なのはが産休の期間を終えて職場に復帰した。
 そうなると華音の面倒を見る者が必要になる。丁度その時期にフェイトが産休に入ったが無理をさせるわけにも
行かず、アリサはアタラクシアの経理の総括をやっていて現状子育ては無理。すずかははいはいを覚え機動力を得た
ともえに振り回されており手が回らない。カリムは現在教会で後任に仕事を引継ぎ中。はやては仕事。
 そこで白羽の矢が立ったのは、リインフォース・アイン。彼女だった。


 アインの子育て奮闘記


「ふう・・・ようやく眠ったか・・・」
 アインは苦戦の末にようやく眠った現在の主の娘をベビーベッドに寝かせた。
 アインは疲れていた。肉体的には頑丈だし疲れ知らずのはずなのだが、疲れきっていた。
「・・・子育てを甘く見ていたか。世のお母さん方に尊敬の念を抱くなこれは・・・」
 普段やすずかの子育て風景を見ているし、その手のハウツー本も熟読しているのだが、実際にやってみると
上手く行かない事この上ない。長い時を存在しているものの、子育てなど初めての経験である。
 アインはベッドで眠る華音を見る。なのはに良く似たこの子はとても元気だ。なのはが仕事に出た当初は
泣きっぱなしのぐずりっぱなしだったが、最近は慣れてきたようで泣く事は少なくなった。
 少し成長した今では研究の合間に休憩しているのところに満面の笑みを浮かべながらはいはいをして近寄って
行き、のズボンを引っ張りながらつかまり立ちをする。そうして抱き上げてもらった時など本当に嬉しそうである。
 だが、華音はアインに一向に懐いてくれなかった。近づくと後ずさりし、無理にでも抱き上げるとすぐに泣く。
 そしてアインは途方に暮れる。一体何が悪いのだろうか。

「なるほどな。それで落ち込んでいたのか」
「ああ。・・・ヴィータやリインが華音を抱き上げても泣きはしないのだが」
「心配するな。私がやっても泣く」
「実はお前も結構へこんでいるだろう」
 肩の辺りに暗いオーラを背負って気落ちするシグナムを何とか慰める。
 休みが取れたので帰ってきたらしいシグナムに現状を相談したのだが、人選を誤ったと後悔した。
「何故泣かれるのだ・・・別に殺気を出したりしてないだろうに・・・」
「殺気が云々ではないと思うぞ。ファーン氏の威圧の前にきゃっきゃとはしゃいでいた子だ」
「さすがはあの二人の子供か。なんという剛の者」
 寝ている華音を二人で眺める。血か。血だな。と言う二人の言葉は幼い華音には届いていない。
「そういえば。ヴィータが局を辞めるつもりでいるらしいな」
「ああ。あいつも教導隊入りしたんだが、どういうつもりだろうな」
 ヴィータはJ・S事件後なのはに誘われて教導隊の試験を受けて一発合格して入隊したのだが、最近辞めると言っている
のだ。隊長の方にも相談しており辞めるのはほぼ決定だとか。今は最後の仕事としてとある管理世界の地上部隊の教導を
しているらしい。終わったらすぐに退職するそうである。
「ここはやはり父親に聞くべきか?」
「なのはは今遠すぎて連絡が取れんからな。やはりここは父親に」
 華音は眠っているから大丈夫だろうと判断して、不破邸の研究区画にいるのもとへと急ぐのだった。

「ふむ。華音が泣くか」
「はい。どうすればいいのでしょう・・・」
「原因が分からないのだ・・・」
 のもとへ相談に来た二人は自分が華音に近寄ったときのことを思い出して落ち込みだす。
 白衣姿で眠たげな目をして頭をかきながら二人を見て、は原因を理解した。
「怖いから泣いているんだろう」
「な、なぜ・・・」
「何故怖がられるのだ・・・」
 二人はわかっていないのだろう。赤ん坊は親やその周りをよく見ているのだ。
「子供ってのは大人が思っているよりもよく人間を見ているんだ。その上でお前達は怖がられている」
 の言葉にショックを受けてひれ伏すアインとシグナム。若干涙目である。
「何故怖がられているのか考えたか?」
「それが分かれば苦労はしてません・・・」
「まあそうだな。お前達なら子育ての一つや二つ経験があると思ったんだが・・・」
「主の子を抱く、と言う事が無かったからな。どうすればいいのかさっぱり分からん」
 本気で落ち込みつつあるアインを見て、いい加減教えてやるかと考えたは唇を開いた。
「お前ら基本的に表情が動かないだろ」
「・・・まあ確かにそうですが」
 床に手を着きひれ伏したまま、それが何か? と上目遣いで見てくる二人に苦笑いする。
「笑ってやれ。笑顔には笑顔で返してくれるぞ」
「「・・・は?」」
「子供は周りの人間の表情にとても敏感だ。笑顔で接してやれば笑ってくれる」
「そ、そういうものなのですか?」
「そういうものだ。あとおもちゃかなにかで興味を引くと言う手もある」
「興味・・・」
 二人は与えられた答えとヒントに目を輝かせ始める。
「あまり目を離すわけにも行かないしな。様子を見てきたらどうだ?」
「はい。行って参ります」
「私も行こう」
 二人はで華音のいる部屋へ急行した。

「あ。アインさん。シグナムさんも」
「・・・ヴィヴィオ? 帰ってきてたのか」
 子供部屋(普段赤子二人を寝かしている部屋)に着いた二人は、学校から帰ってきていたヴィヴィオと顔をあわせた。
 華音はもう既におきており、ヴィヴィオに遊んでもらっている。
「ルーテシアは? いつも一緒だろう?」
「ルーちゃんは宿題しに部屋に行ったよ。すぐに終わらせて華音とともえと遊ぶんだって」
「・・・そうか」
 に聞いた事をすぐにでも実践しようと思っていた二人は肩透かしを食らった気分になった。
 ヴィヴィオは笑顔で妹に接し、華音はそれに答えるかのように姉に笑顔を向けている。
「ドクターの言っていたことは本当だったか・・・」
「ああ。笑顔には笑顔で返しているな」
 そばにあったクッションに座った二人は落ち着いて小さな姉妹を眺めて、気付く。
「・・・どうも私たちは気負いすぎていた気がする」
「同感だ。もっと自然にしていた方が良さそうだ」
 華音をヴィヴィオに任せてアインとシグナムがしばらく談笑していると、華音がアインのところにやってきていた。
 華音はアインの服を掴んで立ち上がりアインの顔を見ている。アインは華音の様子が可愛く見え、自然に笑顔をこぼした
とき、華音は嬉しそうにアインに笑い掛けた。そのまましがみついてくる華音を抱き上げたアインの顔は、笑っていた。
「アインが母親の顔になっているなヴィヴィオ」
「そうだね。すずかママがともえを抱いてる時みたい」
 二人の声はアインには届いていなかった。アインは自分に甘えてくる華音のことが可愛くて仕方がなく思えてしまい、
華音の事しか目に入っていなかった。


 数週間後。
 アインは子供の世話を完璧にマスターしていた。子供の泣き方で何を訴えているのかすぐに見抜けるようになり、
オムツの交換もてきぱきと行えるようになり、ご飯を食べさせる時も甲斐甲斐しく世話をしていた。
 はそんなアインを眺めて呟いた。
「ベビーシッターを通り越して既に母親だなあれは」
「ああ。付き合いの長い私たちですらあんなに幸せそうなアインを見た事が無い」
「すっかりママになってるのね。シグナムに聞いた時は驚いたけど」
「これではやての子供が生まれたらどーなるんだろーな」
「きっと今よりも幸せそうになるですよ」
 ヴォルケンリッター達は彼女の変貌に驚いていた。あの冷静沈着な彼女が普段では見せないような穏やかな微笑みを
華音に向けているのだ。ちなみにザフィーラはノワールと共に華音とともえの遊び相手という名のおもちゃになっている。
 そして変化はある。華音が少し言葉を発したのだ。ちゃんと意味を聞き取れる言葉で。
「第一声はパパだったな。まあ当然だろーけど」
「なのはさんが知ったらショックを受けるですよ。二番目があれですし」
「そうだな。よりにもよって、アインをママと呼んだからな」
「あの時のアインは複雑そうだったわね」
 ママと呼ばれたアインは、喜んでいいのか、それともなのはに謝った方がいいのか分からなくなり凄く複雑だったが、
自分を母と呼んでくれる華音を今更邪険に扱えるはずも無く、華音の好きにさせている。
「そういえばヴィータちゃん。何で局を辞めちゃったの?」
「あー・・・。守護騎士の本分に戻ろーかとおもってな」
「本分?」
「今のあたしたちはそれぞれの仕事で主と一緒じゃねーだろ。だからさ、せめてはやての帰って来るべき所を守ろうかと
思ってさ」
「それで辞めたのか」
「ああ。も了解してくれたし家の門番っつーか、護衛をな」
「そうだったですか・・・」
 ヴィータはこの度管理局を退職。家事手伝い兼ボディーガードになった。理由は先の通りだ。
 実力者が揃ってはいるものの、妊娠中だったり子供を抱えながらなのでもしもの時に何もできなくなることを
危惧しての事だった。まあ、純粋に非戦闘員なのはアリサだけではあるしもいるのだが、それでも不測の事態は起き
ると言うもの。一代で成り上がったには敵が多いのである。ヴィータのこの決断はにとっても渡りに船だった。
「まあなんだ。仕事にかまけて帰ってこないなのはも悪いんだ。あの二人はこのままでよかろう」
「そうだな。温かく見守ろうか」
「「「さんせーい」」」
 達が見守るその先では、昼寝中の華音にアインが添い寝していた。髪の色も目の色も違うのに、二人の姿は
紛れも無く親子に見えていた。




あとがき
アインママ誕生秘話。
この後彼女は仕事に追われて育児を疎かにする三人の代わりに
それぞれの子供を育てる事に。

あと、ヴィータが管理局を辞めました。

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