アナザーIF 2nd


 十歳。の家にクロノとリンディ、そしてなのはたちが現れた。
「・・・俺に局に入れと?」
「ああ。お前も魔導師になったんだ。管理局に入った方が色々助かるぞ?」
「そうだよ君。局に入った方が良いって」
 なのはたちはに入局を進めてきた。そして、はその事に難色を示す。
「俺は局に入る気はない」
「貴方もこちらに関わり過ぎたし、高ランク魔導師は何かと狙われるかもしれないわ」
「・・・自分で何とかできますが?」
「それでもだ。局に入るべきだよ。その方がこちらも助かるしな」
 そういう問答を続け、そのあまりのしつこさに、は折れた。
 実に三時間以上に渡る説得という名の善意の押し付けに、は明らかな怒りを覚えながらも、この状況から脱したいが
ために首を縦に振った。振ってしまっていた。
 心底疲れ果てたを見るクロノとリンディは、優秀な人材を得られた事に対する喜びしかなく、の都合も事情も何も考
えてなどいなかった。
 そしてなのはたちは、ただ能天気に喜んでいた。

 かくして、は正式な管理局員となった。
 しかしなのはたちは気付けなかった。
 局に勧誘されても否と言い続けてきたにとって、今回の事は不本意極まりない事が。
 そんななのはたちを見るの目が、絶対零度の冷たさを湛えているのも。
 嫌ってすらいる組織に無理やり入れられるの心境は、悉く無視されたのだった。


 そして、入局が決まった後、が訪れたのは自身が心から信頼する人たちが居るさざなみ寮だった。
「そうか。仕事をする事になったのか」
「・・・正直、あいつら全員ぶっ潰したいです」
「落ち着けよ。今更なんだろ?」
「・・・はい」
 さざなみのメンバーはほぼ全員揃っていた。
 居ないのは海外に居る知佳やセルフィ位である。ゆうひはオフだったので遊びに来ていた。
「せやけど、こっちで学校もいくんやろ?」
「そうね。なのはちゃんだったかしら? その子達も居るんだし・・・」
「そのことですが・・・」
 入局は決まったが、地球にいる事に違いはないんだろうと思っていたゆうひや愛に、は待ったを掛けた。
「どげんした?」
「俺は、本局ではなくミッドチルダの地上部隊に所属するつもりです。だから、すぐにでもミッドに移住するつも
りなんです」
「なんだってっ!?」
「っ!!?」
 リスティが思わず大声をあげ、久遠の表情がこわばる。
 リスティにとってはは可愛い弟分だ。がこのさざなみ寮に関わるようになってからずっと、リスティは
可愛がってきた。そのが突然居なくなるなど許容できない。
 そして久遠も、大好きなが居なくなるということは許容できなかった。
「地上本部のトップには手回し済みです。住居も用意してもらいましたし、あとは着の身着のままでも・・・」
「学校とかはどうするんだ?」
「・・・俺は表向き、母親が海外に居る事になってます。だから」
「海外に移住する事に、か?」
「はい。祖父母に頼んでそういう手続きは取ってもらってます」
 は迅速だった。
 管理局に所属する事が決まってしまってから、は即座に動いたのだ。
 自分が得たネットワークを介して地上本部に連絡を取って取引を持ちかけ、学校には祖父母から転校する事を連絡したのだ。
「今まで住んでいた部屋も、祖父母に頼んで引き払ってもらってます。後は、さざなみ寮にある私物しかこの世界に自分の物
はありません」
「ボクの部屋に服があるしね」
「・・・毎度思ってたけど、リスティってのこと可愛がりすぎだと思うのだ」
「溺愛してるんやよねぇ・・・」
 ちなみに、がお泊まりするときはいつもリスティの部屋で抱き枕なのがデフォである。
 にとってもリスティは【姉】であるので特に不満は無い。むしろそうじゃないと落ち着かないくらいである。
 なにせが海鳴に流れ着いて巻島館長に拾われて、そのすぐ後くらいからの付き合いなのだ。
 当時荒れに荒れていたはリスティの尽力のおかげで落ち着いたのである。
「・・・。君は一人で大丈夫かい?」
「・・・ええ。大丈夫です。俺は皆に、さざなみ寮のみんなにいっぱい愛情を貰いました。真っ当に育ててもらいました。
 だから、大丈夫。ミッドでもやっていけます」
「・・・そうか。なら行っておいで」
「リスティ・・・」
 リスティは暫し目を瞑って考え、を送り出すことにした。それはへの信頼と、の精神衛生を考えての事だった。
 リスティは普段はしない事をした。それはに対しての読心。
 可愛がっているからこそ読まなかったの心を読んで、そう判断した。
 簡単に言えば、はなのはたち本局の人間と顔をあわせたくなかったのだ。
 特に、ハラオウンの派閥の人間には。
 地上では本局の人間にあう事などほぼ無い。それだけでなく、現在の地上はゲイズ派閥がかなりの幅を利かせている。
 その派閥に、レジアス・ゲイズに取り入る事で、は本局からの干渉を振り払うこと可能としたのだ。

君。荷物持ってきたよ」
「ありがとうございます。那美さん」
 リスティの部屋にあったの私服をバッグに入れてきた那美がに手渡す。
 その重さに少し顔をしかめたは、こんなにあったかと思い直してバッグを肩に担いだ。
「どこかへ移動してから行くのかい?」
「いえ。次元航行艦を介さずに近くの管理世界のポーターまで転移魔法で移動して、そこからミッドまで飛びます」
「・・・途中で本局に見つからないようにか。徹底しているな」
「ええ、まあ」
 もうそろそろ出発の時間だ。
 さざなみ寮の中庭で、は魔法陣を地面に描き出しながら待っていた。本局の監視が一瞬だけ切れる、その瞬間を。
「・・・ところで、久遠は?」
「さ、さあ・・・私たちも探してるんだけど」
「まったく、どこいったんやあん子は・・・」
 神咲姉妹が苦笑しているのをちょっとだけ不審に思いつつ、は残念に思いつつ精神を集中する。
 の手にはお札が一枚。京都の神咲楓月流の霊符を分けてもらい穏行までして居るのだ。
「そろそろです。・・・お世話になりました」
「ああ。しっかりやって来い」
「メールは出せるんでしょ? 連絡頂戴ね?」
 それぞれが別れの挨拶をする中、リスティがのそばに寄ってきた。
「リスティさん?」
「・・・確か君はファーストキスの相手は桃子さんだったな?」
「・・・ええ。あんまり思い出したくないですし、自分的にはノーカンにしてますけど」
 他にも色々あるが、自分的にも全てノーカンだ。
 自分の意思ではないし、そういう意味で好きだった相手でもない。
「なら、少しはボクの事は好いてくれてる?」
「・・・嫌いになるほうが難しいんですけど」
 にとってリスティは【好き】な相手だ。
 頼りになる姉であり、恩人でもある女性。
 からそう思われているリスティは、の顎をくいっと上げて、
「これは餞別だよ」
 の唇に自身のそれを軽く重ねた。
 と、周囲の面々が驚きで硬直する中、リスティは首筋まで真っ赤になりながらテレポートでから離れる。
「い、一応初めてだからね。覚えておきなよ!」
 そう言って、リスティは寮に駆け込んでいった。
 周りが、特に真雪とゆうひと美緒が凄いニヤニヤしているが、は全力で無視しつつ、転移魔法陣を起動させた。
「ではっ! 行って来ます!」
 色々恥ずかしいものを吹き飛ばすように大声で、リスティにも聞こえるようにそう叫んで、の姿は光と共に消えていった。


「ようこそ君。・・・顔が赤いけど、風邪?」
「・・・御気になさらず」
 地上本部のポーターに無事到着したは、迎えに来た女性局員にそう答えた。
「早速で悪いのだけど、中将の元へ顔を出してもらえるかしら?」
「ええ。行きましょう」
 は女性の後について歩き始める。
「自己紹介をしておきます。私はこれからあなたの部下になる事になったオーリス・ゲイズ三尉です」
「・・・部下?」
「はい。貴方には一尉の階級が与えられます。私は貴方の補佐となりました」
「・・・待遇が良すぎる」
「それだけ期待されているのです。今後ともよろしくお願いいたします」
「ええ。よろしくお願いします」
 こうしては、レジアス・ゲイズと出会い、地上本部でその辣腕を振るうこととなったのだった。


 レジアスが用意してくれたマンションに来たは、その広さに驚いていた。
「4LDK・・・しかもリヴィングがかなり広い」
 家族用の部屋だった。
 はため息を吐きつつ、部屋にあるものを確認する。
「一通り揃ってるな。しかもどの家電も最新式の様だ。いくら掛かってるんだ?」
 まあそんな事はどうでも良い。
 は手近にある部屋を自分の部屋に決めて、もって来たバッグを開けると・・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・こら」
 バッグの中。子狐が一匹寝息を立てていた。間違いなく久遠である。
 そしてバッグの中に手紙を見つけた。
 差出人は、神咲姉妹。
君へ。久遠がバッグの中に入っていて驚いたかもしれないけど、許してあげて。
 どうも久遠は君とお別れしたくなかったみたいなの。なんでも、やたより好き、とか。
 悪いとは思うんだけど面倒見てあげて。久遠をよろしくね。 那美】
【我が儘な仔だが悪い子じゃないんでよろしく頼む。戦闘能力も高いし邪魔にはならん。
 帰ってきた時に久遠に子供が出来ている可能性も考えたが、君なら許せるので後をよろしく。 薫】
 その手紙を読んで、は大きくため息をついた。
 そして、ソファにあったクッションに久遠を寝かせて、自分もそこに座り込んだ。
「・・・今寝たら夢写しにあいそうだな」
 夢写し。久遠の能力の一つであり、自身や他人が見た夢や記憶を他人に見せる能力である。
 ちなみにはさざなみ寮に泊まった時に久遠の過去のあれやこれや、R18な内容のそれすら見せられている。
「やたより好き・・・か」
 弥太、それは久遠が初めて好きになった男の子であり、久遠の目の前で殺され、久遠が祟り狐になった原因の
少年である。理不尽な理由で惨たらしく殺された彼の詳細に至るまで、は全て知っている。
 は久遠を見る。今は子狐だが、少女の姿や大人の姿の久遠ははっきり言って美少女であり美女である。
 妖怪だなんだ気にしないとしては、そんな久遠に好かれているのはとても嬉しいことだ。
「・・・これからよろしくな、久遠」
 寝ている久遠にそう言ったは、そのまま眠りに就いた。

 翌日、ご近所さんに挨拶回りをしたところ、お隣さんの母子家庭の親子と仲良くなった。
 お隣さんの名前はアルピーノと言ったりした。

 
 そして・・・・・・・・・・・・・・・・・




一尉! 待ってください一尉!」
 地上本部の廊下で、若い男性局員のを呼ぶ声が響く。
 それを聞いた周りの局員はぎょっとした。
 その名前は局内ですら恐れられている【漆黒の死神】の名前だった。
 そして呼ばれたは温もりを一切感じさせない冷徹な目を年上の部下に向けた。
「何か用かランスター」
「れ、レジアス中将がお呼びです。何かやったんですか?」
 ティーダ・ランスター三尉は目の前の若い、いや、幼いとすらいえる上司の視線にたじろいだ。
 入局し、半年の促成仕官コースを首席卒業したはレジアス・ゲイズに更に気に入られ、その元で辣腕を振るっていた。
 そして、そんなの部下であり、相棒として共に過ごしてきたティーダでも、機嫌の悪い時の
苦手を通り越して苦行だった。だが、ティーダにはその機嫌の悪い理由を理解している。
「この間の事件で犯人を殺した事で何か咎められるんだろう」
「・・・そうですかね?」
 の言った事に疑問形で返すティーダ。周りの局員は化け物を見る目でを見ているが、ティーダは違う。
 そもそもその犯人、殺人快楽症な上に幼児性愛嗜好という最悪の性癖をコンボで持っており、十歳未満の少年少女を相手に
連続暴行殺人を行っていたのである。幼い妹を持つ彼からすれば脅威といえる相手だった。
 もはや裁判がどうこうではない。これは生かしておいては碌なことにならないと判断したは一瞬の躊躇いもなくその首を
切り落としたのである。
 その時人質にされていた少女はその事は知らない。眠らされていた少女を救い出した後、首を落としたのだから。
 ちなみに、が被疑者死亡で終わらせた事件はもう十件にもなる。
 故にこの異名なのだ。
「なんにせよ、顔を出してくる」
「はい。ああそうそう、オーリス三尉が長官室に居るそうなんで早く帰ってきてくれと言っておいてください」
「あいよ」
 軽く右手を上げて、はレジアスのいる長官執務室に行くのだった。
 それを見送ったティーダは、また何か厄介ごとでも舞い込むのかな、と不安半分興味半分で自分のデスクに戻っていった。

「おや、グランガイツ三佐」
か・・・」
 長官室への道すがら、は自分を呼び出した上司の親友とその部下にあった。
「戦闘機人の一件ですか? たしか、独断専行しまくった所為で捜査が打ち切りになるとか聞かされましたが」
「・・・有力な情報が入った。その研究所に攻め入る。お前も来ないか?」
「残念ですが、別件の仕事が入ってまして」
「そうか。お前も相当忙しかったな」
 ゼスト・グランガイツ三佐の誘いをすっぱりと断ったは部下二名に目を向ける。
 クイント・ナカジマとメガーヌ・アルピーノだ。
「お二人、どっちも娘いるんですから殉職だけはしないように」
「分かっているわよ」
「心配しないで」
 二人は年下のに心配される自分たちに苦笑いしているが、にとっては笑い事ではない。
 も戦闘機人事件のデータは見ている。そして見ていて気付いたのだ。その性能が徐々に上がっている事に。
「アルピーノ三尉」
「なあに?」
「もし貴女が殉職するような事があった場合、娘さんは俺が預かろうか?」
「・・・そうね。お願いできる?」
「心得た」
 メガーヌの娘、ルーテシアの事を思い出しながら、はそれを約束したのだった。

 シュン、と扉が開き、は執務室に足を踏み入れる。
 そこには苦い顔のレジアス・ゲイズと最近の仕事の報告をしていたらしいオーリスの姿。
 二人はが入ってきたのを見て僅かに相好を崩した。
「また何か厄介ごとかな? それとも先の一件かな?」
「先の一件の事は構わん。殺した方が世の為人の為になる」
「まあ、あの変態には生きる価値すら見出せなかったが」
 あの狂気に染まった男を思い出す。オーリスが青い顔で露骨に顔を背けた。
「先程あんたの親友とその部下に会った」
「・・・行くつもりか」
「そのようだよ。しかも一時間もしないうちに出るだろうアレは」
「・・・困った男だ」
「まったくだ・・・」
 二人、いやオーリスも含めた三人は盛大に溜め息を吐く。ここ最近、彼の部隊は独断専行が多すぎるのである。
「スカリエッティとは手を切ったんだろう?」
「ああ。お前のアイデアの方が人道的で且つ裏でこそこそしなくてもいい物な上に大々的に宣伝できるからな」
 レジアスはと知り合ってからも戦力増強を考えていた。そこで、レジアスの自宅で会食中だった
何か案はないかと聞いたところ、が彼にとっては理想といえる案を出したのである。
 すなわち、一般局員への武装である。
「魔力が無くても戦えるものもいれば、戦う意思があるものも居る。そういう人間に武器を与えて適切な訓練を施せば
戦力になるだろう。なぜにここに思い至らないのか・・・」
「魔導師ではないというだけで後方行き決定だからな」
 管理局では魔導師以外に戦力がいない。というか戦力として認めない。
 だが、アインへリアルの開発中に発生した副産物がに閃きを与えたのである。
「バイクに搭載できる程度のサイズの魔力バッテリーの開発。大型の魔力炉に繋いで補充すれば一基あたり魔力値400万
の補充が可能。バイク型のユニットと人が装着するタイプのパワードスーツの開発により一般人がAランク相当の力を
発揮可能。地上では大絶賛されたが本局では大不評だったな」
「地上の戦力不足は深刻だからな。だからお前の案は地上ではかなり支持されている。本局は理想主義者が多いんで
魔導師以外が戦場に出る事に否定的だからな」
「魔導師であれば年齢を問わないあたりで終わっている気がしないでもないけどな」
「違いない」
 とレジアスは低く笑う。
 二人とも本局憎しの思考なので非常に気が合うのだ。
「で? 用件は?」
「うむ。これを見てくれるか?」
 レジアスが出したのはある人物の履歴書だった。
「アグディア・ロンタール。三十五歳。元管理局員。・・・・・・・・・・・・・マジか?」
「大マジだ」
「何だこの経歴、つーか犯罪歴は」
 強盗、殺人、婦女暴行etc、おおよそ考え付く犯罪という犯罪を行っているその男の犯罪歴にあきれ返る。
「前科五百九十九犯。もう後一歩で六百の大台だな」
「ああ。その上元本局の武装隊員だった」
 その男は典型的な悪い魔法使いであった。どうやら管理局員という衣をまとって犯罪を隠蔽していたらしい。
「で、こいつの捜査か?」
「いや、抹殺を頼みたい」
 レジアスの硬い声に、の目が鋭くなる。
「理由は言わずもがな、か」
「このような凶悪犯罪者は逮捕し拘置所に叩き込んでもすぐに脱走してもう一度犯罪を犯す。そうなるのは面倒だし
要らぬ被害者が増える。なればこその判断だ」
「本局なら絶対に無い思考だな」
「お前に影響されたのだ」
 レジアスが苦笑し、は自嘲する。
 始まりは今回と同じような凶悪犯罪者との接触だった。
 そのあまりにも危険な思考と嗜好ゆえに、はその犯罪者の殺害を決め、実行した。
 当然査問に掛けられたが、その危険性を論じられ将来的な被害を無くしたのだと説くに幹部たちは感化されたのだ。
 そうして、漆黒の死神は誕生した。
 その異名は、今や犯罪者たちにとっては恐怖の象徴。
 のデータを見た連中がを軽んじて喧嘩をふっかけ、次々と命を落とした事が更に拍車を掛けた。
 現在が持つランクはB+。決して高いとは言えないランクでありながら、オーバーSが5人以上命を落としたのである。
「お前の名への畏怖が広まれば地上で悪さをする者は減る。事実以前に比べて格段に治安が良くなっている」
「ここ数ヶ月の調査では我々がマークしていた凶悪犯罪者がミッド以外の世界へ逃亡しています。あなたの捜査能力と
命を奪うことへの迷いの無さがよほど怖いのでしょう」
「かなり強引な捜査をやる事もあるそうだが?」
「なあに、ちょっとマフィアとかのアジトに乗り込んで命と情報のどっちが重いか選ばせるだけだ」
 の答えに絶句するゲイズ親子。
 そんな二人を見ては哂う。
「俺の異名への畏怖。有効に活用させてもらっている」
 狂気にも似た笑みを浮かべるに、子供に人殺しを強要している自分たちの業の深さを嫌がおうにも自覚してしまった
二人は、ただ目を伏して何も返せなかった・・・


 本局の一室にて。
 なのはたちは縁が切れてしまったかのように連絡が取れない幼馴染みの事で話し合うために集まっていた。
「フェイトちゃん。連絡は取れた?」
「ううん・・・全然。連絡を取ろうとしても繋いでくれないんだ」
「わたしもや。なんか地上の方でも君の名前はタブーになっとる」
 会いたいのに、話がしたいのに全く連絡が取れないことに、三人はとても落ち込んでいた。
 そんな中、ヴィータとシグナムは少し離れた位置で三人を見ていた。
「ヴィータ。心当たりは?」
「・・・地上である異名が蔓延ってる」
「・・・漆黒の死神か」
「ああ。凶悪犯罪者を次々と殺害する局員が、特別捜査官が居るって話だ」
 管理世界出身の局員なら絶対にするはずが無い殺しの行為。それを率先して行っている存在が居る。
「・・・可能性は高い」
「ああ。殺しはいけないというのが今の風潮だけど、そうしたほうが後腐れねーのは確かだ。特に殺されてる奴らは
死んだ方が良い連中だったが・・・」
「死んで良い人なんて居ないよ!」
 ヴィータの言葉を遮り、フェイトの強い言葉が部屋に響いた。
 いつの間にか全員がヴィータたちを見ている。
「テスタロッサ」
「死んで良い人なんて居ないんです。誰かが死ねば、誰かがどこかで泣くんです!」
 フェイトの言っている事は事実だろうが、何事にも例外は居るのだ。
「死んだ奴の罪状は見たのか?」
「・・・見てません」
「見てから言え。話にならん」
 シグナムはフェイトの言葉をばっさりと切り捨てた。
 現実を見ろと。実際、殺されているのは後戻りがきかないほどに堕ちた連中だった。
「誘拐、殺人、強盗、金になる事ならなんでもやる奴が現実に居る。動機はどうあれ、やっているのは最低なことだ。
 例えそれが病気がちな娘のためであっても、それは免罪符にはなりはしない」
「そんな事は分かってます! でも死んで良いなんて」
「そんな最低な奴が死んでも、泣くのはほんの一握り。喜ぶ奴の方が圧倒的に多いだろう。何の問題がある?」
「そんなの・・・間違ってる」
 フェイトの言葉に頷くのはなのはやはやて。そしてクロノやリンディたち。
「生かさず殺さず捕まえて、収監すれば良い事だろう?」
 クロノの台詞になのはたちが頷く中、ヴィータとシグナムはその事について思考してみた。
 逮捕された犯罪者たちはいわゆる塀の向こうへ行く。だが、収監された連中は、檻の中で静かに暮らす事になる。
 雨風凌げる場所で、三食欠かさず食べられて、特に仕事もせずにごろごろできて、規定内なら差し入れを頼める。
(・・・不自由さを考慮さえしなければニート天国じゃねーか)
(確かゲームの類も差し入れ可能だったな。普通に仕事をしているよりよっぽど恵まれているな)
 ちなみに、そういったものの購入費用や食費等は税金から出ている。
 しかも、強制労働の類は無い。下手にそういうことをさせて脱獄用の道具を作成されたりとかされるのを防ぐためである。
「・・・加害者の方が厚遇されているな」
「被害者のほうを考えてねーよな」
 往々にして、被害者は放置されている。
 保障の類はそんなに無い。
 それならば、いっそのこと凶悪犯罪者は極刑に処すのが一番理想なのだろう。
 掛かっている税金の事を考慮しても。


 廃棄都市の中のとある廃ビルの一室。
 肉を打つ生々しい打撃音。
 骨が砕ける音。血が飛び散り、床や壁に撒き散らされる音。
 それらが響いた後、何かが倒れる音が聞こえた。
「・・・終わったぞ。撤収する」
「はっ!」
 血を浴びたの撤収命令に、部下の一人が短く答えた。
 他の者は死んだその男、アグディアの死体を回収し、血の汚れも消していく。
「一尉。その、大丈夫ですか?」
「・・・大事無い」
 小さく答えたに、ティーダは心配になる。
 は忘れない。殺した相手も、殺した瞬間も、殺した感触も・・・。
「帰るぞランスター」
「はい」
 殺した事実を忘れれば堕ちる。
 ティーダはからそう聞かされていた。
 それを忘れたときが、自分が殺人鬼へと堕ちる時だと、もしそうなったら殺してくれと、ティーダは頼まれていた。
 前を行く小さな上司に、ティーダはどうしようもない罪悪感に胸が張り裂けそうになる。
(・・・俺は、なにをやってるんだ)
 幼い少年が人を殺すのを手助けする。
 最悪だ。いくら彼が命令されてやっているとはいえ、そのケアも出来ずにただ命令に従う毎日。
 執務官になりたいなどという夢はもう無い。は彼の目標としていたそれのために色々協力しているが、ティーダには
それ以上にしたい事があった。
(俺は、あんたの重荷を少しはもてるのか?)
 それは以前から聞きたかった事。そして、かつての夢よりも切実な目の前の問題。
 ティーダはこの幼い上司の助けになりたかった。
(俺に出来る事は、何か無いのか・・・?)
 それを探す事、それが今のティーダの心を占めていた。


 は自室でシャワーを浴びていた。
 熱いお湯がの体を洗浄して行く中、はじっと自分の手を見て、それをこすり合わせる。
 手を洗うように。
 だが、の目には、汚れが落ちなかった。その手にこびりついた血の後。
 お湯で流されていく血。だが、その血は止まることなく流れて行く、幻視。
 には分かっていた。それが精神病のそれである事。
 殺人を犯したものに起こるそれである事は・・・だが、
「はん」
 その幻視を、は鼻で笑った。そして見えていた血が消える。
「何を今更。あれを殺した時点でどの道この手が汚れているのは変わらんだろうに」
 親の仇を討ったその時のことを、は覚えている。
 見た目が人間ではなくなっていたとはいえ、人を殺したのは間違いない。
 フェイトやはやては全く気にしてはいないが、は自分を罪人だと認識していた。
「・・・ふん。自分を鍛える事は己を凶器に変える事。分かっていた事だろう。何を今更殺人に忌避感を持つ」
 は武術家である。武道ではなく武術。武を道にするのではなく、人を殺める術を追及する者。
 は誰より、管理局の誰よりも戦いと言うものを理解していた。
「・・・だがなぜだろうな。これが一番しっくり来るのは」
 被害が出る前にその元を断つ。その考えと行動がこの上なくしっくり来る。
 それに自嘲しながら、ははっきりと、己の本性がなのはたちのような光のそれではなく闇のそれである事を
改めて認識するのだった。
「・・・久遠にご飯を、ルーテシアも居たっけか。晩御飯三人前、何を作ろうか・・・」
 久遠はともかく、母親が数日家を開ける事も少なくないアルピーノ家。
 ルーテシアは家に預けられる事も少なくなかった。
 シャワーを終えたは、大人形態でいまだ幼いルーテシアをだきながらTVを見ている久遠を見つける。
 ・・・なんとなく、久遠と新婚生活しているような気分になる。
 悪い気がしないのは、久遠が好きだからだろうか。
「久遠。晩御飯にするぞ」
「うん。今日は何?」
「うどんにでもするよ。きつねにするか?」
「たぬきで」
 妖孤ならきつねで油揚げだろうと思うだろうが、久遠は油揚げよりも大福とかの甘いものの方が好きなのである。
 そんな久遠に苦笑しながら、は台所から手打ちうどんセットを用意するのだった。






あとがき
 IFの二番目。
 大分前から考えていた管理局所属√。
 御神流は習得しておらず、空手と見よう見まねの御神の剣だけ。
 こっちのルートはなのはたちとは完全に切れます。
 ヴィータやシグナムすらも。
 その代わり人間関係に大きな違いが出てきたり。
 久遠とかリスティとか・・・

 こっちののバリアジャケットですが、黒ずくめです。
 黒いコートに黒いガントレット。黒いズボンに黒いインナー。
 金属の部分はブラックメタリック。
 そして本人は黒髪黒瞳。
 ゆえに【他称】漆黒の死神。厨二臭いですが、管理局の局員たちはこういうのが大好きなんで。

 の魔導師ランクはB+。
 魔力量は膨大でも放出量が低いので使いこなせず、とりあえずの試験を受けてこのランク。
 なお、これ以降は試験を受けないのでランクはこれで固定。
 実質オーバーSの戦力でも書類上これなので何処でもいける地上本部の一人軍隊。
 模擬戦で首都航空隊のエリート50人(ティーダ含む)を十分掛からず殲滅した。
 ティーダはその後の下で強くなろうと異動してきた。

 の役職はミッド地上全域を活動範囲とする特別捜査官。
 主な仕事は凶悪犯罪者の捜査および殲滅。
 ただ、他の部隊が手におえない場合のみなので、それ以外は与えられた部屋で武装の研究か、部下の教育。
 が出したアイデアのおかげか、最近の地上部隊の戦力の損耗率は右肩下がり。
 管理局の対応の甘さを嘆き、警察に必要なのは寛大さではなく厳しさだと説く毎日である。
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