「んぅ・・・・・・」 チンクはベッドの中で目を覚ます。目を覚ました彼女が見たのは穏やかに眠る愛しい恋人。 「ふふっ」 彼女にとって当たり前の光景。だがここしばらく旅をしていて大抵ルーテシアやざからも一緒に寝ていたため二人っきり になることが無かった。だからとても久しぶりの光景。 チンクは眠るの胸元に顔を埋めて幸せそうに溜め息をつく。彼女は昨夜の疲れが抜けきっていなかった。 その日、チンクは普段はやらない二度寝を敢行した。 アナザーIF 第七話 そんなある日 アグニたちが家族になって早半年以上も時が過ぎた。 もうすっかりアグニもアギトも家族に溶け込み、子犬や子猫も大分大きくなった。 「おはようございます」 「おう、おはよー」 「おはよーっす」 朝の挨拶を終えたアグニは食卓に着いた。今はすっかり料理番の一人になったアギトが朝食を運んできた。 「おはよアグニ。今日はに習った和食だぞ。ちゃんと食べられるか?」 「大丈夫だよアギト。練習用のお箸を作ってもらったから」 アグニは補助のついた箸を使ってご飯を食べる。先に来ていたルーテシアは補助無しで箸を使いこなしていたりするが。 「今日はどこかに遊びに行くって聞いたけど?」 「ああ、アグニやルールーの情操教育のためらしいけど・・・どこ行くんだっけ?」 「いい感じの草原があるのでそこにピクニックです。シリウスとブランシュも連れて行くそうですよ」 ピクニック参加者は子供達全員と保護者としてとチンク、ジェイルとウーノ以外で行くそうだった。 なおシリウスは子犬。命名はディード。から聞いた地球での星座と星から取ったそうだ。ちなみにオス。 ブランシュは子猫。命名はクアットロ。同じくから聞いた白雪姫(ブランシュネージュ)から取ったそうだ。なお こっちはメスである。 「にーちゃんたち起きてこないっすね。寝坊なんて珍しい・・・」 「兄さん達は大抵僕らより早く起きてるのに・・・」 「・・・オットー。そっとしておいてあげましょう・・・」 ディードはとても言いにくそうで、思わず言葉を濁す。 「しってんのディード?」 「・・・その、昨夜はお二人とも久しぶりに二人っきりでしたので・・・」 子供達を除く全員が理解し、頬を染めてそっぽを向く。 知識の内には何が行われたかは有るのでわかるのだが、皆年頃の娘さんである。さすがに口には出せない。 「ま、まああの二人は所構わずイチャイチャする子達じゃないものねえ・・・」 「普段は押さえてるんだろーねー」 「というか・・・一緒にご飯作るけど、あの二人恋人通り越して熟年夫婦並に意思の疎通が出来てるんだけど・・・」 料理中は指示代名詞だけで会話が成り立つのを特に付き合いの深いウーノが確認している。 「まあ何にせよ、あたしらはリフレッシュ休暇と行きますか」 「そうだな。外でぱあっと遊んでこよう」 ナンバーズたちも普段着でいれば人間と変わらないのだ。その正体がばれる事は一切無かった。 昼過ぎになってようやく起きてきたとチンクは軽く食事をしてからジェイルの所に集まっていた。 「昨夜はお楽しみだったようだね」 「まあな。悪いか?」 「いや。幸せそうで何よりだよ」 そんなやり取りから始まった二人をなんとなくジト目で見るチンク。特にジェイルの方を。 何せ以前覗きをしていた前科があるのだ。 「大丈夫よチンク。二人が帰ってくる前に全部撤去したから」 「ありがとうウーノ。気が気でなかったよ本当に・・・」 ウーノが気を利かせてくれたらしい。ジェイルの顔色が悪くなっているが、どうやらがにこやかに笑いながら 殺気のプレッシャーを浴びせているらしい。ブラコンにも程があるだろうに・・・ 「まあそれは兎も角、進捗報告と行こうか」 「ああ。ナンバーズの戦闘能力は今も上昇傾向にある。後期ナンバーたちもそのうちSランク魔導師に単独で勝てる ようになるだろう。 ルーテシアも大分魔法の習熟が出来てきている。もうそろそろ契約する召喚獣を探しに行ってもいいかも知れん。 それとアグニは俺たちと共に戦うそうだ。今美影がトレーニングメニューを考えてる。二刀流は無理そうだが、 一刀流を扱う事は出来そうなんでそっち方面で鍛えるそうだ。 アギトにも御神流を少し仕込んでアグニのサポートをやらせるそうだ。お互い使う技の性質がわかっていれば合わせ やすいだろうしな。こんな所だな」 あとアグニ用のデバイスも作る予定が出来て結構忙しいらしい。 アグニはどうも本格的にアギトに合うように造られたらしい。研究データからもその調整のために何十体もの 試験体を失う事になるほどの実験が行われたという記述が見つかっている。 それと【エリオ】の記憶は度重なる実験の中でほとんど磨耗してしまったらしく両親の顔も名前も覚えていないとの ことだった。研究所の連中への意趣返しにわざとユニゾンを拒絶したところ、失敗作として牢に入れられ廃棄される 寸前だったらしい。 「そうか。 こちらは以前からやっている聖王のゆりかごの解析は大体終わった。やはり起動に聖王の血筋の者が必要らしい。 それとガジェットの方だが、君が再設計した方が性能が上がっていたのでそちらをメインに据える事にし たよ。レリックのエネルギー反応のみを追う様に設定してはいるが、誤動作を起こす可能性は無いわけではないね。 一定以上の生物以外から発されるエネルギーにはどうしても反応してしまうようだ。ロストロギアにのみ反応するわけ ではないね。というより管理局の言うロストロギア反応って何なんだろうと本気で思ったが・・・」 ジェイルは今更ながらに管理局の不思議に首を傾げていた。大体ロストロギアといっても色々有るのになんなんだそ の都合のいい反応は。ロストロギアに共通したエネルギーか信号でもあるのだろうか? 「それと、ドゥーエからの報告によると聖王の復元に成功したとのことです。まだ受精卵のような状態らしいですが 数年後には完成するそうです。 ・・・それとドゥーエにも未確認の情報らしいのですが、評議会が何かのロストロギアを発掘したとのことです。 どうもゆりかごのようなものとは違い誰でも動かせるようなのですが。注意が必要ですね」 どうやら評議会は別の研究施設にそのロストロギアを持ち込んで研究させているらしくドゥーエにも情報が回ってこな いとか。断片的な情報によるとだが、大きな機動兵器のようだとのことだった。 「やれやれ。ロストロギアを封印して回ってるはずの管理局がロストロギアを秘匿するか。一般人が知ったらどうなる ことやら。俺の予想では大規模な暴動が起こって、地上部隊が武力制圧に出る事になると思うけど」 「おおむね当たりだろうね。以前起こっていたテロだって標的は管理局だ。管理体制の不備や不満から起こっていたら しいが、武力で押さえつけられたそうだからね。押さえつけた方は英雄扱いだよ」 レジアス・ゲイズ中将。ミッド地上で起こっていたテロを抑えるために軍事力の増強を行い結果的にテロを鎮めた男。 原因の根本を理解しようともせず、一方的にテロリストを制圧、拘束し処刑台に送ったらしい。 管理局に対する反管理局体制グループというべき集団や組織からは恐怖の象徴として扱われているそうな。 「テロが起こるのはその体制に不満を持っているものが大勢いるからだ。それも管理局に対するものなら次元世界中に 何千何万の組織があることか・・・」 「表向き管理世界ではあるが、その世界の政府は反管理局である事は多いようだね。何せ彼等は政治にも口を出してく るし彼らのやっている事はその世界では違法でも管理局法では違法ではないという理由で平然と無視するそうだ。 現地の法を無視して好き勝手やるあたりろくでもないね」 「魔法に対して非常に緩い世界もあるが、管理局員に見つかったら逮捕されるらしいな。その世界では街中で空飛んでも 問題ないのに管理局では禁止しているからだとかいう理由で」 そもそもその世界のその国には有翼人種がいるとかで飛行に関して一定の法規があるしでちゃんと管理されているの だが。生物として普通に空を飛ぶ存在にまで飛ぶなとはこれいかに。 「まあこの話はここまででいいか。今後も継続して訓練と実戦により戦力のレベルアップを図ろうと思う。あと、 ルーテシア用のデバイスを作ってるんだがもう少しで完成する。アスクレビオスを元にしたんでブーストデバイスだが。 それと俺もブーストを使う事にした。主な目的は制御と負担の軽減だな」 「デバイスで魔法は使わないのかね?」 「符陣術があるし特に問題ないな。そもそも身体能力馬鹿高いから身体強化自体も必要かと問われると疑問符が浮かぶん だが。あと人を殴る為のグローブとしても使うから」 の物騒なもの言いに三人が停止する。それはもはやアームドデバイスだろうと突っ込みたかったが、止めておいた。 「さ、さて。それぞれ仕事に戻ろうか」 「そうですね。君はこれから?」 「チンクのシェルコートを少し改造しようかと。AMFの濃度をもう少しあげたいんだ」 「・・・私は今のままでも」 「お前がやられるとは思わないが万全を期する事が出来るならやっておきたいんだよ。なに、俺のわがままだよ」 チンクはの意図に気付いて頬を赤く染める。 つまり言いたい事とは―――俺の女に怪我などさせてなるものか――― はやてはヴィータを除くヴォルケンリッターをつれて何者かの襲撃によって崩れ落ちた研究所に来ていた。 「これは酷いなあ」 「中途半端に残してみた感じですね。それと・・・」 「研究員・・・だな。全員殺害されていたらしい」 研究所の少し離れたところに未だに大量の血の跡が残っていた。 「巧妙に拘束されてました。縄抜けも出来ないほどに」 「全員頚動脈を斬られていたそうです。死因は全員失血死によるものだったそうです」 「・・・だが妙だな。襲撃犯に殺す気があるのならこんな所で拘束されていたのは腑に落ちん」 調査の為に来た管理局員も首を傾げていた。襲撃犯が殺したのなら研究所内で殺戮が行われたはず・・・ 「何らかの爆発物を使った襲撃・・・いうことなんか? でもそれやったらこんな中心部に爆発痕があるはずないし」 外に爆発痕があるのなら入るときにやったのだろうが、研究所のほぼ中央部でも爆発痕が発見されていた。 悩むはやての元に地下を調べていたシグナムが帰ってきた。 「檻のような物があって何者かがその中身を解放したようです。檻は綺麗に断ち切られていました。おそらく剣に よる斬撃だったと思われます。壁にもいくつか刃傷がありました」 「・・・尋常な腕やなさそうやな。爆発と刃傷・・・あかん。つながらへん・・・」 「複数犯なのは確かですが・・・襲撃と研究員の殺害が同一犯であるかを考えると違うように思えます」 「なんでや?」 「拘束されていたという事は逃げ出さないように、もしくは我々管理局に捕まえさせようとしていたと見る方が妥当です。 しかし、彼らは一人残らず殺害されていた。とすると、何者かがここで行われていた何かを知られないように口を封 じたと見るのが自然です」 シグナムの言葉にはやては更に考え込む。 襲撃犯はこの研究所で行われていた研究を暴き捕まえさせようとした。だが、それを嫌う何者かが生き証人たちを消し てしまったという事なのだろうか。 「何にせよ情報が少なすぎるな。とりあえず証拠になりそうなもんも確保は終わったし写真とかも取ったやろ。 一旦局にもどろか」 「しかし・・・何故今更になって我々の元にこんな仕事が舞い込んだのでしょう」 「もう半年も前のことのはずやしなあ・・・不都合なもんを回収してから私らに回したみたいな感じや」 この異常といえる仕事の遅さにさすがに疑問を覚えるが、彼女らはさっさと退散した。 「しかし、ヴィータとは仕事が合いませんね・・・」 「んー・・・。なんか知らんけどミゼット婆ちゃんの直属になったらしいんよ。護衛とか他の仕事とかで忙しいみたいや」 「そういえば階級も特進しましたよね。今は一尉。私たちより上ですよ。」 「主と同じ階級とは・・・。優秀なのは確かなのだがな」 最近顔を合わすことが少ない家族を思い少し寂しく思いながら、彼女たちは引き上げていった。 はチンクと組み手というか模擬戦をしていた。 チンクが投擲した幾つものナイフや針がに殺到するが、は冷静にそれをかわし続ける。 そしてチンクの隙を突くように一瞬で死角に回りこみ刀を振るうが彼女は当たり前のようにそれを避ける。 互いに決定打が入らないまま数時間もの時間を休みもなく戦い続け、そして二人は互いの急所に刀とナイフを突きつ けてその模擬戦は終了した。 「ふむ・・・また引き分けか。お互い本気では無いとはいえ私も大分強くなったな」 「俺としてはその右目を直してもらいたい所なんだがな。いくら何とかなるといっても見えてないのは確かなんだし」 「これは戒めだ。どんな相手であろうと油断しないためのな」 いくら体力が有り余っている二人でもさすがに連続8時間戦闘は体に堪える。二人とも汗だくだ。 『二人とも。みんな帰ってきてるしそろそろご飯に・・・先にお風呂に入ってきなさい』 「ああ、もうそんな時間だったのか」 「今日は当番じゃないからってはしゃぎすぎたか。一緒に入ろうか」 「うむ」 二人は当たり前のように風呂に入る事になった。二人で。 「・・・なあウーノ。今風呂にはノーヴェたちが入ってなかったか?」 「・・・そういえばそうだったわね。まあ別にいいでしょう」 「いーのかよそれで」 「問題ないわよアギトちゃん。なんなら私も一緒に」 「「止めときなさい」」 温水洗浄ルーム。平たく言えばお風呂。 その湯船の端のほうには赤い髪の少女が顔を真っ赤にして縮こまっていた。 「そこまで恥ずかしがる必要があるんすかねぇ」 「まあまあ。あの子言葉遣いに似合わず乙女だからさ」 「うう・・・・」 丁度とチンクが浴室に入ったときに、ノーヴェと鉢合わせたのだった。 「凄い速さだったな。まあその割りにの裸を上から下までじっくり見ていたが」 「思考が追いつかなかったんだろう。それとあまり言ってやるな。恥ずかしさのあまり沈没してるぞ」 みんな最低限隠すところは隠しているのだがやはり恥ずかしいのだろう。ちなみに、 「にーちゃん動じないッすね」 「ふっ・・・ドゥーエのセクハラに比べたら大したこともないしな」 「抱きつくのは当たり前で色々触られてたんだったな」 「まじめに貞操の危機を感じたぞ。喰われると思ったのは初めてだった」 はここに来た当時ドゥーエの愛情という名のセクハラ攻撃にさらされており無駄に女体に慣れていたりする。 まあそういうこと(セクハラ)が続いたりしたのでウーノが一緒に入ってドゥーエからをガードしたりしていたのだ。 は手早く体を洗い湯船につかる。ノーヴェは何気にの方をちらちらと見ては顔を真っ赤にしてうつむくのを 繰り返している。なんだかんだ言いつつ興味はあるらしいが、そのうちのぼせるんじゃないだろうか。 はなんとなくディードに頭を洗ってもらっているチンクを見る。とても微笑ましい光景なのだが・・・ 「なあチンク。そろそろシャンプーハットを卒業しないか?」 「う・・・むう。いやしかしこれがないと泡が目に」 「ルーテシアやアグニに格好がつかないぞ。ルーテシアは使ってるがアグニは使ってないし、それにルーテシアもそろそろ ハットを卒業しそうだ」 「むう・・・」 チンクはなにやらぶつぶつと言い訳じみた事を呟き始める。そんなチンクに妹達は苦笑いしている。 「そうだ。今日の晩飯は何なんだ?」 「今日は凄いッすよ! なんと蟹ッす! 蟹すきっす!!」 「天然の最高級品だよ兄!」 「・・・何処で手に入れたんだ」 「ピクニックの帰りに海の近くを通ったのですが、トーレ姉さまとセッテが折角だから食料を調達しようとか言い出しまして」 「素潜りしてとってきたんだよ。さすが食料調達班。凄かったよ」 料理が出来ないトーレとセッテはせめて食材集めで貢献しようと努力していた。 海ならば魚釣りから素潜り。時には貝とかも取ってくるし魚を銛で突いたりしている。 山ならばやたらデカイ猪とか鹿とか時々熊とかを狩り、木の実や山菜まで取ってくるのだ。 おそらく無人島に放り込まれても余裕だろう。単純に焼く程度なら出来るんだし。まるで某よいこのようである。 「まあ何にせよ楽しみだな。蟹なんていつぶりか」 「前に食べたのは去年だった」 全員晩御飯が楽しみなのでさっさと風呂から上がり、食堂に集まる。 しかし達が見たのはウーノの制止も空しく既に始めてしまっている大人たちだった。 セインたちは雄たけびを上げて突撃して争奪戦をはじめ、は子供達を醜い大人達からさりげなく引き離しつつ まだ残っていた蟹を調理してそれなりに堪能するのだった。 数日後、達は魔獣が隔離されているという地域に旅立つべく準備をしていた。 ルーテシアは豪気にもどんな召喚獣に出会えるのだろうとわくわくしていたが、大人たちは警戒を緩めなかった。 しかしその警戒も無駄に終わったり、と美影が予想だにしなかったモノの存在に開いた口が塞がらなかったり、 それをルーテシアがあっさり懐かせたりしたのだが・・・それはまた後の話。 あとがき 今回は状況報告が主な話でした。 しかし評議会で何か動きが・・・ あとヴィータが異例の昇進をしていたりします。 ではヴィータサイドに。 ヴィータサイド ヴィータは武装隊にいたのだが、無駄に仕事を与えられまくっていたのを見たミゼットが自分の直属の部下 にすることでヴィータに自由な時間を作ることに成功していた。現在階級は一尉。所属は統幕議長つきの特別捜査官である。 上司であるミゼットの命で管理局内部の調査が主な任務で、監査部すらもその対象に入っていた。 「・・・・・・これは、事実なの?」 「はい。紛れもなく事実です。今まで不祥事が起こった事が軽く三桁を超えており、その大部分がもみ消されてます。 監査部には金を握らせて見て見ぬ振りをさせていたようです」 「・・・最早どうしようもないのかこの組織は」 「よもやここまで腐り切っていたとは・・・」 ヴィータは三提督に調査報告とその裏付けの証拠を提出していた。そしてそのあまりの酷さに三提督は頭を抱えていた。 「ヴィータちゃん。あなたは管理局を変えるにはどうすればいいと思う?」 「・・・・・・どう考えても物騒な答えになります。 それと管理局の内部を探っててある事に気付きました。評議会です」 「あの方々がどうかしたのか?」 ラルゴの問いに、ヴィータは少し考えて、 「人間は大体何年生きられますか?」 「いきなりだな。・・・長く生きて百年と少しだろう」 「評議会は代替わりしたことは?」 「新暦に入ってからは無いと記憶しているが?」 「・・・ばーちゃんたちよりも年上だよね?」 「そうよ。それがどうかしたの?」 仕事中なのだが、少しづつ敬語がなくなって行く。 ヴィータは頭を抱えた。それが分かっててどうしてこの答えに行き着かないのか。 「今の評議会議員達は少なくとも―――150年は存在してます」 「「「―――っ!!!」」」 今更だ。三提督の驚愕の表情を見ながらヴィータは心からそう思う。 評議会議員たちは生粋のミッド人のはず。ならば寿命も地球人のような一般的な人類と同じように長くとも百年ちょっと しか生きられないはずだ。にもかかわらずこれだけ長い時間を生きているという事は・・・ 「おそらく彼等は人としての肉体を捨てているか、何らかの延命措置をしていると思われます」 ヴィータは確信を持って発言した。彼女には非常に信憑性の高いニュースソースがあるのだった。 混乱する三提督は冷静さを取り戻した後、ヴィータを退室させて今後どうするかを相談しだした。 ヴィータは外で待っていた自分の部下をつれて自身のデスクに向かった。 「この組織はもう駄目だな。いくら綱紀粛正をしても身内を庇って不正を隠しちまう。法を司る者がこの体たらくだ」 「ええ。自浄機能すら持たない以上どうにもならないところまで腐り落ちるでしょう。絶対的な権力は絶対的に腐敗すると 第97管理外世界の歴史学者が語ったそうですが、至言ですねアレは」 デスクでこれから追う事件の資料を漁るヴィータに部下は笑いかける。 「で、どうするんです? 私に協力するならあの子に会えますよ?」 「・・・あたしははやてを裏切れねーよ。それにな、あたしは放って置いてもいつか必ず会えるって信じてるんだよドゥーエ」 部下の姿が変わりドゥーエがその正体を現す。 「便利な能力だな」 「ええ。スパイ活動にはこの上ないわ」 ドゥーエはヴィータの部下として潜り込み本局の重要情報の収集をしようとしていたのだが、ヴィータにばれてしまったのだ。 「まさか気配でばれるとは思わなかったわ。・・・といってもに悪戯を仕掛けた時は一発で見抜かれたけど」 「気配が同じだったんだろ。あたしもそれで気付いたんだし」 気配を感じ取るという技能。魔法使いならば魔力を観測する事で相手の居場所を把握できるが偽装されると分からない。 ヴィータはから気配の探り方をきいていた。習得したのはつい最近だったが。 魔法使いならば前述の理由でドゥーエには気付けず、一般人ならそもそも見破れない。だが、相手の存在そのものを 感じ取れる武術家、特に第六感が鍛えられた者はドゥーエの偽装を一発で見破れる。 昔に対しウーノに化けて悪戯しようとしたのだが、一目で見破ったがドゥーエに気付かれないようにウーノに連絡を 取り、それとなくドゥーエをウーノのところに誘導して、とても良いエガオのウーノに引き渡された事があるのだ。 「どうしたよ。突然泣きそうになって」 「・・・気にしないで。化けた相手の仕事を肩代わりさせられて死にそうになったのを思い出しただけよ」 まさに殺人的な仕事量だった。ウーノが一日で終わらせる仕事をドゥーエは四日貫徹で終わらせたのだ。あの時姉の凄さを 初めて思い知ったのだった。 「一つ聞くが、今後もあたしの部下を続ける気か? あたしはあえてお前たちの事は何も聞く気ねーけどよ」 「ええ。本局にはが殺したいと思ってる奴らが居るからね。可能な限り情報を得るつもりなのよ」 「・・・を攫った奴か」 「それだけじゃないわ。あの子の父親を殺し、母親に暗示を掛けた男よ。あの子は暗示の事はまだ知らないけどね」 「まだ報告してねーのか。・・・あたしはの母親から伝言がある。暗示の事はいわねーでくれるか?」 「・・・まあいいけど。邪魔はしないでね」 「はやて達に害を与えねーならいくらでもやれ。あたしの知った事か」 「あら、いいの? 管理局がつぶれても」 ドゥーエの意地の悪い質問にヴィータは溜息をつく。 「こんな組織無い方がいい。災厄の根元の大半はここなんだからな」 知りたくもなかった事実。はやて達も知らない、リンディ達もおそらくその存在を信じてもいない管理局の闇。 正義という言葉に酔った客観的に自分を見る事が出来ない愚かな組織のその存在に、ヴィータは改めて頭の痛い思いをしていた。 |