その日、双方共に買い物中に、二人はばったりと鉢合わせた。
「あ・・・」
「おや・・・・」
 二人の再会は結構普通だった。
「ヴィータ・・・?」
「うっせえ・・・もう少しこのままでいさせろ・・・」
 を見つけるなりいきなりしがみついたヴィータは安堵したかのように
溜め息をついて、涙を流していた。


        楽園の事情



「落ち着いたか?」
「べ、べつに取り乱してなんかいねーよ。それより、今何をしてるんだ?」
 泣いた事実を隠そうとしてわざとぶっきら棒な言葉を吐きつつの服のすそを掴んで放さないヴィータ
を見て、は穏やかに微笑みながらその頭をなでていた。
 普段はやて以外がやると嫌がるくせにがやると途端に大人しくなる辺りを好いている
証拠なのだろう。と、実は一緒に買い物に来ていたザフィーラはそう思う。
「あ・・・・・・・」
 ふとザフィーラと目が合ったヴィータは顔を真っ青にして、それから真っ赤に染めての腹に顔を
埋める様な感じにしがみついて顔を隠してしまった。
 男二人は思わず顔を見合わせ、苦笑する。
「今は科学研究所を作って其処の所長をしているよ。結構儲かってるんだぞ?」
「なぜ研究だけでそんなに儲かるのだ?」
「特許料の関係でな。家電製品なんかも作るしゲームや映画なんかのCG技術や車やバイクの設計や
安全面での技術研究なんかもやっている。手広くやってる関係上各業界の企業と付き合いがあってね。
 お前達は何か買いに来たのか?」
「家電製品をな。今度こっちに引っ越す事になったのだ」
「シャマルたちは休みが取れねーみてーだしあたしとザフィーラがちょうど休みだったんで下見だけでもな」
 は少し考えて、
「ならウチの製品を取り寄せてやろう。俺が設計した新型の家電が今日辺り出るんでな」
「いいのか?」
 の好意に甘えっぱなしもいけないと思い自分達で買うというザフィーラだが、
「いいって、どうせタダだし」
「「はい?」」
 意外すぎる言葉にヴィータと揃って間抜けな声を上げる。
「特許主なんでな。タダで手に入るんだよ」
「そんな裏技が・・・・」
「まあ、作った本人が金出して買うのもおかしいよな・・・」
 あくまで本人かその身内にのみ通用するものなのだがにとっては彼女達は身内同然だ。
「そんなわけで、他の買い物にも付き合おうか? 仕事が終わったばっかりで丸々一月休暇なんだよ」
「長っ! いいのかそんなに休んで!?」
「いいんだよ。半ば自営業だし、給料なんて特許料なんだから一度取れば何もしなくても入ってくるし」
「・・・・・・理想的な職業だな」
「他の技術者も俺と似た感じだしな。大きなプロジェクトや複数の技術者での意見交換とかをする時は
本部のラボに集まるしラボを持ってない技術者や新人達は本部の寄宿舎にいるが、俺や一部の技術者は
自宅兼ラボを持っててな。基本的に仕事は在宅で勤務時間は無いに等しい」
「なんかスゲー羨ましい・・・」
「本部には事務関係で人を雇っているから特許の申請とかは必要な資料を提出すれば向こうでやってくれるんで
俺達は研究に没頭できる。特許料のうち10%ほどを研究所の方に納めるシステムになっているが、技術者の
ほとんどが年間億を越えそうなぐらいに稼ぐんでウチの年収は凄いことになってるんだよ」
「まさに【楽園】なのか・・・」
「そうだ。俺達研究者にとってはまさに【アタラクシア(楽園)】だ。まあもっとも俺の理念に共感した奴しか
うちにいないんだけどな」
 事務方の給料も良く、警備の人間も高レベルの訓練を受けられて侵入者なんかを捕縛・撃退すると
ボーナスが入るんで彼らにとっても楽園だったりする。
「まあこの話はここまでにして、一度家に来るか? 手作りアイスもあるぞ?」
「行く! 絶対行く!!」
「お邪魔しよう」
「おっと、丁度来客があるみたいだ。少し急ぐぞ?」
 こうして彼等は一路の自宅に行く事になった。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・ここなのか?」
「そうだが・・・何を惚けているんだ?」
 屋敷だった。
 どこの貴族の屋敷だと言わんばかりの大邸宅だった。
「何でこんなにでけえ家買ったんだよ・・・」
「建てたんだよ。ここからこの向こうにあるアタラクシア本部まで俺の私有地だ」
 この向こうと言うのは山一つ越えた向こうの事である。
 この屋敷から見える範囲は全ての敷地だった。
「一人暮らしか?」
「助手が一人との二人暮しだ。驚くぞ確実に」
 なにか意地悪げな顔で話すに警戒しながら屋敷の中に入った二人は、心の底から驚愕した。
「お帰りなさいませドクター」
「ああ、ただいまアイン。何か連絡はあったか?」
「いえ。ございませんでした」
 そこでアインと呼ばれた助手は固まった二人を見て、懐かしそうに声を掛ける。
「久しいな。紅の鉄騎に蒼き狼。主はやてや他の皆は?」
「リイン・・・フォース・・・?」
「馬鹿な・・・なぜ消滅したはずの・・・お前が・・・?」
 そう。
 そこにいたのはかつての狂った夜天の書の管制人格・リインフォースTだった。

「説明してくれよっ!!!」
「なぜ彼女がここにいるのだ?」
 はヴィータを宥めようとするが一向に効果が無い。
 アインが紅茶を淹れて来たところで説明に入った。
「俺は地球にいた頃、お前達守護騎士のデバイスを解析した事があったんだが・・・」
「そーだっけか?」
『はい。調整や整備のためにこの方に診てもらったことがあります』
「その際にな、分割された正体不明の圧縮データを発見して、俺の端末に移し替えて解析したんだよ」
「それが私の人格データのバックアップだったのだ」
 ヴィータとザフィーラは警戒するように後ろに下がる。
 二人の反応にアインは困惑し、は理由が分かって苦笑した。
「問題ないぞ。あくまで人格データのみであって実体化することも出来なかったんだ。
リインやお前達とは違って力を振るう事も出来ないただの文字列に過ぎなかった」
「この体はドクターが用意してくださったものだ。致命的なバグも無いいたって健全な体だ」
 二人はようやく警戒を解いて椅子に座りなおした。
「ふう・・・。またあんなのが出てくるのかと思った」
「心配を掛けてすまないな。もうあんなふうにはなることはない」
「ならばもういい。積もる話もあるしな。主たちはこの事を?」
「いや、教えてはいない。その内会わせるつもりだったんだけどな」
「たまたまあたし達が先になったのか」
「そういうことだよ」
「さて、私はデザートでも持って来よう」
 アインが席をはずし、ザフィーラもついて行った。
 ヴィータは不機嫌そうに頬を膨らませている。
 は半ば確信犯的にここに連れてきたのだが、再会したのは本当に偶然だった。
「少しぐらい文句言って・・・も・・・」
「どうした? 紅の鉄騎よ」
 ヴィータがに色々と文句を言おうとしたが、丁度其処に入ってきたアインの抱えるブツに目が吸い寄せられ
言葉が途切れていく。
「さて、召し上がれ。お前の大好物はこれだったよな?」
「ばにらあいす・・・しかもバケツサイズ!」
 最早何も言うまい。

 ヴィータがアイスに夢中になっているのを横目に見ながらザフィーラは気になった事を聞いていた。
「アイン。お前の体はどういう風に調達したのだ?」
「100%機械の体でな。ドクターがお造りになられたそのボディに人格データをインストールしたのだ」
「魔法の類は使えないが物理的な戦闘能力はかなりのものだぞ」
 ザフィーラはあきれ返る。
「ロボットか。どこの漫画だ一体・・・」
「何を言うか。海鳴にいる彼女の基本設計をベースに色々こっちの技術でさらに性能のいいパーツを
作って強化したのがアインだぞ」
「まて、海鳴だと? あの世界にそんなオーバーテクノロジーがあるのか?」
 聞き捨てならない単語に思わずツッコミを入れるザフィーラ。
「あるぞ。公にはなっていないけどな」
 平然と言うに呆れ顔になるザフィーラ。
「そういえば恭也さんと忍さん結婚したらしいな」
「いつの話だ。既に子供が出来たらしいぞ」
「そうか子供が出来たのか。・・・なのはももうおばさんだな」
 本人の前で言えば涙目で集束砲をぶっ放しかねない事を平然とのたまうにザフィーラが冷や汗をかく。
「まあそれはともかくそろそろ客が来る予定なんだが・・・帰る前に連絡があってな」
「来たようです。応対に出てきます」
 アインは客を出迎えに玄関へと向かった。

「やあ久しぶり」
「ああ、久しぶりだなユーノ」
 客はユーノ・スクライアだった。
「我々はそんなに久しい訳ではないがな」
「おー。ユーノじゃんかー」
「やあヴィータにザフィーラ。この間の事件以来だね」
 ヴィータは挨拶はしているもののアイスに夢中でかなりおざなりになっているがいつものことなのか
まったく動じないユーノ。
「なのは達に会ったって?」
「まあな。まさか空港火災に巻き込まれて炎の中で再会するとは夢にも思わなかったがね」
 再会の仕方に思わず苦笑するが、二人はまじめな顔を本題に入る。
「彼らの量産体制は整った。とりあえず十機ほど納入する予定だ」
「そっか。ありがとう。助かるよ」
「何を量産するんだ?」
「魔力駆動の限りなく人に近い姿の傀儡兵を無限書庫の業務に従事させる事になったんだ」
「人間があそこで働き続けるのは酷なものがあってね。倒れた司書が既に20人を超えているんだ」
「業務改善を命令されて本局が依頼した先がうちでな、人に代わる人手が欲しいとのことでね」
 無限書庫の司書たちが忙しさに悲鳴を上げ、その事を重く見た本局のお偉方がアタラクシアに依頼してきたのだ。
 ―なお、アインのような自動人形はアタラクシアの最高機密に該当するので管理局には存在すら
仄めかしていない。彼らは管理局に必要以上に技術を提供してはいないのだ。―
 まあさすがに無限書庫の月の平均残業時間400時間を軽く超えているのを見て労働監督署に業務改善を求められては
重い腰を上げざるを得なかったようだ。
 アタラクシアのほうは技術者のほとんどが趣味的なもので動くため長時間労働を苦に思わない上に、
福利厚生はかなり充実しているのでそういうところからも訓告等は来ないのである。
 なんせ施設内には本職の整体師がいたりエステサロンとか薬局まであったりする為、ある意味一つの町と化
しているのだ。もちろんレストランやコンビニもある。
「まあ俺の仕事はここまでで、後はそっちの専門家任せだ。120時間ぶりにようやくゆっくり休める」
「そーか・・・。仕事大変なんだな・・・」
「ある意味我等とは比にならん忙しさだ。裏方も楽じゃないな」
 二人は思わず嘆息する。が、ユーノがザフィーラの言葉に過剰反応した。
「裏方はね、目立たないんだ。目立たないから功績なんて無いも同然だし下に扱われるんだよ。でも! 
僕らがいないと現場は真っ当に機能しないんだよ! だから僕らにも少しは優しくしてよおおおおお!!!!」
 ユーノ・スクライア。魂からの絶叫である。
「この間もようやく休みに入るところでクロノに仕事頼まれて半年振りの休日が消えたそーだ」
「・・・・・・また例によって例のごとくか」
「二日ぶりの睡眠をつぶされたらしい。その前は四日徹夜だったそうだ」
「あたし今の職場もけっこーきついと思ってたけどユーノに比べれば天国なんだな・・・」
 まさに殺人的な職場環境である。
 彼らが同情して涙を流しても仕方が無いだろう。
「とりあえずウチで休んでけ。温泉も引いてあるから気持ちいいぞ?」
「うん。ありがとう。出来ればお酒用意してくれる?」
「アイン、手配を」
「かしこまりました」
「あたし背中流してやろーか?」
「ありがとうヴィータ。僕はきっとこの地獄を生き抜いてみせるよ」
 ユーノの悲痛な決意に、ザフィーラは熱くなる目頭を抑える事しか出来なかった。

 ユーノが風呂上り後浴びるように酒を飲むのをとザフィーラは付き合いつつ見守っていた。
 ヴィータはアインに髪を乾かしてもらっている。
「そういえばユーノ。お前司書の娘とお付き合いしてるらしいな」
「ぶふっ!! な、何でがそれを!?」
「人の口に戸は立てられんよ」
「あうううううううう・・・」
 秘密にしていたらしいユーノが頭を抱える。
「なのはのことは諦めたのか?」
「ヴィータ・・・に勝てると思う?」
「勝ち負けの問題じゃねーと思うけど? はやてもフェイトもいるんだし」
「口説き落とせばよかっただろう? 数年間いなかったのだしな」
 仕事が忙しかった所為で出来なかった・・・というのは言い訳に過ぎない。
「でも・・・・」
「ユーノ。俺が言うのもなんだがそういうのは早い者勝ちだと思うぞ?」
・・・」
 は目を閉じて過去を振り返り・・・
「俺は特に口説く気もなく善意で行動して今の状況だが・・・」
「君って少し天然のたらし入ってるよね?」
「・・・・まあ、自覚してないから天然って言うんだけどな」
「誰かのためにという行動が女心を掴むのだろうな。された方は堪らんだろう」
 三人から総突っ込みを受けた。
「ともかく。俺の私見ではなのはのお前への印象は友人でありパートナーであり師匠だった。
 それだけ近くに居たんだからその気になればいつでも口説き落とせたんじゃないのか?」
「僕は・・・なのはをこっちに巻き込んだ罪人だからね・・・」
 見ていた三人は沈黙し・・・
「「「莫迦かお前は。いやむしろ阿呆だ」」」
 一言一句変わらず同じ言葉を吐き出した。
「な、なんで?」
「なのはは一度でもその事を責めたのか?」
「責めた事なんて一度もないだろ?」
「本人がどうとも思ってないのに勝手に罪の意識にさいなまれるな」
 なのはの魔法関係の友人知人にとっては当たり前の認識だった。
 元々なのはは将来何になるのかというヴィジョンが不鮮明であり、そこに魔法というものが飛び込んで
きて、自分の将来をこれだと決めたのだ。
 いまさら巻き込んだだの言っても本人が望んで今の立場にいる以上意味がないのである。
「で、でも・・・」
「まあすでに諦めてしまったお前にはせん無き事だ」
「今の彼女とお幸せにな」
「大事にしてやれよ?」
「・・・三人とも僕のこといじめてる?」
「「「お前が自虐的なだけだ」」」
 三人の突っ込みにユーノは自棄酒を敢行し、あっという間に酔いつぶれるのだった。


「ふう・・・いや快適だなぁ」
「気に入ったならくれてやるが?」
「無理いうな。いくらなんでももらうわけにはいかん」
「冗談だよ」
 三人はアインの運転する最新型の高級車でドライブ中、というより局のトランスポートへ送っていく途中だった。
 ユーノは付き合っている彼女(なんとなくなのは似)が迎えに来たのだが一緒に不破邸に泊まる事になった。
 今頃乳繰り合っているのかもしれない。
「さて、そろそろかな?」
「そーだな。もうすぐ着く」
「世話になったな」
「別に構わないよ。そうそう、今度海鳴に行くからはやてたちにも声をかけておいてくれ」
「何かするのか?」
「アリサとすずかには研究関連でちょくちょく連絡とってはいたんだけどな。
 それ以外の向こうの知り合いには連絡とってないんだよ。そろそろ顔を出さないと後が怖い」
 特に高町桃子という恩人だったり天敵だったりする人が・・・
「そうか。では伝えておく」
「次に会うのは海鳴だな。みんな喜ぶぞ?」
「とりあえず翠屋で大宴会だな。その時にアインも連れて行くよ」
 三人はその情景を想像して・・・ヴィータとザフィーラは嬉しそうに笑い、は何をされるのかを
大体想像がついてしまい頭を抱える。
 多分にとってはある意味地獄を見ることになるだろう。

 家に帰ったヴィータとザフィーラはアインの事を秘密にしての事を話し、はやてに羨ましがられていた。
 その時、シグナムがうっかり早いうちからと会っていた事を話してしまい・・・・・・・・・
とりあえず彼女は二日ほど休暇をとったらしい。何があったかはあえて語るまい。


 ユーノとその彼女は仕事明けで寝ていなかったらしく二人が帰ったときには客間で爆睡していた。
 そしていい加減疲れがたまっていたも二日ほど寝っぱなしで、それを聞いた妹分たちが
酷く心配していたそうだ。彼女達はのタフネスぶりに実は自分たちの同類ではないかと疑ったのだが
ちゃんと生身である事を教えられて酷く驚いていた。軽く化け物扱いしたらしい。
 その日行われたギンガの修行は熾烈を極め、スバルは頭脳がオーバーヒートしかねない程の
勉強をさせられたのだが、それがの八つ当たりだったのかどうかは定かではない。
「今度陸士用の空中戦用装備の実験体にでもしてやろうか?」
「ごめんなさいお兄さん! だからもうあの時の、局地災害用強化外骨格の実験みたいな事はもう止めて!!」
「アハハハハハハハハ。何気に軽く地獄を見たよねあの実験・・・ホントに災害区域に派遣されたし」
 だから八つ当たりかどうかは定かではない・・・・・・



後書き
なんか色々詰まってますが、リインフォースT自動人形になっての華麗なる復活。
夜の一族の技術を余すことなく使い更に強化した彼女は戦闘機人達とそう代わらない
戦闘能力の持ち主だったりします。しかし魔法は一切使えません。
ミッドの科学者がたどり着けなかった完全なる人型兵器である彼女はその正体を隠すことになってます。
の管理局に対する信頼とか信用とかは0を通り超えてマイナスですから、その技術を悪用される事を
何より嫌っています。悪用されると初めから決め付けているところもありますが・・・
あと管理局にとって地球の技術は物凄く遅れていますのでそのような技術が既にあるなどと思ってすらいません。
リンディたちも普段から付き合いのあるノエルの事も凄く美人なメイドさんぐらいにしか思ってませんし。
あと楽園では災害救助用の特殊装備の開発なども行い、管理局に納入されています。
後に災害救助隊に入るスバルはトラウマになりかけた代物が部隊に存在し、少し錯乱したりしたのですが
まあそれは別の話。なおその外骨格はあれです。某第三の凶鳥の拳闘士パーツ。
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