竜使いの少女がいた。
その強大な力を恐れられ、部族から追放された女の子。
管理局に拾われたが、まともな教育すら施されなかった女の子。
キャロ・ル・ルシエの人生はある執務官に拾われる事で始まった。


   キャロのハジマリ


「ここが・・・そうなんですか?」
「うん。そうだよ。ここがあなたが行きたい場所を決めるまでお世話になる家」
 キャロとフェイトはある屋敷の前にいた。
「あの・・・何か粗相をすると拙いんじゃ・・・」
「大丈夫だよ。彼はそんなこと気にしないから」
 尻込みするキャロに優しく微笑みながら大丈夫だと保障するフェイト。
 二人は屋敷の中へと入っていった。

「いらっしゃい」
「あ、あの・・・よ、よろしくお願いします」
 リビングでくつろいでいたを見て、キャロはいきなり頭を下げていた。
 どこと無く怯えているようにも見えるが、実際は嫌われたくないからなのだろうと二人は思う。
「ああ、よろしくな。キャロと呼んでもいいか?」
「は、はい!」
「そんなに硬くならなくても大丈夫だよキャロ。は優しいからね」
「子供に無条件で甘いのはお前も同じだろうに。なあキャロ、知っているか? このお姉さん
事件があるたびに子供を拾ってくるからショタだペドだと」
「ちょっと待って! そんな噂立ってたの!?」
「そうなんですか?」
「待ってキャロ! 微妙に距離をとらないで根も葉もない噂だから!!!!」
 が茶化し、フェイトが必死に訂正して、そんな二人の気安いやり取りを見ているうちに、
キャロは少し微笑んでいた。
「さて、長旅で疲れたろう。風呂に入っておいで。その間にご飯の準備でもしておこう」
「はあっ、はあ・・・、最近性格悪くなってない?」
「はっはっは。何のことやら<すまんな。道化みたいな事させて>」
「うう、行こうキャロ。この疲れを落としてこよう<ううん。少しは気も紛れたみたいだね>」
「はいっ、フェイトさん。あの、お邪魔しますね」
「なに、気にするな。自分の家みたいに思ってくつろいでくれ」
「はいっ。さん!」
 二人の何の遠慮も無いやり取りに自分の気負いが無駄である事を察してか、自然な感じで話が出来ているキャロだった。

「フェイトさん。さんって面白い人ですね」
「あははははは・・・。私にとってはすごく頼もしい人なんだけどね」
 風呂につかりながら二人は話をしていた。
「わたし、何とかやっていけそうです」
「そっか。よかった。何かあったらにちゃんと言うんだよ?」
「はい。あの・・・魔法を教えてもらえませんか?」
「魔法を? そっか、ちゃんとした教育も訓練も受けてなかったんだよね」
「はい・・・。そうじゃないとフリードにもヴォルテールにも悪い気がして・・・」
 フェイトはしばし考え込み・・・
「じゃあ、に教えてもらってくれるかな?」
さんに・・・ですか?」
 フェイトさんに教えて欲しいのに、というような拗ねるような顔でフェイトを軽く睨むキャロ。
はね、魔法学校で教鞭振るってた事もあるから私なんかよりも詳しいし、教えるのも上手なんだよ」
「せ、先生なんですか?」
「免許は持ってるって言ってたよ? 他にも色々資格持ってるみたいだし」
「そうなんですかぁ・・・・すごいなあ・・・」
「それにね。私も仕事が忙しくてたまにしか顔を出せないと思うから。満足の行く教え方が出来ないかもしれないと思う。
ね? いいかな?」
「わかりました。わたし、がんばりますっ!」
 二人はこの後キャロがのぼせるまで話しをしていた。

 風呂から上がった二人は晩御飯を待っていた。
 もっともキャロはのぼせてしまったためソファに横になり、フリードがその小さな翼で必死に扇いでいたりする。
 フェイトはその光景を微笑みながら眺めていた。
 キャロはぼんやりと周りを見ながら、部屋のサッシの方に黒い塊があることに気がついた。
 塊は呼吸するように少し上下しているようにキャロには見えた。
 そのキャロの視線の先に気がついたフェイトがその塊に声を掛ける。
「おいでノワール。キャロに挨拶しよう?」
 ノワールと呼ばれた塊はゆっくりと立ち上がった。
 キャロは意識が完全に覚醒し息を呑む。フリードは扇ぐのに疲れきってばててしまっていた。
 それは大型の黒豹だった。
 いや、黒豹型の魔獣だった。
 ゆっくりと近づいて来る魔獣に怯え、キャロは死ぬかもしれないと覚悟を決め、
「くるるるるる」
「ふふ、元気そうだねノワール」
 まるで猫のように喉を鳴らしながらフェイトに甘える魔獣に思いっきり肩透かしを食らわされた。
「あ、あの・・・フェイトさん?」
「キャロ。この子はね、昔が助けた仔なんだ。すごく人懐っこいんだよ」
 そう、この魔獣はあの別荘で助けた魔獣だった。
 別にが改めて引き取ったわけではなく紆余曲折の末にの元に引き取られたのだ。
 ノワールは自然保護部隊に引き取られたのだが当時の部隊長がノワールの種族の希少価値に目がくらみ、
死んだ事にして裏のオークションに横流ししてしまったのだ。
 その部隊をたまたま査察したヴェロッサ・アコース査察官がそれを暴き、クロノ経由でフェイトに
捜査協力を申し出て密売ルートを捜査し、クロノ提督率いるアースラが密売組織を摘発し、
その時保護された希少動物たちが一時的に不破邸の裏山に預けられ、ノワールだけが居付いてしまったのだった。
「そ、そんなことが・・・」
「管理局のような司法組織でも勤めているのは人間だしね。魔が差すなんて良くある事なんだと思うよ」
 ノワールはキャロを暫く眺めた後、キャロに甘えるように擦り寄ってきた。
 元々動物好きのキャロもノワールがかなり賢いのだと気付いたのか笑顔で抱きしめたりしていた。
 そんなこんなですっかり仲良くなった一人と2匹が戯れているところでが食事の準備を終わらせて
リビングに戻ってきた。カートにたくさんの料理が乗っていてキャロはその豪華な料理に目を奪われる。
「さて、キャロの歓迎会ということで今日はご馳走だ。たらふく食いな」
「い、いただきますっ!」
 ご馳走を食べて大満足したキャロはそれまでの疲れもあってか早々に寝入ってしまった。
 ノワールを枕にしてフリードを抱きしめながら眠るキャロを見て、微笑みながら二人はキャロの部屋を
出て行った。

 次の日からのキャロの生活はこんな感じで過ぎていった。
 朝、寝ぼけ気味のキャロがノワールの背中に乗せられて顔を洗いに行き、目が覚めたら朝食。
 朝食後に昼までから魔法の他様々な勉強を見てもらい、終わったら昼食。
 昼食後は少し休んでから魔法の実践。無機物の召喚から始めてようやく使えるようになってきた。
 三時におやつ休憩が入る。毎回の手作りでケーキや和菓子なんかも出てきてキャロも大満足だ。
 その後ノワールとフリードと一緒に山の中を探検。
 たまにいろんな小動物を連れて帰ってくる。
 晩御飯の後は、まったりと過ごして風呂に入ってノワールを枕にして就寝。
 休日は時々顔を出すフェイトとアルフに連れられていろんな場所に遊びに行く。
 キャロはここでの生活がとても充実していた。


 そんなある日。
「そろそろ竜召喚をしてみようか」
 不破邸に来てから三ヶ月たった日の事だった。

 不破邸の敷地内にて。
 キャロは緊張気味に呪文を唱え、フリードを真の姿へと変化させる。
 そして・・・・・・・・・・・・
「ギャオオオオオオオオアアアアア!!!!!!!」
 暴走した。
「フリード! やめてえええぇぇぇぇぇぇ!!!」
 暴走したフリードは主の言葉も聴かずに暴れまわる。
 そしてフリードの視界にが入り、猛然と襲い掛かってきた。
 フリードが何をしようとしているのかに気付いたキャロが必死に静止しようとしてもフリードは止まらない。
 そしてフリードが炎を吐―――
「ふんっ!」
「ゴギャアアアア!」
 ――――こうとしたところでの右アッパーを食らって仰向けにひっくり返った。
「・・・・・・え?」
 目の前の光景を信じる事が出来ずに思わず固まるキャロとノワール。
 ドラゴンの巨体を普通に殴り飛ばした自分の保護者に視線を向けると・・・何食わぬ顔でフリードの腹を
踏みつけていた。
 逆上したフリードは自分の腹の上に乗っているを睨み怒りの咆哮を上――――
「なんだチビトカゲ? まさかこの俺に喧嘩を売ろうとでも? ん?」
 ――――げようとしたがそのまま犬や猫がやるような服従のポーズに移行した。
 ここでとフリードの関係がある意味において決定した。
 フリードにとっては例え暴走していようと逆らってはいけない人物として脳髄に刻まれたのだった。
 フリードはまだまだ若齢竜。つまり若い竜だ。
 真っ当な実戦経験も無い若造には嫌と言うほど実戦を繰り返した修羅の殺気に抗う事など出来る筈がなかった。
 脂汗を流して服従のポーズを取り続けるフリードの姿になぜだか泣けてくるキャロ。
 竜という最強クラスの種族ならもう少しがんばっても、と思ったが言えばフリードが傷つくと思いあえて言わなかった。
 自分の理解が及ばない強さを持ったものの存在を知り、キャロは少しだけ大人になった。
 とりあえずフリードがまたこんな目にあわないように制御訓練を少し多めにしようと心に誓ったそうな。
「訓練は定期的に続けよう。まあまた暴走したら殴り飛ばすだけだが」
「はい。わたしがんばります!」
 の視線におびえ、涙目でその大きな体を必死に縮めてキャロの背中に隠れようとするフリード(真)を、
キャロは極力見ないようにしていた。 見たら涙が止まらない気がした。
 なおノワールは怯えるフリード(真)の頭を肉球で軽く叩いて慰めていたりする。


 数ヵ月後
「自然保護隊か」
「はい。フェイトさんが紹介してくれたところなんですが、そこの人たちはすごくいい人たちみたいで」
 キャロのやりたい仕事が見つかり、そこに行く手続きを取る事になった。
「寂しくなるな。たまには帰っておいで」
「はい! お手紙とか出しますね!」
「部屋と無機物召喚用の武器庫はそのままにしておくから使うときは使いなさい。時々武器が増えてるかも知れんが」
「はい。・・・今まで色々とありがとうございました」
「この半年程でお前はかなり成長したよ。いろんな知識や技術を身につけたおかげかな?」
「そうですね。とりあえず自信が付きました」
 は感慨深げにキャロを褒める。
 キャロは半年前とは明らかに違う自分に少し誇りを感じていた。
「それじゃ、駅でフェイトさんが待ってますから」
「ああ、フェイトによろしくな。たまには顔を出せといっておいてくれ」
「はい! ノワールも元気でね! 行くよフリード!」
「キュクルウウウ!」

 こうしてキャロはの下から巣立っていった。
 教えてもらった物を忘れずに心に刻み、どんな職場でも元気にやっていこうと彼女は決めた。
 そして2年後、キャロ・ル・ルシエは機動六課に自ら志願する事になる。
 だが今は・・・・・・・・
「あの〜・・・駅ってどっちにあるんでしたっけ・・?」
「・・・・・・送って行くから少し待ってなさい」
 まだまだ子供だった。




後書き
キャロ・ル・ルシエの主人公との出会いと生活の日々の話。
他にも色々と召喚魔法の応用の仕方とか色々と考えたんですが別の話で使うことにしました。
そのうち実戦や訓練で使う予定です。
召喚と無機物操作を利用して某G・O・Bとか・・・・
なのでウチのキャロは単体の戦闘能力がアニメに比べて高かったりします。
多分条件次第では新人フォワード陣でも一番強くなったりするかも・・・・
ノワールはこれからもちょくちょく出てくるかも知れないですね。

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