いが長い旅になりそうだった。
 は初めて見るミッドの大地のあまりの広さに呆然としたり、ルーテシアとざからは相変わらず甘えっ子だったり、
そんな彼らを苦笑しつつ支えるクイントとメガーヌがいたり、相変わらず鬼みたいに厳しい美影の修行を必死になって
耐え抜いたり、評議会から来る仕事に辟易としたりと色々あったが基本的に楽しい日々だった。
 そしてとチンク、そしてディードの美影の直弟子三人はある研究所を襲撃する。そこには実験台にされている
融合騎と、その融合騎の為に作られたあるモノとの出会いがあったがその話はまた後で・・・



後書き
ルーテシア復活とほぼ同時期にレリックウェポンへ改造。
まあちょっとした処置とレリックの融合だけですから大したものではないのかも。
そしてとチンクが早くも恋人同士に。その話を組み込めなかったので特別編でも書いてみようかと・・・
そして美影さん・・・鬼です。凄く酷い人です。死後の楽しみの為に孫を利用しまくってます。
でも一応孫を愛してます。
ざからは本体はが普段から携帯してて、分身体はやルーテシアと一緒にいます。
どうもルーテシア嬢とは気があった模様。二人でに甘えまくってます。
こっちのゼストは正義に殉じている管理局員という事になってます。
ルーテシアもアニメ本編のような理由がないのでレリック探しが目的ではありません。

では恒例のヴィータサイドを。



ヴィータサイド

「おっすなのは。調子はどーだ?」
「ヴィータちゃん。珍しいねお見舞いに来るなんて」
 ヴィータは高町家を訪れていた。ようやく休みといえるものができ、疲れを癒しにきたついでになのはの見舞いに
来たのだった。まあなのは本人は元気いっぱいなのだが・・・
「そんなに怪我とかも酷くないのに訓練とか絶対禁止にされちゃって・・・」
「・・・馬鹿かお前」
「ひ、酷いよヴィータちゃん! わたし本当に大丈夫なのに!」
「ふざけんな! シャマルにカルテを見せてもらったけどな、マジにやばかったんだぞ!」
「あう・・・」
 ヴィータが怒るのも無理は無い。それだけ酷い状態だったのだ。
 一度なのはが訓練しようとして家を抜け出したところ、半ば人間辞めてる御神の剣士3人に捕獲され桃子に
涙ながらに説教されたのだ。もっと自分の体を労わってくれと・・・
「決定的な怪我をしなかっただけお前を堕としたあの鬼仮面に感謝しやがれ!」
「・・・ヴィータちゃん。おとーさんたちと同じ事言うんだね」
 なのはは複雑だった。何せ相手は自分を刺した相手だ。なのに何故感謝しろなどというのかなのはには理解できなかった。
「いーかなのは。内臓の隙間を縫うように刺すなんて偶然出来るもんじゃねーんだ。そいつは間違い無くそれを狙ってやっ
たんだ」
「で、でも・・・相手は犯罪者なんだよ! 敵なんだよ!?」
 ヴィータは頭を抱える。あの鬼仮面の行動の何もかもになのはは気付いていない。そしておそらく他の人間もだ。
「あのときの状況ははやてたちからある程度聞いてる。順を追って検証するぞ。いいな?」
「う、うん・・・」
「まずスターライトブレイカーのチャージ中にそいつが超上空から襲撃した」
「うん。魔力球を斬られて爆発したんだよ。・・・確かその時爆発の衝撃が来る前にすぐにわたしの前に来てたから
爆発の衝撃は受けなかったような・・・」
「・・・おい。すでにそこから守られてんじゃねーか」
「え? そうなの?」
「そーだ。それで次は?」
「すぐに頭を掴まれてそのままお腹を・・・」
「刺されたわけか。内臓に傷つけず少々の出血のみで」
「あとも残らないらしいけど・・・わたしはそこで気絶しちゃったからその先は・・・」
「あたしが聞いてる。そのあと鬼仮面は刀を引き抜いて、シャマルに向かってお前を投げたんだ」
「まるでゴミみたいな扱いだね・・・」
「・・・馬鹿かお前」
「また馬鹿っていわれた!? というかなんで!?」
「何で気付かねーんだ! そいつはシャマルに投げたんだぞ! 怪我人のお前を、治療が得意なシャマルにだ!」
「あ・・・・」
 ようやくなのはは気付き始める。あの鬼仮面がなのはを殺す気が無かったという事に。
「じゃ、じゃああの人は!」
「おそらくお前の体の状態に気付いて一計を案じたんだろう。無理やり医者もしくは医療の心得のあるものに
お前を診察させる事でぼろぼろの体のことを気づかせて治療させるために」
「なんで・・・あの人はわたしを助けようと・・・?」
「知るか。自分で考えろ」
 ヴィータは考えるなのはを残して部屋を出る。正直言ってしばらく顔も見たくない気分だった。
(何で気づかねーんだ・・・奴はなのはをシャマルに投げた。つまりシャマルが治癒を得意とする事を知ってたって
事じゃねーか。だから迅速な治療が出来たんだろーが・・・)
 ヴィータからすれば異常だった。なのは達が考える事を放棄してしまっているような感じを受けたから。
(何でこんな事になってるんだ。あいつらはもう少し考えて動く奴らだろう? 何でこんな上の命令を聞いているだ
けのように・・・)
 上の命令を受けて実行するだけの駒。ヴィータにとって今のなのは達の印象はその一言に尽きた。
(さざなみ寮の人たちからが無事だとは聞いた。・・・でも、おそらくあたし達管理局の敵になってるはずだ。
正体はばれていないとはいえ敵対行動を取ってるんだから・・・)
 ヴィータはの無事が確認された事に喜びはしたが、内心複雑だった。なぜなら自分が想像した最悪の状況に
近づいてきていたから。
「なあ・・・あたしやだよ・・・お前と殺しあう事になるなんて・・・」
 ヴィータは空を見上げてそう呟く。
 敵になったものには容赦をしない。そんなの性格を思い出し、ヴィータは泣いてしまいそうだった・・・


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