なのは達が女性陣だけで温泉旅行に行った。が参加しない事を聞き全力で嫌がるエリオを
ウェンディとセインが楽しげに引きずりながら。そしてその日入れ替わりにカリムとシャッハがやってきた。
不破邸にお世話になるに当たって荷物をまとめて来たのだった。来る直前に司祭や騎士団の連中に
泣き付かれたらしいがスパッと無視してきたらしい。まあ彼等の自業自得である。
 そしてクロノからの差し入れだと言うワインを持ってヴェロッサが不破邸に現れ、その日の晩は
4人で軽く酒盛りをしたのだが・・・・・・



  とある騎士の想い



 が自室のベッドで目を覚ました。まだ寝起きだからか霞がかかったような思考でボーってして、
「・・・・・・・・・・ぐあ・・・」
 痛む頭を片手で抑えた。二日酔いだ。
 昨夜は何をしていたのかを思い出そうとしているの隣で、何かが動く。
 何かが寝返りを、そう―――成人した女性一人分の質量が動いたのをは敏感に察知し、恐る恐る
隣を見る。そこには―――長い金髪の女性が幸せそうな寝顔で眠っていた。の腕枕で。
 そしては気付く。二人とも裸であり、そしてベッドのシーツに赤黒い染みがついている事に。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 は言葉が出ず、呆然と彼女を見やる。おかしい。その言葉がの脳裏を駆け抜ける。
 昨夜は確かに酒盛りをした。だがワイン1本を4人でチーズフォンデュを食べながら空けたのだが、
誰一人酔って等いなかったはず。相当弱くない限り酔い潰れはしないし二日酔いなど・・・
 そこでは思い出す。あのワインは誰の差し入れだった?


 あえてカリムを起こさず軽くシャワーを浴びてから、がリビングに入ると、
「・・・・・・・・////」
「・・・・・・・・////」
 お互いに目線をあわせず恥ずかしげに俯くシャッハとヴェロッサがいた。
「・・・おはよう二人とも。昨夜はお楽しみだったようで」
「そ、そそそそそそそ総帥!? いえ楽しみなど!?」
「・・・・君。何か僕達をはめるような事でも考えていたのかい?」
 の発言にシャッハは首筋まで真っ赤にして否定し、ヴェロッサはが自分たちに一服盛ったのかと
疑いを掛けるが、も疲れた顔で話を続ける。
「起きたらカリムが隣にいた」
「「・・・・・・・・・・」」
 二人は沈黙する。
「更に言うなら・・・」
「いえ、事情は分かりました・・・」
「君もか・・・しかし一体・・・」
 シャッハが頭を抱え、ヴェロッサが真相を暴こうと頭をひねるが、は数滴分残っていたワインを持って
リビングを出て行こうとする。
「総帥? どちらへ?」
「・・・昨夜食べたのはチーズフォンデュとワインのみ。フォンデュは俺が用意したから中に何かを仕込まれる
心配はない。だったら可能性があるのは?」
 二人はが持つワインの瓶を凝視する。信じられないといった表情だ。
「そんな・・・まさかクロノ君が!」
「あの方は管理局でも英雄と呼ばれている方ですよ!?」
「・・・俺と奴は基本的に仲が悪い。俺を貶めるためなら多少の悪事は平然とやる奴だよあいつは」
 ヴェロッサにとっては親友、シャッハにとっては潔癖で有能な人物であるクロノに対するの評価に二人は
思わず呆けてしまう。
「シャッハ。カリムの世話を頼む。・・・シーツを替えてくれるとなお助かる」
「しょ、承知しました・・・」
「義姉さん・・・初めてだったんだね・・・」
 既に三十路を過ぎているカリムのさびしい青春時代に思わず涙してしまうカリムの義弟。
 これも全て彼女に仕事を押し付け続けた馬鹿どもの所為だと憤る。
「・・・ところで二人とも」
「はい?」
「なんだい?」
 義憤に燃える二人にはなんとなく疑問に思った事を聞いてみる。
「起きたときどういう状態だった? 俺は彼女に腕枕をしていたが」
 の意地の悪い質問に二人が顔を真っ赤に染める。
「・・・・・・・・・・・・繋がってました」
「・・・・・・・・・・・・そうか」
 ナニがどう繋がっていたのか、はあえて聞かなかった。


 がラボに篭り、カリムがようやく起こされ全員何とか一息ついたところで、がラボから帰ってきた。
「何か分かったかい?」
「変質してはいたが媚薬が検出された。クロノが一服盛ったんだろう」
「そんな・・・」
 媚薬とワインが反応して妙な成分になったらしく全員変な酔い方をしたらしかった。
「騎士カリム。今回の事は馬鹿の狼藉の所為で起こったことだ。責めるならクロノを責めてくれ。俺にできる事なら
可能な限り手を貸そう」
「あ、あの・・・その・・・」
 平静を装うに対しカリムは茹った蛸のように羞恥で顔を真っ赤に染めておろおろしていた。
「カリム?」
「そ、その・・・私は、途中から正気に戻ってまして・・・その・・・」
 カリムの言葉に三人の動きが止まる。そして錆付いた機械のような動きでゆっっっくりと首だけを動かして彼女を見た。
「い、嫌ではなかったんです。その、なんとなく状況は把握してて、その、チャンスだと・・・」
 三人はカリムを見ながら固まっていた。あの清楚な彼女が!という普段の彼女からは考えられない衝撃的な言葉だった。
「い、以前からお慕いしていたんです。ですがはやてやなのはさんたちがいらっしゃるし、私は歳も十以上
違いますから諦めようとしていたのですが・・・」
 思いつめたようなカリムの告白にシャッハとヴェロッサはじっとを見る。
 は目を閉じてしばし黙考し・・・
「はあ・・・なのはやアリサに殴られる覚悟をしておかないとな・・・」
「「「え?」」」
 彼女達としては予想もつかなかった言葉に驚きを凝視する。
「そんな今にも泣きそうな顔でそんな事言わないでくれ。彼女達ならおそらく笑って受け入れるだろうし、
俺も何人も嫁さんを娶れる身だ。それに、俺も貴女が嫌いなわけじゃない」
 はカリムを受け入れていた。盛られていたとはいえ彼女といたしてしまったのだし責任は取らねばならないと
考えていたのだ。
「あ、その・・・」
「遠慮する必要もない。こちらから御両親に挨拶にも行かせてもらうし説得もする」
君。義父さんや義母さんならむしろ諸手を上げて喜ぶと思うよ」
「そうか?」
「うん。前々から婿を取れとか嫁に行けとか言われてたんだよ。仕事を理由に断ってきてたけど大分楽になるだろうし」
「いっそのことこれを機会に引退するのも良いですね。今まで激務に次ぐ激務だったのですから」
「ろ、ロッサ! シャッハまで!」
「すみませんカリム。しかし良かったじゃないですか。お慕いしていた方に受け入れてもらえたのですよ?」
「で、でも・・・」
「それに私がとめてはいましたがカリムにはお見合いの話が山ほど舞い込んでいたのです。その内無理矢理
お見合い結婚を強制されてましたよ。グラシア家の跡取りの話もありますし」
「・・・・・・・・ぎりぎりだったんだね」
 シャッハはカリムの想いを知っていたため舞い込むお見合い話を彼女の独断で握り潰してきたのだった。
 しかしそれは正解だったと彼女は確信している。何せ相手が家柄だけのぼんくらが主で古代ベルカ式の魔法を
今に伝える名家に取り入ろうとしているだけの相手ばかりだったのである。そこでに、己の実力でのし上がり
様々な方面に大きく広いコネクションを持つ、今やミッドでも知らぬもののいない英雄と呼んで差し支えない
相手にカリムが恋をしたのだ。彼女は己が守るカリムの幸せを願いその恋を応援し続けてきたのだった。
 カリムは幼馴染であり親友でもあるシャッハに対し感動の余り言葉が出なかった。
 涙するカリムと祝福する二人を見ながら、は密かに展開した空間パネルでメールを打っていた。
(・・・これでよし、と。こっちはなのは達に頭を下げないといけないが・・・さあクロノ。少し頭を冷やそうか)


 数日後、クロノは仕事も片付き久方ぶりに海鳴にある住居に帰ってきていた。久しぶりに会う妻と子供達に
プレゼントを買い意気揚々とマンションの部屋の前まで来ていた。
 クロノは機嫌が良かった。
 自分の策略が上手くいった事を確認し、不破邸で修羅場が発生している事を見届けてきたのだ。
「ただいま。今帰ったぞ」
 ドアを開け部屋の中に入るとリビングで子供達がTVを見ているようだった。約一年ぶりに見る子供達を見て
相好を崩しながら声をかけようとしたとき、子供達が振り向きクロノに向かって声を上げた。
「「あ、いらっしゃいおじちゃん。ママにご用事?」」
 クロノは笑顔のまま固まった。まさか・・・まさか自分の子供に忘れられているとは予想もしていなかった。
「あ、あのな? 僕は君達「そうだ!ママからしらない人を家に上げちゃいけないっていわれてたんだ!」お、おい?」
 息子カレルの言葉に本気で狼狽する父クロノ。そして娘リエラは、
「ままー! しらないおじちゃんがいえのなかにはいってきたのー!」
「我が子達よおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
 携帯電話で母エイミィに緊急事態を告げていた。
 子供達を止めようとするクロノだが、自分の元に二つの殺気が近づいてきている事を察知し堪らず家から逃げ出した。
 その後のクロノには不幸が襲い掛かった。自分を忘れてしまったかのような妻の親友とその母が殺気全開で斬りかかり
管理外世界で魔法を使うわけにも行かず全力で逃げたのだが、現役の御神の剣士に魔法無しで敵う訳もなく美由希に追い
つかれその後を悠然と付いて来た美沙斗に奥義を叩き込まれそうになり魔法を使って全力で逃げたのだった。
しかし逃げたその先で一人の少女とぶつかり押し倒してしまう。そしてその状態のクロノの後ろから先ほどよりも
鋭く重い殺気が叩きつけられる。押し倒された少女の名は高町雫。そしてクロノの後ろにいたのは雫の父と祖父。
つまり、恭也と士郎である。二人は問答無用でクロノに襲いかかり、クロノは悲鳴を上げながらその場から遁走した。

 その日、クロノ・ハラオウンは最強クラスの剣士4人に一日中追い回され、身も心もボロボロになった。

『はぁい君。そっちはどういう塩梅かな?こっちは良い感じにボロ雑巾になってるよ』
「なに、みんな和気藹々とやっているよ。誰も喧嘩なんてしていないからな」
 エイミィとは映像越しに話をしていた。二人ともにこやかである。
 不破邸では修羅場など起きてはいなかった。現在の人員全員で一芝居打っていたのだ。
『たまりにたまったお仕置きを一気に消化させたからね。最初は美由希ちゃんと美沙斗さんに協力してもらったんだけど
偶々偶然恭也さんたちを巻き込んで更に戦力が増えちゃってさあ』
「はっはっは。良い気味だあの阿呆」
君は大丈夫だったの?』
「とりあえずアリサに呆れられた。他は苦笑いだったな」
 なのは達が帰ってきた後事情を説明したのだが、クロノの策略である事とカリムの境遇に同情した事、そして
が一夫多妻の許可を持つがゆえに浮気にならないという事でほとんど無罪だった。
 あとグラシア家にも挨拶に行ったがヴェロッサの言う通りの事になった。娘の男っ気のなさに嘆いていたらしい。
母親に至っては泣いて喜ぶほどだった。
『こっちは後とどめがまだなんだよ。これからお義母様と一緒に旦那様に説教タイムかな』
「きっちりとどめを刺しておいてやってくれ。もう二度とこんな事を考えないように」
『りょーかい。まっかしといて!』
 二人は通信を終えてそれぞれ家族の元に向かっていった。


 こうしてには更にもう一人妻となる女性が増えたのだった。
 あと、ヴェロッサとシャッハは元々憎からず想っていたらしく恋人同士になったらしい。
 子供達に忘れられ妻と母から散々説教され精神的に死に掛けていたクロノのもとにはグラシア家から感謝の品が送ら
れたらしい。

 どっとはらい。

P.S 子供達には自分が父親だと信じてもらうまで3週間かかったそうです。



後書き
カリムの想いが成就され、クロノとうとう罰を受けるの巻き。
子供達からの知らないおじちゃん発言で精神的に大ダメージ、さらに最強剣士たちから肉体的大ダメージ。
更に妻と母からとどめが刺されました。
クロノは次元航行部隊の提督。つまり船乗りです。普通の仕事でもろくに家に帰れません。
軽く一ヶ月はいなくなります。そしてクロノは何故か難解な仕事に当たる事が多く年に数回しか帰れません。
そりゃあ忘れられてもおかしくないだろう。
うちの雫は忍が嫁入りしているので高町姓です。


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