「は? 正体不明の怪物が人を襲ってる?」
「幸い死者は出てませんけどとにかく奇妙なんです」
「誰もその化け物を見てないんだよ。背中からのしかかられてるのに」
 それをティアナとスバルから聞いたはすぐに原因にいたり、何人かをつれて現場に行くのだった。


 妖怪退治?


 ミッドチルダにあるとある山の山中で、少女たちは唖然としていた。
「あの・・・?」
「なんだ?」
「私たちって化け物退治に来たんですよね?」
「まあそうだな」
「・・・ならなんですかこれは!」
 は少し高台にあるちょうど良く開けた場所にシートを敷き、弁当箱を出したりとピクニックの準備を始めていた。
 の行動の意味がわからない者たちはを睨んだり呆れたりしているが、は何処吹く風で準備を進めている。
「その化け物を退治するのはお前たちだよ。俺はヒントを出そう」
 はメンバーを見る。ティアナ・スバル・エリオ・キャロ・リインの六課フォワードたち(隊長陣のぞく)と、
ギンガとルーテシアとアギト。はこのメンバーを見て思う。
(・・・まず無理だな)
 無常な予測。だが、おそらく真実だろう。が知る<あれ>は魔力攻撃だろうが物理攻撃だろうが通じない。
 いや、そもそもあれは・・・
「でも正体不明の化け物ならまずは観察しないとね」
「はいです。大体の生物は形状を見れば生物的な弱点があるはずなのです!」
「問題はどんな姿をしてるかだよな」
「もし言葉がわかる相手なら保護したいです」
「そうだね。珍しい生き物なら闇ブローカーから守らないと」
 キャロとエリオは捕獲しようとしているようだ。だが、はそれが不可能であることを知っている。実際にハンター
(密猟者)が捕獲に乗り出し、全員意識不明の状態で発見されている。そして捕まった彼らはその化け物を見ていないとい
った。ただ、後ろからのしかかられて体中の力を吸い取られたと証言して。

 は風を感じた。心地よい風がそよそよと吹き始める。そしては彼女らに声を掛けた。

「お前たち」
「なんですか?」
「奴が来るぞ。お前たちのいるところは丁度奴の通り道だ」
「「「「はい?」」」」
 彼女らは一瞬硬直して、すぐさま身構えた。密集陣形を取って360度何処から攻められても対応できるように身構えている。
「スバル。ギンガさん。センサーは?」
「・・・反応無し」
「・・・気配も感じないわ」
「フリードも何かが近寄ってる匂いはしないって言ってます」
「・・・・・・・・・・」
 反応が無いというスバルとギンガ、そしてフリードの感覚にも何も引っ掛からないと言う事で一同はを睨む。ルーテシ
アだけは妙に沈黙しているが。
「総帥・・・」
「脅かした覚えはない。この時間のこの状況なら確実に奴がそこを通る」
「絶対ですか?」
「絶対だ」
 の言葉を聴き再確認して一応陣形を継続する。しかし相変わらず風があるだけで化け物がくる気配が無い。
 ふと、ティアナがルーテシアを見ると、何か周囲を確認するようにきょろきょろと見た後、大急ぎでの下へ。
「る、ルールー!?」
「ルーちゃん!?」
「・・・くるよ」
 ルーテシアがそういった瞬間、背後に異様な気配を感じたキャロが膝を突く。
「キャロ! あう・・・っ!!」
 キャロを抱き上げようとしたエリオも膝を突く。強烈な脱力感がエリオとキャロを襲っていた。
「エリオ! キャロ!」
「なん・・・なにかが・・・のしかかって・・・」
「そんな! 何もいないのに!?」
 スバルとギンガが二人を抱き上げようとしたとき、ティアナが倒れた。
「ティア・・・!」
「なに・・・これ・・・っ!」
 体に力が入らない。それどころか吸われていくような感覚。ティアナの意識はそのままブラックアウトした。
 そして・・・スバルとギンガも倒れ、残ったのはリインとアギトだけだった・・・

「おにいちゃん」
「ん?」
「何でおにいちゃんが武装もせずにピクニックしてるのかよくわかった」
 風が止み、リインとアギトは倒れたメンバーを必死に介抱している。
「ガリュー。みんなをここに運んで」
 ガリューはルーテシアの命に答えて気絶したメンバーを運んできた。
「ここは安全だね」
「確実にな」
 リインとアギトは何がなんだかわかっていない顔で二人を見る。
 そう、がいるところは安全地帯だった。逆に、彼女らのいたところは奴の通り道であり危険地帯だったのだ。
「しかしよくわかったな。決め手はなんだったんだ?」
「植物分布。明らかに植生が違ったから」
 リインとアギトが周りを見比べる。確かに一部分だけ植物が、というより育ち方が違う。
 は満足げに目を細めて、ルーテシアの頭を撫でた。
「とーさま?」
「若旦那?」
「今のは十分なヒントだ。さて、この子らが目覚めるまでのんびりするとしよう」
 はルーテシアにサンドウィッチを渡し、アギトとリインにジュースを手渡す。ガリューにはゲイズ牧場(が資金援
助、農業系の学生が研修とバイトをしている)で取れた百花蜜を渡す。表情はわからないが機嫌よさげな雰囲気である。
 ティアナたちが目覚めるまで、たちのささやかなピクニックは続いたのだった。


「今度こそ!」
「「「「奴を倒すぞおおおお!!!」」」」
「・・・・・燃えてるなあ」
「もえてるねー・・・」
 二時間後、復活したティアナたちが気炎を上げている傍ら、とルーテシアはのんびりと見物しつつ食事を再開していた。
 ついさっきまではルーテシアを連れてどこかに行っており、丁度帰ってきたところだったのだ。
 は魔法で暖めたサイコロステーキを一つとって、物欲しげに口をあけるルーテシアの口に運ぶ。幸せそうなルーテシア
を横目に見ながらもステーキを口に。そんなに脂のさしていない肉だが、しっかりと肉の味がするのではこっちの方が
好きなのである。
「これって結構上等なお肉だよね」
「トロっぽい奴より赤身の方が肉を食べてる感じがしてすきなんだよ。そっちが良いか?」
「私もこっちが好き」
「そうか」
 今度は卵サンドを手に取り、またもや口を開けて待っているルーテシアに苦笑しつつ食べさせて、自分ものその残りに
かぶりつく。それを見たルーテシアが頬を赤らめているが、はあえてスルー。バスケットから魔法瓶を取り出して
スープを紙コップに注ぎ、ルーテシアに渡す。ルーテシアは若干恨めしそうな目でを見るが、スープを飲んで幸せ
そうに顔をほころばせた。
 そしてその二人を複雑そうに見るほかのメンバー。
「ルー。手伝ってくれないの?」
「リタイアで良いよ。私じゃ無理だから」
「・・・総帥?」
「やれるだけやってみろ」
 やる気0の二人を彼女らは頭から追いやって・・・
「総帥。何か知ってるようなそぶりしてますね?」
「前もってリサーチはしてある」
「早く言ってくださいよおおおお!!」
 結局頼りだった。というか何の情報もなく動く人間でないことを忘れていたらしい。
 気づかないお前たちが悪い、と一方的に言われて釈然としないティアナたちだが、ようやくから聞きだせた。
「お前たちを襲ったのはひだる。あるいはひだる神と呼ばれるものだ。文献によると山道で人を後ろから襲い精気を奪うと
されている。その姿は確認されたことが無い」
 酷い飢餓状態にも陥るらしく餓死者の怨霊や餓鬼ではないかと言う説もある。
「・・・・・・・・神?」
「祟り神というやつだ。ちなみに俺の知る限り一切攻撃が通用しない」
「どうやって倒せって言うんですか!!」
「倒すと息巻いているのはお前たちだろう。俺はあくまでアドバイザーで戦力じゃない」
 は何とかしようにも何をしても無駄であると言う事を知っているだけに、手を出す気はさらさらないのである。
 ルーテシア以外のほかのメンバーはもう一度奴を探しているようだが・・・
「おにいちゃん。今度はいつ?」
「・・・あと二時間はないだろう」
 がそう言ったきっかり二時間後、探し疲れてぐったりしたところにひだるが通り、また揃って気絶したのだった。


 日も暮れて夕方。3度目の遭遇でまたまた気絶した彼女らは、ジライオウを担架代わりにして運ばれている最中だった。
「・・・総帥。あれの正体って何なんですか?」
「二酸化炭素ガスの塊だ。植物が腐敗して出来たやつが窪地で一箇所に固まって、風に流されてくる」
 二酸化炭素は空気より重いので地面を這うように動くのだ。ティアナたちがいたのは丁度その風の通り道であり、同時に
ガスの通り道でもあった。その上無味無臭なのでそれに気付けない。あの症状は中毒症状なのだ。
「昔の、科学が発達していない頃は目に見えない不思議な何かはすべからく妖怪や神と呼んだ。それが口伝や文献で各地に
伝わっているんだよ」
 ひだる云々は日本のある地域での呼び名だ。地域によってはダリ、ダルなどと呼ばれている。
「つまりあれは・・・」
「化け物でもなんでもない。単なる自然現象だ」
 そもそも倒しようがないのである。生きてすらいないというか生物ですらないのだ。
「ルーちゃん。何で分かったの?」
「通り道の草が異常なぐらい育ってた」
 植物は日中、二酸化炭素を消費して栄養を作り、酸素を吐き出す。大抵の人間は知っていることだし
今更解説はいらないだろうと思ってルーテシアはそれだけしか言わなかったのだが・・・
「・・・それだけ?」
「・・・それだけって、キャロ。光合成って知ってる?」
「・・・なあに、それ?」
 キャロだけで無く他の者も頭に疑問符が浮かんでいるのを見て、とルーテシアは大きく溜め息をついた。
「お前達。最終学歴は?」
「・・・魔法学校を出た後、訓練校に」ティアナ・ギンガ
「・・・幼年学校を中退して、訓練校に」スバル
「そもそも学校行ってません」キャロ
「訓練校のみです」エリオ
「デバイスだし」リイン・アギト
 スバルとギンガとキャロは把握していたが、ティアナもエリオも魔法の訓練なんかが主だったらしい。
 基礎学力が思いのほか低い事には頭を抱えた。ちなみに、管理局の訓練校は一般的な勉強より戦闘訓練や
職務関係の訓練が主なのでエリオはその辺さっぱりだった。一応言語学は一通り習うらしいが・・・
「やはり就業年齢を引き上げるべきか。良く考えたら魔導師ってこっち方面の勉強をしてない」
「そうだよね。魔法のプログラムの構築法とかに必要な数学関係はみんなかなり出来るんだけど・・・」
「化学方面はほとんど切り捨てられるからな。やはり最低限の学力は満遍なくあったほうがいい」
 かつてキャロの面倒を見ていたときは魔法を教えてやってくれとしか言われてなかったし、もまず力や竜の制御を
念頭においていたのでこっち方面はノータッチだったらしい。
「ルーは何で知ってるの?」
「・・・私、今学生やってるから」
 エリオの疑問にルーテシアは頭痛を抑えるように頭を抑える。
「普通に勉強しているだけだよ? 数学・社会・理科、基本的な勉強しかしてない」
「ルーテシアが通っているのは俺が経営している学校だ。選択で魔法も学べるし、魔法の専門学科もある」
「マンモス校だから一般人用の一貫教育もしてるし、魔導師用の即席教育もある。でも大体は大学までのコースの方が
多いんだよね?」
「魔導師と一般人の人口比率から考えれば当然の結果だな。・・・さて、ティアナたちには特別授業の用意を・・・」
「あ、あのー・・・その場合誰が講師に?」
「ルーテシア」
「復習代わり?」
「人に物を教える良い機会だ。ヴィヴィオをアシスタントにしても良いぞ」
「うん!」
 年下、しかも自分たちにとって妹分とも言えるものからの授業ということに心が折れそうになって悶える3人。エリオと
キャロは幾分平気そうだが。
「なのはさんたちはこういうの知ってますよね?」
「日本じゃ小学生レベルの知識だぞ。これも魔導師という存在の弊害か」
 基本的に、魔導師はある程度の実力を得ると何らかの仕事に就く事が多く、勉強も魔法関連の物しかやらないことが多い。
 まあもっとも、なのはたちも中卒だ。義務教育があけた後に局一本に絞っているのだ。なのでアリサやすずかに比べれば
学力においては比較にすらならない。
「子供が出来たら魔導師になろうともちゃんと学校に行かせよう。ヴィヴィオも春から学校だしな」
「それが良いよね。私もちゃんとお勉強しよっと」
 勉強はするに越した事は無い。なぜなら意外な知識が意外なところで役に立つことがあるからだ。
 そんな話をしながら歩く二人を眺めながら、六課フォワード4人とギンガはジライオウの上で力なく項垂れるのだった・・・



あとがき
六課解散前の事件の話。
ひだるは諸説色々あるものの、科学的に解明された数少ない妖怪だと思われる。
らでぃか○あんてぃ〜くという小説でやってました。


魔導師たちの学力について。
学者系の魔導師(プレシア、ユーノ)は普通に基礎学力高いと思いますが、戦闘系の魔導師(なのはたち。現状の魔導師の
大多数)は魔法に関するもの以外勉強していない気がします。魔法に関係ない学科は学校でも切り捨てられてそう。
なのはたちは中卒とはいえ、局の仕事で早退とかかなりの頻度で繰り返しているっぽいのでそんなに学力高くないと思ってます。
それに何より、魔法全盛で科学蔑視(質量兵器的に)の傾向があるミッドでは科学系統はあまり盛んではないイメージが・・・
地球より遥かに高い技術持ってるだろうにヘリとか・・・某フロートシステムっぽいものがあってもおかしくないと思うんだけ
どなあ・・・




おまけ
 今回の件を報告し、不破邸でルーテシア先生による勉強会が開かれている部屋で、スバルがに質問をした。
「ところでお兄ちゃん」
「どうした?」
「ひだるだっけ? あれってどうやったら治まるの? 結構被害者が出てるらしくて何とかしたいらしいんだけど」
「アレはそういう環境が整っているから発生しているんだ。周りの地形を変えてしまえば良いんじゃないか?」
「それはちょっと・・・」
「だよな。腐食性の二酸化炭素が原因だから有機物を、山だから枯れ葉なんかが原因だと思うが、ある程度除去するのが良いと
思うがな」
「落ち葉狩りかぁ・・・」

 後日、その対策会議でスバルが冗談で言った【地形を変える】案が採択され、現地の山で凄まじい桃色の魔力爆発とともに
山の一部が消し飛んだという。



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