「なあ、これっていじめじゃないのか?」
「何を言うか。お前の戦闘能力を考慮しての事だ」
「デバイスの試運転のはずだったんだけどなぁ・・・」



模擬戦をしよう(あるいはいつぞやのリベンジ)



のデバイスが完成した。
右手に矢の生成能力を持つ篭手、左手に弓を展開する篭手で構成される
装弾数左右8発ずつのアームドデバイス『アムルテン』
両足に足場を形成し、また高速移動と小回りの効く機動が可能な
ブーツ型ストレージデバイス『ヴォイドウォーカー』通称ウォーカー
今回はその試運転を行う事になった。
なお、このデバイスは開発局に見学に来た際に、アリサ(IQ200)と
すずか(専門家)と(IQ190)の3人がかりであーでもないこーでもないと
新機構・新理論を開発しながら作った本気で最新鋭の機体である。
オールレンジでオールマイティーに戦えるヴィータにおやつを奢る事を餌に
付き合ってもらう事になり、訓練施設を借りたのだが・・・・・・・

「何で此処に皆が揃ってるんだろうね」
「そ、そんな事言わないでよ。私はシグナムさんに拉致られたんだし・・・」
「此処にいるメンバーはみんなそんなものだ。気にするな」
やる気をガリガリと削られつつ、メンバーを見ると・・・・
「あの時は同じ土俵ではなかったからな。楽しみだ」シグナム
「こ、今度はキレへんよーにお願いしますー」はやて
「わりぃ。アタシがテスタロッサに言ったばっかりに・・・」ヴィータ
「出来れば勘弁して欲しいんだけど」ユーノ
「わ、私もです・・・」シャマル
「無手の格闘術か・・・興味はあるな」ザフィーラ
「あんたもかい?」アルフ
「まあ、あきらめろ・・・」クロノ
「このメンバー相手でも何とかしちゃう気が・・・」なのは
そして・・・・・・・
、シグナムが言う強さを見せてもらうね」フェイト
一部が非常に乗り気である。
今すぐに中止したい気がするだが、
「がんばりなさいよー」アリサ
君が戦うところって始めてみるよね?」すずか
「ちゃぁんとデータ取るからねー」エイミィ
という声援というか、まあ逃げ道は既に塞がれている。
盛大にため息を吐きつつ準備を終えるだった。
なんとなく背中が煤けて見えるが・・・・・

『さあ!模擬戦開始!』
エイミィの声と共に各自が散開する。
しかし、いきなりシグナムが仕掛ける。
剣を構え、カートリッジをロード。それを見た瞬間これからなにが来るかを理解した
右腕を腰だめに構え、カートリッジをロードし、攻撃態勢に入る。
「紫電・・・・・」
「奥義・・・・・」
二人の技の打ち合いに全員が注目する。
「一閃!」
「吼破!」
炎を纏った剣と魔力を帯びた拳がぶつかり合い、相殺する!
シグナムは後ろに退こうとするが、は止まらない!
振り切った勢いで回転しつつ、更なる連撃を開始する。
「連ね舞!」
追加の吼破が更に五発、レヴァンティンが障壁を生み出すもむなしく紙を突き破るように
障壁を突破、シグナムを捉え全弾命中する。
シグナムは悲鳴を上げる事すらままならずに吹き飛ばされた。
「う、うそ・・・・・」
「ありえねぇ・・・あいつが一方的に打ち負けるなんて・・・」
シャマルとヴィータが驚愕。
他のものも声を出せない。
しかしフェイトは冷静にを観察していた。
「紫電一閃を相殺する拳撃を高速で6連発。尋常じゃないね・・・・」
冷や汗を拭いながら、フェイトはに突撃をかける。

「スピードでかく乱すればだって・・・!」
「付き合うぞ!」
「あたしもねっ!」
ザフィーラ・アルフの狼コンビが連携して仕掛ける。
フェイトがハーケンで斬りかかるが事も無げにかわされ、アルフたちのコンビネーションも
当たり前のようにかわされる。
「おおおおおお!」
ザフィーラが大振りの拳を打ち下ろすも、はそれをかいくぐり、胸に手を添えると同時に
『Vウォーカー』が足元に力場を形成、足場を作る。そして、
「ぐおおっ!」
ザフィーラの全身に体が砕けそうな衝撃が走る。
浸透剄を打ち込まれ、頑丈な彼も意識が飛びそうになる。
「おりゃあぁぁぁぁ!」
アルフがに蹴りを放つが、はカートリッジをロード。
蹴足に拳を叩きつける。
反動で態勢を崩したアルフの背に回り、蹴りでザフィーラごと地面に叩き落した。
「バルディッシュ!」
『Zamber form 』
フェイトはフルドライブで攻撃を仕掛けるが、
「甘いぞフェイト。そんな大振りが俺に当たる訳が無いだろう?」
あっさりと見切られ、間合いの内側に肉薄され、浸透剄を叩き込まれる。
「ごほっ!がっ!」
咳き込むフェイトを、あの二人と同じように地面に叩き落した。

「だ、大丈夫か?シグナム」
「がほっ!ごほっ!だ、大丈夫・・・です」
ようやくダメージから復帰したシグナムだが、以前の比にならないダメージに
戦慄していた。追いつかれる所ではない、もう超えられているかもしれない。
そんな考えが脳裏をよぎる。
「シグナム。実は私の魔法の中には何故か君の技まで入っててな」
その言葉に若干動揺しながらシグナムははやての言葉を聞く。
「強化魔法で接近戦を仕掛けてくる。狙撃の準備しててな」
はやてがおとりとして飛び出し、から蒐集した際に魔法ではなく技のデータが
蒐集されたらしいはやての連撃がを襲う。
蹴り・膝・肘・拳、様々な攻撃がかなり高い錬度で繰り出され、の動きが止められる。
そしてシグナムはボーゲンフォルムで狙いをつける。
その様子に気付いたがカートリッジで強化した拳ではやてを引き剥がす。
その瞬間、
「駆けよ隼ぁ!」
『Sturmfalken!』
放たれる超音速の矢。完全に直撃コースだった。
しかしの右足が魔力を纏い、が集中力を上げるためのきっかけの言葉を呟く。
「クロックアップ」
その瞬間の感覚から音と色が消え、世界の動きが緩慢になる。
ゆっくりと近づいてくる矢を蹴り、向きをクロノの方へ修正する。さらに矢をクロノの方へ蹴り出し、呟く。
「クロックオーバー」
世界から音と色が復活し、通常のスピードになる。
そしてファルケンの矢は、クロノの方へ・・・・・
「な、なにいぃぃぃぃぃぃ!?」
クロノ視点で、何故か軌道が曲がった矢を身をよじって必死にかわすが、間近で爆発。
衝撃で地面に落ちていった。

が使ったのはリミッターカット。
集中力を高め脳の抑制を外し、音と色の認識を止め、その分を思考能力にまわし、
感覚時間を大幅に引き伸ばし、それについてこようとする体が勝手に限界を超えるという
荒業中の荒業だ。
いわゆる火事場の馬鹿力を意識的に発動させるという事である。
これにより約20倍速で動くことが可能になる。
しかしそれにもデメリットがある。
まず、体力を大幅に消耗する。
普段使わない筋肉をフルで使う上に、普段鍛えていても筋繊維を痛めてしまう。
つまり、体の負担が大きすぎて使いすぎると体が壊れてしまう諸刃の剣。
しかもはいまだ9歳。体が出来ていない今の体では負担が大きすぎる。
そのため、今のは悲鳴を上げる体を庇っている事になる。

シグナムは自身の最強の攻撃を理解を超える方法で攻略され茫然自失である。
なのはは動きの止まったにディバインバスターを撃ち込むが高速移動で回避する。
は弓を展開し、なのはを狙う。
「レイジングハート!」
『Protection Powered』
なのははバリアを張り砲撃に備える。
しかしの砲撃はかなり特殊かつえげつなかった。
「タスラム!」
右の篭手から3本の魔力の矢が形成され、弓に番え、発射。
恐ろしい速さでなのはに向かい、接触。たいした抵抗もなく半ばほどまで突き刺さる。
それを見た他の面々、そしてなのはは驚愕を通り越して戦慄する。
あの、強固きわまるなのはの障壁を貫いたのだ。さらに・・・
「バースト!」
追加のスペルで矢が爆発する!
ほぼゼロ距離で爆発を受けたなのはは衝撃で吹き飛ばされながらもアクセルシューターを放つ。
12条の光弾をは同じ数の誘導弾で迎撃した。
そこにラケーテンハンマーでヴィータが突っ込んでくる。
しかしは後ろに退かず前へ出る。
そしてヴィータもフェイトのように間合いの内側に肉薄され、浸透剄を受け地面に叩き落された。

10分後。
はデバイスに不具合が無いか調べ始めた。
異常がない事を確認したは、自分を取り囲む者に視線を向ける。
ダメージを受け下がっていたはずのみんなが闘志全開でを睨みつける。
「ユーノとシャマルが回復して回っていたか」
「その通りです」
「後方支援に徹する事にしてたからね」
二人がかりで治していたらしい。
「さあ、第2ラウンドだ」
シグナムが剣を構え、他の面々も本気になっているようだ。
「仕方が無いな。もう少し、こいつの試運転に付き合ってもらうぞ!」
鷹の如き鋭い眼で自身の対戦相手たちを見下ろす
何気にテンションが上がりつつあった。

ついでに言うと、フェイトたちは闇の書の闇と戦っているときを思い出していた。
あの時と比べて、自分たちが劣勢だという事が彼との実力差を感じさせ、若干落ち込みつつあった。
しかし、キレた時よりは怖くないため、あの時の恐怖を思い知らせようという者も出始めた。


「すごいね・・・・」
「まったくだわ・・・・」
「あ、あはははは・・・管理局のエースたち相手に被弾ゼロ。それどころか圧倒するなんて・・・」
アリサとすずかはただ漠然とすごいなぁとしか思わなかったが、エイミィは測るように言われていた
のランクを見るのが心底怖かった。


なのはがアクセルシューターで牽制する。
その合間を縫ってアルフとザフィーラが連携攻撃を仕掛けてくるが、矢を生成したまま
剣の様に振るい、スフィアを破壊しながら2人の相手をする。
突然二人が下がり、シグナムが居合いの態勢に入っている事に気付く。
そして、鞘から抜き放たれた連結刃が縦横無尽に駆け巡る。
更にその中をフェイトが襲い掛かる。
回避するしかなかったは悲鳴を上げ続ける体を庇いながらも離脱に成功する。
しかし抜けた場所には、巨大な鉄槌を構えたヴィータが待ち受けている。
「ギガントシュラーク!」
「まだまだぁ!」
鉄槌の間合い内側にもぐりこみ攻撃しようとするも、はやてがヴィータを中心に
ブラッディダガーを放ってくる。
その弾幕に動きを制限され、ギガントが直撃・・・かと思われたが、はカートリッジをロード
全力の吼破で迎え撃つ!
そして、鉄槌は押し返されてしまった。
は全身が軋みを上げるのを精一杯無視しつつ、クロノの砲撃を回避。
そしてなのはがアウトレンジから砲撃を放つ。
は、シャマルから教わった旅の鏡を展開、砲撃を呑み込み、捕捉したシャマルとユーノの後ろに
出口を形成、なのはの砲撃を直撃させる。
二人は問答無用で昏倒した。
回復役を潰したはフェイトの追撃を捌きつつ、クロノに肉薄し攻撃。
しかしそこにフェイト・なのは・アルフ・クロノのバインドが幾重にもに絡みつく。
そこへはやてがラグナロクを発動し、チャージに入る。
はカートリッジを右6発・左6発計12発を同時にロード。
バインドを力ずくで引きちぎり、残ったアルフのチェーンバインドに干渉し、引っ張り引き寄せる。
そしてラグナロクが放たれ、に直撃したと思われたが、そこにいたのはボロボロのアルフ。
思わず呆然とするはやてを真上から襲撃し、フォローに入ったザフィーラごと殴り飛ばした。

30分経過

一時的に戦闘が停止、は乱れた息を整えカートリッジをリロードする。
体が限界を超え、全身に激痛が走っているが顔にも出さない。
「さすがにきついというか。やっぱりいじめだろうがこれ・・・」
「ふざけるな。これだけやって被弾ゼロ。挙句の果てに我らの攻撃をかわすだけでなく
真っ向から打ち破るなど尋常ではないぞ」
「全くだ。まさかこれだけ強かったとは・・・・」
シグナムとクロノは明らかに自分より強いと確信したを警戒しつつ、体力を回復させようと
深呼吸をする。
「つ、強いというより、巧いように・・・思えるんだけど・・・」
フェイトが息も絶え絶えに自分の感想を話す。
もう全員が体力・魔力共に限界を迎えており、とりわけ辛いのはだった。
限界などとうに3つも4つも超え、気力だけで立っているのだ。
「これが・・・最後だ・・・!」
は自分の背後に力場を形成、水泳のときにプールの壁を蹴るような体勢に入る。
そしてカートリッジフルロード、あふれ出る魔力で極限まで肉体を強化。
『ウォーカー』をフルドライブ、最大戦速で飛び出す。
「ミラージュダイブ ランページ!」
残像を残しつつ、ほとんど視認不可な速度でなのはたちに襲い掛かる。
もはやなのは達には抵抗する事も出来ずに一方的に打ち倒されるしかなかった。

暴虐の嵐の後、その場にはひれ伏したなのは達と、立ったまま気を失ったが残っていた。

「な、なんか凄い事に・・・・」
「みんな、だいじょうぶかなぁ・・・」
「ラ、ランクを見るのが怖い・・・あれ?」
エイミィが見たランクの最終評価値は・・・・AAA+。
「な、なんで? 同じランクの魔道師を10人も仕留めといてSいかないの?」
「ああ、これはある意味当然だろう。能力値的にはこれが適切だ」
エイミィの後ろから男性が声をかけてきた。
「あ、貴方は陸士の・・・・」
「この戦いは武装隊の連中に見せるから保存しておいてくれ。
後この坊主が勝てたのは、巧いからだ。その場その場で最良の判断をして、
彼女たちの弱所を的確についているからだな」
男性はそういって部屋を出て行った。
「・・・・・とりあえず、みんなを回収した方が良いんじゃない?」
「ああっ! そういえば!」




とりあえずデバイスの試運転は終わった。
ならしもなしで全開で使った所為で調整が必要になったが特に問題は起きなかった。
敗北した彼女たちは、魔法を覚えて1ヶ月強の少年に惨敗した事でプライドが傷つけられ、
更なる修行を始めたらしい。

なお、は武装隊で有名人になったが、バトルマニアの群れが勝負を挑んできた事に辟易し、
開発局に外部協力者として関わる事だけにしてあまり戦わなくなったという。
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