ヴィータが残していった管理局の不正調査書(通称ヴィータファイル)によって、機動六課は混乱していた。
 自らが掲げる正義が人の命や権利を踏みにじり、あまつさえその片棒を少なからず担がされていたのだ。
 その衝撃は計り知れない。彼女らは上司というべき存在に今後の指示を仰ごうとしていた。


 アナザーIF 第14話

 管理局と聖王教会


 はやては隊長陣を連れて聖王教会にやってきていた。レリック収集の方はガジェット、ひいては達の方に任せた。
その方が安全だという事がヴィータファイルから確認されたのだ。レリックのみならず様々なロストロギアが
回収後に研究所を経由してどこかに消える、もしくは保管庫に置かれてから消えるという事が度々どころか
頻繁に起こっていたのだ。追跡調査の結果、六課が回収した物もまた、どこかに消えていた事が確認されたのだ。
 こうなっては管理局など信用できなかった。妙に金回りのいい部隊もあれば、管理局の給料では考えられないような
生活をしている幹部、一般局員も確認されている。その金の出所が何なのかは考えるまでもなかった。
 腐敗はそれだけに留まらなかった。一部幹部が娼館のようなものを経営しているという情報もあった。そこで働いて
いるのは管理外世界から誘拐された女性、しかも幼い子供(男女問わず)もいるという。悪夢のような情報、いや現実だった。

「・・・これは真実なのですか?」
「フェイト執務官が追跡調査を行い真実だと確定したものです。おそらくヴィータは何もかもを知っていました」
「・・・確かにそのような節はありましたが、裏切るとは・・・」
「裏切りというよりも、見限った、が正解でしょう。今思えばそれに気付くチャンスは山のようにありました」
「それに気付くことなく、私たちは管理局は正しいのだと思い込み、彼らの役に立っていた・・・」
「お恥ずかしい限りです」
 カリム・グラシアは目の前の六課幹部達から聞いた真実に頭の痛い思いをしていた。まさか管理局が、自分達が協力して
きた組織がこれほどまでに暴走しているなどとは思わなかったからだ。平和ボケしていると言われても反論はできない。
「このことはクロノ提督には?」
 彼女達の後見人であるかの提督のことを口にした瞬間、フェイトの雰囲気が変わった。明らかに殺意が渦巻いている。
「あ、あの・・・?」
「ああ、すみません。ちょっと殺意が」
「いえ、それもどうかと思いますが、何かあったんですか?」
「・・・ふ、ふふふ。あの愚兄は自分と同じ境遇の子供を助けようとしている私を利用して、将来の局員を得ようとしていた
んです。それも私が無意識にそう仕向けるように小細工までして!!」
 かなりブチ切れている。そう、彼女の本心としては子供達には争いの無い平和な生活をしてもらいたかったのだが、それを
踏みにじられているのだ。なのははこの暗示には気付いていなかったため発覚後すぐに暗示をといたが、その成果がすぐ
側にいるのだ。そうなった本人も凄く複雑である。フェイトに恩返しがしたいと常々思ってはいたが、自分で選択した結果
がまさか他人に誘導されたものだったとは・・・ちなみにキャロは既に局員として働いていたのでカウントされてはいない。
 さすがにそれはカリムもクロノの正気を疑う。他人の人生を操作しているようなものなのだから。
「今のクロノは・・・というか管理局そのものが信用ならないので上には報告してません。適当に誤魔化しておきました」
「例外としてナカジマ三佐と三提督のお歴々には知らせてはあります。どちらもヴィータが関わっていたので」
「なるほど・・・彼女は管理局の不正を捜査し、告発する予定だったと・・・」
「いえ・・・違います。ミゼット提督たちはヴィータに不正捜査をさせて自分たちが正すつもりだったらしいのですが・・・」
「ヴィータとナカジマ三佐はごく個人的な理由で不正を調べていたんです。ナカジマ三佐は奥様の不審な死について。
そしてヴィータは、の為に」
「その方は鬼仮面の・・・。彼等の有利になるように、ですか?」
「いえ・・・違うのですカリム。彼は管理局により誘拐され、その死を偽装されていたのですが、騎士ヴィータは真実に気付き
彼を探し続けていたのです。その結果が管理局の不正に繋がっただけで・・・」
「ヴィータちゃんは君を取り戻す気でいたんですけど、そもそも管理局が犯人なので君の下へ行っちゃったんです。
 例え君を取り戻せても、実験動物にされるからって・・・」
「・・・そうですか」
 カリムはもうそれ以上なにも言えなかった。全ての元凶が管理局なのだ。ヴィータの選択はある意味正しいのだろう。
「ヴィータが最後のページにコメントを残していました」
「コメント?」
「【正義は大義名分でしかなく、免罪符ではない。自身を正義とするのなら、己を律する事を忘れるな。正義に対義語は無い。
悪の対義語は善である】です」
 この言葉を見つけたとき、はやてたちは震えた。正義と言う言葉に踊らされていたと自覚した瞬間だったのだから。
「正義なんて個人レベルで違うものです。そして正義と善は必ずしもイコールで結べない」
「管理局はそれを見落としているんだと思います」
 今の管理局はただの横暴な犯罪組織である。最早はやてたちですらそう思わざるを得なくなっていた。
 カリムはしばし沈黙し、
「申し訳ありません。そうであるならば我々は管理局とのご縁を断ち切らねばなりません」
「「「「えっ!!??」」」」
 その言葉にはやてたちは驚愕する。まさかそんな言葉が返ってくるなど想像もしていなかった。
「元来我らは微妙な関係にあります。管理局内部には教会の影響力を疎むものも多くいますし、管理局のやり方に反発する
信者達も数多くいるのです。今協力体制にあるのは危険なロストロギアの回収と言う同じ目的があり、協力し合った方が
効率がいいからでしたが・・・」
「・・・そうやね。その回収したロストロギアが裏のマーケットに流されてるんやし・・・」
「ええ、最早協力はできません。あらゆる支援等を打ち切らせていただくことになります」
 カリムの決断にはやてたちは何も言えない。言えるような立場ではないのだ。
 仕方の無い事だと諦めて、はやてたちはカリムの元から退散した。
「ごめんなさいねはやて。でも、もうどうすることもできないのです・・・」
 カリムの謝罪に、はやては無言で頷くのが精一杯だった。

「行ったな。あんたも結構悪党だよな」
 一人になった執務室に突然声が響く。カリムは振り向くことなくその声に答える。
「・・・仕方の無い事です。事前にすべて知らされていたなど、今更言えるわけがありません」
「まあでも、それが聖王教会の上層部の判断だからな。あんたもそう簡単に口出しは出来ねー」
「そうですね。しかし・・・あのコメントはあなたらしくありませんでしたか?」
「元はが言ったことだよ。あたしはそれを書いただけ」
 部屋の隅、少し影になった場所から滲み出るように赤い髪の女性が現れる。
「それで、会議の方はどういう具合ですか? 騎士ヴィータ」
「特に問題なく進んでるよ騎士カリム。新技術の譲渡も行われているしな」
 そう答えたヴィータは以前とは色々と違っていた。三つ編みにしていた長い髪は首の後ろで一つにまとめられ、その出で立ち
は以前のようなゴシックドレスではなく、機能性重視と見える黒のズボンに黒のインナー。そして赤いコートを纏っていた。
「以前とは大違いですね」
「前のはどっちかって言うと見た目重視な感が強かったからな。は特に見た目に拘らねーし」
 戦闘時にはこの服装に手甲と鋼鉄製のブーツが付く。今はつけていないが。
「で、本当なのですね。聖王陛下のことは」
「聖王として何かさせる気はねーよ。あたしも、仲間たちも。だけど、聞いたろ?」
「・・・ええ。まさか数年前の一人の司祭の殺害事件がこのようなことに繋がっているとは・・・」
「聖王の聖骸布から遺伝子を採取し復元。そこから聖王を培養する。それも生体兵器としてだ。教会の人間にとっては祭神を
踏みにじられたようなものだ。例え神が復活するとあっても」
「神ではありません。我らは聖王陛下の成された偉業をたたえ、そして古代ベルカの遺物を回収し管理する事を目的としてい
ます。かつての負の遺産を誰にも使わせないために・・・」
 それが聖王教会の務めだとカリムは話すが、一部の狂信者は聖王を復活させ再びベルカ戦争を起こす気だったようだ。
 そういった連中は既に駆逐されたが。
 聖王教会の枢機卿達は、その情報を聞いて怒り狂った。それを行った管理局に対して。
 そして・・・今、教会のある一室では会議が行われているのだ。それはある意味サミットと言えるものかもしれなかった。

 その一室では、教会の代表である枢機卿と、各管理世界の大統領や首相、もしくは王が一堂に会していた。
「この会合が行われたことを感謝いたします」
「顔をお上げください。あなた方が参加してくれたおかげでこちらもやりやすくなりましたから」
「そうですぞ。ここにいる誰もが反管理局の人間だ。多数の世界に影響力を持つあなた方が付いてくれた事で
参加者が増大している」
「戦力が増えるのは良い事だ。彼らの調査によると何かやばいものを隠しているようですからな」
 そこで全員の視線がある男性に集中する。その男性は黒のタキシードに黒のハット、そしてステッキを持った
髭の紳士だった。年の頃はおそらく50台。
「ミスター・サヴァン。その情報は確かなのですか?」
「うむ。評議会のすぐそばに一人忍ばせているのだが、なかなか危険な代物のようだ。その者がとても慌てた文面で
報告してきたのだよ。ゆりかごに匹敵する危険物のようだ。もっとも、質量兵器などと言っても所詮どう使うかが問題であ
って、それそのものを否定するわけではないのだがね」
 その男―サヴァンはしわがれた声でそう告げた。枢機卿はその物言いに胡散臭いものを感じて顔をしかめるが、他の者は
楽しげに笑うだけだ。彼はあえてそう演じているのだから。彼にとって胡散臭いは褒め言葉である。
「管理局が万年人手不足に陥っているのは、単純に彼らの失策だ。質量兵器による世界滅亡寸前までの大戦争をやらかした
ことで否定的になるのは分かるが・・・だからと言ってあらゆる世界からそれを奪うのはどうかしている」
 一定の攻撃力を容易に配備する事ができるのが質量兵器の強みだ。火器で武装した兵を登用していれば、こうまで人材
不足に陥る事も無かっただろう。魔法と言う個人の資質に依存する戦力に偏った結果がそれだった。
「魔法が無い世界ではそういうものに頼らざるを得ない。確かに管理世界のほとんどが魔法と言う文化を持ち、他の世界を
観測するに至っているが」
「魔法が全てと言う世界はミッドチルダだけだ。我らの世界は魔法を持たぬものは携帯火器を常備している」
「拳銃のようなものですな。魔法を使う者から身を守るためですかな?」
「そうだ。魔法使いによる一般人への暴行事件や殺傷事件が後を絶たなかったからな。最低限の備えと防衛手段として
携帯を許可している」
 その所為で管理局にいらぬツッコミを入れられた事もある。なら力無き者はどうやって身を守ればいいのか。
 力のあるものは力の無いものを見下す事が往々にしてある。そしてそれを虐げる事などざらにあるのだ。
 そしてそれはミッドでも度々起こるのだ。バインドで身動きを封じられた女性が暴行を受け、時には殺害される。
 そのことを指摘された管理局はこう返した。そのような隙がある方が悪いのだと・・・
「力無き者が泣きを見る世界。それが今のミッドチルダです」
「隙も何も・・・魔導師と一般人とがどれだけスペックに差があると思っているのだ」
「個人差にもよりますが・・・鯨とメダカ程の差があるでしょうに」
 ごく一部の人間はそれを逆転させる事もあるが、一般的には彼らの言ったとおりである。
 そしてその力の差を埋めるのが・・・
「質量兵器。訓練しだいで誰にでも使えて、簡単に人を殺せる武器の総称。管理局にとって忌むべき旧時代の武器」
「兵器の普及は流れから言えば当然なのだ。訓練すれば誰でも使えるなら戦力の増強はたやすい」
「訓練さえすれば誰にでも使える。それが子供でも。その為の武器だろうに」
 そもそも兵器の発達はより簡単に、より多く、より効率的に人を殺す為だった。
「まあ、その話はさておき、進捗状況はどうですかな?」
 サヴァンは無理やり軌道修正した。このままでは際限なく脱線してしまう。
「それぞれ各世界80%と言うところか。さすがに連中に隠れながらだからな」
「多少の遅れはむしろ許容範囲ですね。それに、数で押せばある程度はどうにでもなります」
「我らの相手は本局の次元航行部隊だ。奴らを超える大艦隊を擁し、アルカンシェルの射程外から一斉掃射すれば
大部分を倒せるだろう」
 次元空間内では人間の戦力は出せない。起こるのは艦隊戦のみだ。だからこそ魔導師は必要ない。
「そちらは任せました。地上の方はどうするのですか?」
「スカリエッティのナンバーズと、ミスター・サヴァン?」
「こちらの魔導師たちで当たることになりますな。なあに、地上の連中は一部を除いて低ランクの者しかいないのでしてな。
数が少ない分、質でカバーするまでです」
「総力戦になった場合、教会騎士団も出撃させましょう。最近平和続きで少々質が落ちてますが」
 地上もおおむね問題ない。たとえ六課が出てきても、既に一度破られているのだから。
「管理局とて一枚岩ではないし、まじめに世界平和に取り組むものもいる。だが、管理外世界から見れば侵略行為とそう
変わらないあたりがいただけませんな」
「そうですな。もっとこう、管理外世界にも法があるのだし、現地でその法を遵守するのは当たり前だと思うのだが」
 サヴァンは、ある世界に居を構えた一家のことを思い出す。そういえば彼等は戸籍とかどうしたんだろう。
「・・・まあ良い。皆様方、このたび開発した高効率タイプのソーラーパネルがあるのだが、どうだろう」
 サヴァンはこれまでに開発した新技術をそれぞれの世界に譲渡して、その会議はお開きになった。

 ヴィータはとある町のホテルでシャワーを浴びていた。そして同じ部屋には、特殊メイクを剥いだが新聞を読みつつ
コーヒーを啜っていた。テーブルには痛み止めと思わしきアンプルが置かれている。
 しばらくするとヴィータがバスルームから上がってきた。
「しかし・・・ここまでする必要あんのか?」
「あくまで謎の研究者サヴァンを演じているだけだからな。あとヴィータ、少しは隠しなさい」
「いいじゃん別に。はもうあたしの体の隅々まで知ってるんだし」
「少しは恥じらいと言うものを持ってくれ。チンクはけっこうその辺気にするのに」
 チンクを引き合いに出されて、ヴィータは少しむくれる。彼女は一緒に風呂に入ったりはするが、普段はきっちり服を着て
いる。そして彼女の言葉を思い出して、ヴィータは素早く服を着た。曰く、普段からそうだと飽きられるかもしれないと、
普段は貞淑な方が男には好まれると、チンクだけでなくウーノからも聞かされているのを思い出したのだ。
 ヴィータはの隣に寄り添い、甘えるように体を預け、はヴィータを軽く抱き寄せた。治りきっていない肋骨が
少し痛むが、とりあえず無視する。そろそろ痛み止めが切れてきたらしい。
「で、今後の予定は?」
「まだ本調子じゃないんでしばらくお休み。研究所に戻って治療と調整かな」
「ヴィヴィオにお土産買わないとなー。他の連中の分もいる?」
「買った方がうるさくないな。主に食べ物推奨」
「りょーかい。なんか買ってくる」
「わかったよ。俺は部屋にいるから」
 部屋を出ようとしたヴィータは、少し止まる。
「なあ、
「うん? どうした?」
「はやてたち、大丈夫かな・・・」
「・・・何とかするだろう。なのはとあの子が」
「・・・そーだな!」
 結構気にしていたらしいヴィータは、教え子への期待と信頼を思い出して、意気揚々と買い物に行った。
「・・・さて、クロノ・ハラオウン。お前はどう出る?」
 は新聞を見ながらそう呟いた。


 はやてたちが六課本部に戻った時、驚愕した。会いたくも無かった人間がそこにいたのだ。
「何でそんなにいやそうなんだ?」
「そう? ちょっと機嫌が悪いだけだからそう見えるんじゃないかな」
 そこにいたのはクロノ・ハラオウン提督。ヴィータファイルによる暴露により、会いたくない人物TOP5にまで
上り詰めた男である。なお彼は自分の株価が大暴落しているなどまるで気付いていない。
「何しに来たの?」
「前の事件の報告を受けたけど、色々明記されて無い部分があったからね。その辺はどうなっているのかと」
 そう、クロノは前の事件を、との戦いの一部始終をカリムと共に見ていたのだ。上がってきた報告書には
一部書かれていないものがあったため直々に足をはこんだらしい。
 クロノの行動力にフェイトたちは内心で舌打ちをする。少しもおくびに出さないあたりさすがではあるが。
「鬼仮面の正体の事、その人物の詳細、目的、分かった事が色々あったはずだ。何で報告書に書かなかった?」
「・・・こっちも混乱してるんだよ。アレが本物のかどうかも分からない。何のためにヴィータを奪ったのか、管理局への
敵対行動を取る理由も漠然としてて確たる理由が見えない。ちゃんとした理由が分かるまで報告は控えようと思ったの」
 咄嗟に考えた言い訳だ。ヴィータファイルがある今、の目的も理由も確定している。
「相手はジェイル・スカリエッティだよ。もしかしたらのクローンを使っているのかもしれない。私たちを混乱させる
、もしくは油断させるために。どうやって遺伝子を入手したかは知らないけど、ありえない話じゃない」
 苦しい言い訳だが、裏事情を知らないクロノはあっさりと納得する。何とか危機は乗り越えた。
「クロノ君は君が敵として向かってきたらどうするんや?」
 はやては知りたくなった。かつての友人と戦う事になるなら、どう考えるのか。
「偽者なら容赦なく潰せばいいし、本物だとしても倒すだけだ。テロのような真似をしている以上、奴のやり方は受け入れられ
ない。そんな事をしてもどうにもならない。ただ破壊と混乱を招き、いたずらに被害者を増やすだけだ」
「たとえ理由があっても?」
「世の中を変えたいならもっと別に方法があるはずだ。政治家になるなり、局員として内側から変えればいい。外から無理やり
力を加えても意味は無い。叩き潰されるだけだ。たかが十数人のグループ程度で潰されるほど管理局は脆弱じゃないさ。
テロなんて間違ってる。そんな方法で何かを得たとしても、それに意味は無いだろうさ」
 クロノの言葉もある意味正しいだろう。裏事情を、真実を知らなければ。だがそうであっても簡単にいくものではない。
 真っ当な立場の人間ならば可能ではあるが、真っ当な方法を取れない者のことをまるで考えていないクロノの回答に、
はやてたちは落胆したのだった。

『八神部隊長。少しよろしいでしょうか』
「ティアナ? ええよ。入っておいで」
『失礼します』
 ティアナは少し緊張した面持ちで入ってきた。追加と思われる書類を持っているのではやては少し顔をしかめる。
「どうかしたか?」
「書類はロングアーチからのです。ついでに持って行ってくれと」
「そか。ティアナの用件は?」
「・・・ヴィータ副隊長が抜けたのでスターズの副隊長が空いてるんですが、どうするんでしょうか。皆気になってて」
 ヴィータが抜けたと聞いてはやての表情が曇るが、すぐに気を取り戻す。
「・・・補充人員は期待出来へん。ギンガが六課に出向してくる予定やけど・・・」
「それに関してはもうこちらで決定したぞ」
「・・・クロノ?」
 全員がクロノに注目する。
「ヴィータが抜けた穴を埋めるために人員が回される事になってな。今もうその人に通達がいっているはずだ。事後承諾で悪
いんだが・・・」
「・・・まあええわ。その人の情報は?」
「ゼスト。ゼスト・グランガイツだ。元首都防衛隊の隊長で、ある事件を追っているときに部隊が全滅。何とか生きながらえた
そうで、しばらくの休養の後、部隊に属さず特別捜査官として一人で様々な事件を解決してきたそうだ」
「結構なベテランなんだね。いいの? そんな人六課に加えて」
「六課の敗北を評議会の方も重く見たらしい。なのはたちのリミッターも解除されるそうだ」
「評議会・・・か」
 ヴィータファイルには評議会のことは書かれてはいなかった。信用できるのだろうと判断したはやてたちは、ゼストのことを
スターズ副隊長として受け入れるのだった。
 その後、はやてとフェイトはクロノの追及をのらりくらりとかわして、穏便に追い返すことに成功した。
 ちなみに、決まり手は【最近オペレーターの娘と仲良いらしいよね。義姉さん少し気にしてたよ?】だった。 


 クロノが帰った後、オーリス・ゲイズが六課の強制査察にやってきた。嫌がらせの意味が強いため、本人もあまりやる気が無
かったようで、査察中に見つけたなのはのデスクにあった海鳴にいる親友達が写ったアルバムの、特に月村家のにゃんこたちの
写真を焼き増ししてもらってホクホク顔で帰っていった。にゃんこマニアのすずかチョイスの写真だったため、かなりの傑作選
になっていたらしい。それはそれは嬉しそうだった。彼女の意外な一面に全員毒気を抜かれたりもしたが。
 そして、彼が正式に配属される日が来た。
「ゼスト・グランガイツ一等空尉です。よろしく頼みます」
「始めまして。八神はやて二等陸佐です。ようこそ機動六課へ」
 ゼストは制服姿で部隊長室にいた。
「前回の事件での敗北の事は聞ました。相手が悪かったようで」
「そうみたいです。策略に長け、あまつさえ個人の戦闘スキルも尋常やない相手でした。・・・リンカーコアを
奪ってなお、魔法のようなものを行使してきましたし」
「それが最大の問題ですね。奴のそれを防ぐ術は?」
「・・・咄嗟に張ったシールドも、バリアジャケットすらも意味を成しませんでした。特別な効果があると言うか・・・」
「なにか気になることでも?」
「印象としては、すり抜けてくる感じでした。魔力や物理の攻撃なら受け止めた手ごたえを感じることもあるんですが」
「・・・奴の力は魔力ではなく、しかもそれは魔力を透過するということでしょうか?」
「そうかもしれません。ですがはっきりした事は何も・・・」
 二人は考え込む。はやてとしてはと戦う事は否定的ではあるが、組織としてはそれは許されない。ならば対応策を
考えなければならないが、いい案が出ない。それはゼストもだ。彼もを直接知る人物ではあるが、付き合いは無いに等しい。
機動六課の誰も、今のの詳しい情報を持っていないのだ。ヴィータファイルにもの能力は書かれていなかった。
 悩む二人のいる部隊長室に通信が入ってきた。発信者はシグナム。
『今病院から帰りました。シャマルの容態ですが、両腕は複雑骨折で全治2ヶ月。他は大体一月以内に治るようです』
 二人はザフィーラと共にシャマルの容態を聞きに病院に行っていた。ザフィーラはそのままシャマルについている。
 普通の医療なら軽く半年はかかるのだが、魔法を使っているせいか異様に治りが早い。魔法さまさまである。
「そか。ご苦労さん。これから新しいスターズの副隊長を紹介するから、ロビーにみんなを集めてもらえへんかな」
『了解しました。では』
 はやてはゼストに向き直る。
「悩むのは後でもできるんで、今はゼストさんの紹介を皆にしましょか」
「そうですね。行きましょうか」
 こうしてゼスト・グランガイツが機動六課に編入された。彼の加入で、今後一体どうなっていくのか・・・
 それは誰にも分からないのだった・・・


あとがき
ヴィータの残したファイルによる混乱と、反管理局連合の会議の話でした。
サヴァンの声はあのお方をイメージしていただけると幸いです。
そしてなんとゼストが機動六課に合流! もちろん評議会の命令で。
ゼストは戦闘機人事件後の経歴を書き換えられています。
ちなみにヴィータファイルですが、あくまで彼女が調べた局内の不正行為などが書かれています。
評議会の方は、さすがに権限上どうしようもないので書かれてません。


ではヴィータサイド



 研究所に帰ってきたとヴィータは、すっかり馴染んだヴィヴィオに迎えられた。
おにーちゃん! ヴィータおねえちゃん! おかえりなさい!」
「ただいまヴィヴィオ」
「けがとかしてなあい?」
「怪我するようなことはしてないよヴィヴィオ。泣かされたりしてないか?」
「おねえちゃんたちみんなやさしいもん!」
 そういって胸を張るヴィヴィオにヴィータが頭を撫でる。喜ぶヴィヴィオに肩車をしながら、ヴィータが先にリビングに
行った。
 その場に残ったは、同じくその場に残ったシリウスと顔をあわせる。
「何か異変は起こったか?」
 シリウスはの問いかけに軽く吠える。
「そうか。特に問題なしか。そばにいてやってくれよ」
「わんっ!」
 尻尾を振りながらヴィヴィオを追っていくシリウスを見送る。会話が成立していたのは、シリウスの知能がかなり高い事と、
グラムサイトを使って表層意識を読んでいたからだ。
「・・・動物の言いたい事が分かるのは便利だよな」
 一言呟いて、は医務室にある痛み止めを取りに行くのだった。

 リビングでは、オットーがソファに寝転び、その腹を枕にしてブランシュがあお向けでくつろいでいた。まるでおやじのよ
うである。例によってクアットロがそんなおやじなにゃんこを撮影しており、クイントがその光景を微笑みながら見守っている。
「どういう状況だ?」
「こういう状況だな」
 もう慣れたとはいえいまいち理解不能な光景(特ににゃんこ)に、首を傾げるヴィータと視線を向けずに言うトーレ。
 そんなトーレは何かのカタログを見ているが・・・
「・・・服のカタログ?」
「新しい服を買ったらどうだと言われてな。実際ここ数年新しいのを買ってはいないし」
「トーレは服飾に興味がないようなので、恐縮ながら勧めさせてもらった」
 セッテがマフラーを編んでいる。その速さは人間では真似できない速さだ。さすが戦闘機人。スペックの無駄遣いだ。
「誰に贈るんだ?」
「いつも世話になっているので、まずはに。その次はドクターの予定だ」
「造物主より育ての親か」
「ここにいる全員同じような順番だ。まずに贈るな。バレンタインとやらのチョコレートも全員まずに渡した」
「一番最初に渡したのは言うまでもなくチンクだが」
「そりゃそうだろうな。じゃああたしが最後だったわけか」
 去年のバレンタインではヴィータは手作りに挑戦し、と待ち合わせて直接手渡している。
「少し早くねーか? まだ夏だろ?」
「しばらく忙しくなりそうなんで先に作っておこうかと思ってな」
 そういって、今度は手袋を縫い始める。サイズが小さいようだが・・・
「ヴィヴィオ用だ。あの子にはいろいろと用意してあげないと」
「そういうことか。あたしも何か買ってやるかな」
 ヴィヴィオはまだここに来て日が浅い。今はルーテシアのお古を着ているのだ。
 ヴィヴィオにどんな服が似合うか。カタログを見ているトーレと話し合いながら、ヴィータは楽しげにカタログを眺めるのだった。

 痛み止めを打って人心地ついたは研究室にいた。そこではちょっとした報告会をしていたのだが・・・
「ゼストが六課に加わっただと?」
「ああ。確かな情報だよ。いつか敵に回ると思ってはいたが・・・」
「ポジションからしてヴィータの代わりか。しかしゼストの方がランクは高いが」
 ヴィータはAAA+ランク。ゼストはSランクである。
「六課の保有制限が評議会の特例で解除されたらしい。彼女達もリミッターが解除されたようだ」
「制限が消えたか・・・やっかいな」
 ジェイルの報告に、は頭を抱えたくなる。評議会がゼストを六課に配置したということは・・・
「暴れすぎたか。とうとうマークされ始めたな」
「君の霊術も関係しているだろうね。魔力を用いない正体不明の力の行使。魔導師至上の彼らにとって受け入れ難いものだろう」
「人造魔導師にこだわったのもあいつらだしな。魔導師を量産しようと考えるほうがどうかと思うが」
「作るなら戦闘機械だろうに。質量兵器がどうこう言われそうだが」
 評議会はなぜか魔導師という存在に固執している。レリックウェポンだって魔導師の能力をレリックにより強化したものだ。
「ところで君。人型の戦闘兵器に心当たりが?」
「この上なく。とある世界の遺失技術の産物だ。見た目人間にしか見えないのに、素で2トンある鉄骨を持ち上げられる」
「・・・今それは何をしているんだい?」
「メイドだ。かなり優秀。挙句超美人」
 故郷にいる彼女のことだ。元々人じゃないからかとても美しい。おそらく理想のメイドだろう。
「ふっ・・・僕の娘たちのほうが」
「各種アタッチメントで武装可能な上に―――ロケットパンチつきだ」
「っ!?・・・・・・・・じ、自爆装置は?」
「さあ? 使ったとこ見たことないけど、その主人がマッドなんでついている可能性も」
 がそう言った時、某メイドさん(現在ドイツ在住)は主人に自分の内臓機器の完全な情報開示を迫ったらしいが、
知る由もない。
 ジェイルは悔しそうな、いや羨ましそうな?表情でうつむいている。彼のマッド属性を刺激してしまったか?と思案してしまう。
君・・・」
「な、なんだ?」
「その彼女じゃなくてもいいからサンプルはないかね? 次元世界でも確認されてはいないがどこかにあるかも!」
「落ち着けジェイル! その人は知り合いなんでだめだが、事が終わったら自由に探しにいける! だから顔を近づけるな!」
 鼻先まで迫ってくるジェイルを何とか引き剥がす。正直、むさい男の顔などアップで見たくはない。
 それに本当あるかもしれないのだ。某シンクタンクで開発されたA・ナンバーズとか、どこぞの暴走する巨大戦車の中に
眠る人型戦闘兵器αとか。管理世界は魔法文化を持ち、異世界を感知できるまでにいたった世界で、科学技術だけでもっている
世界はすべからく管理外だ。だからどこかに常識を超えた超科学の産物があるのかもしれない。
 興奮気味のジェイルに、は興味本位で書いたことのある人型ロボットの草案を押し付けて部屋から逃走した。
 が逃げた後、インスピレーションを刺激されたらしいジェイルの奇声が響いたらしいが、誰も彼もが無視を決め込んだそ
うな。


 適度に緊張を保ちながらのんびり過ごすたち。油断はない。過信もない。相手の情報を常に収集しながら対応策をとって
いる。そして次の作戦が決まった。
 狼煙を上げる。各反管理局勢力への盛大な狼煙を。標的は時空管理局地上本部。狙う時期は、公開意見陳述会。
 大物が集まり、マスコミも集まるその会合。かつて読まれた予言の成就は、もうすぐそこまで迫っていた。


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