さて、先ほどこちらの方にファルゼンが歩いて行ったのだがなぁ。
そう思いながら歩いていると、
「あ、あれ?セツナさん?何故ここにいるんですか?」
見知らぬ少女に話しかけられた。
ふむ?何かこの気配覚えが・・・ああ。
「お前さんこそ、ここで何してるんだ?ファルゼン?」


驚いた。
セツナさんに素で話しかけてしまった事もそうだが、
まさか自分がファルゼンだという事をいい当てられるだなんて。
「な、なんで・・・」
「まあ、最初は分からなかったがその、なんだ、気配でな」
け、気配って・・・
気を使えるヒトはこういうのも分かる物なんでしょうか。
「そっちが素なのか。まさかこんな可愛らしいお嬢さんだとは思わなかった」
「そ、そんな。可愛らしいだなんて」
ああ、嬉しいというかくすぐったいというか。
そんなこといわれたのは、もう何十年ぶりなんだろうか。
ああ、浮かれている場合じゃ・・・・
「えっと、ファルゼンは鎧に憑依しているときで、今はファリエルと呼んで下さい」
「了解。ファリエル」
「それと、この事は秘密に・・・」
「分かってるよ。色々と理由があるんだろうしな」
話が早くて助かります。
セツナさんが椅子に丁度良い感じの岩に腰を掛けた。
「さて、そんな状態じゃ色々あるだろうから、愚痴ぐらいなら聞いてやるぞ?」
なんか他人のような気がしないからな。
セツナさんはそう言って笑いながら、今まで溜め込んだ私の愚痴をいつまでも聞いていてくれました。
なぜか―――兄さんが居た頃の事を思い出して・・・少し嬉しかった・・・


翌日
「おはようクノン。なんだ、どっか行くのか?」
クノンが出かける準備をしていた。装備からして何かの採取のようだが。
「おはようございます、セツナ様。私はアルディラ様の薬の材料を採取しに廃坑へ出かけてきます」
薬?どっか悪く・・・
「二日酔いか?かなりの量の酒を飲んでいたが」
「いえ、違います。融機人はリィンバウムでは定期的に免疫を高める薬を摂取しなければならないのです」
厄介なものだなぁ。そうしなければならないなら仕方ないのかもしれないが。
「その薬の材料を採取してきます。何か必要なものがあればついでに採取しますがいかがいたしましょう」
「今のところ特に必要な物はないが・・・後でその薬の作り方を教えてくれ。後々役に立つかもしれん」
「了解しました。ではいって参ります」
「いってらっしゃい」
そしてクノンは出かけていった。
・・・・・妙な胸騒ぎがするのは何故だろうな・・・・

しばらくすると、ヤッファとカイルが訪ねてきた。
「「頼む!またあの酒を出してくれ!」」
「いや・・・あのな?」
土下座まですることなのか?ヤッファにカイルよ・・・

とりあえずヤッファ達ににビールを一樽(ビアホール用)くれてやり狂喜乱舞する二人を見ない振りして 青空教室に向かっていた。
今日は各種武器の利点と欠点を講義するのに助手をして欲しいらしい。
「あ、来た来た!にーちゃーん!」
「お兄さん!こっちこっち!」
スバルとパナシェが大声で俺を呼んでいる。
「待たせたかな?」
「何かしていたんですか?」
アティに事情を説明する。
一緒に聞いていたマルルゥが、
「もうっ、シマシマさんも仕方ないです」
と呆れていた。
そして・・・・
「アニキ・・・あのお酒そんなに気に入ったんだ・・・」
なぜかソノラがいたりした。
「おいソノラ。何で学校にいるんだよ」
「ぶーぶー!別にあたしがいたって良いでしょー!?」
「私から授業の内容を聞いて銃の扱いを復習しようと思ったらしいんですよ」
なるほどなぁ・・・・
「どうせなら技も何か教えて欲しいなぁ・・なんちゃって」
技ねぇ・・・・体術でも教えようか。それにあわせて銃を使うのも手だしなぁ。
「先生、セツナさん。そろそろ授業を始めませんか?」
「そうですわよ。私は今日が初授業ですのに」
「ああああ、ごめんなさい!早く始めましょう!!」
と言う事で授業が始まった。


な、何とか一通りの武器の説明が終わりました。
私が解説、セツナが実演及び補足をしてくれるのですが、基本から離れて応用は応用でも
達人にしか出来ないような高度応用まで見せるものだから、脱線に脱線を重ねてもう授業が終わってしまいました。
もう皆、その動きや武器の使い方に驚き、または感心していました。・・・・私を含めて。
「そっかー。おいら斧振るのに腕しか使ってなかったけど・・・体全体を使うのかぁ」
「僕が使うなら弓が良いなぁ。僕には殴り合いとかできそうに無いよ」
「マルルゥも弓を使ってるですよ。杖だって使えるです」
「私はこのまま杖を使うほうが良いですね。これからは振り回す以外の戦い方も出来そうですし」
「私も弓が良いですわね。でも接近戦用にこの小太刀でしたっけ?これも使ってみたいですわ」
「体術で軽やかに動きながら銃把で殴り倒したり、一気に数人に狙いを付けて撃つ・・・かぁ。こういう戦い方もあったんだなぁ」
「私も剣の扱いは自信があったんですけど、まだまだ未熟なんですね・・・・」
うう。もっと訓練しないと・・・
私は少々落ち込み気味ですが、子供たち(ソノラ含む)は興奮気味にこれからの事を考え、話し合っています。
セツナが苦笑気味に、
「いきなり高度なのを見せすぎたかな?」
なんて言ってますけど、
「いいんですよ。こういう使い方があるって知っていればそれが力になるときが来るでしょうし」
私もかなり参考になりましたし。
そういえば・・・・・セツナって何歳なんだろう?聞いてみようかな?
「セツナ、貴方は何歳なんですか?それだけの知識と技術は長い間研究しないと身に付かないと思うんですけど」
「ああ、言って無かったっけ。18歳だよ俺」
「「「「「ええええええええええーーーーーーー!!!!!」」」」」
そ、そんなに若かったんですか!!
「お、おいら25歳ぐらいだと思ってたぜ!」
「お、お兄さん落ち着きすぎだよう!」
「わ、私たちとそんなに歳変わらないんですか!」
「それはそれでチャンスかも・・・・・」
「な、何がチャンスなのベルフラウ・・・・?」
年下・・・2歳も年下の相手にあらゆる面で劣っているんですか?私・・・・
ふふふふ・・・・なんかもう自信とかそういうのが木端微塵に・・・・
「まあ、俺の場合は持ってる才能からして普通じゃないしなあ」
それはどういう――――たしか、作る才能でしたよね。
「兄様?それはどういう才能ですの?」
「俺は作ると言う事に特化した才能を持っているんだ。逆に言うとそれ以外何も出来ない」
あれ?じゃあセツナは何でそんな色々な事ができるのでしょうか・・・・?
首を傾げる私を尻目にセツナの解説は続く。
「此処で言っておくが物を作るには膨大な知識と精度の高い技術が必要になる。 料理を作るにも食材に関する知識や使う器具、調理のための技術があるだろう?」
そうですね。確かに・・・
皆も頷いたり感心したりしています。
「作る才能に特化していると言う事は、作るのに必要な才能も軒並み高いレベルで持ち合わせていると言う事でな。 知識欲が強くてかつ一度見聞きした物を忘れない記憶力、あとなにかしらの技術の習得と言う方面にも異常なくらいに高い才覚を持っている」
とんでもないですね・・・・
皆も驚いてますが・・・・
「後は自分の体を自分の思うがままに完全に制御できるぐらいかな?」
そうなんですか・・・・って何で?
「お兄さん、体を思うがままにって?」
「細かい作業をしているときに手がぶれたりしたら困るだろう?」
ああ、そういうことですか。
「俺が高度な戦技を使えるのはな、俺のいた世界の武術家なんかはそれぞれ流派があって、それが何百年もの間研鑽され継承され続けてきたのを俺が習得したからだ」
何百年もの研鑽・・・ですか。でもセツナ自身には戦う才能がないはず・・・
「セツナには戦う才能はないんでしょ?なのに・・・・」
「俺が受けた訓練の事は聞いただろう?」
皆の脳裏に想像すると心臓に悪い光景が浮かびだす。
ああベルフラウちゃんも聞いてたんだ・・・顔色がどんどん悪く・・・
「戦う才能が無いと言うことは、戦闘における感覚が掴めないと言う事でな。まぁ分かりやすく言うと直感が働かないんだ」
それは致命的ですね。咄嗟の回避やチャンスを見極めることが出来ないと言うことですから。
「まあそれをひたすら戦闘経験を積む事により、戦闘における経験則という物と独自の戦闘理論を構築する事で克服したんだよ」
相当の努力を必要とするけどね。
苦笑いしながらセツナはそう語る。
それがどれだけの修練の、実戦の果てにあるものなのか。
考えると眩暈がしそうになるほどで・・・
「俺は努力するしかなかった。周囲のいろんな物に負けないために。そういう理由で体を鍛えたんだ。ならばと言わんばかりにしこたましごかれたけどね」
いつだって才能を凌駕するのは努力なんだよ。
微笑みながらそう語る。
セツナはそれを、まさに体現して見せたんですね。
「ジルコーダと戦ったときもそういった物の積み重ねだったんですね」
「いや、アレは単純に武器の性能によるものだ」
はい?
「セツナ・・・それってまさか」
「あの銃な。俺の世界の銃を再現して更に改造を施した特別製だ。元々威力の高い銃な挙句強化したためあいつらを一撃で倒せるようなとんでもないブツになっただけで」
「そ、そうなんだ・・・・」
「ああ、後あれはああいう固い奴か殺さなきゃならない奴にしか使わないぞ。人間だと・・・確実にでかい風穴が開く」
ぞっとする。あんなものを撃たれたら・・・・確実に死ぬ。
「どんな武器でもみだりに使ってはならない。武器つまり殺傷するための道具である以上どんな武器でも総じて第一級の危険物だ。 それを持つ以上それを扱いこなす知識と技術と、武器がもたらす結果の覚悟を持たねばならない」
セツナは真剣な目で皆を見てそう話す。全員が真剣な顔で頷く。
「忘れるなよ。力には善も悪も聖も邪もない。それは力を振るう者によって決まるものだ」
まあ言うだけ言ったな、とセツナは言い、授業は終わりだ遊びに行こうか、と子供達を誘って行ってしまった。
私は・・・セツナの言うような覚悟を持っているんでしょうか・・・?


セツナさんと共にベルやスバル君たちと遊びに行く事になりました。
なんでもセツナさんがラトリクスで、暇にあかせて遊び道具を作っていたらしくて、それで遊ぼうと言う事になりました。
セツナさんの国の昔懐かしい遊び道具や他の国のカードゲーム等色々と作っていたようです。
私たちにそれを話しながら、懐かしむような顔をしていました。
そうして賑やかにラトリクスに向かっていると、セツナさんが険しい顔をして皆を止めました。
「どうしたんですの?兄様」
「あれ、見てみな」
あれは!
数匹のジルコーダが木を食べています!。
「どうやら生き残りがいたらしいな。とりあえず・・・アリーゼ、なんか持ってるか?」
えっと・・・・
「ダークブリンガーとキユピーしかないです・・・」
「ダークブリンガーで奴らの体の節を狙え。あの手の生き物の急所は関節だ」
すぐさま指示を出してきました。
そして指示通りに召喚術を起動し、言われたままに節を狙う。
召喚した剣は思い通りにジルコーダを貫き絶命させました。
「姉様・・・凄い・・・」
「そ、そんな事・・・」
ああ、なんか照れる・・・・こんな風に尊敬されるなんて無かったから。
「生き残りがいるという事は・・・まさか!」
セツナさんが突然走り出そうとして、
「お兄さん!何かあるの!?」
「今廃坑にはクノンがいる!まだジルコーダが残っていればまずい事になる!」
そんな!クノンさんが!
「俺は一足先にクノンの元に向かうから、お前達はアティ達を呼んで来い!」
「はいっ!みんな、行きましょう!」
そして私達は先生達のいるところを目指して駆け出しました。
クノンさん、御無事で!





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