陸士訓練校にいるスバルから遊びに行くお誘いの電話が掛かってきた。
『えーっ。これないのー?』
「遊びに行きたいのはやまやまなんだけどな。今回はどうしても外せないんだよ」
『せっかくギン姉も来るのに・・・』
「仕方がなかろ。こっちはお仕事なんだよ」
『訓練校で知り合ったパートナーとか紹介したかったんだけどなあ』
「今じゃなくても構わないだろう? すまんがそろそろ客が来るんだよ」
『うぅ・・・今度埋め合わせしてね?』
「そっちのスケジュールもあるから暫くはあえないな」
『うー・・・遊べるときは遊んでね?』
「はいはい。じゃあまたな」
 電話を切ってすぐにアタラクシアの執務室にノックの音が響いた。
「どうぞ」
「失礼します」
 その客は聖王教会騎士団の騎士カリム・グラシアとシスターシャッハ。
 彼女達は少しばかり厳しい顔をしていた。


 聖王教会とアタラクシア



「本日は何か御用でしょうか? あなたが教会を離れることは珍しいですが」
「あなた方がロストロギアを不法所持し研究しているといううわさを聞きました」
 カリムの言葉にが少し顔をしかめる。
「ありえませんね。我々はそういったものを使わず既存技術を昇華させより良い物を作ることを
目的とした頭脳集団ですので」
 そう、ここにロストロギアを研究する者はいないのだ。
 ここにいる技術者のほとんどが古代遺物で何らかの損害を被っているからだ。
「そちらの口頭では信用する事が出来ません。こちらも信用できる筋からの情報でしたので」
「・・・どちらさまなんでしょうか?」
 はある程度予測が立っていながらもカリムに尋ねる。
「時空管理局です」
 は盛大に溜め息をついた。
 予想外の反応に二人は戸惑っている。
「私としては一番信用が無いところなんですがね・・・」
「・・・・・・司法組織ですよ? あれ・・・」
 何も言えず沈黙していると、執務室に再びノックの音が響く。
「失礼しますお兄様。・・・あら? そちらは・・・」
「ミスティか。こちらは聖王教会の騎士カリム殿にシスターシャッハ殿だ」
 入ってきたのはと同年代の少女だった。
「あの、総帥。こちらの方は?」
「失礼しました騎士カリム。アタラクシア警備隊【楽園の守護者】序列第一位ミスティ・コラードです」
「コラード? コラードというと・・・」
「祖母が陸士訓練校の校長を勤めております」
「ああ、ファーン・コラード三佐の・・・初めまして、カリム・グラシアと申します」
「シャッハ・ヌエラです」
 一通り挨拶が済んだところで、
「お兄様。騎士と思われる方々が研究所に無断侵入して色々と漁っているようですが」
「・・・・・・・・・騎士カリム。強制なのですか? こちらに何も告げずに」
 とミスティの責めるような視線がカリムに向けられる。
「シャッハ。私は話をつける迄待機を命じたはずですよね?」
「え、ええ。そのはずです」
 二人のやり取りにとミスティは研究所の警備カメラの映像を全て空中に投影する。
「・・・・・・これは酷いな。荒らすだけ荒らしてろくに探しちゃいない」
「・・・・・・・・こっちの騎士はデータファイルを閲覧してますね」
 どう見ても査察などではないその光景に、カリムとシャッハは顔色を変える。
 そして、カメラの一つ、研究所の外の部分が映ったとき、は顔色を変える。
「ここに転がってるのは、うちの職員ではないな。何より服を剥ぎ取られている」
「あれは! 騎士団の者です! なぜあんな事に!」
 カリムの叫びに、とミスティは即座に行動を開始した。
「警備隊! 中で狼藉を働いている馬鹿どもを捕らえろ! 骨の2・3本は砕いても構わん! 一人も逃がすな!」
「警備室! 研究所の出入り口を封鎖! 外回りの部隊をこちらによこしなさい!」
『了解!!』
 によって鍛え上げられた彼らの行動は迅速そのものだった。

『総帥。一人残らず捕らえました』
「ご苦労。予想はついているが確認のためだ。尋問を頼む」
『了解しました』
 10分もかからず、警備隊は騎士モドキを確保した。
 映像に映っている限りは特に外傷は見えないが、うめき声を上げ続けている。
「ふう・・・三流以下の馬鹿どもで助かった」
「まったくです。アレで普通に査察されていたら大損害でしたね」
 もミスティもデータを持っていかれる事もなく済んだ事に心から安堵していた。
 一方カリムとシャッハは顔色が悪い。
「さて、どういうことですかな?」
「・・・・・・・・申し訳ありません!」
 カリムもシャッハもそれはもう勢い良く頭を下げる。
「まさかこのような事になるなんて・・・」
「最近は騎士の質も落ちてきているようですね」
「嘆かわしい事です。訓練を欠かしてはいませんでしょうね・・・?」
「それはありません。騎士団の規定で訓練はきちんと・・・」
 二人の責めるような言葉に恐縮しまくりの教会代表。
 二人がに謝っているときに外にいた警備員から連絡が入った。
『ししょー! 身包み剥がされてた騎士の一人が脱走しようとしたんで捕まえましたー! 
こいつが手引きしたみたいですー!』
「ご苦労さんシンシア。近くに管理局員がいないか探しておいてくれ」
『りょーかいですー! ではいってきまーす!』
「・・・・・・・・シンシア」
『は、はいです! なんでしょーか総長!』
「貴女も良い年の女性なのですから『ああっ! もくひょー発見! すぐ確保ですー!』って待ちなさいシンシア!」
 ミスティの説教を遮り通信を切って逃げ出すシンシア。
 ミスティは同級生ながらも色々と幼すぎる彼女に上司として苦労しているようだった。
「ほうっておけミスティ。あれはあれでシンシアの個性だ。それに言って直るような奴じゃない」
「お兄様がそうおっしゃるなら・・・」
 教え子でもあるからかシンシアを良く理解しているらしい
「ぶっちゃけるとあれはピーターパンシンドロームだ。本人が大人になりたいと思わないと直らんよ」
 シンシア・リリエール、現在16歳。見た目9歳で言動も幼いが非常に優秀な空戦魔導師である。
 レアスキル・空間干渉を持つAAAランクの高度な実力者で基本武装は銃型のデバイス。
「・・・・・彼女の過去は知っていますが、それでも・・・」
「恋の一つでもすれば変わるだろう。幸い出会いの多い職場だ」
 達のやり取りを呆然と眺めるカリム。
 よりにもよって騎士団から、自分の部下がこのような事を招いた事に茫然自失の状態だった。
 そして騎士を唆しこのような事をさせたのが管理局だと、自分が理事官を務める組織だと知って更に愕然とした。
『総帥。奴ら吐きました。近隣の地下組織の連中のようです。うまい話があるとかで釣られたようですね』
「陸士108部隊のゲンヤ・ナカジマ三等陸佐にそいつらのアジトをリークしておいてくれ」
『分かりました。組織編制なども教えますか?』
「もちろんだ。全て吐かせて全ての情報を108部隊に流しておいてくれ。後はあいつらに任せる」
『了解しました。では失礼いたします』
『師匠。脱走した騎士に尋問したところやはり管理局員が唆したようです。以前とは違い
ロストロギアを持ってはいませんでしたが』
「分かった。報告ご苦労セレス。後はここにいる騎士カリムに任せておく」
『了解しました。ついでですので残りの騎士もまとめて拘束しておきます』
 部下からの報告を聞いたは疲れた顔でカリムを見る。
「・・・ということなんで、お帰りになられたら内部の監査を強化してくださいますか?」
「我等としてはもう二度とこういう事が無い様にして頂きたいのです」
「・・・・・・分かりました。本当に申し訳ありません」
 カリムとシャッハは本当に深々と頭を下げ、今回の不祥事を謝罪した。


 彼女は今更ながらに疑問に思う事があった。
「あの、ミスティさん。何故不破総帥をお兄様と・・・?」
「・・・・・・血の繋がりはありませんが、この方は確かに僕のお兄様なのです」
「それじゃ説明になってないだろう。俺とミスティはあるプロジェクトの生き残りだ。ミッドに来たあと
俺の事を知ったコラード三佐が引き合わせてくれたんだ」
 そう、ミスティはと同じプロジェクトで生まれた少女だった。
「ボク?」
「いけませんか? 僕は昔からこの方がしっくり来るのです」
 母親はコラード家と全く関わりはないのだが、父親が・・・・・・
「ミッドチルダに放逐された母は偶々お婆様に保護され、お婆様は僕の出産に立ち会ったのです。その際に
DNA鑑定を行った所、僕の父がお婆様の行方不明になった甥である事が判明し、正式に引き取られたのです」
 その後の暗部摘発事件の報告を聞いて素性が判明した後、母の爆弾が発症。ミスティに襲い掛かったとき
居合わせたファーンが押さえ込んだが一瞬とはいえ正気を取り戻した母親は娘を守る為に自決したのだった。
「その後お兄様がミッドにいる事を知ったお婆様はお兄様と引き合わせてくれたのです」
 その時も色々と問題は発生したのだが、その時研究所に依頼に来ていた政府関係者の協力により解決している。
「俺達、あのプロジェクトの実験体は基本的に脆弱だという研究結果があってな、ミスティも
生まれた当初は未熟児に近かったらしく体も弱かったが成長するにつれて安定していったらしい」
「・・・正確には成長における環境と生活習慣も大いに関係するようです。お婆様は普段はやさしい方なのですが
訓練になると途端に厳しくなる方でした・・・」
 ミスティは遠い目をしてあらぬ方向を眺め始める。
「あの・・・どのような訓練を?」
「全てにおいて高レベルでした。アレはそうとしかいえません・・・」
 ミスティは思い出すのも勘弁という顔で、そして若干震えている。
 その光景を見てカリムは何も言わずに聞くのを止めた。
 なぜならアタラクシア警備隊の訓練の厳しさは知っている。騎士団で行った所誰一人完遂できない程の厳しさだったのだ。
 そしてそれを日常的にこなす彼女がここまで恐怖するという事は・・・・・・・・
「すみません。もう聞きませんから」
「ありがとうございます。そうしてくれると非常に助かるのです」
 とにかくかなりきつかったらしい。なお彼女が校長を務める訓練校ではこれの劣化版が行われている。


 カリムは教会に帰ってから本当に忙しかった。
 騎士団員の素行調査や戦闘技術のレベルなどを調べ上げ、以前挫折したアタラクシア式の訓練を少しずつ
取り入れるようにしたり団員に不穏な動きをするものや何らかの不正を行っている者を処罰したりと休む暇もなかった。
 そこまで必死になる理由はただ一つ。アタラクシアの教会への信頼を回復させるためだ。
 いまや彼らの影響力はしゃれにならない領域に達している。何せ彼らはミッドチルダ政府から
全幅の信頼を得ているのだ。敵に回せばそれこそしゃれにならない。
 そして今回の事で管理局が必ずしも善良な組織ではないと気付いたのも大変な収穫だった。
 理事官として所属するだけでなくちゃんとした監視も始める事を心に誓っていた。
「ますます忙しくなったわね・・・」
「私以外にも補佐をつけましょうよ騎士カリム。流石に無理がありますよ」
「仕方がないわね。今回は私達の所為であの方達に多大な迷惑を掛けてしまったんだもの。向こうも掃除だの
流出しかけたデータだのの整理で研究が滞っているようですし。事務作業が得意なシスターを見繕ってくれるかしら?」
「はい、了解しました騎士カリム。すぐに募集を掛けます」
「身辺調査も欠かさないでね?」
「分かっていますよ騎士カリム。では」
 今回の事で平和ボケしつつあった聖王教会は気を引き締められていた。
 最早多少の事では遅れを取らないだろう。そうであって欲しいとカリムは祈らずに入られなかった。


「管理局のエージェントには逃げられたが、これで少しは危機感を持ってくれたみたいだな教会は」
「そのようですね。なんにせよこちらも楽になるのです」
「今までこちらだけで管理局を監視していたようなものだしな。派遣していた者たちに休みと危険
手当を奮発しておいてくれ」
「分かりましたお兄様」
 たちは教会がようやく管理局は必ずしも善ではない事を理解してくれたおかげで多少動きやすくなっていた。
 評議会を潰すための包囲網は、着々と整い始めている。




後書き
聖王教会を利用しようとした管理局とぎりぎりで止める事に成功したアタラクシアの話でした。
そして、主人公の同類の登場。
ミスティ・コラード。シンクタンク・アタラクシア警備隊【楽園の守護者】序列第一位。
魔導師ランクは総合SS。強大な魔力と高い指揮能力を持つはやてと同じタイプのミッド式魔導師。
ただし攻撃・防御・近接戦闘何でもござれな完璧超人。普段の仕事でもかなり優秀。
警備隊の総司令でありアタラクシアにおいては主人公に次ぐ権力保持者。普段はその権力を全く使わない。
肉体的に脆弱なはずという研究結果を努力と根性で覆した人。趣味は料理で栄養士の資格も持っているため
健康には人一倍うるさい。仕事のないときは本部中央棟の食堂で腕を振るっている。
なおその容姿(見た目高貴な大和撫子)と一人称のギャップが人気を博し、彼女に求愛する若者は後を絶たない。
使用デバイスは錫杖方インテリジェントデバイス【アチャラナータ】。
見た目は分かりやすく言うと某惨劇ゲームの最大の被害者。
性格はその彼女の普段の性格に近いまま大人にした感じです。

なお、なのはとミスティが出会ったとき正体不明の近親憎悪を覚えたとかで非常に仲が悪かったり・・・

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