なのはが重傷を負った。
もう空を飛べないかもしれない。
もう歩けないかもしれない。
そう言われた少女は、少しの希望に縋り付いていた。


なのはのリハビリ奮闘記



「大馬鹿者。ここまで無理する奴があるか」
「うう、冷静に罵倒しないで〜・・・」
 重傷を負い手術を終え、ようやく意識を取り戻したなのはに掛けられたのは
 からの呆れ返ったような罵倒だった。
「ただでさえお前が使う魔法は負担が掛かるというのに訓練でもバリバリに使っただと?」
「はうぅぅぅぅぅぅ。ごめんなさいもうしませんだからもう許してくださいぃぃぃぃ・・・」
 実はこの時点で既に一時間以上もお小言が続いていたりしている。
 他の面々は静かに怒るに恐れをなして逃げ帰ってしまっていた。
「エクセリオンは封印だ。あんな負担の掛かるものは使うもんじゃない。それにカートリッジシステムの
安全性が確保された新機種がロールアウトされたんでそれを搭載する事になった。
 レイジングハートの修理はもう少し掛かることになるがお前の怪我も酷いんで問題なしだ」
「うう、なんだかすごく弱体化しつつあるよう・・・・」
「エクセリオンに代わる新形態も模索中だ。退院後にマリーさんから話を聞いておくように」
「はーい・・・」
「はあ・・・まあお前の体調に気付かなかったほかの連中にも責任はある。その追及は後にするとして」
「うう、みんなできるだけ早く逃げてー」
 確実に折檻になるだろう追求を思い仲間達にメッセージを送ろうとするががシャットアウト。
 後日彼等は10時間以上もの正座での説教に地獄を見るのだった。
「カルテを見る限り怪我のほうは完治するが、骨格に歪みがあるな。しかも治療の際に
更に変に歪められて半身不随のような状態になっている。ちっ、ヤブ医者め・・・」
「それってどういうこと?」
「骨格が歪んで神経を圧迫しているんだ。その所為で脳からの命令がシャットアウトされている」
「じゃあ!」
「そうだ。歪みを解消すれば元通りになれる。歩けるし空も飛べるだろう。ただし・・・」
「・・・何かあるの?」
「治療には少々どころではない苦痛を伴う事になる。耐えられるかなのは?」
「・・・・・・・・・・・・どのくらい?」
「・・・・・・・・・・・・出産と同じぐらい?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・他の方法は?」
「悪いが他は思いつかん」
「うう、それでお願いします・・・」
 治療の目処が立ったものの目の幅の涙を流して悲嘆に暮れるなのは。
 がんばれなのは。主に自分のために。


 傷が治り多少の運動が許可されてから、は本格的に歪みの解消を始めた。
 うつぶせに寝転んだなのはを前にたたずんでいる。なお今回は3人ほど見舞い客がいた。
「なのは、このハンカチをくわえておけ」
「何か意味あるの?」
「舌をかまないようにな。それに痛みに耐えるのに歯を食いしばるだろう? そのままだと
歯を悪くしかねないし顎ががくがくになるぞ」
「うん。じゃあお願いします」
 そしてはついに骨格の矯正を始めた。
「んうううううううううっ!!!!!!」
「きついだろうがしっかり耐えろよ。元通りの体に戻りたいだろう?」
 の励ましに頷きしか返す事ができずに何度も首を縦に振る。
 ベッドのシーツを力いっぱい握り締め、歯を食いしばってなのははその苦痛を耐え切った。
「はっ、はぁ・・・はぁ・・・・・・」
 壮絶な痛みから解放されて放心状態のなのは。
 荒い息がどこと無く色っぽい。
 その光景にユーノが生唾を飲み込んでいたりするが、何気にフェイトとヴィータがそれぞれの
得物をユーノに突きつけて威嚇していたりする。
「よく耐え切ったななのは」
「えへへ・・・うん。・・・ところでどのくらい続けるの?」
 なのはの頭を撫ぜつつ褒めるになのはは顔を赤らめて照れながら答える。
 今日一日で終わると思っていたなのはだが、
「このあと間をおいて数回、一ヶ月ほどだな」
 その無情な宣告に表情が固まる。
「なのは、ファイトっ!」
「まあ、がんばれなのは。応援しかできねーけどな」
「はははは・・・がんばってねなのは。何もできない僕を許して・・・」
 三人の力の無い応援を聞きながら早まったかと後悔するなのはだった。


一ヵ月後


「ふう! くうっ・・・」
「もう少しだ。そら後一歩!」
 なのはは骨格の矯正が終わりリハビリに入っていた。
 今は歩行訓練と衰えてしまった足の筋力を取り戻すトレーニングを続けている。
「やった! とどい・・・あっ!」
「おっと! 大丈夫か?」
 倒れかけたなのはをが抱きとめた。
 なのはは顔を真っ赤にしつつ大丈夫だと答える。
「やはりもう少し筋力トレーニングがメインの方がいいな」
「そうみたいだね。もう暫くは車椅子生活か〜・・・」
 なのはは車椅子で生活している。はやての使っていた車椅子を貸してもらっているのだ。
「はやてちゃんに感謝だね」
「そうだな。・・・筋力を取り戻すのに約半月ほど、あと平行して歩く訓練だな。もう一息だ」
「うん! はやてちゃんのリハビリの時と同じだね。あの時も君が指導してたし。
それにあの地獄の一ヶ月を耐え切ったんだからあとはもう楽勝だよ!」
 あの苦痛地獄を耐え切ったなのはは大抵の痛みには耐えられると自負していた。
 あの光景を見たほとんどの関係者が何度もなのはの冥福を祈りそうになったものだった。
 彼女達のリハビリにはがほとんど付きっ切りだったのだが、も経験者な上に
空手をやっている時にそういう方面から体の動かし方を研究した事がある為、下手な専門家よりも
深い知識を持っていたりする。
「ところであの人、私の手術をしたお医者さんどうなったの? 見かけないんだけど」
「ああ。あいつなら他の外科医にも散々あの手術の事を指摘されて、さらに告発されて
医師免許を剥奪されてこの病院を辞めさせられたらしいぞ」
「そ、そんな事になってたの!?」
 しかもその医者はカルテを改ざんして医療事故を隠そうとしていたのだ。
 もっとも他数名の看護士ならびに医師達により改ざんが発覚し刑事罰まで与えられている。
 管理局としてもなのはのような超エリートをそのまま引退させる気が無かったため徹底的に
調査が行われ、余罪がどんどん出てきた事によりその元医師は無期懲役を言い渡された。
「まあ不良医師が一人摘発されたんだ。良しとしておこう」
「よ、喜んでいいやら悪いやら・・・・」
 もっともその被害者本人は複雑そうだった。
「さて、と。続きをやろうか?」
「うん!」


 一月後

「大分動けるようになったな。まだぎこちなさが残ってるが・・・」
「それでもここまで回復したんだよ。君のおかげでね」
 なのははまだ動きに不自然さが残るがもう車椅子も必要なかった。
 今は松葉杖を突いているがその内必要なくなると医者からも太鼓判を押してもらったほどだ。
「さて、今後の課題だが。なのはが退院する頃にはちょうどSランク認定試験がある。
ちょうどいいのでこれを目標に一つがんばってみようか」
「うん! がんばるよ! フェイトちゃんたちも安心させたいし」
「その後は戦技教導隊の入隊試験もあるからな。この際だから近接戦闘の事も教えてやる。
教える側なのに近接戦闘はできませんじゃ話にもならんからな。俺を失望させるなよなのは?」
「うう、お手柔らかにお願いしますぅ・・・」
 なのはにはこの後、講義から実践に至るまでかなり濃密な訓練をする事になった。
 元々苦手な近接戦闘を短期間で大幅レベルアップするのに多大な労力を必要としたのだが
何気に本人は体を動かすのが思いのほか楽しかったらしく特に苦も無かったらしい。


2ヵ月後


 なのはは走っていた。
 体は後遺症も無く以前よりも軽いと本人は大満足だった。
 ただ・・・・・
君が、行方・・・不明・・・?」
「うん・・・のお母さんが誰かに頼んでミッドに送らせたらしいんだけど、その後の行方が掴めないんだ」
「そんな・・・」
 ユーノからの失踪を聞かされたなのはは明らかにショックを受けていた。
 出席できなかった卒業式の日、は海鳴から姿を消した。
「リンディさんやレティ提督、クロノ達も探してくれているからその内見つかるとは思うんだけど・・・」
「そう・・・だね・・・」

 その日、なのはは一日中ずっと落ち込み続けていた。
 なのははの性格や行動力を良く知っている。
 だからがその先でうまくやっている事は想像がついていた。
 アリサやすずかもその点は特に心配してはいなかったほどだ。
 ただ・・・助けてもらった礼を言えていない事と、いつも傍にいてくれていた幼馴染が居ない事に
なのはは落ち込んでいた。
 いつだったか、助けを求める時はいつも兄でも父でもなく、頼りになる幼馴染が一番最初に浮かんだ事を
いまさらながらに思い出す。
「もしかして・・・私・・・」
 好き・・・なのかもしれない。
 なのははどうしようもない喪失感の中でそう思う。
「でも・・・フェイトちゃんやはやてちゃんに悪いよね・・・」
 いまさら自分が参戦しても二人に迷惑だろうと考えるなのは。
「とりあえず置いておこう。君に会えたら何かはっきりするかもしれない」
 なのはは気持ちを切り替える。
 体はほぼ完治した。
 今考えるべきは他にある。
「魔導師ランクSランク認定試験・・・元々受けるつもりだった。そして君はこれを目指せと言ってた」
 とのリハビリの日々、なのはは目標を立てていた。
 それがこのSランクの試験だった。
「ひとまずこれに全力を注ごう。君にはその内会えるだろうから」
 なのはは今後の方針を決める。
 Sランク昇格後には教導隊の試験もある。
 落ちるわけにはいかない。
 なんとしてでも受かってみせる。
 の教えてくれた事を守りながら、の、そして皆の期待に答え、何より皆を安心させたい。
 自分はもう大丈夫なんだと。
「証明できるといいなあ・・・・」
 やる気はあるし能力も十分なのだがいかんせん自信がなさそうななのはだった。



 その後なのははSランク試験に合格し、教導隊への入隊を決め、皆を安心させたのだった。
 なお、なのはが心配でたまらなかったフェイトは2度目の執務官試験に不合格、一転してなのはを
心配させる事になってしまったが、これは甚だ余談である。

 それともう一つ、近接戦闘を習ったなのははザフィーラと一対一で勝負し終始圧倒。
 それにショックを受けたザフィーラは野性を取り戻すと言って一ヶ月ほど帰ってこなかったと言う。







後書き
 なのは重症からの華麗なる復活。
 実際は地獄を見ていたりしますがなのははそれをバネに更なる成長を遂げました。
 フェイトはなのはの重症およびの失踪によって勉強にまったく手がつかず試験に落ちてしまいした。


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