時空管理局は様々な名目で非人道的な実験を繰り返している。
 現在達が襲撃しているこの研究所もその一つ。
 表向き管理局と関係の無いデバイスの研究所なのだが・・・・・・・・・


 アナザーIF 第六話

 融合騎



 爆音と悲鳴が轟く炎に包まれた研究所で、はその研究データを流し読みしていた。
「・・・やれやれ。恐ろしく遠回りして金が巡ってるな。スポンサーが評議会になってるよ」
「・・・相も変わらず業の深い連中だ。先ほど保護したこの融合騎もボロボロだからな」
「聖王教会が知れば確実に抗議文が届くぞ。彼等にとって古代ベルカの秘宝である融合騎は文字通り宝物だ」
 チンクの腕の中にはその小さな体の各所に注射の跡が生々しく残る虚ろな目をした少女がいた。
「・・・壊れるギリギリ限界だな。辛うじて踏みとどまってはいるが、これ以上の負荷は与えられない」
「この子の自動修復機能が働いているのは幸運だった。そうじゃないと今頃とうにイカレている」
 とチンクがその融合騎を痛ましそうに見ている中、研究所内の研究員達を捕縛して回っていたディードが帰ってきた。
「お兄様。研究員が逃げ込もうとした部屋の奥に牢のような物がありました。何か無いか探してみますか?」
「少し待て。ここのデータバンクに入ってるだろうからこっちで探ろう」
 すでにこの研究所のマザーコンピューターはの手によりあらゆるロックをはずされ普通に閲覧できるように
されていた。は目的のデータを探して検索していく。
「・・・あった。・・・その子のロードを人為的に製造しようとしていたようだな」
「? どう言うことですか?」
「その融合騎との高いユニゾン適性のある人間を文字通り【造ってた】んだ。F計画の技術を使ってな」
「な―――!!!」
 チンクが驚くと同時にドゴンッッ!!という物が壊れる音が聞こえた。
「落ち着けディード」
「落ち着いてなんて、いられませんっ!!」
 ディードはすぐ近くにあったコンテナを殴っていた。その顔は怒りに染まっている。
「何なんですか一体! 正義を語りながら命を弄ぶような悪魔の所業をやるなんて!!」
「それが奴らの正義なんだろう。目的の為なら手段は選ばないし。それよりディード。生き残りが一人いるんだが」
「迎えにいってきます!!」
 ディードは息を荒げて肩を怒らせながらその生き残りを迎えにいった。
「あそこまで怒るとは・・・」
「俺たちの教育も捨てたもんじゃないってことだよ。真っ当な倫理観を持ってる証拠だ」
 兄と姉は真っ直ぐに育つ妹の成長を喜びながら、研究所を脱出する準備を急ぐのだった。

 研究所の奥の地下牢には赤い髪の男の子が鎖につながれていた。
「ここですね・・・」
 男の子は朦朧とした意識のまま顔を上げる。
 そこにはストレートに流した長い髪の少女が立っていた。
「・・・・・・・あ、ああああああああっっっ!!!!」
 男の子は突然叫ぶ。それと同時に男の子の周りに幾つもの火の玉が現れる。
「火の魔力変換資質。あの融合騎は炎を使うんですね」
 冷静に男の子を分析する少女に男の子は炎をぶつけようとするが、そのことごとくがいつの間にか両手に持っていた
エネルギーブレードに斬られ消滅していく。
「あ・・・うう・・・」
「落ち着いて。私はあなたを助けに来たのです」
 牢の柵を斬り飛ばし牢の中に入ってきた少女は男の子の手錠を壊して男の子を抱き上げた。
「な、んで・・・?」
「ここにいては殺されるだけです。モルモットのまま死にたいですか?」
「い・・・やだ・・・」
「なら行きますよ。外には仲間や姉妹達がいますから」
 少女―ディード―は有無を言わさず男の子―製造コードEM067―を抱き上げたまま牢を後にする。
(・・・あった・・・かい・・・)
 EM067は覚えの無いはずの遠い記憶の中で感じた温もりに、いつしか涙を流していた。


 たちは融合騎と男の子を連れて今回の拠点にしているとあるキャンプに帰っていた。
 毛布には男の子が横たえられ、ディードとルーテシアが見守っており、その傍に置いたシーツを敷き詰めたバスケット
の中には融合騎の少女が眠っていた。
「この融合騎は烈火の剣精というらしい。固有名称はなし。あの研究所ではこの子を実験台にしての研究がメインだった
ようだ。今は自動修復機能が作動しているようで直って意識を取り戻すまではそっとしておいた方がいいだろう」
 はデバイスや武装を調整するための簡易キットを使って融合騎の体を調べていた。
 きちんと自己修復機能が働いているようなのでチンクと二人で安堵の息を吐く。
「おにいちゃん。この子は?」
「そっちの子は烈火の剣精のロードとなるように造られた様だ。製造コードはEM067。F計画の技術で製造されてい
るらしい。クローンではあるが、烈火の剣精にあうように様々な調整がなされているようだな」
 男の子は酷く衰弱していたためおそらく欠陥品、もしくはユニゾンが上手く行かず破棄される寸前だったのだろうと
予想をつける。
「コードに意味はあるのですか?」
「オリジナルであるエリオ・モンディアルのクローンの67番目という事だろう。オリジナルはミッドの資産家の
モンディアル家の長男だ。少し前に事故で死亡しているが、その子の遺伝情報を使ったんだろう」
「なぜF計画に・・・」
「両親は、というか母親は不妊治療の末にようやくエリオを生む事が出来たようなのだが、わずか五歳で亡くなっている。
念願叶って生まれた子がこんなにも早く逝ってしまうなんて耐えられなかったんだろう」
「なるほど・・・それで両親は?」
「・・・クローンのエリオがどこかの研究施設に拉致られたらしい。そこから管理局に発覚して逮捕され、今は夫婦
揃って塀の向こうだ。この研究施設も怪しいな」
「どれどれ・・・拉致されたすぐ後に発覚してるわね。多分繋がってるわよここ」
 クイントがの肩に顎を乗せつつパネルを覗き見て眉をひそめる。発覚するまでの時間が一日と経っていないのだ。
「そもそもF計画を進めているところが管理局だからなあ・・・」
 はパネルから顔を上げる。
「あ〜〜〜〜〜〜・・・単独で奴らを潰しに行きたい」
『気持ちは分かるけどもうちょっと辛抱しなさい。まだ切り札の目処が立ってないんだから』
 周囲に写っている画面の中で、の依頼に応えて情報を引き出してきたウーノが困ったようにを止める。
「67番目という事はそれ以前のナンバーはどうなったかを考えれば今からだって遅くはない気がするんだ」
「つまり66回失敗していると?」
「65だ。一番目は両親に渡されたあとその研究施設で実験体にされて、今は本局に保護されているそうだ」
「何故本局に?」
「表の部隊がその研究施設を制圧、見つかったエリオは同じF計画の産物であるフェイト・T・ハラオウンと
引き合わされる予定らしい」
「・・・同じ境遇の人間を使って精神を安定させる気か」
「あわよくば将来的に管理局の戦力に・・・という事だろう。回りくどいやり方だ」
 だけでなくその場の全員が管理局への嫌悪に顔をしかめる。
『とにかく、そこではその子達の治療や検査ができないわ。研究所の方に連れてきてくれるかしら』
「そうだな。俺もそろそろ調整が必要な時期だ。チンクたちはメンテナンスフリーにする事は出来たが
この体はどうにもならん」
 の悩みにその場の全員が辛そうに項垂れる。今回の襲撃の前にもは突然心停止を起こして大騒ぎになったのだ。
 対処が可能なチンクのおかげで事なきを得たが、頻度が増えるようなら問題である。
君の体も良くなるようにドクターが研究中よ。進展があったみたいだから少しはマシになるかもしれないわね』
「それは助かる。が倒れると頭の中が真っ白になるしこちらの心臓に悪い」
「そうよね。この間なんか一緒にいたノーヴェがものすごく取り乱して・・・」
「ルーテシアとざからも大泣きしたもの。いい加減早く良くなってもらいたいわ」
 クイントとメガーヌの言葉には遠い目をする。このメンバーで一番迷惑を掛けているのが自分であると理解している
だけに結構応えたようだ。
 涙目になって自分を見上げるちびっ子二人を抱き上げてご機嫌取りを始めるにチンクが苦笑する。

 達はキャンプを片付け移動用の車(ガジェットの技術を一部流用しているためタイヤが無く少し宙に浮いている)
に荷物を詰め込み、一路研究所へ向かうのだった。


 その頃管理局では、ドゥーエがある人物に接触していた。
「休みを取らなさすぎでかつオーバーワーク気味ですのでこちらから強制的に休みを入れさせていただきました。
これから一ヶ月ほど休暇になりますが構いませんねヴィータ三尉」
「ま、まあ確かにやすまなすぎか。了解しましたブルーノ二尉」
 今、ドゥーエは人事にも潜り込んでいた。そこでヴィータがあまりにも働きすぎなのをさすがに見ていられなくなり
こうしてヴィータのデスクにまで直接やってきたのだった。
 ちなみに偽名はセリエス・ブルーノ。本来は存在していない捏造の局員である。
「休暇中にも何かなさっているようですが?」
「ああ、いなくなった友人の捜索を・・・」
「そうですか」
 ドゥーエの視線が更にきつくなったのをヴィータは冷や汗を流しながら黙って見守る。
「・・・ふう。その御友人がそんなに大切なのですか? ご家族との時間を犠牲にしてまで」
「・・・今のあいつらとは関わりたくねえ」
 予想外の言葉にドゥーエは面食らう。【彼】の話では家族をとても大切にしているはずだという事なのだが・・・
「何故です?」
「・・・あんたに言うのもなんだけど、今のあいつらは、変だ」
「変・・・?」
「上の命令に従うだけの駒みてーになってる。管理局員としては正しいかも知れねーが・・・」
「なるほど。そのご家族としてはおかしい。優秀な頭脳を持っているはずですからね」
 ドゥーエは思い出す。評議会の密命により高ランク魔導師には管理局に従うように軽い暗示を掛けられている事を。
 理由は簡単、存在そのものが兵器といえる高ランク魔導師を裏切らせることなく保有するためである。
「あなたにこれをさしあげましょう。私にはもう必要のないものです」
「・・・なになに?【催眠術・暗示のすべて―掛けるのも解くのもこれ一冊で自由自在―】・・・っておい」
 渡された本の題名に思わず半眼で返す。ナニに使ったのか非常に気になるが・・・
「試してみたらどうです? 様子がおかしいんでしょう?」
「・・・ありがたく頂戴しとく」
「では私はこれで」
 用件が済んだからか颯爽と帰っていく彼女をなんとなく眺めて、本をかばんにつっこんで帰る準備をする。
 少し経ってから、さっき出て行った彼女から念話が・・・
<そうそう。あの子は元気にしているわよ>
「――――!!!!」
 ヴィータは一瞬頭が真っ白になったがすぐさま部屋を飛び出し周りを見るも、もう彼女は何処にもいなかった。


 研究所に戻ったは固まっていた。だけではない。他の姉妹達や母親二人も固まっていた。
 その彼女らの眼前にはこんな光景があった。
 拾ってきたであろう抱き上げた白銀の毛並みを持つ子犬に顔を舐められながらも笑顔のトーレとセッテ。
 これまた拾ってきたであろうおそらく生後数日の白い子猫に慈母の様な表情を浮かべながら布にミルクを含ませて吸わせ
ているクアットロ。
 そしてそんな三人を見て固まり続ける妹達。
 は無言でリビングのドアを閉めた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・風呂に入って寝るか。相当疲れているようだ」
「そうだな」
 はポツリと呟きチンクが同意する。
 ディードが無言でタオルや着替えを用意する中、ドアが開いて妹達が殺到してきた。
兄! お願いだから何とかしてよ!!」
「僕たちを見捨てないで兄さん!!」
「アニキ! 頼むから助けてくれ!」
「ええいはなせ!! 俺は何も見ていない! キャラに合わない事甚だしい光景など俺は見ていないっっ!!」
「見てるじゃないっすか!! あたしら昨日からあの光景を見せられ続けてるんっすよ!!」
 もはやなにがなにやら。
 ちなみに件の彼女達は達の帰還やセインたちのことには一切気がついていない。
 完全にそれぞれ自分達の世界に入り込んでしまっていた。

 翌日、やはり変わらない現実に絶望しかけている姉妹達。は体の調整のためにさっさと調整槽に入ってしまっていた。
 烈火の剣精とそのロードになるべくして造られた男の子はそれぞれメンテナンスポッドや治療用のポッドに
入れられて回復を待っている状態だった。
「・・・クアットロ、トーレ、セッテ。その小動物たちはどうした?」
「あらチンクちゃん。捨てられてたみたいで思わず拾っちゃったのよ。可愛いでしょこの仔」
「・・・・・・・まあ確かに可愛いが」
「この子犬も誰かが捨てたのだろう。あまりに悲痛に泣いているので拾ってきてしまったのだ」
「とても可愛いです」
「・・・そうか」
 三人の返答にそれ以上応える気力も無いチンク他数名。
 自分達がと出会う前とは変わっていることは自覚していたが、クアットロなんかは正反対にすらなった気がしている。
 ふと気付くとルーテシアとざからが子犬とじゃれている。子猫の方はおねむの時間らしく毛布を敷いたバスケットの中で
熟睡しておりとても可愛らしい。チンクはとても癒される気分だった。若干現実逃避が入っているかもしれないが
チンクは受け入れがたい現実を少しづつ飲み込み始めていた。


 ポッドから出たはいつもより調子のいい体に驚いていた。
「どうかね君」
「いたって良好、というか今迄で一番調子がいい。体も大分楽になったよ」
「そうか。苦労した甲斐があったようだね」
 軽く跳んでから武術の型を一通りやってみる。いたって好調だった。
「今まで不調だったの?」
「動くと変に突っ張る感じがあったのは確かだよ。今はそれが無い」
 クイントは複雑な表情になる。何せ彼女は今まで一度もに勝った事が無いのだから。
「これからも連敗記録が続くのね・・・」
「美影に訓練付けて貰うか? 古武術の動きは身体制御に重点をおいてるからシューティングアーツにも役に立つだろう?」
「それはちょっと・・・見てる限りかなりきついし」
「なに、そのうち慣れるぞ。人間そんなもんだ」
 やチンクは最初は真っ白になるほど燃え尽きた美影の訓練を今はもう普通にこなせるようになっていた。
 おかげで体力がとんでもない事になっている。一度ナンバーズたちと時間無制限の耐久ルームランナーをやったのだが、
本命だったトーレと対抗馬のセッテを押さえて圧倒的な差を付けとチンクが勝利したのだ。その次がディードだった。
 ちなみにこの二人結局決着が着かずいい加減腹減ったからやめようという理由で途中でやめてしまったのだった。
「と、とにかく遠慮しておくわ」
「なんだ。根性が無いのう」
「勘弁してください美影さん」
 美影が霊剣からひょっこりと顔を出してくるが霊力のチャージ中らしい。すぐに顔を引っ込めてしまった。
 と美影は自分達の関係を霊剣とその主に変えたらしくお互いに呼び捨てており、ごくたまに祖母と孫になっているら
しい。某神咲の当代とその霊剣の関係に近いものになったようだ。
「ところでクイント。最近ノーヴェに避けられているらしいな」
「そうなのよ・・・。どうにかならないかしらねぇ・・・」
 クイントはノーヴェにシューティングアーツを教えており師弟関係を結んでいたのだが、最近ノーヴェの遺伝子がクイント
のものであり二人は親子のようなものだと分かった途端、ノーヴェがクイントを避け始めたのだ。
「あの子が私の娘だと分かって私はむしろ嬉しかったのに・・・」
(複雑なんだろうなあ・・・)
 ナンバーズ達は基本的に親と呼べるものはジェイル一人。だがそれは父親だけだ。ノーヴェは自分だけ母と呼べる存在が
いるという事に対して他の姉妹たちに抱く必要のない罪悪感を抱いているようなのだった。
 クイントは夫ゲンヤとのあいだに子供を作る事が出来なかったが、ギンガ、スバルという子供を娘として引き取ったこと
もあってノーヴェも己の子供という風に扱ったのだが・・・
「ちゃんと訓練には出るんだけど・・・凄くよそよそしいのよ・・・」
「クイント。あの子も突然の事で整理できてないのよ。もうしばらく静観したら?」
「・・・そうね。心を開いてくれるまで待つしかないかな・・・」
 落ち込み気味のクイントをメガーヌが慰めている時、ウーノから連絡が入った。
 拾ってきた男の子と融合騎が目を覚ましたとのだった。


「おい。ここどこか分かるか?」
「ううん。多分何処かの研究所だけど・・・」
「あたしらをあそこから助け出してくれたからもうあんな目に会わないと思ったらこれかよ」
「まだ分からないよ。だとしたら拘束されるはずだし・・・」
 二人は肩を寄せ合い周りの様子を窺っていた。
 この二人は同じ研究所で同じ研究の実験体だったため面識はあった。だからこそ今は協力し合っている。
「・・・最悪ユニゾンして突破するぞ」
「僕のほうにまだ不安があるんだけど・・・?」
「あたしが合わせてやる。あたし等は高いユニゾン適性があるんだ。大抵の奴らには負けやしねえ」
 融合騎がきっぱりと断言する。確かに有象無象な管理局の武装隊員なら相手にはならないのだが・・・
「さて、二人の様子は「「ユニゾン・イン!」」おお?!」
 が二人を寝かせていた部屋に入った瞬間に二人がユニゾンし突撃する!
「ちぇい」
「『うわあ!!!』」
 だが、は当たり前のようにひらりとかわし、背中に一撃痛打を見舞う。
 相手が悪かった。は管理局のエースやストライカーを手加減して潰せる化物である。
「いたたたたた・・・・」
「な、なんだよこいつ・・・」
 二人はたった一撃で行動不能に陥っていた。
「ご挨拶だなお前たち。助けてやったというのに」
「うるせえっ! ここはなんかの研究所だろう! あたしらをどうする気だ!」
「どうもせんよ」
「「・・・・・・へ?」」
 二人にとっての意外な言葉に二人は固まる。
「強いて言うなら治療のためか。ユニゾンデバイスなんて滅多にないし、ここには人間用のメディカルポッドがある。
 お前たちの検査と治療をするには最適だったんだ」
「・・・・・・・・なんで?」
「ん?」
「何で助けてくれるんだ?」
「それなりに理由はあるが・・・放って置けなかっただけだよ」
「・・・そうですか」
 二人はに敵意や邪な思惑がないと判断したのかようやく気を抜くように溜息をついた。
「自己紹介でもしようか。俺はだ。姓は・・・今となってはあまり意味もないんだが、不破でいい」
「・・・烈火の剣精って呼ばれてた。あたしにはあたしを作ったマイスターやロードの記憶もねえ。名前も知らねえ」
「ぼくはエリオ・モンディアルです。クローンですけど・・・」
 二人は自己紹介するが、は難しそうな顔で少し沈黙する。
「融合騎のほうは後で名前を考えるとして・・・エリオ。残念だがお前の一号機が既にその名前を名乗って生活している」
「え? 居るんですか? ボク以外は皆死んだって聞いてたのに・・・」
「一号機は【エリオ】としてオリジナルの代わりをするべく両親に渡された後、F計画の研究所に拉致されてから
管理局に拾われたらしい。今は保護施設で暮らしているそうだ」
「・・・そうですか。じゃあ名前を考えないと・・・」
 エリオは・・・いや、大して【エリオ】としての記憶がないらしい彼はその名前をあっさりと捨ててしまった。
「まずは俺の家族を紹介しよう。皆で名前を考えるか」
「仲間が居んのか?」
「結構な大家族だよ。坊主、お前を檻から出した子も居るしな」
「はい。お礼を言わないと」
 そして二人はについてリビングに向かうのだった。


 二人は実にあっさりと彼女らになじんだ。
 数人を除いてほぼ全員が極めて人工的に誕生した命であるせいかすぐに仲間意識が生まれたようだった。
「アギト。一緒にお風呂はいろ?」
「おう! ルールー! ざから!」
「アグニも入るッすか?」
「ええっ!? ぼ、僕は・・・兄さん!?」
「あ〜・・・ウェンディ。俺が入れるから。というか分かって言ってるだろう?」
「あっはっは。冗談っすよ冗談。ノーヴェ、子供相手に何赤くなってるっす」
「るせえっ!! 恥ずかしいんだから仕方ねーだろ!!」
 家族たち全員揃って二人の名前を考え、二人もあっさりとその名を受け入れた。
 融合騎アギトとそのロード・アグニ。二人の物語は今始まった。



あとがき
アギトと彼女の為に作られたエリオクローンの一人アグニ。
なんかやってしまった感が非常にあります・・・まあゼストがああなんでユニゾン相手が欲しかったんですよね。
はただでさえチート気味なんでこっちでは一応ユニゾンできるけどやらないことに。
アグニとアギトはユニゾンすると三対六翼の炎の翼が現れます。それ以外は特に変化なし。
アグニは色々弄られた所為でエリオとはまったく違う能力を持ってます。
ちなみに空戦可。
ノーヴェのオリジナルがクイントであったことは検査するまでわかりませんでした。
見た目全く違いますし、ジェイルも能力しか見てなかったので。

ではヴィータサイドに



ヴィータサイド

 人事から強制的に休みを取らされたヴィータは直接言いに来た彼女の正体をいぶかしみながらも休みは正式なものだ
ったので海鳴に帰ってきていた。
 今は末っ子のリインフォースUを構い倒して遊び疲れて眠るリインを膝に乗せてTVを見ていた。
「・・・だめだ。暇すぎる・・・」
 いつもなら休みの日にもを探す為に何かをしていたのだが、それすら止められているため何もする事が無かった。
 そんなヴィータの元に、一本の電話がかかってきた。
「はい八神です」
『ヴィータちゃん? 桃子ですけど』
「桃子さん? どうかしたんですか?」
『ヴィータちゃんは君と凄く仲良かったわよね。少し着いてきて欲しいところがあるんだけど』
 暇だったヴィータは桃子に誘われて彼女について行く事にした。

「ここは?」
「・・・君のお母さんの家よ。君の実家でもあるわ」
 桃子は勝手知ったるといった感じに家の中に入って行く。ヴィータは何も言わずに桃子に着いて行く。
 桃子はある部屋の前で立ち止まった。
「ここに何かあるんですか?」
「・・・ここには沙耶が・・・君のお母さんが居るわ」
 ヴィータは表情を固くする。からは何も聞かなかったが、何か尋常ではない事情があると察していたのだ。
 桃子はドアを開けて部屋に入る。ヴィータが見たの母は・・・酷くやつれていた。
「沙耶。君と仲が良かった子を連れてきたわ」
「ありがとうございます。桃子先輩。・・・貴女がそうなのね」
 ヴィータは沙耶を見て言葉も無かった。明らかに死相が浮かんでいたから・・・
「あんた・・・」
「ごめんなさいね。こんな体で・・・」
 沙耶はが死んだと聞いてから体が急速に衰え始め、今では自力で歩く事も出来なくなっていた。
「何でを捨てたんだ」
「・・・信じられない話かもしれないけど、聞いてくれる? あの子の生まれた経緯と、あの子を手放さなければならなか
った愚かな母の言い訳を・・・」
 沙耶は桃子に目配せし、桃子は頷いて部屋から出て行った。
 そして彼女は語った。かつて己の身に起きた事件と、異世界の組織の実験の話。そして自分が愛する我が子を手放さな
ければならなかった事情を・・・
「・・・それは、は知ってたのか?」
「知らないはずよ。父も母も表向き信じてくれてはいたけど、納得できてないみたいだったし・・・」
「・・・あたしは信じる。・・・ようやく繋がったんだ。が何故攫われたのか。ようやく分かった・・・!」
 ヴィータは知った。管理局での非合法な実験。その奇跡的なバランスの上で生まれた成功体。そして、かつてフェイト
に重傷を負わせ、管理局で治療を受けた事。その後の身代わりを用いた上でのの突然の失踪。
「さらわれた・・・?」
「ああ、見つかった死体はクローニングされた偽者だった。本人は今も生きてるはずだ。あたし達の共通の知り合いが
実際に会ってる」
「生きて、生きているのねあの子は・・・!」
 息子が生きている。その情報に沙耶は感極まって泣き始める。
「ヴィータちゃんだったわね。あの子に伝言をお願いできる?」
「・・・ああ。今は無理でもいつか会えるはずだ」
「お願い。伝える伝言は―――――――――――」
 たった十一文字。だが、それだけで十分だった。
「・・・わかった。伝えておく」
「お願いね・・・。ふふ、あの子に会えないのは、自分で誤解を解けないのは残念だけど、もう心残りは無いわ・・・」
 沙耶は伝言をヴィータに託した後、ベッドの中で静かになった。
「・・・おい?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 ヴィータが声を掛けても彼女は返さなかった。返せなかった。
 沙耶は笑顔のまま、彼岸へと旅立ってしまったから。

 数日後、沙耶の葬式にはヴィータと桃子の姿があった。
「ヴィータちゃん。あの子の最期は、あの子は安らかに逝けた?」
「笑ってたよ。あたしに伝言を託して、満足そうに笑って逝った」
 喪服を着た二人は挨拶をして、葬式が終わってすぐに帰ってきていた。
「・・・君は生きているのね。士郎さんがそうなんじゃないかと言ってたけど」
「・・・あの人気付いてたんですか?」
「筋肉のつき方が絶対的に違うといっていたわ。君は細身だったけど、結構がっしりとした体してたから」
「・・・そうだよな。あたしだって最初に感じた違和感はそこだったし」
 幼い頃から武術をしていたは細身ながらもしっかりと筋肉が付いていた。しかし、見つかった死体は簡単に言うと
ひ弱だったのだ。の裸を見た事があるヴィータにとって以前の姿が見る影も無いほどに。
「なのはたちには教えないの?」
「駄目です。今のあいつらには教えられねーんです。今のあいつらは信用ならねー」
 彼女から貰ったあの本は今読んでいるところだ。どんなものが仕掛けられたのかをまず見抜かなくてはならない。
「なのははリハビリだって言って美沙斗さんと美由紀に引っ張られて香港にいるし、フェイトちゃんはお仕事が忙しいら
しくて顔見せてくれないし、はやてちゃん達もだし。恭也は月村の家にいっちゃったし、桃子さん寂しいわ」
「いいじゃないですか。士郎さんと二人っきりなんでしょう? 夫婦水入らずで」
「何ならもう一人くらい作っちゃおうかしら」
 本気そうな桃子の言葉にヴィータは苦笑する。まだ若いのだし問題はないのだろう。
「純真無垢な優しい子がいいです」
「そうね。うちの子たちは何かと物騒な技とか持ってるし・・・平和に、平穏に生きてほしいわね」
 二人は空を見上げる。雲一つ無い空の向こうで、沙耶はかつて愛した男に会っているような、そんな気がした。


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