戦闘機人たちはアインヘリアルの破壊任務を受け、それを実行していた。
 そしてそこには表情もなく命令に忠実に動くノーヴェたちの姿もあった。
 そしてアインヘリアルの一機を破壊している最中、無理やり彼女達に向けてその砲撃
が放たれたが、当たる事も無くその破壊の砲火は彼方へと飛んでいった。



 天かける翼たち



 全壊した機動六課の本部の代わりとして甦ったアースラのブリッジにて、はやてたち
ロングアーチスタッフは各地の被害状況を把握するための作業に勤しんでいた。
「アインヘリアル全機撃破されました。建造中の三号機も問答無用で破壊されています」
「・・・君の言う通り、何の役にもたたへんかったか・・・」
「あ・・・・・」
「シャーリー? どないした?」
「2号機の撃った砲撃が・・・・」
 シャリオが出した映像には、砲撃を放つアインヘリアル、そしてそれをかわす戦闘機人たち。
 そして、外れた砲撃が遥か彼方のその射線軸上にあるアタラクシアの本部施設に――――直撃。
「「「あああああああああああっ!!!!!」」」
 思わず絶叫するスタッフ達。はやては今にも倒れそうな顔色になっていた。
・・・くん・・・」
 呆然と呟くはやて。周りのスタッフ達も声を掛ける事も出来ずにその映像を眺めている。
 アタラクシア本部は中央に総本部。そこに繋がった東西南北の実験棟があり、それぞれ別の研究が
行われているのだが、その南棟と西棟が全壊、中央棟が半壊していた。
「アタラクシアへの通信は!?」
「駄目です! 繋がりません!」
「そんな・・・こんなこと・・・!」
 はやては今にも泣きそうな顔で目の前のデスクを殴る。
 艦内の放送を見ていたなのはやフェイトも大急ぎでブリッジに上がってきた。
「はやてちゃん! 君は!?」
「・・・・連絡が、つかへん・・・」
「そんな・・・・・・」
 誰もが落ち込む中、シャリオが通信がきていることに気付く。
 そして、
『・・・・何を泣いているんだお前ら』
「「「「え?」」」」
 無傷のが通信をつなげてきていた。
「無事だったの!?」
『見ての通りだよ。俺は自宅のラボにいたしまったくの無傷だ』
「そっちがあったか!!」
 アタラクシアの危機=の危機と思ったが、大きな仕事があるとき以外は基本的に自宅で仕事をしている事を
すっかり忘れていたらしい。まったくの杞憂だった。
「アタラクシアの被害は?」
『見ての通り、物的被害は大きいが人的被害は皆無だ。前もって避難させてあった。まさかアインヘリアルが
直撃するとは夢にも思わなかったが・・・』
 スカリエッティからの攻撃に備えたつもりだったが、来た攻撃は管理局から。は頭が痛かった。
『被害額を計上して管理局に損害賠償請求するからよろしく』
「わ、わかりましたぁ・・・」
 その場の全員が凄まじい額になるであろうことを予感していた。


 状況が動く。
 ゼストが地上本部へと向かうのが確認され、廃棄都市からも戦闘機人の反応が。
 そしてその中には―――
「ギン・・・姉・・・?」
 ――――さらわれたギンガの姿。誰もが息を呑んで彼女を見ている。
「おにーちゃん! ギン姉を助けるにはどうすればいいのっ!?」
『落ち着けスバル。シャリオ一士秘匿回線に切り替えてくれ』
「は、はいっ!」
 外部に情報を漏らさない特別回線でのところとつなぎなおし、
『ギンガ。聞こえているか?』
『こちらギンガ。感度良好ですお兄さん』
「「「「はい?」」」」
 敵に捕らえられ洗脳されているはずのギンガから普通に応答が帰ってきた。六課メンバーは混乱している。
『そちらの状況は?』
『裏切りを画策していた6番・9番・10番・11番が人格を書き換えられていましたが、8番と12番が
その仕打ちを見て彼女達を助ける事を決意し、人格が回復した私と接触しました。後彼女達はポッドから
感染した人格復元ウイルスによってあと一時間ほどで回復します。』
 唖然とする六課メンバー。もう何がなにやら理解が及ばなかった。
君、ギンガ。分かりやすく説明してくれへん?」
 混乱する頭を何とか回復させたはやてが代表して質問する。
 は溜め息をつきつつ説明し始めた。

「なるほど。ギンガはわざと捕まってたんか」
『そういうことです。申し訳ありません。敵を欺くにはまず味方からとお兄さんに教わっていたので・・・』
 説明が終わって、一同は落ち着きを取り戻していた。
「あたしたちの決意って一体・・・」
「いわないでよスバル。あたしだって予想外にも程があるもの・・・」
 スバルとティアナはギンガを助けるためにがんばろうと決意していたのだが・・・まったくの無駄だった。
 肩を落としてへたり込んでいる。
『ごめんね二人とも。助けようとしてくれた事には素直に感謝するわ』
 ギンガがフォローしようとするが、あまり効果がないようだった。
「でも、そうなると状況は変わってくるね」
「うん。こちらが一気に有利になる」
「せやな。向こうの戦力の大半がこっちに寝返るんやし」
『正確には管理局側ではなくアタラクシア側だがな。事件後あの子達はこっちで回収するぞ』
「ちょ、ちょう待って君! それは流石に許可出来へんって!」
 の発言に思いっきり動揺するはやて。
 機動六課としては戦闘機人たちは逮捕ないし保護しなければならないのだ。
 何でもかんでもアタラクシアに持っていかせるわけには行かなかった。
『しかしなあ・・・そっちに持っていくと兵器扱いになるだろう? 事件後あの子らが弄られて殺戮兵器にで
もなられたりでもしたら困るんだよ。こっちにはその姉が二人居るんだし』
 のあまりの言葉に唖然とする六課メンバー。
「そ、総帥! いくらなんでもそんなことしません!」
『ティアナ・・・お前たち現場の人間はそうでもな、上層部は間違いなくそうするぞ? あいつらにとって
あの子達はそれぞれ個人ではなく戦闘機人という兵器でしかないんだからな』
「そんな・・・」
「ねえ、おにーちゃん・・・。あたしやギン姉はどういう扱いなの?」
 の言葉に管理局における自分たちの立場が不安になったスバルが恐々と聞く。
『スバル・・・お前たちは人間扱いされている。そこら辺はゲンヤの努力の賜物だ。決して容易ではなかったけどな』
 スバルは安心したように溜息を吐く。周りのエリオやキャロ、ティアナの表情も明るくなっている。
『(お父さんって私たちの為にかなり危険な橋を渡ってるんだよね・・・)』
『(その妥協がスバルたちの体の解析データの提供なんだよな・・・。しかも思いっきり漏洩してスカリエッティが
そのデータを参考に後期モデルの連中を造ってたなんて知ったらどう思うのやら・・・)』
 セッテ以下のナンバーズはこの二人のデータを基に作られているのだ。ウーノたち初期モデルも改修の際に
彼女らのデータを用いている。チンクを解析した際にその事情を知ったとしては複雑な気分だった。
「しかし。おまえってやっぱり管理局への信用とか信頼とかないんだな」
『ヴィータ。管理局の裏を知り尽くしている俺が今更信用も信頼も出来ると思ってるのか?』
「欠片もおもわねーよ。でも、あたし達の事は信じて欲しいと思う」
『お前たちは信頼しているよ。でもな、管理局という組織には信頼は置けない。お前たちの、機動六課という
特殊な部隊だからこそ俺は信頼を置いている。俺は、お前たちを信じているんだ』
 穏やかに微笑みながらの言葉にヴィータは安心したように肩の力を抜く。ヴィータは心配だったのだ。
 いつか見捨てられるんじゃないかという恐怖が、彼女にはあった。管理局が彼らと敵対し、自分たちが局に従った
場合、はなんの躊躇いもなく自分たちを撃滅するであろう事がヴィータには分かっているからだった。
 ヴィータはを知り尽くしているといっても過言ではないのだ。
 普段の穏やかなも知っているし、倒すべき敵にあったときの冷酷さも知っている。
 なにより、二人は海鳴に居る頃はもっとも付き合いが深かったのだ。
 仕事ではやてたちが居ないとき、決まっての家に転がり込み一緒にご飯を食べ、一緒に遊び、一緒に風呂に入り、
一緒に寝ていたのだ。幼馴染のなのはよりも、隣に住んでいたフェイトよりも、誰よりもそばに居たのがヴィータだった。
 ヴィータが昔の回想をしているとき、更に状況が動く。
 スカリエッティからの通信が入り、地響きと共に、巨大な艦が地中より浮上したのだった・・・。


 聖王のゆりかご。かつて文明を一つ滅ぼした古代ベルカの最強の質量兵器。聖王を起動キーとして
動く戦艦。それがその巨大船の正体だった。
 管理局側は本局も地上も争っている場合ではないと判断し、共同作戦として事件の解決に乗り出した。
 諸々の話が終わったのだが・・・・・・
『不破総帥。こちらが着くまでの時間を稼げますか?』
「ミゼット女史。それは間に合いそうもないという事ですか?」
『ええ、申し訳ありません。一時間ほど遅れる事になります』
 ミゼットの言葉には大きく溜息を吐く。
「分かりました。事は最早我々民間人にも被害が及んでおりますゆえ、こちらも独自に動きます」
『ありがとうございます。では』
 通信が切れ、はすぐさま命令を出す。
「事態は聞いての通りだ。覚悟は良いな!」
「「「「「はっ!!!」」」」」
 が居るのは【箱舟】のブリッジだった。
 そしてそのそばには守護者が全員集合し命令を待っている。
「以前からの訓練通りだ。艦の防衛組みは本艦の周りで戦線を展開、残りの守護者は部隊を率いて地上にばら撒かれた
ガジェットの掃討に当たれ!」
 の命令に気合の入った声で答え、守護者と彼らの率いる部隊がトランスポーターで地上へと向かっていく。
『おや不破君。君が介入してくるのかね』
 突然、スカリエッティから通信が入ってきた。は顔を向けないまま応答する。
「俺としては傍観して居たかったよ。だが状況がそれを許さない。ゆりかごが出た以上地上全てが人質だ」
『その通りだよ。そして君はそれを看過できない性分だ』
「何よりの理由は別にある」
『ほう・・・何かねそれは?』
 振り向いたの目を見たスカリエッティはモニター越しに後悔した。
 なぜならばの目が恐ろしいまでに冷ややかになりつつあるのだ。
「将来的に俺の娘になる予定の幼い子供にあんな真似をしてくれたんだからなぁ?」
『す、すまん! だがこちらも何もしないわけには!! そもそもそれも評議会の計画のうちで!!』
 修羅が降臨しかけているのを敏感に察知したスカリエッティは土下座しかねない勢いで謝り倒す。
 隣のウーノが情けない主の姿に涙していた。
 元々聖王のゆりかごは評議会が隠匿していたもので、それを動かすために聖王の器、つまりヴィヴィオを
作り出したという経緯があった。まあ、その全てがスカリエッティに奪われたわけなのだが・・・
「なんにせよ、俺は娘を助けに行く。後聞くが・・・裏切り組みの連中に対して悪者になろうとしてないか?」
 が知る限りスカリエッティは人格を書き換えるなどといった事はしない主義なのだが、今回の行動に
疑問を抱いていた。ちょっと前のスカリエッティにとって彼女らは所詮作品に過ぎなかったのだが、今は違う。
『・・・うむ。正直嫌われるのは勘弁なのだがその方が事件後にあの子達に有利になる。僕に操られていたという
事実があり、操作の証拠もオットーたちが証言するだろうしな。問題は・・・』
『クアットロです。あの子はドクターの最も暗い部分を受け継ぎ生命操作を極めようとしています』
 スカリエッティも性格が丸くなっているせいか自分の娘のように思っているらしい。父としては嫌われるのは
御免被るところなのだが、事件後の彼女達の境遇を考えての行動らしい。
 だが、クアットロだけは違うようだった。
「・・・それが目的なんじゃなかったのか?」
『もう正直どうでも良かったりするのだよ。君という存在とミスティ君という存在を知った。兄弟とも言うべき
相手の存在を知る事で僕の孤独は癒されたのだ。おかげで研究にしがみつかなくても精神的に安定するようになってね』
『ドクターは昔の、まだ穏やかだった頃のドクターに戻りつつあります。私やドゥーエが最も慕ったあの頃に・・・』
 ウーノが遠い記憶を思い出すように遠くを見て、つい最近のスカリエッティを思い出して大きく溜息を吐いた。
「・・・・・・このウーノの反応に対して何らかの感想は?」
『溜息を吐かれても仕方がないとしか言い様が無いね。自分でも相当酷かったと自覚している』
 今回のこの騒動を起こしたのはちゃんと理由がある。彼は自分が犯罪者として追われている事をもちろん知っている。
 そこで、彼はいままで自分達を利用してきた評議会に一矢報いてしまおうと考えたのだ。これが奴らの行動の結果だと
自分達が示す事で、評議会を取り潰させようとしているのだ。
 最早スカリエッティはもうかつてのマッドサイエンティストではなく、一人の人間であり人の身を案じる事の出来る
善良な医者だった。
『ところで不破君。チンクの様子はどうなのだね?』
「修理は既に完了。リハビリ代わりに少し稽古をつけたあと今は待機中。ノーヴェたちを迎えさせに行く予定だ」
『そうか。無事で何よりだよ』
 スカリエッティは安心したように息をつく。その表情は・・・父親のそれだった。
『不破君。この戦いが終わったらナンバーズを、娘達を任せて良いかい?』
「かまわんよ。こちらでもあるプランが現在進行中でな。彼女らはその中核を担えるであろう存在なので大歓迎だ」
『それは良かった。彼女らの力を平和の為に使ってやってくれ。元々その為の彼女達なのだからな』
 そもそも戦闘機人は平和を維持するための戦力だ。命の尊厳とかをとことん無視しまくった方法で生み出されるため
真っ当な人間なら手を出すようなものではないものではあるが。だが、誕生してしまった以上彼女らの力を何らかの形で
使わなければ大いにもったいない。
「なんにせよ、そろそろこちらも動く。通信を切るぞ」
『ああ、最良の結果を期待しているよ。ここまで来た以上僕はやるべき事をしなければならない。奴らを潰すために』
「そちらも最高の結果を出せるように手配済みだ。楽しみにしていろ」
 不適に笑いあう二人はモニター越しに拳をあわせ、それぞれの戦いに入った。


「総員配置に着け! 我らが【箱舟】ドレッドノート・アークの処女航海だ!」
『サー・イエッサー!!!!』


 そして海中からその巨大な艦が、ゆりかごに匹敵する程の巨大船が浮上し、管理局も聖王教会をも驚愕させる。
「アイン、艦の指揮を頼むぞ。チンク、お前は地上だ。妹達を迎えにいって来い!」
「お任せくださいドクター。無事にヴィヴィオと帰ってきてください」
『了解した。ついでだから周りのガジェット共も潰してこよう。油断するなよ総帥!』
「分かっている。お前たち! この事件が終わったら大宴会を催すからな! ただ酒が飲みたかったらしっかり働け!」
「「「「「お任せあれ!!!!」」」」」
 現金な職員達の気合の入った返答に苦笑しながらは単身ゆりかごに向かう。
 世界を救うなどといった事に興味の無いは、将来の娘を救うための戦いに身を投じる。
「さあクアットロ、お仕置きの時間だ。人格も性格も変わってしまうような恐怖を、その魂に刻み付けてやる!」
 既に修羅が降臨してるっぽいは猛スピードでゆりかごに向かい、途中で邪魔をするガジェットの群れを
すれ違いざまに一刀両断していきながら、その獰猛な笑みをゆりかご内のクアットロに向けるのだった・・・




後書き
アースラ、聖王のゆりかご、そして箱舟。
それぞれの翼が羽ばたきました。
ここで補足すると、ギンガに仕込まれていたのは人格を回復する【プログラム】ではなく【ウイルス】です。
当然感染します。まともにプログラムとして搭載すると排除されそうだったのでウイルスとして潜り込ませていました。
しかし、ノーヴェたちを助ける事が出来るのはただの偶然だったり・・・
箱舟の外観は、スパ○ボ○Gのスペースノア級と似たようなものだと思ってくれれば・・・
艦首には超強力なバリア発生装置が搭載されており、円錐状にバリアをはって突貫したりします。
その為、その速度は通常の次元航行艦が相手にならない速さを発揮したりします。

後クアットロ、とりあえず言うべき事はこれだけだろう。
逃げろクアットロ。最凶の修羅がお前を狙っている――――
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