アインヘリアル。
 現在地上本部で建造計画が着々と進行している都市防衛用大型魔導砲台。
 大規模テロに対する戦力と本局は見ているが実はそれだけではない。
 これは抑止力なのである。
 現代の地球でもそうであるように、核などの強大な兵器は抑止力として機能する。
 だが、ミッドチルダにはそういった兵器は無い。
 いくら強力な魔導師が強力な砲撃をかまそうと、それはあくまで個人の戦力。
 色々制約もあるだろう。
 開発当初はレジアスも本局の見識道理の使い道を考えていたが、に言われてそういう使い道がある事に今更気がついた。
 ミッドチルダは悲しい事に犯罪発生率が高い。
 日本の実に50倍。ちなみに日本は地球でも類を見ないほどに犯罪発生率が低い国である。
 そして検挙率は・・・日本の実に4分の一。日本の警察は総合すると80%に至る検挙率を誇る。
 普段警察は無能だのなんだの呼ばれているが、世界的に見ればむしろトップクラスで優秀なのである。
 それをから聞いたレジアスは愕然とした。
 高度な文明を持っているはずなのに後進の文明に大きく水を開けられているのが非常にショックだった。
 そして、が自分に与えられた部署でオーリスほか数名と共に作ったアンケートの結果が、レジアス・ゲイズ、更には
最高評議会に凄まじいまでのショックと変革を齎したのだった。


 アナザーIF2ND


 暗い部屋の中、レジアスは三つの画面に向き合っていた。
 サウンドオンリーのためそういう表示しか出ていないが、レジアスは、そして最高評議会は凄まじく真剣だった。
『このアンケート、信憑性はあるのか?』
「はい。私の部下が現状を知るためだと作ったアンケートなのですが、百万人の一般市民にアンケートを取ったらしいのです」
『百万人か・・・』
「はい。それも内容が・・・」
『管理局のやり方は甘いと感じるか否か?』
『結果が9割YES・・・』
「つまり、管理局法はぬるいと言う意見でしょう・・・」
 管理局法では、死刑という刑罰は無い。なぜなら完全な悪人は居ないと説き、逮捕した犯罪者を更生するというお題目を
上げているからだ。逆に言えば、例え重犯罪を犯したとしても殺される心配が無いのである。
「ですので、この結果を見た部下たちからは管理局法の厳罰化を検討して欲しいという言葉がありました」
『うむ・・・さすがにこれは無視できまい』
『しかし、本局がごねるのではないか?』
「それに関してですが、本局は本局で別の法律としてしまおうという意見があります」
『ふむ?』
「つまり、本局の法律は管理外も含んでしまう事があるのでそれように調整し、地上は治安維持のための法律に変えようとい
う事です。海と地上で法が変わって混乱するやも知れませんが、この辺の管轄を明確化すれば問題はありません」
『ふむ・・・いわば国際法と現地法か。世界を股に掛けるような犯罪者は本局の管轄とし、地上はそれぞれの世界の地上部隊で
それぞれの世界に合わせて法を調整する』
『いくら人命を尊んでいようとも、それを踏み躙る物には相応の報いを、ということか』
「はい」
 暫しの沈黙が満ちる。
 評議会の三人は頑迷ではあるが、今の閉塞した現状をどうにかしたいとも思っていた。
 犯罪発生率は増加の一途をたどり、その増加した犯罪に追われて捜査が追いつかず下がって行く検挙率。
 その原因が抑止にならない管理局法にあるというのであるならば、それは変えざるを得ないだろう。
『わかった。それが必要なのであるならば各管理世界の地上本部と連携を取り法改正を進めると良い。草案が出来たら
一度提出をお願いする』
「了解いたしました。それと抑止として、死刑制度の復活」
『うむ。それは構わん。他に何かあるか?』
「それと現場の判断での凶悪犯の殺害を黙認していただきたい」
『・・・むう』
『それは難しいのでは?』
『何かデータか陳情があるのか?』
「じつは、私の部下で凶悪犯罪を専門に追う者が居るのですが、相手が逮捕しても仕方が無いような行くところ迄行った悪党や
殺す以外に無い狂人である場合が多かったようです。いちいち査問に掛けられるのも面倒だと愚痴っていましたが、本質はこ
ちらのデータでしょう」
 レジアスは一つのデータを出した。
 それは、軌道拘置所の入室状況と内部の状況。そして、その囚人たちの収監に掛かっている諸費用だった。
『・・・なんだこの数字は』
『拘置所がもうほぼ満杯とな』
『挙句、こやつらのために税金を兆単位で使っていると・・・?』
「はい。正直なところ、私もこれはどうかと思いました。相手は犯罪者です。それらを相手にこんな手厚い保護をしてやる必要
はあるのかと」
『お前の、いや、お前の部下の言うとおりだな。これは明らかに税金の無駄遣いだ』
『民の血税で犯罪者を養う。一般人が聞けば暴動ものだ』
 電子音声の向こうから重苦しいため息が聞こえた。
『治安を守るためにもある程度の厳罰は必要か』
「そうでなければ抑止足りえないでしょう。このアンケートを深読みすれば、管理局なんて怖くない、という民の本音が
透けて見えます」
『わかった。・・・人の命を尊びすぎるのも考え物か』
「はい。それで・・・」
『うむ。管理局法に盛り込むが良い。我らも反省せねばな』
「ありがとうございます」
 こうして、が中心となって考えられた今回の報告は終わった。


「皆今日はワシの奢りだああああああっ!!!!!!!!」
「「「「「いよっしゃああああああっ!!!!!!」」」」」
 地上本部の一室。が与えられた特別資料整理課。
 そのデスクでは、レジアスが今日の報告で陳情が通った祝いにその課の職員たちに大盤振る舞いしていた。
 たちが集めた資料やその他諸々、そう言った物で必要だと思われると判断した議題が評議会に通ったのだ。
 管理局の改革を考えればまさに快挙。
 オーリスですら握り拳を頭上に掲げて歓声を上げていた。

 しかし、一方のは久遠とティーダと一緒に夜の森を駆け抜けていた。
 頭上から降り注ぐ赤い魔力弾や魔力砲。と久遠はひょいひょいとそれをかわしつつ、ティーダは必死の形相で
当たりそうになったそれを障壁で防ぎ身を捩って避ける。
 三人は現在、オーバーSランクの違法魔導師と戦闘中だった。
「無事かランスター」
「な、なんで、そんなに・・・うおっ! 軽々とよけられ・・・おわあっ!!」
 息も絶え絶えなティーダだが、と久遠は息も切らしていない。むしろ余裕すらある。
「攻撃の軌道を計算して射線軸に居ないように動いているだけだ。あいつ誘導弾かなりへたくそみたいだし」
「こうげき、全部まっすぐ」
「そ、それだけでっ!!!?」
 実際、その魔導師(と同じ程度の年齢の少女)は魔力砲と魔力弾こそ雨あられと降り注がせてはいるが、全て直射弾
である。はその軌道を起動段階で高精度予測、その射線上に入らないようにポジショニングしていた。久遠は野生の勘
である。なお、ティーダは全てギリギリで何とかかんとかかわしているのが精一杯だ。
「一尉! 今何発装填してますっ!?」
「三十発かな」
「そろそろ撃ちましょうよ!?」
 の使う魔力弾、というか魔力矢だが、常に4、5発分の矢をストックしている。は出力が弱いので前もって作っ
ておかないとすぐに弾切れになるのだ。今は逃げまくっている間に矢を作り続けていた。
 これがなのはや今上空に居る少女なら百発は一瞬で作って見せられるのだろうが、にはどだい無理な話である。
「そろそろ行くか。久遠、電撃」
「くぅんっ!!! 雷っ!!!!!!」
 久遠の手に電気が集まり、上空に居る少女に放たれる。その電撃は少女を貫く・・・事無く、強固なシールドに
阻まれる。そんな事はお構いなしに、久遠は電撃を放射し続ける。
「す、凄い・・・」
「まだまだ。 やれ、久遠」
「くぅん!」
 幼い少女の姿の久遠が光に包まれ、その瞬間に現れるのは成人した女性の姿の久遠。ティーダが一瞬その美しい容姿に
見惚れるが、の拳骨で正気に戻る。
「はああああああああっ!!!!!」
「っ!!!!!」
 久遠の電撃の威力が爆発的に増幅し、少女のシールドを突き破るどころか一方的に吹き散らす。
 少女は何とか高速移動で直撃を避けはしたものの、僅かに掠ったため電気ショックで意識が飛び地面に落ちる。
 だが、すぐに意識を取り戻した少女はすぐに体を起こして身構え、自分の周囲に展開された50を越える矢に表情が凍り
ついた。
「さて、チェックメイトだ」
「・・・一尉。30って言ってませんでした?」
「多少さばを読んだだけだ」
 悪びれるでもなく普通に言うにティーダは頭が痛くなるが・・・
「聞かれている事を承知でウソの報告をした、いえ、余裕を持って報告したということですか・・・」
「なんだ、分かっているな。お前が相棒の方がやりやすそうだ」
「それは確かに、そう思うのです」
 なんと、少女の方が肯定した。
「さて、局の魔導師を狙ったテロで逮捕だ。取り調べを受けてもらおうか」
「・・・分かったのです」
 少女は大人しくに逮捕されるのだった。


 ティーダが取り調べをしているのをマジックミラー越しに眺めていたは、少女の供述に表情をゆがめていた。
 そしてその隣には、と同じく苦々しい表情の女性が居た。
「申し訳ないわね。うちの孫が・・・」
「気にしないでくれコラード校長。あの子は俺にとって妹と呼んで良い存在だ」
 その女性はファーン・コラード。が通った士官学校の校長である。
 そして、少女の名はミスティ・コラード。と同じプロジェクトによって生まれた少女である。
「局員に恨みがあった。だから管理局が嫌い。だから、局員を襲った」
「あの事件でそれが公表されて以来、あの子はうちを出ていたから・・・」
 管理局関係者だった祖母をも憎み、祖母の家を飛び出してテロ活動をやっていたらしい。
「あのプロジェクトの被害者であるなら、母親から殺されそうになったか?」
「ええ。手を掛けるギリギリで正気を取り戻したけど、もうこんな事が無いようにって、あの子の目の前で自殺したわ」
「・・・やりきれないな」
「ええ・・・」
 は自力で脱出して以来母親にあっていないのであれだが、ミスティは母親の変貌と死をほぼ同時期に見てしまっている。
 それゆえにミスティはその原因であった管理局を深く憎悪し、今回の凶行に至ったのだ。
「あの子はどうなるの?」
「・・・情状酌量の余地はある。そこに至った経緯と原因を考えれば、むしろ管理局は謝罪する必要があるからな」
「・・・ええ」
「だから、俺が保護観察官となった上でうちで引き取って、あの子の心のケアを行う。あとは、そうだな」
「嘱託の局員として無償奉仕・・・が妥当だな?」
 二人が居た隠し部屋にレジアスが入ってきた。
 二人は特に驚くでもなく迎え入れる。
「それが妥当だな。そういう風に持っていけるか?」
「十分にな。幸い、あの子は殺しをしていない」
「重傷者は居るけど、最後の一線は越えていなかったのね・・・」
 ミスティの甘さには苦笑した。なら間違いなく屍血山河を築いているところだ。
 だが、その甘さがミスティを救ったといえる。
「わしが手続きを取っておく。お前はあの子を迎えにいってやれ」
「すまない。世話を掛ける」
「構わん。わしはお前を息子のようにも思っている。多少の迷惑など大した事は無い」
「了解したよ、親父殿」
「うむ」
 部屋を出て行くを見送るレジアスとファーン。
 何処となく嬉しそうなレジアスに、ファーンはちょっと突っ込んでみた。
「レジアス中将。顔が緩んでますよ?」
「ぐむ、べ、別に良いではないか・・・」
 息子が居ないレジアスにとって、に親父と呼ばれるのは相当嬉しかったらしい。

 ある程度話してからだんまりを決め込んだミスティに、ティーダは頭を抱えていた。
 同じく、調書を取っていたオーリスも進まなくなった取り調べに戸惑っていた。
 そんな取調室の中にが入ってきた。二人とも表情が明るくなる。
「そんなに嬉しそうな顔をするなよ」
「す、すいません・・・」
「普段も供述を引き出してますから・・・」
 二人は恐縮しきりだが、は特に気にせずティーダに取って代わりミスティの向かいに座った。
「さて、君の事情は分かった」
「だったらどうだというのです」
 ミスティは憮然とした表情でに言葉を返すが、続く言葉に表情が変わった。
「端的に言おう。俺はお前と同じ境遇の人間だ」
「・・・ま、まさか・・・! なんで貴方が局に居るのですっ!!!」
 ミスティの言葉は尤もである。にしても局には何の義理も無い。むしろ恨みしかないのだ。
「本局に勤めている元幼馴染みたちによる数時間にも及ぶ善意の押し付けに屈したからだ」
「・・・それは、災難なのです」
 魔導師はその力を世界のために使うべきだ、という考えが本局組みにはある。
 にとってはふざけんなとしか言い様の無いものだが、そう信じているなのはたちはにもそうであるように
自分たちの考えを押し付けたのである。そこには悪意が無く、また局に入ったほうが色々得な部分もあるからなのだが・・・
にとってはどうでも良い事である。
 そもそもは魔導師を自称した事は無い。
 にとっては魔法など戦闘のための技術の一つでしかないのだから。
「俺にとってはもう、あいつらはどうでもいい。が、局には恨みがある」
「なら何故大人しく仕事をしているのです?」
「簡単だ。内側から変えてやろうと思ったからだ」
 の理由に、ミスティは呆れたような顔をする。が、の言葉はまだ続く。
「ミッドの治安も、世界の事などどうでもいい。そんなものに興味は無い。所詮俺の故郷でもなんでもない世界の事だ。
 だが、色々と気に食わない。だから変えてやるのさ。魔導師至上のこの世界を。魔導師で無ければ戦えないこの世界を。
 一般人でも、自分の世界を自分たちで守れるように、力を、変革を齎してやる。管理局の体制を変えてやる。
―――今のこの姿が跡形も残らないほど、原形を留めないほどに作り変えてやる」
 不敵な笑みを見せるにミスティは息を呑んだ。その場に居た二人も、隠し部屋から見ている二人も・・・
「それが俺の復讐だ。どうだミスティ。一枚噛まないか?」
「貴方は・・・」
 復讐。誰も傷つけない、むしろ多くの人を守る―――優しい復讐。
 ミスティは、自分のやっていた事が如何に不毛だったかを思い知らされていた。
 はミスティに手を差し出した。共に来いと言う意思表示。ミスティは少し迷いながら、おずおずとその手を両手でゆっ
くりと握った。
「ボクは、局が嫌いなのです・・・」
「ああ」
「管理局は大きな組織なのです。上手く行くとは限らないのです・・・」
「分かっている」
「それでも、やるのですか?」
「ああ。お前が居てくれれば、俺の計画はより万全になる」
「・・・跡形も無く、別物に作り変える。抵抗はあるのですよ?」
「承知の上だ。蹴散らしてやろう。俺達でな」
 ミスティの手を、は力強く握り締める。
 ミスティはその目に涙を溜めながら、力強く握り返した。
「よろしくお願いするのですっ・・・! お兄様・・・っ!」


 新たに生まれた兄妹を見ながら、ファーンは苦い顔をしていた。
 ミスティの説得が出来た事、兄が出来た事は素直に嬉しいのだが・・・
「よいのですか中将? あれは相当な危険思考では?」
「・・・ふっ」
 レジアスが軽く吹き出した。ファーンは怪訝な表情でレジアスを見る。
「ふははははっ! そうだ、そうでなくてはなっ! さすが我が派閥を任せられる器だ! 我が後継者にふさわしい!!」
 レジアスは本当に楽しそうに、嬉しそうに笑い出した。ファーンは思わずぎょっとする。
「レ、レジアス中将・・・」
「くくくっ・・・。コラード校長。管理局は変わらねばならない。体制は時代と共に変わるもの。時代に逆らわず、変化を
受け入れて変わって行かねばならん。何より今の現状を払拭するには組織そのものの根幹すら変える必要が出るだろう。
 新しい風を吹き込み、凝り固まった思考を吹き飛ばし、より良いものに変えねばならん! 既存の概念などくそくらえだ。
奇麗事だけでは、誰も何も守れはしないのだからな!」
 レジアスはずっと守り続けてきた。ミッドチルダの平和を。
 だが、地上には犯罪が蔓延り、十数年ごとに大規模テロが発生する。
 そしてそんな現状を、本局は全く気にしては居ない。それもそうだ。本局は、海は海の事しか考えていないのだから。
「必要なのだよ。多少過激でも、厳しくとも、奴のような存在が今の管理局には必要なのだ。動機など関係ない。その意思が
あり、明確なビジョンがあり、そこに行くだけの力がある。そしてそれが齎すのはミッド地上の平和だ。何の問題がある!」
 こういった事は結果が全てなのだ。たとえ多くの批判があり、抵抗があったのだとしても、最終的に成果を出していれば
民衆はそれを評価し、支持するのである。
「奴は確かに復讐をするのだろう。だがそれで誰が損をする。損をするならそれは一部の既得権益に縋る癌どもと、犯罪者
たちだ。大多数の人間はむしろ得をするだろう。それの何が悪い!」
 レジアスにしてもそれは願ったり叶ったりだ。この現状を誰よりも憂い、そしてそれに共感できるはレジアスにとっては
同志である。手を組まない理由も無く、また支持しない理由も無い。
「だからこそ気に入ったのだ。だからこそ奴に期待しているのだ。奴は言った。自分は破壊の鬼であると。それも結構だ。
創造は破壊の中から生まれるものだ。古いものを破壊し、新たなものを創造する。それこそが奴の本性!」
 本当に、本当に楽しそうな顔でレジアスは告げる。
 ファーンもまた、現状に不満があった。だからこそ、そこに異を挟めない。
 二人が見ている中、取調室ではティーダとオーリスが自分たちも協力するとたちに手を重ねている。
 聞いていたらしいの部下たちもまた、目に気合が漲っている。彼らもまたの下で色々な資料を集めている中、現状に
強い不満を持っていたのだ。
「ふふふ。ここに居るのは本当に、次代を担うものたちだ。本当に、将来が楽しみだよ」
「そうですね。私も負けてはいられません」
 年長二人は未来ある若者たちの将来が楽しみだった。


 時空管理局本局。
 その一室にて、クロノ・ハラオウンとリンディ・ハラオウンは密談をしていた。
「せっかくを局に入れる事が出来たのに、地上本部に持っていかれるとは・・・」
「レジアス中将が強引に引き込んだようね。彼も抵抗できなかったみたい」
「あいつが居ればいくつもの世界を救う事も出来るだろうに・・・」
「本当に、宝の持ち腐れだわ。地上に縛り付けてもそれで終わる器ではないのに」
 二人はを本局で働かせる事が出来なかったのをとても悔やんでいるようだった。
 その理由は、いささか自分本位で、の意思を無視したものではあるが。
 二人はを管理局という大きな組織の歯車に組み込むつもりで居た。
 なのはやはやて、フェイトのように。
 だからこそ、は地上に行ったのだ。クロノたちを出し抜き、欺いてまで。
 はクロノたちの思い通りに動く駒になる気はない。
 操られてやるつもりなど毛頭無い。
「くそっ! あいつが地上に行ってからゲイズ派閥の力が増してる。もかなり動いているみたいだし」
「それに、あれもあるわ。漆黒の死神」
「これだから地上はっ! 人の命をなんだと思っているんだ!」
 二人は一応死神の正体がである事を知っている。というか調べたのだ。それぞれの権限で、むりやり。
「ミッド地上よりも海の方が遥かに危険な状況よ。ロストロギアの問題もあれば、凶悪犯罪者も多く居る。それを何とかす
るために君を引き込んだのに・・・」
「地上はこれまでも十分やってこれた。今以上の戦力なんて必要ないじゃないか。それになんだよあの装備は」
「・・・日本の特撮で見るようなスーツだったわね。君が開発したんだろうし、そういう趣味があったのかしら?」
 クロノの見解は大きな間違いである。
 ミッド地上は非常にギリギリの均衡で保たれているといっても良い。何とか均衡を保てていたのはレジアスの強引な
手腕による所も多いのだが、それが地上を守ってきた事をまるで理解していない。
 だからその均衡を良い意味で崩し、治安を良くする為に戦力の増加を見込んでいるのだ。
 そしてがそれに協力したに過ぎない。
 ついでに言っておくが、が開発した装備のデザインだが、まるっきり某G−○スーツである。
 の名誉に賭けて言うが、は根幹となる基本構造を開発したのであって装備のデザイン自体は開発プロジェクトの
デザイン担当の職員がしたのである。ちなみにその職員、重度の特撮マニアであり、の出した案に心から感動して
全ての情熱を叩きつけたのであった。完成した後の試作品を見たが怒鳴りつけはしたものの、物凄く満足した表情だった。
 は手直しさせようとしたのだが、カッコいい装備は宣伝効果も大きく、将来的に増員を見込めることもあるのでレジアス
がそのまま採用してしまっているのだ。
「なんにせよあいつの問題はそれだけじゃない。人殺しをやめさせないと・・・」
「そうね。私たちが更生してあげないといけないわ。このままではあの子はいつか局員からも後ろ指を指される人間になる」
「そのためには・・・地上にある程度干渉できるくらいに地位を上げなくては」
「あの方々、三提督のお三方にも協力を頼みましょう。優秀な人材を我々の元に招くように」
 更生してあげる・・・なんという傲慢な言葉だろうか。
 はあらゆる覚悟の元に己が泥を被る事を選んだ人間である。
 その覚悟も知らず、理解もせず、自分たちの言い分を正義と断じてその行いを非難する。
 の意思など、彼らには不要でしかないのだろう。
 だって、彼らはの才能と力しか見ていないのだから。
 二人の密談は続く。
 その密談すらも、全てに筒抜けだと言う事すら知らずに。
 二人が話すその部屋の隅にある観葉植物。その幹から覗く極小のカメラと集音マイクの存在に、二人は気付く事は無かった。





あとがき
 IF2NDの二話でした。
 が所属、というか統括する特殊資料整理課。後見人はいわずと知れたレジアス・ゲイズ。
 管理局の改革のために編成した部署で、それに必要な書類等は全て集められる権限を持つ。
 それともう一つ、ミッドでもオカルト的な事件は起こっている。そういう奇怪な事件も取り扱う。
 ちなみに資料と死霊を掛けてあるのは言うまでも無い。
 協力部署に無限書庫がある。現史書長のユーノ・スクライアは特殊資料整理課の外部協力員である。

 レジアスはを自分の後継者にしたいのでオーリスとくっついて欲しいのだが、実際の所オーリスはティーダと
良い仲だったりする。歳が近いので話しやすく、いつの間にかかなり仲が良かった。
 レジアスも最近はそれで良いかと思っている。
 ティアナはむしろ仕事一徹だった兄に仲の良い女性ができたので応援中。
 すでに義姉さんと呼んで後押ししまくりである。



おまけ
 久遠との生活(15歳時)

 朝、が目を覚ますと少女の姿の久遠と5歳ほどのルーテシアがの隣で眠っていた。
 いつもの事なので気にしないは久遠とルーテシアの頬にそっと口付けしてから朝食を作りに台所へ。
 食事を作っていると寝ぼけ眼の久遠とルーテシアがリビングにやってきた。
 ルーテシアはが正式に引き取った。
 実はメガーヌが殉職してしばらくたってから、誘拐未遂事件が起きたのである。
 幸いにも久遠が面倒を見ているときだったので久遠が撃退して事なきを得たが、母親の殉職(遺体は見つかっていない)
の後に来たため戦闘機人事件の関係だと睨んだレジアスがに捜査を依頼している。
 もスカリエッティ関連を追う事になった。引き取った娘のために。
「おはよう久遠、ルーテシア」
「おはよう」
「おはよう、パパ」
 パパ。そう、パパである。
 メガーヌが殉職したのはルーテシアがまだ一才ちょっとの頃だ。なので、引き取って数年、物心が付いてきたルーテシアは
自分を育ててくれている二人の男女を親だと認識しているのである。
 一応ルーテシアもメガーヌが本当の母親だと知ってはいるが、育ててくれている二人が大好きなのでそっちが優先なのだ。
「今日はお仕事?」
「鉄火場がありそうでな。悪霊関連の仕事になるが」
「たいへんだね」
「こっちの世界にはこういう事件に対処できるのが俺しか居ないからな。才能がある奴を見繕ってウチに引き込むか」
「ミスティおばさんは?」
「・・・おねえさんな。ミスティの奴、マジで凹んでるから」
 実はミスティも一緒に暮らしているのだが、今は嘱託の仕事でお世話になっている部隊の寮で仮住まい中である。
「ミスティも一応霊感はあるんだが・・・生理的に受け付けないらしい。こういう事件には最初から関与しないんだ」
「久遠ママも行くの?」
「くぅん。こういう事件では、久遠がの相棒」
 には二人の相棒が居る。一人はいわずと知れた久遠。主に霊障関係の事件で一緒に行動している。それ以外は家で
ルーテシアの世話をしている。最近は家事も積極的に覚えている。一応局内ではの使い魔扱いである。
 そして普通の事件ではティーダが相棒を務めている。最近オーリスと交際しているので休みに会う事は少ないが。
 あと、職場の空気が甘い。特にところ構わず愛の言葉を吐いたりはしないのだが、二人の間の空気がなんとも甘いのである。
 には久遠がいるので気にはならないが、一人身の連中にはかなりこたえるらしい。何度も相談された。
 朝食を食べ終えたはルーテシアを近くの幼稚園に預けてから、久遠と共に職場に出かけ、挨拶してからすぐに霊障の
調査に入るのだった。

 仕事を終えたと久遠はルーテシアを迎えに行ってから、晩御飯を食べて風呂に入ってからまったりしていた。
「あふ・・・」
「もう寝るか?」
「うん・・・おやすみなさい・・・」
 あくびをしたルーテシアはそう言って自分の部屋に入って行く。
 二人っきりになったと久遠はしばらく一緒にテレビを見ていたが、少し早めに床に就く事にした。
「くぅん・・・」
「どうした久遠・・・って、したいのか?」
 顔を赤くしてもじもじしながら、久遠はにすりついてきた。
 どうやら今日は小さい方でしたいらしい。ナニをとは言わないが、察して欲しい。
 ちなみに、前回は大きい方だった。どっちになるかは久遠の気分しだいで、は特にリクエストはしない。
 どっちも久遠なので、どうでも良いとは言わないがどちらもOKなのである。
 久遠はベッドに座るに抱きつきキスをねだる。
 求めてくれる久遠が嬉しいは、当たり前のように久遠を抱きしめて濃厚なキスを交わす。
 翌日が休日である事を確認しているは、少し頑張ってみようかと思ったりしたのだった。


 数日後、ルーテシアがたちに弟か妹が欲しいとねだり、久遠がを熱く見つめていたりしたらしい。

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