アニキは呆れた表情を隠すこと無くジャキーニを眺めていた。
 だってそうでしょ?
 あいつらが取ってる人質って、オウキーニだよ?
 あの髭、自分の義弟を人質にしてるんだよ?
 何やってんのいったい・・・
 でもなぜかいつの間にか戦闘要員になってあたしたちの前に居るけど。
「そんなのあんさんに聞いておくんなはれ」
 だよねー。
「ところでソノラ」
「なーに?」
 アニキがなんか難しい顔であたしの手元を見てるんだけど。
「それ、なんだ?」
「良くぞ聞いてくれました!」
「うおっ!?」
 ほんと聞いて欲しかったんだよ!
 そう、セツナに頼んで作ってもらったあたし専用の銃!
 特に名称は無くてセツナはウェポンシステムって呼んでるけど。
「ソノラはん。何ガチャガチャやってますのん」
 あたしは腰に下げてた専用のホルダーからシステムパックを取り出して素体となる拳銃に
追加部品を取り付けていた。この作業が楽しいんだよこれが。
「あたしさ。セツナんとこでいろんな形式の銃を見たんだ。で、リクエストされたときに全部欲しいって言ったんだよね」
「そ、そうか・・・」
 ふんふんふーん。
 ああ、つい鼻歌が出ちゃう。だって女の子だもん。
「待てソノラ。普通の女の子は銃の手入れとかで鼻歌は歌わねえ」
「せやでソノラはん。そういうんは普通料理とかで・・・」
「・・・あたし料理得意じゃないもん」
「地雷踏んでもた!」
 悪かったわね。どうせ最近セツナに料理習い始めたベルフラウにさえ負けたわよ。
 パックの取り付けが完了し、あたしはジャキーニに狙いをつける。
「あの・・・ソノラはん? そのやたら長い銃身はなんでっしゃろ?」
「スナイパーライフル。狙撃銃だよ」
 このシステムの凄い所は元の素体にシステムパックを取り付ける事で全く違う銃に性能を変えられることだ。
 なお弾丸は機械兵士の自動弾丸生成システムを流用していて事実上弾丸無制限との事。サイッコーだね。
「さて、セツナ謹製ウェポンシステム。あたし命名ソノラスペシャル! その威力、とくとご覧じろ!」
 本当はまだお披露目するのは早いんだけど、セツナが結構怒ってるからなあ。
 ジャキーニ、あんたが悪いんだよ。


「さて、セツナ。アレに対する弁解はあるのかしら?」
「ないなアルディラ。それとあれ、まだ未完成だ」
 ちょっとセツナ。あれはまずいでしょう。
 あの巨木の幹を深々と抉ったわよ?
 ジャキーニが恐怖で凍り付いてるじゃない。
「あれな、拡張パックをつける事でハンドガンからマシンガン、ライフルに散弾銃とその形態を変えるんだ」
「・・・そんな物をあの子に与えたの?」
「いった通りまだ未完成だ。今のところ素体部分のハンドガンとライフルしか完成して無い」
 そんな問題でも無いでしょうに。
「今は人に当たっても死なないように模擬戦用のゴム弾を生成するように設定していたはずなんだが・・・」
「紛れも無く実弾よね」
 あれー?と首を傾げるセツナだが、ワザとらしい。なんと言うか、本音が透けて見える。
 セツナは普段島のあちこちで何かしら修理したり作っていたりすることが多い。
 本人はそれが一番役立てると認識しているのもあるし、正直助かっている。
 呼び出された者たちの中には正式な大工は居ないのだ。郷も、村も、素人が見よう見まねで作ったものに過ぎない。
 そこにセツナと言う職人が現れたのだ。
 風雷の郷の民家や屋敷もセツナが作り直したり補修したりしているし、ユクレス村の民家も雨漏りなどが酷かったのを
完璧に改善してのけているのである。ラトリクスはロレイラルの技術を流用していてまったく問題ないけど。
 そして、海賊達だ。この場合ジャキーニ一家と言うべきか。
 セツナはカイル一家の物もそうだけど、船の修理用のパーツの作成を手がけている。
 結界があるから今は出られないものの、出られるようになったら自由に出て行けるように船の修理を一手に引き受けている
のだ。ただ一人と言うわけではない。セツナに修理されたロボット達や、そういった作業に興味を持つ郷の若い鬼人たちや
村の獣人たちが積極的に手伝いをしてくれている。
 なんと言うか、大工の一家の棟梁とか親方みたいな事を言われているのだ。はまりすぎてて誰も反論できないが。
 つまり、怒っているのだ。この島一番の職人さんは。
 まあそれは分かる。普段の生活から彼らの船の修理までほぼ無償でやっているにもかかわらずこんな事をやらかす
ジャキーニ一家に怒りを抱く事はむしろ当然なのよ。
「アルディラお姉さま」
「なに? ベルフラウ」
「マルルゥがジャキーニさんたちを懲らしめるのにいつの間にか参加してますけど」
「あらホント」
 自分を慕ってくれているベルフラウに言われて戦場を見ると、緑色の小さな花の精が杖を振り回して召喚術を使っている。
 そしてジャキーニが呼び出した召喚獣たちが吹き飛んでいく。結構やるのねあの子も。
 そもそもジャキーニたちが暴れる理由は、本人達曰く自由が欲しいとのこと。畑仕事に従事させてはいるけど、それ以外
は特に強制してはいなかったはずなんだけど・・・。
「海には近づけてなかったからな。海の男が畑仕事に従事してばかりなのが気に食わなかったんだろう」
「そういえばそうだったわね。で、どうするの?」
「アティに押し付けよう」
「へ? あのちょっと、セツナ?」
 押し付けられたアティが凄く慌てている。相変わらずくるくる表情が変わる子ね。でも基本は笑顔だし。
 ・・・何か懐かしい顔を思い出したわね。この子はどこか似ているわ。
 ―――ねえ、マスター?
「あ、アルディラ!」
 なに? 人がせっかく浸っ・・・ってえっ!?
 どごおおおん、という音とともに水着なので戦闘参加していなかった女性陣がいる、つまり私たちの間近に
召喚術の流れ弾が落ちる。
「大丈夫かみん・・・すまん俺は何も見なかった」
 セツナが慌てて私達に視線を向けて、すぐに後ろを向いた。
 私たちが妙にスースーする体を見ると・・・
「んなっ!?」
 流れ弾の威力で水着が吹き飛び裸が・・・っ!?
 そして今の今まで戦っていた男性陣の視線が私たちに集中している。
 何人かは鼻から赤いものが見えている。
『っきゃあああああああああああっ!!!!!!!!』
 その後は覚えていない。
 ただ、セツナが十字を切る(彼の世界での宗教の冥福のポーズだとか)姿を覚えているくらいで、私たちが気づいたとき、
セツナと子供たちが大慌てで持ってきたらしい毛布に包まった私たちと、ボロボロの男性陣(スカーレルとファルゼン除く)
と、戦場となっていた見るも無残な大樹の姿だけだった。


 ジャキーニ一家は無事に取り押さえられた。というか、埋まっている。
 ヤッファの管理問題とかいろいろ出たが、それはまたあとで説教が行われる予定だそうだ。
 ミスミ様が凄くやる気になっているらしい。
 しかし・・・
「イスラが召喚術を教えた・・・ですか」
「まあ理由は分かるな。ジャキーニたちは一応俺たちに虐げられている事になっているんだし。なあキュウマ」
 ええ、セツナさん。で、ジャキーニたちはアティ先生に押し付ける、と?
 ああそれと、イスラから習った云々は戦闘中に聞き出しました。
「一応監督責任者はアティだし。あれの管理が甘かったってことで。あと、イスラの読み間違いかな」
「ええ。ジャキーニたちはべつに我々を恨んではいないようですし・・・」
「まあそりゃそうだ。あいつらは相応の罰を受けていると納得しているし、船が壊れている上にやることが無いので畑仕事。
船は俺が修理してるからそこにまったく不安は無いらしくて腹も満たされてるから特に不平不満は無いらしい。一つあるなら」
「海、ですね」
 そう。海だ。海賊は海の男。カイルたちは比較的損傷が少なかったからそのまま船で寝泊りしていますが、彼らの船は
損傷が激しく、生活するのは難しい。なのでユクレス村で生活しています。だから海に飢えているのでしょう。
「今度小船でも出して地引網でもやろうか」
「いいですね。今度は海鮮鍋でお願いします」
 もちろん人手はジャキーニ一家だ。海で一仕事できれば彼らとて満足でしょう。
「話は戻るが、イスラのことだ」
「はい」
 セツナさんが表情は笑顔のまま雰囲気だけを鋭くした。
 恐らく今後の予測される事象が芳しくないのだろう。
「イスラもそうだが、帝国軍の目的はシャルトスの奪取。それに尽きる」
「はい」
 それは今までの行動からも分かりきっている。なら何が気がかりか。
「それともう一本は、紅の暴君【キルスレス】は何処に行った?」
「―――っ!!!」
 あっ! ああああああああっ!!
 考えてすら居なかった!
 そうだ。剣は二振り存在している。碧の賢帝と紅の暴君。碧の賢帝はアティ先生が持っているが、なら!
「紅の暴君を探さねば!」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・?セツナさん?」
 沈黙しているセツナさんは、おもむろに口を開いた。
「最悪の、場合だが」
「はあ」
「帝国軍が既に手にしているかも知れん」
「・・・ありえないでもないですが、それなら碧の賢帝への対抗手段として出してきても」
「適合者がいないなら出す事もできまい」
 なるほど。
 私たちは知っている事だが、封印の剣には何らかの適正があるらしい。アティ先生は適合したらしいが何が条件になっている
のかは私たちも知りえない。そういうことなら帝国軍が手に入れていても使えないという事態も理解できる。
 ・・・?
 セツナさんはなぜか顔を手で覆いながらその指の隙間から遠くを見ている。
 そして、その後呟いた言葉は私の耳に嫌に残った。
「まさか適合条件は・・・まさかな。そんな理由で適合するなんて事は・・・だが、俺なら・・・」
 彼はその明晰な頭脳で先を見通して少しでも有利に進めるつもりなのだろう。
 だが、セツナさんは突然大きなため息を吐いて肩を落とした。
「その前にこれをどうにかしないとなあ・・・」
 目の前に広がる惨々たる光景。そして大樹の残骸に埋もれるヤッファたち。ちなみに私は先程セツナさんに発掘されました。
「これ、どうやったんです? 私にはあの瞬間の記憶が無いんですけど」
「・・・女性陣全員参加による聖鎧竜スヴェルグの合体召喚だ。悪夢の光景だった」
 ちなみにソノラさんは集まっていた女性陣の傍から狙撃しておりもろに余波を受けて水着が破れて参加したとの事。
 そして、この場に残されたのは頼れるみんなの職人さん(と書いて後片付け担当という)のセツナさんとロレイラルの
ロボットたちだ。今は発掘ポイントを指示されたロボットたちが順調に瓦礫を片付けている。
「とりあえずしばらく無心で過ごせ。あの光景が脳裏をよぎった瞬間に、お前ならミスミ様から風の刃が飛んでくるぞ」
「・・・善処いたします」
 だめだ、忘れろ私。あの方は我が主君リクト様の奥方なのだ。
 し、しかし・・・あの一瞬の光景が脳裏に焼きつい・・・あれ?セツナさん?何でそんなに離れた場所に?
「召鬼・風塵」
 今まで生きていて聞いた事の無い程の冷たい声が聞こえ、もう一つ言うなら聞いた事の無い術の名前を聞いて、私は
局所的に発生した凄まじい吹き降ろしの風に地面に叩きつけられ、何とか顔を上げた先に居たのは・・・・・・・・・


「ダウンバーストか。瓦礫も綺麗に吹き飛んだな」
「はあっ、はあっ、はあっ!」
 顔を真っ赤にしたミスミ様が普通は死んでるような一撃をキュウマに見舞っていた。
 まあ、それもそうか。俺は即行で顔を逸らして極力視界に入れなかったが、あいつらガン見してたしな。
「あんな術聞いたこと無いんですが?」
「今思いついたんじゃ」
「ああ、納得」
 怒りと羞恥のあまり、と言った所か。まあそりゃあそうだろう。鬼人の女性。それも鬼姫が夫以外に肌を見せるはずも無い。
 水着は許容範囲らしいが、境界線がいまいち分からない。
「セツナ。お主は見てはおらんと言うのは本当か?」
「アルディラの上半身は見てしまいましたが、その時点で展開が読めたんで即行で後ろを向きました」
「うむ、よろしい」
 嘘は言えない。キュウマと同じような状態にはなりたくないし。
「でじゃ、セツナよ」
「アイ、マム」
「なぜに軍隊口調なんじゃ? まあ良い。瓦礫もなくなってあやつらを発掘する必要もなくなったし、食事の準備でもしてく
れんかの?」
「了解です。何なら皆で一緒に作ります?」
「何を作るのじゃ?」
「餃子でも如何です? スバルたちと一緒に」
「ふむ、では皆呼ぼうかの」
 そんな事を話しながら、俺はロボットたちに昏倒する野郎どもをリペアセンターに運ぶように指示しておく。
 その晩、男の姿が俺とスカーレルのみという中、集いの泉では餃子祭りが開催され楽しむ事になったのだった。

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