いけませんね。
結構な数のジルコーダが生き残っていたようですね。
完全に囲まれてしまっています。
警告しても相手は聞き入れてはくれないようです。
「GYASYAAAAAAAA!!」
ああ、もうだめなのか―――――「っらぁぁぁぁ!」
ベゴンっ!!という壮絶な打撃音がして私を襲っていたジルコーダが吹き飛びました。
頭部が拳大に陥没しているように見えますが・・・こんな事人間に可能なんでしょうか?
「クノン・・・なんかお前結構余裕あるように見えるんだが・・・」
「そんなことはありません」
貴方が来てくれたから、安心しているのですよ?セツナ様。
セツナ様は、はぁ。とため息を吐いて、周りを油断なく警戒し真剣な顔を見せる。
元々美形な方ですのでこういう顔は一般の女性にはたまらないのでしょうね。
一目ぼれしてもおかしくないでしょう。
「クノン・・・やっぱり余裕あるだろうお前・・・」
「ですからそんなことはありません」
武器を持っていないのでいっぱいいっぱいです。
しかし・・・何のかんのと言いながら蟲達を片っ端から殴り倒し、 蹴り倒して行くセツナ様は・・・やはりヒトのそれを超えているように思えますね。
・・・・!?
服の背中の部分が切り裂かれている!まさか・・・怪我を?
セツナ様は自分の傷など構うことなく敵を倒していく。
手刀で体の節を切り離し、震脚で頭部を腹部を踏み潰し、全身の力を拳に凝縮した一撃で ジルコーダの固い外殻を粉砕しています。
そして最後の一匹の頭部に恐ろしく鋭い回し蹴りが放たれ、頭部をもぎ取りました。
そして―――――
「クノン!セツナ!無事です・・・・か?」
助けが来たみたいですね。
丁度終わったところですが・・・・

なんと言うかこれは・・・凄すぎる。
いくらなんでもありえないだろう?
強いのは判っていた。その片鱗は目の当たりにしている。
あれは・・・加減していたのか?
「これは・・・まるで鬼神が大暴れしたかのような光景ですね・・・」
キュウマがそんな感想を漏らす。
ジルコーダ達が、俺達があんなにも苦戦した相手が見るも無残な屍を晒している。
「てめえ、この数相手に無傷かよ。いったいどんな戦い方しやがったんだ?」
ヤッファが呆れたように問いかけるが・・・
「非常に効率的に構造上の弱点に集中して攻撃していました。一部を除いてですが」
目の当たりにしたであろうクノンがその問いに答える。
「一部を除いてたぁどういうことだ?」
俺の問いに今度はセツナが答えるが・・・
「ストラを使用して肉体を強化しつつ、震脚――まぁ本来踏み込みのためにやるんだが それで踏み潰したのと、全身の間接を連動させて発生する力を右の拳に集めた一撃でそのまま粉砕した」
・・・・・・・・・・はぁ!?
「踏み潰すってお前・・・いや確かにやれん事もないが」
「「「やれんのかよ!!」」」
数人からつっこみが入るがそれよりも!
「その一撃ってどうやるんだ?頼む!教えてくれ!」
頭を下げる俺にソノラとスカーレルが驚いている。
「まあ教えても構わないぞ。拳主体の格闘技の技術だしな。ある意味奥義でもあるが」
奥義と聞いてますます俺のボルテージが上がる。
「後で教えるから今は勘弁してくれ」
む・・・仕方ねぇな。
「セツナ様」
クノンがセツナに話し掛けている。
「助けていただきありがとうございました」
あ?ああそうだった。俺達クノンを助けに来たんじゃねぇか。
セツナだけでやっちまったが・・・
「ですが何故お一人で此処にこられたのですか?」
危険ではないですか
そう言われたセツナは、
「クノンが、一緒に暮らしている家族が危険な目にあっているのに悠長な事はやってられないだろう?」
それだけ大事なんだよ
ああ。こいつは・・・今までこういう家族は居なかったんだな・・・
そう直感する。そういやぁじいさんと二人暮しだっていってたな。
「私が・・・家族・・・ですか」
続けて何か言おうとしたクノンにセツナが、
「そうだ。たとえお前が機械人形でも、同じ集落で暮らしている家族だろう? 俺はな、クノンもアルディラも家族だと思っているんだよ」
そうだな。俺も今はソノラもスカーレルもヤードも先生もアリーゼも家族だと思っているしな。
するとクノンはどこか戸惑ったように、だが、嬉しそうに笑って・・・
「では帰りましょうセツナ様。私たちの家に・・・」
「ああ。そうしようか。皆はどうする?」
セツナも嬉しそうに笑って返す。
あのクノンが笑った事に驚いていて誰もそれに答えない。
「そこまで意外なんでしょうか・・・・」
「お前らな。クノンは今までアルディラしか会話する相手が居なかったから表情が乏しかったんであって、 今は俺やベルフラウ、アティともいろんな人と会話しているから感情関係の経験が積み重なって、少しづつ 表現が豊かになっていってるんだよ。」
だからそんなに驚くな
セツナが良い感じに怖い笑顔で警告してくる。
それを見た全員が壊れたようにがくがくと首を縦に振る。
頼むからそんな怖い笑顔はしないでくれ・・・本気で怖いんだよ!


クノンと共にリペアセンターに戻り漸く一息つく。
「セツナ様、早く背中を見せてください」
やっぱりばれているか・・・・
俺は服を脱ぎ、背中を見せる。
自分では見えないが結構な怪我をしている。
「いつ傷を負ったのですか?」
「クノンがやられそうになって居るのを見てな。なりふり構わず途中の奴らを強引に振り切ったときだな」
思いっきりやられたが、ストラである程度回復したつもりだが。
「本当に戦いは不得手なのですね」
「言ったろう?俺は作る事に特化していると」
そっちの才能があればこんな傷は負わないだろうになぁ。
「後、毒も少し回っていますね。今日はもう戦闘行為は禁止です」
「言われなくてものんびりするさ」
クノンが解毒剤を投与し、ガーゼを当て包帯を巻く。
「兄様・・・大丈夫ですの?」
ベルフラウが心配してくれる。
彼女の頭をなでながら、
「大丈夫だ。この程度では死にはしないさ」
さて、ベルフラウの訓練はどうしようか・・・
「兄様、今日は訓練はしなくて良いですわ。怪我を治すことを第一に考えてくれますか?」
ベルフラウ・・・・そうだな。
「俺の部屋に弓に関する教本がある。それを見て復習してくれ」
ベルフラウはきょとんとして、苦笑しながら了解してくれた。
ベルフラウが行った後、クノンが融機人の免疫の薬の作り方を教えると言われそれを見に行った。

そろそろ食事の準備でもしようかと思い、厨房に入り下ごしらえを始める。
そういえば昨日風雷の郷から色々分けてもらったな。
今日の晩御飯は和食にしようか。
料理をしていると、イスラがやってきた。
「今日の晩御飯は何なの?」
「俺の国の家庭料理だ。そういえばイスラ、箸は使えたっけか?」
「大丈夫だよ。家でもシルターン風の料理が出る事あったし」
ほう、そうなのか・・・
「具体的には何を作るの?セツナの料理は本当に美味しいから楽しみでしかたがないんだ」
「そう言ってくれると料理人冥利に尽きるな。魚の煮つけと蟹の味噌汁。何種類かの刺身と後一品ぐらいかな」
イスラ・・・よだれよだれ・・・
「おっとごめん。みっともないところを・・・」
「別に構いやしないさ。体の調子は?」
「快調だよ。それよりお腹が空いたね」
はっはっは。食いしん坊万歳め・・・
「細身の割りに食うよなぁお前・・・」
「セツナの料理が美味しいのが悪いんだよ?はじめて食べた時のあの衝撃は忘れないよ」
本当にショック受けてたよなぁ。
「腕によりを掛けるから、もうしばらくおとなしく待ってな」
了解、と嬉しそうに笑いながらイスラは厨房から出て行った。

食事の準備を終えてからアルディラが帰ってきたが、どうやら帝国軍と一悶着あったらしい。
アティが説得しようとしたが聞く耳を持たなかったらしい。
まあ軍人ならそんなものだろう。
そう言うとイスラに驚かれた。
曰く、どうしてそう思うんだ?と。
そんな事は簡単だ。
国の利益になると思えるものなら何であろうと利用し、使用する。それが軍人の思考だ。
そう話すとイスラもアルディラもクノンも納得していた。
ただベルフラウだけが、そんなものになりたくないと、そう言葉をもらしていた。

ちなみに食事はいつも通り、イスラとベルフラウの争奪戦(今回は唐揚げ)が勃発し、 アルディラはいつも通りそつなく自分の分はしっかりと確保し、クノンは食事がしたいと本気でそう呟いていた。
・・・・後でアルディラと一緒にクノンの改造プランを議論しよう。



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