結婚して15年。アリサは怒っていた。自分と同じく不破と結婚した数人がまともに家に帰って来ないだけでなく
連絡すらよこさないのである。今まではそれぞれの仕事もあるしの頼みもあって大目に見てきたが、もはや我慢がならない。
 アリサはの第一夫人と言う立場だ。実はこれは嫁さんたちのリーダー的扱いなのである。しかも法的に。
 そして第一夫人にはある権利があった。それは他の嫁達に何らかの不満がある時、第一夫人の独断で離婚させ
られると言うものだ。その分大きな責任と絶対に離婚してはいけないという義務が生じるが、離婚する気などさらさら無い。
 アリサは妻としても母としても責任を果たしていないとある三人の所に最後通牒を突きつけに行くのだった。


 アリサとワーカーホリック達


フェイト編
 アリサはフェイトを本局の居住区画にある喫茶店に呼び出していた。
「前から聞きたいことがあったのよ」
「アリサ? どうしたの唐突に」
 無表情のアリサに対し、フェイトは何か怒らせてしまったのかな?という感じの表情でアリサに返す。
 何故怒っているのか全く理解出ていないようだ。
「フェイト。あんたなんで家庭を顧みずに仕事するの?」
「か、顧みずって・・・私別にそんなつもりは・・・」
 そんな事を言われるとは露にも思わなかったのだろう。戸惑いを隠すこともできずにうろたえる。
「レオンもも帰ってくるの待ってるのに何でろくに帰ってこないの?」
「し、仕方ないんだよう・・・事件は待ってくれないんだから・・・」
 フェイトの息子レオンは母の仕事に一応の理解があるため特に口出しはしないものの、早く帰ってきて欲しいと願っている。
 も似たようなものだ。ただは3人のわがままを認めてやっているようなものだが。
「そこよ。あんた家族より見も知らない他人の方が大事なの?」
「そんなこと!」
「そう見えるのよ。実際この半年顔すら見てないし」
 そう。フェイトはこれまで数ヶ月に一回ペースで帰宅しているのだが、今は全く顔を出していなかった。
「め、メールは送って・・・」
「通話は?」
「・・・・・・・・してません」
「声すら聞かせてないわけね。の愚痴から通信が無いことはわかってたけど」
「あうう・・・」
 フェイトは自分が家族を寂しがらせている事にようやく考えが及んでいた。もう10年以上経っているのだが・・・
 そしてアリサは何よりも聞きたかった事情を聞きだした。
「それと最大の問題。あんた本局に船が停泊した時どこで休んでるの?」
「・・・なのはのところで」
「・・・・・・・さて、離婚届は」
「待ってええええええええええ!!!!!」

泣き叫んで縋り付くフェイトにちゃんと帰ってくるか、それとも仕事を辞めるかを期限付きで選ばせるアリサが
本局の喫茶店で目撃されたらしい。そしてそれを知ったクロノが辞めようとしているフェイトを必死で引きとめようと
していたそうだ。


なのは編
 アリサはなのはがいることを確認した上でなのはの社宅に押しかけていた。
「さて、言いたい事は分かってるわね?」
「・・・い、家をほったらかしにしてることだよね?」
 フェイトのところにアリサが来た事はフェイトからのメールで知っているなのはは、アリサの放つ不機嫌なオーラに
押されて少しどもっていた。
「そうよ。はいつか帰ってくることを信じて待ってるけど、華音はあんたの存在無い事にしようとしてるから」
「・・・ちょ、ちょっと嫌われちゃったかな?」
 ちょっとどころでは無いのだが、本人はそう信じたいらしい。そしてアリサはにべも無い。
「かなりの間違いよ。は待ってるけど・・・変わり果てた姿で帰ってきたら笑えないなあ、とか晩酌したときに
冗談めかしていってたわよ」
「・・・私の実力を疑ってるの?」
「そういうこともありえるって言ってるのよ。戦いには不測の事態が付き物だから楽観視は絶対しないってさ」
 に自分を軽く見られたと思ったが、考えてみればそうだ。長い間強敵にあうこともなかったのでどうも
有頂天になっていたらしい。少し頭が冷える。
「そ、そうかもしれないけど・・・それに私は教官職で・・・」
「ならフェイトよりは時間に余裕があるわね。何で不破の家からの通いにしないの?」
「・・・訓練メニュー考えてると気がついたら深夜に・・・」
 現在教官職で普通に8時間労働だ。不破邸には転送ポートもあるので自宅からの通勤は可能である。
 今更ながらそれに気付いたなのはは何を言われるのかと戦々恐々とし始めた。
「家に持ち帰んなさいよ。それから、自分に出来ることをやるなんていってたけど、なら家の方はどうでも良いの?」
「い、家にはみんながいるからいいかなあ・・・って」
 実はこれは3人にとっても共通の認識だ。かつて幼少時代に孤独を味わった3人ではあるが、今の家は家族が
大勢いるため孤独になることはないと安心してしまっていたのだ。それもあって仕事に集中してしまっていたのだった。
「・・・・・・それって結婚する意味あった?」
「・・・・・・あ、あんまり無いような・・・」
「・・・・・・・・・・・・さて」
「待ってアリサちゃん! その紙何!? なんか離婚届ってええええええ!!!!」

 白い紙に何かを記入しようとするアリサを必死に阻止するなのはの姿が見られたらしい。
同じ時間に、教導隊の隊長の所にヴィータから家庭の事情もあるので辞めるといった場合は受けてやってくれと連絡があり、
隊長は快く了解してくれたらしい。そしてそういったことを何処からか知ったらしいクロノが例によって必死になのはを説
得する姿が本局で目撃されたそうだ。


はやて編
 アリサははやてが指揮する部隊の部隊長室に直接乗り込み向かい合っていた。
「さて、この離婚届にサイン「ちょい待ちいいいいい!!!」なによ」
「おかしない!? なのはちゃんらは前振りゆーかちゃんと会話したって聞いたで!?」
「うん。最終的に結論同じみたいだから省こうかと」
「何その扱い!? 少しは私の仕事事情を聞いてくれても!」
 これまでの二人で大体結論が分かってしまっていた天才頭脳保持者はさっさと切り上げようとしていた。
 二人から連絡を貰っていたはやてにとっては嬉しくもなんともないが。
「部隊運営が忙しくて帰れないんでしょ? それで仕事終わるの深夜に近くて帰る暇無くて寮住まいなんでしょ?」
「そ、そうなんやけど・・・」
 前もって調べていたらしい。ニュースソースはおそらくヴィータであろう。
「聖夜(せいや)はあんたのこと特に気にしてないし」
「何故!?」
 はやての息子聖夜は普段も特に母親のことを気にしていない。
「母からの愛という点に関して、アインから十分すぎるくらいに注がれてるからね。むしろあの子アインのことを
ナチュラルにお母さんって呼んでるし」
 はやてはショックを受けるが、アリサにすれば帰ってこないはやてが悪いわけで、更に言うなら学校の母親参観日の
通知のプリントをごく普通にアインに渡していたりするのだ。聖夜にとって誰が母かは押して知るべし。
「私ちゃんと面倒見とったで! 母乳で育てたし!」
「あたしは出が悪くて粉ミルクだったけど・・・産休終わってからアインとが育てたようなもんだし。あの子の
趣味や特技知ってる?」
「・・・・・・・・・・・・・」
 息子の趣味、と考えてはやては沈黙する。そう、知らないのだ。好きな色も何も・・・
「ちなみに言っとくけど、趣味は料理。特技は料理の食材や調味料を舌で当てることよ。あの子かなり味覚鋭いから」
「・・・魔導師になるとかは?」
「桃子さんの影響で料理人志望よ。魔法は使えるけどなる気無いって。そもそもあの子の資質Dランクだし」
 聖夜の魔導師としての資質は低い。何も必ず親の資質が受け継がれるわけでは無いのだ。
「ランクが全てやないんやけど・・・」
「御神流習ってるからその辺ある程度無視出来るわよ。それよりも本人にその気が無いのよ」
「・・・うう」
 現在御神流の継承者候補は二人。はやての息子聖夜とアリサの娘であるセレナである。剣の才能としてはセレナの方が上な
ので不破の次期継承者は彼女である可能性が高い。カリムの息子のクリスはグラシア家の方針でシグナムの弟子になっている
ので御神流は習っていない。
「で? 帰ってくる予定は?」
「・・・・最低でも半年は無理です・・・」
「・・・・・」(無言で離婚届を差し出す)
「すいません! 今以上に頑張って時間を作ります! だから離婚は嫌ああああああ!!!!」

 はやてが指揮する教導部隊(情報官から何から新人育成を行う。副官にリイン。フォワードの隊長がシグナム)の
部隊長室で、はやてがアリサに向かって土下座する光景が見られたらしい。アリサが来た事でデバガメしていた部隊のベテ
ラン達(それぞれの職務の教官)がはやての力になろうとよりいっそう努力するようになり、家に帰る時間を捻出する事が
出来る様になったそうな。
 いっそのこと辞めてしまおうかと呟いたはやてに、たまたま一緒に居たクロノがこれまた必死で説得する姿が本局の
廊下で目撃されたらしい。


EXTRA
 アリサは地球のハラオウン家に顔を出していた。
「エイミィさんとこの旦那さんすっごく邪魔なんだけど」
「ごめんねー。クロノ君って基本的に局の事しか考えてないから」
「あと考えてるのは自分の家庭だけみたいね。さて、どうやって失脚させようかしら」
 彼女はそもそもフェイトたちに管理局を辞めさせようと動いていたのだ。それをことごとく邪魔をしてくる
クロノがうざくてたまらなかった。
「あ、あはは・・・あたしたちが路頭に迷うような事はやめて欲しいかな?」
「大丈夫よ。その時はエイミィさんだけアタラクシアで雇ってあげるわ」
「あー・・・うん。そう言われると迷う・・・」

 クロノの妨害にそれはもうイライラしているアリサがエイミィに話を持ちかけていた。
 アタラクシアの事務は仕事が特許関係でややこしい分給料は高めだ。その上福祉に力を入れているので
色々と助かるのである。
 この後、クロノがどうなるかはアリサのみぞ知る・・・




あとがき
3人娘のわがままを敢えて黙認するに代わり、アリサが行動を起こす。
一気に時代が飛びましたが気になさらないように。どうせこの間に色々挟みます。
子供設定として、レオンはフェイト譲りの金髪赤眼。髪型はポニーテール。ミッド系魔導師だが近接戦大好き。この時点で
12歳。長男。

聖夜は似で黒髪黒目。魔導師としての才能は無いに等しい。御神流を使うが妹(3歳年下)に僅差で敗北する。
ただし才能が無いのではなく妹が天才なだけ。その所為もあってか将来は趣味である料理で食べていけたらと思っている。
この時点で10歳。三男。

クルスはカリムに似ておっとりさんだが剣の腕は幼いながらに確か。グラシア家の跡取りとしてシグナムに古代ベルカ式の修
練をつけてもらっている。何気にアギトのロード候補。母親のような予言能力はさすがに持っていないが、軽い未来予知
(最高3秒先)をもっている。この時点で11歳。次男。

セレナはぶっちゃけ小さい頃のアリサに瓜二つ。だけど素直。魔道資質は無し。実は隠し能力ありで普段は家族以外秘密。
アリサの頭脳との身体能力を受け継いでいるため同年代では負け知らず。どちらかの親の才能を受け継ぐことが多い
不破家の兄弟で唯一両親の能力を受け継いでいるといえる。御神流継承者候補最有力。実は肉弾戦ではともえに次ぐ戦闘力の
持ち主。この時点で7歳。三女。

ともえは容姿はすずか似。性格もすずか似。でも兄弟内最強。夜の一族の力を発揮すると並の人間では魔導師であろうと
関係ない。そんな彼女の将来の夢は可愛いお嫁さん。一応アタラクシアの研究者たちに認められて機械工学の博士号持ち。
ちなみに世界最高峰のシンクタンクであるアタラクシアで博士号を認定された者は彼女以外いない。この時点で14歳。長女。

華音はなのは似。高い砲撃資質を持つ先天資質AAA+の天才魔導師。母に似すぎている自分が若干嫌い。区別の為に
常にロングの髪をストレートに流している。桃子に似ているといわれると喜ぶ。兄弟の中で一番のファザコン。パパ大好き。
この時点で14歳。次女。ともえとは一応年子。

ヴィヴィオはすでに独立しており家にはいない。は反対したが聖王教会で騎士をやっている。
だが時々帰ってきてに甘えており、その場に華音が居合わせるとを独占しようと喧嘩が勃発する。
この時点で20歳。戸籍上長女。

今出来る子供の紹介はこれくらい。
 
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