少し話を飛ばすとしよう。
あれから、集落から食料を盗んでいたジャキーニ一家を懲らしめ、畑仕事をさせることになり、
俺やアティ・アリーゼ・海賊たちは島の仲間として認められた。
アティが青空学校の教師になったり、スバル・パナシェ・マルルゥが生徒になった。
まだゲンジによるアティの教師としての教育中なので学校は始まっていない。
俺は畑仕事のための農具をラトリクスのスクラップから作ってやったり、老朽化した小屋を改築したり 故障したラトリクスの機械達を修理したり、風雷の郷でミスミ様、キュウマ、スバルに日本の料理を 振舞ったり、ユクレス村でも料理を振舞ったり、海賊達にも料理を振舞ったり、オウキーニと料理人の 意地を掛けた料理対決をしたり(ジャキーニ一家が料理のうまさに感涙していた)、なんか作ってばっかだなぁ。

しかし・・・・
「こんな所にいたとは思わなかったよ、ゲンジ先生」
「仕方が無かろう。わしとて突然呼ばれたのだしな」
恩師ゲンジ先生との再会があった。
いきなり居なくなったと思えば・・・・
「しかし相変わらずだな。その天性の作り手であることは」
「それが俺なんだから仕方ないだろう?」
そう、これこそが俺だ。
物を作る。それが俺に許された唯一の才能だ。
そのほか色々なスキルは努力で手に入れたが。
出来れば過程は思い出したくないなぁ。
「あやつらは心配しておるのだろうな」
「してるだろうねぇ。あいつら心配性だし」
今頃なにしてんのかねぇ。
「セツナよ。おぬしはこれからどうするつもりじゃ?」
「出来れば戦いには駆り出されたくないな。もともと才能ないし」
「ゴウセツの剣を受け流したヒトが何を言いますか」
キュウマ?
なぜか折れた刀を持ったキュウマが呆れたような顔で立っていた。
「仕方が無いじゃろう。こやつは本当に物を作ることしか能が無いのだ」
「しかしかなり強いですよ。セツナ殿は」
「まぁあの古武術馬鹿どもに本気で仕込まれておったしな」
「いわんでくれ先生。あの苦行を通り越した荒行は正直思い出したくない」
あれは・・・・・地獄だ。
「どんなものだったんですか?」
興味しんしんだなキュウマ。
「そうだな。お前が思い浮かべる苦しい修行を思い浮かべろ」
「はい」
「それは苦しいか」
「当たり前でしょう?」
「そうか・・・俺の受けた修行はな・・・そんなものなど天国だ」
キュウマが固まる。
ものすごい冷や汗が流れている。
なんか少し震えているような気がする。
「ど、どんな・・・修行を・・・・」
「ゴウセツ並みの斬撃が嵐のように舞い踊り、正確無比な銃弾の豪雨がこれでもかと急所に迫り、  閃光のごとき槍の乱舞が流星雨の如く閃き、風を孕んだ拳が悪夢のような勢いで繰り出される」
おお、キュウマが真っ青になっていく。
想像すると精神的に良くないぞー。
「これらの悪夢としかいいようの無い攻撃の嵐の中をかわし、受け流し、迎撃する」
「よく・・・生きてましたね・・・・」
「必死、いや決死の覚悟でやつらに臨んだな。本気で思い出したくないが」
「ごめんなさい。いやもうなんというかごめんなさい」

ところで、
「何か用事が有ったんじゃないのかキュウマ殿?」
「はっ!そうでした!実はと言うと刀を一振り鍛えて欲しいのです。この通りな物で」
刀かー
「素材はあるのか?」
「いえ・・・」
「すまんが、素材が無いとどうしようもないぞ。工房はメイメイの店にあるが」
「素材ごと作ってやったらどうだ?」
「・・・・タタラ吹きのアレをやれと?」
「玉鋼を作れば後はどうとでもなるだろう?」
「アルディラに協力を頼むか・・・・」
「作ってくださるのですか!」
「まあ仕方なかろう。それにこやつは物を作ることが生き甲斐じゃからな」
「どっちかっていうと存在意義な気がするが」
「こちらもミスミ様に協力を頼みましょう」



というわけで・・・・
「こんな物でいいの?」
「充分だろう」
「しかし大量に砂鉄を使うのじゃな」
「これから燃やすんですよね」
「三日三晩ほどな」
「そんなにですか?」
「そうだ」
簡易製鉄所が完成し(風雷の郷の外れ)、そこにラトリクスから砂鉄を持ってきた。
「さてこれから木炭で火を起こし燃やし続けるのだが、どうせだから魔力を込め続けてみないか?」
「魔力の篭った炎で燃やすことで、特殊な玉鋼ができるかもしれないのね?」
「やってみる価値はありそうじゃな」
というわけで、
「頼むよ護人さんたち」
「何で俺がこんな事を・・・」
「ぼやかないでくれるかしらヤッファ。私たちもするのだし」
「ソノトオリダ・・・」
嫌そうな護人達。
「あのなぜ私まで・・・」
「いいじゃねえかヤード。手伝ってやれよ」
海賊組み唯一の召喚師ヤード。嫌そうである。
「私もするんですか」
「何で私まで」
「アティ、アリーゼ」
二人がこちらを向く。
「なんですか?」
「これが終わったら腕によりを掛けて豪勢なケーキでも作ってやろう」
二人の目の色が変わる・・・
「やりますよアリーゼ!!」
「はいっ!!先生!!」
ふむ、気合充分だな。

「こ、これはきついです・・・・」
「わ、割りにあわねぇ・・・」
「ケ、ケーキのためです・・・」
「け、結構修行になりますね・・・」
ローテーションを組んで魔力を放射中、相当きつそうである。
クノンが鉄の状態を見ているが・・・
「鉄自体が魔力を帯び始めています」
「試みは何とか成功のようね・・・」
疲れ切ったアルディラがそう評する。
現在三日目である。
そろそろ作業は終わりになる。
「時間です。魔力の放射を止めてください」
「や、やっと終わったー」
「もう二度とやらねえ・・・」
鋼の状態はと・・・
「すごいわね。こんな原始的な方法で・・・」
「まあ原始的ではあるが刀用の鋼を作るには最適でな」
「鋼にかなりの魔力の反応があります」
成功だな。
元々最高品質の玉鋼としても最上質だろう。
「みんなご苦労。鬼の御殿で宴会の準備が出来ているからそこでくつろいでくれ」
「よっしゃぁぁぁー飲むぞーーー」
ヤッファがかなりアグレッシブになってるなぁ。
「セツナっ!!行こうっ!!」
ソノラが俺を誘ってくれているが、
「すまん。早速本命の作業に入ってみたいんだ」
「えっ、もう始めるの?」
「ああ。今回は皆に苦労を掛けたからなその成果を早めに出したいんだ」
「そっか、ちょっと残念。一緒にお酒飲めると思ったのに」
「なに、また機会はあるさ。その時はお酌でもしてくれ」
少し落ち込んでいた顔が明るくなる。
「絶対だからね!!」
そう言って、ソノラは鬼の御殿に走って行った。


よし!!!
会心の出来だ。
早速キュウマに持っていくか。
「あらぁ、少しは構ってくれてもいいじゃない」
「メイメイ・・・宴会に参加するんじゃなかったのか?」
「んふふぅ、もうそろそろだと思ってぇ帰ってきちゃったぁ
 というより大部分を潰しちゃったのよねぇ」
お前と言う奴は・・・
「メイメイ、これは工房を使わせてもらったお礼な」
そう言って俺は竜殺し(酒)を十本出す。
「おおっ。さっすがセツナ、わかってるじゃなぁい」
「これからも借りる事になるからな」
「いつでも借りていいわよう。にゃははははは」
機嫌よく笑うメイメイに礼をいって俺は風雷の郷に向かった。

「あっ!!セツナだー!!」
「ようソノラ。キュウマはどうしてる?」
セツナは刀を持って鬼の御殿へとやってきた。
もう出来たんだ・・・・
「ハヤカッタナ・・・」
「そうでもないぞ。もう日付が変わるくらいに夜中だ」
皆朝から飲んでたからなぁ。
「セ、セツナ殿・・・刀は・・出来ましたか・・?」
キュウマ・・・
「足腰立たないほどに飲まされたか・・・」
匍匐前進でやってくるキュウマ。
なんか無様だね。
「心配するな。自分でもこれ以上無いくらいの会心の作だ」
おお!それほど自信作なんだ!!
キュウマも目を輝かせている。
皆も刀が見たくて集まってきた。
「セツナさん早く見せてくれませんか?あんなに苦労したんですから」
アリーゼ・・少し怖いよ・・酔ってる?
「分かったよ。これが皆の協力のおかげで出来た刀だ」
セツナが刀を抜く。
みながその刀の美しさに見惚れる。
もちろん私も。
「凄い・・・」
「刀自体もかなりの魔力が込められているわね」
「それだけじゃねぇな。魔力抜きで斬れるぜこの刀」
「キュウマ、どうだ?」
皆がキュウマを見る。
キュウマはじっと刀を見た後・・・
「申し訳ありません。私にはこの刀を持つ資格がありません」
え?何で?
先生やアリーゼ他の召喚師達も驚いている。
ミスミ様は何か分かっているようだけど。
「当然じゃろうな。その刀はあまりにも凄すぎる。キュウマも恐れ多くて
 振るうことは出来んじゃろう」
セツナはすまなそうな顔で謝罪した。
「すまん。お前の事も考えずにただただよい刀を目指して鍛えてしまった」
え?
「いえ、これほどの名刀は忍びでしかない私では余りに刀に申し訳が立ちません」
刀でしょ?ただの武器じゃない。なのになんで・・・
「こればかりはおぬし等には理解できんよ。刀を作るもの其れを振るうものにしか理解できん」
「そうじゃろうな。たとえ我が良人豪雷の将リクトであっても手に取らぬであろうな」
「セツナ殿。その刀は貴方がお持ちください」
え?
「そして私がいつか其れを振るうにたる腕を持つまでお預かりください」
「分かった其れまではこの身の刃とさせてもらおう」
「セツナ、それほどの腕がおぬしにはあるのか?」
な、なんか話しに着いていけない・・・
セツナが屋敷の庭に出る。
キュウマとミスミ様も着いていく。
「居合いでいいか?」
「うむ。どれほどの腕かの」
キュウマが試し切り用のわらで出来た物を持ってくる。
セツナが目をつむり構える。
辺りが静寂に包まれる。
セツナが目を開け、その瞬間にわらの束が両断される!!!
うそ・・・・
「おい、何時斬ったんだよ・・・」
「な、何も見えなかった・・・」
本当に何も見えなかった・・・
「まさかこれほどの腕とはのう・・・」
「私はこれほどの領域に立つことが出来るでしょうか・・・」
ミスミ様とキュウマも呆然としている。
「抜く手も返す手も見せぬか。まるであやつの様じゃのう」
「便宜上俺の師匠の一人の技だ。似ているのは当然だな」
「それぞれ剣・槍・銃・体術の達人・・いや超人と言えた連中だしな」
凄い人たちの弟子なんだ。
「キュウマ、俺が稽古をつけようか?あのぢぢぃどもが俺にやったような鍛え方をしてやるぞ?」
あ、キュウマが真っ青になってる。
物凄い勢いで首を横に振ってる。
「何じゃキュウマせっかく申し出てくれておるのに」
「し、知らないからこそそう言えるのです。か、勘弁してください」
セツナが苦笑している。
それからセツナがそろそろ解散しようと言い出し、その場はお開きになった。



・・・・後日セツナが受けた修行という名の荒行の中身を聞いた私たちは
恐怖ですくみ上がると同時に、それをこなしきって生きているセツナに尊敬の念を抱いたのだった。
ついでに言うとセツナが斬ったわらの芯には鉄の棒が入っていたらしい。
それを躊躇い無く両断したのだ。あのときのセツナはかっこよかったな。
それと先生とアリーゼに約束したとか言うケーキをセツナが持ってきた
あんなに上等なお菓子は初めて食べたよ・・・おいしかったなぁ・・
強くて料理上手というか多芸多能おまけに格好いい・・結構女顔だけど。
やばい・・惚れちゃうかも・・・

さらについでに、キュウマ用の刀とミスミ様用の薙刀を作って贈ったらしい。
ミスミ様達はそれを気に入ったこともあってあの刀は正式にセツナの物になったらしい。
私も専用の銃を作ってもらおうかな・・・




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