かつての戦いをもう一度。
彼女が望んだそれはあっけなく受理され、その舞台は整った。
大勢のギャラリーが見守るその中で、騎士と戦士はぶつかり合う。
あの時と同じく、満月の下で・・・・・


続・月下の死闘



 それは食事中の何気ない話題から始まった。
「そういえば皆さんは一度戦ってみたい相手とかもう一度戦いたい相手とかっていますか?」
 そのエリオの言葉に、
「あたしはお母さんかな。お母さんが生きてた頃はあたし魔法嫌いだったから・・・」
「私は兄さんね。何処まで追いついたのかを確かめたいわ」
 スバルとティアナが即答した。
「私たちはいないかなぁ」
「そうだね。今更だし・・・」
 隊長陣は居ないらしい。
「もう一度・・・か。奴とはまた一対一でやりたいものだが・・・」
 シグナムがそんな事をつぶやいた。
「シグナム?」
「あ、ああ。の事だ。奴とは一度本気でやりあった事があってな」
 はやてたちは闇の書事件の際にが魔力を蒐集されていることを思い出した。
「確かその時はかろうじてシグナムの勝ちだったっけ?」
「そうだ。今でも鮮明に覚えている。久しく得る事の無かった強敵との戦いとその高揚感を」
 懐かしそうに話すシグナムに、スバルが恐る恐る話しかけた。
「あ、あのー。そのって人はまさか・・・」
「スバルも良く知っているだろう? ギンガの第二の師でありお前達姉妹の兄貴分だ」
「マジですか!? おにーちゃんが強いって今初めて知ったんですけど!?」
 驚愕のスバル。大好きな兄が強いことを今の今まで知らなかった。
 そんなスバルを見ながら、
「まあ、奴は強さをひけらかすような男ではないのでな。真の達人は強さを誇示しないものだ」
 そんなへの印象を話すシグナム。
「あの、その人はどれ位強いんですか?」
 ティアナが固まっているスバルに代わって聞いてみるが、
「当時で暫定AAA+だったな。今はSS−だったか」
「な、何ですかそのランク・・・」
「圧倒的過ぎるよう・・・」
 の魔導師ランクに呻き声を上げるエリオとキャロ。
「まあ、あれだ。奴は現代の近代ベルカ式の騎士の中では最強の一角に位置する男だ」
「昔、あたし等十人がかりを無傷で倒した男だかんな」
「あははははは・・・アレはさすがにショックだったなあ」
 その言葉に絶句する新人フォワードたち。
「そや! 頼んでみよか! 君なら受けてくれるんちゃうやろか」
「それなら色々と手配しておきますね。シグナムのリミッター解除とか」
「そーだな。あいつ相手に制限つきなんて確実に負けるし」
 あれよあれよと決まっていく事に何も出来ないフォワード陣。
 そして結局、予想を超える規模でその戦いは実現したのだった。



 冴え冴えと輝く月の光を浴びながら、シグナムは己の最強の好敵手と対峙していた。
「良い月夜だ。あの夜を思い出す」
「まったくだな。その後の事故も鮮明に覚えているよ」
「それはいうな。あれはさすがに後悔した・・・」
 そんな話を続ける二人を見守るのは機動六課の面々と陸士108部隊の面々。
 そして実況生中継中の聖王教会と首都航空隊(シグナムの古巣)の面々だった。
「何でこういうことになったかは知らないが、久々なんだ。思いっきりやるからな」
 はその両手に小太刀を持っていた。
 新型の小太刀型アームドデバイス【虎月】とその両手を包む【アムルテンU】、そしてその足には
【ヴォイドウォーカーU】を身に纏い、万全の体勢だった。
 シグナムはその姿にいいようもない高揚を覚える。
 そして・・・・・・・・・・・
 突然二人は互いの隙を突くかのように、だが同時に抜刀、斬りかかる!
 派手な金属音をかなで、二人の刃がぶつかり合い、同時に二人の顔が歓喜に歪む。
「そうでなくてはな!」
「ああ、俺たちの間に合図など要らんからな!」
 そして、烈火の将と瞬刃の戦鬼は戦闘を開始した。

 いきなり二人は足を止めての乱撃戦に入っていた。
「はあああああああ!」
「せえええええええええ!」
 二人の刃がその動きすら見せずに激しくぶつかり合う。
 その互いの刃をかわし、弾き、受けとめ、流す。
 二刀流のに対し、シグナムは鞘を用いての二刀流で手数を互角に持っていく。
 そして更に、蹴りや肘・膝まで使い始め、更に激しくなっていく。
 二人は蒼と紫の流星となり試合場となっている訓練スペースを縦横無尽に駆け回り
更なる激しい戦いに突入していった。
 二人の動きについていけているのはスピードが信条のフェイトとエリオ、
そしての直弟子でもあるギンガだけだった。
「す、凄すぎる・・・」
「これが、おにーちゃんの実力・・・」
 ティアナとスバルの呆然とした言葉にヴィータが、
「これは特殊なことなんて何もやってねーぞ。誰もが覚えられる、だけどそこに行くのは
恐ろしく難しく険しい道のりがあるだけでな」
 その言葉にエリオが反応する。
「僕も、この領域までいけますか?」
「激烈な訓練と苛烈きわまる実戦の果てに何とかって所だね」
「そう簡単にいけるところではないのは確かだよね」
 なのはとフェイトが苦笑気味にそしてそんなことしないでねという顔でエリオに答える。
「でも、行けるところまで行きたいですね」
 そんなギンガの言葉にエリオは頷き、二人は微笑みあった。
 そんなほほえましい彼女達の手には何かが書かれた紙があった。
 
 二人の剣がひときわ激しくぶつかり合い、二人は距離をとった。
「さて、準備運動は終わりだな」
「ああ、ここからが本番だ」
 二人の発言による周囲の動揺をよそに二人は戦場を空中に変える。
「さて、そろそろ魔法を使っていくか?」
『charge up! thousand blades get set ready!』
 の周囲にその名の通りに魔力で作られた千本の小太刀が出現する。
「矢を作る要領で刀を作ったか。クロノ提督のあれと似たようなものだな」
 シグナムは獰猛に笑いながら油断なく構える。
「さて、行くぞ! サウザンドブレイド・フォーメーション【射抜】!!」
 が弓を引き絞るような構えを取ると、千本の小太刀がシグナムに向けて殺到する!
 その速さと威力は御神流奥義の参射抜のそれだ。
 超高速で殺到する千発の射抜に対してシグナムは己の愛刀を変形させる。
「飛竜乱刃!!!」
 一直線に走る飛竜一閃とは違い、炎の蛇が縦横無尽に駆け回る!
 蛇は無数の剣を薙ぎ払い、弾き返す。だが砕くには至らない。
「更にいくぞ! フォーメーション【花菱】!」
 千本の小太刀が二本一組になり技の軌道をなぞり始める。
 五百の花菱による剣戟の弾幕にさすがのシグナムも焦りを覚える。
 しかしシグナムもさるもの。荒れ狂う蛇を繭のように周囲に侍らせに突進をかける!
 蛇は剣の群れを噛み砕きながらその群れを突破、の寸前で剣に戻して斬りかかる!
 しかし・・・・・・・
「いらっしゃ〜い!」
「んなああああああっ!!」
 刃の弾幕に隠れて絶龍砲の発射体勢に入っていたに本気で驚愕、慌てて回避行動を取る!
「吼破・絶龍砲!!!」
 凶悪な威力の収束砲がシグナムを襲う!
 シグナムはフィールド・バリア・シールドの全部の防御系魔法を無理矢理起動しつつかわしたが
余波だけで数十メートルも吹き飛ばされていた。
 吹き飛ばされたシグナムはすぐさまレヴァンティンを弓へと変えに狙いをつける。
 だがそれはも同じだった。ガントレットに内蔵された弓が展開され、魔力で作られた矢が
シグナムを狙っていた。
「翔けよ隼!」
「魔弾よ撃ち抜け!」
 ファルケンとタスラムが同時に放たれその矢が寸分の狂いも無くぶつかり合う。
 そして大爆発を起こして相殺された。
 シグナムはその煙にまぎれてに接近を試みるが、は弓を展開したままカートリッジを
ロードしている。
 そしては自分の前に旅の鏡で空間に穴を開け、そこへ向かって不得手である筈の魔力砲を
いくつも撃ち込んだ。
 シグナムを含めてギャラリーたちはの行動に疑問を感じるが、シグナムはいち早く察してしまった。
 シグナムの眼前の空間に穴が開く。そこから魔力砲が襲い掛かってきた。
 辛うじて避けたシグナムの背後に穴が開き、更に魔力砲が襲い掛かる!
 ギャラリーたちはやっとの行動の意味に気がついた。
 つまり空間歪曲を利用して単純直射砲をあらゆる方向から襲い掛かるようにしているのだ。
「くそっ! なんとえげつないっ!」
 思わず悪態をつくシグナムだがの出力の関係上魔力砲が大した威力ではない事が救いとなりと、かすりは
しながらもぎりぎりで回避し続けて直撃を避けて、ついにはその砲撃を切り抜けた。
 シグナムは息を切らしながらに肉薄し、剣を振り下ろすがはふらつきながら回避する。
「はあっ・・はあ・・・アレを避け切るかよ。絶対当たると思ったのにな・・・」
 慣れない魔力砲を連射したからか、息が上がっている
 二人は距離をとって、息を整え始めた。

「はやてちゃん・・・もしかして私がフォワードと組めば同じ事が・・・」
「出来るやろなあ・・・今度試してみよか?」
 シャマルとはやては同じことを考えながら会話していた。
 なのはあたりと組めば確実に最強技になりかねないものになる事を予感しながら二人を眺めている。
 もっともこの魔法、穴を開ける空間を座標で捉えなければならない等、情報量的にとんでもない事に
なっており、でさえも3機のデバイスのリソースをフルで使わなければならない難易度の高い魔法なのだ。
 構想から習得まで実に二年もの月日を費やしていたりする。
 多少練習して使えるものではないことに、二人は気付いてはいなかった。
「とーさまー! がんばるですー!」
「シグナムの応援は無しなのかリイン・・・」
 の応援しかしていないリインをみてそれに突っ込みつつシグナムに同情するザフィーラ。
 リインの脳内の好感度では、>>越えられない壁>シグナム、で固定されているので仕方が無いかもしれない。
「でもお二人ともすごいです。デバイスの性能を完全に引き出してますし。・・・あれバラしてみたいなあ」
「本人達の戦闘能力もものすごいです」
「クロノ提督もかなわないんじゃないかなあ・・・」
 ロングアーチスタッフの3人娘、シャーリー・アルト・ルキノは管制室でモニタリングしながら
観戦していた。
 シャーリーに至っては、が持つデバイスに興味津々のようだ。
 そして彼女達の手にもやはり何かが書かれた紙が握られていた。

 息の整った二人の戦いはまだまだ続く。
「今度はこちらからだ!」
 シグナムが空中から地上にいるに陣風による衝撃波を叩きつける。
「くっ!」
 はその衝撃波をかわそうとするが不可視でかつ広範囲の衝撃波を見切ることは出来ずに
まともに喰らい地面に叩きつけられる。
 シグナムは更に連続して衝撃波を叩きつけは何とか防御しながらも僅かながらに地面の中にめり込んでいく。
 身動きが出来なくなったにシグナムが剣を構えて突撃、砲弾と化したシグナムがに着弾、爆炎が舞う!
 は・・・虎月を交差しレヴァンティンを受け止めていた。
「くうぅぅぅっ!」
「ちぃっ!」
 剣の交差している点でレヴァンティンの切っ先を受け止めるという神業を披露したに賞賛と共に舌打ちする。
「つあっ!!」
 はシグナムを蹴り飛ばし距離をとる。
 難なく着地したシグナムもこの数年で身に着けた魔法と剣技の融合技を初見で受けきられて少しショックを受ける。
 二人は・・・・
「ふふ」
 子供のように・・・
「はは」
 あるいは・・・
「ふふふふふふ」
 狂ったように・・・
「はははははは」
 笑い続けながら・・・
「「くくく・・・ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」」
 狂気じみた歓喜の顔で互いの全力をぶつけ始めた。
「るあああああああぁぁぁぁぁっ!!!!」
「ぜああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
 打ち合わされる魔力を纏った一撃一撃が凄まじい衝撃波を撒き散らしながら、二人は楽しそうに、
睦みあうように、剣で語り合うかのような、むしろ互いに大声で想いを伝え合っているような、そんな
激しい、いや激しすぎる戦舞を舞い踊り始めた。


「凄まじいわね。正直二人とも敵に回したくないくらいに・・・」
「そうですね。騎士カリム・・・」
 とシグナムの激闘を見ながら冷や汗が止まらないカリム。
 隣に居るシャッハも同じだった。
 しかし・・・・・・・
「はあ・・・いつも思うけど素敵だわ・・・」
「否定はしませんが、騎士はやてに睨まれますよ?」
 カリム・グラシア。彼女はのファンだった。
 教会の遺物管理施設の機材等をアタラクシア製の物を使っていたりするので直接商売上の
付き合いがあり、教会からロストロギアの鑑定や調査をアタラクシアに依頼することもある。
 そういった中で騎士団とアタラクシア(以後【楽園】)の警備の人間との合同訓練に顔を出した時に
騎士団でも凄腕と名高い騎士をが瞬殺(開始約9秒)した時からその鮮烈な姿に憧れていたりした。
 ちなみにシャッハはから高速機動中の身体制御に関する講義をマンツーマンで受けているため
その事を嫉妬されないかどうかでヒヤヒヤしていたりする。
「さて、どちらが勝つのかしらね?」
「さあ? どちらが勝ってもおかしくはありませんし・・・」
 そんな彼女達の手にも何かが書かれた紙が握られていた。


 二人は変わらぬ笑顔でぶつかり合い、つばぜり合いをしながら膠着していた。
 二人とも体力魔力共にかなり消耗している。
。一撃勝負といかないか?」
「それもいいな。お互いの最強の技で勝負と行こうか」
 二人は互いに押し合いその勢いで距離を取る。
 シグナムは剣を構え、カートリッジをロード。
 剣に炎が纏わり・・・つかずにレヴァンティンそのものが高熱で赤熱化し刀身が真紅に染まる。
 は手をだらんと垂らし、目を閉じた。
 一見無防備だが、シグナムにはから必殺の意思があふれ出ている事に気付いていた。
「行くぞ!」
「来い!」
 シグナムが俊足の踏み込みから剣を振りかぶった。
「真・紫電一閃!!!」
 シグナムはその凄まじい瞬発力によって正に紫電と化しへと襲い掛かった。
 その速さに誰もがシグナムの勝利を確信した。
 レヴァンティンがに当たるその瞬間、が目を見開き、次の瞬間シグナムが吹き飛ばされた。
 数メートル転がった後、仰向けに倒れてぴくりとも動かなくなった。
 胸元は大きく切り裂かれているもののたいした出血はなさそうだった。
 その剣戟のあとと思われる傷跡が酷い痣になっているのが見て取れていた。

「「「「「「「・・・・・・えっ?」」」」」」」」
 その場を見ていた誰もがこの光景を信じる事が出来なかった。
 は何もしなかった・・・筈なのだ。
 その動きを見る事は誰にも出来なかったのだ。
 なのにシグナムは倒れている。意識も飛んでいるようだった。
『あ、あの! スロー映像を出します!』
 記録していたロングアーチスタッフからスロー映像が流される。
 そこには、現在の技術の粋を以ってしてもなお霞むの斬撃が写っていた。
 レヴァンティンが当たる直前に紙一重で、映像では姿がぶれるほどの速さでかわしたが、スロー映
像を以ってしても腕の先が見えないほどの速さで剣を振りぬき、シグナムを一刀の下に切り伏せていた。
 その閃光の如き神域の剣技を認識し、あるものは手に持った紙を掲げて歓声を上げ、
あるものはその紙を床に叩きつけるなどして悔しがっていた。

        戦闘結果
    ○不破VSシグナム●

「・・・・・・・・・なにが・・・起こった・・・?」
「お前が負けた。それだけの事だよ」
 意識を取り戻したが何が起こったのかを認識できていなかったシグナムが呆然と疑問を口にし、
があっさりと答えていた。
「そうか・・・負けたか・・・何をやらかしたんだ?」
「やらかすってお前なあ・・・ウチの流派の奥義の極みを放っただけだ」
 そう。あの技こそが永全不動八門一派御神真刀流小太刀二刀術斬式奥義ノ極 ―閃― だった。
 士郎ですらも届かず、御神の剣士でも歴代数人しか其処に至るものがいなかった極みの位置に
はいるのだった。
「さて、隊舎へ戻ろうか。シャマルに診ておいてもらわないとな」
「ああ、それとお前に責任でも取ってもらおうか? 女の柔肌にこんな傷を付けたんだからな」
「勘弁してくれ。戦士にとっては勲章モノだろうに・・・」
「くく・・・冗談だ。そうでないと主やテスタロッサ、それとなのはに何をされるか・・・」
 は動けないシグナムを背負い軽口を叩き合いながら隊舎へと帰っていった。
 二人の顔は力を出し尽くした爽快感からかとても穏やかで爽やかだった。


 隊舎へ戻った二人を待ち構えていたのはやたら機嫌のいいはやてたちと、どこか暗いティアナたち
だった。
「おにーちゃんお疲れ! はいタオル」
「ご馳走の準備も出来てますから! シャマル先生! シグナムさんの治療を!」
 妙にテンションの高いナカジマ姉妹に疑問を抱きつつ二人はとりあえず医務室へ直行した。
 そしてシグナムと、の治療が始まる。
「シグナムの最後のアレ、当たってたのね」
「いや、外した筈だが・・・」
「かすったんだけどな。熱だけで4度の火傷はさすがにきついぞ」
 あまりの高熱で火傷を負ってしまっていたらしい。
「応急処置は出来るけどあとで病院へ行ってくださいね?」
「了解。大体全治約半年ぐらいかな?」
「すまない。まさかこうなるとは・・・」
「ああ、気にするな。勝負の上だし」

 治療が終わって食堂に向かうときに、シャマルのポケットから紙切れが落ちた。
 気になったが拾い確認すると、の目が徐々に冷たくなっていく。
<シグナム。これを見ろ>
<どうしたんだ? この距離で念話など・・・何処で拾った?>
<シャマルのポケットから落ちた>
<そうか・・・>
 二人はそれ以上何も言わずに食堂まで行き、気配を消して耳を澄ませた。
「いやー。おにーちゃんってあんなに強かったんだねー」
「あら、スバルは知らなかったかしら? 私も色々しごかれたのよ?」
「それにしても結構儲けたなあ。またこういうことでもやろか?」
「あ、いいですねそれ。今度は負けませんから」
「姐さんももう少しがんばってくれりゃいいのに・・・」
「あ、ヴァイス君ははずしたんだね」
「あたしもですよ。せっかくヴァイス陸曹と一緒にシグナム副隊長に賭けたのに」
「・・・・皆さん賭けなんかしてたですか?」
「そうだよリイン。あの二人には秘密にしてね?」
「・・・・・・・・・無駄な気がするですよ」
 などなど、彼らからすればシャクに触る会話が聞こえてきた。
 リイン以外の全員が彼らをネタに賭けをしていたらしい。
 リインが知らないのはに筒抜けになるからだろう。賢明な判断である。
 とシグナムは無表情で顔を見合わせ、はどこからかハリセンを取り出しシグナムに渡し、
シグナムはそれを受け取り素振りをしつつシャマルの背後へ回る。
 そして気付いていないシャマルに向かって大きく振りかぶった。

「・・・・・・・・・・では」
 キャロがどこかに念話を使っている。
 もっとも誰もそれに気付いていないが、その時なにやら鈍い音が聞こえた。
「うん?」
「どうしたんですか? 八神部隊長?」
「なんややたら重い聞いた事のある音が・・・?」
 ふと音のした方向を見ると、食堂の入り口にシャマルが倒れていた。
「シャ、シャマル! なんや何があった!?」
「シャマル先生!? 一体誰が!?」
 食堂は騒然となる。
 しかし、リインは何かを悟ったように食堂の隅の方に縮こまる。
 そして、リインを除いたその場の全員にまとめてバインドが仕掛けられた。
「な、なに?」
「こ、この魔力光はまさか!」
「魔力だけじゃない! 糸みたいなもので物理的にも拘束されてる!」
 そして気付く。こういうことが出来そうなのは?
「さて、弁明はあるか?」
「騎士の決闘を賭け事などで汚してくれるとはな・・・」
 オプティックハイドで姿を隠して食堂内に侵入していたとシグナムは剣呑な顔で皆を見る。
 先ほどまで彼らの戦闘を見ていたはやてたちは盛大に顔を引きつらせる。
「さて。お仕置きと行こうか?」
「ああ。なんにしようか? アイアンメイデンの刑も良いな。それとも時間無制限の座禅でもしてみようか?
ああやっぱり俺ら二人と戦闘訓練と行こうか? むしろ地獄のマッサージフルコースが・・・」
 なんにしても地獄である。特に一番最初。
「あ、あの、アイアンメイデンって・・・?」
「ウチの世界の魔女狩りのときに使われた拷問・・・いや処刑器具でな。それを模してロッカーに
閉じ込めた後それを力いっぱい殴り続けるという肉体よりも精神に酷い傷を作る刑罰だ」
 アルトやシャーリーはそれを想像し・・・・・・・・・
「「「「「勘弁してください!!!!」」」」」
 一斉に土下座・・・いや五体倒置で完全に屈服していた。
「それはそれとして、シグナム。気が済むまで・・・やれ」
「了解」
 シグナムがハリセンを振り上げ不適に笑う。その目は怒りと歓喜に満ちていた。
 その日、機動六課隊舎に悲痛な絶叫とハリセンにしては鈍い炸裂音が響き渡り続けた・・・・・・・・


 賭けをしていたのは六課と108部隊だけではなく観戦していた全員だったため、シグナムは己の古巣に、
は聖王教会へと赴きお仕置きを実行し、その日の地上本部の武装隊と聖王教会騎士団は機能が停止してし
まっていたらしい。
 実を言うと三提督やもっと上の方もこの決闘で賭けをしており、お仕置きを恐れた彼らによってとシグナムは
機能停止については特にお咎めなしだったそうな。

「リイン。またこんな事やらかしていたら【秘匿回線】で俺に通報するように」
「はいですとーさま!」
「さて、キャロ。詳細の通報ご苦労。何が食べたい?」
「はい! ありがとうございます! その、お世話になっていたときに作ってもらったケーキを・・・」
「分かった。リインも食べるか?」
「はいです!」

 何気にのスパイでもあったキャロ。
 そして、そこにリインも加わりアタラクシアへのホットラインが構築されつつあった・・・・

「さて、シグナム。二人でディナーと行こうか。和食尽くしだが」
「望むところだ。お前の手作りなのだろう?」
「当然だな。お前の大好物ばかりだ。久しぶりだろう?」
「私も地球から持ってきた酒がある。いけるか?」
「そこそこイケル口だ。では存分に楽しもう」
 お仕置きを敢行した二人はひれ伏した彼らを尻目にの屋敷で晩餐を行い楽しんだ。
 その夜、二人は共に過ごし、朝帰りしたシグナムは妙に肌つやが良く機嫌も良かったそうな。



後書き
 シグナムとの死闘再び。
 今回は主人公の勝ちでした。
 オリジナルの新技がいくつか出てましたが気にしないように。
 シグナムにしてもこの十年で新しい魔法の一つ二つ出来ているんじゃないかという
作者の妄想なんですが・・・・・・・
 シグナムは古い騎士なので決闘の類には誇りを持って挑むのでそれをネタに賭けをするなど
ということは許容できません。だからキレて当然です。
 主人公にしてもシグナムとの戦いはある意味睦みあうのと同じような事ですので。
 キャロはフェイトに引き取られた後、保護隊に行くまで主人公の家(ラボ兼屋敷)に身を寄せてました。
 その為、主人公の事を兄か父のように慕っています。

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