ヴィヴィオはわき目も振らずに逃げていた。その腕の中には彼女の義父が新たに作ってくれた
うさたんマーク2を抱え、断続的に走る痛みに顔をしかめながらただひたすらに逃げていた。
 ヴィヴィオが何から逃げているのかというと、
「はいしゃさんはヤなのおおおおおおおっ!!!!」
 高町ヴィヴィオ。現在絶賛虫歯中だった。



  虫歯ぱにっく



 発端はその日の朝。
 朝、リビングで寛いでいるの下に泣きそうなヴィヴィオが顔を出してきた。
「ぱぱ〜・・・歯がいちゃいの〜・・・」
「・・・虫歯だな」
 ほっぺたを押さえてそう泣きついてきた娘には、
「歯医者に行こうか。すぐに予約しておくからな」
 当然のように対策を採る。ヴィヴィオも大人しく頷いていた。
「もう! ちゃんと歯は磨いてたの?」
「う〜〜、ママのいうとおりにみがいてたのに・・・」
「なるときはなるものだ。昔フェイトだってリンディさんのおやつの時間に散々付き合って虫歯になったことが」
・・・。出来ればそういうことは言わないで・・・」
「それよりもわたしはアレだけカロリー取りまくってたのに全く太らへんあんたら親子をどれだけ・・・」
「は、はやて・・・?なんだか凄く怖いんだけど・・・」
 なんだか話が脱線しつつあったのだが、ここではやてが歯医者の事を良く知らないヴィヴィオに説明を始めた。
「歯医者さんはな、歯の虫歯の部分をドリルで削ったりするんや。そのままやったらすっごく痛いから歯茎に麻酔を
打ったりもするんやけど、これがまた痛くて痛くて・・・」
「こらこらこらこら。怖がらせるような事を言うんじゃありません」
 はやてが暴走気味に歯医者の説明をするのをが止めるが、ヴィヴィオは既に想像してしまったのか顔が恐怖で
強張っている。若干震えても居るようだ。
「なんなら私がやっちゃいましょうか? こうちょちょいっと」
 シャマルは恐怖に震えるヴィヴィオに助け舟を出すように提案してきた。
「・・・ちなみに方法は?」
「歯茎に麻酔を打ったら口に手を突っ込んで虫歯を引っこ抜くんです」
 その場の全員が沈黙した。そして・・・
「い、イヤアアアアッ!! はいしゃさんもシャマルさんもイヤダアアアアアッッ!!」
 ヴィヴィオが泣きながら逃走を開始した。


「ザフィーラ! ヴィヴィオちゃんを捕まえなさい!」
「いや、しかしだなシャマル・・・」
「今日のザフィーラの晩御飯は何にしま「ぬおおおおおおおっ!!」はいいってらっしゃい♪」
 ザフィーラは鬼気迫る表情でヴィヴィオを追い始めた。ちなみにシャマルは片付け以外で厨房に入ることは
禁止されていたりする。
 ヴィヴィオは追ってくるザフィーラを見て自分を捕まえる刺客だと判断し、誰かに助けを求めようとしたが
周りの人間は皆歯医者に連れて行く気だと判断して、彼女はある存在に助けを求めた。
「うさたーん! カムヒアアアアアアアッッ!!」
「な、なにいっ!!」
 ヴィヴィオが呼んだ名前にザフィーラは動揺する。彼自身もあの凶悪なぬいぐるみの実力を知る一人だ。
 ザフィーラは周りを警戒するが、来ない。そこでザフィーラはあのぬいぐるみは破壊されたのだと思い出した瞬間、
真下から突き上げるような衝撃がザフィーラを襲う!
『助けに来たよヴィヴィオ!!』
「うさたん!!」
 そこにいたのは白いウサギのぬいぐるみ。その正体は親馬鹿の気があるなのはがに頼んで作り直させたあのぬ
いぐるみだった。以前よりもバージョンアップしたうさたんmrk2である。ちなみに何処から来たのかというと、
ザフィーラの真下に旅の鏡が展開されそこからアッパーの態勢で飛び出してきたのだった。
 四足獣にとって急所である腹を強打されて泡を噴いてビクビクと痙攣しているザフィーラを尻目にヴィヴィオはうさたん
を抱えて屋敷から出て行ってしまった。

「ヴィヴィオちゃん・・・なかなかやるわね・・・!」
「あー・・・はやて?」
「シャマル。あとでお仕置きな」
「な、なんでですかはやてちゃん!?」
 バインドであっさり取り押さえられたシャマルの抗議も何処吹く風ではヴィヴィオの追跡を命令する。
「スバル、ティアナ、エリオ、キャロ。ヴィヴィオを捕まえてきな」
「あの・・・かなり難しいんじゃないかと・・・」
「幼児一人捕まえれないほど無能なのか?」
「ほら行くわよみんな!!」
「ティ、ティア!? 何でそんなマジになって・・・」
「あたしは無能なんかじゃなーいっっ!!!!」
 最初は渋っていたがの挑発に乗せられたティアナは仲間たちを引き連れてヴィヴィオの捕獲に向かったのだった。
「オットー、ディード。うさたんに雪辱を果たしたいなら行っていいぞ?」
「「行ってきます!!」」
 の言葉にナンバーズの双子は一も二も無く飛び出していく。
 そしてルーテシアも立ち上がった。
「ルーテシアちゃん?」
「いつかの決着をつけに行って来る。行くよガリュー」
 ルーテシアはガリューを召喚し、ガリューの肩に乗って追い始めた。
 ガリューの目が既に攻撃色に染まっていたがは軽くスルー。
 はサーチャーを飛ばして子供達の戦いを観察するのだった。


 ヴィヴィオは不破邸から程なく離れた森の中で乱れた息を整えていた。
「うさたん。おっては?」
『ティアナたち4人とオットーとディード。あとルーちゃんがガリュー連れてこっちに来てる』
「ティアナおねーちゃんたちはパパにたのまれたんだろうけど、後の人はあのときの人たちだよね」
『うん。決着付けに来たのと雪辱果たしに来たのだね。・・・ヴィヴィオ、アレは使えるの?』
「・・・うん。せいげんじかんはやく60秒だってパパが言ってた」
 状況を把握したヴィヴィオは作戦を立て始める。そして、ティアナたちがそばにやってきた。
「この辺に逃げ込んだはずなんだけど・・・」
「探すわよ皆。警戒するのはうさたんだからね」
「はい。焼け落ちた六課のカメラにあのときの映像が残ってましたから」
「あのぬいぐるみ強いんですよね・・・」
 ヴィヴィオは木の上にいた。登りはしないだろうと高をくくるティアナたちを出し抜くために。
 そして・・・ティアナたちの頭上からうさたんが強襲した!!
『めがとんぱーんち!!』
「うわあ!?」
「まさか木の上からなんて!?」
 咄嗟に避けた4人だが、はずしたパンチは地面を殴り、なんと地面を砕く!
「なにそれぇぇぇぇぇっっ!!!」
「死ぬ! 死ねるってこの威力!!」
 予想外の状況に4人は混乱する。そりゃあ小さなぬいぐるみが地面を砕いたら信じられないだろう。
「うさたん、ろっくしゃわー!」
『らじゃー!!』
 ヴィヴィオの命令を受け、砕けた地面の破片をうさたんが殴り飛ばし、蹴り飛ばしてティアナたちにぶつけていく!
 30秒もの間瓦礫のつぶてにさらされたティアナたちは見る間にボロボロになっていく。あ、フリードに一際デカイの
が直撃した。
「フリードしっかりー!」
「スバル! 防御!」
「おっけ! その間に何とかして!!」
「エリオ! ヴィヴィオを押さえなさい!!」
「はい! いきます!!」
 スバルがつぶてを防御して、エリオがその間にストラーダのロケット噴射でヴィヴィオに飛び込む!
 しかしそこで更なる予想外の事態が起こる。ヴィヴィオの体から虹色の魔力光がほとばしり、姿が一気に成長する!
「「「「え、えええええええええええええ!!!?」」」」
 その姿はかつて見せた聖王の姿! そして突っ込んでくるストラーダを右手で打ち払い、驚愕で無防備になった
エリオの顔面に渾身の左拳を叩き込んだ!
 地面に叩きつけられ沈黙するエリオに構わずヴィヴィオはキャロに肉薄ししっかりと腰の入った拳で沈黙させ、
予想外の事態に固まったティアナとスバルはうさたんのめがとんきっくでまとめて倒されたのだった。


「な、なあ君。あれ、しっとった?」
「聖王モードか? 制限時間は一分少々だが一応可能だぞ」
 観戦中のはやてたちはまさかティアナたちが負けるとは思ってはおらず、開いた口が塞がらなかった・・・


 六課フォワード陣を撃退したヴィヴィオは森の更に奥に向かっていた。
「はあっ! はあっ!」
『ヴィヴィオ。大丈夫?』
「な、なんとか・・・」
 ヴィヴィオは荒い息をついていた。聖王モードはレリックが無い今無理に力を引き出している状態なので例え制限時間
内に解除しても凄まじい疲労に襲われるのだ。
 何とか息が整い始めてきた時、ヴィヴィオたちのいる辺りが緑色の結界に包まれた。
「もう逃げられないよ」
「うさたん。あの時一撃で倒されたその屈辱、忘れてはいませんよ」
 オットーとディード。かつてその実力を出す事も出来ずに打ち倒された二人がヴィヴィオとうさたんの前に立っていた。
『ヴィヴィオ。ここはボクだけでやるよ』
「う、うさたん・・・」
 まだ疲労が回復していないヴィヴィオは息も絶え絶えにうさたんを見守る。
「これまでの戦いである程度消耗しているでしょう?」
「今のキミに勝ち目は無いよ」
 この二人はうさたんが消耗するのを待っていたようだ。卑怯と言う無かれ。これも一つの戦術なのだ。だが、
『甘いよ二人とも。あの人がかつてのボクの敗因、エネルギー切れを回避する方法を考えていないと思ってたのかい?』
 はうさたんを作り直した際に、動力を電気バッテリーではなく魔力駆動に変えたのだ。普段はヴィヴィオが魔力を
込めて動力源のチャージするようにしているが、予備バッテリーというものも用意してあった。つまり・・・
『カートリッジロード!!』
 うさたんの体内で小型のカートリッジシステム(リボルバーナックルのあれ)が起動し、魔力を炸裂させうさたんの
エネルギーを補給する!
『さあ、また倒してあげるよ二人とも!』
「くっ! 行くよディード!」
「ええ! オットー!」
 一体と二人の死闘がここに始まった。


 その頃、観戦中のはやてたちはというと―――
「・・・君。あれ何処まで高性能やねん。戦闘機人二機相手に互角にわたりあっとるで」
「思いつく限り性能を上げろといってきたのはそこの白い悪魔なんだが」
「なのはちゃーん!!!」
 なのはは逃げ出した。しかし回り込まれた。
「うん。少しお話ししよか」
「あれあると本当に魔導師いらなくなるよね・・・」
「おお・・・ディードとオットーが吹っ飛ばされた・・・」
「しかも起き上がってこないし・・・」
「いいところに入ったからなあ・・・」
 はやてがなのはを説教しているのを無視して、遊びに来ていたナンバーズたちが負けた二人を情けないだの何だの言っ
ていたが、後日馬鹿にしていた彼女達が敗北したのは言うまでも無い。


 吹っ飛ばされて木に叩きつけられ何本か木をへし折ってから停止しそのまま沈黙した双子を横目に眺めながらうさたんの
カートリッジを新しいものに取り替えるヴィヴィオ。
 そして、その光景をルーテシアとガリューが見守っていた。
「うん。これでよしっと。またせたねルーおねえちゃん」
「そんなに待ってないよ。うさたんは大丈夫?」
「パパの作ったうさたんはそんなにやわじゃないよ。ママがパパに頼んでつくりなおしたんだから!」
 実際は・・・前と同じ物を贈ろうとしていたになのはがレイジングハート(集束砲チャージ済み)をつき付けて
作らせたものだったりする。以前の事もあってなのはの親馬鹿度が急上昇しているようだった。
「・・・そろそろ始める?」
「・・・うん。あのときはうさたんのエネルギーがなくなっておわっちゃったから」
 ルーテシアの言葉にヴィヴィオは闘志の篭った言葉で返す。・・・歯の痛みに顔をしかめながらだが。
 対峙する二人。そしてその二人の前にガリューとうさたんが戦闘態勢をとる。
 ガリューはブレードだけでなく背中から触手を出し、うさたんは全身から魔力の光(虹)が噴出し始める。
「うさたんっ!!」「ガリュー!!」
 1体と1機がぶつかりスパークが迸る!
「ガリュー! 切り裂いて!」
「ふっ飛ばしちゃえ!」
 ガリューが腕のブレードを振り回すが、うさたんはブレードの腹を強かに打ち上げる。大きく体勢を崩すガリューだが
先端に刃の付いた触手がうさたんに襲い掛かる。うさたんは耳の先を少し斬られただけで回避しきり、大きく跳び退る。
「やるね・・・!」
「ルーおねえちゃんこそ!」
 互角の戦いを演じる自らのしもべとそれを指揮する二人。二人はお互いの能力を認め合いながら更なる命令を出し、
そのしもべは激闘を繰り広げる!
 その戦いは長く長く続いたのだった・・・


 日が落ちて星が輝いている夜空の下。
 ボロボロでいくつも装甲を砕かれたガリュー。体のあちこちから火花が散るうさたん。
 もう彼らは動くことさえ適わない状態だったが、全力を出し切ったがゆえにとても満足そうな顔をしていた。
「・・・また引き分けだね」
「・・・うん。今度やったら勝てるかな」
「・・・まけないから」
「・・・うん」
 ヴィヴィオとルーテシアも疲れ果てたのか背中合わせに座り込み夜空を見ていた。
「ヴィヴィオ。歯は大丈夫?」
「・・・・・・・いちゃい・・・」
 痛む歯を我慢しながらこれからどうしようかと考えるヴィヴィオ。痛いのは嫌だがはやてから聞かされた歯医者のイメージ
が恐すぎて歯医者に行く気にもならない。
「地雷王貸してあげようか? 空飛べるし」
「・・・うん。それじゃきゃあっ!」
 ヴィヴィオとルーテシアは突然何者かに抱き上げられた。
「おにいちゃん・・・」
「ぱ、ぱぱ・・・」
 抱き上げたのはだった。ルーテシアはそこはかとなく嬉しそうだが、ヴィヴィオは複雑そうだった。
「逃げようとしたようだったが・・・ここでおしまいだ。残念だったねえ」
 の一言で逃げようと必死に暴れるヴィヴィオだがの拘束からは逃げられない。絶望したようにぐったりと脱力した。
「そうそうヴィヴィオ。知っているか? 技術というのは日々進歩するものなんだぞ」
「・・・え?」


 数日後、ヴィヴィオは上機嫌でケーキを頬張っていた。ルーテシアやキャロといった女の子達も一緒に食べている。
「ねえヴィヴィオ。何で素直に歯医者さんに行く気になったの?」
「うん。今のはいしゃさんはぎじゅつがしんぽしていたくないちりょうができるってパパがいってたの」
「実際そんなに酷くなかったみたいだし。少しの治療で済んだみたいだよ」
 そんな会話を続ける女の子達を遠目に見るとはやてとフェイト。
「ミッドの技術は結構進んでるし、最近は地球でも新しい歯の治療法が開発されて昔みたいに恐かったり痛かったりしない
んだよ。その事言ったらあっさり歯医者に行ったぞ」
「そ、そうなんか・・・。知らんかった・・・」
「歯医者なんて何年も行ってないもんね・・・」
 やたら疲弊しているはやてと見てみぬ振りのフェイト。
 ついさっきまではやてとフォワード陣、そしてオットーとディードはから特別訓練としてとの5時間耐久模擬戦
をつい今しがたまでやっていたのだ。キャロはからおやつが出ると聞いた途端に復活したが、他は未だに訓練場で
倒れこんでいる。魔法を使わない戦闘訓練だったのだが、その分恐かったのだろう。なにせ当たったら普通に死ねるし。
 はやては基本的に後ろで指揮だったのでそんなに疲れてないらしい。時々飛針が飛んできて必死になって避けてたそうだが。
「ん〜〜・・・」
「どうしたはやて?」
「いや・・・ちょっと歯が・・・」
 その言葉にヴィヴィオが敏感に反応する。
「はやてさん。虫歯?」
「あ〜・・・うん。そうかも・・・」
「だったら・・・」
 ヴィヴィオが意地悪そうな顔で告げる。
「シャマルさ〜ん! はやてさんが歯が痛いって〜!!」
「ちょ、ちょおまってヴィヴィ「さーはやてちゃんいきましょーねー」いつのまにー!!」
 突然現れたシャマルに引きずられていくはやてをハンカチを振って見送るヴィヴィオ。
 脅かされた事を根に持っているのかもしれない。
「・・・さて、うさたんの修理を続行するか」
「私はティアナ達を見てくるね」
「ちょ、二人ともー! へるぷみー!!」
 とフェイトは悲痛な、しかし何処かしら余裕のあるはやての悲鳴を無視してそれぞれ出掛けるのだった。




後書き
ヴィヴィオ虫歯になる。
あとうさたん復活しました。大幅にパワーアップして。
ちなみにガリュー君はうさたんとの再戦の為に修行してました。結局相打ちでしたが。
そして不甲斐ない未熟者どもはとの修行(ほんのりと死の恐怖を感じる程度の)を敢行させられました。
彼女等の更なる飛躍を期待しましょう。

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