「どうしてくれるのですかレジアス中将」
「・・・・・・・申し訳ありません」
「・・・・・・これは管理局始まって以来の最大の危機かもしれんな」



機動六課の設立の決定



管理局の地上部隊を一部隊増やす事になった。
申請したのは八神はやて二等陸佐。
今はその会議の真っ最中だった。
会議の出席者は本局・地上・航行の幹部達とスポンサー陣。
そこにはの姿もあった。なぜなら彼は最大手のスポンサーだったから。


 事件や災害に対して独自の判断ですぐに出動できる部隊。
 それは様々な部隊を渡り歩いたはやてが真っ先に思いついた部隊構想だった。
「その構想は理解できました。最近はマスコミの一部に管理局の初動が遅い事を
叩かれていますので試験的に設立するのも良いかもしれません」
「あ、ありがとうございます!」
 現在の議長はミゼット・クローベル女史。
 元々彼女ははやてには甘いところがあるためその考えには無条件で賛成していた。
 なにより設立に際しても特に損失が無いのである。
 他の幹部もおおむね納得し、賛同していた。
 しかし、空気が読めないというか自分の価値観を押し付ける愚物がここに居た。
「待っていただきたい。私には賛同しかねます」
 レジアス・ゲイズ中将だった。
「そういった迅速に動ける部隊を作るのは構いませんが、その部隊長が彼女であるのが
納得できませんな」
 何かを含むその物言いにはやてが顔をしかめる。
「どういう意味ですか中将? 確かに八神二佐はまだ若いですが・・・」
「問題はそこではない!」
 はやてが若いながらも優秀な人材だと言おうとするミゼット氏を遮り怒鳴りつける。
「私はかつての次元浸食事件の主犯に部隊を任せるのが問題だといっておるのです!」
 その言葉に一部の幹部達はうなずいたが、ミゼットや他の幹部たち、そしてスポンサー陣が
明らかに馬鹿にした目で、この上なく呆れ果てた目でレジアスを見る。
 はやてはいまさらそれを出すレジアスに全く付いていけなかった。
 スポンサーの一人が呆れたような口調で切り出す。
「失礼ですが、その事件はかつての暗部が主犯ということで片がつき、彼女は
被害者として認定されたはずでは? 公式にそう発表されたはずですが?」
「暗部に罪を擦り付けただけだ! この女は自分の犯した罪がどれほどか理解していないようだな」
 見当違いも甚だしかった。
 沈黙を貫いていたが声を上げる。
「中将閣下。お聞きしたいのですが、当時魔法も知らぬ体の不自由な10歳にも満たない少女に
何が出来たと? 彼女は自分の意思でアレを引き起こしたとでもいうのですか?」
「意思などは問題ではない! この小娘が引き金であったのは事実だろうが! それを罪と言わんでなんとするか!」
 無茶苦茶な理論である。
 確かに引き金ははやてだったがそれは本人も望んでおらず、おまけにその引き金を引いたのは
グレアムとその使い魔の猫2匹だ。現在彼らは引退後その贖罪として社会奉仕中(の経営する孤児院の
院長と寮母)だったりする。
「犯罪者を部隊長にするなど馬鹿馬鹿しいにも程がある! 私は断じて認めん!」
「ですがね中将閣下。既に彼女は「黙れ若造!」・・・」
 は精神的に痛む頭を抑えながら黙り込む。
「お前たちスポンサーはただの財布ではないか! 管理局の会議に顔など出さず黙って金を差し出していろ!」
 その言葉に、会議場全体の空気が変わる。
 良識ある幹部達とミゼットとはやてはあまりの言い様に顔色を蒼白にし、スポンサー陣は・・・
それはそれはとってもイイ笑顔だった。
 それを見たはやてやミゼット他幹部達は後に青い顔で述懐する。
 ―――――あれはコロス笑みだった、と。

「傲慢だな管理局は」
「何?」
 口調の変わったを睨みつけるレジアス。
 だがの底冷えのする冷たい視線に僅かに怯む。
「以前から思っていたんだがな。管理外世界の魔法も知らん存在にあんた方の法を
押し付けるのはどうかと思うんだがね」
「それがどうした。法は法だ。それを破るものに罰を与えるのは当然の事だろう」
 の疑問にそれが当然だと答えるレジアス。
 しかし、
「見知らぬ世界の見知らぬ法をどうやって遵守しろというのだこの阿呆。俺ならちゃんとした
事実説明の後危険物の取り上げと訓告、あとは自分たちの世界の都合に巻き込んだ謝罪で終わらせる」
「ぐぅ・・・・・!」
「そもそもあの事件は十二分に情状酌量の余地があったんだ。
 主犯とされたのは魔法も知らない幼い少女で体も不自由で挙句の果てにその原因は彼女の元に現れた異界の遺物。
 しかもどう足掻いても暴走する代物であり、あの終結こそが誰一人死者を出さない最良の結果だった。
 それに至るまでにも彼女の協力が必要不可欠であり、彼女のその境遇によって培われた強靭な精神力がなければどう
足掻いてもそうはならなかったという正に綱渡りな状況だった。
 その事件の解決に、そしてあの危険物の完全消滅には彼女が深く関わっている。
 さらには管理局が干渉していない管理外世界だ。
 さて聞こうかレジアス・ゲイズ中将。
 最初から最後まで客観的に見て八神はやては犯人足りえるのか?
 犯罪者であるというれっきとした証拠は?
 この場合適用される罪状とはなんだ? 
 彼女は人を殺してもいなければ自分の意思で物を破壊したわけでもない。
 さあ、答えろ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 沈黙するしかなくなる程に正論で敷き詰めた言葉で圧倒する
 正論過ぎる正論にさすがに二の句が告げないレジアス。
「それとだ。数年前に殉職した、確かランスターといったか? あの空士のこともある。
 こちらの調査の結果お前の元部下で当時彼の上官だった男が彼の死を無駄と言い切り無能と罵ったらしいな。
 その彼だが無能とは程遠い人物だとわかっている。当時AAランクだったそうだが実際の戦闘にはAAAすら
凌駕したらしいな。その彼が戦った相手はAAA+ランク相当、しかも市街地での戦闘で一般人を守りながら
限界寸前のぎりぎりまで削ったらしい。実際の死因は殺されかけた一般人を庇って一撃もらい
その際に止めを刺されたからだそうだ。その直後に陸士隊一個小隊にあっさり捕獲されたらしいが、
その実はそこまで追い込んだ彼の功績だといえる。それを無能というのは他の部隊に手柄を横取りされた
その上官の八つ当たりだったそうだ。しかもそれを唯一残された彼の妹に、遺族の前で彼の葬式の際に
言ったらしいな。あんた方は部下にどんな教育をしているんだ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
 レジアスは忌々しげな顔で沈黙する。
 あの事件はマスコミにも取り上げられ稀代の醜聞として知られていた。
「ついでにもう一つ。俺の個人的な友人でもある執務官がある少女を保護した。
 当時7歳の少女で強大な潜在能力を持つがそれを制御できていない少女だった。
 何の教育もしなかったくせにその少女を持て余しているからといってよりにもよって
犯罪組織の殲滅戦に爆弾代わりに投入しようとしたそうだな。
 その直前で引き抜くことに成功したとかでその子が次の場所に行くまでの間に俺のところで
預かった事があるが、散々な扱いを受けてきたそうだ。
 就業年齢が低いのはこの世界では常識だが、いくらなんでもそんな年の子にそのような扱いは
非常識ではないのか? 暴力を受けた事も少なくは無いと聞いているぞ?」
「私の管轄外だ。それにそうとしか使いようが無いのならばそう使うのが適切というものだろう」
 竜使いの少女の話の、自分が知りえなかった事実にはやては思わず歯を食いしばる。
 その少女の部隊に行ったことがあるはずのはやては気付けなかった自分を殴りたくなった。
 だが、レジアスは知ったことではないとばかりに、そして躊躇い無く非人道的な言葉を発する。
 彼らには育てるとか教育するとかいう考えが無いのだろうか・・・?
「それに言ったな。俺たちスポンサーは財布だと?」
「そ、そうではないか! 金を稼ぐしか能の無い貴様らの金を有効に使ってやっているのだぞ!」
 その言葉にさらに会議場の空気が悪くなる。ミゼット達の顔色は最早土気色だ。
 は他のスポンサー陣とアイコンタクト。正確に理解した彼らは一斉に頷く。
 そしては管理局に切り札中の切り札を切り出した。
「そのような事を言われるのは我々としては甚だ心外だ。このような組織に協力するなどもってのほか。
我らは管理局への一切の資金提供と技術協力を凍結、いや破棄する。今後我らは無関係だ」
 それは死刑宣告だった。幹部達は死人のような顔色で項垂れている。
 しかしそれに気づかない馬鹿がここに一人。
「何を馬鹿な事を言っている! そのような事を認められる訳が無いだろうが!」
 レジアスが激昂するがスポンサー陣は誰一人耳を貸さずに席を立ち始める。
「では失礼する。さっさと他のスポンサーを探すと良い。だが、果たして付いてくれるかな?」
 そんな言葉を吐き捨てて、を含めた世界的な大企業のCEOや財閥の会長は会議室を後にした。
 幹部達は彼らを引き止める言葉が出てこず、呆然と彼らを見送るしかなかった。

「申し訳ありません皆様方。私の一存でこのような事に・・・」
「構いませんわ。私たちの誰もあなたの決定に逆らわなかったでしょう?」
「君の判断は妥当、いや適切な判断だ。あのような連中に金を出すなど、我々が
汗を流し知恵を絞ってようやく得た金を溝に捨てるようなもの」
「それに君の考えはもっともだ。知らない法など守れるわけが無い」
「今までそれを押し付けてきたのか・・・傲慢にも程がある」
 会議場から出てきたは彼らに謝罪するが、彼らも同じ考えだったらしい。
 特に咎める事も無くの判断を称えている。
「それにあの男。愚かにも程がある」
「全くですわ。【金を出してやっている】私たちが何故命令されねばならないのでしょうね」
「自分たちが絶対的権力者だと勘違いしているのだろうな」
「いや他の面々は死人のような顔色だったからな。あの男だけだと思いたい」
「ですが良かったんですの? 八神はやてはあなたの・・・」
「彼女は自分たちの立場をTPOにあわせて考えられる。そのような心配は不要です。
 それに今回の事であの屑は権力が失墜するでしょう。ならばあの部隊は確実に設立される。
 それに・・・・はやてはああ見えて中々にしたたかですので」
 が振り返り、その視線をたどると、はやてがそこにたたずんでいた。


 会議場では彼らとの関係改善の会議へと移行し、はやては蚊帳の外だった。
 はやてに言い渡されたのは、地上部隊を作る事には依存は無いが今回のことで資金を出してやれないから
土地だけを与えるので後は自分で何とかしろという投げやりな結論だった。
 レジアスはミゼット自らの説教の後バインドで多重拘束され気絶中だった。
 彼の優秀なる副官が配置転換できないかと人事部の部長に問い合わせていたりしている。
 はやては自分の用事は終わっていたのでスポンサー陣への謝罪と再契約を考え彼らを追ってきたのだった。
 そして・・・・・・・・・・・・
「あ、あの・・・ええんですか? 私はその・・・」
「気にしなくても構いませんわ。私どもは貴女を気に入っているんですもの」
「そうだぞはやてくん。そもそも自分たちの娘または孫とそう年の変わらない娘さんが
こんなにも頑張っているんだ。応援したくなるのも仕方が無かろう」
「それに管理局はぎりぎりでやっていけるだろうからな」
「管理世界の税金の一部が管理局の資金として当てられているのは知っているじゃろう?」
「は、はい・・・」
「なら気にする事も無い。それでも足りないというから金を出してやっていたのに
その恩や立場を忘れてあの暴言だ。お前は何も悪くないんだよはやて」
「不破総帥・・・」
「ああ、それから。役職だので呼ぶ必要は無いぞ。何せここは・・・」
 ―――――――居酒屋だった。
 ごく普通の高級感も何も無い普通の居酒屋だった。
 食事をしないかと誘われたはやては高級レストランに行くのかと思っていた。
 だが実際は居酒屋。
 どうしてなのかと思っていると・・・・
「ふう。いやはや、やはりリラックスできますなあ」
「まったくですわ。下手に高いところへ行くとマナーがどうとかでうるさくて気を楽に出きませんもの」
「安くて美味い酒が飲める。高級品が必ずしも良いものとは限りませんからな」
「例え安かろうが美味いものは美味い。それを知ってこそ食通というものですな」
「まあそういうことだ。ついで言うと俺らここの常連なんだよ。何せ店主の腕が良いもんでな」
「はははははは・・・・なんやイメージが崩れてくわ・・・・」
 やけにフランクな財界のビッグネーム達に自分の持っていた幻想が粉々に打ち砕かれていくのを
乾いた笑みで実感していたはやて。
 それをみて、
「はやて。幻想は幻を想うと書くんだぞ?」
「おっしゃるとおりです・・・・」
 はやては力なく項垂れるのだった・・・・・


「と、ところであの。管理局には・・・」
 協力してはくれないのかと聞こうとするが、
「それなら問題ありませんわ。きちんと誠意を見せていただければすぐに再契約いたします」
 財閥の妖艶な女会長が熱燗を手酌でちびちびとやりながらあっさりと再契約を了承した。
「ほ、ほんまですか? ありがとうございます!」
「ただし、それは鎖つきの首輪だ。阿呆な事をしないかを監視し、そして暗部のようなものが居るならば
即座に締め上げられるようにな」
 紳士風の大手企業グループの社長が煮魚を突付きつつ真実を話し始める。
「元々我らは監視のために協力していたようなものだ。査察部があろうとも外からでなければ
分からない事もある。それに援助を打ち切っても損はしないしな」
 自分の知らなかった裏の事情にはやての顔がこわばる。
 つまり管理局はかつての信頼が地に落ちてからその地位は回復してはいないのだ。
 一般人はともかく彼らのような財界の大物にはたかが数年で信用が回復する事はないのだろう。
「ああそうだ。結果はどうなった?」
 世界一儲けている研究所の所長(私物なので敬称は総帥)であるは途中で出てきたため新部隊がどうなるか
を聞いていないので焼き鳥を頬張りつつはやてに聞く。
「あ、うん。土地だけ用意するから建物も機材も人員も勝手にやれって言われたんやけど・・・」
「無茶苦茶ですなあ」
 好々爺然とした外食産業の最大手グループ会長の老人が老酒を飲みながら管理局の投げやりさに溜め息を吐く。
「不破君。ここは君の出番だろう」
「そうですわ。殿方ならいいとこ見せないと」
「あんた方なあ・・・」
 はやてを心配しつつ下世話な事を言い出す彼らに頭を抱えながらもは、
「ウチで開発した特殊建材とかの実験代わりにやっていいなら無料で、というか費用こっち持ちで
建てて、あと必要な機材もくれてやるぞ? 設計には付き合ってもらうが」
「ほ、ほんまに!?」
 自棄酒してしまおうかと思って頼んだ焼酎(ソーダ割り)を噴出しかけながら、はやてはその提案に飛びつく。
「ならウチのグループの建築技師や設計技師もスタッフに含めようか」
「そうですわね。なら諸々の資材は私のところで都合いたしましょう」
「ほっほっほ。ではわしの所も仕出し弁当ぐらいは出そうかのう」
 次々と決定していく事柄にはやては少し不安になりつつも感動していた。
 自分にはこんなにも味方が居たのだと言う事を初めて知った瞬間だった。
「悪いが新部隊の人員は自分で集めてくれ。後の諸業務は騎士カリムがやってくれるだろうし」
 は億単位で金が飛ぶなあ、と思いながらもあっさり了承する。
 他の面々は丸儲けであることに少々の不満を感じないでもないが、研究の一環だと
割り切る事にした。なにせその建材は作ったはいいが今の研究所にこれ以上施設を建てる訳にも行かなかったから
どうやって経年劣化等のデータを取ろうかと頭を悩ませていたのだ。
「おおきに。それだけでじゅーぶんや。とりあえずウチの子達となのはちゃん・フェイトちゃんは確定で、
そや! グリフィス君やシャーリーも呼ばななぁ。他にも色々と考えんと!」
「後見人は確かハラオウン親子に騎士カリム。それと裏では三提督全員だったか?」
「な、なんでそれを!?」
 限られた人間しか知らないはずの情報をが持っている事に驚愕するはやて。
「まあ簡単だな。というか騎士カリムから協力してくれと打診があってな。管理局がどうなろうと
知った事ではないが、お前達に協力すると決めていたので本当に仕方なく協力する事になってな」
 本当にと言う言葉を強調しつつ嫌そうに話すになんとなくその気持ちを理解しながらも、顔を引きつら
せるはやてだった。

 その頃、幹部達は他企業にスポンサーになってもらえないかと打診していたが、
今までのスポンサー達がどのような扱いを受けていたのかという情報が既に本人達の手によって
流されており、どの企業にも応じてもらえなかった。
「どうするのですか? そもそも我々管理局は組織の大型化に伴い資金が足りなくなり
スポンサーを得てやりくりしていたのですよ? これでは組織を維持する事すら出来ないではありませんか!」
 経理部長が管理局内の収支決算等の資料を持ってきて、原因となったレジアス中将を責め立てていた。
「・・・やつらの態度が余りに横柄だったからだ」
「横柄でも構わないんです! 彼等は社会的な強者の位置にいる財界のビッグネームなんですよ!
 むしろ資金的にかなりの融通をしてくれていたし、こちらは感謝と礼を持って接しなければならないんです!」
 スポンサーの出資が無くては局員の給料さえ払えない状態だったのだ。
「こちらは政界にも顔が利く。向こうから奴らに圧力を・・・」
「掛けてどうするんですか! そもそも財界と政界は非常に強いつながりがあるんですよ!? 彼らの方が
政治家に太いパイプを数多く持っているんです。しかも彼らが政治資金を献金している場合があるんですよ!
むしろ政治家の方が彼らに頭が上がらない事のほうが多いんです! それが敵に回ったんですよ!」
 政治家であろうとも金が無くては始まらない。そしてその金を、政治献金を出すのは企業なのだ。
 金の力は恐ろしく強大なのである。
 最早弁明する事さえ出来なくなったレジアス中将は何とかしようと足り無い頭脳から無い知恵をひねり出そ
うとしていたその時、はやてからの緊急通信が入った。
『八神です。吉報をお持ちいたしました』
「吉報ですか? 一体どのような・・・?」
『スポンサー契約を破棄された方々の説得に成功し再契約の約定を取り付けました』
「ほ、本当ですか!? 一体どうやって・・・?」
『ただし条件を出されています。先刻の事に対してきちんと謝罪する事と認識を改める事。
 そして、管理局なりの誠意を見せてほしいとの事です』
「分かりました。元々どんな条件が出されても文句をいえない立場です。
 こちらもすぐに準備します。あの方達は?」
『今日はもう解散すると言って既にご帰宅なされました。皆さん緊急の仕事が入ったそうですので。
 準備が出来たら局の方から連絡が欲しいとの事です。契約の手続きも謝罪もまとめて行って欲しいそうで
スケジュールの調整を行いあちら側で日時と場所を指定するとの事です』
「分かりました。ご苦労様です八神二佐。後はこちらで処理するのであなたはもうお帰りなさい」
『了解しました。では』

 ミゼットは軽く息をつく。
 最悪の状況はなんとかなった。
 そしてミゼット女史はふと思う。
 これは彼らの策略ではないのだろうかと。
 話がうますぎるし、なによりこれでレジアス中将の発言力は地に落ちたに等しい。
 それでいてはやての発言力や立場が確立されていっている。
「・・・・・・・・・・・・まあそれはそれで」
 ミゼットにとっても都合がいい。邪魔する理由などどこにも無い。
 他の幹部達も顔色が良くなってきているが、ただ一人あの男だけが自分の発言力を失った事に
顔を青ざめさせている。この一件で彼は今まで積み上げた実績を半ば消滅させたようなものだ。
 はやてが実績を積んでいけばいずれ地上本部のトップに君臨するかもしれない。
「それも私達や彼らにとっては好都合・・・か」
 いろいろと邪魔な存在なのだレジアス・ゲイズは。
 基本的に正義の人だが武闘派、いや質量兵器復活派だ。
 地上を守ってきた事に誇りと実績を持っているのは確かだが、最近は道を踏み外し始めているように
思えてならないのだ。
 まるで守る為ならば何をしても構わないといわんばかりの行動と言動を取る事がある。
 あれを使うことはたとえ管理局が認めても世論が許さない。
 そうなれば・・・確実に暴動が起きる。
 民間の魔導師は管理局に登録されていないだけでオーバーSランクもごろごろ居るのだ。
 しかも管理局内部からも離反者を出しかねない。
「早々に退陣願いたいわね。彼らがそれをさせないだろうけど」
 最近評議会の様子がおかしいのだ。
 そして最近現れているAMF搭載型の機動兵器の対策を取ろうともしない。
「騎士カリムを通じて楽園に依頼はしたけど・・・果たして間に合うかどうか」
 彼女の懸念は尽きない。
 それよりも・・・
「今はこの財政難状態で数ヶ月もたさなきゃいけないのよね・・・」
 彼らの忙しさは聞いている。
 ならスケジュールが空くのは軽く見積もって数ヵ月後になる。
 今の自分たちは名誉職でしかないが、自分の腹心は自由に動かせる。
 この状況を打開することに彼女は集中するのだった。


 その頃、とはやてはホテルにいた。
「二人っきりというのも久しぶりだな」
「そーやね。いつもは大体守護騎士の誰かが一緒に居るし、リインも居ったりするしなぁ」
 二人は久しぶりに色々と楽しんだ後だった。
「こんな時に言う話題じゃないんだけどな」
「ええよ。私らにも関係ある話しやろうし」
 は少し考えて、カリムの予言についての考察を始めた。
「カリムの予言に書かれていた死者のことだ。そこにレジアスが関係するかもしれない」
「レジアス中将が? なんで?」
「アインヘリアル。中将が開発していると言う秘密兵器のことだ」
「何らかの質量兵器やないかと思われとる見たいやけど・・・」
「あの男はかつて戦闘機人を管理局に導入しようとした事がある。失敗したらしいがな」
「・・・・・・倫理面での問題があるなあ」
「名前から推測したんだがな。あれって戦乙女に導かれた死した英雄のことを言うんだ」
「死した英雄? ・・・ってまさか! 戦闘機人が!?」
「予言の死者の部分にぴったり当てはまるんだ。まあ管理局を取り巻く状況から当て嵌めただけなんだけど」
「・・・・そうやとすると・・・レジアス中将が事件を起こす?」
「それはない。あれは一応正義の味方だ。正義のためなら全て正当化されると考えるタイプの」
「たち悪いなあそれ。じゃあ・・・」
 は言い難そうに、言わなければならない言葉を告げる。
「悪いが俺が介入するのはこれぐらいにする・・・あとは自分たちでやってくれ」
「え?」
 思わず呆然となるはやてには申し訳なさそうに事情を話す。
「見捨てるわけじゃない。ただ色々と依頼が立て込んでいてな。これ以上本業を疎かに出来ない」
「そっか。もしかして迷惑掛けてた?」
「お前たちに対する労力ならいくらでも割けられるんだけどな」
「んー。あいかわらずやなあそーゆーとこ」
「そうか?」
 相変わらず表立って好意を表さず行動で証明しようとしているにはやては苦笑する。
「不器用やね。まったく、普段は器用やのに何でこっち方面は不器用なんやろ」
「育ての親が親だからな。どうすれば良いのかいまいち分からん・・・」
「だいじょーぶや。君の愛情は、私らにちゃんと届いてるよ。私ら三人だけやなく騎士たちや
ギンガらにもな。なんたって君ってば身内には激甘やし」
 は何も言わずにそっぽを向いた。
 明らかな照れ隠しだった。
 耳まで赤くなっているにしてやったりと意地悪な笑みを浮かべながら、はやてはベッドに顔を埋めた。
「はやて。これだけは絶対に忘れるな。お前の力は魔導だけじゃない。お前の仲間の力もまたお前の力だ。
 お前の、お前たちの全ての力を持ってこの事件を解決してくれ」
「・・・・・・うん。肝に銘じとくな」
「解決して仕事が落ち着いてきたら・・・式を挙げる予定なんだからな」
「うん! 気合入れてかななぁ」
 数分後、二人は抱き合いながら幸せそうに眠っていた。
 後日その事を聞いた残りの婚約者二人はに添い寝を強請り、二人とも満足した顔で局に出勤したらしい。
 あと、は妙に憔悴していたようだが理由は聞くまい・・・


 数ヵ月後。
 伝説の三提督とレジアス・ゲイズ【少将】他の幹部達が一堂に会したスポンサー陣の前に
土下座で謝罪をし、再び契約はなされた。
 今回の騒動の元凶として一階級降格させられたレジアスは局内での風当たりが強くなった上
シンパが大幅にいなくなり、その言動から企業からも見限られ発言力も無くなったが彼はまだ返り咲く事
をあきらめていないようだった。
 局員達は特に何もしていないにも拘らずたった一人のために減給を余儀なくされ
怒り心頭だったそうで、それがシンパ激減の最大要因だったようだ。
 今後更なる受難が降りかかるのだが自業自得なので誰も同情もしないだろう。
 なお彼には妻子がいたが、今回の件で見限られたらしく離婚された上に子供の親権も
元奥方の方に奪われて一人身になったらしい。






後書き
思いっきり捏造がありますね(滝汗
アニメでは本局が勝手に地上部隊を増やしたという形になっていますが
うちではちゃんと会議が行われています。
一年の仮運用期間で迅速に動ける部隊の雛形を作る、そのための部隊を設立し、
新人や未来のキャリアといったこれまでの部隊運用の【癖】の付いていない人材をもって
新しい部隊のあり方を模索する。
その教育のために有能な若いベテランで周りを固めて、新人に厳しくも優しく、
言い換えると生かさず殺さずで鍛え上げ様々な部隊に人材を派遣し全体的な質を上げる。
機動六課はその為の部隊です。
レジアスの干渉はほとんどありません。というか出来ません。
後輩であるはずの地上本部の本部長からも見守るように正式に命令されましたので。
あと彼は正義という言葉に狂った人という設定です。
正義のためなら何をしても正当化されるという考えの持ち主です。
なお六課は成果が認められれば実戦を経験するための教導用の部隊として存続する予定です。

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