「大変です! 西部の森林地帯から謎の巨大船が出現しました!」 「なんだと!? 総員配置につけ! それとその船の写真を無限書庫に送り調べさせろ!」 「了解しました!」 「ちっ! それがお前達の切り札か!」 機動六課本部の上空で待機していたクラウディアで、クロノは盛大に毒づいた。 そして更に悪い情報が入ってくる。 「そ、そんな!」 「どうした!」 「集結していた各管理世界の軍が、管理局の施設を襲撃し始めました!」 「な、なんだとおおおおおおお!!!!?」 共に戦うはずの仲間からの強襲に、クロノはただ驚愕の叫びを上げる事しか出来なかった・・・ アナザーIF 18話 次元世界VS時空管理局 レジアス・ゲイズは、いや管理局の幹部達は呆然としていた。それはそうだろう。味方であるはずの軍が自分達に 総攻撃を仕掛けてきているのだ。 「ば、馬鹿な・・・。一体何が・・・?」 「軍の司令官に連絡を取れ! この状況は何事か!」 「は、はい!」 何とか気を取り直したものが状況を知るために動く。 そしてある管理世界軍の司令官に通信が繋がった。 「これはどういうことだ! スカリエッティが巨大戦艦を出して局を攻撃しようとしていると言うのに!」 『・・・無様だな』 「何!?」 『分からないのか? 始めから、この為に我らは集結したのだ』 「なっ・・・!」 幹部達は司令官の言葉に驚愕する。彼らにとっては寝耳に水もいいところだ。 そんな幹部達に侮蔑の視線を向けながら、その司令官は言葉を続ける。 『我らは貴様らの強制的な干渉をこれ以上望まない。その世界にはその世界のルールがある。貴様らは力でそのルールを 捻じ曲げ、自分達の法と権力を無理やり行使する。それによる混乱がどれほど起こっているか』 「何を言っている!? 我らは正義のために、人々の平和を守るために!」 『・・・そもそも、世界を移動するような広域次元犯罪者を取り締まるだけならまだ良かったのだ。だが、我が世界での 法律上問題ない行為でありながら、管理局法に違反すると言うだけで逮捕された者が大勢いる。別の世界でもだ』 「法に反している以上罰するのは当然の事だろう!」 『だから言っただろう。我が世界の法では違反ではないと。管理局法にそこまでの権限があるのか?』 「我らは司法機関だぞ!」 司令官は諦めたように溜め息をついた。彼等は確かに正義のために戦っているのだろう。だが、その正義が各世界にと って正義なのかどうか、考えた事も無いのだろう。この司令官の住む世界には少数とはいえ有翼種族や小妖精の類が 存在しているし、飛行魔法が使える魔導師のためにも航空法が施行されている。最低限のルールさえ守っていれば 普通に空を飛んで構わないのだ。だが、この司令官の友人(小妖精)が局に逮捕された時はあごが外れそうになった。 主に呆れで。種族的に普通に空を飛ぶ存在が逮捕されたのは、社会に激震を走らせたのだ。 『・・・もういい。話にならん。こちらはお前達の独りよがりな法に振り回されるのは真っ平御免なのだ。ついでに 言っておくが、お前達のやっている事は立派な国際問題になっていた。他国で自国の法を振りかざすなど内政干渉も いいところだろう。もういい加減、我らの堪忍袋の緒は切れたのだ。こちらからいくら干渉をやめる様に言ってもきかん のなら、力ずくで黙らせるしか方法が無いのだよ』 「なぜ、このようなタイミングで・・・?」 『簡単な事だ。我らにこの話を持ちかけたのは彼らなのだよ』 「何だと!?」 『管理局が邪魔なもの同士協力して、この思い上がっている巨大司法機関を潰そうとな。貴様らによる人体改造や生命操 作によって産み出された彼らの保護と人権を認めると共に、安住の地を用意する。それが彼らとの契約なのだよ』 「犯罪者と契約したと言うのか!?」 その物言いに司令官は苦笑を浮かべる。確かに犯罪者だ。スカリエッティは広域次元犯罪者としてブラックリストに載っ ているほど。大統領から発表された時にはもの凄まじい反発があった。それはそうだ。人体実験を好んでするなどという 噂のある男と手を結ぶなど倫理的に考えればありえない。 しかし、その全てが評議会による命令であったと、やりたくも無い研究を無理矢理やらされ続けてきたのだと聞いた時には 彼らへの怒りは霧散し、管理局にその怒りの矛先が向いたのだ。何より、切実なほどの問題が彼らの協力により解決されたの は大きかった。 『彼らが生み出した技術をほぼ無償で提供してもらった。それにより我らの世界での様々な問題を解決されている。 彼等は報酬を先払いしているのだよ。その上これからも可能な限り技術協力を惜しまないと言う約定もある。手を取らない 理由は我々には無かった』 それは他の世界でもそうだった。どの世界でも何かしらの逼迫した状況はあった。それらを解決する手段を持つ相手から ほぼ無償、それも材料費だけでそれ以外必要とせずに多大な利益を与えてくれたのだ。それならこれまでの罪を許しても構わ ないだろうと言う意見が多数出た。その上、彼らが結果的に得た人体実験のデータを医療に役立てたおかげで医療技術が格 段に進歩している。義手や義足、精巧な人工臓器なども多数開発されており、そのおかげで今まで治療できなかった患者も救 えるなど多大な功績を残しているのだ。しかも今後とも協力してくれるのであれば是非も無い。どちらの手を取るかなど決 まりきっている。 「我らが、管理局がなくなれば世界間で戦争が起こる! それを止めるためにも管理局は存在するのだぞ! それでもいいの か! お前達は世界を破滅させる気か!!」 『何を馬鹿なことを。我らは貴様ら管理局を敵として纏まっている。それにな、貴様らを潰した後はちゃんとした警察組織を 作る事が決定している。もちろん、お前達のように警察と軍と裁判所が一緒になったものではなく、それぞれ独立した組織を 各世界の管理下においてだ。安心して滅びるがいい。既に後釜は決まっているのだ』 「ば、ばかな・・・」 『さて、言うべき事は全て言った。さあ! 戦争を始めよう!!』 通信は切れた。外では爆音が響いている。反管理局同盟は局の犯罪の証拠を、そして今まで行ってきた様々な越権行為を ミッドのみならず管理世界全土へ放送した。 局員達の戸惑う声が、幹部への情報公開を求める通信が鳴り止まない。それが分かっていながら、幹部達はただ呆然と呆 けている事しか出来なかった。 その頃、聖王のゆりかごの玉座の間では、玉座には聖王たるヴィヴィオが、そしてそのすぐそばにはシリウスが控え、 スカリエッティ陣営の者が全員揃ってモニターを見ていた。 「ほらヴィヴィオ。おやつだぞ」 「ぷりん〜! いっただっきま〜す!!」 「・・・君。緊張感とかそういうのは?」 もろに戦争の光景が映し出されているモニターの前で、は平然とヴィヴィオにおやつを用意しており、それを なのはが痛む頭を押さえながらツッコミを入れていた。 「どちらが勝つかなんて分かりきっている。わざわざ見るまでもない」 「私たちは出ないの?」 「例え六課が動いても、この数には勝てないだろう。俺たちが相手をするのはこっちに乗り込んできたものか・・・」 「評議会の秘匿していたロストロギア、いえ超兵器ね」 「そういうことだ。六課の戦力は半減しているし、何よりお前がこっちにいる。管理局の最強戦力でもあった最強無敵の エースオブエース高町なのはがな。奴らは大幅に弱体化しているんだよ」 「・・・士気も大幅に下がってるでしょうしねえ」 こめかみを押さえるなのはの隣で、ティアナは太るかもしれないなーなどと思いながらディエチ謹製の白玉餡蜜を口に運 んでいた。意識の片隅で綿密なカロリー計算をしつつ、下士官から見る高町なのは像をを思い浮かべる。彼女はまさに エースなのだ。彼女がいればどんな状況でも何とかなると、そう思わせる存在だった。それがいないとなるとどうなるのか、 想像に難くない。 だからこそ、雑兵は無視して構わない。それは反管理局同盟が掃討してくれるのだ。そういう意味で六課は無視できる。 いくら戦力がずば抜けていようとも、所詮個人技に優れているだけだ。それに、今のティアナははやてぐらいなら互角に やりあえた。 が開発した符陣術。魔力を失ったには無用の長物となったそれを受け取り、教わったのだ。一戦闘につき一回 きりしか使えないが、それぞれの用途に合わせたカードが48枚組み2セット。予め使うものとタイミングを決めておけば ワンアクションで大魔法相当の術を使用可能、おまけに魔力を貯めて置くタイプなので行使時の魔力消費は無しという 魔力が乏しいものにとって垂涎の品だ。しかもクロスミラージュを改造してグリップの部分にカードを収納し、言葉一つ でデバイスのAIが使用するカードを検索し起動すると言う便利機能つき。素晴らしいとしか言いようが無かった。 クロスミラージュは改造に当たって一回り大型化したが、全く持って問題ない。グリップなんかは手に合うように設計し 直しているのでむしろかなりしっくり来る。 ナンバーズとの模擬戦でもかなり追い詰めたのだ。撃破されたセッテとオットーはそれはもう悔しそうだった。 「ティア。魔力チャージの方は上手くいってるっすか?」 「んー・・・大丈夫みたいね。ほとんどのカードは満タンだし、前に使ったやつも7割回復してる」 「符陣術は強力だからねー。兄が使ってるときなんか反則極まりない威力だったし」 愛称で呼んでくるウェンディに、ティアナはクロスミラージュに搭載したカードの情報を見つつ答える。この二人 結構仲が良い為スバルが若干嫉妬気味だ。まあ妹が出来た事もあるし、もう少しで家族が揃うと言う事に心をときめかせてい るが。ギンガも同じく。 「そういえばギンガさんたちは?」 「・・・迎えにいった」 ティアナはクイントたちの姿が見えないことに疑問を覚えてそばにいたノーヴェに聞くと、疲れきった声音で呟いた。 怒号と悲鳴が飛び交う戦場の一つ、陸士108部隊の駐屯所でも戦闘が起きていた。ゲンヤは刻一刻と変わる戦況に 歯噛みしながら指令を出す。振りではなく一応本気で。ゲンヤは妻からのラブコールと共に届いていた誘拐予告に苦笑しな がら、移動指揮車で指示を出していた。他の部隊では既に撃破されたと言う報告もあるが、地上部隊でも随一の錬度を誇る 108部隊はかなり余裕で持ちこたえていた。 「このまま押し切れるでしょうか・・・」 「俺たちが残っても他がやられればどうしようもない。前回のダメージも消えてねえんだ。・・・もう駄目かも知れんな」 「そんな・・・!」 「そうなったら大人しく投降しな。連中も悪くは扱わねえだろう」 「・・・はい」 不安そうな部下にそう言って、ゲンヤは目を閉じる。どう考えても管理局は敗北する。本局も攻撃を受けているようだ。 「正義は世界によって否定され、虚空の海に漂う城は泡沫の泡となり消え失せる、か」 「ナカジマ部隊長?」 「・・・昔、騎士カリムの預言書に出た一文だ。もう成就間近のようだ」 「・・・・・・・・・・・・・・・・」 本局が壊滅する。それを聞いた部下達は絶望的な表情で項垂れた。本局の武装隊はエリート揃いだ。それがこうも簡単に。 まあ理由は簡単。次元空間内で魔導師が生身で戦闘することが出来ないからだ。軍は多数の戦艦と、艦載機を持って 本局と本局の次元航行艦隊を攻略中なのである。 何よりも、先ほど彼らによって公開された管理局の犯した犯罪の数々が彼らの心に重くのしかかっていた。 「部隊長!」 「どうしたカルタス」 「ウィングロードを確認しました!」 喜色を浮かべて報告するカルタスに他の者達が驚きと共に歓声を上げる。ギンガが生きていたと彼等は喜んだ。だが、 「え・・・ま、まて! ウィングロードが・・・三つあるぞ!」 「「「えっ!!!?」」」 一つはギンガ、もう一つはスバルだろう。なら、三つ目のそれは? 「きやがったな。おまえら、投降しろ」 「部隊長!?」 「もう終わりだ。うちの娘達も、女房も、自分を暗殺しようとした組織なんざ信用できんだろうさ」 「あ、暗殺!?」 「にょ、女房って・・・」 戸惑う部下達を苦笑して眺めていると、通信が入ってきた。 『はぁい♪ 迎えに着たわよあ・な・た♪』 「すまん。もう少し空気読んで自重してくれクイント」 『あ、あははは・・・お父さん。お母さんってばようやくお父さんと会えるっていって、テンション振り切っちゃってるから』 『ごめーん。あたしたちにも止めるの無理だよー・・・』 「ギンガ。スバルも。無事で何よりだ」 いきなり親子の会話を始める彼らに部下達は驚く。 「ぶ、部隊長?」 「俺はな、クイントの死亡に納得がいかなかったんだ。そして調べていたら、管理局の裏側にぶち当たった」 「まさか・・・!」 「今回の事件はな、暗躍していた評議会からあの連中が反逆したんだ。管理局のやり方に不満を持っていた管理世界を巻き 込んでな」 「そんな・・・」 ゲンヤから簡単にだが説明を受けショックを受ける部下たち。彼らはゲンヤの指導もありかなりの意味で『まとも』だった。 「・・・投降しよう」 「カルタスさん・・・」 「部隊長。これでいいんですね?」 「ああ。抵抗はするなよ?」 「はい」 こうして陸士108部隊は、反管理局同盟に投降し、誰一人欠けることなくこの戦いを生き延びるのだった。 「あなた!」 「クイント!」 再会を果たした夫婦がお互いの存在を確かめるように抱き合っている。 「ギンガ。スバルちゃん」 「カルタスさん」 「お久しぶりです」 「ああ。これで、良かったんだな」 「はい。きっと・・・」 抱き合う両親を前に、娘二人は涙ぐんでいる。 108部隊の面々はこれでよかったんだと納得する。古参の部下たちはゲンヤが妻を亡くした時の姿を知っているからな おさらに。 ようやく一緒になれたナカジマ家の元に、通信が入る。 『姉ども! 聞こえるか!?』 「ノーヴェ? どうしたの?」 『出やがったぞ! 評議会だ!』 その言葉にギンガとスバル、そしてクイントの様子が変わる。 「クイント・・・」 「行くわね。奴らには因縁があるもの」 「ああ。無事に帰って来い。スバル、ギンガ。お前たちもな!」 「「うん!」」 クラナガンの外れ、一般には知られていない管理局の施設。評議会の居城とも言うべきその施設が突然の閃光と共に 吹き飛んだ。そしてそこから、巨大な黒い人型のナニかがゆっくりと浮上してきた。 『我らこそは正義の使者。我らこそが絶対の正義。正義に逆らいし悪よ! 我らが力の前に滅び去るがいい!』 黒い人型、それは兵器だった。汎用性を求めた結果人型という結果に至り、その機体のそこかしこに武装が内蔵されている。 そして何よりも恐ろしい兵器が胸部に内蔵されていた。 『これこそが正義の鉄槌なり!!』 胸部の装甲が開き、その内側の砲口から巨大なエネルギーが解放される。それは、空間に穴を開け、虚空へと消えた。 「な、なんだ! 今何をした!」 「た、大変です!!」 「どうした!」 「第24管理世界が、リスデンハイムが―――消滅しました!」 「「「なあっ!!!??」」」 世界が消滅。その報告に反管理局同盟が激しく動揺する。故郷を失った者たちは呆然としていた。 「ミスターサヴァン!!!」 『こちらでも確認した。まさか抜いてはならない伝家の宝刀を初っ端から抜いてくるなどこちらも計算外だ!』 同盟の司令官は協力者であるサヴァン=に連絡を取る。も苦々しくそれを見ていた。 「どうなさるのですか!?」 『こちらの解析の結果、アレは一度撃つと最低50分のチャージが必要になる。二度と撃たせない為にはその間に撃破する しかない! だが、アレの装甲は硬すぎる。生半可な攻撃では傷一つ付かん上に、魔力を弾く性質があるようだ』 「物理、魔力、両方に耐性があると・・・しかしそのような攻撃力は・・・」 『・・・こちらの部隊を前線投入し、データを集めると共に逆撃に移る。人の手による物である以上破壊は可能なはずだ!』 「了解しました。こちらは周りを掃除すれば構いませんね?」 『頼む。俺たちにとってもやつらは史上最悪の敵と言える。出来れば他の奴に殺らせたくは無い』 事情を聞き及んでいる司令官はこの歳若い賢者に一礼する。世界を滅ぼせる代物に挑んでくれると言うのだから。 そして・・・ 「ミスター。アレの呼称はどういたしますか?」 『アレの胸部におそらく名前であろう文字があった。そこから察するに・・・覇王の鎧甲』 おそらくはゆりかごと同じ、アルハザードの技術で作られたもの。司令官は即座に全艦隊に命令を発した。 「あの巨大機械人形の呼称は覇王の鎧甲! アレの相手は我らの最強戦力である彼らに頼んだ! 我らは局を制圧するぞ!」 『了解!!』 その頃、機動六課は動くに動けずにいた。 「どうするのはやて。局に付いたっていい事無さそうだよ」 「フェイトちゃん・・・私もう本当にどうしたらええか・・・」 管理局の犯罪行為は知り及んでいた。彼女らは内側からどうにかしたかったが、反管理局同盟が選んだのは一度全てをなく して新たに作るという方法だった。暴力に訴えるような事はしたくなかったはやてたちだが、ここで評議会が最悪の行動を取 ったのだ。つまり、大量破壊兵器、いや世界破壊兵器による恐怖政治を行うため、一つの世界を見せしめに消滅させると言う 最悪を通り越した行動をした。故に動けない。どう考えても、管理局はもはや悪でしかないと言うのに・・・ 「プランは二つ。局に殉ずるか。もしくは局を捨てて反管理局同盟に付くか」 「・・・まずはクロノ君に聞いてみよか。どんな答えを出すんか・・・」 ろくな答えではないかもしれない。それを半ば確信しながらはやてはクロノに連絡を入れる。 『どうした?』 「クロノ提督。私らはどう動けばいいんでしょうか?」 『評議会の皆様方に向かった敵戦闘機人の迎撃に当たれ。僕も出る』 「・・・世界を一つ滅ぼした奴らを守れ、と?」 『一罰百戒という言葉がある。アレは見せしめだ。逆らえばこうなるぞ、というな』 クロノの言葉にフェイトだけではなく全員が顔をしかめる。 「それは、恐怖政治やないんですか?」 『これは奴らのクーデターだ。世界は管理局の管理の下で平和になる。それを邪魔するなら奴らは滅ぼさなきゃいけない』 そう言ってクロノは通信を切った。残されたはやてたちは、静かに話し合い始めた。 「・・・この次元世界を支配する気やな。管理局は」 「というか、支配している気でいたんでしょうね。だから彼らが許せない」 クロノは幼い頃から長く管理局に勤めている。だからだろう、彼らの思想に犯され染まっているのは・・・ 「はやて・・・」 「従う振りして現場に急行。後はそっちで判断しよか」 「了解。みんな、いいね?」 「「「はい!」」」 そして、クロノを先頭に、機動六課は出撃した。 漆黒の機械人形、覇王の鎧甲に向かうナンバーズと、そしてティアナとなのは。は前回のようにクアットロに 砲撃ユニットに乗せてもらい、チンクやセイン、ティアナはガジェットのU型に乗っていた。 「酷い・・・」 「所構わず搭載兵器を乱発しているな。ミサイルがそれぞれの指に1門ずつ。魔導砲が両肩に二門。両腰にも同じものが 一つずつマウントされている」 魔導砲の直撃を受け、戦艦が一隻炎上する。そしてその艦から通信が入ってきた。 『み、ミスター・・・』 「脱出しろ! 命あってのもの種だ!」 『それは聞けません・・・我らの故郷は、今しがた奴に吹き飛ばされたのです。このまま特攻いたします!』 「艦長!」 彼等はリスデンハイムからの兵だった。故郷の敵を討つため、その命すら捧げる覚悟だった。 爆音と共に通信が途切れ、その戦艦が鎧甲に向かって前進する。 「君!」 「なのは・・・よく見ておけ。これが、戦士の覚悟だ」 歯を食いしばり怒りを抑えながら、なのはに答える。 議員達は突撃してくる戦艦に気付き、攻撃を集中させる。だが、戦艦は止まらず最大戦速で突撃し、直撃! 「やったか!?」 「・・・いや、まだだ」 凄まじい爆発の中から、覇王の鎧甲が姿を見せる。命を賭したその攻撃ですら、その鎧に傷一つ付かなかった。 「アレでノーダメージ・・・」 「そんな・・・」 『所詮屑よ。見事なまでの無駄死にであったわ!』 議員達の言葉に、同盟軍は怒りに燃える。無駄などでは無いのだと・・・! 「ナンバーズ総員、総攻撃開始!」 「「「「了解っ!!!」」」」 ディエチの砲撃を皮切りに、ウェンディが周囲を飛び回りながら急所と思わしき場所を射撃、接近戦組みがその鎧に攻撃 するが、全て弾かれる。そんな中チンクは・・・鎧甲に取り付いた。 「チンク姉!?」 「金属が相手なら、これでどうだ!!」 チンクが装甲にエネルギーを流し込む。そして―――!! 「ランブルデトネイター!!」 爆裂! ほんの一部分だけではあるが、破壊に成功した! 爆発に巻き込まれないように飛び降りたチンクをクイントがキャッチ。そのままチンクを運び、爆破の手伝いに回った。 セインも同じように取り付きディープダイバーで潜ろうとするが、 「あー、やっぱ駄目か!」 あわよくば内部に侵入して直接頭を潰そうとしたのだが、ISが効いていない。 そのまま近く走ってきたギンガのウィングロードに飛び乗って離れる。 総攻撃を仕掛けるナンバーズたちを、は左目を金色に輝かせながら見守っていた。 クロノ率いる機動六課フォワード陣は、彼女らにとって予想だにしなかった者たちに足止めされていた。 「ここから先は通行禁止だよ」 「行くと言うなら私たちを超えていきなさい。出来ればの話だけどね」 「かつての仲間でも、容赦しないから」 「あいつらの邪魔だけはぜってーにさせねえ!」 全滅したはずのスターズ小隊が、フルメンバーでそこにいた。 「な、なのは・・・ティアナ、スバル・・・ヴィータも・・・」 「生きててくれて嬉しいんやけど、ちょっと複雑やな・・・」 「こんなのって・・・!」 動揺するはやてたちに、四人は戦闘体制を取る。 「なのは。何故邪魔をするんだ?」 「いわずもがなでしょクロノ君。私は信じられないよ。あんなのの味方をするなんて」 「・・・君も所詮は管理外世界の蛮族だったか」 「「「「っ!?」」」」 クロノの言葉に動揺するのは六課の面々。信じられないと言わんばかりの視線を向けている。 スターズは全員が無表情だ。 「へえ、クロノ君もそう思ってたんだ」 「君は多少はマシかと思ってたよ。思い違いだったようだけどね」 「・・・その蛮族のいる世界に、アレが向けられたらどうするの?」 世界を破壊できる兵器。恐ろしすぎるそれが家族に向けられる可能性に、クロノは・・・ 「問題無い。エイミィたちは今ミッドにあるエイミィの実家にいる。たとえ97管理外世界が滅んでも、失う物は何も無い」 「「「「―――っ!!!!」」」」 驚愕の表情を浮かべる六課の面々。確かに今家族が地球にいないクロノにとっては何の問題も無いだろう。だが、フェイ トとはやては親友を、アリサとすずかを、なのはにいたっては家族たちを失うことになると言うのに。 「・・・自分のことしか考えてないんだね」 「テロリストに対して容赦する気は無い。みんな、行くぞ!」 クロノが号令を上げる。そしてフェイトたちは一様にデバイスを構え―――クロノに殺到した! 「なっ! フェイト!?」 「・・・下衆が! 気安く呼ぶな!」 もはやフェイトは、いや機動六課のメンバーはクロノを敵として認識していた。名前を呼ばれることすら虫酸が走る。 瞬時にソニックフォームへ換装、ライオットモードを起動しクロノに斬りかかる。驚きながらも何とかかわしたクロノに キャロのブーストを受けたエリオがストラーダを全開で噴かして突撃をかける。 「くっ! エリオ! 君まで!」 「あなたに従う義理なんて無い! キャロ!」 「フリード! ブラストレイ!」 「くあっ!!」 デュランダルでエリオを何とか弾いたその直後におそいくるドラゴンブレスをシールドで耐え抜き、更に――― 「リード・シャープネス! ファントムブレイザー・エクステンション!!」 「くうっ! ティアナか!」 ダメージを受けたシールドを、ティアナが砲撃に貫通を付与して撃ち抜くが、身を捩って回避。態勢を整えようとしたと ころで、スバルが追撃! 「くらえ! 振動拳!」 「ちぃっ! ブレイクインパルス!」 スバルのIS振動破砕を、同じ振動系の魔法で無効化。驚愕しながらすぐに離れたスバルの後ろから、炎を吹く 鉄槌が迫る! 「問答無用だ! ラケーテンハンマー!」 「くうっ!!!!」 回避が間に合わずデュランダルの柄で受け止め、動けないクロノにシグナムが頭上から襲い掛かる! 「落ちろ! 紫電一閃!」 「ぬあああああっ!!!」 ギリギリでハンマーを逸らし、そのまま紫電一閃を受け流す! 腐ってもSランク魔導師。実力は本物だった。 「このっ! まとめて氷漬けに―――があっ!!」 「・・・捕らえたぞ!」 周囲全体を凍らせようとしたその時、クロノはザフィーラの鋼のくびきに捉えられた。そしてクロノの胸から白い腕が 突き出される。その手には青い光。クロノのリンカーコアが! 「シャマル!」 「リンカーコアの略奪完了! はやてちゃん!」 「・・・なのはちゃん! フェイトちゃん!」 「分かってるよ」 「これで止め!」 なのははいつの間にかエクシードモードに換装し、フェイトは二本に分かれていた剣を一本の大剣に変え、リインと ユニゾンしたはやてが既に発射態勢に。 「「「N&F&Hコンビネーション! 空間殲滅多重攻撃トライ・ディザスター!!!!」」」 「なっ!? ぎゃああああああああああ!!!!」 かつて三人で考案していた連携攻撃。正確にはカラミティブラストをみて盛大に拗ねたはやてを加えて考えた最悪の、 まさに必殺技。恐ろしいまでの電撃、威力のありすぎる単純魔力砲、広域でありながら破壊力抜群の広域殲滅魔法。 その三つの災厄を、威力を損ねることなく乗倍するという、都市一つ破壊してなおまだ足りないと言う超威力の魔法。 それがクロノ一人に叩き込まれた。しかも非殺傷で。クロノは感電し、広域魔法で逃げ場も無く、更に魔力砲で追い討ち をかけられ、それでもなお五体満足で落下していくのを、ヘリに乗っていたヴァイスがバインドをかけて受け止めた。 「あ・・・ぐ・・・ぁ・・・」 非殺傷なら安全だと言うのはある意味において間違いだ。確かに人を殺さないで済むが、食らった本人からすればこれ で死ねないのだから洒落にならない。普通なら痛みを感じる前に死ぬであろう激痛を死ぬことなく受けるなど、拷問以外 の何物でもないのだ。現にクロノは白目をむいて痙攣している。 「あのー・・・みなさん。コレ、どうしたら?」 「「「「「その辺に捨てておいて」」」」」 「・・・了解です」 もはや魔導師ではなくなったクロノを、ヴァイスは適当な場所に下ろしてそのままにしたのだった。 「行くよティアナ、スバル。ヴィータちゃんはもう行っちゃったし」 「心配性と言うか・・・速く行きましょうなのはさん!」 「ちょっ! ティア!?」 「あの人アムリタ持ってるけど使ってないのよ! あんなにボロボロなのに!」 クロノの撃墜を確認して、ヴィータはすぐに去ってしまった。ティアナも気になっている男性が心配なのか、すぐにヴィー タを追いかける。スバルもティアナを追いかけていってしまった。なのははそれを苦笑して、背後から刺さってくる物言いた げな視線に向き合う。 「何か用なのかな? 今戦闘中だから手短にね?」 「なのはちゃん。無事ならなんで帰ってこんかったんや?」 「・・・あの爆発はナンバーズと、そして私を狙ったものだったの」 「なのはを?」 「そう。管理外世界出身者でありながら空戦魔導師のトップと言われていた私を、管理局は苦々しく思ってたの」 「そんな!」 「・・・じゃあティアナたちは?」 「理由が何であれ、誰が自分を殺そうとした組織に従うの? ティアナには元々局に義理は無いし、スバルとギンガも 家族を奪われていた。そして今、ナカジマ家は全員揃ったみたいだしね」 これ以上管理局に従う理由は無いんだというなのはの言葉に、フェイトたちは沈黙した。 「なあ。私らがそっちにつくって言うたら、私らも連れてってくれる?」 縋るようなはやての言葉になのはは――― 「そんな義理も理由も無いね。私たちが静かに管理局と戦ってた時から、みんな何もしてくれなかったんだし」 ただ静かに、フェイトたちを拒絶した。 誰にも言わなかったのは確かだ。言わなければ分からないのも確かだ。だが、それでも自分の行動に気付き、理解して貰 いたかったというのは、甘えだろうか。 「私さ、戦いが終わったら、海鳴に帰って翠屋を手伝おうと思ってるんだ。最初は魔力を封じようかと思ってた。なんなら リンカーコアを破棄しようかとも思ってたけど」 「そ、そんな、なのは・・・」 「それももう出来る状況じゃないね。だって、管理局の残党がもし、アリサちゃんやすずかちゃん。私の家族を狙ったら、 守れなくなるもん。―――そんなの絶対に嫌だ」 それは何を危惧して、誰に向けて言ったのか。フェイトたちは理解してしまった。 「じゃあねみんな。出来ればもう、会わなければいいと思う」 そう言って、なのははの下へ飛び去っていった。 残されたフェイトたちは、ただ項垂れていた。 「なのはさん・・・」 「わかっては、いたんだよね。局の不正を知っても、表立ってどうこうしなかったのは私達なんだ」 ポツリと呟いたフェイトの言葉に誰もが頷いた。 そしてフェイトは魔力圧縮していた局員証と階級章を取り出して、バルディッシュで切り捨てた。 「テスタロッサ・・・」 「私は、フェイト・テスタロッサ。ハラオウンの名前は、もう要らない」 あんな兄と同じ名前は、フェイトにはもう要らなかった。リンディには悪いが、嫌悪しか覚えない。 そして彼女らもフェイトに倣い、局員証や階級章を処分する。 「どうするん?」 「反管理局同盟に投降する。もう、戦う気力が残ってないんだ・・・」 力なくそういうフェイトに、エリオとキャロが寄り添った。 「主はやて」 「・・・私らも投降しよ。私らの戦いは、もう終わりや・・・」 「・・・はい」 こうして、機動六課は反管理局同盟に投降したのだった・・・ そして彼女らはあることに気付いた。 「あ、あれ?」 「どうしましたはやて?」 「リインがおらん!」 「「「「ええっ!!!」」」」 の元へ向かうヴィータの胸元が突然もぞもぞと動き始める。 そして、ヴィータの服の中からリインが顔を出した。 「ぷはっ! うぅ・・・ヴィータちゃん羨ましいです・・・」 「いきなりあたしの胸元に飛び込んでおいてそんな事言うな」 リインははやてとのユニゾンを解いた直後、ヴィータの元へ飛び込んでいた。 「何でこっちにくんだよ。おとなしくはやてのとこに居ろって」 「リインはあいつらが許せないです! ユニゾンすれば有利になるじゃないですか!」 「・・・まあ微々たる助力にしかならねえけどな」 「うう・・・でもないよりましなのです」 「分かってるよ。・・・ありがとな」 「えへへ・・・」 ヴィータたちがたちの下に戻ると、決定打が出せずにジリ貧状態になったナンバーズがいた。 唯一通用するのはチンクのデトネイターのみ。それでもエネルギーを浸透できる面積が小さく、表面を多少削る程度の ダメージしか与えられていない。 そしても、必死に頭痛をこらえながらグラムサイトによる解析を続けていた。 「!」 「・・・いかん。時間が」 脂汗を流しながらも解析するは、ナンバーズ全員にデータを送る。それは・・・ 「間接および砲口を狙え! ヴィータ!」 「お、おう!」 「ツェアシュテーレン準備! 胸部装甲が開いたら即座にぶち込め!」 「わかった!」 即座に了解したヴィータはリインとユニゾンし、準備に備えるが、の言葉を聴いたなのはは焦った。 「第二射を許すの!?」 「砲口を破損させればそれで十分!真っ向からぶち抜く手段は俺の知りうる限り複数あるからまずそれを試す!」 は精神を集中し、周囲の雲から水分を集めだす。彼女たちから授かった権能を使い始めたのだ。 「俺の切り札はとにかく時間がかかる。なのは、ティアナたちと一緒に時間を稼げ。可能なら倒しても構わん。ついでに言うと スバルのあれは特に有効だ!」 「わかったよ! スバル! 振動破砕で攻撃してきて!」 「了解です! ティア!」 「・・・さん! あれを使います!」 「許可する。ぶっ放せ!」 なのはの命令を受けたスバルはウィングロードで鎧甲に突貫。ウェンディやオットーの支援を受けながら、ミサイルや 魔導砲をかわしつつ接近する。 『こしゃくな不良品が!』 鎧甲の巨大な拳がスバルに迫る。ナンバーズたちの支援が間に合わず直撃すると思われたその時! 「白天王!」 「クロウクルーワッハ!」 召喚された蟲の王が拳を受け止め、ケルト神話において数多の神を食い殺した闇色の蛇竜が鎧甲に巻きつき動きを止める。 「ルーちゃん! メガーヌさん! サンキュ!」 「まだですスバルさん! 炎龍一閃!」 攻撃がとまり油断したスバルに、鎧甲の脚部の装甲が開き小型のミサイルが大量に殺到。それを駆けつけたアグニが 一気になぎ払う。 「アグニ! ありがと!」 「さっさと攻撃してください! 効果がありそうなものは全て試さないとデータが取れません!」 「ご、ごめーん!!!」 子供に説教されたことを不甲斐なく思いつつもスバルは特攻する。そして胸部の装甲にたどり着いた。 「いっけええええ!! 振動拳!!」 『ぬおおお!!』 IS振動破砕。微細な振動を叩き込むことで物体を破壊することに特化した能力。その威力は生物無生物問わずほぼ一撃必殺。 それはこういった機械にも通用する。 スバルの一撃は胸部装甲を大きく破損させる。しかもその内側の砲口に皹を走らせた。想像以上の効果にたちの表情に 喜色が浮かぶ。 『こしゃくな! ならばこの一撃、第97管理外世界に、そこの不心得者どもの故郷に打ち込んでやるわ!!』 「させるかああああああああ!!!」 となのはの故郷を破壊しようとする評議会が胸部装甲を開いた瞬間、ヴィータが巨大なドリルハンマーを叩き込んだ。 グラーフアイゼンのロケットが全開で炎を吹き、先端部のドリルの回転があがり、耳障りな音とともに火花が上がる。 だが、砲口の中に蓄えられたエネルギーも尋常ではない。 『ヴぃ、ヴィータちゃん! ぐ、グラーフアイゼンがあっ!!』 「耐えろアイゼン!こいつをぶち抜くまでええええ!!!!」 砲口に蓋をした形のアイゼンが徐々にひび割れていく。 「こんのおおおおおおおおおっ!!」 アイゼンが更に嫌な音を立ててきしみ始める。そして、アイゼンが半ばまで埋まったところでアイゼンの柄が折れる! 「すまねえアイゼン! 後でに新しい体を作ってもらうからな!」 折れたアイゼンの柄を投げ捨て、ヴィータは拳を構える。その手にあるのはが使っていたグローブ型のデバイス。 魔力を失ったのものを、ヴィータ用に調整し譲り受けたのだ。 「合わせろリイン!」 『はいですっ!』 ヴィータの拳に魔力が集中、それが巨大な魔力の手甲になる。 「『豪拳爆砕! ギガントシュラーク!』」 巨大な拳が、突き刺さったアイゼンを楔にして打ち込まれる! そして内部のエネルギーが暴発した! 『ぐあああああああっ!!』 「うっしゃあああっ!」 『やったですヴィータちゃん!』 砲口が完全に崩壊。評議会は怨嗟の声を上げながらヴィータを殴ろうとする。が、 「リード・マテリアライズ! スターライトブレイザー!」 ティアナの切り札。なのはのスターライトブレイカーを見て密かに集束砲の修練を積んでいて、の協力の下に完成した ティアナの集束砲が対戦車ライフルのようなクロスミラージュの砲身から発射。半ば物質化した魔力が覇王の鎧甲に直撃。 破壊には至らないものの、鎧甲を50メートル以上押し戻した。 『ぬぐおぉぉぉぉっ!!! たかが並程度の小娘がああああ!!』 「やりようによってはどうにでもなるのよ! 今ですなのはさん!」 ティアナの言葉に全員がなのはを見る。が、なのはは何処にもいない。 『はっ! 逃げたか蛮族の小娘!』 「そんなわけないに決まってるじゃない!」 姿が見えないにもかかわらずなのはの声が響く。そして鎧甲の頭上数十メートルのところになのはが忽然と現れる。ティアナ の幻術によりその存在を隠していたのだ。 その姿は12枚の翼を背負ったセラフィムモード。それと同時に鎧甲の周囲には20を越えるブラスタービットが! 「レイジングハート! ブラスターシステムリリース!」 『All right.』 「ブラスタアアアアアア・ファアアアアアアイブ!!!!!!」 の作り直したレイジングハートと独自に鍛え上げた己自身。そしてブラスターの反動を軽減するセラフィムモードによ って初めて完成を見せた真のブラスターシステム。その魔力数値は。 「ちゃん・・・あれ本当に人間?」 「魔力値6200万・・・SSSランクだよ?」 「なのはだからなあ・・・」 「「あ、納得」」 レリックウェポンに匹敵する数値を、生身で叩き出していた。 「全力全開! スターライトブレイカアアアアアアアア!!!!!」 全方位から放たれる常軌を逸した魔力砲撃。それはもはや悪夢としかいいようのない光景。魔力を弾くはずの装甲が徐々に朽 ち果てていく。 『ぐおおおおおおおおっ!!』 しかし評議会も黙ってはいない。コントロール下においていたアインへリアル三基の砲身をなのは一人に向けて、 『死ねえっ! 小娘がああああ!』 トリガーを引いた瞬間、砲身は一斉に方向を転換、その先は・・・地上本部! 『な、なにぃっ!』 いまさら砲撃のキャンセルは出来ない。魔力砲を浴びながら驚き焦る評議会を尻目に、アインヘリアルはスペックの限界を無 視した威力の砲撃を発射。地上本部に直撃し、他愛もなく焼け落ちる。そしてアインへリアルの砲身は威力に耐え切れず自壊 し、爆発する。 これがドゥーエの仕掛けていた細工だった。誰かがアインへリアルを撃てばそうなるようにプログラムを書き換えていたのだ。 なのはの砲撃が終わったあと、そこにあるのはだいぶ破損があるとはいえ、まだまだ壮健な覇王の鎧甲だった。 「こ、これでまだ動くのかよ!」 「頑丈にもほどがあるっす!」 ノーヴェとウェンディが愚痴る。そんな二人に向かってきたミサイルをディードとセッテが切り払い、同じく向かってきた 魔道砲をオットーとディエチが迎撃。その隙にトーレが二人を掻っ攫って大きく離れた。 「と、トーレ姉!?」 「どうしたっすか!?」 「の準備が整った。全員対ショック防御!」 「「「了解!!!」」」 全員が鎧甲から大きく離れる。突然さがったナンバーズたちに評議会は訝しげに思いながらも、の方を見ると・・・ 「クアットロ。隠蔽解除」 「りょうか〜い! シルバーカーテン解除!」 クアットロの隠蔽が消え、隠されていたモノが現れる。それは巨大な光の輪。直径三十キロにも及ぶ妖精の輪。 「アレがさんの切り札・・・」 「そうだティアナ。そこの雲の水分を凝縮し雨粒を作り出し、それを過冷却状態にした後、つむじ風の中に放り込む。雨粒は 風の中で衝撃を受け瞬時に氷になり、その際に電気エネルギーを放出、+と−の荷電粒子の幕を作り出しそれが幾層にも重な り、あの発光円盤エルプスとなる」 「良く知ってますねチンクさん」 チンクの説明を聞いて感心するティアナ。周りの姉妹達も同じような表情だ。 「の受け売りだ。アレはエルプスを幾つも作って合体させ巨大化させたものだ。あれ自体が発電装置になっていてな。 あの大きさならおそらく、約3000兆エレクトロンボルト」 「あの、値が大きすぎる上に聞きなれない単位がついてるんですけど・・・」 「まあ気にするな。かなり専門的な単位になるし。単純に考えて・・・大都市一つを百年単位で賄える電力だと言っておく」 「「「はい?」」」 膨大極まるその電力に、なのはたちも思わず惚けた。だが、大した学の無いなのははその危険性を理解できない。 「雷程度であいつを倒せるようには思えないよ?」 「まあ見ておくがいい。アレが切り札であると言うその意味をな」 全員が達に視線を向ける。 と評議会は一騎討ちと言っていい状態にあった。 『何をする気かは知らんが、付き合ってやる義理も無い! このまま消え失せるがいい!!』 評議会は魔導砲をが乗る砲撃ユニットに一点照射する。それを当然のように回避・・・しない! 「クアットロ。AMFを最大濃度で散布! 同時にバリアシステム起動!」 「了解!」 魔導砲は魔力炉から生成した魔力を機械で制御して放出されたものだ。ゆえにAMFは十分に通用する。どれだけ強力な 魔導砲もAMFとバリアに阻まれたちに通用しない。どうやらミサイルは品切れしているようだ。 意地になって撃ちまくる評議会を冷ややかに見つめるに、彼らは告げた。 『貴様はなぜ正義を否定する! 我らが、正義の徒である我らこそがこの世界を制し、導かねば平和はないというのに!』 「・・・・・・・・・・・・・・」 は答えない。 『お前もジェイルもその為の尖兵として作り上げたというのに、なぜ従わん! なぜ正義を理解できん!?』 『貴様は世界を滅ぼすつもりなのか! 争いと犯罪に満ちたこの世界をどうにかしたいとは思わんのか!?』 「・・・・・・・・・・・・・・」 沈黙を保ち続けるは、この上なく冷たい目をしていた。 『所詮は失敗作か! 己が欲望のままに生きることがどれだけ罪深いかも知らぬのか!』 『はじめから意識など残しておくべきではなかったか! あのガラクタどもも兵器の分際で生意気に反逆しおって!』 「・・・・・・・・・・・・・・」 は彼らに改めて視線を向ける。映像でそれを見た管理局員たち、そして反管理局同盟の人間は、ぞっとした。 その目には何の感情も浮かんではいない。ただ何処までも昏く、何処までも静かで、それは間違っても彼らを人、いや 生命体としてすら認識していない目だった。決して向けられたくない目だった。 「・・・もういいか?」 『なに?』 「遺言は、それで終わりか?」 『この鎧甲を、高町なのはの砲撃すら耐え切った、アルカンシェルすら通用しないこの鎧甲を破壊しようというのか?』 『魔力を失った貴様如きが!』 評議会の罵倒に、は毛ほども動じなかった。 「自身の行いが正しいと信じ、あらゆる倫理も放り捨て、命を弄び、世界の支配をもくろむ。それがお前たちの正義なら、 俺たちはそんなものいらない。お前たちが絶対の正義だというのなら、俺は絶対の悪でいい」 の言葉に、比較的まともな局員は局のやってきたことに動揺し、反管理局のものは、誰もがそれに頷いた。 「色々言いたい事もある。百の言葉を並べて罵倒し、万の刃を持って断罪したい。だが、そんなこといいんだ。何をどう言 い繕っても、最終的な本音は唯一つ―――いい加減うざいからさっさと死んでくれ」 局員たちはもっと格好いい言葉が出ると思い、肩透かしを食らって思わず膝を折り、反管理局の面々は、誰もが大いに賛 同した。 「円形粒子加速器(サイクロトロン)回転数最大。電圧推定3500兆エレクトロンボルト。ブルージェット、発射!」 妖精の輪(エルプス)が高速回転、超超巨大電力を発生させ、青い電気の本流、小人の息(ブルージェット)を発射! 『所詮は電撃よ! そんなものが我らに効くとおおおおぉぉぉぉぉぉ・・・・・・・・!!!』 電気の本流は評議会を飲み込み、彼らは光の中に消えていく。には、骸を残すことすら許す気はなかった。 電気による光の帯が通り過ぎ、なのはたちが見たのは、何もなかった。そして・・・ 「全員防御! 衝撃波が来るぞ!」 「え? ちょっとチンクちゃ・・・きゃあああああああ!!!!!!」 轟音とともに凄まじい衝撃波が発生し、あたりの全てを薙ぎ払う! ナンバーズたちはウェンディのボードを盾にし、 ティアナたちはなのはの首根っこを掴んで遮蔽物に隠れてやり過ごす。衝撃波が過ぎた後、天に昇っていく光の輪と、 そこからこぼれる光の粒が幻想的な光景を作り出し、誰もがそれに目を奪われた。 「きれい・・・」 「すごいだろう。この光の粒はスプライト。精霊の光といわれている」 「ま、君! いつの間にここに!?」 「衝撃波に乗ってな。いや、相変わらず常軌を逸した威力だ」 いつの間にか、遠く離れていたはずのなのはのすぐ傍にいたは、驚きとともに迎えられた。 「さん。評議会は?」 「消えたよティアナ。文字通り、な」 が使ったのは核をも越える最悪の兵器、素粒子兵器だ。強大な電力により物体の元となる素粒子を崩壊させ、電磁波に 変換。それが大気中に拡散し、事実上消滅したのである。その後の衝撃波は、空気すら消滅し真空状態になった空間に大量の 空気が殺到し、ぶつかり合って衝撃波を生んだのである。 「素粒子崩壊・・・」 「実はあれがごくまれに自然発生することがある。それを再現しただけだ」 所々出ていた『ふぁんたじい』な名前。あれ実は全部気象用語である。 「・・・」 「終わったんだな。この戦いは・・・」 「そうだよね。私たちもやっと解放されるよ!」 チンクもヴィータもなのはも。みんな気が抜けていた。敵の頭を屠ったのだ。もう終わりだと全員が思った時、どす黒い 何かがを捉え、吹き飛ばした! 「ぐが・・・がふっ・・・!」 「っ!」 「何者・・・っ!? く、クロノ!?」 血を吐きのたうつにチンクが駆け寄り、ヴィータがを撃った者を見て、絶句した。 幽鬼のような表情で立つ、虚ろな目をしたクロノ・ハラオウン。ヴィータはとっさに彼をクロノだとは認識できなかった。 「てめえっ!!!」 「よくもお兄様を!!!」 「覚悟ッ!!!!!」 ノーヴェが、ディードが、セッテが、クロノに襲い掛かる! が、三人が接近した瞬間、クロノから放出されたどす黒い波 動が三人をまとめて弾き飛ばす! 『くくく・・・いい気分だ』 「え? 今の声って・・・」 「評議会の・・・!」 クロノの口から出たのはクロノの声ではなかった。 『我らは肉体から解き放たれた! 我らは神となったのだ!』 クロノの体から黒い影が噴出する。そしてそれがクロノの頭上で黒い影となった。そう、それはかつて評議会議員たちだ ったもの。その妄執と執念が彼らを亡霊へと変え、意識を失っていたクロノに取り憑いたのだ。 『いかん! あの若造、取り憑かれておる!』 『もはやあれは怨霊だな。亡霊でも通じるがの。なんと言う執念だ・・・』 ざからと美影の言葉に誰もが身構える。だが、ナンバーズとなのはたち以外のものは悲鳴を上げて逃げる。 それはそうだろう。科学全盛のミッド人や他の管理世界でも、幽霊などオカルトとされるものの実物は恐怖を誘う以外ない 得体の知れないものなのだ。 『チンクよ! は戦えぬ! 我と美影を使え!』 『私たちなら奴を斬れる! 唯一戦えるはずのがこの様ではどうしようもない!』 ざからと美影の言葉にチンクはを見て、二振りの刀をその手に取った。 チンクは投擲術と鋼糸をメインに御神流を体得したが、小太刀も使えないわけではない。一応奥義も打てる。 「はどうなります?」 『奴の放つ黒い塊は呪詛そのものだ。しかも神獣の法衣をも貫くほど強力な、な。自身の霊力のおかげで廻りは遅いが 時間が経てば死に至る。その前に解呪せねばならんが、目の前の危険を放置できん!』 「分かりました。いくぞざから!」 『応!』 チンクは神速を駆使しながらクロノに、怨霊に向かう。放たれる呪詛の弾丸を切り裂きながら、彼女は進む。 有効打を与えられないヴィータやなのはは歯噛みし、回避に専念。 そして、激痛に襲われながらも呪文を唱えるに気付いていたのは、チンクが向かってからを守りについたル ーテシアだけ。 戦いは最終局面に移行していた・・・・・・・ あとがき とてつもない難産だった・・・次元世界VS時空管理局。 所々おかしいかもしれませんがご容赦ください。いやマジに。 地上での戦いがメインになってますが、本局では敗色濃厚を感じ取った幹部が部下を見捨てて逃げ出したり、 リンディがユーノ率いる司書たちとともに無限書庫を別の世界に転移させようとしていたり、それを静観する 三提督が局の集めたロストロギアごと本局を自爆させて消えようとしていたりしています。 次回は・・・いつになるだろうか・・・ |