海賊たちが宝の地図を見つけたとかで騒いでいた。
 といっても騒いでいるのはジャキーニ一家だったが。
 料理関連で俺と仲の良いオウキーニから誘われて宝探しをしたのだが、散々だった。
 昔漂着して全滅したらしい海賊の幽霊が出てきたり、お宝はその一家の血染めの海賊旗だったり。
 海賊旗は海賊たちにとっては何か感銘を与えるものだったらしいが、海賊ではない俺にはあまり訴えるものでもなく、
単純に疲れただけだった。
 ジャキーニたちはその後、海で地引網をするために網を仕掛けさせてから大人しくなった。
 海での仕事を任せたら結構満足したらしい。流石海の漢。
 ただ海産物嫌いのジャキーニだけはなんか騒いでたが・・・
 ちなみに、翌日の夕飯は海鮮物のフルコースが決定し、ジャキーニが悲鳴を上げた事だけは記しておく。


 私、アティは教え子二人を連れて歩いていると、妙な光景に出くわしました。
 スカーレルさんに迫るカイルさんとオウキーニさん。
 スカーレルさんは悲鳴を上げながら必死に逃げようとしています。
 ・・・・・・・・・・・・そうですよね。
 愛の形は人それぞれですよね。
 さあ行きましょう二人とも。邪魔をしては「先生!見捨てないでー!」


「俺たちはノーマルだー!」
「いくらなんでもひどいでっせ!」
「ごめんなさい! 私が悪かったです!」
 ・・・流石に違うでしょうアティ先生。
 呆れるばかりですわ。
 そもそもスカーレルさんなら受け入れるでしょう。・・・無理矢理じゃない限り。
「発端はなんなんですの?」
「これだよベル」
 いつの間にかセツナ兄様が後ろに居ました。
「いつの間に?」
「実ははじめからな。調理中だった」
 相変わらず何かしら作ってますわね。
「これはなんですの?」
「蛸だ。あのうじゅるうじゅる蠢いてる奴。俺の世界では別名海の忍者と呼ばれるが」
「・・・なぜ?」
「墨を吐いて目晦まししてる間に逃げるから、らしい」
 ああ、煙幕張って逃げるあたり忍者ですわね。海の中で岩に擬態もする、とは兄様の弁。
 でも・・・
「オウキーニさんのお皿のものとは違うように見えますけど?」
「生で刺身にする事もあるんだろうが、俺の居たところではこれが普通だ」
 オウキーニさんの蛸の刺身は生の蛸のお刺身らしいですわ。
 一方で兄様のお刺身は茹でた蛸の足をスライスしたものらしい。お醤油をつけていただくとか。
 ・・・・・・うん。見た目的にこっちの方がいいですわね。
「食べてみるか?」
「ええ。いただきます」
 うん。いい歯ごたえですわ。美味しい。
 そのまま兄様の蛸のお刺身を食べていると、アティ先生とアリーゼ姉様が恐ろしげにこちらを見ていました。
「どうしたんですの?」
「・・・うう、食べてる」
「わ、私はちょっと・・・」
 ああ、元の見た目があれなんで食べるのを躊躇ってますのね。
 アンコウはあんなに美味しそうに食べてたくせに。
「イカは食べるくせに」
「いいんです!」
 どっちも軟体生物じゃないの。この間兄様の作ったイカリングはお代わりまでしてたのに。
「兄様。向こうの世界ではどんな料理がありました?」
「見た目グロテスク系か? ナマコにイナゴ。虫関係を食べたりもしたな」
「「えええええええっ!!!」」
「ところによっては蛇、蛙、ミミズ、蜂の子・・・・」
「「あうあうあうあうあう・・・・・・・」」
 アティ先生と姉様が抱き合って怯えまくってますわね・・・うん。チャンスですわ!
 ちなみに、私はあの体験(数日間漂流)のおかげで食べられるだけましと言う認識を持っているのでゲテモノ系は
味さえ良ければ良しですわ。見た目なんて気になりません。
「まあ究極的に言うと、腹に入ればなんでも同じだ。by師匠ズ」
「・・・ワイルドですわね」
 というか、アティ先生も元軍人ならその手のサバイバル料理くらい出来て当然だと思いますけど・・・
「そんな事言ってるくせに料理を手抜きすると烈火のごとく怒鳴りつけてきたが」
「・・・ふぁいとっ、ですわ」
 な、なかなか理不尽なお爺様たちなんですのね・・・


「遺跡に侵入する?」
「はい。・・・あと、まだ食べてるんですか?」
 色々な蛸料理を満喫中のセツナたちから若干距離を取りながら、今後の話をしようと思います。
 あと、オウキーニさんは帰りました。ソノラは蛸平気らしいです。セツナと談笑しながら食べる二人にちょっとむかつく。
 それはともかく、この争いの原点は魔剣であるシャルトスと、その関連のある遺跡です。
 この遺跡の機能を封印ないしは停止できればセツナたちのように突然この世界に召喚されるようなことは無くなります。
 そして、魔剣もその時に封印してしまえば帝国軍と、アズリアと争う必要もなくなります。
「・・・根本原因を潰すという意味では良策だな。護人たちに許可は取ったのか?」
「いえ。あの四人は、この島の住人達にはあの遺跡は禁忌の物。入ることは許さないでしょう。だから・・・」
「忍び込むわけね」
「はい。そして、ここにいるみんなに協力して貰いたいんです」
 カイルさんたちもこの島を出る気でいるし、遺跡の機能を止めればこの島を覆っている結界を解除して海に出られるかもし
れない。それに、私はアリーゼを軍学校に連れて行かなければならないし、ベルフラウをご両親の元に返さなければ・・・
「俺たちはいいぜ」
「そうだよ。ここの生活は楽しいけど、このままじゃいけないしね」
「カイルさん、ソノラ・・・」
「私は元々魔剣を処分するつもりでしたからね。願っても無い事です」
「あたしもよ。協力するわよ先生」
「ヤードさん。スカーレルさん」
 みんな、ありがとう。
「セツナはどうすんの?」
「・・・消極的賛成、だな」
 え?
「何か不満でもあるのかよ」
「任務失敗となった帝国軍が自棄を起こさない保障が無い」
 それはそうかもしれませんが・・・
「・・・それに・・・いや、なんでもない」
「兄様?」
 セツナは何かを言いかけて、口篭りました。
「俺はやる事が多すぎて参加できない。船の修理もまだ完全じゃないしな」
 そうですか・・・セツナの戦力は大きいんですけど。
「ま、仕方ねえわな。お前はこの島のあちこちで必要とされてんだしよ」
「そうよねえ。またなんか作って頂戴」
「分かったよ。ああ、そうだ。一つ忠告」
 はい?
「後をつけられたりするなよ。帝国軍には注意しておけ」
「分かってるって」
 はい。心に留めておきます。


 遺跡からアティたちと、なぜか護人たちが帰ってきた。見ないと思ったら遺跡にいたらしい。
 そして皆一様に暗い。
 なんでもアルディラとキュウマがアティを生贄に遺跡を動かそうとしたらしい。
 結果的には無事に終わったらしい。それぞれ願いがあってのことらしかった。
 一緒に暮らしているアルディラのことを気付けなかったのは悔やむ所だ。今はクノンが傍に付いている。
 遺跡と剣は封印したらしい。俺はソノラのシステムパックとその他を作ってたので全て後から聞いた事だ。
 帰ってきたファリエルから鎧の修繕も頼まれた。まだ帝国軍がいるので早く直そうと思って工房に篭もっていた。
 さっさと直して食事の準備をし、今はもう皆安らいだ顔で大人しくしている。 
 ちなみに生贄にされかけたアティはあんまり気にしていないようだ。お人よしにも程がある。
 それと、アティたちから謝罪された。
 遺跡にイスラが兵を率いて現れたらしい。あれだけ尾行に気をつけろといったのに・・・
 そしてその夜、俺は遺跡の前でイスラと相対していた。

「予想されていたのかな?」
「まあな。そうじゃないかと思っていた」
 イスラはいつものような張り付いた笑みを浮かべ、俺に剣を向けていた。赤い剣を。
「やはりお前がキルスレスを持っていたか」
「・・・なんで分かったんだい?姉さんたちが持ってる可能性は考えなかったのかな?」
「持っているならアティにぶつけているだろう」
 俺はイスラがキルスレスを持っていることは大体見当がついていた。
 イスラはあまり頑丈とはいえない。そのイスラが数日間漂流して生き延びていた事に疑問を持ったのだ。
 それならベルフラウはどうなんだと思うだろうが、あの子は限界寸前だった。今生きているのは奇跡に近い。
 それに、子供と言うのは大人に比べて生命力が強いものだ。
「その剣はさ、持ち主を殺させないよな。アティを見てて思ったが」
「・・・そうだね」
 アティが危機に陥ると自動的に抜剣されるのだ。それを見る限り、この剣は主を死なせないと分かった。
「それとお前の体のデータだ」
「・・・そこまで気付いたんだ」
「ああ。辛いな。死と生を繰り返すのは・・・」
「同情のつもりかい?」
「馬鹿を言うな・・・経験があるだけだ」
 俺の言葉にイスラが絶句した。気持ちは痛いほど分かる。
「なぜ?」
「俺の師匠たちの話はしただろう。最初は比喩抜きで何度か死んだんだよ。そして無理矢理蘇生させられた」
「・・・・・・・・・・・・その人たち、何者?」
「武の道に人生を捧げた最悪の人格破綻者共だ。社会不適合者とも言う」
 イスラのなんとも言えない視線がとても痛い。
 つーかあの爺どもやりすぎなんだ。心停止起こした片っ端から喝入れて無理矢理蘇生させやがったんだから。
 臨死体験なんて当たり前だったんだぞ。お花畑に行ったり川のほとりの爺さんと婆さん、通称ケンちゃんとエバちゃんとは
茶飲み友達だったり。まあそれはともかく。
「お前には色々同情するよ。だが、ここから先は行かせられないな」
「そうか・・・」
 イスラは完全にキルスレスを抜き、その姿が変わる。
 イスラが剣を構え、俺は腰に差していた刀―銘は陽神(ヒノカミ)―で居合いの体勢に入った。
「はあああああああああああああああっ!!!」
「せえええええええええええええええええっ!!!」
 イスラのキルスレスと抜刀した俺の刀がぶつかり合う。
 そのまま数合斬り合い、鍔迫り合いをして、イスラの腹を蹴り飛ばして距離を取る。
「やるねセツナ!」
「まだまだ。全力は程遠いぞ」
 俺とイスラはなんとなくお互いに笑いあって・・・刀を鞘に戻しながら距離をとる。
「はああああああああああああっ!!!」
 キルスレスの魔力を放出してイスラが斬撃を放ち、
「斬華・疾空!」
 俺は居合い斬りからカマイタチを発生させ、イスラの体を切り裂いた。

「はは・・・ははは・・・」
 遺跡の封印は解除した。気付いているのはセツナ一人。
 だけどそのセツナも今は動けない。キルスレスの力を受けたセツナは壁に叩きつけられ、そのまま意識を失った。
 一応調べたけど、肋骨が何本か折れていたし全身打撲でしばらくは動けないはずだ。
「ははは・・・」
 とどめは、刺せなかった。
 なんだかんだ言ったって、少ない日々ではあったけど、一緒に暮らした家族だった。
 ・・・楽しかったんだ。あの日々は。
「僕は・・・裏切った」
 彼は友人だ。友人でいてくれた。こんな事になってなお、僕を全力で止めようとしてくれた。
 僕は自分の胸を見下ろす。彼につけられた一閃の痕。
 防御してなお僕の体を切り裂いた一撃。
 真空刃か何かが発生していたんだろう。だが、それももう癒えてしまっている。
 その証拠となるのは切り裂かれた服だけだ。
「君なら僕を止めてくれると思っていたんだよ?」
 遺跡を出て、喚起の門で倒れているセツナに声をかける。返事などある筈が・・・
「俺もお前を止めるつもりだったよ」
 ・・・・・・起きていたんだ。
 でも、目の焦点があっていない。
「ダメージがかなり深くてまだかなりきついな。くらくらする」
「それで済んだだけで御の字だと思うよ」
 キルスレスの力をまともに食らってこの程度で済んでいるんだ。セツナの実力が窺えるね。
「友人であるからこそ、お前を殺してでも止めようと思ったが・・・それは反則だろう」
「まったくだね。見事に両断されておきながらこの通りだから」
 まったく、なんて化け物だ。・・・いやになる。
「お前さ・・・死にたいのか?」
「・・・そうだね。何で分かったんだい?」
「昔あったことがあるんだ。死に場所を求める戦士と。お前はそいつと同じ目をしてる」
「そっか・・・」
 目は口ほどにものを言う・・・か。
「殺されるのなら殺されていいやって目をしてた」
「友達に向ける目じゃないね」
「まったくだ」
 彼は否定しなかった。まだ、友人でいてくれるのか。
「またいつか、お前のあの食いっぷりが見たいもんだ」
「・・・もう無いかもしれないよ?」
「実現してやるよ」
 なんで、そんなに・・・
「俺はな、基本的に物を作る事に喜びを覚える人間なんだ。作った後の結果にはそんなに興味が無い」
 ・・・・・・?
「料理を作っても、作る事が目的なんだ。相手が笑顔になるとか、食いっぷりがどうだとか、基本的に興味ないんだ」
「それがどうかしたのかい?」
「そんな俺が、お前の食いっぷりを気に入ってるんだ。まだ、見ていたいんだよ」
 どうしてこんなに・・・僕の事を・・・
「だから、死なせない。生きろ。この島にだってお前が見ていない凄い物は沢山ある。それを見ながら一杯やろうや」
「そうだね・・・もしそれが叶うなら、ね」
 約束しよう。もし君が、君たちが僕の望みを叶えさせないのなら・・・
 言わなくたって、君は分かっているんだろうけど。
「だから、最後まであがくためにヒントをよこせ。もし方法が無いんだとしても、俺がその方法を作ってやる。いいよな親友」
「・・・ああ、教えるよ親友。僕の事情を」
 はは、とてもセツナらしい。無いなら作る・・・か。彼なら出来るだろうね。
 僕はセツナに語った。僕の半生を・・・・・・・・・・・・
 語り終えた丁度その頃から、島は嵐に包まれた。


 月の光が、その光に含まれるマナが気持ち良い。
 嵐の夜。まるでアティ先生たちが流れ着いたときのような激しい嵐。
 夜半過ぎから突然来た嵐に各集落は大急ぎで嵐対策をとっていた。
 私は霊体なので一切影響は受けませんから普通に飛んでます。雲の上まで来ています。
 遺跡での戦いで、皆に自分の正体をさらして、すごく驚かれた。
 それもそうだよね。昔の戦いで死んだと思われていたんだから。
 今はよりしろになっていた鎧が破損中で使えないので自分の霊体のまま島の上空を飛んでます。
 今の時間は、草木も眠る丑三つ時、とシルターンでは言うそうです。
 ふと考えるのはセツナさん。アティ先生もそうだけど、どこか兄さんに似た人。
 そういえば鎧の修復を頼んでたけどどうなってるんだろう。
 ちょっと見に行ってみよう。
 ・・・・・・・・えっと、確かこの辺りにセツナさんの工房兼実験室が、あった。
 鍵がかかっているだろうから壁をすり抜ける。うん、霊体ってこういう時は便利。
「わあ・・・!」
 そこには綺麗に修復された上に何気なく改良されている鎧があった。
 バックラー(取り付け型の盾)が付いているし、あ、鎧自体が魔力を持ってる。一部にあのときの鋼を使ったみたいだ。
 これなら鎧に入っていれば魔力を補給できる。さすがセツナさんだ。
「確か隣がセツナさんの部屋だったっけ」
 お礼を言いたいけど、それは明日かな。
 ・・・寝顔でも見てみようか。美人のそういう姿は目の保養だしね。時々本当に男の人か疑うくらい綺麗だもん。
 壁をすり抜けてセツナさんの部屋に・・・・・・・・・・・・あれ?
「いない?」
 おかしい。いくらなんでも今は深夜。仕事に集中しすぎて徹夜する事もあるそうだけど、隣にはいなかったし・・・
 妙な胸騒ぎを覚えて外に飛び出す。
 この嵐だ。外にいれば拙い筈。
 上空から目を凝らしていると、かすかな光と魔力を感じた。
 急いでそこに降りると・・・
「セツナさん!?」
 セツナさんは喚起の門にもたれかかって意識を失っていた。
 さっきの光はセツナさんの刀のようだ。彼の傍に抜き身のまま突き立っている。
 まるで、誰かと戦い倒されたかのようだ。
「セツナさん!」
 一瞬頭が真っ白になって、彼を起こそうと肩を揺さぶろうとして、手がセツナさんの体をすり抜けた。
 物に触れられないこの身が恨めしい。今すぐにでも運んであげたいのに!
 私はすぐにフレイズを呼んだ。
「ファリエル様! セツナさんは!?」
「ここよ! 早くリペアセンターに!」
「はいっ!」
 フレイズはセツナさんの刀を鞘に戻し、セツナさんを担いで飛ぶ。
「くっ・・・体が冷え切っている・・・」
 この嵐の中、雨に打たれ風を浴び続けたセツナさんはどう見ても死に掛けていた。
 冷えた体を暖めてやる事すら出来ない自分がどうしようもなく悔しい!
 途中でセツナさんの懐からプラーマの召喚石を取り出させてすぐに呼び出し、彼を治療させる。
 かなりの大怪我をしているらしい。プラーマの表情は険しかった。普段ならすぐに戻るはずの彼女が留まって治癒の奇跡を
行使し続けている。プラーマ自身セツナさんの事をかなり気に入っていたから死なれたくないんでしょう。
・・・私だって彼には死んで欲しくは無いです。

 一応の治療は終わり、リペアセンターに運び込まれたセツナさんはICUに入れられた。
 朝になっても、セツナさんは一向に意識を取り戻さなかった・・・

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