キャロ・ル・ルシエはその葉書を見てしばらく固まっていた。
 エリオ・モンディアルも同じく固まっていた。
 その葉書には純白のドレスを着てに抱き上げられている幸せそうなルーテシア。
 その葉書には一言、私たち結婚しました、と書かれていた。


 ルーテシアの新婚模様


「ルーちゃん!?」
「ルー!?」
「意外に早かったね二人とも」
 正気を取り戻した二人は即行で休暇を取り、不破邸へと急行した。
 そしてその先で見たのは、エプロン姿で家事に勤しむルーテシアだった。
「駄目だよルーちゃん! 不倫なんて!」
「・・・言われるとは思ってたけど、実際に言われると結構クルね」
 キャロの不倫発言に、一応予測していたルーテシアはひたすら苦笑いである。
「そもそもなんでさんなの? 歳も結構離れてるんだよ?」
「初恋の人を諦められなかっただけだよ。で、告白しに押し倒しに行ったんだけど」
「まって! なんか色々間違ってるから!」
「まあ実際は返り討ちにあったんだけどね」
「何やってるんですかさーーーん!」
 何のことは無い。仕事中のを押し倒しに行ったもののその勢いに驚いたに思わず張り倒され、負けることなく
その晩に夜這いをかけに行ったのである。
 で、その日アリサと一緒に寝ていただが、アリサがルーテシアを認めたこともあり、を進退窮まる状況に
追い込んでめでたくゴールインと相成った訳だ。・・・相も変わらず押し倒される事が多い男である。
「あ、相変わらずそういう方面では弱いですねさん・・・」
「でも、一度受け入れたら本気で愛してくれる人だからね」
「・・・そうだね」
 幸せそうに笑うルーテシアにそれ以上何も言えずに納得する二人。実際ギンガも後からお嫁さんになったわけだし。
「で、新婚生活はどうなの?」
「うん。この間まで新婚旅行に行っててね」
「いいなあ・・・」
「何処に行ってきたの?」
「第17管理世界」
「リゾート惑星!?」
「それも超高級ホテルのロイヤルスウィートだよ。一泊250万するとこ」
「「にひゃくごじゅうううううう!?」」
 ちなみに、ここは他の嫁さんたちも行った場所である。手配したのはアリサ。
 キャロはちらっと隣にいるお婿さん候補(第一位。むしろ他にいない)を見る。
 スケールの違いにぼけっとしているだけだった。こういうハネムーンは無理そうだと一瞬で諦めた。
 まあ実際はとかフェイトがポンっと費用を出しそうではあるが、それは野暮なのではしないだろう。
 フェイトはやるかもしれないが・・・

「で、その後は?」
 キャロは慣れ親しんだテラスで紅茶を淹れるルーテシアを見ながら興味津々で尋ねる。
「みんな一緒に住んでるからキャロが思ってるような日々じゃないよ。それでも十分幸せだけどね」
「そうなの? もっとこう、いちゃいちゃラブラブな毎日だったりしないの?」
「ふふ」
 キャロの追求にルーテシアは艶やかに微笑んだ。強烈に女を感じさせるその顔に、エリオが生唾を飲む。直後に脇腹をつね
られた。
「昨日なんかね。昼間っからおにい・・・ううん、旦那様に求められちゃって・・・」
 突然始まった生々しい夫婦の話に顔を真っ赤にするエリオとキャロ。
「ひ、昼間から、なんだ」
「子供たちは今みんな学校に行ってるか、保育園に通ってるからね。近所に民家って無いからアタラクシア内の職員用の
保育園なんだけど。ついでに言っておくと、その保育園の園長先生はカリムさんだよ」
 カリムは主婦しているのもいいが何か仕事がほしかったらしく、保育園の園長をしている。
「というか、さんの休む時間は基本的に不定期だからたまたまその時間だっただけなんだよね。私も狙ってたし」
「・・・なにを?」
「ちょっと過激な格好をして誘ってみたりとか・・・裸エプロンとか裸Yシャツとか」
「うくっ!」
 ルーテシアのその格好を妄想したエリオが鼻を抑えると同時に腹を押さえる。キャロの裏拳が入ったらしい。
 何気にルーテシアも左すねにトーキックをかましている。
「エリオ。私のそういう姿を見ていいのも想像していいのも旦那様だけだから」
「エリオ君が見ていいのも想像していいのも私のだけだからね?」
「りょ、りょーかいです・・・」
 エリオは頭に浮かんだルーテシアの艶姿を強制削除した。彼女らの背後に巨大な影が見えた気がしたから。
 それ以上に、冷たい刃が心臓を狙っているように思えたから。
「皆さんとは仲いいの?」
「いいよ。ある意味姉妹みたいなものだし」
「へー・・・」
「「・・・エリオ(君)? 今何か想像した?」」
「何でもありません!」
「「よろしい」」
 ちょっとした想像も許されないエリオは心の中で泣いた。むしろこの二人が鋭すぎる。
「ただ・・・」
「ただ?」
「何人かは帰ってこないからその人たちと仲が良いかはちょっと・・・」
「「あー・・・・」」
 その何人かに心当たりがありすぎてそれ以上言えない二人。元上司とか元師匠とか現保護者とか。
「まあいいんだけどね。お兄ちゃんが何も言わないからって好き勝手やってる人たちだし」
「あ、あはははは・・・」
 嫁さんズは誰もがこういう認識を持っているのだろうかとちょっと思ったエリオとキャロだが、納得できるだけに
反論する事は出来なかった。

 休暇が一日しか取れなかったエリオとキャロは日帰りなのでさっさと帰っていった。
 そして、ルーテシアはギンガと一緒に幼い子供たちの面倒を見ていた。
「子供の世話は慣れてるけど・・・自分の子供が出来たらもっと大変そうだね」
「そうね。あ、そうそう。私最近月のものが来なくてね」
「・・・検査はしたの?」
「・・・えっと、体の事もあるからちょっと」
 どうやらギンガは戦闘機人という特殊な肉体を持つがゆえに検査を躊躇っているようである。
 ルーテシアは無言で同じように子供をあやしているアインに視線を向ける。彼女は頷いて検査キットを取りに行った。
「みんな。ギンガママに子供が出来たって」
「ちょっとルーちゃん!」
「ほんとー?」
「ほんとだよ」
「わーい! また兄弟がふえるー!」
 ちゃんと結果が出ていないのに勝手に子供たちに報告するルーテシアに本気で狼狽するギンガ。
 そして、妊娠検査キットを持ったアインと仕事上がりらしいがリビングに入ってきた。
「ギンガ。行くぞ」
「ちょっ! アインさん!?」
 アインがギンガを引っ張って外に連れ出す。検査に行くのだろう。
「旦那様」
「・・・相変わらず妙な気分だな」
 ルーテシアにそう呼ばれるのが慣れないせいで若干顔をしかめる
 長年兄と呼ばれていた事もあって変な気分になってしまう。
「早く慣れて」
「わかってるよ・・・メガーヌさんとゼスト、後で覚えてやがれ」
 ルーテシアの旦那様呼びはあの二人が仕込んだものなのでちょっと恨む。
「で、ギンガは大丈夫なの?」
「ああ、それなら問題ない。妊娠出産に関する機能は全く問題ないからな。正直、ギンガの杞憂だ」
「そっか」
 ギンガだけではなく戦闘機人全般に言えるのだが、女性としての機能は全くもって失っていない。
 半年に一回とはいえ彼女らのメンテナンスも行っているには分かりきっていることなのだ。
 がソファに座ると子供たちが群がってくる。
「おとーさーん!」
「はいはい。・・・ノワール、レオンの事よろしくな」
「がう」
 膝の上に乗ってくる華音を動かないように腕で固定し、ノワールの腹を枕にすやすやと眠っているレオンの世話を
任せる。ノワールも心得たもので、身じろぎもせずにレオンを見守っている。
「もうすぐ晩御飯だね」
「今日はアリサとすずかが当番だな。さて、どんなメニューだろうな」
「私は和食がいいかな」
 その日の晩は二人が一生懸命に作ったピザだった。


 ルーテシアは風呂から上がった後、の部屋に忍び寄っていた。
 ギンガの妊娠が確定した事で、自分も欲しくなったのである。
 早速の元に夜這いを掛けに来たルーテシアは、管理局に勤める三人娘とクロノの四人と通信しているを見つけた。
「まだ時間は掛かりそうか?」
『すまない。我々も手は尽くしているが・・・』
の伝を使って超巨大ネットワークを駆使してはいるんだけど』
『連中かなり用心深いみたいやな。尻尾掴むんがやっとや。その尻尾も掴んだおもた途端に切られよる』
『私も教え子たちに、そういう組織が居るから何かしらあったら情報を寄越すようには言ってるんだけど・・・』
「お前の教え子はかなりの数に上るしな。こちらも裏社会の方に、マフィアの連中や裏の情報屋に当たってはいるが、軒並み
その情報が古い。俺が出張の振りで出向いたときにはアジトはもぬけの殻、というのが続いている」
 どうやら何かしらの事件を追っているかのような会話だ。
(・・・大分連絡取ってないんじゃなかったの?)
 見ている限り明らかな定期報告の場だ。仕事一本で家族を顧みないと認識されているなのはたちがとこうして話してい
るなど・・・
『もう何年になるんかな・・・聖夜は元気か?』
「皆元気だよ。華音もレオンも聖夜も・・・寂しそうではあるが」
『・・・しょうがないよね。私たちはあの時、最低な親になると決めたんだから・・・』
(最低な親・・・?)
 確かに最低だ。まだ幼い子供をほったらかして仕事をするなのはたちは。
「・・・ルーテシア。入って来い」
「っ!!!」
 バレていた。それもそうだ。の気配察知能力は高い。いくら忍び足でもには筒抜けだ。
「どういうことなの? こうして連絡しているんなら・・・」
『この通信は君が特別な処理を施した機密性の高い通信なんだ』
『私らとて好きで仕事しとるんや無い。今抱えてるこの件が終わったら皆で退職するつもりやし』
「だったらなんで」
 ルーテシアは苛々していた。それもそうだ。
 子供をほったらかして事件を追っている。ほったらかされている子供たちを毎日見ている彼女からすれば怒り以外に沸く
感情は無い。
 だが、それを否定したのはだった。
「今現在追っているものは俺達家族に直接的に関係がある」
「・・・え?」
「昔、なのはたちが逮捕した犯罪者たち。そいつらが揃って脱獄した。奴らの狙いは・・・子供たちだ」
「な・・・!」
 の言葉に、ルーテシアは固まる。
 画面を見ると、なのはたちの顔が怒りに染まっていた。
『私がレオンを産んだ後、なのはたちと買い物に行ったんだ。華音とレオンを連れて』
『そこでね、華音に向かって銃弾が飛んできたの。狙撃用のライフルから放たれたそれがね・・・』
「レイジングハートがそれに気付いて咄嗟にバリアを張ったから問題は無かったが、それ以後もレオンや他の子供にも
そういう攻撃が続いているんだ。ヴィヴィオにも、な」
「うそ・・・そんな!」
 想像だにしていなかった。まさかそんな危険な状況にあるなどと・・・
『わたしらは君に頼んで子供のガードをつけた。表向きにはヴィータを。そして、裏ではドゥーエが』
「ドゥーエの能力、ライアーズマスクの変身能力で誰にも気付かれないようにヴィヴィオやお前を守っていたんだ」
 絶句する。当たり前だ。平和な生活の裏にそのような危機があったなんてにわかには信じられない。
「おにいちゃん・・・」
「気を抜くとそうなるのな」
 夫を兄と呼んでしまう幼妻を、周りの大人たちは微笑ましく思いながら見ている。
 思わず顔を真っ赤にするが、ルーテシアは質問を続けた。
 それは、相手の事。
『脱獄囚だけじゃない。中にはそいつらの家族や縁者が居る』
『一度捕まえた事があるし、そいつの頭ん中をロッサに頼んで覗いた事があるんや。けど、ろくな情報は得られなんだ上に
そいつらの仲間が捕まったそいつを殺しおった』
『だから、かなり特殊な形態の組織を作ってるんだと思う。個人で動くのを前提とした繋がりの薄い組織』
「だから一人二人捕まえた程度じゃ終わりにならない。根こそぎやるにも、奴らは基本群れない」
 何より完全に利害が一致している。
 だからこんなにも時間が掛かっているのだと、たちは言った。
「じゃあ、帰ってこないのは・・・?」
『・・・私たちがワーカーホリックで、家族すらも顧みていないと奴らに印象付けるためだよ』
「子供たちに関心が無いように装って、奴らの目から子供たちを引き離そうとしたんだ」
『多少の成果はあった。ドゥーエは何人かそういう奴らを捕らえて、または殺してるけど』
『今回の事は三提督や地上の上層部にも報告済みだ。もともと脱獄の事もあって局の上層部が責任がどうこうで揺れていたのを
僕たちが強引に捜査を買って出たんだ』
 本来ならば事件の関係者の身内は捜査に参加させないのが鉄則だ。
 だが、今回のそれはそもそもが彼らの復讐にあるのである。
『子供たちは君とアタラクシア警備隊という強大な戦力で保護してある。その間に私たちはそいつらを殲滅するの』
「殲滅・・・? 逮捕じゃ・・・」
『無いんだよ。相手は凶悪犯罪者が主なんだ。しかも恐ろしく狡猾な奴らばかり』
『だから管理局は、奴らの逮捕ではなく裁判抜きの死刑を申し渡した。管理局法に死刑は無いが、再犯の可能性が高すぎる事
もあって今回は特例として殺害が指示されたんだ』
 クロノの言葉にルーテシアは息を飲んだ。
 命を何よりも大事にしている管理局が殺しを許可するなど異例も異例だ。
「奴らの復讐は半ば成功している。おかげで俺となのはたちは真っ当な夫婦生活を送れていない」
『だから、潰すんだ。私たちは一刻も早く奴らを潰して、そっちでのんびりしたいんだ』
「そう、だったんだ・・・」
 ふるえる声で、ルーテシアはそう言い、納得した。
 子供を守るために敢えて子供を遠ざけて、早く帰ってくるために仕事に集中していたのだ。
 これまでがなのはたちを評した事や、なのはたちの休みどうこうは実際には嘘。なのはたちはそれこそ休み返上で働い
ているのだ。
 全ては子供たちを守るために。

 そして、ルーテシアは決めた。
「旦那様。私にできる事はある?」
 なのはたちに協力する事を。


 定期報告会が終わりルーテシアの参加が決定された数時間後、のベッドには夫婦の営みを終えた二人が居た。
 ルーテシアは甘えるようにの胸に縋りつき、はそんなルーテシアを抱きしめている。
「ルーテシア」
「なに?」
「いいのか?」
「うん」
 短い確認の言葉だが、彼女は即答した。
「インゼクトを使って奴らを捜索する。蟲を使ったネットワークなら奴らを補足出来るかもしれないし、今までより情報の
収集が容易になると思う」
「ああ。・・・しかし」
「?」
「事後に話すことじゃないな」
「まったくだね」
 二人は顔を見合わせて苦笑する。
「なんで、誰にも言わないの?」
「ルーテシアはいえるのか? 俺達は、子供たちは今まさに屑どもの逆恨みで命を狙われているなんて」
「・・・ごめん、言えない」
「早く終わると良いね」
「そうだな。早く終わらせないとな」
 そう言って、は再びルーテシアを押し倒した。
「あんっ。・・・旦那様?」
「すまんがもう少し付き合ってくれ。・・・やれやれ、すずかじゃないが発情期かね? それとも」
「私がフェロモンでも出してるのかな?」
 艶やかな笑みを浮かべるルーテシアに、の【男】が強く反応する。
 自制心が強いはずのがこうも狂わされる。その事に苦笑しながら、は目の前の愛しい幼妻に激しく濃厚なキスを
贈った。二人の夜はこうして更けて行く・・・


 翌朝、物凄く上機嫌のルーテシアが半ばやつれたにべったりとくっ付いていた。
 それを見た奥様たちは・・・
「・・・どうしようか。ここは多人数プレイで?」
「・・・あたしは出来れば一対一のほうが良いんだけど、ちょっとマンネリ気味かしら」
「たまには刺激を求めてみましょうか」
 どうやら不破家の夜は相当爛れた物になりそうだった・・・




あとがき
うちのルーテシアは基本誘い受けです(マテ
新婚ほやほやのルーテシアのとある一日でした。

そしてなのはたちの裏事情。
いままで順風満帆だったなのはたちに降りかかった試練。
これが帰ってこない理由です。









おまけ

―数年後。華音たちが大きく成長した後で―

「おう、お帰り」
「ただいまっ!」
「ようやく終わったよ」
「なあ君。もう一人ずつ位子供つくらへん? あの子らにはなんも出来なんだし」
「そうだな・・・その前に全員を呼んで説明会か」
「恨まれるのも怒られるのも覚悟の上だよ」
「でも、局辞めちゃったから今後どうしようか」
「わたしらまだ若いし、何かのんびりと出来る仕事がええなあ・・・」
「喫茶店でもやれ。でも開業資金は自分たちで出せよ?」
「うん。でもしばらくは・・・」
「の〜んびり、主婦でもやらせて」
「分かっているさ」
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