紅蓮の炎が、金の雷光が、桜色の閃光が、赤い光を纏った鉄球が、
それだけではなく様々な色の閃光が飛び交う。
此処は戦場。魔道の使い手たちの戦場。
ただ…ある少年が死に物狂いで流れ弾を回避していたりする……


        見学の日(修羅降臨編)


「なんかあれだな。SF映画のセットに迷い込んだ感じがする」
「あ〜、その気持ちわかるわ〜。私も同じ感じしたし」
はやてとは現在時空管理局本局の通路に居た。
アースラに見学予定だったのだが、皆が集まるのが本局になると言う事なので
本局を見学する事になった。
なのはやフェイト達はデバイスの最終調整に行っているのではやてと二人っきりである。
「この後訓練をやるんだろう?」
「訓練って言うより、ガチンコのバトルやね」
はやての台詞には呆れ顔だ。
「いつもそんな事やってるのかあいつらは…」
「まあまあ…そんな事言わへんと〜」
そこに調整が終わったヴィータが飛び込んできた。
「はやて〜! おまたせ〜!」
「こらヴィータ! 主はやてを困らせるな!」
「お久しぶり。シグナム」
「ああ、久しぶりだな
なぜかこの二人はお互いを呼び捨てにする。
普段のシグナムは苗字で呼ぶのだが(高町、テスタロッサなど)
にだけは普通に名前で呼ぶ。
しかもなにやら親しげである。
まあガチで殺し合いをやらかしたからだが…
シグナムもやってきた後に、メンバーが続々と集まってきた。

さて、訓練室に着いたのだが……
「今回は陸上戦もやれるように森林地帯の設定だ」
「実はレクリエーションルームじゃないのか?此処…」
まるで公園のような部屋である。
魔法で環境を変えられるようにしているのだが、はもちろんその事を知らない。
「いつもの如く、ミッドチームとベルカチームでの5対5の対戦や」
かつての模擬戦と同じルールだ。
は危ないから結界の外にいてね?」
「解ってるよ。まだ死にたくないし」
「なあ、。勝ったらごほーびちょーだい?」
ヴィータがはやて相手の時以上の甘えた声と上目遣いで御褒美をねだる。
ヴィータのへの甘えっぷりにフェイトの顔が引きつる。
「そうだな。…アイスも良いがチョコレートケーキでも作ろうか」
「やったぁ! おし、そういうことだから覚悟しろよお前ら!」
テンションの上がるヴィータにヴォルケンリッターの面々は呆れ顔だ。
「ねぇ、?私達が勝ったら私達にくれるよね?」
「あ、ああ。そうだな…」
ヴィータとは逆ベクトルにテンションがかかったフェイトには少し引き気味になる。
簡単な作戦を立てている時にはその場を離れる。
部屋を出ようとした時、結界が突然展開された。
ガンッ!「おぐっ!」
結界に顔面をぶつけて涙目になるも、この後に起こる事を理解してしまい蒼白になる。
慌てて模擬戦の中止を告げようとするが…突然の衝撃波に吹き飛ばされた。
そして…模擬戦と言う名の真剣勝負の幕が開けた。

「やるぞアイゼン!」
『Jawohl』
気合充分のヴィータ。
グラーフアイゼンも絶好調だ。
「くすくすくす…いくよ?バルディッシュ」
『……yes sir』
フェイトの雰囲気に若干怯えが混じるバルディッシュ。
フェイトは殺る気満々である。
理由は言わずもがなだ。
「行くぞテスタロッサ! 飛竜一閃!」
「させません! プラズマスマッシャー!」
二人の魔法が衝突し、凄まじい衝撃波を発生させる。
それが号砲となり、なのはが、ヴィータが、クロノが、はやてが、一斉に魔法を放つ。
当然その一部は反れる訳だが、まるで図ったように…に降り注ぐ。
「ああああああああ!かすった!今かすったって!」
絶叫しながら逃げ回り、誰かが気付くのを待っているのだが、全員テンションが振り切れてしまい、
誰も気づいてくれなかったりする。

更にしばらく逃げ回ったが、誰も気が付いてくれなかった。
そして…ふと空中を見ると、クロノとユーノの二人と目が合った。
やっと助かる!そう思ったが、二人はにやっと笑った。
嫌な予感がしたは二人から眼を離さず木陰に回りこむ。
クロノは、はやてとが直線に並ぶように位置を変えるために移動する。
そして、クロノははやてに向かいブレイズキャノン放ち、はやては当たり前のように避け、
その射線上にいたに降りかかる!
は大急ぎでその場を離れ、魔法を回避する。
今度はユーノがザフィーラにチェーンバインドを仕掛け、かわされる。
そして、外れたはずのチェーンは、まっすぐにに向かい、
「おおっ!」
その場にしゃがみこみ回避! だが後ろの木をチェーンが締め潰し、倒れた木がに向かう。
「だああっ!」
横に転がりながら倒木を避け、立ち上がった瞬間に暴れ狂うシグナムの連結刃が襲い掛かる!
「ぐああっ!」
胸の辺りと左腕を抉られ、血が噴出す。
更にそこに、金色の閃刃が振り下ろされ、痛みを無視して無理矢理回避し、倒れこむ。
今度は桜色の砲撃が自分に向かってくるのを確認。転がりながら回避する。
更に更に巨大な鉄槌が振り下ろされ、地面に着弾した桜色の砲撃の衝撃を利用してわざと吹き飛び範囲外へ離脱。
しかし息つくまもなく視界一杯に大量の紅いナイフが落ちてくる!
は……一瞬でその場から退避した。
明確なまでの死を確認し、火事場の馬鹿力で集中力が極限まで高まり、肉体のリミッターを振り切ったのだ。
そして―――は―――キレた。

「行くで!なのはちゃん!フェイトちゃん!」
「こっちだってチャージ完了!」
「でかいの行きます!ブラスト…」
なのは・フェイト・はやてが広範囲の魔法を放とうと力を溜め始めたその時。
「ふふ…ふふふふふ…ふふふふふふふ……」
その静かなはずの笑い声がバトル中の魔道師達と騎士達に壮絶な悪寒と共に耳に届く。
「な、なんだ!?」
「侵入者なの!?」
「しかし、そうだとしたらかなりの強敵だぞ!」
ヴォルケンズの騎士達が周りを警戒し見渡すと、なのはが真っ青な顔で地上を見下ろしている。
他のメンバーもなのはに気付き、地上を見て、此処にいないはずの少年を発見し、その惨状に硬直する。
満身創痍にも程がある。
額を切ったのか、顔の半分は血にまみれ、左腕は向いてはいけない方向を向いている。
血を流しすぎて服が血で赤に染まり、地面にも血が染み込んでいる。
そしての顔色は、血が失せて幽鬼の如く真っ青になっている。
「ふふふふ…ふははは…はははははははははは!」
狂ったように哄笑を上げるに皆が気を飲まれる。
ユーノとクロノはさすがにやりすぎたと思い、なのは達より顔色が悪くなる。
そして…が青い光を纏い、その場から掻き消える!
全員が目を見開き、次の瞬間ユーノに血が滴り落ちる。
上を見ると、がとてつもないスピードで降下してくる!
咄嗟にシールドを展開するが、の蹴りがシールドを紙のように突き破り、ユーノの腹部に直撃する!
ユーノは体をくの字に折られながら吹き飛び、地上に叩きつけられ昏倒した。
それを見た他のメンバーは驚愕と同時に、恐怖を覚えを見るが、既にその場にいない。
慌てて探し始めるが、今度はクロノが突然現れたに顔面にひざを叩き込まれ、そのまま
足で首を挟み、フランケンシュタイナーで地面に投げ落とされる!
膝をもらった時点で既に意識が飛んでいたクロノはピクリとも動かなかった。

誰も動けなかった。
あのユーノの強固なシールド簡単に打ち破り、自分たちでも勝率の高くないクロノを一瞬で仕留めたのだ。
しかも、無意識に魔法を使っているのか、青い光を纏い宙に浮いている。
やはり出血が酷く、更に血が流れ地上に流れ落ちている。
この事態を招いたのは自分達だと認識し、最悪力ずくで止めようとと向かい合い、戦慄する。
全員が濃厚な死の匂い感じた。
笑っている。笑っているのだ。
獰猛な肉食獣の顔で笑っているのだ。
しかも、眼が異様な、凶悪な光を放っている。
これは……ケモノの眼だ。
獲物を見つけたケモノの眼。
これから自分たちは狩られるんだ。
全員が自分たちの末路を幻視した。
フェイト達はと付き合いの長いなのはに助けを求めるように見やるが、
「終わった…もう終わっちゃったよ。家族の皆、先立つ不幸をお許しください…」
すでに生きる事さえ諦めていた。
「待ってなのは!な、なにか対抗手段は!?」
「…無いよ。無いんだよ! 前に一度この修羅降臨モードになった時、お兄ちゃん達3人がかりでぼろぼろになりながら
漸く止められたんだよ! 戦えば勝つの御神流の3人が奥義を尽くして敗北寸前になるくらいだったんだよ!」
「あ、あの恭也さんが! 私なんか手も足も出なかったのに!?」
「美由希ですらか!? くっ! ただでさえ強いと言うのに!」
「あの御仁をそこまで追い詰めたのか!」
驚愕の事実にフェイト達は戦慄する。
は逃げようとするフェイト達に襲い掛かろうと身構え、そのまま墜落した。


「あの、の容態は…?」
「かなーり厳しいみたいだね。胸と左腕にかなり大きな傷があって、そこからの出血が酷いんだよ。
意識を失ったのは失血によるものだね」
意識を失い墜落したを、フェイトが大急ぎで抱きかかえ、シャマルが治癒魔法を使用したのだが、
まだ厳しい状態らしい。
「その傷は何時ついたものなんだ?」
「映像記録によると…シグナムが終わり頃に使ったシュランゲバイゼンによるものだね。
暴れ狂うレヴァンティンに斬られたと言うより、抉られたっぽい」
映像記録を出され、シグナムの顔から血の気が引いていく。
が雨あられと降りかかる自分たちの魔法の嵐を大流血しながらも必死にかわす様を見て、
当事者たちの顔色がどんどん悪くなっていく。
「それと……ユーノ君とクロノ君が真っ先にやられた理由なんだけど、映像見る限り君がいることに気付いてた
にも拘らず、わざと射線上に来るように移動して魔法撃ってたみたいなんだよね」
その言葉に、二人を心配していたなのはとフェイトは二人を見限る。
「ふふふ…クロノ…ユーノ…後でシメる……」
フェイトがやばい笑みを浮かべ始める。
「手を貸すぞテスタロッサ」
「あたしもな」
「私もだよフェイトちゃん」
「私もや。みんなでがんばろな?」
修羅と化したの、あの恐怖の眼光を思い出す。
元凶であるユーノとクロノに復讐する気満々の騎士達及び魔道師達。
彼らの未来に幸あれ。

「気になったんだが…は簡単にキレる方なのか?」
もしそうであれば今後身が持たない気がするシグナムが問う。
「いえ、君はその、怒りの沸点がかなり高いからそう簡単にあの状態にはならないです」
なのはの答えに全員が胸をなでおろす。
「今回は明確に理不尽な形での死が目前に迫ってたからなんじゃないかと」
映像記録を見た限り、支援系以外の面々は全員同罪かと思われる。
というか、やはりユーノとクロノが一番重罪だと改めて確信する。
なにせ映像を解析すると、攻撃がに流れるように誘導していたのだから。
君はしばらく療養生活せなあかんやろうから、ローテーション組んでお世話しよか」
「そうですねぇ、日ごろお世話になったりしますし」
「子供に世話になるあたり私達も相当情けなく思うが……」
そこにエイミィが二人の事を聞く。
「あ〜皆?あの二人は心配じゃないの?」
「「「「自業自得」」」」
「……そりゃあそうか」
事情が事情だけに哀れにも思わないらしい。

「えっとそれとね。君の魔力もろもろについてなんだけど」
全員が興味深そうに向き直る。
「魔力ランクはAAA−。戦闘自体はほとんど見てないからランクつけられないけど、
恐らく総合判定でSランクは行くんじゃないかなぁ」
「あ、あのエイミィ? それほんとに?」
さすがに聞き返すフェイト。
他の面々も信じられないという顔をしている。
それは、下手すると自分達より強いという事になるからだ。
「いやその、あくまでもあのなんというか、修羅降臨時の君だし……」
全員毛程の疑念も持たずに納得する。
数々の修羅場を越えてきた自分たちが死を幻視したほどだし。
「とにかく才能はあるんだよね。提督達が見たら即スカウトしそうなくらいだし」
「そんなこというたら今にもスカウトしに行きそうやなぁ」
全員がうんうんと頷いていると、リンディとレティが部屋に入ってきた。
「惜しかったわね…まだ眼を覚まさないなんて」
「目を覚ましたらすぐまたスカウトに行かなきゃね」
(すでに動いてたーーーーーーー!!)
その場の全員の心の叫びである。
というか重傷を負ったばかりの人間に何をしているのだこの二人は…


「んぅ………くぅ!」
「あっ! っ! 目が覚めた!?」
「待ってテスタロッサちゃん。大怪我したばかりなのよ」
フェイトの言葉で完全に覚醒し、何があったかを思い出す。
「………ああ、例によって例の如く、お約束とばかりに巻き込まれて、死に掛けて、
ぶちきれたんだっけ? あの馬鹿二人をしとめた所までは覚えてんだけど」
修羅降臨時もちゃんと記憶はあるらしい。
「そ、そやなぁ…とりあえず生きててくれてて嬉しいんやけど」
「すまなかったな。その怪我は私の所為なのだし…」
「気にしないでくれ。俺も避け切れなかったし」
「いや、それでは私の気が済まん。何か一つで良いから命令なりなんなりしてくれ」
その言葉には考え始める。
「ねぇみんな…それよりも先に巻き込んだ事とか気付かなかったことを謝った方が良いんじゃ…」
「うぐ、そういえば…」
「いいよいいよ。奴らに何かお仕置きでもすれば気が晴れるし」
謝罪を断る
そして、命令を考え付いたようだ。
「シグナムでもフェイトでも良いから魔法を教えてくれ」
その言葉に目を輝かせる提督二人を華麗にスルー。
「お前たちと付き合っていると今後もこういうことに巻き込まれそうだ」
その言葉に心当たりがありすぎて何もいえないフェイトとシグナム。
「自衛手段が欲しい。後できるなら俺用のデバイスも欲しいかな」
フェイト達は悩むが、提督二人が了承する。
管理局に引き込む気満々である。


これからは更に深みにはまっていく。
他の面々は魔力が高いだけだと思っているが、シグナムだけは戦々恐々としていた。
何よりも彼の実力を知る彼女は、これから彼がどれだけの高みに登るのか想像がつかなかった。
とりあえずとの修行を行い自分のレベルアップを図る事を心に決めるシグナムだった。

フェイトは自分たちと同じところにが来るのを反対しようとした。
しかしはやての、に頼りになるところを見せたら振り向いてくれるかも、という悪魔の囁きに負けて
魔法を教えるようになった。
しかし、ある程度魔法を習得したにあっさり負けてしまい、死に物狂いで修行に打ち込んだそうである。



ちなみに元凶二人はの魔法の実験台にされ、幾度も生と死の境をさまよったそうである。
「がふあっ! こ、これきつすぎるって!」
「いいからシールドを張れ! 本気で死ぬぞ!」
「よーし! 次いくぞ〜」
「「もう勘弁してくれェェェェェッ!!」」
なお、この二人は意中の少女たちから一ヶ月にわたって無視され続けたという。



後書き
夢主暴走事変
単純な力は変わりませんが、凶悪すぎる眼光に飲まれて対峙する相手の実力を
2ランク程ダウンさせます。
これ以降ある技能(集中力を高める事による思考加速、そこから派生するリミッターカット)
が集中力をある程度以上高める事で自然に発動する事になります。
まあ言ってみれば御神流の神速アレンジバージョンだねえ。
なお、ユーノは主人公が部屋を出ようとする瞬間を見計らい結界を張りました。
クロノはわかっていて黙認した共犯者であり、やはりこの二人が元凶でした。
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