が結婚し、すずかとなのはがの子供を生んだ。
 双方ともに女の子。名前はともえと華音。すずかの子がともえで。なのはの子が華音。
 華音の命名にはの強硬な反対があったのだが、なのはは無理にその名で通してしまっていた。
 母親二人は産後の肥立ちも良く、もう日常生活に戻っていた。


 勃発! 嫁姑戦争!(闘神降臨編)


 は離れの縁側で華音を抱いて日向ぼっこしていた。そしてそばにはすずかが同じようにともえを抱いて
日向ぼっこしている。なのはは買い物に行った。ヴィヴィオとルーテシアをつれて使い切ったベビー用品の
補充に行ったのだ。
「ふふっ♪」
「どうしたすずか?」
「しあわせだなあ・・・って思ってね」
「そうか」
 すずかは穏やかに笑いながら、しきりに手を伸ばしてくるともえに笑い掛け、の肩に頭を預ける。
 も微笑みながら、周りを見ている華音を片手で抱きなおして、すずかの肩を抱き寄せる。
 そんな幸せそうな夫婦を、帰ってきていたリインが眩しそうに見ていた。
「・・・何か声をかけられないですう」
「邪魔しねー方がいいんじゃねえ? 馬に蹴られちまうぞ?」
「ヴィータちゃんは良いんですか? ヴィータちゃんとーさまのこと・・・」
「好きではあるけど、LIKEであってLOVEじゃねーよ。幸せな時間を邪魔するわけにもいかねーし本宅に入るぞ」
「はいです」
 ヴィータはリインを肩に乗せて本宅に入っていった。買って来たアイスが気になって仕方ないようであり、若干早足だった。

 その頃なのはは、目の前にいる出くわしてしまった黒髪の美女、ミスティに対して笑顔で威嚇していた。
 ヴィヴィオとルーテシアはの教え子であるセレスの影に隠れて二人を見ている。
「あらあら。娘さんはどうしたんです? 義姉さん?」
「貴女に姉と呼ばれる覚えはないんだけどね愚妹。私は見てのとおりおむつとか買いに来てただけだよ。華音は君が
見てるから」
「あらそうですか。そういえばある程度経ったら仕事に復帰するそうですね? 相も変わらずワーカーホリックですこと」
「私は自分にできる事をしているだけだよ。それに局はまだまだ人材不足なんだから」
 二人はうふふふふふふ、と麗しい笑顔で笑いあっているが、周囲には極北のブリザードが吹き荒れているヴィジョンが見え
ていた。
 現在管理局は携帯火器は限定的に許可されており、魔力を持たないがそれなりに高い戦闘能力を持つ人材が多く集まってき
ていた。とはいっても、まだまだ訓練が足りないしそっち系の教練は一切していなかっただけに教練マニュアルが無く、経由
で香港警防隊の腕利きを数人こちらに呼び寄せ、雇って教官をしてもらっている状態なのだ。ちなみに、彼らに次元世界の事を
説明したとき色々と混乱が起こると考えられていたが、彼らは管理局にとっては意外なほどに高い順応性を見せあっさり承諾し
たという。
 もちろん彼らとつながりがあるが後ろで手回ししていたのだが、管理局の人間は一切気づいていない。
 セレスは大きくため息をついた。師と慕うの義妹と妻の仲の悪さは折り紙つきだ。この二人の喧嘩は皮肉に始まり
砲撃に終わる。その際に打撃を受けるのはの財布と胃なのである。胃薬を飲むとそれを心配そうに見る子供たちを
見るといたたまれなくなるセレスだった。
「お嬢様方。私がお送りいたしましょうか?」
「・・・うん。そろそろ二人ともデバイス構えそうだし」
「止めないの?セレスさん」
「無理です。自分のレンジに持ち込めれば希望はありますが、そうなる前に撃ち落されますので」
「そっかあ・・・ごめんねセレスさん。無理言って」
「お嬢様。お気になさらないでください」
 心優しい師の長女に思わず涙があふれそうになる。母親の教育ではなく父親の教育の賜物なのだろうとひしひしと思う。
 なのはに知られればどうなるかわかったものではないが。
 もうすでになのはの買い物は終わっている。しかも荷物はなぜか自分が持っているのだ。ミスティと一緒にウィンドウショッ
ピングに来ていたはずなのに・・・
 お嬢様方に被害が出る前に早く送っていこうと思ったとき、仲の悪い二人の間に魔力光がほとばしった。セレスは二人を抱き
上げて自身の最速の移動魔法でその場を離れる。
「ママったら・・・」
「またおにいちゃんが胃薬飲むことになるよ・・・」
 もはやあきれ果てたような二人の声音にいたたまれないものを感じるセレス。この光景がもはや見慣れたものなのであると
いう事に同情を禁じえなかった。
「行きましょうお嬢様方」
「「うん」」
 三人が屋敷に向かおうとしたとき、流れ弾ならぬ流れ砲撃が三人に向かってくる!
「くっ!!」
 セレスは一瞬でデバイスを起動し、可能な限りの速度と強度で防壁を展開し受け止める。しかし二人の砲撃は無駄に威力が
高い。すぐに破られそうになる。セレスは焦る。ルーテシアは強力な魔導師だ。今も防壁を張る準備ができている。ヴィヴィ
オも鎧を展開すれば基本的に無傷であるが、そんな事は関係ない。師が大事にしているこの子供たちを自分が守らなければと
いう義務感から、最悪身体を張ってでも、と考えたそのとき・・・突然その砲撃が掻き消えた。
「あ、あれ・・・?」
「なんで・・・?」
 三人が呆然と周りを見ると、一人の老婆が悠然と歩いてきた。
「あらあらまあまあ。おバカな事をしているわねあの二人」
 そんな事を言いながらしばし二人を眺めるその老婆に、セレスは声をかける。
「あの・・・危険ですから離れた方が・・・」
「大丈夫よお嬢さん。これでも元教導隊員だからね」
 その老婆はそれだけを言って、激闘を続ける二人の元へゆったりと歩いていく。
 セレスたちは何も言えず見守る事しかできなかった。

「バスターー!!!」
「ブラストー!!!」
 手加減などしていない半ば以上に本気の砲撃がぶつかり合う。
「ここで決着を付けてあげるのです!」
「それはこっちの台詞だよ!」
 二人は互いの砲撃を紙一重でかわしながら罵り合う。非常に低レベルな罵り合いではあるが・・・
「このブラコン! なんでもスカリエッティにも兄って呼んでるらしいじゃない!」
「あの方もある意味において血の繋がらない兄なのです!」
 やミスティにとってスカリエッティはある意味兄弟である。そのためがスカリエッティに会わせてみて、ミスティが
彼をお兄様と呼んだとき、彼は堕ちた。それはもう彼の表情が劇的に崩れたらしい。スカリエッティは今ではすっかりシスコン
である。本人が幸せそうなのでも何も言わなかったし、ミスティは兄弟が増えた事を純粋に喜んでいたので特に問題はおき
てはいない。
 ミスティは今ミスティ曰くジェイルお兄様(そう呼ばれたときの彼の顔はとても輝いている)と文通をしているらしい。
 時々デバイスの改造案を持ってきたりするのでそういう話で盛り上がっているようである。ちなみに、ミスティがボクっ娘な
のがジェイルの心の琴線にさらに触れたらしい。将来ミスティに良い相手が出来た時が非常に心配である。

閑話休題

「このっ! 堕ちろ!!!」
「こっちの台詞なのです! なのはああああああああああああああ!!」
「ミスティイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!」
 なのはがA・C・Sドライバーで突撃し、ミスティが釈杖を剣に変え炎を纏わせ刺突の状態で突撃する!
 ぶつかり合い火花を散らす二人がさらに魔力を込めようとしたとき、突然二人まとめてバインドで縛り上げられた!
「え!?」
「な・・・いったい誰なのです!?」
 突然の事に驚きながら油断無く周囲を見渡すと、二人にとって非常に見覚えのある姿が現れる。
「あ、あああ・・・!」
「そ、そんな・・・なんでここに・・・!」
 二人は目に見えてうろたえる。それは目の前にいる老婆が二人にとっては天敵といえる相手だったからだ。
「お婆さま!?」
「ファーン校長!?」
「久しぶりねえ二人とも。で、これはどういうことかしら?」
 その老婆、ファーンの怒気の篭った言葉に二人は震え上がる。
 彼女はファーン・コラード。ミスティ・コラードの祖母(実際は大叔母)であり、なのはがフェイトと共に短期の士官教育を
受けた士官学校の校長である。当時AAAランクだったなのはとフェイトが同時にかかって惨敗した相手だ。
 なお彼女はAAランク。格下である。
 二人が周りを見ると、一部道路や街灯が完膚なきまでに破壊されていた。さすがに顔色が悪くなる。
「あー・・・えっとですね。すべてミスティが・・・」
「ちょ、ちょっと待つのです! ボクだけのせいにしないで欲しいのです!」
 見苦しく責任を擦り付け合う二人を、ファーンはただ微笑を浮かべて見つめている。
「二人とも・・・」
「「は、はいっ!!」」
 静かな呼びかけに、なのはとミスティは揃って背を伸ばす。
「この修理費用はあなたたちが弁償なさい。決して君に頼らないように」
「「わ、わかりました・・・」」
 いくらになるのか想像もつかない二人はうなだれる。ちなみにがこれまで弁償した額は9桁に及ぶ。
「それと」
「「そ、それと・・・?」」
 二人はこの上なく不安になりながらファーンを見ると、ファーンの前にはいつの間にか巨大な魔力球が。
「収束砲!?」
「しかも何この展開の速さ!?」
 なのはにすら真似出来ない、圧倒的に精緻でかつ類を見ない展開速度のそれに、二人は驚きを通り越して恐怖すら覚える。
「言ってもわかりそうに無いから身体に直接教え込まないとね」
「「そ、そんなああああああああっ!!!?」
 二人は仲良く一緒に悲鳴を上げる。必死にもがくがぴくりとも動かない。出力的に破れない訳ではないはずなのになぜこうも
簡単に格上二人を取り押さえられるのか。
「それじゃあお仕置き、逝って見ましょうか♪」
「「あ゛ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっ!!!」」
 なのはとミスティはファーンの放った光の中に消えていった・・・


「いや申し訳ない。二人が迷惑を」
「そんな事無いわよ。それにうちのバカ孫と成長しない教え子のせいなのだし。貴方が謝る事は無いでしょう?」
 ファーンは華音を抱き上げながらに笑いかけた。久しぶりの重みに相好が崩れている。
「パパ。おばあさんすごかったんだよ!」
「なのはさんもミスティさんも手も足も出なかった」
「まさかこのような猛者がいらっしゃられるとは・・・」
 ファーンを案内して一緒に離れに来た三人はそれぞれ興奮したようにに話す。
 この朗らかな老婆にヴィヴィオはあっさりとなつき、ルーテシアも尊敬するような視線を向けている。
 セレスにいたっては偉大な先人を見ているかのようである。
「お茶です。どうぞ」
「あらありがとう。・・・うん。おいしいわ」
「ありがとうございます」
「何か特別なものなの?」
「お客様に出すのですから高いのをお出ししないと。最高級の玉露です」
 すずかはにもお茶を出す。はともえをすずかに渡す。お昼寝を始めたのでベッドに寝かせるのだ。
「いいお嫁さんね。あの子とは大違い」
「なのはのように不仲な相手がいないので。タイプは違いますがみな良い女ですよ」
「世の男どもが羨むわね」
「相応の苦労はしてますけどね。それでも幸せですよ」
「あら、のろけ?」
「新婚家庭に来た事を後悔してください」
 とファーンはそんな事を言いながら雑談を続けた。
 ヴィヴィオとルーテシアは赤ん坊の様子を見て、セレスはファーンの過去の武勇伝に聞き入っている。
 このあと、アリサやカリムも参加して和やかにお茶会は進むのだった。

 そんな部屋の隅では抱き合いながらガタガタと震えるなのはとミスティがいた。ファーンから送られてくる絶え間ないプレッ
シャーに意識を失う事も許されないまま、ファーンが仕掛けた周囲に漂う魔力の機雷に怯え続け、誰もがそれを見ない事にす
るのは当然の事だろう。だっていつもの事なのだから・・・ちなみに華音は威圧しているファーンに怯えるでもなくむしろ
笑顔を向けている。将来大物になるだろう。
「先生お願いします許してくださいぃぃぃぃ・・・」
「お婆さまボクが悪かったです。だからそろそろ・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「ああ! さらに機雷が増えて!!!」
「もう許してえええええええっ!!!」
「「「「駄目」」」」
「「みんな酷いいいいいいっ!!!!!」」
 はっきりと自業自得である。
 その後、脱出を試みた二人の悲鳴と無数の炸裂音が屋敷に響き渡ったのはいうまでも無い。



 P・S 弁償額は新車が一台買える額とだけ言っておこう。折半した二人が凹みまくっていたのは言うまでも無い。


あとがき
闘神ファーン・コラード来たる。
一応引退しているもののその技はさらに冴え渡っております。
うちの校長は尋常でない実力の持ち主です。

補足 なのはにとってファーンは過去の惨敗から苦手意識を持っており、ミスティにいたっては
過去の厳しすぎる訓練から若干トラウマ気味だったり。

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