チンクが駆ける。降り注ぐ呪詛の弾丸を切り裂いて。
 怨霊が叫ぶ。その度に弾丸は撒き散らされる。まったくの無差別に。
 逃げ遅れた管理局員が呪詛をくらい、絶命する。それを見て悲鳴を上げて更に逃げる。
 ヴィータもなのはもティアナも、襲い来る呪詛を避けながらチンクを応援する事しか出来なかった。


 アナザーIF  第19話
 自由への扉



「はああああああっ!!」
 裂帛の気合と共に走る黒と銀。死の呪いが込められた弾丸を切り裂き、ある時はざからがその炎で焼き、ある時は
美影が淡い光を以て消滅させる。だが距離が縮まらない。クロノの経験や戦い方を真似ているのか、怨霊の攻撃は苛烈で、
そして幾つもの罠を講じていた。ある時は罠を避け、ある時は罠を食い破る。それでもまだ、辿り着けない。
「くっ!」
『焦るなチンク。気持ちは分かるが、焦りは隙を生む!』
「分かっています美影さん! それでも!」
 チンクの焦りは美影にも分かる。自身の孫、チンクにとっては愛する男であるが死に瀕しているのだ。
 これまでもそういうことはあったが明確な対処法があったためここまで焦る事は無かった。だが、今はそんな状況ではない。
ッ!!」
 愛する男の名を呼んで、チンクはさらに前に出た。

「おにいちゃん! 無理しないで!」
「・・・オン・・・キリクギャクウンソワカ・・・」
 体を蝕む呪いに耐えながら呪を唱えるを、ルーテシアが心配している。その姿を見たヴィータ達が駆け寄ってきた。
、無理は・・・」
「そうも・・・いっていられない・・・」
さん!」
 呪を唱え終わったに、突然電気が走る。何かがぶつかり合うようなその光景に、ティアナは悟った。
「呪いを打ち消そうとしてる!?」
「え、ええ!?」
 は自分に掛けられた呪いを解析、術式を見て解除しようとしたが、一目で諦めた。普通、呪いというものはロジック
の産物だ。相応の手順があり、術式があるのだが、今回のそれは違う。この呪いは純然とした恨み辛みの塊だ。力技でしか破
れない。だからわざわざ大聖歓喜天、誰にでも力を貸す神(その分失敗は許されない)に力を借りたのだ。まともに精神集中
できない状態で使えそうなのはこの神しかいなかった所為もあるが。
「ああああああああっ!!!」
 バキンッ!と言う音と共にが崩れ落ちる。
!!」
「はあ・・・はっ、なんとか・・・解除は出来た・・・」
 肩を大きく上下させてうずくまるをヴィータとティアナが慌てて支える。
 呪いの解除に、体力も霊力も大分消費してしまっていた。
「大丈夫か!」
「かなり、凶悪な呪いだ。先ほどから巻き込まれた連中が殺されて、奴に取り込まれている」
「そんな!」
「少しずつあの影が増量しているのはその為ですか・・・」
 更に肥大化していく亡霊に危機感を覚えながら、ティアナが呻くように呟く。
「ぐうっ!」
っ!!」
 胸を押さえてうめくをヴィータが支える。その時、の懐からアムリタの入った瓶が落ちた。
 その場にいる全員が、何かを訴えるように姿を現したそれに釘付けになる。
 そして、は決心した。
「ヴィータ。これからも付き合ってもらうぞ。ただし、永遠にだ」
「ああ。嫌だなんていわねーよ。あたしはお前のモノだ。永遠にな!」
 はアムリタの瓶を拾い上げ、蓋を開けて一気にあおって―――思わず吹き出した。
「ごほっ!」
「ど、どーした!」
「ッて言うかあたし掛かったんですけど!」
 突然咽たにヴィータが心配そうにを見て、ティアナは噴出した飛沫がもろに顔面に掛かって慌てている。
 アムリタとは別名不死の甘露。そうそれは・・・
「緑茶に飽和状態になるまで砂糖を溶かし込んで飲んだ気分・・・」
「「「「うわあ・・・・」」」」
 常軌を逸して甘かった。だが効果は確かなようだ。は体がどんどん楽になっていくのを感じた。
 そして、達は暴れ狂う亡霊に視線を向ける。
「なあルーテシア」
「お兄ちゃん? どうしたの?」
「もう、人同士の争いじゃないよな?」
「え? ああっ!!」
 何かに納得し、何度も頷くルーテシアの頭を撫でながら、は懐から数枚の呪符を取り出し・・・


『チンクよ。朗報だ!』
「何ですか美影さん!」
が自力で解呪しおった!』
「さすが私の最愛の恋人!」
 自力で解呪したのを感じ取った美影がチンクに報告する。するとチンクの動きが格段に良くなった。
 が気になって仕方なかったチンクはいつもより動きが雑だったのだ。だが今はもういつも通り、いやいつも以上の
鋭さになっている。
 だが、目の前の亡霊は周りの人間を殺し、その魂を取り込み更に肥大化。もはや人の身ではどうにもならないレベルに
達していた。
『神に逆らおうなど無駄な事! 貴様も取り込んでくれるわ!!』
 亡霊がチンクの周囲に膨大な数の呪詛の弾丸を作り出し、殺到する!
「この程度で!」
 黒い弾幕の前に、チンクは究極レベルにまで集中力を高める。そして―――
 チンクの視界から色が消える。周囲の動きがスローになったその空間を、チンクは吶喊する。目の前にある呪詛の弾幕を
、奥義の一つである花菱による乱撃で一気に切り捨てる! ゆっくりと迫る取りこぼしを炎が遮り、更に音が消える。
先ほどよりもゆっくりになった空間で、弾幕の穴を一気に駆け抜け亡霊の前に飛び出し―――
「はあああああああっ!!!!」
 美影が霊力を全開にし、ざからが妖力を全開にして、奥義でもなんでもない、だがチンクの生涯最高の二撃を亡霊にぶち
込む!
 そのすれ違いざまに亡霊が四つに分かれるのを見て、チンクの視界に色が戻り音が聞こえるようになる。
「ぐ・・・あ・・・!」
 神速の二段掛け。肉体のリミッターを外したオーバーブースト。半機械化した頑丈な体であろうともその負担は馬鹿になら
ない。膝を付きそうになった体を無理矢理踏み出させて倒れるのを阻止して、一気に離れて向き直る。
 チンクの視線の先、亡霊は四つに分かれた体がすぐに元に戻ってしまっていた。
『きかぬわあああああ!』
「くそっ!」
 反撃として放たれた弾丸をふらつく体で精一杯に避けて距離をとる。
「アレでまだ倒せないのか・・・!」
『どうやら奴は霊群のようじゃ。評議会の議長の意志力によって統制されて一体に見えているが、その実態は幾つもの霊の
集合体。生半可な攻撃では倒せそうも無い!』
『近づいて初めて分かった。あ奴を倒すのは至難の技だ!』
 相手は群体。ちまちま斬っていてはきりが無い。明らかに動きが遅くなったチンクに向けて大量の呪詛の弾丸が降り注ぎ
着弾する瞬間、チンクは黄金の閃光に攫われていた。

「なに・・・あれ・・・?」
「おにいちゃんの友達だよ」
「・・・ビールのロゴに描かれているのと似てるんだけど」
「一応モデルだし。似てるのは当然だろ」
 呆然と見やるなのはとティアナの視線の先。
 そこにいるのは、角を生やした馬に似た瑞獣・麒麟に跨りチンクを横抱きに抱えるがいた。

『神を名乗るか。たかが亡霊如きが身の程を弁えもせず』
「肉体の枷から外れたということがそう連想させたんだろう。もはや人の身でどうにもならないのは確かだよ」
 は種を超えた友人に跨りそれを見る。クロノに寄生した醜悪な黒い影。正直な話、どっちもどうでもいい相手だ。
「良くがんばったなチンク。後は俺たちがやる!」
「ああ・・・任せた」
 チンクは反動でガタガタになった体をに預け、安堵の息を吐く。もう大丈夫だと、彼女は確信した。
『ここは四神相応の地ではないからな。全員は呼べんが彼女くらいは来てくれるだろう』
「分かっているさ。出でよ!南方を守護せし朱の鳥! 朱雀・招来!」
 は赤い札を手に朱雀を召喚。燃え盛る炎の翼を広げて朱雀が降臨する。
「焼き尽くせ朱雀の姐さん!!」
『承った!』
 朱雀が亡霊に突撃する。放たれる呪詛の弾丸を悉く焼き尽くし、亡霊の左半分を焼き抉った。
『ぬぐおおおおおっ!!!  たかが鳥如きが!!』
 叫ぶ亡霊の後方から、白い彗星が突撃。それに気付いた亡霊が同じように呪詛の弾丸を降らすが、白い彗星―ルーテシアと
その相棒であるペガサス―は一切動じない。ペガサスから放たれる白い霊気がバリアとなり、呪詛を蹴散らしていく。
「いっけえええええええええ!!!!!」
 そして、亡霊の右半分をぶち抜いた。
『ぬがあああああああっ!!!!』
 大部分の霊体を削り取られ、核となっている議長の亡霊本体が露出する。
 はチンクから返してもらったざからを手に取り大太刀、いや馬上刀のサイズに変える。
「行くぞ麒麟殿!」
『応!』
 はざからを槍のように構え、麒麟がその圧倒的な速度で突撃!
 体が動かないチンクは、それでも自分達の怨敵を見据え、突き破られた亡霊がざからの業炎に焼かれ消えていくのを
確かに確認し―――
 それを見ていた反管理局同盟の人間は、怒号のような歓声を上げた。



 数日後。
 聖王教会の一室。
 カリム・グラシアは紅茶を飲みながらシャッハからの報告を聞いていた。
「以上で、管理局の残党たちの指名手配は完了しました」
「ご苦労様。それと懸賞金も忘れないように」
「はい。それと聖王陛下ですが・・・」
「やはり、こちらにいてはもらえないのですね」
「はい・・・。いくら頼んでも首を縦に振ってはくれませんでした。もう、聖王一族は滅んだのだから、と」
 はあ、とカリムは物憂げに溜め息を吐く。カリムたち聖王教会関係者にとって、ヴィヴィオは格好のプロパガンダだった。
 だが、それはも、そしてヴィヴィオ本人も理解していたのだろう。教会には一部を除いて最後までひた隠しにしていたし
、この反応も予想の範疇だったのだろう。彼らはゆりかごに乗ってさっさとミッドから去ってしまい、その上彼らへの接触は各
世界の代表から禁じられてしまった。
「彼女がいれば我が聖王教会は・・・」
「そこまでよシャッハ。それ以上言えば私たちは管理局と同じになってしまう」
「・・・失礼しました」
 これまで通りでいい。それがからの通達であり、枢機卿が了解した事だった。カリムが何を言っても無駄だし、何か動
きを見せれば間違いなく・・・
「消されてしまうわね」
「・・・カリム?」
「なんでもないわ」
 カリムは数回しかあったことが無いの本質は分からないが、に付き従うヴィータの事は知っている。
 ヴィータはカリムがに不都合な事をすれば躊躇い無く消しに来るだろう。彼女もまた身内以外には冷たく厳しいのだ。
「はやてたち投降した局員のその後は決まったの?」
「はい。監視用に小型の発信機を体に埋め込んで、後は釈放するそうです」
「・・・意外に軽いわね」
「ただし、警察組織への就職は厳禁です。おとなしく一般人をやっていろということですね」
「なるほど」
「それに、恭順しないものは逃亡中ですし。彼らが接触した場合、速やかに報告する義務を課しましたから」
 旧管理局への風当たりは強い。ろくな扱いはされないだろう妹分たちを思い、カリムは大きく溜め息を吐いた。


「もういくんか?」
「うん。アルトセイムの田舎の方で静かに暮らすつもり」
「そか・・・」
 既に支度を終えたフェイト・エリオ・キャロの三人は荷物を抱えて空港にいた。
「はやてたちはどうするの?」
「そやな・・・リインは戻ってきてくれてるし・・・」
「これから考えていきましょう。幸い時間はあります」
「・・・せやな。とりあえず私ら温情措置組みはなんだかんだで利用されてたって事になってるし」
 かつて何かしらの罪を犯した者は優秀な魔導師だった場合、温情を与えられ管理局で働く事を強要された。
 その罪が局の思惑であったものは、特に処罰は受けなかった。
「時間だね。・・・じゃあねはやて。みんなも元気でね」
「うん。元気でな」
 フェイトたちはこれから向かう新しい生活に不安を感じながらも旅立っていった。
「はやてちゃん・・・」
「リイン・・・。ヴィータと一緒にいってもよかったんやで?」
「リインははやてちゃんとずっと一緒です」
「・・・ありがとな。いこかみんな」
「「はい」」
 はやてたちはクラナガンへ。これからの事を模索しながら自分たちの家へと向かうのだった。




一方なのはたちは・・・


  不破
 お元気でしょうか。なのはです。
 あの戦いから半年、管理局が文字道理滅んで、時空警察が発足されてから半年が経ちました。
 私は今海鳴で暮らしています。実は療養中です。あの戦いで放ったスターライトブレイカー、と言うよりブラスターが
君の試算を超えた出力だったらしく、反動でかなりダメージを受けてました。まあ以前のブラスターに比べれば10分の
1と言っていいダメージなんだけどね。今更ながら自分の無茶が身に染みてます。
 私は今、翠屋を継ぐべく勉強中。料理が苦手なおねーちゃんは美沙斗さんに誘われて香港警防隊に本格的に入隊しました。
 経営の方は将来的にアリサちゃんが片手間に手伝ってくれるそうです。・・・片手間で何とかできるアリサちゃんに本気で
嫉妬しかけましたが。だって私なんかパティシエの修行だけでひいひい言ってるのに・・・
 ああそれと、アリサちゃんとすずかちゃんに君の事情を全部話しました。喜んで、でも泣いてたよ。帰ってくる気が
ないってことも伝えちゃったから・・・。あと顔を見せたら殴るらしいので来る時は覚悟してください。
 実は私の主治医になってる人が君の知り合いだと発覚しました。フィリス・矢沢先生です。その関係でさざなみ寮の
人たちとも仲良くなりました。昔、ざからの一件で戦った人たちなので驚きました。久遠ちゃんが君に会いたいというか、
付いて行きたいと言って駄々をこねていました。保護者の那美さんは笑いながら了承していたので、多分近い内に久遠ちゃん
がそちらに顔を出すと思います。暖かく迎えてあげてください。
 そうそう、日本文化に傾倒しつつあったオットーとディエチですが、君のお母さんの実家の旅館に就職しました。仲居
の修行から始めて女将を目指すそうです。何気に着物姿が似合ってました。おじいさんたちには孫のように可愛がられている
ようです。
 おとーさんたちに美影おば・・・美影さんのことを話しました。なんだろうさっきの寒気。まあともかく、驚いてました。
 家に連れてくるなとお父さんが本気で言っていたので美影だけ送ってきてもいいかなと思ってます。というかおとーさん
が過保護すぎて彼氏が出来そうにありません。私は結婚できるのかどうか果てしなく不安です。
 気になっていることがあります。それはフェイトちゃんたちのこと。
 一応そういう情報は入手できます。私は旧管理局の残党に狙われる恐れがあるため、護衛として地球の近くを時空航行艦が
定期巡回を行っているそうで、連絡を取って頼めば教えてくれます。
 フェイトちゃんは正式にハラオウン姓を捨てて、キャロとエリオと一緒に暮らしています。投降後に監視のために発信機が
体に埋め込まれたそうですが、それ以外は普通なんだそうです。犯罪捜査に関わることなく、魔法学校で講師をしているとか。
アルフもそのお手伝いをしているそうです。
 エリオとキャロは歳相応に学校に入ったそうです。今まで戦いの毎日だった所為か学力が低く、日々勉強に精を出してい
るようで。それと、エリオの両親、といっていいのか分からないけど、釈放されたそうです。一応エリオと再会し、和解した
んだとか。だけど、両親は死んだエリオと、人体実験の末に殺されていったクローンたちの菩提を弔っていくつもりなんだ
そうで、同居とかは無かったそうです。エリオも吹っ切れたのか日々を楽しく生きているようです。
 はやてちゃんたちは、六課のメンバーを率いて警備会社を作ったようです。他の投降した武装隊の人間や、108部隊
のメンバーもいるとか。今のところ信用とかが無いも同然なので苦労しているようですが、みんな楽しくやっているとか。
 ユーノ君は三提督が本局を自爆させる前に無限書庫ごとミッド地上のゆりかごが飛び立った近くに転移してきました。
 リンディさんも一緒で、しばらくはばれることなく書庫に住んでいたらしいのですが、新たに開設されたミッド警察に
捕縛されました。程なくして釈放され、無限書庫を国立図書館的なものにする事業が始まり、無限書庫の司書さんたちは
そこに再雇用される事になったそうです。リンディさんは館長になったとか。
 ただ気をつけてください。亡霊を滅ぼしたついでに吹っ飛ばされたクロノ君ですが、時空警察に逮捕拘留されていたはずが
姿を晦ましました。おそらく残党の手によるものだと思われます。でもまあ麒麟に撥ねられたときに大怪我を負っていたはず
なのでしばらくは大丈夫かとは思います。発信機もついているし、壊されない限り居場所は特定できるはずです。
 クロノ君といえばエイミィですが、この度正式に離婚。海鳴に永住するそうです。勤め先は翠屋2号店。おかーさんと長年
苦楽を共にしてきた松尾さんが店長になって独立したんです。エイミィさんは店のマネージャーをしながら子供二人を育てて
ます。元夫については未練は無いそうです。さすがに親友とかを見殺しにされそうになれば怒るよね。
 戦いが終わって、寂しいと思ってしまった私は末期なんでしょうか。まあ今は体を休める事と、大検の勉強でいっぱいいっ
ぱいです。とにかく高校卒業資格を取って、専門学校を目指さないと・・・最終学歴が中学だったからなあ・・・
 日々アリサちゃんにしごかれつつ、それでも楽しい毎日を送っています。私は元気です。
 君達が安住の地を手に入れられるその日を待っています。
                                                 ―なのはより―

PS.  シングルマザーになる覚悟は出来ました。いつでもきてください。精一杯サービスします。




「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」
 なのはから届いたメールを見て沈黙する4人の少女。チンク・ヴィータ・ざから・ティアナの4人である。
 宛なのだが、丁度は子供たちを連れて買い物中。4人は届いたメールをたまたま見てしまっていた。
「・・・最後が邪魔だな」
「・・・追い詰められてんのは確かだな。あの人めちゃめちゃ過保護だし」
「・・・なんだかんだで完全にあきらめたわけではなかったようじゃな」
「・・・なのはさん」
 4人はなのはに同情を送ると共に警戒を強めた。なのはとて十分に美女と呼んでいい容姿を持っている。本人に自覚は無い
がかなりもてる。時には同性にも。変なところで漢らしいのがいけないのだろう。
 達は亡霊を滅ぼした後、ゆりかごに乗り込み新天地を目指す旅に出た。それまで作り貯めた新技術の理論や設計図を
各世界に送って、世界のその後を見届けることなくミッドチルダを後にしたのだ。
 様々な世界を巡りつつ、物資を補給するために時々買い物に出たりしながら、未だ気に入った世界は見つかっていない。
 各世界の代表から推薦された世界を巡る旅はもうしばらく続きそうだ。
「久遠って誰ですか?」
の友達の妖狐だ。御歳300歳超」
「長年封印されていた所為で精神的に幼い所があるがの」
「子狐・幼女・大人の三形態に変身可能な娘だ。ちなみにかなりの美人」
「・・・さん」
 ティアナは溜め息を吐く。何でこう自分の想い人の周りには美女美少女が多いのかと苦悩する。本人も分類すると美少女
に該当するのだが、本人にはその自覚と認識は無い。
 実はティアナ、不死とは行かないが不老になった。が吹いたアムリタの飛沫を浴びた所為らしい。不死ではないがい
つまでも若いままだと分かり喜んでいる。女性にとって老いは恐怖なのだ。後寿命がかなり延びた様でもある。つまりティ
アナはいつまでも17歳の姿だと言う事。
「うん。ギンガさんとかから凄く羨ましがられたけど・・・」
「女にとって、いつまでも若さを維持できるのは永遠の夢じゃからな」
「あたしとナンバーズはデフォルトでそれだけどよ」
「ざからたち妖怪でも同じだな。基本的に寿命が人間とは比べ物にならない」
「その割りにクイントさんもメガーヌさんも見た目若いですよね。20代で通用しますよ?」
 クイントたちだが、実は達と会って以来年老いたと言う気配が無い。まるで桃子やリンディのようである。
「む、が帰ってきたな」
「どうするこのメール」
「P.Sだけ削れ。それ以外は問題ない・・・む?」
「あれ? さんが連れてる子って―――」


 あの戦いの後、管理局が崩壊した次元世界はお祭り騒ぎだった。それほどまでに管理局は嫌われていた。
 ミッド地上においてもそれは凄まじく、逃亡した元管理局員達も指名手配がかけられたのだ。
 それぞれの世界は平和協定を結び戦争の回避を目指した。管理局と言う敵が消えた以上互いが敵になる可能性があるからだ。
 そもそも戦争するには理由が要る。だが、様々な問題がとジェイルの手により解決し、文明の進んだ世界での問題、採
掘資源の枯渇については無人世界、もしくは生物が居住する事が困難な星から採掘する事で合意された。その際の作業機械等
はメイドインだったりする。満たされた世界では戦争をする理由が無い。故に世界は平和なのだ。
 現在の世界は平和だ。だが、巨悪が潰えても小さな犯罪は起こる。それを取り締まる組織はちゃんと機能している。
 そもそも犯罪者と警察はいたちごっこを繰り返すものだ。完全な恒久平和などありえない。だからこそ彼等は妥協した。
 それでいいのだろう。人がいる限りこういったことは起こるのだから。
 世界はおおむね平和だ。それでいい。







 ???年後  ???にて

 緑あふれる庭園を、銀髪を揺らしながら少女が歩いている。
 手には大きなバスケットがあり、肩には大きめの水筒が掛かっている。両親直伝の料理の腕が自慢な少女の会心の作だ。
みんな喜んでくれるだろう。それに弟や妹に見栄を張りたいのだ。
 向かう先は幾つもの笑い声が響く桜並木。今日はお花見の日だ。もっとも、花を愛でているのはこの少女を父を含めた
数人だけで、後のメンバーは宴会を楽しんでいるだけだが。
 宴会をしている姿が見えてきた。みんな笑顔だ。そしてそのメンバーの大部分は、彼女が覚えている限り容姿が変わって
いない。変わっているのは彼女を含めた兄弟達と、生身の体を持つものだけだ。
 少女が物心ついて以来変わることの無い姿の父が少女に手招きしている。その傍らには同じく姿の変わらない母たち。
 大好きな親達の歓迎に、少女は満面の笑みで父の胸に飛び込んだ。

 安息の地を見つけた破壊の鬼達は、彼らにとって楽園と呼べるその地で過ごしている。年老いて死する者もいる。年も
取らず生き続ける者もいる。出会いと別れを繰り返しながら、彼等は悠久の時を過ごすのだろう。
 そしていつしか彼らの住まうその地は、叡智の集う場所、第二のアルハザードと呼ばれるようになる。


平穏を望みし破壊の鬼 アナザーIF

   完 



あとがき
とうとう完結。
と言うか連載モノを完結させたのはコレが初めてな気がする。
この後、彼等は程ほどに平和な世界で望んだ平穏を手に入れて過ごしていきます。
時々刺激を求めて他世界に顔を出しに行きますけどね。
その後の生活は、小ネタとして時々UPするかもです。


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