走る、走る、走る。
煙が見える方向へ、ひたすらに走る。
(おかしい、俺こんなに足速かったか?)
ゼリーから逃げているときも思ったが、身体能力が上がっている?
いつもならとっくに息が上がっている筈なのに全く息が切れない?
召喚された影響なのか?それになにか体の内側から熱いなにかが迸っているような?



 やがて、開けた場所に出た。そこには同じ服を着た連中が逃げようとする召喚獣たちに
無差別に剣や槍、銃を向けていた。

 その連中の一人、顔に刺青を入れた男が目に入った。
 どうも奴が連中の指揮をしているらしい。

「ひゃははは!!死ね!死ねえ!」

 その言葉に同調するかのように他の者たちも召喚獣たちを斬りつける。よく見れば
それによって絶命してしまったものもいるようだ。
 仲間を守りながら必死に抵抗しているヤッファもかなり傷つき血が滲んでいる。

 それらを認識した瞬間、俺は切れた。熱くなっているにも拘わらず、頭は急速に冷え込んでいく。

「貴様ら!!!何をしている!!!!」


「ああ?」

 俺の怒鳴り声に連中が一斉にこっちを向く。
 刺青の指揮官が俺を睨み付ける。

「何だぁ?てめぇは」
「お前は・・・」
「質問に答えろ・・貴様ら何をしていた・・」

 刺青野郎とヤッファの声を無視し、もう一度問いを発した。
 刺青野郎は唇の端を吊り上げ、

「決まってんだろぉ?化け物退治だよ。化け物退治。」
「化け物だぁ?・・」
「そうだよ。何だ、テメェは化け物に味方する気かよ!?」

 刺青(もうこれでいい)が問うが俺は答えない。
 ヤッファも剣を受け止めながら俺の答えを待っているようだ。

 ・・・答えによってはお前も殺すぞ。

 睨み付ける目が如実に語っていた。

「悪いがね、俺はお前らのいう化け物の味方だ。今の俺には貴様らの方が化け物に見えるがな。
 それに俺もはぐれだ。同じはぐれ仲間を味方して何が悪い。・・ヤッファそんなに睨むの勘弁してくれ」

 俺の答えにヤッファは笑みを浮かべる。
 目の前の野郎どもは怒り狂っているが・・

「「セツナ・・・・」」

 アティか?海賊たちもいるようだな。
 キュウマも一緒か。

「そういうわけでな、もし君らがアレらの味方になるならば、死の覚悟ぐらいはしてもらう。」

 拳を握ると熱い何かが集まり微かに発光する。なんなんだ?これは・・・

「んだよ・・・テメェらも化け物に加勢する気かぁ?」

 刺青の問いに如何答える?

「私達はセツナの意見に賛成です」
「というか死ぬのは勘弁です」

 アティが苦笑する。・・・俺が脅迫したとでも?
 俺は少し憮然とする。

「私たちは彼方達を許せない!」

 アティがそう叫び、剣を抜きはなつ!!

「ちぃっ、おまえら!かまわねぇ!まとめて叩き潰せ!!」

 刺青の命令に野郎どもが応え突っ込んでくる。

「ヤッファ!下がってくれ!戦えないだろう!?」
「ちっ・・・すまねぇ」

 これ以上は無理と分かっていたか、俺の言葉に応えて下がってくれた。

 戦闘開始だ!才能が無いにも拘らず爺に仕込まれた戦闘の業見せてやるよ!!
 前方に4人、突っ込んでくる。内1人が後ろでなにやら呟いている。
 手に持つ石が赤い光を帯び始める。

「セツナっ!!!」

 ソノラが名前を叫ぶ。同時に3人を迎撃、先頭の男の顔面に拳を叩き込み、
 かなりの勢いでその場で縦回転。それを見て怯んだ2人の腹に拳を、蹴りを打ち込みふっとばす!!
 しかし、呟いていた男がこちらに杖を掲げ、目の前に大太刀を持った鬼の侍が現れる!!
 どうもアレが召喚師らしい、そしてこれが召喚術。

「鬼神将ゴウセツ!あんな強力な召喚獣を!!」

 なにやらヤード驚いているが、ゴウセツと呼ばれた鬼が俺に刀を振り下ろす!!

「くそがっ!!」

 悪態を付くと同時に、体を半身分ずらし刀に手を沿え軌道をずらして剣戟を流す!!
 ・・・地面が斬り裂かれているのを確認し、冷や汗が流れる。

「まさかゴウセツの剣を素手で受け流すとは・・・」
「あのような方法で回避するなんて・・・」

 キュウマとヤードが驚嘆しているが、ジジィの友人の剣術家の業に比べたらこの程度!!
 ゴウセツがこちらを見、なにやら嬉しげに且つ獰猛な笑みを浮かべながら消えていく。
 ・・・・・再戦はしませんように。そう思いながら召喚師に詰め寄り、どてっぱらに
 コークスクリューを叩き込み、プロペラのように回転しながら吹き飛び木に激突、そのまま気絶する。
 こんなに威力あったっけ?妙に体が軽いし、力も強くなっている。

 あたりを静寂が包みこむ。
 む、なにやら他の連中が冷や汗を流しながらこっちを見ている。味方もだが。

「俺は今キレているんだ。人ではないからといって、軽々しく命を奪おうとする貴様らにナ」
「すごい・・・」

 誰かは知らんがそう呟く。
 刺青が若干狼狽しながら叫ぶ。

「お、おい!なにやってんだよ!早くこいつらを叩き潰せ」

 その言葉とともに戦闘が再開、再び刃のぶつかり合う音が聞こえ始める。



 戦闘も終盤、敵も僅か、先生も私たちも敵を仕留めていく。
 殺してはいない。が、セツナがやったのは骨の3・4本は折れているんじゃないだろうか。

「これは制裁、そして警告だ。命を軽んじた報いを受けろ!」
「ぐっ・・・」
「彼方たちの負けです。退いて下さい。」

 セツナが残りの連中を睨みながらいうと、先生ががついで刺青の男に声をかける。
 刺青の男はは一瞬、悔しそうな顔をし・・

「くそっ!総員、撤退する!」

 撤退命令を出し気絶した連中を背負って逃げて行った。
 見捨てないのは、まぁ当然かな。
 緊張を解き、息を吐く。

「はぁっ、戦闘苦手なのになぁ。」
「あれでかよ。俺以上にやるじゃねぇか。」

 アニキが呆れた様に話しかけている。
「こちとら明らかに人間の限界を超えたような達人4人にいやと言うほど扱かれてんだから、
 これくらい出来ないと生きていけなかったんだよ」
 という呟きが聞こえたらしいアニキ・キュウマ・ヤッファの顔が引きつっている。
 私も似たようなものだけど・・・あれ?
「先生、如何したの?」

 先生の顔色がなんだか悪くて声をかける。

「ごめんなさい。少し疲れてしまって・・・」

 先生が弱弱しく答えた。
 ・・・元軍人なんだから慣れてるかと思ったんだけど。



「確かに見届けました。彼方たちの言葉が、その場限りの嘘ではなかった事を。」
「キュウマ・・・」

 キュウマはこちらに向き直り、穏やかに言う。

「自分は貴方達を信じましょう」
「「「「それじゃあ・・・」」」」

 海賊達が声をそろえていう。

「島の仲間として、貴方達を迎え入れましょう。」

 キュウマの宣言に皆が喝采をあげる。
 俺はそれよりも、自分の内側から沸いてきた力を気にしていた。

「セツナ殿」
「ん?なんだ?」
「どうかいたしましたか?なにやら浮かない顔ですが。」

 キュウマが声をかけてきた。聞いてみるのもいいか。
 先ほどの戦闘で自分に起こった変化を説明してみる。


「なるほど、おそらくは気だと思いますが。」
「確かに、ストラだと思うぜ。なんだ知らないで使ってたのか?」

 気・・・か。なにか・・違う気がするんだが・・
 もっと・・・何か別の・・・自分を象徴するかのような・・・

「セツナ殿、貴方はどこで寝泊りしますか?よろしければ風雷の郷に案内しますが。」
「あぁ、それならラトリクスに行くよ。色々と興味深いものがあるし。」
「そうですか・・分かりました。」

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