拍手用小ネタ集 平穏を望みし破壊の鬼



 【なのはに子供が生まれました】


「わあ〜。かわいい〜」
「ふふっ。ヴィヴィオの妹だよ」
「うん! 名前はなんていうの?」
「色々話し合ったんだけど【華音(かのん)】って名前にしたの」
「華の音か。綺麗な名前だね」
「うん。この名前のように可憐な女の子になって欲しいなって」
「なるよ。絶対に」
「だけど旦那様が反対してたんだよねー。ごり押ししたけど」
「そうなの? こんなに綺麗な名前なのに」


「なー・・・」
「言うな。わかってる」
「なのはの娘にこの名前って、ちょっとアレよね」
「ああ・・・名前のような娘にならないで欲しい・・・」
「そうよね・・・。読みが【カノン(大砲)】なのよね・・・」

15年後、可憐な容姿で強力な魔力砲をぶっ放す少女が居るかどうかは定かではない・・・



 【ルーテシアの好きな人】


 それは彼女達が麗しく成長した頃、ヴィヴィオは姉的存在にして親友、そしてライバルである
ルーテシアにまったくと言って良いほど男の影が無い事に疑問を抱いていた。
 ルーテシアははっきり言って美人である。母親によく似たその容姿はその気になれば彼氏の一人や二人は
楽に手に入るだろう。だが、実際はまったくそんな気配は無い。
 そこで不破邸の庭にあるテラスでお茶をしつつ話をする事にしたのだが・・・
「ねえルーちゃん。どうして彼氏作らないの?」
「・・・良い男がいないの」
 何度も聞かれたのだろう。とても機嫌が悪そうに呟く。
 順調に交際中のエリオとキャロに当てられているのも影響しているかもしれないが。
 今の彼女はが新たに作った救助隊で輸送班のリーダーをしている。召喚魔法の使い手は同時に優れた
転送魔法の使い手でもあるため災害が起こると実動部隊を災害地に直接転送するという仕事をしているのだ。
職場には男性も多いし出会いはある。実際彼女に好意を抱く男は山ほどいるのだが・・・
「ねえヴィヴィオ。もしかして気づいて無い?」
「何に?」
「私の男性の基準、おにいちゃんなんだよ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・無理だね」
「そうなの。おにいちゃん以上の男性なんてそれこそ天文学的数字の上でしかあえないし・・・」
 自分の義父の事を思い浮かべ、ルーテシアには恋はできないのかと思うが、ある事に気付く。
「ねえルーちゃん。もしかしてルーちゃんって・・・」
「そうよ。おにいちゃんが初恋の相手。自覚した時はもう結婚してたけど」
 さびしそうに語るルーテシアにヴィヴィオはある事に気付く。
「ねえルーちゃん。パパってまだ若いし、それに何人でもお嫁さんもらえるんだよ。今でも」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それがあったか」
 ルーテシアはおもむろに立ち上がり屋敷に入って行く。
「る、ルーちゃん!?」
「まっててヴィヴィオ。今すぐヴィヴィオのママの一人になってくるから!」
「ルーちゃあああああん!!」

 その後ルーテシアはとても上機嫌で仕事をしているのを同僚が見たらしいがその理由までは知られていない・・・



 【頂点とは?】

 その日、キャロとルーテシアが修行のためにヴォルテールと白天王を呼び出していた。
 それぞれの世界で生態系の頂点に立っていたといっても過言ではない二体ではあるが、自身が契約し、溺愛する
巫女にはだだ甘だった。そのため修行の為以外に特に理由はないが、巫女のスキルアップのためにいそいそと顔を出して
きていた。
 そしてそんな二体はこんな会話を・・・

<黒竜よ。我が巫女は可愛らしいだろう>
<何を言うか蟲の王よ。我が巫女の方が愛らしいに決まっている>

 親馬鹿全開の会話だった。召喚した本人たちは更にそれぞれの召喚獣を呼び出し同時制御の訓練をしている。
 二体はそれぞれの主張を並べ立て、どちらの巫女がより愛らしいかを話し合うことに集中しており、召喚主たちの
あずかり知らぬところでどんどん険悪になっていく。
 そしていつの間にか話題は彼女らが慕う一人の男性の話に。

<そういえばあの人間、あそこの小僧を一撃でのしたらしい>
<ほう。人間風情に倒されたのか>
<まだ子供だからな。そういうこともあるやも知れぬ。だが、我が巫女が父のように、兄のように慕っている相手だ>
<竜の恐ろしさを見せ付けようにも、うかつに手は出せぬわけか。我が巫女も奴に想いを寄せているようだしな>

 それぞれの理由でを苦々しく思う二体は、差し入れに来たのであろうとエリオを発見する。

<ふっ、いい機会だ。威圧ぐらいはしておこう>
<我もだ。我が巫女をたぶらかす人間など!>



「あ、あの・・・さん。何か空気が重い気がしませんか?」
「・・・気のせいだろう」

 そう言ってはこっちに向かって威圧を掛けてくるものの方向を向く。

「あれ? 重さが消えた?」
「気のせいだといったろう。ほら、早く差し入れを持っていくぞ」
「は、はい!」

 はエリオを急かして二人の元へ歩いていく。
 エリオは首を傾げながら、は一瞥して、なぜか直立不動の究極召喚獣の前を悠然と歩み去る。
 そしてはエリオに聞こえないようにそっと呟いた。

「・・・トカゲと虫けら如きが舐めてんじゃないよ」




<・・・相手が悪かった>
<・・・というか本当に人間なのかあれは・・・>

 ヴォルテールと白天王は溢れ出る脂汗をぬぐうこともないまま直立不動し続ける。
 二体は見た。見えてしまった。
 自分たちの頭を撫でながら威圧する常軌を逸した何かを、彼らは確かに幻視した。

<・・・まあなんだ。人間はまれに凄まじい力を持つものが現れるからな>
<・・・そ、そうだな。とりあえず我が巫女の想いは応援しよう。けして奴が怖いわけではないぞ>
<<は、ははは・・・はははははははは・・・・・・・・・>>

 それぞれの頂点に立つであろう彼らは、世界の広さを改めて思い知らされたのだった・・・



【砲撃親子の親子喧嘩】


華音14歳。アタラクシアの総帥執務室にて。
「ママ? おとーさんは何処行ったの?」
「さあ何処だろうね。ファザコン過ぎる娘に愛想を尽かせてどこかに行ったのかもね」
「・・・それを言ったら、局の仕事でまともに帰ってこない女房に愛想をつかせたんじゃないの?」
「うふふふふふふふふ・・・・・・」
「あははははははは・・・・・・・」


ズドオオオオオオオオオンンン!!!!


「何だこの揺れはあああああっっ!!!?」
「奥様とお嬢様がまた親子喧嘩してるぞおおおおっっ!!!!」
「誰かあの二人を止めろおおおおおおおっっっ!!!!」
 アタラクシア本部で出くわした親子が喧嘩をはじめ、居合わせた職員達は恐怖に震えた。
 この二人はとことん折り合いが悪かった。
 父激ラブな娘としては、夫婦でありながら別居状態(なのはは局の社宅に住んでいる)のなのはが気に入らないらしい。
 他のママたち(はやてとフェイト除く。この二人はなのはの同類)は仲睦まじく屋敷で暮らしており親子仲も良好なのが
あいまって、特に母親が気に入らないようである。はやての息子とフェイトの息子も華音と同じ理由で仲が悪い。

「華音!あなたをそんな子に育てた覚えは無いよ!!」
「育ててもらった覚えも無いよ! わたしはおとーさんと、アインママに育てられたんだ!!」

 キュドン!

「今、なんて言ったのかなあ?」
「ぶ、ブラスター付きのショートバスターなんてものを此処(の執務室)でぶっ放すとは・・・」
 華音は目の前の母を恐ろしげに見る。後ろで重要書類が燃えているのは全力で無視である。
「華音? あなたを育てたのは、だ・あ・れ?」
「ア・イ・ン・マ・マ!」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!

「また揺れてるぞおおおおおっっ!!」
「総帥を呼べええええええええ!!!!」
「総帥は休暇中だ! 確か今、家事や子育てから解放されてアインさんと二人で温泉旅行中のはず!」
「経理課からアリサ様を呼んで来い!」
「ミスティ総長は!?」
「あの人が入ると更に悪化するだろうが!!!」
 この後、怒り心頭のアリサが半壊した執務室に怒鳴り込むまで、不毛な親子喧嘩は続くのだった・・・

 ちなみに、(父)とアイン(乳母兼教育係)は子供たちから温泉旅行をプレゼントされて、二人っきりで温泉を堪能中である。



【クアットロのその後】


「ドクター! 次の患者です!」
「大至急カルテを回して! あなたたち、次のオペの準備よ!」
「「「はい! ドクタークアットロ!!」」」
 ここは移動式の緊急救急設備、通称メディカルベースの中の手術室。
 最新の医療設備が整うその中で、クアットロは外科医として活躍していた。
 今回、ある地方都市で起きた大地震で何百人もの死傷者が出た。クアットロはまだ生きている者の命を繋ぐ為に、
自分の部下として働いてくれている看護士達とともに、次々と運ばれてくる怪我人の治療に全力を傾けていた。


「ふう・・・」
 どさり、とクアットロは仮眠室のベッドに倒れこむ。周りには同じように倒れこむ看護士たちの姿。
 さすがに半日以上連続して手術を行うのは戦闘機人である彼女でもきつい。それに付いてきた看護士たちは
更に疲れているだろう。交代した他の外科医も今はがんばっているのだろうと思うと、しっかり休まなくてはと彼女は思う。
 ふと、クアットロは苦笑する。かつての自分を思い出したのだ。そもそも彼女自身が持つこの外科技術も
元はスカリエッティの元で人体実験をしている際に身に着けたものだ。ただ好奇心のままに人を解体していた自分が、
今は命を救う事に全身全霊を傾けている。そのことに後悔はない。そもそもそれは、以前のクアットロであって、
今のクアットロではないのだから。

 彼女が目覚めた時、かつての自分とは違うと言う事を彼女は理解していた。確かに昔の記憶は持っている。
だが、あくまで持っているだけ。彼女には遠い他人事のようにしか思えなかった。事実そうだったのだ。かつての
【クアットロ】は不破によりこれ以上ないほどに精神を磨り潰された。【クアットロ】という人格はそのとき
完全に滅び去ったのだ。
 そして、彼女は目覚めた。医者として命を重んじる人格を持つ彼女が。眼鏡も掛けていなければ髪も二つに束ねていない。
 その必要を感じなかった彼女は、長い髪を邪魔にならないように軽く束ねただけの髪型で日々を過ごしている。
 この変貌した人格は、最初はそれはもう気持ち悪がられた。特に妹達に。さもありなんと自分でも思う。それだけのことを
【クアットロ】はやっていたのだ。逆に【クアットロ】を斬滅したはあっさりと受け入れた。そして改めて勉強する機会を
貰い、今はこうして外科医として腕を振るっている。
 普段は民間の特別救助隊・レスキュートゥループでカウンセラーをやっているドゥーエと駄弁ることが多いが、
有事の際は先の通りだ。彼女は率先して負傷した人間の治療に当たっている。最近では名医と言う呼び名が定着しつつある。
 それもそのはず、彼女が担当した患者は一人として死んではいないのだから。

「ドクタークアットロ。そろそろお時間ですよ」
「ん・・・まだ疲れが残ってるわね」
「我々もです。ですが急患の数は後18名です。もう一踏ん張りですよ」
「・・・よしっ! いくわよ!」
「「「はいっ!」」」
 彼女にとって手術室は戦場だ。命を奪おうとする怪我や病などの様々な難敵と、命を守ろうとする医師達との戦場。

 それはかつての自分に対する罰か、それとも贖罪か。
 彼女は今日も―――戦場に立つ。



 【父の苦悩(ハラオウン家にて)】


 ある日、久々に帰宅したクロノは娘のリエラが魔法の勉強をしているのを見つけた。
「ただいまリエラ。偉いな。ちゃんと勉強しているんだな」
「お帰りパパ。カレルも体を鍛えてるよ」
「カレルもか。将来は魔導師になりたいのか?」
「うん!」
 クロノは嬉しそうに顔をほころばせた。この子達は自分の後を継いでくれるのだろうと思うと喜びもひとしおだった。
 しかし、鍛えているとはどういうことだろう、と少し首を傾げる。魔導師は基本的に遠距離攻撃が主なのでそんなに体を鍛える必要はないはず・・・強化魔法で事足りるのだから、と、そこで自分の義妹が頭に浮かんだ。遠距離戦主体のミッド式の中でも数少ない近距離での戦闘を得意とするフェイトの影響を受けたんだろうと無理にでも納得する。彼の影響は無いとそう信じたかった。
 しかし・・・次の一言でクロノは凍りついた。そう、自身の最高の凍結魔法を食らったかのように。
「わたしたち、不破の伯父様みたいな凄い魔導師になるんだ!」
「・・・え゛?」

 クロノが凍りついた隣の部屋では、フェイトの出産に合わせてアルフが不破邸に引っ越す準備をしている傍らエイミィとカレルがアルバムを見ながら談笑していた。
「カレル。パパと伯父さんどっちが好き?」
「伯父さん! 遊びに行ったら構ってくれるし優しいもん!」
 躊躇い無く言い切るカレルにエイミィはちょっとだけクロノに同情した。
 カレルはその後も、料理がおいしいとかヴィヴィオたちとも遊べるとか楽しかった思い出を楽しそうに話している。
 クロノの話が出てこないのは仕方が無いかなあと、エイミィは思う。一家揃って遊んだことはこの二人が本当に小さかったころしかないのだ。ちなみに温泉旅行。しかも一回だけ。遊園地に行くとかはいつもアルフがいたし、がヴィヴィオとルーテシア。そしてエリオやキャロ、リインやアギトといった子供たちをつれてきて遊んだことの方が圧倒的に多いのである。
 その為このアルバム、子供たちと一緒に写っているのはクロノよりもの方が多かったりする。

 この後、クロノが日も変わらない時間に不破邸を襲撃したのは言うまでも無い。
 そしてでもフェイトでもなく、魔力の制御訓練中で聖王モードだったヴィヴィオによって撃退されたのはクロノのプライドに大きく傷をつけたらしいが、そんなこと誰も気にしなかったそうな。
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