六課が初めて戦闘機人との戦闘を経験した日から数日後、
は仕事で疲れた体に鞭打って六課の隊舎に訪れていた。
 自分が戦った機人達と同じ奴が現れていたというので自分が記録した
戦闘データを持って来たのだが、はあるスキルを皆に見せ付ける事になった。


    家族が増えた日



 六課に到着し、部隊長室へ向かっていたところ、子供の泣き声が聞こえた。
「・・・・・・キャロはこんな声で泣かないはずだな。誰だ?」
 が子供の声が聞こえるところへ向かうと、困り果てたなのはと新人達。
 そしてなのはにしがみついて泣きじゃくる幼児が・・・ヴィヴィオがいた。
く〜ん。お願いだから助けて〜。ヴィヴィオが離れてくれないと仕事が〜>
<・・・・・・ああ、末っ子だからなぁ>
 なのはに子守スキルが全くない事を思い出したがこれを期に覚えさせるいい機会だと
思いながらもとりあえず現状を打破しようと試みてみる。
 泣き喚くオッドアイの幼児・ヴィヴィオを少し眺めてシュミレーションし、行動を開始する。
 は落ちているうさぎのぬいぐるみを無機物操作魔法で操り、隠された特技である声帯模写を使って
あやし始めた。
『泣いちゃだめだよヴィヴィオ』
「ふえ?」
 なのはは顔を引きつらせた。幼い頃のなのはの声色だったからだ。
 は口元を巧みに隠しながら食いついたヴィヴィオと会話を始める。
『ヴィヴィオはこのお姉さんが、なのはさんが好きなんだよね?』
「うん。だからいっしょにいてほしいの・・・」
 ヴィヴィオはしゃくりあげながらも懸命に言葉を返してきた。
『でもね、なのはさんにはやらなければならないお仕事があるんだ』
「ヴィヴィオよりだいじなの?」
 涙声で聞いてくるヴィヴィオによりもなのはがダメージを受けたように少しよろける。
 自分を求めてくる幼い子供に目覚めてもいない母性本能が少しだけ反応していた。
『ヴィヴィオの方が大事だよ? でもね、ちゃ〜んとお仕事しないとなのはさんはヴィヴィオのそばに
いられなくなっちゃうんだ。それでもいいの?』
「・・・・やだ。」
 はやてとフェイトが部屋にやってきて、があやしているのを見て目を丸くする。
 スバルとキャロは幼い頃に同じような事をされた記憶がよみがえり乾いた笑みであらぬ方向を眺めていた。
 昔よりもかなり凝ったあやし方をしているので子守スキルが上がっている事を確信しつつ・・・
『なら我慢しよう?なのはさんが帰ってくるまでボクとおにーさんが遊んであげるから』
「うん。がまんする・・・」
 ぬいぐるみがひとりでに歩き、ヴィヴィオの肩に乗って涙を拭く。
 がヴィヴィオの目線までかがんで視線を合わせながら笑顔で話しかける。
「ヴィヴィオ。おにーさんはっていうんだ。よろしくな?」
「うん。なにしてあそぶの?」
 は部屋の中にクレヨンとスケッチブックがあるのを目ざとく発見し、
「なのはさんの似顔絵でも書いてみようか。あとでなのはさんにプレゼントしよう」
「うん! ヴィヴィオがんばる!」
 あっさりと泣き止ませたに半ば唖然としている周りの面子。
 とりあえずは当面の問題は回避できたようだった。

 蚊帳の外だった新人達とはやてとフェイトはの子守スキルに驚いていた。
<ねえ、なんで不破総帥ってこんなに子供の扱いが上手なの?>
<あたしもお世話になってたからかなぁ・・・>
<わたしもです・・・いっぱい心配掛けたり迷惑掛けたりしましたし・・・>
<リインのお世話とかもしとったしなあ。あの子も生まれたばかりのときは中身赤ん坊で・・・>
<空手の道場でも小さい子の相手とかしてたみたいだし・・・>
 年にそぐわない子守スキルを持っているのはひとえにスバルの世話やキャロの世話など
幼児の相手をした期間が長いのが理由である。
 更には保父の免許まで持っているあたり相変わらず多芸多能だ。
<とりあえず私らはお仕事や、ヴィヴィオは君に任せてさっさとおわらそか>
<はい。八神部隊長>
<キャロとエリオを置いていってくれ。ついでだから子供のあやし方を教えておく>
<じゃあ二人の分は私がやっておきます>
<あ、ありがとうございます>
 隊長陣は聖王教会での会見に出向き、スバルとティアナはデスクワークへ行った。

 ヴィヴィオはせっせとなのはに贈る似顔絵を書き、たち3人は見守りつつそれぞれに子守指導を
していた。
「できた!」
「おっ、出来たのか。おにーさんたちに見せてもらえるかな?」
「うん! これっ!」
 ヴィヴィオは満面の笑みでたちに絵を見せる。
 ありがちな子供の絵だろうなと思っていた3人は、度肝を抜かれた。
 デフォルメされているがはっきりとなのはだと分かる少女が朗らかな笑顔で笑っていた。
 将来イラストレーターになれそうな絵、いやイラストだった。
「・・・・・・・おおっ! 上手だなヴィヴィオ」
「えへへへ〜」
 の賞賛に得意満面のヴィヴィオ。
 エリオとキャロは余りに予想外の絵描きの才能に未だに固まっていた。
「そろそろおやつの時間だな」
「何か持ってきてるんですか?」
「うむ。ここに高町母直伝のシュークリームがある」
「翠屋っていうお店のですよね? 確かなのはさんのご実家の」
「その通りだよ。はいヴィヴィオ。いただきますは?」
「いたーきます! はむ・・・・」
「ほら、お前達も食べな。少しは残してやってくれると嬉しいが」
「あ、はい!」
 エリオはその美味しさに感嘆の声を上げた。
 ヴィヴィオもキャロも至福の笑みで食べている。
 なのはたちの分を取り置きしてから、はコーヒーを淹れはじめた。

「んぅ・・・・」
 ヴィヴィオが眠そうに唸ってから、にもたれかかる。
 今はのひざの上でテレビを見ているところだった。
 幼児向けのアニメ番組なのでは退屈だったが、何気にエリオとキャロはヴィヴィオと一緒に
楽しんでいたりする。
「眠いのか?」
「うん・・・めがしょぼしょぼするの・・・」
 目元をこすりながら言うヴィヴィオ。
「ベッドへ行こうか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・すぅ」
 どうやら眠ってしまったらしい。
「あの、ベッドに寝かせませんか?」
「すまん。ちょっと無理だ。服をしっかり掴まれてる」
 どうやらすっかり懐かれたようだった。
 エリオが真剣な目でヴィヴィオを見ていたが、キャロが声を掛けるとすぐに元に戻っていた。
「二人とも、スバルとティアナに差し入れをいれてきてくれるかな?」
「はい。さっきのシュークリームですね」
「食堂の冷蔵庫にももういくつか入れてるから他の子にもな」
「はい。行って来ます」
 エリオたちを見送ってから、はヴィヴィオを抱きなおしてソファに横になった。
 ヴィヴィオは相変わらず服を掴んだまま離さないので用事を終えられないなぁ、と思いながら
は仕事での一週間完徹の疲れからヴィヴィオを抱きしめたまま熟睡してしまうのだった。
「・・・おやすみ、ヴィヴィオ」
「・・・・・・ふにゅぅ・・・・・」
 とヴィヴィオが眠るその光景は、まるで親子のようだった。


 聖王教会での会見が終わりはやてとなのはとフェイトは帰路についていた。
「そうそう、君からの追加情報や。アインへリアルの事」
「レジアス少将の・・・だね」
「で? 評価は?」
 はやては苦笑しなから、
「鉄くず」
「はい?」
「なにその評価」
 に、楽園の科学者達に聞いた評価がそれだったのだ。
「火力・装甲共に期待値を上回っている。が、言ってみればたったそれだけ。単体でそれを超える火力を
持つ魔導師が存在するこのミッドチルダでそんな固定砲台は鉄くず以外の何者でもない」
 酷評極まりなかった。
「自分たちなら秒殺確定・・・ということらしいで?」
「なら戦闘機人たちにも同じことが言える」
「地上部隊の戦力は始めから戦力外。期待するだけ無駄だから六課への協力を密にするとのことや」
「なら新人達の教導を厳しくしないとね」
 そこでなのはがふとある疑問を口にする。
「ねえはやてちゃん。君ってそういう情報をどこから持ってくるの?」
 フェイトも聞きたそうにはやてを見ると、
「なあ二人とも。蛇の道は蛇って言葉は知ってる?」
 二人は冷や汗をかいて固まった。
 はやては物凄いあくどい顔をしていた。
「は、はやて?」
「世の中奇麗事だけではやっていけへんのやで?」
 二人は顔を青くしてがくがくと首を縦に振って疑問をスルーする事にした。
「まあ真相は、アタラクシア製の通信機器をつかっとるせいやけどな」
「へ? なんで?」
「開発者しか知らん裏コードを使って密かに情報収集しとるらしいで」
くーん。犯罪だよー」
「そうでもないで? なんせメンテの時にデバッグ掛けてログを見てしもてるだけなんやし」
「は、犯罪ぎりぎりだ・・・」
「ぎりぎりではあっても犯罪ではないんよ。ちゃんと説明書に但し書きも書いとったし
そのへんようわきまえとるであの人ら」
 これ以上続くと聞かなくてもいい事が出てきそうなので話題を変える二人。
「ヴィヴィオのことなんだけどね」
「保護児童にする・・・かな?」
「うん・・・あんなに懐かれちゃったら突き放しづらいし・・・ね」
「なら私が後見人になるよ。責任は二人で分け合おう?」
「うん。ありがとうフェイトちゃん」
 二人の世界に入りだすなのはとフェイト。
「・・・・・・・・私はのけ者なんか?」
 蚊帳の外にされたはやてが少しいじけていた。
「やだなーはやてちゃん。はやてちゃんにはリインがいるじゃない」
「そうだよはやて。結構羨ましかったんだからね。二人の間に子供がいるって」
「キャロかて似た感じやんか」
「それはそれ」
「これはこれ・・・だよ」
 はやてはふてくされてそっぽを向く。
「・・・・・・なら私が一番初めに君の子供を身篭ったる」
 子声で言ったその言葉はかなり真剣だった。


 聖王教会のカリムの執務室にて。
「アタラクシアの今後の意向については聞いたかい?」
「ええ。六課に協力するけど管理局には何もしないと・・・むしろ自分たちが潰したいとも」
 クロノは難しい顔でうなる。
「こちらにも彼らから助言というか忠告というか・・・」
「アタラクシアからはなんと?」
「・・・・・・他の世界のことはいいから公開意見陳述会後にすぐにミッドに艦隊を
集める用意をしておけと・・・・な」
「・・・・・・こちらには管理局の意向なんてどうでもいいから騎士団を動かす準備を
怠るなと言われましたわ。何か掴んだようですね。」
 考え込む二人にシャッハが声を掛けた。
「あの・・・総帥が少し言葉を漏らしたのを聞いたのですが・・・・」
「何か言っていたのか? シスター・シャッハ」
「それが・・・やはり俺達の敵は管理局か・・・と」
 シャッハはもう一つ、ある言葉を聴いていたがそれは言わなかった。
(しかし・・・あのホルマリン漬けの脳髄ども如きが・・・という言葉は一体・・・?)
 その言葉にクロノとカリムは深く考え込み・・・
にとっての敵と言う事は・・・」
「平穏を求めるあの方の敵と言う事は・・・」
「「大本の原因は管理局の中枢にある?」」
 二人は考えたくも無い結論に同時にたどり着いていた。
 クロノはもちろんの管理局への敵意を知っている。
 管理システムやその他諸々にも物申したい事が山ほどあるといっていた。
 カリムはの望みが仲間や家族と面白おかしくかつ平穏に生きていく事だと知っている。
 その為ならばいかなる手段も辞さない覚悟があることも知っている。
 そしてそれをこれでもかと阻害するのが管理局だと言う事も・・・!
「シャッハ! 古代ベルカの兵器の資料を片っ端から持ってきなさい! あとここ数十年に教会内で
何らかの不正が行われていないか調査しなさい! 特に聖遺物関連! 死せる王とは聖王様の事かもしれない!」
「わ、わかりました騎士カリム!」
「ヴェロッサ聞こえているな。評議会とレジアス小将の更に裏の情報を集めて査問に掛けてくれ!
なに? 評議会は無理? なら・・・そうだが持っているはずの管理局の不正データ集だ!
情報が膨大すぎて中身を把握し切れていないといっていた! アレを精査して可能な限り情報を得てくれ! 
おそらくはそこから裏事情を見抜いたはずだ!」
 クロノとカリムは予言の内容を思い返しながらあり得るかもしれない最悪の状況を想定し
次々と命令を発し、対策を取り始めるのだった。


「ぱぱ〜。おきて〜」
「・・・・・・・・・・・む?」
 聞きなれない単語で呼ばれた事に疑問を抱きながら目を覚ますと満面の笑みを浮かべるヴィヴィオがいた。
「ぱぱおきたよなのはママ、フェイトママ!」
「は〜い。ご苦労様ヴィヴィオ」
「よくやったね」
「えへへへ〜」
 は寝ぼけた頭を振りつつ何とか事情を察した。
「・・・・保護児童にしたのか?」
「うん。見捨てるなんて出来ないしね」
「ここまで懐かれちゃってるんだからね。それにスバルがヴィヴィオを構ってるなのはを見て
お母さんみたいだって言ったら、ヴィヴィオがなのはのことをママって呼びだしちゃって」
「それで近々結婚する予定だし君がパパになるんだよって言ったら・・・」
「俺の事をパパと呼びだしたわけだ・・・」
「そういうこと。よろしくねおとーさん?」
 は大きく溜め息を吐いて、
「結婚してもいないのに出来た子供が約4名か・・・結婚後は更に増える予定なんだよなあ・・・」
 子供はもちろんリイン・エリオ・キャロ・ヴィヴィオの四人である。
 エリオとキャロは表向きそう呼びはしないものの内心父と慕っているのだ。
 特にエリオはあの決闘での強さを見て以来憧れを抱いている。
 時々修行をつけてやったり男にしか出来ない相談を受けたりしているのでなおさらだった。
「晩飯は?」
「これからだよ。が起きてから一緒にってヴィヴィオが」
「ぱぱ、おなかすいた〜」
「やれやれ・・・新しい娘のためだ。腕によりを掛けてご馳走を振舞ってやろう」
「わ〜い! ごちそーだー!」
 喜ぶヴィヴィオを微笑ましく思いながら頭の中で献立を考える
 この後フォワード陣や八神一家なども交えながらいささか遅い夕食を取るのだった。

「あの・・・私ここにいていいんでしょうか・・・」
「気にするな。誰も気にしていない。君も楽しんでくれティアナ」
「は、はい・・・」
 唯一家族に該当しないティアナは酷く居心地が悪いようだった。
 新人達の中でなぜか六課のメンバーを家族に置き換えたらどういう風になるかと言う話で盛り上がり、
ティアナは最終的にスバルやエリオ・キャロの姉貴分で落ち着いたらしい。
 何気にエリオとキャロはティアナのことを普通に姉的存在だと認識していたそうな。
「・・・・・・俺にとってどういう立場になるんだろうな」
「言わないでください・・・」
 家族が増えてきて複雑になってきたため溜め息をつくと、家族と呼んでくれる同僚達に
困惑気味のティアナがそろって頭を抱えていたらしかった。


 途中で酒が入って何かおかしくなっていく光景を眺めながら、内心家族が出来た事を喜ぶ
少女がいたことは秘密である。



あとがき
ヴィヴィオとの出会いと雪ダルマ式に増えていく家族の話。
なんだかもうある程度深い付き合いになると家族認定されていっているような気が・・・
ティアナはなんだかんだ言いつつ面倒見が良いタイプですので子供達の良い姉貴分になると思います。
あと上目遣いでおね〜ちゃんとか言われたら葛藤しながらも言う事を聞いてくれるような気がしますね。
あと、ヴィヴィオにはから改めて自律行動可能なぬいぐるみ(なのはの声の)を与えられて
いつも持ち歩くようになります。ヴィヴィオのガードを兼ねてたりするそのぬいぐるみは意外に高性能です。



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