マリアージュ事件の顛末



 マリアージュ事件。
 ルネッサ・マグナスが起こした事件であり、その際古代ベルカの王の一人である冥王イクスヴェリアが
発見された。マリアージュとは彼女によって生産される戦闘兵器の事である。
 執務官ティアナ・ランスターが主導して捜査していたのだが、犯人がティアナの補佐官であった事もあり
ティアナが逮捕し、その際に発生した大火災の中、救助隊員としてスバル・ナカジマが救助活動を行い、現場のそばにあ
る遺跡で眠っていたが、マリアージュの接近で覚醒したイクスヴェリアを発見、救助したのである。
 そしてそのイクスヴェリアは機能不全を起こして眠りに就く寸前だった・・・


「イクス・・・」
「そんな泣きそうな顔をしないでくださいスバル」
「でも・・・!」
 永い眠りに就こうとしている少女に、スバルは泣きそうな顔で手を握る。
「私は幸せです。かつてのあの澱んだ空ではなく、綺麗な青空が見えた。貴女の様な優しい方にも会えた。
 ヴィヴィオにも逢えた・・・いくつもの優しさに触れて、私は十分に幸せなんです」
「イクス・・・」
「我が儘を言うなら、ヴィヴィオのお父上にも会ってみたかったです。とても凄い、もし先史ベルカに居れば王で
あったかも知れないほどに凄い方だと」
「うん。凄いよ。お兄ちゃんは本当に・・・」
 ヴィヴィオと話したときに出た彼。スバルの頭を何かがよぎったが、スルーした。
「私の体は現在の技術ではどうにもならない。ここで、お別れです・・・」
「イクスっ!」
 静かに目を閉じるイクスにスバルが悲痛な声で叫ぶ。
「もっと、もっと技術が上なら何とかなったかもしれないの・・・に・・・?」
「・・・? どうしましたスバル?」
「・・・ああああああああああっ!!!!!!」
 何かを思い出したスバルが突然大声を上げた。
 イクスはそんなスバルにびくっと体を震わせる。
「す、スバル・・・?」
「お兄ちゃんなら何とかできるかもっ!」
「はい? 現状の技術じゃどうにもならないって、局の技術者が・・・」
「お兄ちゃんの、アタラクシアの技術は局なんかより50年くらい進んでてもおかしくないんだよ!すぐに連絡取らなきゃ!」
 スバルの言葉を聴いて呆然とするイクスを放って、スバルは端末を弄ってにつなげる。
「お兄ちゃん!聞こえてる? お兄ちゃん!!」
『・・・聞こえているから怒鳴るな。何か用か?』
「ちょっと見て欲しい人がいるんだよ!」
『・・・戦闘機人でも見つかったか?』
「似てるっちゃ似てる! 古代ベルカのガレア王国の王様なんだ!」


 不破邸の研究区画の一室。
 戦闘機人用のメンテナンスベッドで眠るイクス。
 そしては調査によって解析されたイクスの構造データを眺めていた。
「どう・・・?」
「ふむ・・・結論から言うと、完全に元に戻すのは無理だな」
「そうなの? パパ?」
「ああ、彼女の体がこうなった頃はアルハザードが現役バリバリだった頃だ。俺の想像もつかんようなオーバーテクノロジーが
山ほど眠っているからな。いくらアタラクシアの技術力でも完全復活は無理だろう」
「そんな・・・」
 が出した結論にスバルとヴィヴィオは肩を落とした。
「パパでもだめだなんて・・・」
「・・・お前ら、何か勘違いしてないか?」
「へ?」
「俺は完全に元に戻すのは無理だといったんだ。このマリアージュコアの生成機能をオミットして、機械化された各部パーツを
戦闘機人用のパーツに換装すれば目を覚ますし日常生活に支障は無い。以前のそれとは違ってしまうが、ロストロギアとして
扱われる事は無いだろう」
 の言っている事をゆっくりとだが理解した二人は、途端にその顔色が明るくなった。
「本当!?」
「嘘は言わないよ。カリム経由で教会に、オーリス女史経由で管理局に報告しておくから大丈夫だろう。教会としては
失われた古代ベルカの記録を知る生き証人から話を聞けるのだし、局もマリアージュを製造する機能がなくなったといえば
興味を無くすだろう」
「おにーちゃんありがとー!」
「パパありがとー!」
 二人は大喜びでに抱きつき、は妹と娘が本気で喜んでいるのを微笑みながら見詰めているのだった。


Xside

 目を覚ました時、窓の外には大きな蒼い空が見えた。
 部屋が変わっているのに気付いて、またどこかに連れてこられたんだろうと言うのは分かる。またすぐに眠りに
ついてしまうのだろうか・・・?
 私は体を動かしてみる。
 右手、左手、右足、左足・・・軽い。
 今までに無いほどの好調な体。一体何が・・・?
 コンコンと言うノックの音で、しばし呆然としていた私は現実に引き戻された。
「あ・・・どうぞ」
 なんとなく、そう言ってしまった。
 入ってきたのはラフな格好の上に白衣を引っ掛けた黒目黒髪の男性だった。
 研究者か何かかと思い訝しむ私を見て、彼はこう切り出した。
「初めましてガレアの王。俺は不破。しがない研究所の所長だ」
「・・・初めまして。イクスヴェリアです」
 向こうが礼儀にのっとって挨拶をしてきた。返さないのは失礼なので一応返すが、ふわ?
「体はどうだ?何か不具合は?」
「・・・特に不調はありませんが、あなたが?」
「ああ。女の子に向かって言うのもなんだが、相当いじらせてもらった」
 いじった。その言葉が私の胸に突き刺さる。
「君の機能不全の原因だが、経年劣化が原因としか言いようが無かった」
 ・・・それはつまり、私がポンコツだったという事でしょうか?
「まあ仕方あるまい。休み休みとはいえ千年も動いていたんだ。劣化して当然だな」
「それはそうかもしれませんが・・・」
 ・・・経年劣化。つまり耐用年数を超過していたと言う事。それは・・・いろんな意味でいやな言葉です。
 年増というか、そういうことすら超越したような・・・
「まあそれでだ。うちの妹と娘が泣きながら何とかしてくれと懇願してきたんで何とかしたわけだが」
「・・・私のパーツを新品に換えたということですか?」
「まあそんな所だ。スバルたちに使ってるパーツを流用したんで今の君は戦闘機人と言って構わない体になっている」
 戦闘機人・・・スバルと同じ・・・・・・・・?
 何故この人からスバルの名前が?
「聞いてないのか? スバルが兄貴なら何とかできるかもしれないと言い出したのは」
「聞いてはいましたが、姓が違いますよ?」
「妹分、だからな。実際は血が繋がってないんだよ。子供の頃から可愛がってたんで妹で通用しているし、向こうも俺を兄だと
思っているけどな」
 そうでしたか。
「で、うちの娘、ヴィヴィオとも仲良くなったんだろう?」
「あ、はい。彼女とは仲良くさせてもらいました」
「そうか。まあ仲良くしてやってくれ」
「はい」
 そうか、不破と言うのはヴィヴィオの姓だった。この方がヴィヴィオの父上。
 そこまで言って今更疑問に思う。あれからどのくらい時間が経過したんだろう。
「あの、私が最後に眠りについたのはいつなんですか?」
「一週間前だ」
 みじかっ!?
 というか、たった一週間で私を調整して目覚めさせたのですかこの御仁は!?
「スバルたちに使う予備パーツだからここに置いてあったし、処置自体は二日で終わった。あとは体に合うように最適化して
君の目覚めを待っていたんだよ」
「そう、ですか」
 でも、私にはあれが、マリアージュコアの生成機能がある。あれがある限り私には安息など・・・
「そうだ。コアの生成機能は排除したのでその辺は理解を頼む」
「・・・・・・・・・・はい?」
 え? いま、なんて言ったんですかこの人?
「だから、マリアージュコアの生成機能をオミットというか、完全に除去したから」
 もう一度言ってくれた不破さんの言葉が徐々に頭の中に読み込まれていく。
 えっ? 私の心配とかって思いっきり杞憂ですか?
「そうなればもう誰にも追われることは無いんでお前さんも安心だろうと思ったんだが、余計なお世話だったか?」
「いえそんなっ!! むしろ大助かりです!」
 彼の言葉が完全に理解できて、歓喜が胸を焦がす。
 つまり私はもう、マリアージュに求められる事も無く、また古代ベルカの秘法を求める者に追われる事も無いのだ。
「私は・・・今までのしがらみに囚われることなく生きられんですよね?」
「ああ。ベルカ系の機関には古代ベルカの生活について証言を求められるかもしれないが、局やその手の存在に追われる事は
無いだろう。そうなるように手を打っておいたからな」
 ・・・手を打っておいたって、それができるほどの権力の持ち主と言うことなんでしょうか?
 それはともかく、自由だ。私は自由になれた!
 その喜びを、ようやく実感出来てきた喜びを現す前に、不破さんはドアの方を向いて、開けた。
「イクス・・・?」
 そこに居たのはオッドアイの少女、聖王ヴィヴィオ。
 そして、私を助けてくれた機械の体を持つ少女、スバル。
「スバル・・・ヴィヴィオ!」
「イクスー!」
「良かった! 目が覚めたんだね!」
 私が名前を呼んだと同時に、二人は一斉に私に飛びついてきた。
 二人とも涙目になっている。喜んでくれているのだろう。
 私たちが抱き合い喜びを分かち合っているとき、パタンとドアが閉まる音が聞こえた。
「不破さん・・・?」
「気を使ってくれたんだよ」
「イクス! いっぱい話そう! 時間はいくらでもあるんだから!」
 満面の笑みのヴィヴィオにつられて、私も笑顔になっていた。
 不破さん。ありがとうございます・・・

side out



 が応接室に入ると、そこには紅茶のカップを傾けるカリムとオーリスが居た。
「首尾は?」
「上々です。教会の方はさんの条件で了解しました。【寄付】が効いたようです」
「こちらもですね。海は総帥が絡んでいるのに難色を示しましたが三提督が抑えました。地上の方はランスター執務官に贈った
あの装備を簡略化して配備するというのが効きました。地上の機動力が増しますし、他にも色々回してもらいましたから」
「了解したよ。これであの子も静かに暮らせるわけだ」
「はい。・・・それで、あの・・・」
「どうしたオーリス?」
「ノワール君をもふもふして良いですか?」
「・・・好きにしなさい」

 こうして、マリアージュ事件は終わりを告げた。
 ティアナはルネッサの件で数日の謹慎になった。現在不破邸で謹慎という名の休暇中。
 エリオたちも保護隊に戻り、スバルは救助隊で元気にしている。
 そしてイクスはが保護責任者になってヴィヴィオと同じ学校に通う事になった。
 現在はヴィヴィオとその友人たちとともに賑やかな学生生活を送っているという。

to be Continue・・・next vivid




あとがき
イクスの中の話は特に変わらず、顛末だけ変更。
イクスは元気になってます。
ちょいと短いけど特に書く事が・・・・・・



ちょっとしたおまけ
「くるるる・・・・・」
「はあうぅぅぅぅぅぅ・・・」
 恍惚とした笑顔でノワールに抱きつくオーリスと、何処と無く迷惑そうなノワール。
 助けを求めるような視線を向けるノワールに、はため息をついた。
「すずか」
「なあに?」
「お前の持ってる特選猫アルバム。コピーしてオーリスにくれてやれ」
「はーい。オーリスさーん、いろんな猫の面白い写真と動画要りませんかー?」
「是非お願いします!!!!!」
 ・・・どうやら彼女の猫フリークは【こっち】でもそうらしい。


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