もし闇の書がはやての元へではなくの元へ来ていたら。


 は海鳴の郊外にある一軒家に一人暮らしだった。
 父親の顔も知らず、母親は幼い頃に自殺した。
 祖父母に育てられたものの、その祖父母も旅行中の事故で死んでしまった。
 そんな折にきた一つの連絡。
 親戚を名乗る『外国人』ギル・グレアムからの援助の申し入れ。
 あまりにタイミングが良すぎるその通知と、純日本人家系の家に対して親戚を名乗る謎の外国人。
 信じることなど出来るはずがなかった。
 そして執拗に来る経済援助の申し出に、は不審を強くした。
 その為、は祖父の友人であった槇原老の孫である槙原愛に保護者となることを依頼し、その了解を取り付けることで
ギル・グレアムからの援助の申し出を封じたのだった。
 
 そうして、さざなみ寮の関係者と共に騒がしくも穏やかに過ごしていたに運命の日が訪れる。
 物心付いた時から部屋にあった鎖で封じられた本。
 9歳の誕生日の深夜12時、それはその正体を現した。
「な、今まで何をしても解けなかった鎖が!」
『起動<アンファング>』
「・・・? ドイツ語? それにこれは、高度なサイバネティックの産物なのか?」
不吉などす黒い光を纏ったそれはページがめくれ続けるが、その中は白紙。
の体から蒼く輝く光が現れ、本の中に消えていく。
そして、床に三角形を基本とした魔法陣が出現し、人影が現れる。
「我らヴォルケンリッター。主の目覚めと共に参上いたしました」
「どうかご命令を」
 傅いだ態勢で現れる、紫の髪の長身の女性、赤い髪の少女、金髪の女性、銀髪で獣耳の男性。
 は彼女らを見て、冷静に返した。
「・・・とりあえず事情説明を頼む」
「・・・は?」
「予備知識が一切無い。言っておくが、この世界には君たちの使うような魔法は存在しないんだ」
「「「「はい?」」」」


「なるほどね。異世界の魔法技術で作られたものか」
 は闇の書の白紙のページをぺらぺらと捲りながらシグナムたちの説明に耳を傾けていた。
「そして我々が闇の書の守護騎士。夜天に集いし群雲の騎士・ヴォルケンリッターです」
 4人が改めて姿勢を正しそう告げると、は眉をひそめた。
「あの、なにか?」
「今、夜天って言ったよな?」
「そーだよ。なんか文句あんのか?」
「ヴィータ!」
「けっ!」
 従順な三人と違って一人反抗的なヴィータに視線を向ける。いらついた様にそっぽを向く彼女を見やって、は疑問を
口にした。
「闇の書の守護騎士であるお前達は闇に集ったのではないか?」
「・・・は?」
「夜天と言う単語は何処から出てきたんだ?」
「「「「・・・・・・・・っ!!!」」」」
 騎士たちは息を飲んだ。当たり前に使っていた単語だが、指摘されるまでなんとも思っていなかった。
 騎士たちの様子を見て、は一筋縄では行かないなと、内心でそうごちたのだった・・・


 シグナムとシャマルは闇の書に意識を潜らせていた。そこで見るのは彼女らにとって信じられない事ばかり。
「・・・コレが原因か」
「・・・そうね。まさかここまでとは思わなかったわ」
 二人は無茶苦茶になったプログラム群に盛大に溜め息を吐く。壊れていると言っても過言ではない。
「デフラグをかけるとか?」
「整頓しても意味は無いだろう。しかし・・・管制人格はどういう状況なんだ?」
「分からないわ。あの子は無事なのかしら・・・」
「何にせよ、主が言うには管制人格を起動させないとどうにもならないということだ。しかし・・・」
「どうしたの?」
「主の頭脳には驚かされる」
「確かに」
 魔法のプログラム等をに教えたシャマルとシグナムだが、ものの小一時間で大方の部分を理解してしまったのだ。
 そして管理者権限を行使してプログラム内を閲覧しようとしたのだが・・・
「まさか管理者よりも防衛機構のほうが上位にあるとはな・・・」
「エラーメッセージと共に出た警告文に呆れてたもの。うん、私たちもだけど」
 主であるはずの人間が弾かれるなど思っても見なかったのだ。どうやら全ページを埋めないとまともに権限が働かないら
しい。あまりの事態に、は中に潜れる守護騎士に丸投げしたのだ。
「ヴィータは呆れていたが、主の選択は正しい。出来る我らがやらねばどうにもならん」
「そうね・・・あら、もうこんな時間」
「む、いかん。確か主の行き着けの被服店で服を購入する予定だった」
 行き着けというか、さざなみ寮のみんなが紹介してくれた店である。
「早く戻りましょう。ヴィータちゃんたちにも報告しないと」
「ああ。しかし、インナーだけでも十分なのだが・・・」
「今の私たちの主は男の子よ。こんな服装じゃ目のやり場に困るでしょう?」
「むう・・・今まで男性の主だとむしろもっときわどい格好をさせられたが・・・」
「常識的な主で助かるわ。さ、行きましょ」
「ああ」
 闇の書のデータから復帰した二人が見たのは、満面の笑みを浮かべて食事中のヴィータだった。

「ギガ美味えっ!」
「口にあって何よりだよ。お代わりは?」
「いるっ!」
 大皿に盛った黄金チャーハン5人前(卵は烏骨鶏のもの)がヴィータの腹に消えていく。は甲斐甲斐しく食事の世話をしており、ザフィ
ーラは既に食べ終えたのかリビングのソファで茶をすすっていた。
「あの・・主?」
「ああ、戻ったのか。いや戻ってくるのが遅いから先に食事でもと思ってな」
「申し訳ありません。予定を狂わせてしまいました」
「いやいいから。しかし遅かったな。ゆうに3時間は過ぎているぞ」
「「ええっ!!」」
 の言葉に驚き大声をあげ、その声に驚いたヴィータが喉にチャーハンを詰まらせた。即座に水を渡す。
「んぐ・・・んぐ・・・ぷはあ! し、死ぬかと思った・・・」
「いや、すまんヴィータ」
「ご、ごめんなさい。でも、私たちの体感時間で20分しか経ってなかったんですけど・・・」
「・・・中で狂わされたんじゃないのか?」
「・・・ありえますね」
 深刻そうに闇の書を見るシャマルとシグナムから視線を外しヴィータを見たは、二人に警告した。
「早く食べないとヴィータに食い尽くされるぞ。今ある食材はもうそれしかなかったんだからな」
「「・・・・・・・・・・・・・・・」」
 二人が皿を見ると、大皿に山盛りだったチャーハンが既に3分の一に減っていた。
「少しは遠慮しろヴィータ!」
「そうよ! 私たちの分がなくなっちゃうじゃない!」
「うるせえっ! こんな美味いもん食ったの初めてなんだからしょうがねーだろ!」
 凄い勢いで口の中にチャーハンをかきこんでいくヴィータに対抗し、シグナムとシャマルも大急ぎで食事を開始した。
 プチフードファイトを横目で見るザフィーラは、淑女という言葉を忘れたかのような同僚に溜め息を吐いたのだった。


 服を買い、食材を買い、各々の生活必需品を買ってきたたちはそれを収納に入れて行き、シグナムたちは自分の分の
服の入った袋を床に下ろして、疲れきった溜め息を吐いた。
「まるでファッションショーだったな」
「言うなザフィーラ。乗せられてポーズまでとっていた自分の首を落としたい気分だ」
「シャマルはノリノリだったしな」
「ヴィータちゃんだって、主に可愛いって言われてツンツンしながら満更でもなさそうに顔を真っ赤にしてたじゃない」
 それぞれ言い合いして、がっくりと項垂れる。この三人は標準以上の美貌を持っているため店員の格好の獲物にされたのだ。
 それはもう楽しそうに、またのご来店をお待ちされている。正直な話行く気はしない。
 ザフィーラは所持金の関係上、狼の姿で過ごす事に決めた。正直女性ものの服は高い。主に負担をかけない為の選択だった。
 守護騎士たちはそれぞれ見繕ってもらった服をそれぞれ用意された部屋にしまってから、今後の話をすることにした。
「さてお前達。今日の晩御飯は何がいい?」
 色々な料理本を出して来たに、いきなりその話かと思った騎士たちは、の手元に注目した。傍からは注文を取って
いる様にしか見えないメモに書かれているのは・・・
<誰かが監視している。表情に出さずにさりげなく本の文字を指して言葉にしてくれ>
 一瞬の間の後、騎士たちは揃って本を開き、和気藹々と料理の話をしつつ密談する。
<何故監視されていると?>
<前からちょくちょく覗かれている様な気配があった。今まさにその気配が外にいる>
<黒い猫が窓の外にいますが・・・>
<そいつだ。実はこの辺で黒猫を飼っている家庭は無い。あれ、どう見ても飼い猫だろ。首元に注目>
<あ、確かに。リボンがついてる>
<毛並みも相当いいな。大事にされているか、よっぽど可愛がられているかだ。いい物食ってそうだな>
<そうですか。ですが何故怪しいと?>
<この近辺にいないはずの黒い飼い猫。しかも何故かこっちを凝視している。何かあると思うだろ?>
<たしかに>
 ヴィータはさりげなく、表向きの話の中で不自然が無いように外を見る。首にリボンのような飾りをつけた猫がこちらを見
ている。に呼ばれてすぐに視線を外した。
<それで、今後の話だ。闇の書の修復と言うか、俺が助かるためにも魔力の蒐集をしなければならないことは分かっている>
<はい。蒐集は我らに任せてください>
<でもなシグナム。手当たり次第に魔導師とやらを襲っても管理局とやらが出張ってくるだろう?>
<ですがそれもまたチャンスです。出てくるのは魔導師ですから>
<はっきり言おう。指名手配を受けるのは極力御免被りたい>
<ひっそりと出来る事じゃねーぞ>
<むしろ堂々と行こうと思う。シャマル、次元世界の中で、賞金のついた手配犯とかはいないのか?>
<前に目覚めた時には・・・あ、ありました! いくつかの世界で違法魔導師に賞金が掛かってて>
<それが狙い目だな。おそらくそういうのにはギルドのような組合があるはずだ>
<なるほど。違法魔導師相手に賞金を稼ぎつつ魔力も蒐集。一石二鳥の作戦ですね>
<相手は犯罪者だから心も痛まねえ。管理局ともかち合う可能性はあるけど、正体を明かさなきゃばれる心配もねえ>
<リンカーコアの採取も無力化するためだといえば角は立たん。さすがです、主>
 この次元世界は広い。それは騎士たちには良く分かっている。管理局とて全てに対応できるわけでは無いのだから、そう
いった組織は存在しているのだ。管理局員は嘆くだろうが、には願ったり叶ったりだ。
 そして、表向き静かに生活をしながら、蒐集に精を出す日々が始まった。


「闇の書が起動したようだな」
「はい。お父様」
「主になった子供と一緒に平穏に暮らしているよ。たかがプログラム風情が」
 ここは時空管理局本局のギル・グレアムの執務室。そこではこの部屋の主とその使い魔が密談していた。
 闇の書の起動を確認して3ヶ月。彼等は平穏に暮らしているのを時折観察している。いや、監視か。
 主となった少年も蒐集には興味が無いらしく、守護騎士たちも蒐集は行わず日々を楽しんでいるようだ。
「ですがその内蒐集に出るでしょう。主を守るために」
「蒐集していなければ主を喰らって別の場所に転移する。騎士たちは今の主を気に入っているようだから絶対に動くだろう」
「そして、闇の書の完成と共に強力な氷結魔法による永久凍結封印を施す」
「巻き込まれたあの子は不運だが、闇の書による被害を考えればたかが孤独な子供一人の犠牲は安いものだ。引き続き監視を
怠らないように」
「はい。クライド君の仇を必ず討つために」
 主従は互いに頷きあい、それぞれの仕事に戻っていく。
 その主従を見つめる【目】と、聞き耳を立てる【耳】があることも知らずに・・・

「・・・なるほどね。事情は理解したが、だからといってはいそうですかと思惑通りに動いてやる義理も無い」
 突然そう呟いた主に視線を向けて、ヴィータはアイスバーを咥えたまま視線をテレビに戻した。
 その主、の両肩には二羽の鳥がとまっている。その鳥は異様だった。一羽は顔に大きな一つ目。もう一羽は目が無く、
大きな耳がついている。この鳥はそれぞれ千里眼、順風耳といい、が使役している式神だった。はその二羽と
感覚を共有して以前から自分達を監視していたモノを逆に監視していた。
「なんか分かったのか?」
「ああ。監視していた連中だが、どうも管理局の奴らしい」
「はあ? じゃあ何で今ここにこねーんだ?」
「書が完成するのを待っているそうだ。完成したと同時に凍結封印を施すんだと」
「馬鹿じゃねーの? んなことしても無意味だろ」
「まったくだ。俺を封印出来はするだろうけど、書の封印は夢のまた夢。あっさり封印を破って暴れだすぞ」
 彼らの希望や思惑は初めから破綻していた。暴走した闇の書は人間如きにどうこうできるようなものではない。
 嘲笑するに、ヴィータは賛同した。
 ヴィータはのことは嫌いではない。むしろ好きだろう。最初はまた以前と同じだろうと踏んで掛かっていたが、共に
暮らしていくうちに内面を知り、嫌いになる理由を悉く潰されたのだ。断じて餌付けされたのではない。騎士のプライドにかけて
彼女は誓う。
 ヴィータは自分の隣にいる喋らないシグナムとシャマル、そして床に伏せる、ではなく寝そべるザフィーラに視線を向ける。
 これは偽者だ。が本人に似せた式神。本物は今賞金首と激しいバトル中である。
 自分達の主、この幼い陰陽師は自分達の想像を遥かに超えていた。自分達を監視している管理局を騙し抜き、順調に
書のページを埋めているのだ。もう既に300ページを超えている。
 そして、この壊れた書を直す方法も大方の目処がついたのだ。
「しかしあの制服・・・」
「うん? なんかあんのか?」
「いや。ところでヴィータ」
「あに?」
「クーラーをかけた部屋の扇風機の前でアイスなんか食べてたら腹を壊すぞ」
「あたしはそんなにやわじゃねー」
 翌日、ヴィータはトイレの常連になった。


 月日は流れて、の前には残す所後1ページになった闇の書があり、その分のコアもあった。
「さて、ここで復習だ。闇の書を直すプロセスは?」
「1.騎士プログラムと管制人格のデータを新しく用意した大容量ストレージにコピー」
「2.闇の書のデータはバグが酷くウイルスらしき物もたくさん入っているのでまとめて初期化」
「3.まっさらになった書のフレームを修復して騎士プログラムと管制人格のデータをコピーしなおして終了」
 が考えた闇の書を直す手段はとても簡単だった。シグナムたちや管制人格はプログラム。元をただせば文字列に過ぎ
ない。ならばいくらでもやりようがあると考えたのだ。バグを起こしたパソコンを復元する要領である。
 防衛プログラムだろうが上位権限のコマンドには逆らえない。切り離す【アンインストール】よりも初期化【フォーマット】
する方が遥かに楽で確実だと考えたのである。また、夜天の書のデータが失われているというのもあり、は新たな書に作り直す予定である。
 達は生物のいない死の惑星にいた。ここならもし失敗して暴走しても人的被害は無い。自分以外は。
 が書に最後のリンカーコアを与えると、を取り込み、管制人格が現れた。
「主は大丈夫か?」
「ああ。今内部で作業中だ。みんな、私たちの仕事は心得ているだろうな?」
「当たり前だ」
 管制人格の言葉に全員が答える。
 そして、彼らが現れる。
 管理局執務官の少年。
 白い砲撃魔導師の少女。
 黒い水着のようなバリアジャケットの少女。狼の使い魔も連れている。
 そして、髪にバッテンの付いた髪飾りをつけた少女。
 更には、双子の猫の使い魔を率いる老魔導師。
 彼らは、有無をいわさず守護騎士達に襲いかかった。

 闇の書の中。
 は現実の人間ではありえない美しい容姿の管制人格と向き合っていた。
「・・・防衛プログラムのフォーマットプログラムがない?」
「はい。私も探したのですが、どうも奴自身が自分を守るために消してしまったようで・・・」
「ならば復元する。データを」
「はい。我が主」
 柔らかな喋り方でに従う彼女を、は愛しく思う。
 辛い役目を押し付けられ続けたその女性を幸せにしてやりたいと、心から思うのだ。
「プログラム復元開始・・・ダメです。防衛プログラムから妨害が」
「プログラムデータをよこせ。俺が直接組み上げる。しばらく堰き止めてくれ」
「はい。・・・プログラム復元成功。続いて・・・」
「待て。防衛プログラムからの妨害が再開した。俺が相手をするからプログラムの実行を」
「はい。主」
 と管制人格は凄まじい速さでプログラムを復元しその実行に踏み切ろうとするが、さすがに妨害が入る。
 は妨害の相手を一手に引き受け、管制人格がプログラムを何とか走らせる。
 起動したフォーマットプログラムに防衛プログラムが抵抗するが、今現在はに正式な管理者権限がある。
 所詮はプログラム。上位権限のコマンドを無効化することが出来ずに狂ったプログラムは初期化され、そこに残ったのは
管制人格の女性によく似た幼い少女が蹲っていた。
「・・・彼女は」
「防衛プログラムにも自意識があったようだな。守護騎士と同じように」
「そのようですね。外もだいぶ劣勢のようです。そろそろ・・・」
 はその少女を保護する。ウィルスにさらされないように幾重にもプロテクトを掛けてから、は改めて管制人格に向き直る。
「その前にすることがある。お前とこの子に名前をやらないとな」
「名前、ですか?」
「ああ。名前というのは大事だ。その存在を確定し括るという意味でな」
 名前をつけるというのは、一つの呪術である。
 名をつけることによってその存在を認識上に確定させる行為なのだ。
 石が石だと認識されているように、空が空だと認識されているように。
 そうやって人は世界を認識しているのだ。
 は自分たちの周囲に広がる仮想空間の、満天の星空を眺める。
 そして、決めた。
「管理局に知られた以上、我らは先も見えぬ闇の中を航海する船のようなものになった。元々人生というのはそんな物だが・・・」
「あるじ・・・」
 先の見えない人生。おそらく管理局に指名手配され、追われ続ける人生を送ることになるだろう。
「だから、俺達を導く星となれ。【ポラリス】!」


 劣勢に陥った守護騎士達は管制人格を中心に陣形を組み、自分たちを囲む魔導師たちからの攻撃を防ぎ続けていた。
「くそっ! まだか!」
「もう少しだヴィータ! もう少しで作業が完遂する!」
「出来れば急いでほしいが・・・それも無理か!」
 もう既にぼろぼろな守護騎士達は弱音を吐きつつもしっかりと相手の攻撃を防いでいた。
 そして、桃色の巨大な魔力砲が騎士たちに迫り、ザフィーラが歯を食いしばり防御しようとした瞬間、蒼い障壁が騎士たちを覆い尽くした。
 砲撃はその障壁を突き破ることも適わないどころか、接触面が水面のように波打っていた。
 そして、その砲撃を放った白い少女の真後ろに空間の歪みが発生、桃色の砲撃が少女を飲み込んだ。
「なのはっ!?」
「なのはちゃん!?」
 有利であり、後方からの火砲支援に徹していた少女が何の前触れもなく撃墜され慌てて墜落する少女を支えて彼女らの敵を見ると、彼らの中心には
見慣れぬ少年が手に偃月刀と書を携えて宙に立っていた。
「防衛プログラム及び基本OS初期化及び再構築完了。管制人格及び守護騎士のプログラムバージョンを最新のものにアップグレード。初期化により
欠けた機能は後日インストールするとして・・・さあ、新たなる夜天の書よ。セットアップ!」
『起動<アンファング>』
 の姿が蒼い球状の光りに包まれ、それが弾けると、蒼と黒を基調とした騎士服に身を包み、黒髪黒瞳が銀髪金目になったがいた。
 そして、その周囲にはこれまでの戦いで受けたダメージが修復され、全体的に能力が底上げされた守護騎士達の姿があった。
 少女たちがに声を掛ける前に、騎士たちは少女たちに襲いかかる。
 そしてには、双子の猫の使い魔、そしてその主たる老魔導師が襲いかかった。


「・・・悪いが死んでもらうぞ。闇の書の主!」
「こちらのセリフだ。裏切り者!」
「何の話だ!?」
「地球を捨て、祖国を捨て、異界で生きるお前が地球の裏切り者以外の何がある」
 老魔導師、ギル・グレアムはの言う裏切り者という言葉に眉をひそめるが、その後に続いた言葉に半ば納得する。
「それに、俺の爺様と婆様の仇だ。この場でその首級上げさせてもらおう!」
 そして、の言葉に驚愕した。
「待ちなっ! あんたの婆さん達の仇が私たちってのはどういうことだい!」
「吠えるな。そして惚けるなよ猫が。あの事故が酷く不自然だったのは当時ニュースで話題になっていたし、極小数生き残った被害者
の中には空を飛んでいた人間がいたという目撃証言があった」
「そんなっ!?」
「そして、彼らが証言したその服装がな、管理局の武装隊の制服に酷似しているのさ!」
「だからってなぜそれがお父様のせいになる!?」
「お前たちの組織がやったことだろう? なら、同じ制服を着ているのだったら貴様らはすべからく仇だ。この場で引導をくれてやる!」
 は怒りの咆哮をあげながら老魔導師とその使い魔に突撃する。
 この少年は陰陽師、つまるところ霊能者である。
 は事故現場に赴き、今だ成仏できていなかった祖父母や事故の被害者たちから直接当時の事故のことを聞いたのである。
 そして浮かび上がったのは、管理局の関与があったということだった。
 ちなみにが言ったニュースのことは事実である。事故に不審なところがあるところは当時帰ってこない祖父母を心配したが方々
に手を尽くして調べ上げたのである。更に言うと、事件のことをワイドショーやニュース番組で検証し、何らかの関与があったとしか考えられないと
結論づけられた上で迷宮入りとなっている。
「私たちの知ったことか!? それに、関係の無い老人を、更には何も知らない無辜の民を巻き込んで殺すことに何の意味がある!」
「俺を天涯孤独にできるだろうが! その直後にきたお前からの余りにもタイミングが良すぎる援助の話は胡散臭すぎた! その後知り合った警察関
係者にその事を話したら正解だと誉められたよ! 必ず何かの裏があるってな!」
 グレアムの持つデュランダルとの偃月刀がぶつかり合う。
 その後ろからリーゼアリアがバインドを仕掛けようとして、発動した瞬間にポラリスが解除。上空からリーゼロッテが飛び蹴りの体勢で襲いかかるが、
巧みにグレアムを誘導したがグレアムを盾にすることでロッテは蹴りを中断。は口のすぐ前に魔力スフィアを形成、砲撃を発射。
 だが、グレアムは発射寸前に身を翻して回避するが・・・
「ぐあああああっ!!!」
「クロスケっ!?」
 射線軸上にいたクロノの背中に直撃、動揺したなのはたちがその隙をつかれて守護騎士達に一気に撃墜される。
 撃墜された少年少女はアースラに転移魔法で回収されていく。
「くっ! 全て計算済みなのか!?」
「その戦場を俯瞰し、戦局を操作する。曲がりながりにも王たるこの身、その程度のことできんでどうするか」
「出来無くとも問題ないと思うが!?」
「集団戦では基本だろうに。俺には優秀な頭脳が付いているし、参謀も居る。念話で密に連絡をとって戦場にいるものすべてを誘導しているのさ」
 距離を取るグレアムに対し、は偃月刀を振り回し魔力刃を飛ばしまくる。
 それを障壁で防御しきって見せるグレアムは、リーゼたちと共にを囲み一気に勝負をつけようとして一斉攻撃を仕掛けようとした瞬間、
戦い方を切り替えた。
「オン・バサラ・ネイラ・サーガ! 天翔ける風天神! 我が敵を切り裂け!」
 を囲み有利になったと思っていた三人は、を中心に発生する旋風に目を見開く。
 風の魔法などミッド式にはない。ベルカ式には衝撃波を使う魔法があるとはいえ彼らに取ってそれは異常だった。
 さらに、魔力が使われた形跡がないことが混乱に拍車をかける。
「風天神牙烈旋!!!」
 旋風の勢いが竜巻の如き勢いとなり、巻き込まれたグレアム達の体が徐々に切り裂かれ始める。
「くっ! だがまだだ!」
「いいや、此処で終わりだ」
 凄まじい暴風の中、その影響を全く受けていないは、風に逆らってその場に浮遊し続けるグレアムに悠々と近づき、偃月刀を振りかぶる。
 気づいたグレアムが逃げようとするも既に遅く。グレアムの四肢はポラリスによるリングバインドが縛り付けている。
 リーゼ達も助けようとするが、風が二人の行動を阻み近づくことが出来ない。
「ま、待て!」
「待たない。・・・死ね」
 無慈悲に振るわれる一閃。
 それは、ギル・グレアムの首を確かに斬り落とす。
 そして、主を失ったリーゼたちは猫の死体となり、地に落ちていく。
 は残心を忘れずしばらく構えたままグレアムを睨んでいたが、霊能者の直感、霊感により最大の警報が頭の中に流れる。
「ポラリス!」
「超上空、宇宙空間から魔力反応! 術式解析・・・アルカンシェルです!」
 ポラリスの報告に、守護騎士達に緊張が走る。
 だが、が落ち着き払って転移魔法陣を構築しているのに気づいて落ち着きを取り戻す。
「行くぞ。旅の始まりだ」
 の宣言に騎士たちは誰もが頷き、たちはその世界から消える。
 そして、放たれたアルカンシェルがその星を穿ち、星の核をも消し飛ばし、崩壊、消滅した。





 十年後、はミッドチルダに居た。
 この世界には驚くほど隠れる場所が多い。
 そんな中、はある海底遺跡に身を隠していた。
「なー、こんな生活で良いのか?」
「良くは無いだろうな。だけどまあ、管理局から指名手配されている身だ。贅沢は無いさ」
 は焚き火に木をくべながら穏やかにヴィータに返した。
 管理局はをSSS級次元犯罪者として指名手配した。
 闇の書を完全に制圧し、その力を振るい世界を一つ滅ぼした最悪の闇の書の主として、だ。
「風評被害も良いところですよねえ・・・」
「だが、連中はそれを認めはしないだろうな」
 そうこぼすシャマルとシグナムは起こってしまった主の身の上に盛大にため息を吐いて申し訳なさそうにに視線を送る。
 は軽く肩を竦めて其れを流した。
 は自分の膝を枕に寝息を立てる少女に視線を向ける。
 この遺跡で眠っていた半ば機械の少女。
 ポラリスが知っていたその名は、冥府の炎王イクスヴェリア。
 そんな名とは裏腹に、愛らしい少女の寝顔は穏やかなそれだった。
「まさか、こんなところで古代ベルカの王と出会うとはな」
「一応貴方も王なのですよ。夜天の王、
「そうだな。覇王イングヴァルト」
 この場には三人の古代ベルカの王が居た。
 夜天の王、冥府の王、そして、シュトラの覇王。
 覇王もまた幼い少女だった。どうやら覇王はその血統の中で先祖がえりを起こして記憶等を継承するらしい。
 オッドアイの少女、アインハルト・ストラトスはその記憶に侵食され、精神崩壊を起こし掛けていた所をに救われて以来
行動を共にしていた。
 そして、実はたちはある情報を得て、ある研究所を目指していた。
「聖王のクローンを開発中・・・か」
「最後のゆりかごの聖王。オリヴィエ・ゼーゲブレヒトのクローン。ぜひともに保護しなければ」
「・・・燃えてんなあ、ハル」
「イングヴァルトと彼女の間には色々とありました。せめて傍で守る、それぐらいはしたいのです」
 ハルというのはアインハルトの愛称である。
 かつてイングヴァルトとオリヴィエは同時代に存在した古代ベルカの王として対峙し、イングヴァルトはオリヴィエに
勝つ事が出来なかった。
 その際に色々あったらしい。の邪推では、イングヴァルトはオリヴィエに惚れていたのではないかと思っている。
「さて、ハル。少し稽古しておこうか?」
「はい。今日もお願いします」
 はポラリスが作ってくれた偃月刀型アームドデバイス醒龍を手にハルの前に立ち、ハルは変身魔法で大人の姿になる。
 ハルは覇王の記憶からカイザーアーツを習得しているが、まだまだ未熟なのは確かであった。
 そこでは彼女の武術師範として稽古をつけているのだ。しかもかなり厳しい。
「明日は研究所に突入するから、今日は軽めだ。加減しろよ」
「はい。よろしくお願いします!」
 

 聖王教会の一室。
 カリム・グラシアは溜め息を吐いた。
 自分の予言に現れる文言が非常に気になるのだ。
【稀代の王たちが一堂に集い、光を闇を食い荒らす。騎士は最高の主の剣となり、永い眠りから目覚めた王は盟友の助けにより
その悪夢が振り払われる。武に優れし二人の王は広大なる夜の輝きに包まれ願いを成就するだろう。王たちの道程を阻むことは許されぬ】
 王たちが集う。王とはベルカの王たちだろうか。しかし今何故・・・
 それがカリムの悩みの種だ。滅んだはずの古代ベルカ。その王たちが一堂に集うなど想像も出来ない。
 しかも数年前から常に出現しており、以前出ていた無限の欲望のくだりが消えている。
「考えても仕方はありませんか・・・ですが、それなら我らを頼ってくれても良いはず・・・」
 そう呟いた彼女は知らなかった。
 王たちのリーダーである夜天の王が管理局を嫌っており、彼を慕う少女王たちが彼を認めない管理局を嫌っている事を。
 そして管理局と同調している聖王教会を敵と見なしている事も・・・彼女には想像だにできなかった。


 その後、は聖王オリヴィエのクローン、ヴィヴィオを救出。
 ついでにスカリエッティ一味を壊滅させる。
 そして、開発途中だったらしい戦闘機人を何人か回収し、その回収された機人たちを心配した先に開発されていた少女も
たちについてきた。そこから管理局最高評議会のことを聞いたは、行きがけの駄賃とばかりに評議会の居る施設を襲撃、壊滅を
通り越して消滅させた。
 更に管理局に目をつけられ、そのうえ聖王教会もベルカの王が4人も揃っているそのグループを捕らえようとしたが、
ヴォルケンリッター擁する歴代最強の夜天の王、個人で高い戦闘能力を持つ覇王及び聖王、さらにはが改造したマリアージュ(死体が
原料ではなく植物を原料にする)を完全に支配する冥王、そして内部プログラムを弄られ真っ当な倫理観を持つように
なった戦闘機人たちという圧倒的な戦力によってその部隊を振り払った。
 機動六課も、聖王教会の騎士団も、管理局の武装隊、教導隊など管理局の全戦力すらも、彼らには敵わなかった。

 そしてとある辺境の管理外世界で自分たちの国を建国。
 管理局から執拗に目の敵にされるものの、圧倒的な戦力を背景に管理局の干渉を拒み続け、独自の文化を
築き上げるものになるのだが・・・それは本当に未来の話である。




あとがき
 まともに書けないときに書いたのでかなり納得いかなかったり。
 あと、続き物にする気はありません。
 

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