俺たちはすぐにこの事を護人達に知らせた。
由々しき事態であると皆がそう判断していた。
アルディラからいち早く銃の使用許可が下りた俺は、
彼女に頼み込んで自分用の銃を自作させてもらうことにした。
コルト・ガバメントをモデルに自分の趣味と実益を兼ねて改造した
銃を作った。
同じ物をもう一丁作り、特殊弾使用可能用としてリボルバータイプの
コルト・パイソンをモデルにした銃を作った。
特殊弾は詳細は省くが貫通弾・徹甲弾・ダムダム弾(殺傷力の高い弾丸)
を用意した。


「これから集いの泉に集まるわ。貴方も来てくれる?」
「分かってるよ。あとリィンバウム製の銃もソノラに持って行こう」
「お気を付けて」
クノンに見送られ、俺たちはラトリクスを後にした。


ジルコーダ
それが木を食い荒らした新たに召喚されたメイトルパの魔獣だそうだ。
奴らは植物を喰らい恐ろしい勢いで増えていくらしい。
放って置けば島中の植物を食い荒らし、この島の生態系が破壊されてしまう。
俺達が出した結論はジルコーダの殲滅。
それは俺達が生きていくうえでどうしても必要な判断だった。
「どうしても・・・そうしなければならないんですか?」
「そうしなければ俺達がやばいんだよ」
アティの問いに、ヤッファがそう答える。
「アティ、呼び出されたといえ、奴らは俺たちにとっては害獣だ。  駆除しなければ自分たちの住処が危険になる」
「・・・自分たちのため・・・ですか・・・」
アティ・・・優しすぎる・・・違うな、甘すぎる。
「世の中どうにもなら無い事がある。全てが全て共存できるわけじゃない」
「ですが!!!」
ならこの例えはどうだ?
「アティ、おまえは当たり前に人を喰らう生き物と共存できるか?」
「いまは関係ないじゃ「あるんだよ」・・・・」
「今言ったのは極端な例だが、意思の疎通が出来ず、価値観が違いすぎる生き物との  共存は事実上不可能だ」
アティは沈黙する。
他の面々は納得したように頷いている。
「だから俺たちは奴らを放置できない。放置しておいてとんでもないことを引き起こされたら  結局迷惑を被るのは俺たちなんだよ。分かってくれアティ」
「・・・分かりました。ですが、彼らのために私に出来る事はさせてください」
「・・・・・分かった。出来る事を止める道理は無いしな。やるからにはやり通せよ」
頑固だな。まあいい、その信念を貫くことが出来るか見届けさせてもらおう。



「ここか?」
「ええそうよ。奴らこの廃坑に巣を作っているようなの」
此処は島内の廃坑。此処にジルコーダの巣があるようです。
「結構出入りがあるな」
「もう少し待ちましょうか」
カイルさんと先生が様子を窺っているがあまり良い様子ではないようです。
「しかし埒があきませんよ」
「囮を使って陽動するか?」
ヤッファさんがそう提案しましたが、
「危険だわ」
「カナリノ・・・フタンニナル・・」
アルディラさんとファルゼンさんが否定する。
そこにセツナさんがとんでもない事を言い出した。
「俺が囮になろう」
「セツナ!!!」
「一人では無理があるわよ!」
ソノラさんとスカーレルさんが止めようとしましたが、
「なに、3・40体ぐらいなら楽に相手できる」
「本当かよ」
大口を叩くセツナさんにヤッファさんが疑いの声をかける。
「任せておけ。出来る限り突入組みに人数を裂かねばならないなら、
多対一を得意とする俺が囮をした方が良い」
セツナさんの提案に皆が考え込む。
でも・・・・・
「なに俺にとっては大した事も無い。さっさと終わらせてマルルゥと一緒に宴会の準備でもしておくさ」
「ではそうしてもらいましょう」
キュウマさん!!
「絶対に、大丈夫なんですね?」
「俺の実力を疑うのか?キュウマ」
確かにセツナさんは強いみたいですけど・・・・
「さて、行って来るか」
セツナさんはそう言い凄い早さで廃坑に向かい、銃を取り出し門番をしているジルコーダに発砲した。
一瞬で銃声7発。倒れた敵も7体。しかも頭に大きな穴が開いている。
セツナさんの銃のグリップから何かが落ちて、すぐさま同じ物を落ちた場所に差し込んだ!
今度はもう一挺の銃を取り出し二挺の銃で敵を撃ちはじめた。しかも射撃は恐ろしく正確。
その戦いに皆が目を奪われる。まるで踊っているかのようだった。
セツナさんが戦いながら、廃坑から敵を引き付けつつ離れていく。
ジルコーダ達はかなりの数がセツナさんを追って行った様だった。
そして入り口には30体近くのジルコーダの死骸が倒れている。
「なんなの?・・・あの銃・・・それに・・・」
ソノラさんが呆然と呟いている。
「みんな!!行きますよ!!」
アティ先生が号令を掛ける。残ったメンバーが皆で女王の所へ突入する。
セツナさん御無事で!!!



「ふう・・・思ったほど大した事は無かったな」
引き付けたジルコーダ達は全て片付けた。
「さて、マルルゥと一緒に宴会の準備でも・・・の前に」
銃を後ろの木に向け、
「こいつらのように風穴開けたく無かったらおとなしく出てきな」
そう脅す。
「わかった。すぐ出るから撃たないでくれ」
出てきたのは黒髪の帝国軍の女性だった。
「た、隊長!!」
大柄な男も出てきた。
確か、
「アズリア・・・だったかな?そっちがギャレオか?」
その二人は頷く。
「私たちの事は、アティ達から聞いていたか」
「君は剣の使い手・・・そっちの彼は気功を使う格闘家・・・だったか」
「まあな。前にアティ達と会ったときはお前はいなかったな」
「ああ。火急の用・・・と言うか急患がいたもんでな。そっちの事は俺的には
どうでも良かった」
二人は顔をしかめる。
「仲間が人質にされていると言うのにか?」
軽蔑したかのように言い放つがこちらにも言い分がある。
「お前達が乗っていたというあの船の乗客の生き残りが漂着してな」
二人が目を見開く、がまだまだ。
「しかもそれが、お前達が人質にしたアリーゼの妹だったんだよ」
二人は愕然とする。
「な、では・・・・」
「正直に言って死に掛けていた。もう少し見つけるのが、応急処置が遅ければ
確実に生きてはいないとウチの看護婦さんに言われたよ」
二人が沈鬱な表情になる。やれやれ・・・
「何故お前達がそんな顔をする?お前達にとっては想定の範囲内だろう?」
二人は意外すぎる物言いに驚愕する。
「貴様!!我々がそんな人間だとでも言いたいのか!?」
「大抵の軍人の思考なんざそんなものだろう?任務が全てでその為の犠牲を仕方無いの一言で済ます。 そして現在かつての友の持つ剣を狙っている」
「確かに我々には任務が大事だが!!」
「そもそも何故客船に偽装なんざしたんだ?」
意味がわから無いと言う風な顔をする。
おいおい。
「襲撃を受ける事を想定したのなら普通貨物船に偽装しないか?」
「どういうことだ?」
だからだな・・・・
「今回のことだが、客船に偽装しそれが見破られ襲撃を受けた。しかも客船は沈没。 今現在船に乗るにはかなりの金額が必要になる。つまり乗っているのは主に金持ち、その息子や娘だろう。 さて・・・あれで何人が生き残ったのかな?」
――――――――二人が沈黙する。
漸く理解したのか二人の顔色は血の気が引いたように青くなる。
「そ・・・れは・・・」
「アリーゼやアティ、そしてベルフラウは運がよかった。このような事になったとしても こうして生きているのだからな」
しかしながらそうでもない人間も存在する。
「お前たちの落ち度だ。もしうまい事任務を終えて帰る事が出来てもろくな事にはならんぞ」
最早二人には言葉もない。
「なに帰るのを止めるなら今の内に任務を放棄し俺たちに付いたほうが身のためだぞ?」
「お前・・・・」
「ギャレオだったか?お前とは色々と気功に付いて語り合いたいところだがな」
「気功を?」
「俺も使えるんだがな。より効率よく使えないかを現在研究中だ。何か意見でもあったらいただきたい」
なかなか興味深そうな顔をしているな。
「今後の事、よく考えておけよ」
「・・・分かった・・・忠告痛みいる・・・」
「ではな。早いとこ帰って宴会の準備でも手伝ってくる」
「いつかはお前と酒を酌み交わしたいものだな」
「俺もそう思うよギャレオ」
「おい!貴様名前は?!」
「そういえば名乗って無かったな。刹那だ。神崎刹那。」
そうして二人に背を向け、ユクレス村に歩いて行く。
本当に、何のわだかまりも無く酒でも酌み交わしたいものだ。



ジルコーダとの戦いは終わりました。
『碧の賢帝』の力で彼らを送還する事に成功し、無駄に命を奪うことなく終わらせられました。
そうして気になるのが、たった一人で囮を買って出たセツナの事。
かなりの数のジルコーダを引き付けてくれたおかげで私たちはかなり楽でした。
でも、それなら彼は?まあ凄い早さでジルコーダを倒していましたが・・・
そうして、私達がユクレス村に来ると・・・盛大な宴会の準備が出来ていました・・・(汗)


「あっ!皆さん帰って来ましたよう!!」
「お、おいマルルゥ。こりゃあ一体・・・」
ヤッファさんがマルルゥに聞いていますが、まさか・・・
「ヤッファさんが宴会の準備をしてろって言ったんじゃないですかぁ」
や、やっぱりぃぃぃぃぃぃぃ!!!
ああ、ヤッファさんも頭を抱えています・・・
「おっ。帰ってきたなお前ら。怪我もない様で何よりだ」
せ、セツナ・・・なんで止めないんですかぁぁぁ。
「ヤッファ。おまえさぁ、マルルゥは良い意味で天真爛漫、悪い意味で単純なんだから あんな事言ったら本気にするに決まってるだろう?」
それはそうかもしれませんが・・・
セツナが来たときは既に7割ほど準備が終わっていたそうです。
なのでその3割を手伝ったそうですが・・・
「ほれ、島の危機を一つ潰した記念だ。盛大に祝って飲み明かそうじゃないか」
・・・・・・・・それもそうですね。
皆も賛成のようです。・・・仕方がないと諦めている方もいるようですが。
そうして・・・・島の皆による大宴会が始まりました。

「よう、飲んでるかアティ?」
「セツナ・・・私を酔わせてどうしようと言うんですかぁ?」
艶やかに、色気を振りまきながらそう返す。
アティさん・・・酔ってますわ・・・・
顔が赤いですわよ・・・兄様は全然酔ってないように思えますけど。
「いやいや。美人さんにお酌でもしてもらえないかなぁなんて思ったんだけどな」
「もう、口がうまいですねぇ」
アティさん・・・まんざら嫌でもないように見えるのだけど・・・
「そっちの美少女姉妹は食べてるかい?」
「そ、そんな美少女だなんて・・・」
姉様・・・お世辞ですわよ?
凄い真っ赤なんですけど・・・顔が。
「この料理はセツナさんが作ったんですか?」
「まあな。今回の料理の半分は作ったな。残りはオウキーニだ」
よく味わって食べないと・・・あまりにもったいないですわ。
「口には合うかな?ベルフラウ」
「当然ですわ。兄様の料理は私の舌に一番合いますもの」
これは本当。なぜか兄様の料理の味は私好みでたまらないわ。
兄様は嬉しそうに笑うと、アティさんに向き直って、
「一つ聞きたいんだが、無色のサモナイト石は名も無き世界のモノを呼べるんだよな」
「えぇ、そうですよう。何が呼べるかは現在でも研究されてますけどぉ」
兄様は無色の石を取り出し・・・な、何をする気ですの・・・?
「・・・・来い」
すると何かが呼び寄せられて・・・・ああ、皆さんこちらを見てますわね・・・・
そこに現れたのは・・・・・・・・瓶?
「おお!!うまくいったなぁ!!」
兄様?これは・・・?
あ、あっちからソノラさんが、
「セェツナァこれなぁにぃ?」
・・・・・かなり酔ってますわね。でもこれは何なのかしら?
「俺の世界の酒だ。他にも色々呼べそうだなぁ」
そう言って兄様は次々とお酒を呼び出していく。
兄様が言うには、ワイン・清酒・ビール・発泡酒・サワー・等など。
みんなが興味深々になり、次々にお酒を手に持っていく。
ミスミ様が焼酎に手を出し、ヤッファさんとカイルさんがビールに手を出し、他の面々も
思い思いの酒を手に取り飲み干していく。
兄様もミルクのような酒を手に取り私を手招きし、近づいた私を抱きしめ・・・・
「ええ!?セ、セツナさん?やっぱりベルとはそういう関係に!?」
「に、兄様!!いいいいいきなり何を!!」
「うーむなんかこう・・・抱き心地がよくてなぁ」
酔ってますわぁぁぁぁ!!
「兄様っ!!!自分が何やってるのか自覚して「してるぞぉ」・・・へ?」
「実を言うとな。俺は酔うと普段は理性で押さえ込んでいるような事を 進んでやってしまう様でなぁ。なんかこう抱きしめたいというか触れ合いたいというか」
わ、私兄様に求められてるの?
で、でも私まだ子供だし兄様も満足しないような貧相な体だしあああああ何言ってるの私ぃぃぃぃ。
「あーークノン?すまないが水をくれないか?酔いを醒ますから」
「どうぞ」
何で酔ってるのにそんなに理性的に動けるのよ・・・
「さて、少し散歩でもしてこようか。盛大に騒いどけよ。明日から修行の日々だからな」
了解ですわ兄様。
皆、召喚獣も人間も関係なく笑い合って、輪になって。
そうして騒がしい宴会は過ぎて行きました・・・・



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