はそのダメージに思わず膝をついた。
 彼の前に立ちはだかるのは四人の少女―――戦闘機人。
 かつて彼が短い時間ではあるものの、母と慕った彼女を殺害したかもしれない
怨敵を前に、は少し冷静さを失っていた。


 奇襲、そして修羅の全力 


 エルセア地区とベルカ自治領の境にある渓谷で、は機人に襲撃を受けた。
「はあ・・・くそっ・・・!」
 荒い息を吐き、悪態をつきながら、は目の前にいる少女たちを睨みつける。
 そこにはにとって吐き気がするほどおぞましい彼女たちが不敵な笑みを見せていた。
「はん。大した事ないね」
「下らん。これがオーバーSランクの騎士か?」
「殺さないでいてくださいね〜? 一応それは特一級の素材なんですから〜」
「・・・これぐらいならどうって事ない」
 No6【セイン】・No2【トーレ】・No4【クアットロ】・No11【ディエチ】。
 彼女たちはその力を持ってを的確に追い詰めていた。
 は聖王教会へ顔を出した帰りで、部下でもある護衛を数人連れてヘリで帰還中だった。
 そしてそこに突然襲撃を受けたのだった。
(最初に大威力砲撃で乗っていたヘリを撃墜。パイロットは脱出したが俺もそのときのダメージがまだ
体に残っている。付いていた護衛は地中から投擲された手榴弾で爆殺された。その動揺を突かれて超スピードの一
撃をもらった! 挙句こちらの戦闘データを恐ろしい速さで解析されて対策を立てられた。
 ちっ。油断するにも程があるな。この数年平和だった所為か!)
 大事な部下を失った痛手は大きい。
 パイロットが生きているのがまだ救いといえば救いだった。
(ふう・・・。手の内を晒したいわけではないし、限界の戦いはしたくないんだが・・・。
 武装は試作の小太刀が一振り、そしてウォーカーのみ。 正直万全とは言い難いが・・・)
 は―――――――剣士だった。
(手足と一刀。これすなわち万全なり。俺を捕らえるなら四肢をもぐ位はしなくてはな・・・さて)
 自分を嘲笑する見た目可憐な少女のマガイモノどもに、は・・・容赦や躊躇を捨て去った。
 の雰囲気が変わったことに気付いた少女たちは余裕を持って対応しようとする。
 ―――――――――それが命取りだった。

「――――――――――死ね」
 一切の感情の揺れも感じさせない機械のような平坦な声に、少女たちは一気に距離をとった。
「なっ――――――――――――!」
「・・・・気をつけろ! 先ほどとは違うぞ!」
 セインは一気に後ろへ後退し、クアットロとディエチは更に大きく距離をとった。
 だが、トーレは真上に逃げながらも、己の能力を生かせる最適な距離を取り一気に仕掛ける!
「IS発動! ライドインパルス!」
 トーレの超高速移動。そしてそこから繰り出される攻撃は一撃喰らえば洒落にならない。
 勝利を確信したトーレが見たのは、音を超えて移動する自分を目で捉えてカウンターをあわせ様としている
の姿だった。
 思わぬ光景に驚愕するトーレだが、その時彼女はと目が合った。
 一切の温度を感じさせない絶対零度のまなざし。
 そしてそのあまりの、能面の如き無表情さに背筋が凍りつく。
 は剣を握ったまま、拳を放つ体勢に入っていた。
 いまさら止まれないトーレと、音速の世界を捉えているとが交錯した。
 一瞬の静寂。
 そして―――――――
「吼破・閃」
 抑揚もなくそう呟いたその直後、
「が―――――!」
 トーレの体の中心に風穴が開き、そのまま自身の速さの負荷で体が上下に分断された。
「トーレ姉様!?」
「トーレ姉!?」
 たった一撃で姉がスクラップにされた事に恐れよりも怒りを感じ、セインが地中に潜行しながら
へと近づき隙を窺おうとする。
 しかし今のは戦闘機械と言うよりも殺人人形いや、殺戮人形【ジェノサイドドール】というべき
状態だった。隙などあろう筈も無い。
 は全身のあらゆるリミッターを苦も無く外し、さらに魔法で強化した足を大きく振り上げる。
 常軌を逸した怪力と御神流の技法・徹を使い、震脚。
「我流・震雷」
 振り下ろされた脚が地面を蹴り抜き、大きく陥没、クレーターを作り出す!
 大地が陥没したことによりセインは強制的にの前に姿を現させられた。
 例え魔導師であっても実現不可能な光景を作り出したにセインは恐怖する。
 は震雷をそのまま踏み込みとして使用し、セインにぶちかましをしかける!
「あぐ――――――っ!」
 強烈なぶちかましに意識を飛ばされかけ、ついで手に持った剣で斬りつけられる。
 それは最早斬ると言うよりも解体したというのが正しいだろう。
 セインは腕を、脚を、・・・頭を、その体の関節という関節を断ち切られバラバラにされた。
 その光景を見て、そして向けられたの眼光と殺気によりクアットロは恐怖で死を幻視させられ嘔吐し、
失神した。
 遠く離れていたディエチがその巨大な砲を構えてに向けていた。
「IS発動! ヘビーバレル最大出力!」
 姉妹の敵を討とうと全力の攻撃を仕掛けるが、ディエチは知らなかった。
 この男には基本的に遠距離砲撃は通用しないのだという事を・・・
「開け虚空の扉よ」
 その呪文と共に突き出した掌の先に空間の穴が発現する。
 ヘビーバレルの一撃はにダメージを与える事も出来ずに虚空へと消えていった。
 扉を消したがディエチを見る。
 ディエチはのその感情を写さぬ目をスコープとなる左目で見てしまい、凶悪な寒気を感じて全力で逃げを打つ。
 しかしそれはほんの数瞬――――遅かった。
 ディエチの足元に空間の穴が現れ、自身が放った砲撃が自分に向かってきているのを見て、逃げ切れずに
下半身に直撃を食らった。
 腰から下が消滅したディエチはもんどりうって倒れこみ、薄れ行く意識の中でを見る。
 全身から殺意を迸らせ、死を振り撒くといっても過言ではない今のを見て、彼女は自分たちの見通しの甘さを
心の底から悔いた。
「眠っていた・・・獣を・・・起こして・・・しま・・・た・・・・・・・・・」
 ディエチはそのまま機能を停止した。

 は暫く動けずにいた。
「リミッター解除の反動か。全身の筋肉が悲鳴を上げているな」
 そしてふと気付く。
 倒した戦闘機人たちの残骸がその場から消えていた。
「まあいい。次は・・・完膚なきまでに破壊し尽くす!」
 教え子でもあった部下たちを殺されたは静かに、だが激しく怒りに燃えていた。
「ジェイル・スカリエッティ。見つけ次第欠片も残さず殺し尽くしてやる。楽しみにしていろ」
 フェイトから報告を受けていたは、彼女らの創造主に宣戦布告するのだった。
 そして、管理局のものと思われるヘリがの下に降り立とうとしていた。


「まさかこの子達がこれほどまでに破壊されるとはね。不破、油断ならない素材のようだ」
「そんなレベルではありません。辛うじて修復が可能だったとはいえ被害は甚大です」
 破壊された彼女たちは意識を取り戻したクアットロのISシルバーカーテンで姿を消した
他の姉妹たちにより回収され、研究所で修復されていた。
「クアットロの様子は?」
「・・・・・・恐怖を遺伝子レベルで刷り込まれたようです。いくらその部分の記憶をいじっても
彼の映像を見るだけで恐慌状態に陥ります」
 クアットロは肉体は無傷、だが精神をずたずたにされていた。
「その辺の調整は任せたよ。僕は他の子達を仕上げよう」
「分かりましたドクター」
 スカリエッティは気付いていなかった。
 自分たちが決して敵に回してはならない組織を、楽園とその守護者たちを敵に回した事を・・・
 彼や彼女たちはどれほどの力を持っていようと、彼ら楽園の守護者には勝てないだろう事を。
 不破を敵に回した事の恐ろしさを知らないことが最大の救いであり、最大の誤算であった。
 大切な物を守るために、その手を血で汚す事をためらわない彼らを、彼らは知るべきだった。




後書き
機人の襲撃と誤算。
普段より短いですが御容赦を。
主人公が不破の本性をさらけ出しました。
大切な物を守るためにその脅威を物理的に取り除こうとするのが不破家のやり方。
御神は専守防衛で来るものは皆殺し。
不破は攻撃される前に脅威となる物を潰しにかかります。
あまつさえ主人公には戦闘機人は気に食わない存在であるため余計に容赦がありません。
もしかしたら彼もそうなっていたかも知れないからです。
しかし、彼女たちが戦いを捨てるような事があるならば彼は彼女たちを受け入れるでしょう。
ただ、スカリエッティには確実に未来はありません。

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