空港火災から4年。八神はやての目指した部隊がとうとう動き出した。 そして管理局を憎む者たちもカリムの予言の通りにその準備を整えつつあった。 アナザーIF 第10話 物語の始まり 「それでは話の長い上司は嫌われるんで、みなこれからがんばっていこか!」 「「「「はいっ!!!」」」」 機動六課が正式に発足したその日、部隊長八神はやての号令から部隊は動き出した。 それぞれの場所に散っていく隊員たちを眺めて、なのははこれから自分達が育てる新人達と合流した。 「みんなは挨拶はしたのかな?」 「あ、はい。それぞれのスキルとコールサインの確認はしました」 なのはの問いにオレンジの髪の少女―ティアナ―が答える。 「これから早速訓練ですか?」 「ううん。それはちょっと気が早いよスバル」 青い髪の活発そうな少女、スバルの言葉になのはは苦笑する。普通の教導隊の訓練なら有無を言わさずに 訓練に入るのだが今回は違うのだ。 「最初にやるのはミーティング。これからの訓練の事とか戦う事になるだろう敵の事とか色々説明しないとね」 「そ、そうですか」 「一年しかないなら早速訓練に入って時間を無駄にしない方が・・・」 「そっちの方が無駄だよ。私はキミ達を一から育てるようなものだからね。行う訓練の意味や目的、そういうことを 前もって教えておいた方がのみ込みが早くなるでしょう? 何も知らされずにただ漠然と体を動かすだけじゃそれこそ 時間の浪費になるんだからね」 「そ、そうなんですか・・・」 今回は普段やるような短期の訓練ではない。短期ならば仮想敵になったりするだけでいいのだが、今回は一年という 長期の教導だ。なのは自身長期の教導は初めてなので前もって教え子になる子達のデータを見ながらそれぞれの訓練を 考えてきたのだ。なのはには管理局の教導隊だけでなく地球の最強の法の守護者香港特殊警防隊の訓練も交えるつもり である。ぶっちゃけ生かさず殺さずだ。その辺のギリギリ限界を見極める事が出来るようになったので教導隊でも有数の 鬼教官と言われていたりする。それだけ管理局の訓練が生温い証拠でもあるが。 なのははちょっとばかり黒い笑顔で新人達を見る。自分も若いがこの子達は幼い。今更ながらに何でこんな子供を 戦場に送り出さなきゃならないのかなと思う。普通ならまだ親に甘えている歳の子供だっているのだ。それも二人も。 この4年間彼女は自分なりにがんばってきた。様々な部隊で催眠に掛かっているものをさりげなく解除してきた。 あまり大っぴらにやると裏に目をつけられる可能性があるのであくまでも密かにかつさりげなく。 フェイトたちも既に解除済みだが本人達は自分達が誰かの望む通りに動かされてきた事などまるで気付いていない。 同時にそれで良いと思う。なのはもそうだったが彼女達は潔癖気味だと思っている。それを知ったらどうなるかをなのは は経験しているのだから。 なのはは新人たちを連れてミーティングルームに入って、午前中はそれぞれの訓練の事や最終的な目標を打ち出して 午後から本格的なトレーニングに入るのだった。 その日の訓練が終わり、新人達はへばっていた。まだ訓練場にいるというか、寮まで帰る余力が無い。 「・・・マジ・・・きつかった・・・」 「・・・噂には聞いてたけど、なんつー鬼教官・・・」 スバルとティアナは何とか口を動かせるが、隣で微動だにしない子供二人―エリオとキャロ―は子竜に心配されているが 全く反応を返さない。しかし・・・ 「・・・充実はしてたわよね。少なくとも知らされずにやってたら途中で投げ出しそうだった・・・」 「・・・そーだねー・・・」 走った。とにかく走ったのだ。逃げ回るガジェットを追い回し、魔法を阻害するAMFに苦戦しながら前もって 得た情報から攻略法を考えてと、今日一日やっただけでもかなり勉強になる事が詰め込まれていた。 ちなみに訓練内容はガジェット8機撃破15分以内を20セット。途中でエリオの足に限界がきたりとか キャロが魔力切れ起こしたりとか、ティアナがカートリッジを切らしたりとか、スバルのローラーが火を吹きかけたりとか とにかくアクシデントやらなにやらてんこ盛りの上になのはは見ながら注意するだけで助けてくれない上に中断もしてくれ ない。だが彼女達はあらかじめ聞かされている。 「あのアクシデント・・・実戦にも起こるかもしれないんだよね・・・」 「それに対応する事も訓練らしいわ・・・ホントに実戦思考よね・・・」 だが嫌いではない。特にティアナにとっては。彼女は将来執務官になりたいと思っている。そのために強くなりたい 彼女にとって今の実戦的で厳しい訓練は望むところなのである。 「・・・ねえスバル」 「なぁにティア・・・」 「体力戻った?」 「子供一人担いで部屋に帰るくらいなら」 「エリオをお願い。あたしキャロを担いでくから」 「りょーかーい」 彼女達はやっとの思いで部屋に帰って泥のように眠るのだった・・・ ちなみに自分たちの部屋に帰るのが精一杯でスバルはエリオを、ティアナはキャロを抱き枕にして眠ってしまい、 翌朝起きたエリオが自分の状態に仰天して一騒動あったが、男として見られてないのか大した問題にならなかったそうな。 寮の一室、なのはとフェイトの部屋ではなのはが新人達のデータを見つつ訓練スケジュールの調整を行っていた。 「どうなのは。新人達の具合は」 「まだまだだね。その分教える事はあるし鍛え甲斐もあるよ」 「そっか。頑張ってね」 「フェイトちゃんもね。捜査あんまり進んで無いんでしょ?」 「うん。尻尾を掴ませてもらえないんだよね・・・」 フェイトは今レリックを集めているものの捜査を行っているが、まったく手がかりが見つからなかった。 「ガジェットを捕獲しても内部機構を焼くシステムがあって中の構造が分からなくされるから足がつかないんだ」 「破壊しても駄目なの?」 「うん」 内部の構造が分かればシステムから何かつかめるのだが、その肝心の部分が完全消失してしまう為どうにもならないのだ。 「唯一分かっているのは外部の装甲だけなんだよね。それにしても正体不明の材質だけど」 成分分析を行ったのだが、比重の違う金属の成分が続々出てきたのだ。研究者達は揃いも揃って混乱していた。 「比重の違う物体は混じり合わない。合金化するのも無理。それが局の鑑識と技術部の答えだし」 「・・・なんか何処かでそういう話を聞いた事がある気がするんだけど・・・どこだっけ?」 なのはは何か頭に引っかかるものがあるのだが特に思い出せなかったので気にしない事にした。 「それよりなのは。あんまり無理はしない方が良いよ?」 「問題ないよフェイトちゃん。あの事件以来無理はしないって決めてあるから」 なのははファイルを閉じて大きく伸びをする。多少プライベートな時間を削っているとはいえ大した時間ではない。 「そういえば副隊長たちは何をやっているのかな?」 「交代部隊として前線投入されてるからね。まだあの子達が使い物にならないから負担掛けちゃうなあ」 なのはにはヴィータが、フェイトにはシグナムが副隊長として付いているが、なのはは少し疑問に思う事もあった。 「私とヴィータちゃんって階級同じな上に先任の一尉ってヴィータちゃんだよね。普通はこの配置おかしくない?」 「そう? 実力的に妥当だと思うけど」 同部隊に同階級の隊長と副隊長。でも先にその階級にいた方が優先されるものなのだ。しかし先に一尉だった ヴィータが下に甘んじている。なのははそれが少し気に掛かっていた。 「なのは。もうそろそろ休もう」 「そうだね。寝坊で遅刻なんてしちゃったら新人達に示しがつかないしね」 ヴィータが納得しているならいいかと考え直して、なのはは休む事にしたのだった。 ジェイル・スカリエッティの研究所では、ゆりかごの調整が行われていた。 「ドクター。聖王の器の完成が確認されたそうです。しばらく様子を見た後こちらに移送するとの事です」 「そうか。わかったよウーノ。聖王の器か・・・わざわざこんなものを動かすために。評議会は本当に腐っているね」 「はい。最後の聖王は女性でした。今生体ポッドに入っているのは幼い少女だそうです」 「・・・それを兵器として使えとね。ますます持って赦し難い。そうは思いませんかね大統領閣下」 『まったくね。これだけの事をやっておいて何が正義なんだか・・・』 ミッドチルダの大統領はあの時以来定期的に連絡を取り合うようになった。 ジェイルの技術力に目をつけたといってもいい。 『こちらの準備は整ってきてるわよ。他の反管理局の管理世界も徐々に戦力を蓄えているわ。貴方達が 提供してくれた装備や新型のエネルギー炉のおかげでね』 「それは良かった。君が頑張ってくれたからね」 『彼にもお礼を言っておいて。彼の設計したサイクロトロンのおかげでエネルギー問題が解決した世界が10を超えて いるのよ。各世界から感謝状が贈られるんじゃないかしら』 円周加速型発電装置。は科学の発達したミッドでさえ実用化されていないそれを作り出した。というより、ある 管理外世界(一度文明が崩壊しモンスターがうろつくようになった世界)を探索中にそれを発見し、知り合ったハンターと 一緒に破壊したのだ。その際にグラムサイトで設計図を読み取ってきたのだ。造ったのはそれを改良したものである。 「本人は要らないでしょう。それよりも探してくれてはいますか?」 『ええ。管理局を潰した後、貴方達が隠棲できる世界を探して欲しいんだったわね。条件に合うものはリストアップしたから 皆で吟味してもらえるかしら』 ジェイルは政府との交渉をした際にある交換条件を出していた。それが事件後に自分達が住む世界の探索である。 戦いが終わった後はさすがにミッドには住む事が出来ないので静かに暮らせる世界を紹介して欲しいと頼んだのである。 『ところで彼は? ここ最近通信した時は居ないけど』 「あの子なら古代ベルカのプログラムの解析作業をつい最近終わらせてから休みっぱなしで。まあ子供達をつれて キャンプにいってるみたいですけど」 はようやく守護騎士プログラムを解析し、改変する事が可能になった。 ・・・のだが、今は精も根も尽き果てて休業中である。子供達とアギトをつれてミッドチルダの火山地帯で温泉を 掘って湯治中だ。ちなみにこの火山地帯は魔獣隔離地域の中にあるので管理局は近づきすらしない。たちにとって は麒麟たちの守りもあるので超がつくほど安全地帯である。 「これ以上の通信はまずいです。そろそろ・・・」 『わかったわ。今後もよろしくお願いするわドクター』 大統領は通信を切った。特殊回線とはいえ長時間の通信は管理局に感付かれる可能性がある。 通信をきったジェイルはウーノと共にナンバーズの定期検診を行うのだった。 「ふー・・・いい湯だったです」 『ふむ。こういうのも良いな。人間の文化は侮れぬものが多い』 「地球の文化ですけどね。ミッドで入浴というか温泉に入るのはつい最近地球から入った文化らしいですし」 アグニと麒麟は一緒に温泉に入っていた。わざわざ男湯と女湯を作り分けているのはひとえに幼いながらも紳士であろ うとするアグニのためだった。あとノーヴェも。ちなみに造ったのはここに住む幻獣たちだ。一度が勧めたところ はまったらしい。しかもから地球の露天風呂の事を聞いて自分達で再現してしまったのだった。 「兄さんは・・・女湯?」 『そのようだ。お嬢にせがまれたのだろう。アレは相当のブラコンだ』 「あははは・・・実際血が繋がってませんが兄さんにとって僕らは弟妹ですし」 アグニはの居場所を探るのに魔力反応を追わずに気配を探った。アグニはからベルカ式、それもヴィータの 解析情報から得た古代ベルカ式を教えた。アギトもアグニに魔法を教えた事もあり数少ない古代ベルカの騎士となっていた。 美影から修行をつけてもらってもいる。さすがに幼い子供にあのトレーニングを施さなかったが、少しずつ厳しいものに変 えていったらしく今では単体でAAクラスの魔導師ぐらいなら互角に打ち合えるようになっていた。 「兄さんも甘いからなあ・・・」 『仕方なかろう。あいつは身内には甘い。その分というか敵にはとことん冷酷だが』 「・・・はい。この間も地下組織の殲滅戦でそいつらが幼い子供を売買しているのを目撃して、末端の構成員の全てに至るま で―――皆殺しにしたそうです」 『その子供達は?』 「政府に交渉してそれぞれ親元に帰したそうです。それが出来なかった子は政府の調査で優良と判定された孤児院に 預けたそうで・・・子供達に謝ってました。親元に帰せなくてすまないって・・・」 その後もしばらく落ち込んでいたのだが、姉妹たち揃ってわざと大げさに騒いで無理矢理を元気づかせたりしたのだ。 『話題を変えるか。朱雀の奴がお前に修行をつけてやるそうだ。存分にしごかれてくると良い』 「いいっ!? 死んじゃいますよ!? あのお姉さん手加減ってものを知らないんですからっ!」 『死なない程度に加減はするだろう。も美影もその辺は信頼している』 「本当に死なないだけじゃないですかー!!!」 南方の守護者・朱雀。性別メス。からの呼び名、通称姐さん。人間の姿をとったときは黒髪をアップにした 赤いチャイナドレスの綺麗なお姐さん。ただし身の丈もある大刀を振り回すワイルドなお方である。 「・・・アグニの断末魔が聞こえた気がする」 「・・・そういえば朱雀様が凄く張り切ってたような・・・」 「・・・姐さん。壊さんように加減してくれよ」 湯船に浸かったとルーテシア、そしてアギトはアグニの絶叫を聞いた気がして黙祷を捧げる。さすがに死んではいないが。 ちなみにルーテシアは聖獣たちを様付けで呼んでいる。どうも格の違いを本能で察したらしいのだ。 「後で治療を頼んで良いか? 貴人」 『ええ。構いませんわ』 が話しかけたのは陰陽道の十二天将の一人貴人。十二天将における主将といわれている天女である。 本来人間が使役するなどおこがましくありそうなお方だが、本人はいたってフレンドリー。自分たちが認めたを 溺愛している節がある神であり、無礼にもは平然と呼び捨てる。何故か本人は特に気にしないというかお気に入りである ならではだろう。朱雀たちですら敬称をつける相手なのだがそれを許されている。 「・・・もうそろそろだな。俺たちが本格的に動き出すのは」 「そーだな。準備は大体整ったよな」 「自由を得る為の・・・戦い」 「管理局の方も機動六課とか言う部隊を新設したそうだ。周囲の反対を押し切って立ち上げたらしいから評判は悪いそうだが」 「時期から考えてあたし達用の戦力かな。まあいくらエースやストライカーをそろえてても倒すだけなんだけどさ」 現時点の戦力では圧倒的にたちの方が上だ。はっきり言って相手にならない。 「だが、時期を読まなきゃいけないし、なによりゆりかごをいつでも出せるようにしないといけない。まだまだ時間が掛かる。 その間に奴らだどれだけの部隊になるかは楽しみだ」 大分戦力は整ったとはいえまだ不安要素はある。何より相手は巨大組織なのだ。油断は出来ない。 「貴人様達は手を貸していただけ無いんですよね」 『ええ。そうよルーテシア。これは貴方達の戦い。それに我々が介入するわけには行かないの。多少権能を貸すぐらいはでき ますけど』 「それだけで十分だ。超越者の力を借りて道を切り開いても仕方が無い。俺たち自身の力で自由を勝ち取らないとな」 『その意気です。安易に我等の力を頼らない貴方だからこそ我々は契約を結んだのです。己の運命は己の力で拓くものなのです から。まあ風なんかを操る力ぐらいは貸してあげますよ』 「ありがとう。引き出しは多いほど良いからな」 は彼等の力を利用する事である切り札を使用可能になった。威力が高すぎてそうそう使えないが、使えば確実に勝てる代 物だ。かなりの大技なので発動まで時間が掛かるし使用するのに条件があったりと制約が多いのでいざという時に使えない事も 間々あるだろうが、アルカンシェルクラスのやばい代物なのでその位は当然だった。アレのようにロック解除だけでどこでも あっさり撃てるようなものではない。 温泉を出たたちはやりすぎてアグニを瀕死にした朱雀がおろおろしている姿に驚きながらも貴人がアグニを治療し、 研究所に帰る事にしたのだった。 準備は双方とも8割完了。それぞれの思惑を孕みながらも物語は進んで行く。 管理局はその正義を示し崩壊の予言を避ける為に、そして彼らは管理局を滅ぼし自由を得る為に。 管理局の者は知らない。自分たちが加害者で、その報いが今始まったのだという事を・・・ 後書き ようやくストライカーズの本編に話が至りました。4年ほどすっ飛ばしましたが。 十二天将が出てきましたがあくまで脇役です。戦闘に出てはきません。 ちなみに彼らは白虎や朱雀とやりあっていたのを見物していて、力を認めて契約してます。 管理局側の新人達は地獄を見てます。おそらく本編よりもきつい訓練を受けてます。 ではヴィータサイド ヴィータサイド 仕事を終えたヴィータは寮の大浴場にやってきた。 脱衣場に入ると籠には何人かの服が入っている。先客がいるようだった。 ヴィータが浴室に入ると、そこには前線メンバーが全員揃っていた。エリオは端の方で真っ赤になって縮こまっているが。 「どうしたんだ? 全員揃って」 「仕事以外でも付き合っていこうかと思ってね。エリオー、こっちおいでよー」 「かんべんしてくださいぃぃ・・・・・・」 「やめとけフェイト。エリオも隙を見て出て行った方がいーぞ」 「そーしますー・・・」 エリオはヴィータをまるで救世主を見るかのような目で見ている。無理も無いだろう。 「捜査は進んでんのか?」 「全然だよー・・・あの装甲もわけわかんないし・・・」 「比重の違う金属で合金を作ってるみたいでな」 「混ざるはず無いのにどうして混ぜられるんでしょう・・・」 女性陣が考え込んでいる中、ヴィータは空中にウィンドウを出した。 「どうしたの?」 「それに関する論文がある。書いたのが犯罪者だからって学会で黙殺されたやつだ」 ヴィータはその論文を映して簡単な説明をする。 「比重が違う。つまり金属のそれぞれの重さが違うから合金化が出来ないと考えられるのが普通だが、その前提を崩してし まえば良いという単純な理論。無重力でならば重さという概念が無くなるためどんな金属であろうが混ざり合うという 説だ。彼はそれを無重力合金と呼んでいる」 「・・・じゃあ、ガジェットの装甲は」 「その無重力合金で出来ているという事ですか?」 「そうだ。軽くて高強度。使う金属によって性質を変える事も出来る。政府の直轄の研究所で検証したところ成功したそうだ。 現在はその研究所でそれを使ったワイヤーなんかを作ってつり橋に使う予定らしい。他にも色々と用途を考え られている注目の新素材だ。管理局では犯罪者の技術だとかで忌避してるらしーが」 「・・・その研究者は?」 「ジェイル・スカリエッティ。あともう一人、連名でサヴァンという人間が共同で研究したらしい」 「賢者(サヴァン)? またすごい名前だね」 「いくつか有用な技術を開発した謎の研究者だ。その正体も定かじゃないが、偽名だという事だけははっきりしてる」 「偽名かー・・・なんかそこはかとなく胡散臭い」 「それよりも、まさかそこでこの名前が出るとは思わなかったよ・・・」 フェイトがその秀麗な顔をゆがめる。 「知ってるの?」 「うん。生命操作技術の研究者だよ。人体改造にただならぬ情熱を見せていた超広域指名手配犯ジェイル・スカリエッティ。 プロジェクトF・A・T・Eの基礎理論を確立した男。すべての人造生命の父と呼ばれてる」 フェイトはスカリエッティの写真と犯罪歴を出して説明し、他のメンバーは嫌悪感をあらわにしている。 「こいつがこの素材に関わってるって事は、ガジェットを製造しているのはこいつかもしれないという事か」 「多分。でもお手柄だよヴィータ。おかげで捜査が進むよ! ・・・でもなんでこの情報を?」 「あたしも色々やってたからあたしの知識も幅が広いんだ。自分一人でやろうとせずに時々周りに意見を聞いたらどうだ?」 「そうします・・・」 ヴィータの指摘にフェイトは湯の中に沈む。ヴィータは面白く無いように鼻を鳴らす。 「はやてもだけどお前らは何でもかんでも自分でやろうとする傾向があるよな。せっかく部下がいるんだからそっちを使え」 「で、でも・・・その方が速いし」 「それじゃあ部下が育たねーだろ。上司が部下を使うのは当然の事で、それによって部下が仕事を覚えて行くんだ。 あたしだってここに来る前はそうして部下を育ててたんだ。上に立つなら人を使う事を覚えろ。スバルたちにも 書類仕事はあるしそれを手伝ったりするのはゆるさねーぞ。そうでねーといつまでたっても上達しねえ。ティアナ」 「は、はい! 何でしょう副隊長!」 「スバルの仕事は手伝うなよ。お前は得意そうだから前もって言っておく。後手伝うなら勝手が分かってないエリオ とキャロを手伝ってやれ。あくまで助言かヒントだけ出すように」 「わ、わかりました!」 「てぃ、てぃあ〜・・・」 厳しいヴィータにスバルは絶望の声を上げる。彼女は書類仕事は大の苦手なのだ。頭脳は優秀なので覚えれば速い のだろうに。なにせ彼女は訓練校を主席卒業している。 「スバル」 「は、はい〜・・・なんでしょうか〜」 スバルは早くもヴィータに苦手意識を抱いた様で及び腰になっている。 「お前アイスが好きなんだってな。風呂上りにあたしの一押しを紹介してやるぞ」 「ホントですか!? ありがとうございますっ!!」 スバルは先ほどの及び腰が嘘のように、犬のように尻尾があればブンブン振っているかのような表情でヴィータに懐き始めた。 その変わり身にその場の全員が苦笑した。 ヴィータは少し心苦しく思う。自分はいつかに奪われる。その時自分は今目の前にいる仲間たちにその武器を振るうのだ ろうか。出来ればそうならないように、はやてたちが真に倒すべき敵に気付くのを心から祈っていた。 |